第六十七話 ククリアとの面会
ドリシア王国には、大きな街が複数点在している。
その内の1つに、山岳地帯付近にある通商都市――『トロイヤ』があった。
トロイヤは他の西方3ヶ国連合の国々との交易が盛んな街で、周囲を魔物対策用の防御壁で囲われた、重要な通商拠点でもある。
そんなトロイヤの街に、今……。
紫色の毛並みをした猿の魔物の大群が、突如として押し寄せてきた。
紫色の猿達はジャンプ力が強く、魔物対策として街を囲っていた防御壁を、いとも容易く飛び越えてしまう。
街に侵入してきた魔物達に、トロイヤの住人達は大パニックに陥り慌てて逃げ惑う。
街の多くの人々が、この絶望的な状況に落胆しかけていた、その時――。
ピンチに陥った街に、謎の異世界の勇者達が颯爽と駆けつけてくれた。
トロイヤの街の中に、コンビニから出動した3人の『異世界の勇者』達が救援に来てくれたのだ。
「――さあ、私達3人の勇者の異世界デビュー戦よ! みゆき、有紀! 気合いを入れなさいね!!」
「オッケー! まかせてよー、麻衣子!」
「やるしかないじゃん〜! 私は避難している街の人達全員を保護するから、麻衣子とみゆきは魔物退治の方をよろしくね〜!」
トロイヤの街に到着した3人娘の勇者達の活躍により、街に侵入した猿の魔物達は、彼女達の持つ能力によって次々と駆逐されていく。
街の中心部にある広場には、アイドルの勇者である野々原有紀が巨大なコンサート会場を作り出す。
野々原はコンサート会場の中心で、マイクを片手にアイドルソングを熱唱し。パニックに陥っていた人々を、無事に避難させる事に成功した。
彼女の歌うコンサート会場には、目には見えない透明な防御結界が張られている。
トロイヤの街の多くの住人達は、野々原の作った会場の中に逃げ込み、魔物達の襲撃から命からがら逃げ延びる事が出来た。
既に街の奥深くに、侵入してしまった魔物達に対しては――。
1000体を超える『クマのぬいぐるみ』の歩兵を操る、小笠原麻衣子が立ち塞がる。
武器を持ったクマのぬいぐるみの兵隊達は、集団で突進を繰り返し。魔物達の群れを猛烈な勢いで押し返していった。
そして魔物の群れから逃げ遅れ、孤立していた街の住民達を次々と救い出していく。
統率されたぬいぐるみ兵達の追撃を、なんとか逃れた魔物達を、今度は双剣を使い、華麗な剣舞を披露する踊り子の勇者、藤枝みゆきが次々と切り裂いていく。
藤枝みゆきは、まるでアイススケート選手のように。華麗な舞を踊りながら風のように高速移動をして、紫色の猿達を双剣でまとめて切り裂いていった。
一方、街の外に待機していた魔物達の所には――。
コンビニから発進した、鋼鉄の装甲車が猛スピードで突入する。そして車の中から青髪の女騎士が、魔物達がひしめく敵陣のど真ん中に、颯爽と降り立った。
「我こそはコンビニの守護騎士、アイリーン・ノア。いざ、参るぞ!!」
青い女騎士は、手にした黄金の剣を正面に構え。目にも止まらぬ高速剣技と圧倒的な力で、紫色の猿達を怒涛の勢いで薙ぎ倒していく。
その姿はまるで、羅刹のようだったと後で評判になったくらいだ。
わずか10分足らずの戦闘で、魔物達はその総数の4分の3以上の戦力を、青髪の姫騎士によって討ち滅ぼされてしまう。
かろうじて生き残った残った猿達も、青い女騎士のあまりの強さと美しさに恐れをなして。
一目散に、後方の山の奥に逃げ帰っていった。
こうして、トロイヤの街を襲った紫色の魔物達の襲撃事件は、大きな被害を出す前に。
街に駆けつけた異世界の勇者達の大活躍によって、全て撃退されたのである。
トロイヤの街に住む人々は歓呼の声をあげ。
街の救援に駆けつけたコンビニの勇者達一行を、街の中に迎え入れたのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
街中の人々の、大きな大歓声を浴びて。
コンビニ戦車はトロイヤの街の大通りを、ゆっくりと行進していく。
その光景を見つめながら、俺はふと呟いてしまう。
「うーん。気のせいかな? なんか俺って、今回何も活躍しなかったような気がするんだけど……」
「そんな事はないですよ、彼方様。3人娘様も、アイリーンさんも、みんな彼方様のコンビニから出撃して街の人々を救ったのです。だからそれは結果として、彼方様の支援のおかげなのだと私は思います」
ティーナがいつも通り天使の笑顔で、俺を優しくフォローしてくれた。
ティーナの優しさは嬉しいけれど。
ついつい複雑な気持ちにもなってしまうよな。
俺のコンビニが街に着いた時にはもう、トロイヤの街の戦闘は全て終わっていた。
街の中に侵入をした魔物達は、3人娘達によって完全に殲滅されてしまっていたし。街の外に集まっていた魔物達も、アイリーンによって全て倒されていた。
だから俺は、自分が何の役にも立てなかった事が申し訳なくて、後ろめたい気持ちになってしまう。
「もう〜、何を言っているのよ、彼方くん! 街の人達の犠牲を最低限に抑えられたのだから、良かったじゃない。よく分からない感傷に浸って勝手に落ち込んだりしないの〜!」
玉木が俺を叱るようにして、声をかけてきた。
確かにそうだな。これはコンビニチーム全体の功績であって、誰が一番活躍したとかは関係のない事だった。
「そうだな。街には沢山の被害が出ているはずだし、今は俺達に出来ることを全力でしないといけないよな!」
「そうよ〜。怪我人もたくさん出ているみたいだし。魔物の襲撃で犠牲になった人も、きっと大勢いるんだからね! 私達がしないといけない事は、まだいっぱいあるんだからね〜!」
玉木に諭されて、俺は反省する。
きっと俺は、今回俺以外の異世界の勇者が活躍をした事に、焦りを感じてしまったのかもしれない。
今まで敵と戦う役は、全てコンビニの勇者がこなしてきた。
でもこれからは、みんなと一緒に行動をして。
むしろみんなの成長を、先輩勇者として後ろからバックアップする立場にならないといけないんだと思う。
だから、俺が常に最前線で活躍をする必要はもうない。街に先行した3人娘達の活躍は、本当に目覚ましいものだったと思う。
攻撃に特化をした『ぬいぐるみ』の勇者の小笠原や、『舞踏者』の勇者の藤枝みゆきの活躍は本当に素晴らしかった。
だが、今回……最もその活躍が目立ったのは、『アイドル』の勇者である野々原有紀の能力だ。
街の中心部の広場に、大きなコンサート会場を作り上げた野々原は、その中でアイドルソングを熱唱し続けた。
野々原の美しい歌声に導かれるようにして、街の人達はコンサート会場に一斉に逃げ込んできた。
野々原の能力は防御に特化している。コンサート会場に張られた防御結界には、魔物達は決して侵入する事が出来ない。
まさにそれは、対魔物用の『完全防御結界』といっても良いだろう。
一度、野々原の防御結界の強度を試してみようと、みんなで実験をしてみた事もあったけど。
野々原がコンビニの外で結界を張ると。やはりその中には、どんなに強力な魔物であっても入ってくる事が出来なかった。
おそらく一般に魔物と呼ばれているような敵であれば、その侵入を完全に遮断する事が可能なのだろう。そしてその結界は、野々原がアイドルソングを歌い続ける限り、ずっと有効状態を保てる。
結界は、人間に害をなす魔物だけを認識して。コンサート会場の中から強制的に排除する事だって出来る。
これはきっと、これからの魔王軍との戦いでもかなり有効活用出来るだろう。
特に4魔龍公爵のような強大な敵と戦う時でも、かなり有用な能力となるのは間違いない。
もし何かあった時は、野々原のコンサート会場に俺達は逃げ込めばいいんだからな。
まあ、理想を言えば防御だけでなく。歌を聴いた者の能力を上げる、バフ効果のようなものもいつかは習得してくれるとマジで嬉しいんだけどな。
もしそれが実現出来たら、戦闘だってかなり楽になりそうだ。
今回の魔物による襲撃で、野々原有紀のコンサート会場に逃げ込んだ多くの人々は、魔物達の脅威から無事に逃れる事が出来た。
そして、この世のものとは思えないほどに、美しい野々原の歌声を聞いた街の人々は……。野々原の存在をまさに『女神様の降臨』だと、大歓声をあげて讃えていたらしい。
なにせコンサート会場に逃げ込んだ街の人々は、野々原の歌声に魅了されっぱなしだったらしいからな。
魔物達が、他の勇者によって撃退された後も。
人々はずっと野々原のライブが終わるまで、その美しい歌を聴き続けていた。異世界では、アイドルが歌う華やかなコンサートなんて開かれた事は絶対に無いだろうから、初めてその体験をした人々に衝撃的な印象を与えたのは間違いないだろう。
俺がコンビニ戦車で街に到着した時にも、街のほとんどの人が野々原のコンサートに夢中になっていて。一体何事なんだ……ってビックリしたくらいだからな。
いつか、他の1軍メンバー達にもこの光景を見せたいくらいだぜ。
これがあの役立たずと言われた、3軍の勇者達の能力なんだぜってな。
あっ……でも、少しだけ残念なお知らせもある。
装甲車に乗り、街の外にいる魔物達と戦っていた男3人軍団――桂木、藤堂、北川の3人は、今回は特に何もレベルアップをしなかったらしい。
まあ、ほとんどの敵はアイリーンが瞬殺してしまったからな。
やっぱり安全な環境で戦っても、勇者としての成長は出来ないのかもしれないな。それとも何か心の成長みたいなのも、レベルアップには関係するのだろうか?
その辺は俺もいまいち、レベルアップの基準がまだ分かっていないから、なんとも言えないんだよなぁ。
俺のコンビニも、壁外区で商売をしている時に突然レベルが上がった事もあったし。別に戦闘をする事だけが、レベルアップに繋がるという訳でもないのだろう。
何にしても俺達は、魔物達に襲われたトロイヤの街の危機を救う事が出来た。
俺はティーナ、玉木と協力をして。すぐに今回の魔物の襲撃で、被害にあった人々の救済に乗り出す事にした。
クラスのみんなにも手伝ってもらい、コンビニの商品である『絆創膏』や『包帯』などを大量発注して。怪我をした多くの人々に配って回る。
そして飲料水や食料なども、傷ついた街の人達に順番に配って回る事にした。
特にアイドル衣装を着た野々原が、コンビニの食料を配って回ると。それを受け取った街の人々は……。
「――ああっ、女神様! 街を救って頂き本当にありがとうございます!」
「何と美しい女神様なんだ! この度は、トロイヤの街を救って頂き、本当に感謝しております!」
「女神様、こんなにも美味しい食べ物を分けて頂けるなんて……。俺達、これからも一生、女神様について行きます!」
――と、みんな口々に感謝の言葉を述べて。
アイドル野々原に握手をもとめていく。
何だか今の野々原は、壁外区にいた時の俺みたいな扱いになっているな。
本人も満更じゃないみたいだし。本物のアイドルみたいに、めっちゃ笑顔で手を振って、街の人達全員に丁寧に握手をして回っている。
もう魔物はいなくなったんだし、いい加減アイドル衣装は脱いでもいいような気はするんだが……。
まあ、もしかしたら本人もこういうのは結構好きなんだろうな。たぶん野々原には、元々アイドルとしての素質があったのだと思う。というか、すっごく手慣れているような気がするのは俺の気のせいなのだろうか?
街の人々に笑顔を振りまく野々原の様子は、まさに『アイドル』そのものだった。
傍目に見ても間違いなく『女神様』って感じがする。俺みたいに男なのに、壁外区で女神様扱いをされてしまっていた時よりも、ずっとマシなんじゃないかな。
元々は、ドリシア王国の王都を目指していた俺達だったが……。
街の人達の手当てや、防壁の修理。火事で燃えてしまった家々の修復など。街で手伝う事がいっぱいあったので、今晩はトロイヤの街に宿泊させてもらう事にした。
街の外の警備はコンビニガード100体と、ぬいぐるみの歩兵隊500体に任せている。
そして、コンビニの支援物資を大量に発注して。俺は街の偉い人達にそれらを無償で提供する事にした。これで今回の襲撃で被害にあった人々も、とりあえずは生活に困る事がないだけの支援品が行き届くだろう。
街の人々に深く感謝をされた俺達は……今、大きな宿舎で歓迎の宴を開いてもらっている所だ。
この雰囲気は、何だか懐かしく感じるな。
初めてこの異世界にやってきた日の夜に――グランデイルの王宮で、異世界の勇者の歓迎の宴が開かれた時と似ている気がする。
あの時以来、本当に久しぶりだ。俺達3軍の勇者がこんな風に大勢の人に歓迎をされて、みんなにもてなして貰えるのはさ。
3軍のみんなは、自分達が街の人達に歓迎されている感覚にまだ馴染めないでいる。
それはそうだ。だって今までは、みんなやる事が何もなく。ずっとグランデイルの王都でぶらぶらと毎日を退屈に過ごしていたんだものな。
「ねえ、彼方くん! 見てみて〜、これ凄いよ〜〜! 豪華なお肉があちこちてんこ盛りだよ〜!!」
「ああ。コンビニの料理も良いけど、たまにはこうして、こっちの世界の料理をみんなで一緒に食べるのも悪くないよな!」
俺達は、みんなで街の人達と一緒に食事をしてその日は過ごした。
そして時刻もだいぶ経ち。
そろそろみんなが寝静る遅い時間に――。
俺は突然、街の偉い人達から呼び出しを受けた。
「コンビニの勇者様……。あなた様にぜひ、お会いしたいという人物がおります。どうか、こちらに一緒に来て頂けないでしょうか?」
アイリーンも席を外していたので。俺も一瞬、警戒をしたんだけどな。
俺に声をかけてきた人達が言うには……。
この宴の席のすぐ隣の家の中に。その大事な人ってのが俺を待っているらしい。まあ、ここから距離もそんなに離れていなかったしな。
俺はひとまず、そこに行ってみる事にした。
仮に何かがあったとしても、コンビニ店長専用服があるし。ほぼ近距離に、アイリーンや3人娘達も控えているのだから、きっと何とかなるだろう。
俺が街の人に連れられて入った家は、とても小さくてお世辞にも豪華な家という感じではなかった。
見た目はごく普通の民家と言った感じだな。
そして、そこで俺を待っていたのは……。
「――ようこそ、コンビニの勇者殿。我がドリシア王国にいらして頂き感謝致します。ボクはずっとあなたとお話がしたいと思っていました。それが今日、ようやく叶い本当に嬉しく思います」
見た目はまるで小さな子供のように見えた。
俺の目に映ったのは、紫色の髪をした幼い少女だ。
そしてこの小さな女の子こそが、俺をこの国に呼び寄せたドリシア王国女王――ククリアだった。




