第七十七話 1軍の勇者と3軍の勇者
「……とうとう、見つけたわよ! 秋ノ瀬彼方! まさかこんな所で出会えるだなんて!!」
興奮気味に呼吸を乱しながら、俺を指差して叫ぶ若い女の子が2人、目の前に立っていた。
1人は長い金髪の髪に青い瞳。健康的な浅黒い肌を露出させたスタイルバッチリな服装に、勝気そうな性格をしている女性。
もう1人は前髪を日本人形のように綺麗に切り揃えている、おかっぱ頭の髪型をした和風スタイルの女性だ。
ええっと……あれ?
でもどうしてこの2人が今、ここにいるんだろう?
「何をキョトンとして、目をまん丸にしてるのよ! まさか私達のこと忘れちゃったんじゃないでしょうね? ほら、私よ! クラスメイトの紗和乃よ!」
「いやいや、それは分かってるって! でも、何でお前達2人がこの街に居るんだ?」
この芸能人のような雰囲気を持つハーフの美人は、うちのクラスの紗和乃・ルーディー・レイリアだ。
ブラジル人と日本人の親のハーフで、モデルみたいにスタイルも良くて、顔がめっちゃ綺麗な奴だ。
そしてクラスの中では、玉木の親友でもあったな。
アッサム要塞の攻略戦の時でも、俺達は一瞬だけ再会を果たしていたけど。あの時はすぐに赤魔龍公爵との戦いが控えていたから。
杉田や紗和乃達の事は、その場においていき。俺はすぐに赤魔龍公爵との戦いに向かって行ってしまった。
そしてその後は、グランデイル王国に残っている3軍のみんなと合流をする為に。急いでグランデイル王国に戻ったから、1軍に所属していた紗和乃達のその後の様子は、今までずっと分からずにいた。
でもこうして、2人がこの街に滞在していて。
今、温泉に入る為の行列にわざわざ並んでいるって事は……どうやらみんな、元気でいてくれたらしいな。
「そうかそうか。2人ともコンビニ温泉を求めてわざわざここに来てくれたんだな。まあ、温泉なんて久しぶりだろうから、ゆっくり旅の疲れを癒していってくれよ!」
「ハア〜!? 温泉? 何、寝言を言ってるんや! そんなん、この異世界にある訳ないやろ! いいからさっさとうちらと真面目に話をしいやっ!」
おおっ……!?
何だか懐かしいな、日本の関西弁じゃないか。
そっか。紗和乃と一緒にいるのは、京都出身の四条京子か。うちのクラスの中でも、普段から関西弁を日常的に使っていた奴だっけな。
「いや、でも話を……って言ってもさ。俺は今、温泉の受付をしているから手が離せないんだよ。とりあえず、みゆきが昼休憩から戻ってくるまでは、2人とも温泉に浸かって待っていてくれないかな? お前達だってコンビニ温泉に入りたいから、ここに並んでたんだろう?」
「はぁ〜!? もう、さっきから本当に何を言っているのよ! 私達は彼方くんを探して旅をしてたら、たまたま寄ったこの町で行列が出来てたから、とりあえず並んでみただけよ。そしたらあなたがマヌケ面で『いらっしゃいませ〜!』って言っているのを見つけたから、来たのよ!」
俺を探して、旅をしていただって?
……そうか。アッサム要塞での戦いの後は、ろくに今までの説明をせずに移動しちゃったからな。
2人は俺の現在のコンビニの事については、何も知らないのだろう。
「俺もお前達と色々と話をしたいのは山々なんだけど、今はちょっと手が離せなくてさ。後で今までの経緯を、ちゃんと説明させて貰うから。それまで外で待って貰っててもいいかな……?」
「もう〜! やっぱり彼方くんじゃ埒があかないわね。ねえ、紗希ちゃんはいないの? 一緒に行動してたんじゃないの!?」
あちゃ〜。俺じゃまともに話せないからと、玉木を呼べとクレームを入れられてしまったぞ。一応、俺はコンビニ店長だから、ここの、一番の責任者なんだけどな……。
「――おい、そこで何をモタモタしてるんだ!」
「そうよ、私達は温泉に入りたくてずっとここに並んで待っているのに! そこでゴチャゴチャしてないで、さっさと受付を済ませてよね!」
「ねえ〜、ママ〜。早くコンビニ温泉に入りたいよ〜!」
紗和乃達の後ろに並んでいたトロイヤの街の人達が、ザワザワと騒ぎ始める。
まあ、やっぱりそうなるよな。
ここまで、2時間近くも列に並んで待っているのに。何かよく分からないトラブルが目の前で起きて、行列が止まってしまったらそうなるだろう。
「えっ、な、何なのよコレ? 一体どうなっているの?」
今の状況が分からずに、あたふたと動揺する紗和乃と四条の2人。
俺もまずは、この場をどう収めようかと思案をしていると。後ろからちょうど良い、助け舟がやって来てくれた。
「ああああ〜〜っ!! 紗和ちゃんだ〜!! どうしてここにいるの〜? まさかこのトロイヤの街でまた再会を出来るなんて〜、私、嬉しいよ〜〜!」
「あっ、紗希ちゃん! 良かったぁ〜〜! やっと彼方くんを探し出せたと思ったら、異世界に温泉スパ施設があるとか変な妄想に取り憑かれていて。もう、話にならなかったのよ! 紗希ちゃんが来てくれたならもう安心ね!」
おいおい。何だか俺……。
めっちゃ可哀想な奴扱いされてないか?
たしかに『異世界に、スーパー銭湯みたいな場所があるんだぜ?』――みたいな事を言ってくる友人と再会でもしたら。
それがこの世界に来たばかりの時の俺だったら、そいつの頭がおかしくなったのかと勘違いして、距離をとったかもしれないけどな。
「え〜? 温泉スパ施設はちゃんとコンビニの地下にあるよ? まだ稼働してないけど映画館だってあるし、コンビニホテルの部屋には快適なベッドもテレビも用意されてるんだよ〜! 紗和ちゃん達も温泉に入ってきなよ〜!」
「え、えええーーっ!? さ、紗希ちゃん……。彼方くんのそばにい過ぎたせいで。えーん、紗希ちゃんまで彼方くんのタチの悪い妄想に洗脳されちゃっているよぅ」
おーい。俺の事を本気で悪性の精神性ウイルスか何かみたいな扱いにしてませんかねー? しかも今、隣でそれを当の本人が聞いているんですけどー!
まあ、いっか。とりあえず説明は紗和乃の親友でもある玉木に全部やってもらおう。
俺はまずこれ以上、今ここに並んでいるトロイヤの街の人達を待たせる訳にはいかないし。
「……玉木、悪いけど紗和乃と四条の2人を、そのまま地下の温泉施設にまで連れて行ってくれるか? 百聞は一見にしかずだ。とりあえず、実際に目で見てもらえば納得してくれると思うし」
「了解〜〜! じゃあ2人ともコンビニの地下にご招待しちゃうね〜!」
「ああ、本当に助かるよ。アレ? そういえば、店のレジの方は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ〜! ティーナちゃんが代わってくれたの。そろそろお昼休憩だから、私が代わりますって。本当に良い子だよね〜! 彼方くんには勿体ないから、妥協して私を将来の嫁にしておくと丁度いいと思うよ〜!」
何を妥協をして、玉木を嫁にするという流れになるのか全く意味不明だけど……。
とりあえずは、そういう事なら一安心だな。
休憩を兼ねて玉木には、アップデートを果たした最新のコンビニの中を、新参の2人に案内して貰う事にしよう。
「じゃあ、玉木! 後は頼んだぞー! ついでにこれまでの経緯も2人に色々と、説明しておいてくれよなー!」
「はいは〜い! じゃあ紗和ちゃんに、京子ちゃんも一緒にいこうか! 真っ昼間から温泉に浸かって、お風呂あがりにコーラを飲んで、チーズケーキやピザを食べると最高に幸せな気持ちになれるんだよ〜! 多少デブるかもしれないけど、隣にスポーツジムもあるから気にしないでOKだから〜!」
「えっ、えっ……チーズケーキ!? ピザ? コーラ? それにスポーツジムぅ〜!? 紗希ちゃんが何を言っているのか、私、全くわかんないよ!」
困惑する紗和乃と四条を、笑顔の玉木が強引に地下に連れていく。
まあ、風呂上がりのピザはどうかとは思うけど、
今まで異世界では絶対に食べられなかった食品がいっぱいあるだろうから、思う存分楽しんでいってくれ。
それにしても……このタイミングで紗和乃達と合流を出来たのは有難い。
もしかしたら近くに、杉田や水無月達も来ているのだろうか? もしそうなら、俺にとっては本当に助かるな。
元々、3軍メンバー以外の1軍のメンツともいつかは再会をしたいとは思っていた。
グランデイルの街に戻った時に、なぜか街にいなかった2軍のクラスメイト達とも、俺は早く合流を果たしたいと思っている。
みんな……今、どうしているのかは分からないけど。出来るだけ倉持達から離れて、俺達と一緒にいて欲しいと思う。その為にも、みんなの現在の様子はぜひとも知りたいと思っていた。
「よーし、みゆきが帰って来たら俺も地下の温泉に行って、紗和乃達から話を聞くとするか。杉田や他のメンバーの様子も気になる所だしな!」
俺はそのまま、しばらく温泉施設の入場の受付をずっとしていたんだが……。
結局、みゆきは予定より30分も遅れて昼休憩から戻ってきた。何でもトロイヤの街のカフェを、数件はしごして堪能してきたんだとか。
そんなにオシャレカフェが大好きなら、いっそ俺のコンビニの中にカフェが出来ればいいのに。
そうしたらカフェ好き3人娘達も、少しは落ち着いてくれるかもしれないからな。あっ、そんな事を願うと、地下にコンビニカフェとか、また新しく出来ちゃいそうで怖いな。やっぱりやめておく事にしよう。
――この日。
結局、コンビニが閉店する夕方まで、ククリアはコンビニにはやって来なかった。
その代わりに、俺達と同じクラスメイトで1軍のメンバーでもあった紗和乃・ルーディー・レイリアと、2軍メンバーの四条京子が新たにコンビニに合流をしてくれた。
何でも2人は、アッサム要塞の攻略戦の後からずっと。俺と玉木の後を追って来ていたらしい。
途中、西方3ヶ国連合の1つ、カルタロス王国にも2人はお世話になっていたようだ。
……だが、改めて2人きりの旅を再開し。本当にたまたま、このトロイヤの街に立ち寄った所で、街の広場に謎の行列が出来ているのを見つけて。とりあえず興味本位で、そこに並んでみたとの事だった。
危険の多い異世界を、若い女性たった2人だけでの旅。それって大丈夫なのかよ……って、つい心配してしまう所だけど。そこはさすが1軍と2軍の勇者だけあるな。
2人は途中で何度も、盗賊や野生の魔物達とも遭遇をしたようだが、その全てを返り討ちにして。逆に盗賊達から路銀を奪って、旅の資金にしていたとの事だった。
俺は新たにコンビニメンバーに加わった紗和乃達のレベルと、その能力の内訳を2人に聞いてみる事にした。
紗和乃・ルーディー・レイリア――レベル6
『狙撃手』の能力者。
魔法の矢を用いて、敵を射る事が出来る。
追尾性能のある矢を大量に発射して、敵の集団に確実に命中させる事が出来る。1人で大人数の敵を同時に相手にする事が得意。遠距離からの攻撃も得意。
近距離戦においても、魔法の矢をシールドのように周囲に展開する事が可能。
四条京子――レベル6
『防御壁』の能力者。
自身の目の前に、巨大な防御壁を建造出来る。
最大で高さ5メートル、横幅30メートルを超える巨大な石の壁を作り出せる。作り出せる壁の種類は様々で、細かく小さな壁を組み合わせていく事で、レンガの家から巨大な要塞まで、バリエーションに富んだ様々な建造物を器用に作る事が出来る建築能力もある。
――なるほど。俺のコンビニのレベル補正を受けて一気に成長をした3人娘ほどではないが、さすがは1軍と2軍の勇者達だ。
そのままでも、即戦力になってくれそうな役に立つ能力ばかりを持っているじゃないか。
そして、紗和乃達がコンビニに来てくれたおかげで。アッサム要塞攻略戦後の、現在のクラスメイト達の状況を、大体把握する事が出来たのは大きな収穫だった。
まずは、1軍の勇者達だが――。
俺達のクラスの委員長であり、選抜組のリーダーでもある倉持悠都の現在の消息は不明。
アッサム要塞攻略戦の祝勝会の直後に、国家転覆を企てた罪で女王のクルセイスさんによって逮捕される。
その後、どうなったかの情報はなし。
倉持に付き従っている他の1軍の勇者達、
『水妖術師』の金森準。
『結界師』の名取美雪。
『氷術師』の霧島正樹。
――以上、3名の勇者の消息も不明。
おそらく倉持と共にグランデイル王国に残っていると思われるが、紗和乃達がアッサム要塞攻略戦の後に、グランデイル王国を離れてからは、その後の情報はなし。
『火炎術師』の杉田勇樹。
『回復術師』の香苗美花。
この2名はグランデイル王国に残留。
そして、アッサム要塞攻略戦に参加をした他のメンバー。
『槍使い』の水無月洋平。
『無線通信』の川崎翔
『地図探索』の佐伯小松。
この3人は、西方3ヶ国連合の1つ。
カルツェン王国に今は、身を寄せているらしい。
そして、1軍メンバーの中でも最もレベルが高く。戦闘力も1番高いと噂されている、『剣術使い』の雪咲詩織は、アッサム要塞攻略戦の最後にだけ、その姿を現したが……。
戦闘が終わった後に、すぐにその姿を消してしまい。こちらも現在は消息不明らしい。
グランデイル王国の王宮に住む、残りの2軍メンバー8人は、アッサム要塞攻略の予備軍としてどこかの街に待機をさせられていたらしいが……。
彼らの現在の状況は不明だった。おそらく戦いは終わっているので、グランデイル王国に戻っているのかもしれないな。
そして、相変わらず3軍メンバーの1人。
『叙事詩』の朝霧冷夏についてだけは全く情報がない。
もうだいぶ前に、突然一人でグランデイルの王都を離れたという情報以降は、本当に誰も朝霧の情報を知らないらしい。
今もちゃんと生きているのか……。それとも何かしらのトラブルに巻き込まれて、人知れず命を落としてしまっているのか。
今、現在。朝霧についての情報は何も無い状況が続いている。
紗和乃達のおかげで、クラスメイト達のおおよその現在の状況が把握出来た。
俺はその中では特に、親友の杉田がグランデイル王国の屋敷に妻子がいるから……という理由で、王国に残ったという話に1番驚いた。
おいおいおい……。
まだ100歩譲って『妻』の存在は認めるけどさ。
既に『子供』までいるって、どういう事なんだよ!?
奥さんは現在、グランデイルの屋敷で妊娠中らしいんだけど。ああ、そう言えば昔。杉田の住む屋敷に行った時に、やたら可愛いメイドさんを俺に紹介してくれたっけ。あの時の可愛いメイドの子とその後、順調に愛を育んで結ばれた訳か。
マジで言葉が何も思い浮かばない、ってのはこの事だな。何だろう、親友がどこか遠い場所に旅立ってしまったような、この胸の奥を抉るような寂しさは……。
俺だってさ。魔王だの、女神教徒だの、よく分からない変なしがらみが全部なくなって、ちゃんと身の安全を確保する事が出来たのならさ。
別に元の世界に戻れなくても。この世界でティーナと2人で、落ち着いて暮らす事が出来たら良いのに……って考える事もたまにあるさ。
実際、もう元の世界には戻れない可能性の方が遥かに高そうだし。俺だって、この世界で安定して平和に暮らしたいという願望はある。
まあでも、今の状況じゃ……それも無理そうだ。
せめて魔王軍やら、女神教徒達からも追いかけられない安全な場所に隠れる事が出来たら良いのにと思う。
俺には手の届かない、遥か遠いレベルに旅立ってしまった親友の事を考えながら。
俺はコンビニの地下ホテルのロビーに向かうと。
そこで、新たにコンビニに合流したメンバー2人と。カフェ大好き3人娘が互いに火花をバチバチ激しく散らしながら、衝突し合っている光景が目に入ってきた。




