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退院の日

私は、退院の日を迎えていた。磯辺葵は、まだ目覚めていなかった。


「こんにちは!お金払いますから」


「はい」


私は、旦那に今日退院だと話さなかった。

会計で診察券を千秋は通してくれる。その料金が表示されたのを見て、躊躇うことなくクレジットカードで支払った。


「じゃあ、送ります」


「はい」


私は、そう言われて千秋と並んで歩き出す。毛玉だらけの服に便所のスリッパ…。千秋と並ぶとみすぼらしい。千秋の軽自動車に乗り込んだ。二人で選んだ軽自動車だ。内装は、私が好きなピンクだ!涙が流れてくる。


「いつか、忘れるの?葵」


千秋は、車に乗り込んだ瞬間、太ももに置いた私の手をしっかり握りしめてきた。


「多分、そうかもね」


「銀行に行って、お金を下ろすから…。ちゃんと葵の通帳持ってきたから」


「ありがとう、信じてくれて」


千秋は、もどかしさを抱えながらも手を離してくれる。


「じゃあ、出発するね」


「うん」


車が走り出して流れる景色を見つめる。


「千秋、一回だけ家に帰りたい」


「どこの?」


「私達の…」


「わかった」


千秋は、病院の駐車場を出て行くと二人の家の方に進んでいく。暫くして、緑の屋根のお家が現れてきた。

懐かしさに涙が溢れる。私が捨てたお家だ!

車から降りる。煉瓦色の階段を上がっていく。

千秋は、家の鍵を開けてくれる。


「おかえり」


「ただいま」


玄関に入った瞬間、我慢していたのか千秋は私を抱き締めてきた。


「どうしたの?」


「葵、葵、何で?知らない人になったの?何で?」


「そんなのわからないよ」


千秋は、ボロボロと泣き出している。抱き締める力を少し強める。私、本当に此処に居たかった。


「葵、昨日は駄目だとか言ったけど…。やっぱり、無理だよ」


「えっ?」


千秋は、そう言うと私を二階の部屋に連れてくる。もしもの子供部屋。わざわざ、可愛い壁紙まで選んだ。


「千秋?」


「床でごめんね」 


そう言って、千秋は優しいキスをしてきた。あの男とは違う。


「ちゃんとお金は払うから」


「千秋、いらないよ」


「母乳を買うから二万でしょ?約束だから」


千秋はニコッと笑ってくれる。他人に見せる笑顔じゃなかった。


「客用の毛布あったよね」


「うん!そのクローゼットに…」


「それを敷いてあげる」


私は、千秋を見つめながら泣いていた。千秋は、毛布を敷いてくれる。その上に私を座らせた。


「葵、愛してる」


ボロボロと涙が溢れ落ちる。ここが居たかった場所だったのを忘れていた。


「千秋、愛してるよ」


私は、千秋の頬の涙を拭ってあげる。


「ごめんな!何もしてあげれなくて」


千秋の言葉に首を横に振った。


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