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第39話 ダルケン国内の旅

 結局、私がダルケンの一部の領都を回る旅に、カインが同行することに決まった。ダルケン王国側の騎士をつけて、護衛を強化するという条件付きだ。


 カインはダルケン王国の王太子。未来の王だ。

 護衛の強化だけは、宰相閣下が譲らなかったらしい。

 当然といえば当然の判断だろう。


 私とマリアが向かい合って馬車に乗る。

 いくら国王陛下が、カイン自身が、私たちの婚姻を望もうと、未婚者である私と彼が馬車で二人きりにすることはない。密室に未婚の男女が同室するなど、許されるものではないからだ。


 カインは、護衛の騎士たちと一緒に、馬に乗って同行している。

 鎖帷子(くさりかたびら)を下に着込み、その上にコート・オブ・プレートと呼ばれる胴衣を重ね着している。さすがにフルプレートメイルではないが、重装備である。

 そして、腰にはバスタードソードを下げている。


 おそらく、刃物で切りつけても効果はなく、強烈な打撃か、僅かに覗く関節部への攻撃以外は彼を傷つけることはできないだろうという、それほどの装備だ。


 私は馬車の小窓を開けて、外を覗き込む。

 そして、私の乗っている馬車と並走するようにいるカインに声をかけた。

「お疲れではないですか? その装備は重くは、ないですか?」


 重装備は重い。関節部分を除いて、ほぼ全身を覆うその装備は、安全と引き換えに、とても重いのだと聞いていた。

 だから、それを身につけての旅に、彼が疲れてしまわないかと心配になったのだ。


 カインは、顔まで覆っているヘルムの面部分をずらして、顔を覗かせた。

「心配してくれてありがとう、ミレニア姫。俺は大丈夫。手紙に、剣の鍛錬が好きだと書いただろう?」

「はい、覚えています」

「それと一緒に、体も鍛えていたからね。王族はこれくらいの装備でないと、外に出ることは許されない。……未来の王に何かあったら大ごとだろう?」

「確かにそうですね」

「だから、この装備で鍛錬したこともあるんだ。だから、大丈夫」

 そう言って、馬車から少し顔を覗かせている私に、健康的な白い歯を覗かせてカインが微笑んだ。


 ……彼は、王太子としての責務も自覚している。


 配偶者が私でなければ嫌だと言い張る情熱さ、一見我儘とも見える顔だけではなく、王太子としての自覚もしっかりした面を、私は知る。

 そんな彼に、私は頼もしさを感じた。

 私の心の中で、彼の評価が変わっていく。


 ……本来の彼は、こういう人だったのだろうか?


「姫様、大丈夫ですか?」

 私は小窓を閉じて、黙って考え込む。

 そんな私に、マリアが心配そうに声をかけてきた。

「いいえ、大丈夫よ。カイン殿下が、しっかりしたものの考え方をされているのだと、感心しただけ。それを考えていたの」

「確かに、頼もしい殿方ですね」

 マリアの言葉に、私は黙って頷いた。


 ◆


 そうして、私たちは最初の目的であるトレド公爵領の領都、トレドに着いた。

 城に着くと、領主であるトレド公爵が、歓迎の声をもって迎え入れてくれた。


「ミレニア姫! 救世の姫よ! 我が領のために、わざわざ足を運んでくださり、喜びのあまりこの場にふさわしい言葉も見つからない……!」

 馬車から降りた私を認めると、すぐに公爵が話しかけてきた。彼は軽い興奮状態のようだ。

「お初にお目にかかります。トレド公爵。歓迎のお言葉、とても嬉しく思います」

 私が彼に応えると、今度は彼の目線がカインへと移る。


「そして、カイン殿下。お久しゅうございます。この国の世継ぎであられるあなたさまが無事に到着されたこと、そしてこの城にお迎えできたことを大変光栄に思います」

「ありがとう、トレド公爵」


 そうして挨拶が済むと、私とカインが目配せをする。

 私の意を汲んでくれたようで、カインが一つ頷いた。

「トレド公爵、この病は最悪の場合、人の命まで奪います。一刻も早く、治癒魔法を施したいのですが、よろしいでしょうか?」

「……もちろんです! お願いいたします!」

 トレド公爵は同意とともに、私に向かって深く頭を下げた。


「では……。範囲浄化エリアピュリフィケーション! 範囲回復(エリアヒール)!」

 その二つの魔法を唱えると、私の体は光に包まれる。


「やはり、綺麗だ……。()()()()の君は、その優しい心を持ったままでいてくれた……」

 まるで尊いものでも見るかのような瞳。カインは、恍惚とした表情で私を見つめていた。


 ……やはりわからない。覚えていない。「あのとき」って、私たちの間に何があったのだろう?


 そう頭をよぎったものの、魔法を行使しているときに余計なことを考えては、支障があるかもしれない。

 これは、人々の命を救うための魔法。

 そこに万が一があってはいけない。


 私は、脳裏をよぎった疑問をかき消すのだった。

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