第六十五話 ドリシア王国へ
「何かさ。俺達って、もの凄い変な見た目の集団になっちゃった気がするよな……」
俺はコンビニ戦車のガラス戸から見える、外の景色を見つめながらそう呟いた。
「……でも、とても賑やかで良いんじゃないでしょうか? 私はいつもより華やかで、今のコンビニも好きですよ!」
隣にいるティーナが、天使の笑顔で俺に返事をしてくれる。
いやさぁ……。
それはティーナはこの世界の住人だから、ロボット兵だとか、クマのぬいぐるみの集団とか。目に入る物全てが、新鮮に映るのかもしれないけどさぁ。
「――なあ、玉木? この状況をお前ならどう思うよ?」
俺はティーナと一緒にいる、玉木にも声をかけてみる。
「ん〜? 別に良いんじゃないの〜? 私もティーナちゃんと一緒で、コンビニの周りが賑やかになって楽しいよ〜!」
いつも通り昆布おにぎりをムシャムシャと頬張りながら、玉木は軽く返事をしてくる。……うん。お前に聞いた俺が間違いだったよ。
お前は昆布おにぎりさえ食べていれば、例え世界がひっくり返ったとしても何も動じない奴だものな。
「ハァ〜〜、桂木ぃ〜。お前はどう思うよ? 今のこのコンビニの周りの状況をさぁ〜?」
俺はティーナと玉木から離れて、コンビニ戦車の運転を事務所のパソコンでしてくれている桂木にも声をかけてみた。
桂木は現在、事務所のパソコンでコンビニ戦車の運転と、ドローンの操作の勉強をしている。
ティーナや玉木だけでなく、クラスのみんなもパソコンでの操作が出来るようにと。今は順番でみんなにコンビニのパソコンの操作の勉強をしてもらっている所だ。
だから、今日はちょうど桂木の当番の日で。事務所には桂木が1人で座っていた。
……うん。やっぱりこういうのは女の子じゃなくて、男同士でないと分かり合えない事ってあるよなぁ?
「――ん? コンビニの周りの状況? そんなのもちろん異常に決まってるじゃないか。だってドローンだとか、機械の兵隊がコンビニの周囲をたくさん囲んでいて、さらにフォークを持ったクマのぬいぐるみが数百匹もコンビニと一緒に行進しているんだぞ? こんなのどう見たってヤバい集団に決まっているじゃないかよ」
「――そうだよな、やっぱそうだよな、桂木! お前とは分かり合えると思っていたよ!」
俺はポンポンと桂木の肩を叩いた。
今、コンビニ戦車の周りには、コンビニの守護兵であるコンビニガード20体が周囲を囲んでいる。そして列を作るようにコンビニ周辺の警護をしてくれていた。
更にその上空には偵察用のドローンが4機、周囲の索敵をしながらコンビニの上を旋回している。
そして更に更に、謎の『茶色のクマのぬいぐるみ軍団』が200体も。まるで大名行列のようにコンビニ戦車の後をつけて行進しているという、不思議なサーカスの一団のような状態になっていた。
一応、前回のように魔王軍の突然の襲撃に備えて、という理由ではあるのだが……。
この謎の警護体制の最大の理由は、コンビニの守護騎士であるアイリーンが『不在』である、という事が大きな原因であった。
いつもコンビニの屋上に1人で立ってくれているアイリーン。
周囲の警戒をしてくれて、非常事態には常に最前線で戦ってくれるコンビニの守護騎士――アイリーンが今はいない。
前回、地下に大量のゾンビの侵入を許してしまった俺のコンビニ。
幸い、コンビニの中に侵入したゾンビ達は全て撃退され。コンビニの地下階層にはいつも通りの平和が訪れていたのだが。
その後片付けをするという理由で、コンビニホテルの支配人であるレイチェルさんが、外で警護をしていたアイリーンをコンビニの地下に無理矢理連れて行ってしまったのだ。
そのせいでアイリーン不在の間の守りを、俺達は自分達の力でする事になったのだけど……。
レベルアップをした3人娘の1人、小笠原麻衣子がぜひ、コンビニの守護役をやりたい! と、コンビニの上に登り。自慢の『クマのぬいぐるみの歩兵隊』をコンビニの周囲に勝手に配置し始めてしまった。
まあ、せっかく役に立つ能力――それもかなりの戦闘力を誇るぬいぐるみの歩兵軍団を手に入れたのだから、小笠原も色々と試したい事がいっぱいあったのだろう。
もちろん残りの2人――野々原有紀と、藤枝みゆきも、ぜひコンビニの役に立ちたいと志願をして。小笠原と同じようにコンビニの上に登って周辺の警護役を買って出てくれていた。
いやさ……。確かに3人は短期間でまさかの急成長を遂げてくれたし。もの凄い戦力にもなるから、助かってはいるんだけどさ。
「……でも、さすがにあのクマのぬいぐるみ軍団はなぁ。他の人達に見られたら俺のコンビニって、かなりヤバい集団に見えたりしないのかなぁ? 明らかに怪しい集団でしかない気がするんだけど……」
「ハハッ……何を言ってるんだよ、彼方! 元々、コンビニの下に戦車みたいなキャタピラー装備が付いていたり、屋上にミサイルポッドやガトリング砲が付いている時点で外見は十分おかしかっただろう? その周囲にクマのぬいぐるみが200匹歩いていたって今更じゃないかよ」
桂木が笑いながら、今度は俺の背中をポンポンと叩いてくる。
いやいや……! キャタピラーとか、ガトリング砲はめっちゃカッコ良いだろうが! あれは実に芸術的なコンビニのデザインだと俺は思っているのに……。
そうか、桂木よ。男同士でも、どうやら分かり合えない至高の壁が存在したようだな。お前の価値観と俺は絶対に共有し合えない事が分かったよ。
「――さらば、桂木! 達者で暮らせよな……」
「いやいや、何勝手にしれっと別れを告げて部屋から出て行こうとしてんだよ! 俺、朝からずっとコンビニの運転をしてるんだぞ!? いい加減に操作を代わってくれよ!」
俺は無言で手だけを振って、桂木のいる事務所を後にする。
うーん……。
レイチェルさんがアイリーンをコンビニの地下に連れて行ってしまったからもう、だいぶ経つけれど。
「アイリーン……まだ、戻ってきてくれないのかなぁ」
俺は小さく嘆息を漏らす。
そういえば、レイチェルさんがエレベーターで上がってきて、コンビニの中にいたアイリーンに話しかけた時……。
俺は2人が会話をしている所を初めて見たんだけどさ。
なんだか、レイチェルさんの方がアイリーンの上司のような感じで話しかけていた事に少しだけ驚いた。
アイリーンはレイチェルさんに対して、「申し訳ありません……」って、ずっと頭を下げていたしな。
そしてそのまま、温和な表情を崩さずにレイチェルさんはアイリーンを地下に強引に連れて行ってしまった。
……あれって、俺の見えない所でレイチェルさん、絶対にアイリーンをしばいているよな。顔は穏やかだったけど、目が笑っていなかったような気がするし……。
どうしよう……?
俺のコンビニって実はパワハラがひしめく、超ブラックな企業だったりするのかな?
俺としては、もっと平和な労働環境でみんなには働いて欲しいと願っているのだけれど……。
――ん? あ、そうか……。
「一応、俺の方がレイチェルさんの上司という立場なんだよな? だったら、俺がパワハラはしないでね……ってレイチェルさんに直接言うべきなのかな? 俺はこのコンビニ全体を管理する立場な訳だし」
うーん……。
でもまあ、それは何とも言いづらいな。
それに、正直今回のコンビニ内部への魔王軍の襲撃事件は……。敵の姿に油断をした俺が一番悪かったと思う。
どっちかと言うと、アイリーンとレイチェルさんの2人で無能な俺を責めて欲しいくらいだ。
何だか、コンビニの主である俺だけは絶対に責められない存在なので。守護者の2人がお互いにこれからは頼りない主人を守る為に注意をしていきましょう! って、陰でこっそりと確かめ合っているような気がして……。
俺は何ともいたたまれない気持ちになってしまう。
無能なご主人様を何とか支えていきましょうね! って地下で2人が泣きながらやけ酒を飲んで語り合っていたら俺、どうしよう……。
まあ、何にしてもこれからはガチで気をつけなければいけないだろう。
もう俺のコンビニは俺だけのものではないからな。
ティーナや玉木、クラスのみんなや、レイチェルさんにアイリーンの事も守っていく立場に俺はいる訳だし。
そして、今回の襲撃事件を受けて――俺は、カディナの壁外区に向かう事をいったん諦める事にした。
それは……もし、また今回のゾンビみたいな連中の攻撃が壁外区の中で起きたりでもしたら。壁外区の住民の被害はとんでもない事になるからだ。
たまたま俺のコンビニの周辺と内部だけで済んだから、対処する事も出来たけど……。
もし壁外区の街の中であのゾンビ軍団が大量発生してたら、犠牲なしで解決は絶対に出来なかっただろう。
だから俺達は方向転換をして――。
一路、ドリシア王国を目指して前進をする事にした。
もう大体、1週間くらいはコンビニ戦車を前進させ続けているんだけどな。
ドリシア王国で『世界の叡智』と呼ばれているククリア女王に会って、その知恵を借りる事にする。
その上で俺達は、今後の方針を決める事にしよう。
「ねえねえ〜、彼方く〜ん。ドリシア王国に着いたら、その後はどうするの〜? 女王様に会ってその後は、その国に住む事にするの〜? 私ね、またコンビニで壁外区の時みたいに商売をしたいよ〜!」
玉木が笑顔で俺にそう話しかけてきた。
「うーん、確かになぁ……。コンビニは商品もかなり増えたし、また落ち着いたらクラスみんなとコンビニで商売をしてみたい気持ちもあるよなぁ。……俺も正直言って、魔物と戦ったりするより。壁外区で毎日商売を一生懸命やっていた時の方が充実していたような気もするんだ」
毎日、大行列のお客さん達を迎えていた頃が今は懐かしいよな。あの時は毎日がもの凄く充実していた気がする。
「うん、うん。でしょでしょ〜? クラスのみんなにも手伝って貰って、またコンビニで商売をしましょうよ〜! 今度は商品の価格とかもちゃんと考えて、しっかりとした形でやろうよ〜!」
昆布おにぎりを片手に玉木は嬉しそうに話してくる。
確かに今のコンビニには商品もいっぱいある。
しかも、地下に巨大な倉庫だってある。
あの体育館のように広い地下1階のスペースに、あらかじめ大量に商品を発注して貯蔵庫のように貯めて置けば。かなりの数の客のニーズにも応えられるだろう。
おまけに今なら、コンビニを『ホテル』として活用する事だって出来るはずだ。
異世界の住人に、ホテルや温泉やトレーニングジムを体験して貰うのも良いだろうし。まだ稼働はしていないけど、そのうち地下4階の映画館に招待をするのも面白いかもしれない。
野々原の能力で、巨大なステージを外に立てて、アイドルのコンサートを開いても楽しいかもしれないしな。
うーん……。そう考えるともはや複合商業施設と化しているよな、俺のコンビニって。そのうち『コンビニモール』とか、名前をそれっぽく改名しても良いんじゃないだろうか。
「でも、玉木……。俺はドリシア王国が、たとえ俺達を受け入れてくれたとしても、そこで商売をするのは難しいんじゃないかと思うんだ」
「え〜〜っ! 何でよ〜!? 絶対に大繁盛するわよ〜! 今だったらコンビニには何でも商品が揃っているのに〜! 食料品も衣服も何でもあるのよ〜!」
玉木が残念そうに俺に詰め寄ってる。
「いや、だってさ……! この前のゾンビの襲撃の時みたいに、俺達が滞在する限りそこには魔王軍の攻撃が来る可能性があるわけだろう? いくら良い商品を扱っていても……俺達とセットで、魔物が襲ってくる危険も付いてくるんじゃ、さすがにマズイんじゃないかなぁ……?」
「う〜〜ん……それは〜〜」
玉木も、俺の言いたい事を察してくれたようだ。
今回、壁外区に立ち寄る事を諦めたように……。
今の所、俺達がいる場所に魔王軍が襲撃をしてくる可能性はかなり高い。
それもただの雑魚敵なんかではない。
前回のように、魔王軍の幹部級の強大な敵が直接襲ってくる可能性があるのだ。
そんな状態でコンビニを街の中に立てても、周囲に暮らす人々に迷惑をかける事にしかならないだろう。
「じゃあ、やっぱり私達は魔王を倒すしかないのかしらね? そうしないと安全には過ごせないって事なの〜?」
「魔王と直接話せて、仲良くなれたりでもしない限りはそうなるかもしれないな。……少なくとも、命を狙われている以上。これからも直接の戦いは避けられないと思う」
何だか、その辺りは結局グランデイル王国の女王の狙い通りに動いている気がして、少し気に食わないな。
俺は、本当はあのクルセイスさんとも直接会って話をしてみたかった。
結局、クルセイスさんの狙いは一体何なのだろう……?
初めて俺達を異世界に召喚した時から、クルセイスさんが俺達に求めているのは『魔王を倒して欲しい』という事だけだ。
自分達で倒す事が出来ないから、異世界の勇者である俺達にお願いをしている。それ自体は特に怪しい事でもないのだろうけれど……。
仮に、俺達が魔王を倒したら……。
その後は、クルセイスさん達はどうするのだろうか? 平和になった世界で穏やかに暮らすのか、それとも約束通り俺達を元の世界に戻す準備をしてくれるのだろうか?
何かよからぬ悪巧みをしてそうで嫌な予感もする。
色々と行動が怪し過ぎで、最近はあの女王様の事を全然信じられなくなってきているし……。陰で何か不吉な勢力が絡んでそうで不気味な雰囲気しか感じない。
そういえば――。逮捕されたという倉持は今頃どうしているのだろう?
その辺りの情報も、全く分かっていない。
置いてきてしまった残りの1軍のメンバー達も、それぞれにどうしているのだろうか――? まだグランデイル王国に所属している以上、クルセイスさんと一緒にいるのだろうか?
またみんなと再会をするとしたら。やはりグランデイル王国にもう一度、帰る必要があるのだろうか?
俺がそんな事を考えながら。深く頭の中で思考を巡らしていると……。
「おーーい、彼方ーーっ!! 着いたぞーー!! ドリシア王国の国境付近の山が見えて来たぞーー!!」
事務所にいる桂木の声が聞こえてきた。
「分かったーー!! すぐに行くーー!!」
俺は慌ててコンビニの事務所に駆け込む。
とうとうドリシア王国にたどり着いたのか。かれこれ、カディナ地方に立ち寄るのを避けて、直線コースで向かってから……だいたい7日くらいはかかったはずだ。
ついに、西方3ヵ国連合の一つ。
『ドリシア王国』に俺達は辿り着いた。
「よーし、どれどれ……」
俺はさっそく上空のドローン数機を向かわせて、ドリシア王国の国境付近の街を観察しに行く。
そしてそこで、俺が目にしたものは……。
「――なあ、何かアレ……? めっちゃ火とか煙が街から大量に上がってないか?」
どう見ても歓迎の合図、って訳じゃなさそうだな。
ドリシア王国の国境付近にある大きな街が、たくさんの魔物による襲撃を受けていて――。
大量の煙と火の手が上がっている光景が、ドローンのカメラには映し出されていた。




