第六十三話 激闘! 温泉バトル!
「ねえねえー? やっぱり朝風呂って本当に気持ちいいよねー!」
「そうね! 朝からこんなに広い温泉に自由に浸かっていられるなんて……ホントに私達って幸せ者よね!」
「はあ〜〜っ! 極楽、極楽じゃん〜! ……でも、ここって本当にコンビニの地下なのよね? なのに何でここの景観って、まるで露天風呂みたいに大きな山や大自然の森を見渡せるようになっているのかしら? やっぱここが異世界だから、謎の魔法原理とかで綺麗な景色が見えてたりするのかな〜?」
うーーん、と3人は揃って首を捻る。
そして同時に『まあ、いっか……!』と呟いて。にこやかに笑い合う。
きっと3人全員が、同じ結論に至ったのだろう。
この異世界では細かい事は考えなくていいんだ。
よく分からない異世界に突然召喚をされてしまった事も。役に立たないからと、王都の街に長い事放置をされていた事も。
みんなみんな、今では些細な事のように思える。
だって今は、こんなにも雄大な大自然を一望できる豪華な温泉の中にいるのだ。
ここにいたら、もはや何もかもが許されてしまうような気さえする。
ここではもう、何も考える必要はない。とにかく今はこの癒しのひと時を全力で満喫しようじゃないか。
『『はあ〜〜っ! 超気持ちいい〜〜!!』』
3人娘達は極楽気分で、恍惚の表情を浮かべていた。
初めはあまりにも広くて戸惑った、この地下3階の温泉施設も。慣れてくると、だんだんと楽しめてくる。
青色の天然石に囲まれた温泉風呂や、雄大な大自然の景色を眺められる広大な露天風呂。ジャグジーのついたバブル風呂から、気持ちの良い水風呂。巨大な薬石に囲まれた天然温泉、サウナ、岩盤浴、砂風呂……。ここには、全てが揃っていた。
1人だけで来るのには、あまりに広すぎるスペースだが、3人でなら十分に楽しく過ごせる。
3人娘達は、少しずつ地下3階層のこのリラクゼーションエリアを楽しむ心の余裕が生まれてきていた。
「ねえねえ〜? 私達も彼方くんのコンビニみたいに、何でも出来るような凄い能力者になれたりするのかな〜?」
「うーん、それはどうだろうねー? 彼方くんのコンビニも最初は品数が増えるだけで、あまり変化はなかったって聞くし……。私達の能力だってレベルアップをしていけば、これから凄い能力に変わったりする事もあるのかもしれないけどねー!」
「レベルアップかぁ〜。でも、それが1番難しいわよね。彼方くんの話を聞く限りだと、やっぱり魔物と命懸けの戦いをするとかしないと、レベルは上がらないんでしょう? 私達の今の能力で、魔物達とまともに戦えたりするのかな?」
『『う〜〜〜ん……』』
3人は温泉に浸かりながら、再び揃って首を捻る。
3人娘の1人。
小笠原麻衣子は『ぬいぐるみ』の能力をもつ勇者だ。
先程のガーゴイル戦では、レベルが2に上がったが大きな能力の変化は無かった。
好きなぬいぐるみを召喚出来るのが彼女の能力だが……。勇者レベルが2になって、召喚出来る個数が最大3個に増えただけである。
野々原有紀は『アイドル』の能力を持つ勇者だ。
好きなアイドルと同じ声でアイドルソングを歌えるが……。レベル2になって、今度は好きなアイドルと同じ衣装の服を着れるようになっただけである。
藤枝みゆきは『舞踏者』の能力を持つ勇者である。
難しい踊りも一目見ただけで完全コピーする事が可能だが……。レベルが上がり、今度は頭の中で思い浮かべた踊りは、瞬時に再現可能になっていた。
確かに、全員がレベルアップを果たしている。
けれどどれも、魔物との実戦では通用しそうにない能力ばかりだった。
「……ハァ〜。まだまだ、私達が彼方くんの役に立つには時間がかかりそうよね〜!」
「そうよねー。そういえば、彼方くんといえば、ティーナちゃんだっけー? あんなに可愛い金髪の女の子をそばに置いちゃって……。見た目はともかく、今や完全にイケメン主人公路線まっしぐらな感じになっているわよねー!」
「そうね。本当に見た目はともかく。副委員長も彼方くんに夢中っぽいし。完全にアニメの王道ハーレム主人公路線を進んでいるわよね。やっぱり男は何で化けるか分からないから怖いのよね。彼方くんみたいに明らかに童貞っぽい非モテキャラでも、『実は僕……年収1億円でIT企業を起業して大成功しました……』――なんてパターンもあったりするから、男は中身を見てみないと本当に分からないわよね……」
――ガタンッ!!
その時……突然、何か大きな物音が奥から聞こえてきた。
3人娘達は一斉に、顔を見合わせて驚きあう。
「ね、ねえ……。今の音、聞こえた……?」
「う、うん。私も聞こえたー! 更衣室の方かしら? それともサウナ室の方からかな?」
「これってもしかして、覗きだったりして! こんな事をするのは桂木くんあたりかしら? それとも藤堂くん? もし藤堂くんなら私達の裸の写真を口からプリントアウトする能力を持っているから、かなり厄介よ! きっとそれをネタに私達に卑猥な要求をして、AVに出てくる変質者みたいな事をしようとしているのかも……」
「え、ええーっ!? とにかく急いで着替えましょうよ!」
3人娘達は露天風呂から急いで上がると、周囲を警戒しながら更衣室に戻り着替えを始める。
たしか秋ノ瀬彼方のコンビニの商品には、まだ『カメラ』は扱ってなかったはず……。
となれば、ここで警戒すべきは『撮影者』の能力を持つ藤堂はじめだけである。
もし、彼がここに覗きに来ているのなら。捕まえて、二度と変態な行為に及ばないように、痛い目にあわせてやらなければならないだろう。
更衣室で着替えを終えた3人は、音が聞こえてきたサウナ室の方を……そっと覗いてみる。
「あれーーっ!? 誰もいないじゃないのーー!」
「おかしいわね……。たしかに大きな物音が、こっちの方から聞こえてきたのに」
――ポチャン……!
今度は、先程まで浸かっていた露天風呂の方から音が聞こえてきた。
流石に今度は、間違いないだろう。
覗き行為をしているど変態は、今、露天風呂にいるに違いない!
3人は慎重に足音を消しながら、露天風呂の方に戻ると……。
露天風呂から立ち込める湯煙に紛れて、たしかに何者かが温泉に浸かっている姿が見えた。
今度こそ、もう逃げ場はない。
女性の裸を覗いたついでに、温泉にまでゆっくり浸かっていくなんて……なかなかの度胸をしている奴だ。
ここは捕まえて、思いっきりとっちめてやらなければ……。
「こらーーっ!! この変態野郎ーッ! 撮影した写真は全部返してもらうからねー!!」
藤枝みゆきが勢いよくガラスドアを開けて、温泉に浸かっている変質者に向けて叫び声をあげる。
残りの2人も一斉に、温泉の周囲に集まった。
そして、そこで3人が目撃した変態の姿は……。
全身の皮膚の色が、完全に『緑色』をしていた。
温泉に長く浸かり過ぎたにしても、絶対にこんなに濃い緑色には変色しないだろう。
更に、若干その身体は溶けかかっていて。せっかく綺麗だった温泉の中にも、薄汚れた緑色の液体が溶け始めている。
まるで色付きの入浴剤でも無理矢理混ぜたかのように、せっかくの天然温泉もこれでは台無しだ。
「ええっと……藤堂くん、じゃなさそうよね? そんなに、ほうれん草みたいな緑色の体の色はしていなかったものね……?」
3人娘達はお互いに身を寄せ合って、体を震わせる。
今、自分達の目の前には――得体の知れない緑色の化け物がいるのだから。
その時――。
”ガチャガチャドタバタッ……!!”
もの凄く大きな物音が……今度は、3人娘達の後方から聞こえてきた。
3人は一斉に後方に振り返ると――。
『『きゃあああああああーーーーーーっ!!!』』
そこには、大量の緑色の化け物達が待ち受けていた。
まるでホラー映画に出てくる『ゾンビ』のように。化け物達は、更衣室を埋め尽くすかのように無数に立っていたのである。
「一体何なのよーー!! コイツらはーーー!?」
「……と、とにかくここから逃げましょう!!」
3人は慌てて、更衣室から離れて別の温泉エリアに向かって走り始める。
更衣室を占拠していた緑色のゾンビ達の数は、100体近くはいた。
あんなのに捕まったりでもしたら大変だ! それこそ本物のゾンビ映画のように、体を一斉に押さえつけられて。生きたままムシャムシャと食べられてしまうに違いない。
「ね、ねえ〜! これからどうするの!? これって結構ヤバい状況なんじゃないの〜?」
「私にも分からないよー! まずはこの温泉エリアから離れてエレベーターに向かおうよー! 地下2階に行けばレイチェルさんがいてくれるはずだし、彼方くん達とも連絡が取れるはずだものー!」
「そうね! まずは彼方くんに連絡を取りましょう!」
3人娘は全速力で温泉エリアの通路を駆け出す。
露天風呂エリアを離れ、ウォータースライダーがある流れる温水プールエリアに到着をした。
しかし、そこも既に……。
見渡す限り、全てが『緑色』でびっしりと埋められている。
温水プールの中も、その周囲の施設も……。全てが緑色のゾンビ達によって埋め尽くされている。その数は軽く1000は超えていそうだ。
恐ろしい数のゾンビの群れが、こちらに分厚い緑色の肉壁となって、じわりじわりと押し寄せてきている。
「ど、どうしょうーー! もう、逃げ場がないよー!」
「後ろからも来たわよ〜! もの凄い数〜っ!! これじゃあもう私達……絶対に助からないじゃん……」
3人が死の覚悟を決めた、その時――。
”ウイーーーン” ”ウイーーーン”
ゾンビ達の後方から機械の動く音が聞こえてきた。
それはコンビニを守護する機械兵達。
『コンビニガード』達が、こちらに向かって歩いてくる音だった。
両手に2本の剣や槍を装備したコンビニガード2体が、ゾンビ達の群れに攻撃を仕掛けている。
「やったー!! 援軍が来てくれたわよー!! さっすが彼方くん、頼りになるわねーー!」
「ね、ねえねえ……。でもさぁ、ホントに大丈夫なの〜? なんかあの機械の兵隊さん達、たったの2体しかいないじゃん〜? あんな戦力で、本当にここにいるゾンビの群れ全てを撃退出来るのかしら……?」
3人娘達の不安は、ズバリ的中してしまう。
温水プールエリアに侵入したコンビニガード2体は――あっという間に緑色のゾンビの群れに飲み込まれてしまい。やがてその姿は、影も形も見えなくなってしまった。
機械兵の為、断末魔の悲鳴をあげるという事はなかったが……。
あれがこれから自分達が味わう事になる、未来の姿だと思うとゾッとする。無数の人食いアリにたかられたかのように。あっという間に食べられてしまったのだから。
「……ねえ? これって、絶体絶命のピンチなんじゃないの?」
「私、ここでこのピンチを助けに来てくれる男がいたら、それが例え藤堂くんだったとしても……キスをして1ヶ月間限定の恋人になってあげてもいいわ! とにかく誰でもいいから助けに来てよー! うわーーん!」
大きな悲鳴をあげて、泣き出しそうになる3人娘達。
そこに緑色のゾンビの群れの中から――何かがこちらに投げ込まれてきた。
”ガチャーーーーーン!!”
よく見ると、それは大きな剣と槍だった。
黒色の大きな剣と槍が、合計で3本。
ゾンビの群れの中から、こちらに向けて勢いよく投げ込まれ。それが3人娘達の目の前の床に突き刺さった。
「えっ……。何よコレ? どういう事なの……?」
3人娘達は突然の事態に困惑する。
どうやら、この剣と槍は先程ゾンビの群れに飲み込まれた2体の機械兵……コンビニガード達がこちらに向けて投げてくれたようだった。
緑色のゾンビ達の波に飲み込まれながらも、必死にこちらに向けて。自分達が持っていた武器を放り投げてくれたらしかった。
「……えっ? もしかしてこれって……。この武器を使って私達に戦えって言っているのかしら?」
「つまりは、あのゾンビ達から自分達の身は自分で守れ――っていうメッセージなの?」
「あのコンビニガード達……。機械のくせに、最後にイケメンな事をしてくれちゃって……。自分達の身を守る為の武器を、こちらに投げて渡してくるなんて……」
もう先程のコンビニガード達の音は全く聞こえてこない。
あれだけの数のゾンビ達の海に飲み込まれたのだ。
おそらく機械といえども、もう絶命して壊されてしまっているのだろう……。
それでもその最後の力を振り絞って、機械兵達は3人娘達に自分達の使っていた武器を送り届けてくれたのだ。
「もう、しょうがないなぁ〜! そんなイケメンな行動をされたら……。私達だって本気で戦うしかないじゃん〜!」
「そうね……! 彼方くんも命懸けの戦いの中でレベルアップをしてコンビニを成長させてきたっていうし……。私達もギリギリまでアイツらと戦って、ここで急成長を遂げるしかないのかもしれないね!」
「――よーし、私達でやっちゃおうよー! 見たところ敵は『走る』系のゾンビじゃないみたいだしー。動きもトロイから、囲まれさえしなければ何とかなるんじゃないのー?」
3人娘達は、それぞれに床に突き刺さっている武器を引き抜いた。
そしてその武器をゾンビ達に向けて構え。周囲を囲まれなくて済むように、狭い通路の奥へと逃げ込む。
そして、そこで背水の陣を敷いてゾンビ達と対峙する。
「よーし、みんなやるわよ!! 私達、死ぬ時は絶対に一緒だからねー! 後悔のないように、全力で戦って華々しく散りましょうね!」
「了解ーーっ! イケメンに出会えなかったのは残念だけど……。来世ではせめて◯ャニーズ系の格好良いアイドルと結ばれますようにーー!」
「さっきのコンビニガードさん達の敵討ちよ〜!! あなた達、死ぬ気でかかって来なさいよ〜ッ!! ぜーんぶ、返り討ちにしてやるんだから〜ッ!!」
「「うおおおおおおおおーーーっ!!!」」
3人の異世界の勇者達と、約1000体を超える緑色のゾンビ達との空前絶後の超大バトルが――。
コンビニ地下3階層の、温泉エリアにて開始された。
その戦いは、まさに想像を絶するものであったのは間違いない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――くっそ……さすがにゾンビの数が多すぎるな!」
地下第3階層に、やっと到着はしたものの。
俺とティーナの2人は、数の多過ぎるゾンビの群れに苦戦し。全く前に進む事が出来ないでいた。
ゾンビ達の足はかなり遅く、その身体も溶けかかっている為、個体の攻撃力はかなり低い。
だがそれでも、集団に囲まれてしまうとあっという間に逃げ場はなくなってしまう。
無数のゾンビ達に、周囲を囲まれたらこちらはお終しまいだ。
きっと体中を押さえつけられて、ホラー映画も真っ青なおぞましい方法で生きたまま食われてしまうだろう。
俺とティーナはともに互いの背中を預け合い。手にした剣を振り回して、近づくゾンビ達を順番に切り裂いていく。
無数のゾンビ達を蹴散らし、少しずつ少しずつ温泉エリアにいる3人娘達を救出する為の道を切り開いていく――。
これじゃ、まるで早朝の新宿駅だな。押しても押しても、前に進めそうにないぞ。
敵の数が多すぎて進めない時は、腕につけたスマートウォッチを操作する。
そして、3階層に連れてきた小型のドローンに搭載されているミサイルを発射して、目の前には立ち塞がるゾンビの群れを爆風で吹き飛ばしていった。
だがそれでも、通路を埋め尽くす大量の緑色のゾンビ達は……。
その数がまるで減る気配がない。
ミサイルで吹き飛ばされた隙間は、新たに増殖したゾンビ達によって、すぐに通路が埋め尽くされてしまうからだ。
こちらのドローンのミサイルは残弾数も限られているので、無闇にミサイルの連射は出来ない。
これはヤバいぞ! このままでは、本当に3人娘達の救出が間に合わないかもしれない。
「――ティーナ! そっちは大丈夫か? 怪我はないか?」
「ハイ、彼方様……! 私は大丈夫です! ですがもう地下3階に降りてから30分近くは経ちます。このまま前に進めないようですと、ご友人の皆様が……」
ティーナが不安そうな表情を浮かべて、俺を見つめてきた。
確かにこのままでは本当にマズイ……。
正直、決定打がなくてジリ貧な状況になっているのは間違いない。
3人娘達には武器もないし。無数のゾンビ達を蹴散らせるような能力もない。
彼女達の持っている能力では、この状況の中で生き残るのは厳しいだろう。
でも、たとえそれでもだ……。
ここで諦める訳には絶対にいかないんだ。
まだ生き残ってくれているのを信じて、俺達は前へと進むしかない。
俺とティーナは少しずつ、ゾンビ達を剣で切り裂き。ドローンのミサイル攻撃で道を切り開いていき――なんとか温泉エリアの中心部にまでやってきた。
そして、そこで俺達2人が目にしたものは……。
「彼方様、アレは……!?」
「そんなバカなっ!? アレは一体、何なんだ……」
俺とティーナはともに、驚愕の表情を浮かべて絶句する。
そう――。
温泉エリアの中心で俺達が目にしたのは……。
無数にうごめく、茶色の『クマのぬいぐるみ軍団』と、緑色のゾンビ達が謎の大戦争を繰り広げている光景だった。
中には、身長5メートルを超えるような巨大なクマのぬいぐるみも数体歩いていて。ゾンビ達の群れを、アリを踏み潰すゾウのように蹂躙している。
その中の一体……最も大きい全長10メートルを超える大きなクマのぬいぐるみの上に。
3人娘の1人、小笠原麻衣子が乗っていた。
小笠原はクマのぬいぐるみ軍団を操りながら、ゾンビ達を次々に壁際へと追い詰めていく。
その茶色のクマのぬいぐるみ軍団と、ゾンビ達との熾烈な戦いの隙間を縫うようにして。
2本の双剣を持った藤枝みゆきが、華麗な剣技を披露しながらゾンビ達を高速スピードで切り裂いていく。
その姿はまるでアイススケート選手のように華麗で、スケートリンクで美しく舞を踊るようにして、藤枝みゆきは二刀流の剣を振りかざしながら――ゾンビ達を鮮やかな剣裁きで切り刻んでいる。
そして、温泉施設の中心部には……。
なぜか、巨大なアイドルのコンサートステージが作られていた。
そこでは、煌びやかなアイドル衣装を着た野々原有紀が、美しい歌声でアイドルソングを熱唱している。
その周囲に群がる緑色のゾンビ達は、中心部にいる野々原の近くには、全く近づく事さえ出来ない。見えない透明な結界に遮られるようにして、ゾンビ達はフロアの中央部に密集して集められていた。
「ええっと。この状況は一体、何がどうなっているんだ……?」
俺には、目の前に広がる光景が全く理解出来ないでいた。
ティーナも、俺と同じように唖然としている。
「か、彼方様……私達も急いで加勢しましょう……!」
「そうだな……! よし、ティーナ、行くぞ!!」
やがて……やっと冷静さを取り戻した俺とティーナは、互いに剣を構えて。ゾンビ達の中に向かって突進を開始した。
地下の温泉施設に発生した大量のゾンビ達は、謎のクマのぬいぐるみ軍団と、二刀流使いの華麗なダンサーの活躍もあり。
その全てを、完全に殲滅させる事に成功したのである。