第九十二話 緑魔龍公爵vs3人娘
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「クッ、本当にキリがないわね、このゾンビ達は……。倒しても無限に地面から湧いて出てくるし。これじゃ、対処しようがないわ」
コンビニ戦車の屋上から『射撃者』の勇者である紗和乃が、つい弱音をこぼしてしまう。
紗和乃の能力で放つ魔法の矢は、広範囲にいる複数の敵をまとめて撃退する事が出来る。
だがその能力を持ってしても、コンビニを取り囲む緑色のゾンビ達の数は余りにも多過ぎた。
突然、地面から湧き出てきた緑色のゾンビ達。コンビニチームはゾンビ達の攻撃を、コンビニの屋上に装備されたガトリング砲2門で迎撃しながら、何とか防いでいた。
『防御壁』の勇者である四条京子の作る石壁で、コンビニの周囲に防御壁を作成し。
コンビニホテルの支配人であるレイチェルの指示で緊急出動した、100体の機械兵達が、湧き出るゾンビ達を地面から出現した瞬間に次々と倒していく。
おかげで、コンビニがゾンビ達に取り囲まれてしまうという、最悪な事態になる事は避けられたのだが……。
緑色の大波のように押し寄せてくるゾンビ達の群れと、コンビニチームの勇者達は、ずっと戦い続けなければならないという、無限の消耗戦に突入してしまっていた。
「このままじゃあ、ジリ貧ね! ここは何とかしないと、本当にまずい事になってしまうわ!」
コンビニの屋上で魔法の矢を放つ紗和乃が、周囲の戦況を見つめながら歯軋りをする。
ゾンビ達の襲撃が開始されてから、ずっと防衛に努めてきた紗和乃と四条の体力もそろそろ限界だ。そんな絶体絶命の大ピンチを迎えていた、その時に……。
「――んん? 何や、アレは!? 空から何かが落ちてきとるで!」
紗和乃の隣にいた四条が、コンビニの上空から突然、眩い光を放ちながら降下してくる『何か』を見つけ、大きな叫び声をあげた。
「アレは……!? フフ、どうやら勝ち確のガチャ演出がきたようね。良かった。これでやっと私達も安心出来るわよ、四条さん!」
また状況がよく理解出来ていない四条を尻目に。紗和乃は空を見上げて、ガッツポーズをする。
「何や何や? 一体何が、起きたんや!?」
紗和乃も、四条も、ソレが外で発動して実際に空から落ちてくるのを見るのは初めての事だった。
そう――。2人が戦うコンビニの上空から、ゆっくりと3本の銀色の『鉄製アーム』が降下してきたのである。
銀色アームの先には、3人の人間の体が掴まれている。
コンビニの地下で出撃準備していた3人娘達。その3人の勇者達が『クレーンゲーム』の勇者である秋山早苗の能力によって。コンビニの地下から瞬時に空間移動して、いきなり地上の上空から降臨してきたのである。
「何やアレ? めっちゃ恥ずかしい登場の仕方やん! 虹色の光に包まれて、アームで運ばれてくるなんて少しやり過ぎちゃうんか? うちはあんな恥ずかしい演出で登場するなんて、絶対にイヤやで!」
「……あら? 四条さんも、あの恥ずかしいアームに掴まれて、コンビニの地下に戻ってもらう予定になっているんだけど? 今から心の準備をしておいた方が良いと私は思うわよ」
「なっ!? そんなん、絶対にイヤやで! うちは、ちゃんと自分の足で歩いてコンビニの中に戻れるから! あんなヘンテコなアームのお世話になんか、絶対にならへんからな!」
コンビニの屋上で、秋山のアームから逃げようと周囲をキョロキョロ見回し慌てふためく四条。
だが、コンビニの周囲には緑色のゾンビ達が群れをなして溢れかえっている。
直接ゾンビと戦う戦闘能力の無い四条では、コンビニの屋上から地面に降りて、正面入り口にまで向かうのは不可能だった。
やがて、3人娘をコンビニの周囲の大地に降ろし終えた銀色のアームの1つが、今度は屋上にいる四条を無理矢理掴み上げると。そのままゆっくりと空に向かって引っ張り上げていった。
「嫌や〜! うちは、こんなんでコンビニの中に戻されたくはない〜〜!」
抵抗も虚しく。四条はアームに足を掴まれて。空中に逆さ吊りにされてしまう形で、空に引き上げられていく。
元々、地下の3人娘の準備が整ったら、入れ替わりで四条をコンビニの中に戻そうと紗和乃は考えていた。
なので、レシーバーでその指示を事務所にいるティーナに伝えて。地下ホテルの中で待機していた秋山に、その事を伝えて貰っていたのである。
鉄製の銀色アームによって、空から虹色の光に包まれながら降臨した3人の異世界の勇者達――。
『ぬいぐるみ』の勇者の、小笠原麻衣子。
『アイドル』の勇者の、野々原有紀。
『舞踏者』の勇者の、藤枝みゆき。
カフェ好き3人娘達は、コンビニの周囲の戦場に到着するや否や。すぐさま緑色のゾンビ達の群れに対して、大攻勢を仕掛けていく。
「また、ゾンビが相手なのー? 私、あのドロドロした気持ち悪いのを相手にするのはもう嫌なのになー!」
「……ハイハイ、文句を言わないの! 一応、コンビニの大ピンチなんだから、私達3人で彼方くんが戻るまでの時間を持ち堪えてみせるわよ!」
「ええ〜っ!? 持ち堪えるだけなの〜? いいじゃん、もう私達だけでゾンビを殲滅しちゃおうよ〜!」
虹色の光に包まれた3人は、空中で掴まれていたアームから飛び立つと。まず、野々原がコンビニの屋上に綺麗に回転しながら着地を決めて降り立った。
紗和乃が魔法の弓を放ちながら戦う、コンビニの屋上に降り立った野々原は、自身の『アイドル』の能力を使い。コンビニの周囲半径50メートル範囲の空間に『ミニコンサート会場』を作り上げる。
煌びやかなアイドル衣装に姿を変えて、マイクを片手に王道アイドルソングを熱唱し始める野々原。
すると、コンビニの周囲の空間は光の膜に包まれるようにして。透明な対魔物用の防御結界が、ドーム状に展開されていく。
アイドル衣装の野々原が熱唱をすると、コンビニの周囲に存在していた緑色のゾンビ達は一瞬にして光の膜の中で蒸発していき。その体は溶かされていった。
透明な結界に守られたコンビニの周囲では、地面からゾンビ達が新たに湧いて出てくる事は出来ない。
コンサート会場の中に侵入をする事も、結界の中で増殖をする事も出来ないゾンビ達は、結界の外に次々と押し出されていく。
こうして、野々原の作り上げるコンサート会場によって。緑色のゾンビ達を完全シャットアウトする、完璧な防御結界がコンビニの周囲に形成されたのである。
「――す、凄い! この防御結界が有れば、無限に増殖するゾンビを完全に封印する事が出来るわ!」
紗和乃は、目の前で熱唱する野々原の『アイドル』の能力の凄さに驚愕する。
事前に聞いた情報だと、野々原は最大でドーム会場規模の広範囲に結界を張る事も出来るらしい。
今はコンビニの周囲だけに展開しているこのコンサート会場を、ゾンビと騎士達が入り乱れて戦っている戦場の中心で行えば。かなりの数の騎士達を救い出す事が出来るだろう。
それどころか、完全な安全地帯を戦場の中心に作り上げる事で、ゾンビ達への反撃のチャンスを作り上げる事も出来るかもしれない。
「オッケー! 後はぜーんぶ、私達に任せちゃっていいからねー!」
アイドル野々原のコンサート会場から弾かれた、結界の外に群がる大量のゾンビ達に向けて、小笠原麻衣子と、藤枝みゆきの2人が全速力で駆け出していく。
『ぬいぐるみ』の勇者である、小笠原が両手を空に向けてかざすと。その周囲には、1000体を超える大小様々な大きさのクマのぬいぐるみ軍団が召喚された。
小笠原はその中でも最も大きい、体長10メートルの巨大クマの肩の上に飛び乗り。
武装したクマ軍団を引き連れて、勢いよく結界の外にいるゾンビ達の群れの中に突撃していく。
「気持ちの悪いゾンビ達は全部、蹴散らしてしまいなさい! 私の可愛いぬいぐるみ達!」
体格の小さいクマのぬいぐるみ達は、その小柄さを活かしてぴょんぴょんと飛び跳ねながらゾンビ達に鉄製の小さなフォークを突き刺していく。
体長が約10メートルを超える巨大なクマのぬいぐるみ達は、その巨大な体躯を活かして、巨大なフォークを振り回しながら突き進み。ゾンビ達を大きなフォークで叩き潰しながら、戦場を蹂躙していく。
『舞踏者』の藤枝みゆきは、スイスイとフィギュアスケート選手のように、ゾンビ達で溢れる敵陣のど真ん中に一気に躍り出ると。両手に持つ2本の双剣を用いて、ゾンビ達を華麗に切り裂いていった。
「ゾンビ達との戦いは私達にとってはもう、お手の物よねー! 今回は少しだけ数が多いみたいだけど。確か倒し続けるペースが、ゾンビ達の増殖スピードよりも上回っていれば、段々と全体の数が減少していくのよねー!」
「そうね。ここのゾンビ達を全滅させたら、コンビニを移動させて、有紀に戦場のど真ん中で歌って貰いましょう。後は、もぐら叩きみたいに地面から湧いて出てくるゾンビ達を袋叩きにしていけば、きっと殲滅する事が出来るはずだわ!」
コンビニの屋上から、魔法の弓で3人娘達の援護射撃をしている紗和乃は、3人がゾンビ達との戦いに手慣れている事に驚く。
しかも3人は、この無限に湧き出てくるゾンビ達の攻略法を既に理解しているらしいのだ。
紗和乃は『ヒューッ!』と、口笛を吹いて。感嘆の声を漏らさずにはいられない。
これがあの役立たずだからと王都に放置されていた、3軍の勇者達の実力なのだろうか?
もちろんレベルによる個体差はあるかもしれない。だが正直な所、1軍の勇者である自分よりも、遥かに3人は優れた能力を持っているように思えた。
一体何の為の選抜メンバーだったのか、これでは分からなくなってしまいそうだ。
それとも、コンビニの勇者である秋ノ瀬彼方と常に一緒にいる事によって。彼女達3人は、本来の能力以上の力を獲得する事が出来たという事なのだろうか?
どちらにしても3人娘の戦線参加のおかげで、コンビニの周囲にいるゾンビの数はかなり減少している。
紗和乃は先程までは、コンビニを守る為にコンビニの周囲に群がってくるゾンビ達を、順番に魔法の弓で撃退していく事しか出来なかった。
それが、アイドルの野々原が防御結界を作り上げてからは、コンビニの周囲は安全が確保された空間に様変わりしていた。
狙撃手としての本領は、離れた場所から遠距離で敵に攻撃を仕掛ける事にある。
紗和乃は自身の魔法の弓による射撃を、自由自在に放つ事が出来るようになり。元々、大多数の敵をまとめて始末する事が得意な『狙撃手』の能力を、思う存分に発揮出来るようになっていたのだ。
もはやコンビニの勇者である彼方と、コンビニの守護騎士であるアイリーンの帰還を待つまでもないだろう。
コンビニ戦車の周辺に出現した緑色のゾンビの群れは、3人の異世界の勇者の参加によって。あっという間に殲滅されつつあった。
「よーし! それじゃあ、彼方くんの現在地を探しましょう。ティーナさん、聞こえる? ドローンで彼方くんが今いる場所を、上空から特定する事が出来るかしら?」
コンビニの屋上にいる紗和乃は、コンビニ周辺の安全が確保出来た事を確認し。レシーバーで事務所にいるティーナと連絡を取る事にした。
「了解です。彼方様は現在、グランデイル軍の宿営地付近にまだ滞在しているようです。周囲にはゾンビ達がたくさんいるようですので、ドローンのカメラを使っても詳細な位置は特定出来ませんが……。おそらくアイリーンさんと一緒に、彼方様もゾンビと戦っていると思います」
「分かったわ。それじゃあ、もう少ししたら。こちらから彼方くんのいる場所まで迎えにいきましょう! 野々原さんがコンサート会場の結界を拡大して、そのままコンビニ戦車がグランデイル軍の宿営地近くに飛び込めば。各国の騎士団を一気に安全地帯に取り込む事も出来るはず! そうすれば、一気に形成逆転するはずだわ!」
戦場にいる全ての騎士達を救うとまではいかないが、おおよそ数万人以上の騎士達の安全を、一気に確保する事も出来るはずだ。
そうすればゾンビ達が群れている場所に総攻撃をかけて、大量のゾンビを一度に殲滅する事も出来るはず。
今、現在……3人娘達が実践しているように。
ゾンビ達は、その増殖スピードより倒される数の割合が上回った場合には、全体数が減少していくらしい。
だから増える前に、いかに効率よくまとめてゾンビを倒していくのかが重要になってくる。
それをスムーズに行う為にも、野々原のアイドルの防御結界を素早く戦場の中心地に展開する事が、この不毛な消耗戦と化した戦いでは重要になってくるはずだ。
紗和乃が状況を判断しつつ、コンビニ戦車を彼方達のいる場所にまで進ませようと決断をしかけた、まさにその時に――。
”――ドシュ! ドシュ! ドスッ!!”
コンビニ戦車を護衛していた100体近くのコンビニガード達が、次々と何者かによって破壊されていった。
「……何? 一体、何が起こっているの!?」
コンビニの屋上から周囲を警戒していた、紗和乃が驚きの声を上げる。
何か鋭い爪で体ごと切り裂かれたかのように。全身が機械で出来ているコンビニガード達が、次々と真っ二つにその体を引き裂かれて、破壊されていく。
紗和乃は鋭く目を細めて、周囲の様子を観察してみる。すると、何か緑色の小さな物体がコンビニの周囲を高速移動しながら、コンビニガード達に攻撃を加えているように見えた。……だが、あまりに敵の動きが速すぎて、その正体を見極める事が出来ない。
紗和乃に続き、周囲で起きている事態の変化に気づいた野々原が驚いて、手にしていたマイクを一瞬落としそうになる。
「――ダメよ! 野々原さんは、そのまま歌い続けて! そうしないとコンビニの周囲の防御結界が維持出来なくなってしまうわ!」
紗和乃に呼びかけられて、野々原は慌ててそのまま歌唱を続行する。
今、コンビニの周囲の地面からゾンビ達が湧き出てこないのは、アイドルの能力を持つ野々原の防御結界のおかげだ。
ここでコンサートを止めてしまえば、コンビニを守る防御結界は完全に崩壊してしまう。
紗和乃は、コンビニを守る守護神である野々原を、その身で守るようにして光の弓を構えた。
野々原の防御結界の中には、魔物達は絶対に侵入が出来ないはずなのに……。
何者かが、この結界の中にいつの間にか入り込み。しかも、その中を自由に高速移動しながら、コンビニを守るコンビニガード達に攻撃を加えている。
やがて100体のコンビニガードを、全て破壊し終えた緑色の小さな物体は……。コンビニの屋上に飛び上がるようにして、その小さな姿を現した。
紗和乃と野々原が目にした、その緑色の小さな物体の正体は、緑色の衣服とマントを着た黒髪の少女だった。
長い黒髪を風になびかせながら、その小さな少女こと、魔王軍の4魔龍公爵でもある『緑魔龍公爵』は奇声にも似た叫び声を発する。
「お前ら全員、死に晒せぇぇーーッ!! この異世界のクソ勇者どもがぁぁぁーーッ!!」
空中で両手を振り上げた緑魔龍公爵の頭上には、緑色の小さな棘がたくさん浮かび上がっていた。
そして、少女が睨みつける視線の先には――。
コンビニの屋上に立つ、紗和乃と野々原の2人の姿が映っている。
(――しまった……! もう、間に合わないッ!!)
光の弓を構えて、緑色の小さな少女の攻撃を撃退しようと構えた紗和乃が歯軋りをする。
せめて、自分の身はともかく。防御結界を張ってくれている、野々原だけでも救わなくては――。
紗和乃が光の弓を構えるのをやめて、野々原の正面に立ち。緑魔龍公爵の攻撃をその体で直接受け止めようとした、その時だった――。
”ドシュッ――!!”
巨大な銀色の鉄製フォークが、突然、遠くの方から投げつけられてきた。
遠くから投擲された巨大フォークは、空中に浮かんでいた緑魔龍公爵の体にダイレクトに直撃する。
「グッヒャァァァッッーーー!?!?」
巨大なフォークに体を突き刺された緑魔龍公爵の体は、コンビニから少し離れた場所に向かって落ちていく。
そして緑魔龍公爵が、弾き飛ばされた場所の地面の上で慌てて起き上がろうとした、その瞬間に……。
今度は、舞踏者の勇者である藤枝みゆきの双剣が、一瞬にして緑魔龍公爵の両腕を斬り裂いた。
両腕を失った黒髪の少女は、小さく悲鳴をあげて。飛び跳ねながら身悶えるも――。
そのままくるりと空中で一回転をして、足のバランスだけで再び大地の上にしっかりと降り立ってみせた。
「みんな、気をつけてーーッ!! そいつはたぶん魔王軍の幹部、4魔龍公爵の緑魔龍公爵よッ!!」
コンビニの屋上から紗和乃が、駆けつけてきた3人娘の小笠原麻衣子と、藤枝みゆきに向けて大声で呼びかける。
「分かってるわよ! そいつが、ここのゾンビ達を操っている敵の親玉なんでしょう?」
「彼方くんが戻ってくる前に、私達だけでラスボスと戦う事になっちゃったけど、本当に大丈夫かなぁー?」
「……まあ、もうやるしかないじゃん! さっさと片付けて、死んじゃった2軍のみんなの敵討ちを私達でしてやりましょうよ!」
コンビニから離れた場所で、静かに身構える緑魔龍公爵。
藤枝みゆきに切り裂かれたその両手は、一瞬にして復元を完了している。緑魔龍公爵は、3人の異世界の勇者を鋭く睨みつけながらそこに立っていた。
対するカフェ大好き3人娘達、プラス、紗和乃を含めたコンビニチームの4人は……。
初めてとなる、魔王軍の幹部級の大物との戦いに緊張の色を強めて対峙している。
コンビニの勇者である、秋ノ瀬彼方がまだ不在の中――。
静かにこのミランダ領付近の戦いの中で、最大の山場となる戦いが今、まさに訪れようとしていたのである。




