第五十七話 コンビニの進化と目指す場所
コンビニの周囲を索敵していたドローンが、空から迫り来る無数の魔物の姿を映し出す。
日中に堂々と襲ってきた所をみると、野生の魔物では無いな。おそらく魔王軍に所属している、統率のとれた魔物達である事は間違いないだろう。
モニターに映る魔物の数は、おおよそ200匹くらいだろうか? 紫色で人型の姿をした形と、背中に付いている2枚の翼が特徴的な魔物だ。
外見だけで言ったら、俺達の世界のRPGゲームに出てくる、『ガーゴイル』によく似た風貌をしている。
「――おい、何が起きたんだ、彼方! 一体、どうしたんだよ!?」
頭に乗せていたタオルを床に落として。ボサボサ頭のまま桂木が事務所に駆け込んでくる。
「……何って、魔王軍の襲撃だよ。たぶん俺のコンビニを標的に襲って来たんだろうな。――桂木、みんなには危ないから、それぞれのテントに、とりあえず隠れて欲しいと伝えてくれないか!」
――と、俺が注意を促したにも関わらず……。
「何々〜! 魔王軍? きゃあーっ!! とうとう私達にも、魔王と直接戦う機会がやってきたのねっ!! やったわ! さあ、さっさと魔王を倒して急いで元の世界に帰りましょうよ!」
3人娘の1人、野々原有紀が騒ぎを聞きつけて、事務所に駆け足で入ってきた。
「いやいや……、別に『魔王』が直接来た訳じゃないんだって。その下っ端がたくさん襲って来てるんだよ!」
「下っ端〜!? えっーー! 何よ、格下じゃん〜!? 直接私が魔王を倒して、一気にこの退屈な異世界生活にサヨナラして元の世界に戻ろうと思ったのに〜! まあ、いっか。下っ端でも数を減らせば、魔王の部下は減るんでしょう? 私が全部倒してあげるから彼方くん、倒し方を教えてよ〜!」
……あちゃー。ダメだこりゃ〜!
まるで危機意識のない野々原の能天気さに、俺は思わず両手で頭を抱え込む。
生まれて初めて触るRPGゲームに、テンションの上がっている女子高生みたいなノリで俺に話しかけてきてもだな……。
第一、お前の『アイドル』の能力でどうやってあのガーゴイルの群れを倒すって言うんだよ……。
「……ねえねえ! 魔王軍が直接攻めて来たって本当なの? なら、さっそくそいつらをボコして、ギャフンと言わせちゃおうよ!」
野々原に続いて、小笠原麻衣子、藤枝みゆきの2人も、事務所にやって来る。
パソコン画面を覗き込んでくる3人娘達を、俺は落ち着かせる為に説得しようとしたんだが……。
――うん。
まあ、時既に遅しだな。
騒ぎを聞きつけた他のクラスメイト達も、一斉に事務所のパソコン画面の前に集まって来てしまった。
「うおおっ! とうとう俺達も魔王軍との戦闘デビューかよーーっ! 彼方、デビュー戦は華々しく勝利を決めて、魔王の奴にギャフンと言わせてやろうぜ!」
パソコンのモニター前に大集合して、興奮気味に息を荒げるクラスメイト達。
「ハイハイ……たぶん、魔王はギャフンとは言わないと思うけどな。とにかくみんな、一旦落ち着いてくれ! まずは攻めてきた魔物達の傾向と対策をだな……」
俺が、まるで塾の先生のように、自由気ままなわんぱく生徒達に、丁寧に説明をしようとすると――。
”ドカーーーーーーン!!!”
突然大きな爆発音と、衝撃が連続でコンビニ戦車に轟いた。コンビニ全体がガタガタと激しく揺れ始める。
「何だ何だ!? 一体どうしたっていうんだ……?」
俺は慌てて、パソコンのモニターに向き直る。
コンビニに迫るガーゴイルの群れは、何と空から大量の火の玉を放出して攻撃をしてきていた。おそらくこの炎の攻撃は『魔法』によるものだろう。
火の玉を口から直接吐くとかではなく……。手の平から、何かの光を発しながらこちらに放出してきているからな。
「マジかよ……。魔王軍には『魔法』を使える魔物もいるってのかよ……」
俺は魔法攻撃をしてくる魔物の存在に驚く。
だが、特に焦りは感じなかった。
なぜなら俺のコンビニには、魔法障壁付きの防火シャッターが付いているからだ。
200匹を超えるガーゴイルが放つ、空からの魔法攻撃は確かに脅威だが、俺のコンビニには傷一つけられないだろう。
実際にモニターを監視していると、ガーゴイル達の放つその攻撃の全てが、コンビニの魔法障壁によって防がれている。
さすがは俺のコンビニ戦車。まさに鉄壁の防御じゃないか。
「アイリーン! そっちは大丈夫かーー? 無事かー?」
俺はコンビニの屋上に立ってくれている、アイリーンの安否を確認する為に大声を出して呼びかけてみた。
「――ハイ、店長! こっちは大丈夫ですーー!! 敵の炎の攻撃は全て剣で弾き返していますのでーー!!」
アイリーンの返事が、コンビニの屋上から大きな声で返ってくる。
うん。どうやら無事らしい。
コンビニが持つ魔法障壁以外に、どうやらアイリーンが屋上で、敵の魔法をいくつか防いでくれているみたいだな。
よーし、それならこっちもそろそろ反撃といこうか!
空を飛んでいるガーゴイルは的が小さいので、地対空ミサイルを当てるのは難しいだろう。
それならこっちは、『5連装自動ガトリングショック砲』で迎撃をするしかない。
俺の意図をすでに理解していたのか、ティーナがパソコンの画面上で、ガトリング砲のアイコンを先に起動してくれていた。
さすがは俺の嫁だ。呼吸がピッタリだぜ。
「何コレーっ! ゲーセンのガンシューティングゲームみたいじゃんー! 凄ーい! 私達にもやらせてよーー!!」
ティーナが起動したガトリング砲の射撃画面を、みんなが興味深そうに覗き込む。
「彼方ーっ! これなら俺達でも出来そうだぜー! なあ、いいだろう? 俺達にも触らせてくれよ!」
桂木達が、ガトリング砲の操作をしたいとお願いをしてきた。
「うーん……まあ、狙いをつけて撃つだけだから、そんなに難しくはないだろうけど……。でも……」
俺はティーナと玉木の顔を見てみたが、2人とも俺に判断はお任せをしますという顔をしていた。
どうしょうかなぁ。
でも、まあ……今回はだけはいっか。
何か俺が初めて魔物と外で戦った時は――もっと命がけのバトルをして、本当に必死だった気がした。
手元の消火器を魔物にぶち撒けて、必死で敵の攻撃を凌いでやっと生き残れたという感じだったのに……。
こんな重装備で安全なコンビニの中から、強力な武器で敵をゲームみたいに倒していくのは、教育上良くないんじゃないだろうか?
ちょっとズルい……と、俺なんかは思っちゃうんだけどな。
まあ、みんなをそれだけ手厚く保護できるくらいに。
俺のコンビニが今はパワーアップしたという事なんだから。ここは、素直に良しとするべきなのかもしれないけれどな。
「……分かった! みんなティーナからガトリング砲の操作の仕方を聞いて、それぞれ試してみてくれ。敵は空を飛んでいるから凄く狙いにくいと思う。――でも、慎重に……そして真剣にやって欲しい。くれぐれも悪ふざけは無しだ。失敗をしたらみんなが命の危険に晒されるって事を、ちゃんと理解をして、命がけで戦って欲しい」
俺はあくまでこれは、命をかけた殺し合いなんだという事。
やらなければこちらが殺されてしまう危機にあるんだという事を、念入りにみんなに注意をした。
それらを理解してくれた奴にだけ、ガトリング砲を操作する事を了承する。
ただのゲームみたいに、ふざけて遊びたいみたいな態度の奴がいたら、そいつには絶対に触らせない。
そこだけは徹底をしたいからな。
ゲームセンターの新型ゲームに群がるように興奮をしていたみんなも――。
俺が真顔で真剣に説明をしたので。一応は冷静になって、落ち着いてくれたらしい。
一人一人が深呼吸をしながら、無言で真剣にガトリング砲の操作をしていく。
そして慎重に画面の照準をガーゴイルに合わせて、ガトリング砲を連射させて、上空の敵を撃退していった。
”ドドドドドドドドーーーッ!!”
コンビニの屋上から、赤い閃光弾を連続で吐き出す5連装自動ガトリングショック砲。
ガトリング砲で撃ち漏れて、コンビニに急接近をして来る敵は、アイリーンが黄金剣で直接倒していく。
まあ、これでもだいぶイージーモードなんだけどな。
コンビニの中にいる限り、敵の攻撃は絶対に受けない訳だし。……でも、みんなもずっとグランデイルの城下街にいて、何か元の世界に戻る為の行動はしたいとずっと思っていたのだろう。
俺のコンビニに甘えている状況なのは理解しつつも、魔物との戦いに役に立ちたいという気持ちは、みんな人一倍あったらしい。
ガトリング砲を撃つパソコンの操作に慣れない子には、玉木が直接丁寧に指導をして、みんながガーゴイル撃退にちゃんと協力をしてくれた。
そして、敵の襲撃からおよそ、1時間くらいが経過した時――。
ガーゴイルの群れは、そのほとんどがガトリング砲に撃ち落とされ、残りはコンビニには勝てないと理解をして撤退していった。
俺達は、迫り来るガーゴイルの群れの撃退に成功したのである。
「よっしゃあーーーっ! すげえええーーっ!! 俺達、魔王軍を初めて撃退したんだ!!」
「ワーイ! 私……こういうのは初めてだけど、すっごく手が震えちゃった!! ……でも、本当に良かったぁー! ちゃんとみんなの役に立てて、何だかホントに嬉しいわ!!」
みんながガーゴイルの撃退に成功した事を、嬉しそうに喜び合っていた。全員が立ちながら周囲の仲間とハイタッチを交わし合う。
「みんなが落ち着いてガトリング砲の操作をしてくれたからさ! でも、本当に良かったよ。協力をしてくれてありがとう!」
3人娘達がいつの間にか、コーラのペットボトルを全員分持ってきてくれていたので。俺たち全員は勝利の祝杯をあげる事にした。
「ぷは〜〜〜っ! 俺達の初勝利に! 彼方のコンビニに! 乾杯〜〜!!」
桂木が音頭を取って、みんなでコーラを一緒に飲み合う。
「「乾杯〜〜〜〜!!」」
もう、何だかコンビニの中はお祭り騒ぎだな。
まあ、賑やかだし。みんなも笑顔で楽しそうだから良いんだけどさ。
俺も一人でいるよりは、ずっと嬉しく感じられるし。
そんな和やかな団欒のひと時に。
それは、突然やってきた――。
「……アレ!? 何だ? 今、俺の頭の中で、何か変なアナウンス声か流れたぞ!?」
「わ、私も……! 『ピンポーン、ぬいぐるみの勇者のレベルが上がりましたー!』って……。何なの、この変な声は……?」
「私も今、頭の中に突然、変な声が流れたのー! 何々、コレどういう事なのよー?」
コンビニの中にいたクラスメイト達全員が、ざわざわと騒ぎ始める。
――そうか。
全員今の戦闘でレベルが上がったのか。
一応、俺のコンビニの装備を使ってではあるが、襲ってきた魔物をちゃんと撃退した訳だしな。
しかも敵は200匹もいたし、飛行タイプかつ魔法も使ってくるようなかなりレベルの高い魔物達だ。
俺が最初に襲撃を受けた時のような、レベルが低い野生の狼のような魔物達とは、相手の格が段違いだしな。
「あ〜、それはだな……。実はレベルアップと言って……」
俺がレベル13の先輩勇者として、みんなにレベルアップをする事の説明をしようとしたら――、
「……みんな、それはレベルアップっすよ! 異世界の勇者は経験を積むとレベルアップをするっす。みんな自分のステータスをそれぞれ確認してみるといいっすよ! 自分の出来る能力や、ステータスが増えてたりするっすから!」
先に、桂木にレベルアップの説明をされてしまった。
――おい、桂木! それは俺の役目なんだから勝手に奪うなよ。
第一、みんなは俺のコンビニのおかげでレベルアップをしたようなものじゃないか。それなのに……。
でもいっか。細かい事は気にしない気にしない。
全員のレベルが上がるのは、基本的には良い事だしな。
俺のコンビニみたいに、何か有用な能力をみんなも習得してくれたなら、その方が全体の戦力アップにも繋がるだろう。
みんながそれぞれ、レベルアップによって自分達の能力が上がっている事を確認し始める。
「えっ〜〜、何かこういうのドキドキするじゃん〜。すっごい能力が身についていたり、強力な魔法とか使えるようになってたら私どうしよう〜!」
「うん。私もこういうの初めてだから、何だか緊張するね……!」
うんうん。分かる、分かるぞ。
俺だって初めてレベルアップをした時は、本当に興奮をしたからなぁ。
でも、流石に今の俺はついこの前、魔王軍の大幹部。4魔龍公爵の1人を倒したばかりだからな……。
だから、そんなにすぐにはレベルが上がらない事は知っている訳なんだけど……。
……と、俺が思っていたら――。
『ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました!』
まさか、俺の脳内にも響き渡るお馴染みのアナウンス声。
「そ、そんな、バカな……!? だってこの前俺はレベルが上がったばかりなんだぞ……」
俺は他のみんながレベルアップに喜んでいるのとは、対照的に。
本来あり得ないはずの、自分自身のレベルアップに驚く。
とにかく、まずは確かめてみる事にしよう!
「――能力確認!」
俺はさっそく、脳内でいつもの言葉を叫んだ。
すると――。
名前:秋ノ瀬 彼方 (アキノセ カナタ)
年齢:17歳
職業:異世界の勇者レベル14
スキル:『コンビニ』……レベル14
体力値:11
筋力値:11
敏捷値:11
魔力値:1
幸運値:11
習得魔法:なし
習得技能:異世界の勇者の成長促進技能レベル1
称号:『異世界の勇者を指導する者』
――コンビニの商品レベルが14になりました
――コンビニの耐久レベルが14になりました
『商品』
カルビ肉
牛ヒレ肉
ステーキ肉
鳥もも肉
豚肉
焼肉のタレ 醤油 バター
塩 こしょう 砂糖
が、追加されました。
『雑貨』
枕 羽毛布団 シーツ 包丁 バニーガール服
が、追加されました。
『耐久設備』
コンビニの自動修復機能
コンビニの地下用エレベーター
コンビニの地下階層の追加(地下5階まで)
コンビニの地下駐車場の追加
戦車2台 装甲車2台
が、追加されました
えーっと………。
いつものごとく、一瞬頭の中が整理出来ずに固まってしまう俺。
とりあえず、今回俺が言いたい事は……。
「コンビニの地下階層って何だ? コンビニに地下シェルター以外の、何か地下室が出来たって事なのかな……?」