最後のお願い
俺は、田辺さんにお願いをしに行った。
「お願いです」
田辺さんは、家にあげてくれた。
「お願いです!俺に、田辺さんの家族を下さい。その代わり、俺の全てを差し上げますから」
「ふざけてんのか」
「田辺さんは、俺の妻を愛せるんですか?」
「ふざけんなよ!俺は、葵と生きていきたいから結婚したんだ!あんたに渡すわけないだろ」
「中身が、俺の妻でもいいんですか?」
「はぁ?意味わかんねーよ」
そう言って、田辺さんは俺を睨み付ける。
「これは、仮の話です。中身は、俺の妻でも外見が田辺葵さんなら、田辺さんは愛せるんですか?」
「はぁ?」
「俺は、無理です。中身は、磯部葵じゃないと…。だから、聞いてるんです」
「無理に決まってんだろ?中身が葵じゃなきゃ!俺は、無理だよ」
「それなら、俺と同じじゃないですか!だったら、交換して下さいよ」
「ふざけんな!」
俺は、田辺さんを見つめる。
「本当は、こんな生活をさせるつもりじゃなかったんですよね?」
「何だよ」
「その足さえ動いてくれるなら、自分は田辺葵さんを幸せに出来たのにって思ってますよね」
「適当な事、言ってんじゃねーよ」
「じゃあ、何で!いっつも、右手が震えてるんですか?」
田辺さんは、俺の言葉に小さな声でこう言った。「出来るなら、人生をやり直したい」と…。
俺は、田辺さんの右手を掴んだ。
「上手くいくかは、わからない。けど、俺が貴方の人生を引き受けてあげますよ」
「どういう意味だ?」
俺は、女子高生から聞いたお婆さんの話を切り出した。
「ただの噂話かも知れない。でも、やってみませんか?」
「本当に言ってるのか?」
「無理なら、諦めます」
「わかった!協力するよ」
俺は、田辺さんを見つめて笑った。
「田辺さんは、本当は優しい人間なんですね」
「そんなわけねーよ」
「俺には、わかりますよ。その体にならなければ、田辺さんは優しい人だったんだって!どうして、その体に?」
「葵の親父が、雪那が産まれて三ヶ月ぐらい経った頃にやってきたんだ」
「はい」
「そしたら、金をよこせって言い出して!葵は、無理だって言ったんだよ!そしたら、母乳を売れとかその体で稼げとか言い出して!黙って聞いてたけど、我慢の限界で帰って下さいって言って玄関から追い出そうとした俺を突き飛ばした。おじさんだから、力で勝てると思ったんだけど…。あっちの方が強かったみたいで!たまたま、膝をついたせいで思いもよらない負荷がかかったみたいで…。それが治りきらないうちに、仕事したのもあってよけいに悪化したって感じだよ」
そう言って、田辺さんは涙を流していた。




