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第八十二話 ミランダ攻略戦への参加


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ククリアとの徹夜の会談を終えた俺は、すぐにみんなをホテルのロビーに集めて、話し合いの場を設ける事にした。



「――という訳なんだよ。だから他の国にいるクラスの仲間と合流する為にも、俺は今すぐ旧ミランダ王国領に向かおうと思うんだ!」



 俺はククリアとの会談の内容を、紗和乃(さわの)をはじめとするみんなに真剣に説明をする。


 でも、時刻はまだ早朝だったからな。


「ふぁ〜? なになにぃ〜? 彼方きゅん、朝からどうしたの?」


 なーんて、寝ぼけた声で昆布おにぎりを食べながらロビーにやってきたアホ娘がいたので。俺はそいつの頭をゴシゴシと撫でて、目を覚ましてやる事にした。



 どうやら俺達コンビニメンバーには、まだまだ危機意識が足りてないのかもしれないな。


 でもそれは良い意味で解釈をすれば――俺のコンビニの中が安全で、快適である証拠みたいなものなのだ。


 悪い意味で言えば、俺のコンビニの中にいると。みんなには外の世界の危険さが伝わらないのかもしれない。



「……なるほどね、事情はよーく分かったわ! 私もククリアさんや彼方(かなた)くんの意見に賛成よ。まずは各国の遠征軍が合流する前に、先にミランダ領に向かいましょう!」



 朝から、凛々しくシャキっとした声色で。


 新しくうちのコンビニに加わったご意見番。紗和乃(さわの)・ルーディー・レイリアがすぐに俺の意見に賛成表明をしてくれた。


「グランデイル王国軍の主力は、きっとアッサム要塞から出撃してくるはずよ。位置的に見れば、西方三ヶ国連合の軍の方が西のミランダ領へは早く到着するはず。……という事は、ミランダ領に先回りをすれば最低でも現在カルツェン王国に所属をしている、水無月(みなづき)くん、川崎(かわさき)くん、佐伯(さえき)くんの3人と合流出来る可能性があるわね!」



 大きな声で熱心に呼びかける紗和乃(さわの)に、俺は圧倒されてしまう。


 どうやら紗和乃も、昨夜は徹夜をしていたらしい。レイチェルさんやティーナと話し合ったり。コンビニの事務所でドローンのパソコン操作を覚えたりと、熱心に勉強していたようだ。


「でも、問題はグランデイル王国軍の方ね……。きっとそこには杉田(すぎた)くんや香苗(かなえ)ちゃんもいるはずだし。アッサム要塞攻略戦では待機組だった、2軍のみんなも今回は参加をしていると思う。その全員に声をかける為には、私は彼方(かなた)くんが単独でグランデイル王国軍に接触をしてみるというのも有りだと思うわ」


「俺が1人で、グランデイル軍の中に乗り込むのか? 正直、グランデイル軍に好き好んで近づきたくはないな。もし罠でもあったりしたら嫌だし、俺は出来れば直接の接触は避けたいと思っていたんだが……」



 グランデイルの騎士といえば、王都で俺のコンビニに火矢を浴びせてきたり。カディナの壁外区で3000人近い人数で、無理矢理コンビニに襲いかかってきたりと。俺にとっていい思い出は全く無い。


 今回の遠征では、誰がグランデイル王国軍を率いているのかはまだ分からないけど。きっとろくでもない奴が指揮をしているのは間違いない気がする。


 そう言えば、倉持の奴は逮捕をされたと言うが……今回の遠征にアイツは参加しているのだろうか?


 おそらく、金森や霧島あたりは必ず参加しているだろうけど。まさかとは思うが、女王のクルセイスが直接、グランデイル軍の指揮をしているとかはないよな……?



「もちろん、彼方(かなた)くん1人でという訳ではないわ。アイリーンさんにも一緒に行ってもらうの。きっと戦場で私達がこっそりと隠れながら、グランデイル王国軍の中に潜入をするのは……かなり難しいと思う。杉田くんや香苗ちゃんがどこにいるのか、その位置も特定しづらいし。それだったら彼方くんの方から、グランデイル王国軍に声をかけに行った方が内部の状況を探りやすいと思うのよ」


「まあ、それはそうだな。『コンビニの勇者の帰還を歓迎します』なんて公言しといて。俺が実際にやってきたら、途端にその場で逮捕するなんて事は、流石にグランデイル軍もしないだろう。それに俺は世界各国の首脳陣の間では人気があるらしいからな。そんな俺をいきなり捕まえるなんて事を、あのクルセイスが今更するとは思えない」


「……ですが、女神教が私達の想像も出来ないような卑劣な罠を用意している可能性は考慮した方が良いと思います。例えば彼方(かなた)様を精神的に操ってしまうような魔法があるとか。洗脳効果のある不思議な食べ物や飲み物を、こっそりと提供してくる……なんて事もあるかもしれません。その点には十分に警戒をすべきだと思います」



 俺の身を第一に心配してくれるティーナが、そう提言をしてくれた。


「確かにそうね。長い歴史を持ち、この世界の陰で暗躍をし続けてきた女神教がそういった洗脳術を持っていない、と安易に考える方が危険よね。それこそ、向こうからしたら、コンビニの勇者である彼方くんを自分達の自由に操れた方が絶対に有利なのだから」


 これには紗和乃(さわの)も、ティーナの意見に賛同する。

 話を聞いているみんなも、うんうんと首を上下に振って頷いていた。


 うーん、そうだな。

 

 俺の心情的には、倉持や金森達とはもう顔を合わせたくないという気持ちはある。でも今回は流石に、そこから逃げる訳にもいかないだろう。それにククリアが言っていた事も気になる。


 それは倉持が『元の世界に帰る為の情報』を知っている可能性がある、という話だった。


 俺達はまだ元の世界に戻れる可能性のある情報を、何も手に入れてはいない。

 そんな中で、倉持が唯一その情報を知っているかもしれない手がかりなんだ。だからいつかは倉持と直接話をしなければ、とは思っていた。



 その他にも、俺はグランデイル王国を追放されて以来、女王であるクルセイスとは直接会っていないけれど。クルセイスは俺達が知らない、この世界の裏の情報をかなり知っている気がする。



 そもそもこの世界に、俺達クラスの全員を召喚したのがあの人だった。


 魔王を倒せば元の世界に戻れる……なんて本当かどうかも疑わしい約束を俺達にしてきたのも。全部、グランデイル女王のクルセイスだ。もはや、俺達にとっては全ての元凶と言っていいくらいの人だからな。



「俺達がこの世界の情報をもっと掴む為にも。俺が倉持やクルセイスと直接話をする事は、避けては通れない道だと思う。後は、敵の罠には十分に気をつけて、話し合いに臨む必要があるという点かな」


「その点は、アイリーンを一緒にお連れすれば大丈夫だと思います。彼女には飲食物に含まれる毒の成分を見極める能力があります。また、敵の魔法に対しても総支配人様が着ている『コンビニ店長の服』があれば、しのぐ事が出来るでしょう。――何かあった時の為に、空中にドローンを配置して。敵が怪しい動きをしないかを常に監視しておけば良いと思います」



 話を後ろで聞いていたレイチェルさんが、そう提案をしてきた。


 何だか、自分の部下であるアイリーンを上司として高く評価しているという雰囲気が伝わってくる。



 ……よし。それなら俺も覚悟を決めるとしよう!


 元々、アイリーンは、魔王の谷にいた巨大な魔物を一刀両断にしてしまう程に強いコンビニ最強の騎士だ。

 女神教が100年戦っても勝てなかった赤魔龍公爵(レッドワイバーン)も、俺とアイリーンの2人で倒している。だからきっと上手くいくと思う。


 それでも慎重に行動をする……という事だけは、絶対に心に刻んでおかないといけないだろうけどな。



彼方(かなた)〜〜! 俺達もそのミランダ領攻めでは、戦場で大活躍する予定だから期待してくれよな!」


 ロビーにいた桂木(かつらぎ)北川(きたがわ)、そして藤堂(とうどう)の3人が拳を振り上げて俺に声をかけてきた。


 おそらく3人は、レイチェルさんの前で格好良い姿を見せたいんだろう。だけど流石に今回は……ちょっと厳しいかな?


「――ハイ、そこの戦力外の男3人組は論外よ。あなた達は今回はコンビニの中から、一歩も外に出てはダメだからね。もちろん3人以外のここにいる、他のメンバーもそれは同じよ! 彼方くんの安全なコンビニの中にいるから、自分達が守られているという事に早く気付きなさいよね。あなた達3人が外に出て行っても役に立たないわ。……むしろ敵に捕まって、彼方くんの足を引っ張る可能性が高いから外出は一切禁止よ!」



 紗和乃が調子に乗っていた男3人組に、いきなり説教をする。


 それはかなりキツい言い方だったので、桂木達3人の逆鱗(げきりん)に触れてしまったようだ。


「何だとッ!? 紗和乃(さわの)、てめーーっ! 昨日、このコンビニにやってきたばかりの新参者のくせに、何だよその上から目線の言い方はッ! ふざけんなよッ!!」


「そうだぞ! 俺らはコンビニに襲ってきた魔物を倒したり。装甲車にのって大活躍もしたんだぞ!」


「そうだ。そうだ! お前みたいに1軍の選抜組で、王宮の屋敷でリッチな生活をしていたような奴が、説教するなよ! 俺らは王都で、自分達だけの力でここまで生き抜いてきたんだからな!」


 昨晩の、3人娘達との衝突でもそうだったけど。どうやらまだ1軍の勇者でもあり、コンビニでの滞在期間で言えばまだ新人扱いでもある紗和乃(さわの)に、桂木達はいきなりキツい言い方をされたのが許せなかったみたいだ。


 まあ、それだけ3軍メンバーの中には、まだ心の奥に(くすぶ)っている物があったのかもしれない。


「――あら、そう? なら、コンビニの大先輩であるあなた達3人に聞きたいのだけど、いいかしら?」



 男3人軍団に吠えかけられた紗和乃(さわの)も、一歩も引かない。むしろ物凄い形相で3人を逆に睨み付けている。


「俺達に聞きたい事? なんだよ、何でも聞いてみろよ!」


 売り言葉に、買い言葉が飛び()う。桂木達は、目の前で仁王立ちになっている紗和乃に、強い口調で聞き返した。


 それを聞いた紗和乃は白い目線で、3人を見下すようにしてゆっくりと口を開いた。



「……そう。なら聞くわ。あなた達、この世界に来てから一体、何人の『人間』を殺した事があるの?」


「えっ!? に、人間を殺すだって……!?」



 紗和乃の質問に、男3人軍団が一斉にたじろぐ。

 そんな3人を冷徹に見下しながら、紗和乃は話を続ける。


「私はもう、10人くらいは自分の手で人間を殺しているわ。カルタロス王国を出発して、彼方くんを探す旅をしている最中に、私と四条さんは何度も盗賊達に襲撃されたからね。相手を()らなければ……私達は、逆に盗賊達に殺されてしまったに違いないわ。だからそれは、仕方のない事だったの。特に魔王軍との戦いが続いている場所付近の街は、治安も悪くなっているしね」


「……………」


 桂木達3人は、紗和乃(さわの)に何も言い返せない。


 紗和乃は人を殺している経験がある。それも10人近くは殺したとみんなの前で告白をした。


 その発言には、流石にロビーに集まっていたみんなも愕然とする。


 相手を殺さなければ、こっちが殺されていた。

 そんなリアルな現実を――戦闘経験のない男3人組が、すぐには理解出来るはずもなかった。


 俺もティーナと初めて出会った時のことを思い出す。


 あの時の俺も、この世界の残酷な真実を知って。心底から元の世界に帰りたいって、願ったのをよく憶えている。


「……いい、よく聞いて? これから私達の行く戦場では沢山の人が殺されたり、殺したりするの。彼方(かなた)くんにグランデイル王国の騎士達が危害を加えようとしてきたら、私は躊躇なく相手を自分の能力を使って殺すわ。例え相手の騎士に、家族や恋人がいたとしてもよ。それが戦争ってものなの。あなた達3人にはその覚悟があるの? ゲームの世界とここは一緒じゃないのよ? リセットボタンなんて、この世界にはないんだからね」


 紗和乃の真剣な口調を聞いていた、カフェ大好き3人娘の小笠原麻衣子(おがさわらまいこ)も。ゆっくりと口を開いて発言をする。


 小笠原は今回は、紗和乃(さわの)の援護に回るようだった。


「確かに、私も紗和乃(さわの)さんの言う通りだと思うな。私はまだ直接この世界で人は殺した経験はないけれど。このトロイヤの街の中で魔物達と戦った時に、私が間に合わなかったせいで犠牲になってしまった街の人の死体を何人もこの目で見たもの……。この世界は、私達が想像する以上に残酷だった。だからまだ戦闘能力の低いみんなは、コンビニの外にはあまり出ない方がいいと思う」


「そうね。私達でさえ、まだ実戦経験は少ないから今回は外には出ない方がいいと思えるくらいだし」


「桂木くん達は、ホテルの中で待機をしていた方がいいと思うよー。だって外は絶対に危険だものー」



 カフェ好き3人娘達が、紗和乃の側についた事で。

 桂木達と、紗和乃の話し合いの勝敗はついた。


 桂木達3人は『分かった……。俺達は今回は大人しくコンビニの中でじっとしているよ』と、その場に座り込み。その後は何も発言しなかった。



 もちろん3人とも、そのまま引き下がった訳ではないだろう。

 現時点で、自分達には実力も経験も不足している事を素直に認めたのだと思う。


 3人とも、まだ自分達が小笠原や、みゆきや、野々原のように、外で戦闘が出来るほどの能力がない事は自覚していた。


 だからこそ、その焦りもあって。今回は戦いで大活躍をしてレベルアップしたいと思ったのだろう。



 俺だって今回は、きっと自分の身の安全の事で手一杯になってしまうだろうからな。その意味でもコンビニメンバーには、安全な地下のホテルに待機をして貰った方が助かるのは事実だ。外に出たみんなを守ってあげれる程の余裕は無いからな。



 結局、今回のミランダ領への遠征では、戦場の状況しだいで場合によってはカフェ好き3人娘達も戦闘に参戦する。

 そしてコンビニの屋上での援護射撃限定で、紗和乃(さわの)四条(しじょう)の2人が周囲を警戒する役をする。


 そしてコンビニの中から秋山のクレーンアームでみんなの援護をして貰う、という感じになるだろう。


 アイリーンと俺が外に出て。他の国に所属しているクラスの仲間達と連絡をとり、そしてグランデイル王国軍にも挨拶しに行く。


 玉木とティーナは、上空に待機させるドローンの操作をして貰う。そして他のみんなはレイチェルさんと共に、ホテルの中で待機をする布陣で臨む事になった。



「でも、彼方(かなた)く〜ん? コンビニホテルにはトロイヤの街の人が沢山宿泊しているけど、どうするの〜?」


 玉木がホテルに滞在中の、トロイヤの街の人達の今後の事についてを尋ねてくる。


「ああ、そこは大丈夫だ。ククリアがコンビニホテルに宿泊中の街の人には、街の宿を無料で提供して貰えるように取り計らってくれるらしいからな」


「そっか、それなら良かった〜! じゃあ街で家を失った人達も、ちゃんと屋根のある家の中で暮らせるんだね〜!」


 まあ、ついでに言うと……。

 ククリアは流石はドリシア王国の女王様だった。


 あんなに見た目は小さいのに、実は結構がめつい所もあったのだ。


 俺のコンビニの缶詰や、カップ麺。更には塩、こしょう、飲料水に羽毛布団やシーツまで。それらを大量に発注して、このトロイヤの街に置いていって欲しい頼んできたのだ。


 何でもそれは、俺に貴重な異世界の情報を教えた手数料なんだそうだ。



 なので、俺は――。

 

 缶詰1000個。

 カップ麺2000個。

 塩、こしょう、飲料水を合計3トン分。


 そして、テントやシーツ。羽毛布団を大量に発注してドリシア王国に寄付をする事にした。


 しかもククリア自身は、それだけの物資を貰っておきながら。今回のミランダ領遠征には、トロイヤの街の再建と復興を理由に参加を拒否したらしい。



 流石にそれを聞いた時には、俺もつい笑ってしまったけどな。



 まあ、何はともあれ。

 俺達は、改めてトロイヤの街を後にした。


 目指すは一路。遥か西の地へ。

 25年前に赤魔龍公爵(レッド・ワイバーン)によって滅ぼされた、ミランダ王国へとコンビニは進み始める。


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