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第35話 ダルケン王国への旅立ち

 私宛てに、ダルケン王国から協力要請があったことを受けて、お父様の執務室に来るようにと、呼び出しが来た。


 私は、マリアを伴って部屋に向かう。

 マリアに扉を開けてもらって入室すると、部屋の中にはお父様、フィレス、お兄様がいる。そして、教会を代表してなのだろうか、教皇猊下と聖騎士団長のルークもいた。


「ダルケン王国で、我が国でも流行った病が流行し出したそうです。そのときの対応に、ミレニア姫が多大な貢献をしたという話が彼の国にも伝わったようで、あちらの国王陛下直々に、姫様に対応に協力していただきたいとの依頼がまいっております」

 口火を切ったのはフィレスだった。


「ダルケンなど他国ではないか! なぜ向こうの都合でミレニアを差し出さなければならない! エレナの遺児であるミレニアを差し出すなど、私は認めん!」

 お父様が声を(あら)らげ抗議する。


「……父上。人の命が懸かっているのです」

 お兄様が、苦々しい顔をする。そして、まるで軽蔑するものを見るかのような眼差しを、お父様に向けた。


「……陛下。あちらの教会からも、私どもの教会を通じて、彼の国の民を救済する手助けをして欲しいと、力を貸してほしいと、願いが上がっております」

 教皇猊下が、彼の国の民を憐んでいるのだろうか。悲しそうに眉尻を下げながら、お父様に進言する。

 その横で、ルークが瞼を伏せ静かに頷いていた。


「陛下。我がユーストリアとダルケンの間では、国交が認められています。そして輸出入など、商人の往来も認められています。ダルケンの火が収まらなければ、再びあの病は我が国に舞い戻るでしょう。……そう考えれば、依頼に応じるのが我が国のためになります」

 フィレスが再びお父様に進言する。


「……」

 お父様は苦虫を潰したような顔をして黙ってしまう。

 そして、お父様が黙り込んだことによって、部屋に沈黙が続いた。


 そんな中、私は思案する。

 私は十二歳。予定どおりの運命ならば、あと一年で婚約が決まる。

 彼の国に赴けば、その対応をしている間に、私は彼の国に囚われるかもしれない。

 その可能性は高いのではないか。

 そんな不安がよぎる。


 ……けれど。


「……人の命に変えられるものはありません」

 私は、意を決して口を開く。


「ミレニア……! 私は認めん! 許さんぞ!」

 お父様が髪を振り乱して首を大きく横に振って否定する。


「お父様。私は、私です。()()()()()()()ではありません」

「……っ!」

 お父様の目が大きく見開かれていく。


「私は、私の意思でダルケン王国の民を救いに行きたいと思います。他国とはいえ、私の力で救えたかもしれない命を救わなかったとしたら、多分私の心は死んでしまうでしょう」

 そうだ。

 目の前の命を救わないで見捨てたとしたら、きっと私は一生罪の意識を抱いて生きるだろう。


 ……それは、断頭台と比較してどちらがマシかなど、比べる余裕もなかった。


 救えるものは救いたい。

 今は、それしか考えられなかったのだ。


「ミレニア……!」

 お兄様が大きく目を見開いて私を見つめる。


「ミレニア様……!」

「彼の国に赴く姫の身をお守りする許しがいただけるのであれば、我々聖騎士団は、御身を必ずや守り抜くと誓いましょう」

 教皇猊下とルークが、床に片膝をついて、首を垂れる。


「……ミレニア姫」

 フィレスが、胸に片手を当てて、目を細めて暖かな眼差しで私を見つめる。


「……っ!」

 お父様だけが、苦々しげな顔を変えなかった。

 けれど、さすがに自分の我儘だけでは通らないと察したのだろうか。最後には項垂れるようにして、私がダルケンに向かうことを認めたのだった。


 一国の王女が他国に旅立つのに、数日で調整は済まなかった。

 補助魔法で馬たちの足を早めたとしても、一日で着くものではない。

 途中で泊まる領主の館や、宿などの調整が進められる。

 私は、そんな日々を、ジリジリとした焦燥感を抱えながら過ごすのだった。


 ◆


 私はようやく、旅立ちの日を迎えた。

「道中、気をつけて」

 ダルケン王国に向かう馬車に乗り込む前に、見送りに来てくれたお兄様に声をかけられた。

 彼の国に行けば、おそらくあちらの状況が好転するまでは帰れまい。

 しばしの別れになるのだ。


「エドお兄様も、お体に気をつけて」

 私たちは、兄と妹の間でする抱擁を交わす。

 そして、私は馬車に乗りこんだ。


「ミレニア。君が、一人でも多くの人々を救いたいという、その願いを叶えて、無事に帰ってくることを祈っているよ」

「ありがとう、エドお兄様」

 まだ開いている馬車の扉から少し身を乗り出すようにして、お兄様と別れを告げた。


 そのあとから私に同伴してくれるマリアが馬車に乗り、向かいに座る。

 馬車の紋章は、前回と同じように偽装したものだ。もちろん、前回とはまた違うけれど。

 私たちを護衛してくれる聖騎士たちのうちの一人が、馬車の扉を閉めようと歩いてきた。彼は、別れを惜しむ私とお兄様に目配せをして確認をすると、その扉を閉めた。


 同行するのは、ダルケン王国までの道のりを護衛する聖騎士たちと、国の騎士たち。そして、前回の旅で同行した補助魔法の使い手である魔導士だ。


「せいっ!」

 先頭を行く騎士が鐙を蹴って、馬に出立を促す。それに続くように、護衛の聖騎士や騎士たちも鐙を蹴った。

 それとタイミングを合わせて、馬車の馬たちを操る御者が、馬たちに鞭を打つ音がする。


 私たちは、ダルケン王国に向かって出立するのだった。

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