第五十六話 新コンビニの勇者と愉快な仲間達
「いや〜、シャワーって本当に気持ちいいよなぁ〜! 彼方、地下室のシャワールームは本当に快適なんだけどさぁ〜。ドライヤーが置いてなかったのが欠点だぜ? 後でそれも追加で用意してくれないかな、頼むよ〜!」
野球部の桂木がタオルで頭を拭きながら、腰に手を当てて。コーヒー牛乳をガブ飲みしながら、俺に注文をしてくる。
お前なぁ……。
銭湯にいる風呂上がりのおっさんじゃないんだし。
いくらなんでもそれは、俺のコンビニの中でくつろぎ過ぎじゃないのか?
「そうよ、彼方くんー! 店に置いてある衣類も、コートだとかワンピースくらいしかオシャレなものがないし。もっと女性向けの衣類も増やしておきなさいよねー! まさか原宿や表参道のオシャレ洋服店を全て制覇している私達に、その白ワイシャツを毎日着ろって言うんじゃないでしょうねー?」
「本当にそれよね〜! 食事はまあまあ、いっぱい種類が増えたみたいだから許してあげるけど。このコンビニにまだ足りていないのは、そう、ずばり美容院じゃん〜! もっと美容の為の道具も揃えて欲しいわ〜」
「まったく……異世界だからって、私達のサラサラの髪には定期的なトリートメントが必要なのよ、分かる? 後、美容院の店員は全員イケメン限定ね。変な男に私の髪を触らせるなんて絶対にNGなんだからね!」
「お、お前らなぁ……」
アホさのレベルが格段に上がったんじゃないかと思えるくらいに、更にわがままになった3人娘達。
本当にコイツらには、遠慮ってものがまるでないな。
3人娘こと――小笠原、野々原、藤枝の3人は、コンビニの店内の床に勝手にカセットコンロを用意して。
今はそこに、なんと松茸を20本も並べて豪快に焼いている。
いや、いくら香りの良い松茸でも、そんなに薪みたいに束にして焼いたら、店の中がキノコ臭くなるだろう。
確かにこの異世界にやってきた最初の頃は、みんな俺のコンビニの中で好き勝手には過ごしていたけれど。
みんなの様子は、その頃と何も変わっていないようだ。今も俺のコンビニの中で、それぞれが勝手にテントを立てたりして自由気ままにくつろいで過ごしている。
まあ、この狭いコンビニの中じゃ、個人のスペースは限られているからな。しかも急に8人も仲間が増えた訳だし。
ホテルみたいに、それぞれに専用のマイルームを提供出来る訳でもないから……。みんながプライベートな空間を確保するために、店内のあちこちに自分用のテントを立てるのは、しょうがないのかもしれないけどさ。
「……でも、そう考えると俺のコンビニって、みんなで一緒に住むのにはやっぱり少し狭いのかもしれないな。いっそのこと、2階建とか3階建にコンビニが進化をしてくれたらいいのに」
「でも、彼方くん〜。それは流石に無理なんじゃないの? コンビニは元々宿泊用のホテルじゃないんだからさ〜!」
玉木がみんなの様子を見ながら、冷静に俺に指摘をしてくる。
まあ、それは確かにそうだな……。
俺は別に『ホテル』の勇者なんかではない。
コンビニには元々、宿泊用の機能なんて付いてないのが当たり前だ。
意外とこういう状況になってみると、何でも揃っていると思っていた俺の万能コンビニも。結構、足りないと思える物がいっぱいあった事に改めて気付かされた。
まずは、ベッドだとかシーツとか宿泊用の物資が圧倒的に足りてない。
元々、コンビニの事務所には簡易用のベッドがあって。それの替え用の毛布だとか枕とか、簡単な布団なんかは備品としてパソコンで発注が出来たんだけどな。
やっぱりベッドとか、快適な寝具類をパソコンで注文をする事は出来ない。そもそもそんなのはまだ扱ってないしな。
だからみんなは今、コンビニのフロアにそれぞれがテントを立てて。中に布団、毛布、枕の3点セットを用意して。プライベートなゾーンをそれぞれに確保している感じになっている。
でも、生活に必要な歯ブラシとかもちゃんとあるし。
美味しい食べ物や、デザートにお菓子もいっぱいあるから、みんなはあんまり文句は言わないけどな。
まあ、今の俺のコンビニの店内って、見た目だけなら難民キャンプというか……。地震とか災害の影響で一時的に避難をする為に集まる、学校の体育館とか避難所みたいな感じになってきたよな。
みんな、やれ『個別に洗面所が欲しいよ〜』とか。
『1人ずつテレビをつけてくれよー』だとか、無理難題ばっかり俺に要求してくる。
だから俺は『コンビニ』の勇者であって、『ホテル』の勇者じゃないんだって!
きっと、今までみんなは異世界の街で欲求不満な生活を長く半年以上も過ごしてきたから……。
『俺』という、現代文明のアイテムを大量に運んできてくれる存在にまた再会が出来て。みんな俺の事を、便利な未来のネコ型ロボットか何かだと思ってるんじゃないかな?
コンビニという存在自体が、元々街の便利屋さんみたいな物なんだから、まあ……あながちそれは間違いではないんだけどな。俺に希望を叶えて欲しければ、どら焼きを最低一人50個は用意して欲しいもんだぜ。
「ねえねぇ〜、彼方くぅ〜ん。私、せっかく美味しそうな食材があるから料理を作ってみんなに出したいんだけどぉ。『塩』とか『砂糖』とか、調味料ってここに置いてないのかなぁ?」
そう俺に話しかけてきたのは『料理人』の能力を持つ、琴美さくらである。
控えめで声の小さいさくらの言葉は、俺も耳をすましてよーく聞き取らないと、何と言っているのか聞き取れない時がある。
「あ〜〜そうか! 調味料か。たしかに、それもまだうちにのコンビニには置いてないよなぁ。オリーブオイルとか、サラダ用のドレッシングとかはあったりするんだけどな」
「うん、そっかぁ。分かったぁ〜。大丈夫だよぉ、彼方くん。カップ麺に入ってる調味粉末とか、缶詰の具材の汁とか、他の物でなんとか味付けは工夫してみるからぁ」
ほんわか笑顔でさくらは、カセットコンロに火をつけ始める。
うーむ……。そういえばうちのコンビニは基本、調理済みの食べ物が多いからな。だいたいレンジでチン! みたいな調理済みの食べ物がほとんどで、何かを料理する……って機会はあまり無かったかもしれない。
玉ねぎやトマト、ニンジン、レタスとか、野菜類も結構扱ってはいるんだけどな。そういえば料理に使う包丁だって置いてないぞ。
何か、無敵に思えていた俺のコンビニの品揃えも――。
こうしてみんなで集団生活をしていると、足りないものばっかり浮かんでくるのは不思議だな。
元々コンビニ自体が、そういう品揃えですと言ったら、それまでなんだけどさ……。
「そうだよなあ、快適な『家具』とかもコンビニで扱いたいし、『料理人』の琴美がいるのなら、調理器具なんかも必要なのかもしれないなぁ」
いっそのこと『おぉ!? 値段以上〜の、◯トリ〜』とか「◯ンキホーテ』みたいな店と、うちのコンビニはコラボをしてくれないものだろうか。今なら貴重な異世界グッズも付いてきたりするのにな。
「彼方様、ご依頼されていた異世界の勇者様の『能力一覧名簿』が完成しました!」
ティーナが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「おおっ、ティーナ! ありがとう、マジで助かるよ!」
俺は、ティーナがボールペンで書いてきてくれたノートを受け取った。
これから俺達と一緒に過ごす事になる、クラスメイト達の能力は、ちゃんと把握をしておかないといけないからな。
当たり前だけどタダ飯を食わせて養うつもりはこちらには全くないぞ。
コンビニで過ごす『従業員』のみんなには、原則、働いて貰うのがうちのルールだ。玉木がこのコンビニにやって来た時だって、壁外区でハードな仕事をちゃんとこなして貰ったんだからな。
「うーむ、どれどれ……」
「何々〜! 私にも見せてよ〜!」
俺が見ているノートを玉木も一緒に覗き込む。
ノートに書かれている勇者達は、みんなグランデイル王国で戦力外通告をされた3軍のメンバーだ。
だから戦闘には役に立たないだろう事は知っているけれど……。
ノートには、それぞれが持つ個性的な特殊な能力が全て書かれていた。
小笠原麻衣子――レベル1
『ぬいぐるみ』の勇者。
お気に入りのぬいぐるみを最大1個。手元に呼び寄せる事が可能。その種類や大きさには制限は無い。
野々原有紀――レベル1
『アイドル』の勇者。
自分の好きな異世界のアイドルと、同じ歌声で歌う事が出来る。
男性アイドルの歌声であってもそっくりに再現可能。
藤枝みゆき――レベル1
『舞踏者』の勇者。
高難易度の踊りを、一目見ただけで完全に模倣出来てしまう能力。ジャンルを問わないあらゆる踊りに対応可能。
桂木真二――レベル2
『裁縫師』の勇者。
裁縫に天才的な才能を発揮する能力。
レベル2に上がって『高速裁縫』の能力を手に入れている。素手でミシンと同じように高速で直線縫いが出来る事で裁縫のスピードアップが可能。
琴美さくら――レベル2
『料理人』の勇者。
料理に天才的な才能を発揮する能力。
あらゆる料理のレシピを完全暗記している。『料理人』が作る料理は決して失敗をしない。どんなに火力が強くても、焦げない。味付けが足りなくても、料理の味は薄くはならない。全て完璧な状態で料理は完成する。
藤堂はじめ――レベル1
『撮影者』の勇者。
目の前にある景色を、1枚の写真にしてその場で口からプリントアウトが可能。1日にプリントアウト出来る枚数は3枚まで。
夜であっても両目を自動で光らせてフラッシュ撮影が可能。
北川修司――レベル1
『薬剤師』の勇者。
道に生えている野草など、薬草を調合して万能薬を作りあげる事が可能。ただし、作り出した薬は本人のみに有効。今の所、作りあげられる万能薬は、転んで怪我した小さな傷を少しだけ癒せる絆創膏程度の能力しかない。
秋山早苗――レベル1
『クレーンゲーム』の勇者。
ゲームセンターにあるようなクレーンゲームを小型化したものを、目の前に出す事が可能。それを使ってずっと遊んでいられる。
――以上。
「うーん。俺が改めて言うのも何だけどさあ……。このラインナップを見ていると。俺の『コンビニ』って、まだ3軍の勇者の中ではまともな部類だったんじゃないの? って思えてしまうな」
俺はティーナが綺麗にまとめてくれたノートを見ながら、溜息を吐く。
「彼方くんのコンビニは、その後の成長が凄かったからね〜! 最初はおにぎり2個と、ペットボトルしか置いてなかったし。みんなと変わらなかったと思うよ〜」
玉木がみんなをフォローするように発言するが、まあそれも無理があるよな。
特に俺達2人がジ〜〜っと見つめてしまうのが、『クレーンゲーム』の勇者である秋山早苗だな。
彼女は今、コンビニの隅っこでテントを立てて中に引きこもっている。
時々、レンジで焼肉弁当を温めて食べたりする以外は、基本自分のテントの中からはほとんど出てこない。
秋山は元々引きこもりがちな奴だったし。この異世界に来てからも、ほとんど宿屋の外に一歩も出ない感じで過ごしていたらしい。
俺のコンビニにはたまーに遊びに来てくれたけど、おにぎりだけ受け取って、すぐに宿屋に帰ってしまってたしな……。
この8ヶ月間。ずっとグランデイルの街の中でも引きこもり状態だったのなら、彼女のレベルをこれから上げるのは、まあ難しそうだよなぁ……。
ってか、クレーンゲームを目の前に出して遊ぶだけって……。ある意味、凄い能力の勇者様だよな。
「まあ、どちらにしても……。みんなの要望に応える為にも、俺はまた、コンビニのレベルアップをしないといけないよな!」
「ええっ〜!? 彼方くん、まだレベルアップをするつもりなの〜? 今でも彼方くんのコンビニはほとんど最強みたいになっているのに〜?」
「ああ、何となくだけどさ……。俺のコンビニっていつも、俺がその時に『欲しい』と願ったアイテムが、新しく追加をされてきたような気がするんだよ。だから、今度は調味料とか家具が増えたらいいな! って願いながら、敵と戦ってみようと思うんだ」
「うーん……そんなに上手くいくものかなぁ〜?」
玉木は首をひねるが、俺はコンビニのレベルをあげたいという向上心は、人一倍強いつもりだ。
しかも、今後は一体何が起きるか分からない状態だからな。
街にいた3軍の勇者達を無断で連れ去ってしまった訳だし。グランデイル王国が黙っているとも思えない。おまけに魔王軍だって攻めてくる可能性も十分にある。俺はあの赤魔龍公爵を倒してしまったんだしな。
みんなを巻き込んでしまっている以上、ここにいるクラスメイト達の安全だけは、ちゃんと確保をしたいと俺は思っている。
それに、赤魔龍公爵と話した内容もまだ……俺はみんなには伝えていない。
今後、俺達異世界の勇者がどう過ごしていくのかも含めて……。
改めて、みんなとちゃんと話し合う必要があるだろう。
とりあえず今はまずグランデイル王国からも近い、カディナの街にコンビニ戦車は向かっている所だ。
あそこには一度は立ち寄りたいと思っていたし、壁外区のみんなに俺が元気でいる事も知らせたかったからな。
「彼方様っ! 大変ですーー!!」
ティーナが突然大声で叫ぶ。
「……どうしたんだ? ティーナ!?」
俺は慌てて、ティーナが運転をしてくれている事務所のパソコンの前に駆け寄った。
ティーナがパソコンのモニターに映る映像を、指差しながら、俺にコンビニに迫る危機を教えてくれる。
パソコンのモニターには――。
コンビニの周囲を索敵しているドローンが、空からこちらに向かって飛んで来ている……。
数百匹を超える、『空飛ぶ人型の魔物』の姿を映し出していた。




