第五話 倉持からの提案
へっ……何ですと?
今、YOUはMEに何とおっしゃいましたか?
ちょっと俺の耳が悪くなったのかもしれん。
さっきの洪水で、耳の中に水もいっぱい入ってきたし。よく分からなかったので、ここはもう一度聞き返してみることにしよう。
「……スマン。お前が今、何て言ったのか俺にはよく分からなかったんだが。もう一度、言ってくれないか?」
「うん。君に『さっさとこの街から出て行って欲しい』――って言ったのだけど。元の世界の言語は、もう忘れちゃったのかな? もしそうなら、こっちの世界の言語で言い直してあげてもいいよ」
おいおいおい!
さらりと一体何を言ってるんだよ、コイツは?
倉持の発言の内容も、その真意も。
全く意味が分からずに、俺は困惑する。心底訳が分からないという表情で倉持を見つめ続けた。
すると、ニコニコ笑顔を崩さない倉持は――、
「『彼方くんには、明日の朝までにこの街から出て行って欲しいんだ。どうかお願いします』……うん。これできっと伝わったよね?」
本当にこっちの世界の言語で、丁寧に言い直しやがった。マジで天然なのかと思えるくらいのドヤ顔でだ。
ん~ん〜。これはアレか?
夏休みが終わったのに、まだ夏気分が抜けてない中学生か何かなのか? 中ニ病をこじらせるには、もう遅い方だとは思うんだが……。
倉持の爽やかイケメンスマイルが、今は本当に理解不能過ぎて気持ち悪い。
「……一応、理由は教えてくれるんだろうな?」
俺の問いかけに、倉持は眉一つ動かさずに平然と答えた。
「理由? それは単純さ。君の存在が、僕達クラスのみんなにとって邪魔なんだよ。君がいるとクラスのみんなが『現実』を受け入れられない。僕達が今……この異世界にいて、魔王を倒さないといけないんだという、大切な使命をね」
「………………」
「元の世界に戻る為には、僕達は魔王と戦わなくてはいけないよね? その為には、これからも多くの課題をこなしていく必要があるんだ。――でも君の『コンビニ』があると、みんなはその現実から逃避してコンビニに逃げ込んでしまうんだよ。元の世界の匂いがする懐かしい場所に逃げて、現実から目を背けてしまう」
それは、まぁ……。
確かに俺も、そう思ってたけどさ。
正直な所、俺も最近コイツと同じ事を危惧していたからな。
現実逃避をしてコンビニの中に引き篭っていても、俺達は元の世界には帰ることが出来ない。
そう、俺達は今。みんなで協力をして魔王を倒さないといけないんだ。
それなのに、俺達のような戦力外の3軍メンバーだけならまだともかく。魔物と戦える能力を持つ選抜組の一部までもが、最近は俺のコンビニに逃げこんできているという現実。
多分、その事が倉持には見過ごせなかったのだろう。
俺は、過酷な訓練に耐えている選抜メンバーの連中に『逃げるなよ、戦え!』なんて……とても言える資格はないからな。
だって毎日、コンビニの中で寝ているだけだし。
「――だとしてもだ。いきなり俺に街から出て行けってのは、少々強引過ぎじゃないのか? 俺がコンビニの能力を使わないで大人しくしていれば、それで済むことなんじゃないのかよ?」
「うーん。それは多分、無理だろうね」
倉持が柔らかい口調で断言した。
「一度、君のコンビニの快適さを知ってしまったみんなは、必ずまた君に懇願すると思うよ。もう一度コンビニを出して欲しい。彼方くん、お願い〜! ……ってね」
「……………」
「彼方くんは昔から優しいから、きっとみんなのお願いを断れないよね? 仕方ないなぁ~って、また快適なクーラーの効いたコンビニを出してあげるんでしょう? 今回きりだぞって言って、結局何度もトイレットペーパーを貸してあげたりもするよね?」
倉持が俺の性根を知り尽くしているかのように、ニヤリと口角を吊り上げる。なんか、ムカつくな。その顔。
せっかくのイケメンなんだし、金森みたいな陰キャ顔は似合わないからやめとけよ。
「トイレを貸して。おにぎりが食べたい。快適なクーラーを味わいたい。みんなは、元の世界の匂いを思い出させてくれる君のコンビニが忘れられないんだよ。それも街にいる無能な3軍メンバー達だけならともかく。僕達選抜メンバーの中からも、君のコンビニに逃避する者が出てきてしまう事は見過ごす事は出来ないな。君のコンビニの能力はただ『無能』で役立たずなだけでなく。僕達にとって今は害悪な存在になっているんだよ」
……コイツ。
ずけずけと、酷いことばかり言いやがって。
俺の繊細な心だって少しは傷つくんだぞ。今、底の方に1ミリくらいは小さな穴が開いたかもしれない。
まあ、でも不思議と声を荒げて倉持に反論する気も起きなかった。
それどころか、コイツは今の状況がよく分かっているじゃないか――と、ちょっとだけ感心してしまったくらいだ。
俺は改めて倉持が勉強の出来る、ただのイケメン男だけではないことを悟った。
本当の所、俺自身がその事を感じ始めていて。危機感を抱いていたからな。
街に放り出された3軍のみんなは今……完全なホームシック状態に陥っている。そして、その原因は元の世界に帰れないのではないかという極度の不安だ。
その不安を忘れる為に、みんなは俺のコンビニに集まってくる。
コンビニの中にいる時だけは、『異世界にいる』――という現実を忘れる事が出来るからな。
だが、それでは根本的な解決にはならない。
みんなの不安を解決する為の方法は1つしかない。
それは、俺達がこの世界の住人に期待されている役割を果たす事。この世界に害をもたらす『魔王』を倒すということだ。
これに関しては申し訳ないが、選抜組の奴等に頑張ってもらうしかない状況だ。
魔王を倒すには、一体どれくらいの時間がかかるのか想像も出来ないけどな。俺達はラノベの主人公じゃないし、物語に出てくるようなヒーローでもない。
魔物が流した血を見ただけでも失神する奴もいるし。トイレが水洗じゃないというだけで、ワーワー喚く奴だっている。多分、俺もそうだけどな。
そんな俺達が、いつまで経ってもなかなか魔王を倒せなかった場合――。
残されたみんなは各々の能力を活かして。しばらくの間はこの世界の住人として、それぞれに工夫をして生きていかないといけないだろう。
それが1年になるのか、2年になるのか……。
それとも3年以上になるのか、10年以上になるのかは全く見当もつかない。
異世界系のラノベの主人公達って、大体、平均で何年くらい異世界で過ごしてから魔王を倒すものなんだろうな?
平均すると……2年か? それとも3年くらいか?
大体俺が読んできた異世界系小説だと、最低でも2~3年くらいはかかって魔王を退治しているイメージがあるな。
つまり街に滞在する3軍メンバーであっても、この先最低何年かは、この異世界で生きていく覚悟が求められる訳だ。
そんな中にあって俺の能力、『コンビニ』は……。
覚悟を決めないといけないみんなの決断を、先延ばしにしてしまっている可能性がある。
街にいる役立たずの3軍メンバー達の心の支えになっているだけなら、そこまで問題はないかもしれない。
でも、魔王と戦おうとする選抜組の中からも、俺のコンビニに逃げ込む奴等が出始めていると言うのなら話は別だ。
魔王を倒すという目標の為に、俺達はもう覚悟を決めないといけない。そんな、みんなの自立心を――俺のコンビニという存在が妨げている。
そういった事も踏まえた上で、倉持は俺にこの街から出て行けと言っているのだろう。俺のコンビニに依存する奴が、これ以上クラスの中で増えないように、と。
なんかそう考えると、俺の存在って人体に害のある怪しげなクスリみたいだよな。
俺自身は全然そんな気はないのに、違法な麻薬扱いされるのはなんだか不本意極まりないぞ。
それに、それを告げに来た倉持達の態度が明らかに上から目線だし。3軍の勇者である俺を、あからさまに見下しているのも気に入らないな。
俺に何か個人的な恨みでもあるのかよ……。全く。
「お前の言いたい事は大体分かった。だが、少し考えさせてくれないか? 明日の朝までにこの街から出て行けってのは、流石に時間が無さ過ぎる。それじゃ夜逃げ同然で、今夜中にこの街から出ていけって言ってるようなものじゃないかよ」
第一、俺はこの世界の事を何も知らないんだぜ?
王宮でこの世界の事を勉強しているお前等と、無学の俺とでは差があり過ぎる。いきなり街の外に放り出されて、1人で生きていけって言われても、それは無理ゲー過ぎるだろうって話だ。
俺の悲痛な懇願に、倉持はクスクスと笑い顔を浮かべる。
「フフフ……。ゴメンね。でも、期限は延ばせないな。どうせ長く考えた所で僕の結論は変わらないのだしね。もし今後の生活に不安があるのなら、彼方くんが王宮に来て『どうか、非力で無能なコンビニの勇者の私を助けて下さい……』って土下座をして。僕達全員に頭を下げてくれるのなら旅支度の資金を用意してあげてもいいよ。今夜中に君はそのわずかなお金を使って、街で貧相な護衛を1人くらい雇えばいいじゃないか。王都の外に広がる森にはたくさんの魔物が生息をしているみたいだし、多分……君の能力の『コンビニ』じゃ、その森を無事に通り抜けることは出来ないものね?」
「――あっはっは〜!! 委員長、それ面白過ぎ〜! 超受けますよ〜!!」
隣の金森が笑いを堪えきれないという風に、腹を抱えて笑っていやがる。
……安心しろよ。そんなゴミを見るような目で俺を見たって、俺の中のお前の評価もゴミであることは、変わりようがないからな。
つーか。コイツもある意味哀れな奴だよな……と、俺には思えてしまう。
もし、俺の能力が『コンビニ』じゃなくて。
それこそ選抜組に選ばれるような、優れたチート能力が授けられていたとしたら。
俺もこんな風にクラスメイトをゴミ扱いして、上から見下ろすようなクズになっていたのだろうか?
まあ、流石にそうではないと信じたい所だけどな。
その意味じゃ俺はコンビニで良かったって、改めて思う。
金森を反面教師にして、今は第3者視点で自分を見つめることが出来るからな。だからこの水道ホース野郎にも、一応は感謝しておく事にする。
ニヤケ顔の金森や倉持を見上げながら、俺は考える。
正直、ちょっとしたイジメの様な雰囲気にもなってきたけれど……。ここは今後の俺の進退を、真剣に考えなくちゃいけない場面だ。
改めて明日の朝までにここを出て行けって言う倉持の話は、けっこうキツい提案だと思う。
長く考えたって俺の存在が邪魔だっていう倉持の結論は変わらないんだろうし。コイツ等からしたら、すぐにでも俺に街から出て行けってことなんだろうけどさ。
何ていうかほら……。
俺に対しての扱いが冷た過ぎはしないか?
一応は俺だって、同じクラスメイトなんだぜ?
しかもコンビニを出すしか能のない、本当に役立たずのただの一般人でしかないんだぞ。むしろ国を挙げて手厚く保護して欲しいくらいの無能っぷりなのに。
街の外でもし、魔物と遭遇したりでもしたら。
俺……すぐに殺されちゃうかもしれないぞ?
そこの所、倉持は本当に分かっているんだろうか……。
同じクラスメイトなのに、俺は別に死んでもいいとか。どういう判断基準なんだよ。仮にもクラスを代表する委員長なんだろうが、お前はよ。
「なあ……。もし、俺が明日までにこの街を出て行かなかったら、その時はどうするつもりなんだ?」
俺が倉持の提案の本気度を量る為に。それとなく、低姿勢さをアピールして聞いてみた。
「大丈夫だよ。必ず明日の朝までには君にはここから出て行ってもらうから。それはもう僕にとっての『決定事項』なんだ。決められた方針が変わることは絶対にないから、彼方くんは安心してくれていいよ」
爽やか笑顔のまま言い切りやがったぞ、コイツ……!
チッ、何が『安心してくれていいよ』だよ。
頭が良いくせに、日本語の使い方間違ってんだろうが、コラ! こっちは全然安心なんて出来るわけないだろ。むしろ死の危険に晒されているわ、ボケ!
確かに俺はクラスの中でも、そんなに倉持と親しかった訳じゃない。お互いの連絡先も今は知らないし。別にSNSで毎日やり取りをするような仲でもなかったからな。
でも普通に毎日クラスで会ったら『おはよう!』って挨拶くらいはしていたつもりだぜ?
コイツが俺に対して発する言葉には、どうにも情が感じられない。なんていうか、お前の存在が目障りで仕方がない……って、爽やか笑顔の奥で訴えてきているようにも感じられてしまう。
もしかして倉持にとっては……目的の為ならクラスの仲間が1人くらいどうにかなろうと、知ったことじゃないという思考なのだろうか。
それとも、最初からみんなで仲良く元の世界に帰るつもりがなかったのか?
爽やかイケメン顔の奥に潜んだ、サイコパスっぽい一面に俺はちょっとだけ不安をおぼえる。
「……ああ、もう分かったよ! とにかく俺がこの街を出て行けばいいんだろ? それで全て解決なんだろう? 少しだけ考えるから、もう今夜は帰ってくれよ。俺だって心の準備をする時間が欲しい。高圧的なお前らに囲まれたこんな状況じゃ、落ち着いて鮭おにぎりだって食べられないだろうが! だから、今すぐここから出て行ってくれよ!」
俺の言葉に倉持がニヤリと笑う。
それは頬に深いえくぼが出来るくらいの、満面の笑みに見えた。
「うん。彼方くんが聞き分けのある人で僕は凄く助かったよ。……大丈夫! 魔王はきっと僕達選抜勇者がちゃんと倒してあげるからね! それはもう『確定された未来』だから、落ちこぼれの君も安心してくれていいよ」
――はぁ?
確定された未来? なんだそれ?
まーた、よく分からない言葉が出てきたな。
俺の訝しげな視線に気付いたのか、倉持は笑顔のまま独白を続けた。
「僕はね、『その先の未来』ってものを、もう見据えているんだよ。この世界の魔王を倒して、元の世界に帰った後の――僕の手による『現代世界の救済』をね」
「は?? ……すまん。お前が何を言っているのか、俺にはちーっとも分からないんだが」
え~と、なんだなんだ?
会話のどこで電波放送に切り替わった?
俺がひたすら困惑の顔を浮かべていると、嬉しそうに倉持が崇高な大演説を始めた。
「これは世界が『僕』という人間に与えてくれた、崇高な使命なんだよ。人口が多くなり過ぎて、思想の統制もとれない窒息したこの現代社会。宗教とか。政治とか。人種の問題だとか。……もう滅茶苦茶なことになっているよね? それを変えるには、神の力を持った、選ばれし人間の力が必要になると思わないかい? この異世界に来たことで僕はその変革の力を手に入れることが出来た。まるでキリストの再来じゃないか! 死んでもまた蘇ることの出来る能力なんて。まさにうってつけだよね。後はこの奇跡のチート能力を手にしたまま、僕が元の世界に帰れればいいんだ。それで全部が解決出来る! 人々は魔法を使いこなし、絶対に死ぬことのない僕の存在を恐れ、敬い、崇め、ひれ伏すことになるだろうね。――どうだい? いたって簡単な話だろう? きっと君にも僕の思い描く、崇高な理想郷の未来図が分かってもらえたよね?」
「………………」
ええっと……。
俺の目の前にいらっしゃる変人は、一体誰だっけ?
おい、誰だよ? うちの爽やかイケメン委員長をどこかに監禁したのはさ? いつの間にかに中身が全然別の誰かに入れ替わちゃってるじゃないか!
たしかにちょっとウザい奴ではあったけど、俺は割りとまあまあ気に入っていたイケメンキャラだったのに。
これじゃあアニメや漫画に出てくる、ただの3流のメンヘラ痛キャラじゃないか。
……でも大抵こういうキャラって、イケメン男性声優さんが抜擢されたりして。そのアニメの女性ファン獲得に貢献したりもするよね。
それこそ舌を巻くような独特な喋り方で、みんながビックリするようなナイスな演技をしてくれたりするんだよなぁ――。
……って、俺自身が現実逃避しちゃ駄目じゃないか。
よし、落ち着け。目の前にいるのはきっと倉持だ。頭を打って、2~3回は記憶喪失になってたりするかもしれないけど。大丈夫。推定倉持で間違いない。
「え~と、その……。お前、頭の方は大丈夫なのか? 別に訓練で頭を強打したとかじゃないんだよな? 真面目なお前のジョークって、俺初めて聞いたけど、正直あんまり面白くないぞ」
俺は心底、真性のアホを見るような目線で倉持の野郎を見つめてやった。
それでも倉持のアホは、変わらずに爽やか笑顔を浮かべ続けている。
そんな俺の訝しげな視線を、壮大な計画を知って驚愕している一般市民代表みたいに、きっと感じちゃったんだろうな。
倉持と金森がお互いを見つめ合いながら、不敵に笑い合った。
「フフフ。ごめんね。ちょっと難しい話をし過ぎちゃったみたいだね。君は普段から時々、僕と同じように鋭い目つきをしている事があったから、ついつい気を許しちゃったんだ。謝るよ。こんなミス、僕の完璧な人生の中では、今まで一度もなかった事なんだけどね……フフ」
クスクスと、目の前のイケメン様が笑っていらっしゃる。
あ、マズイ……。
コレ、本当にヤバい奴だった。
もしかして、コイツ。
俺の予想の斜め上をいく、超面白サイコパス野郎だったのか? こんなんなら、ネタキャラとしてもっとコイツと深く関わっておけば良かった。
そうしたら俺の退屈だった学校生活が、もっと楽しくなっていただろうに。
しかも俺の事を、実は以前からライバル視していましたみたいな、謎のスポーツ漫画風視点とか全然いらなかったのにな……。
ここまでくるともう、ネタを通り越してちょっと気持ち悪くなってくるし。
天が三物を与えてしまったイケメンさんが、実は危ない選民思想野郎だったってのは、ざまあみろでまあ……俺にとっては超スッキリだけどさ。
なんだかもう、これ以上コイツ等と関わっているのが面倒くさい気分になってきた。
……っていうか、とにかく早く帰って欲しい。
俺は早く水浸しになったコンビニの掃除をしないといけないからな。
そんな俺のドン引きな表情を察してくれたのか、それとも単にマイペースなだけなのか。倉持が笑顔を崩さないままで、俺に別れの言葉を告げてきた。
「それじゃあ、僕はもう帰ることにするね。この世界のどこかで、僕達が魔王を倒すことを祈っていて欲しいな。そうすれば、君も元の世界に戻れるチャンスがあるかもしれないし。――あっ……そうだ! 最後にここのおにぎりを記念に1つ頂いてもいいかな? コンビニのおにぎりなんて何だか本当に懐かしいよ。余談だけど、僕はコンビニのメニューの中では、鮭おにぎりが1番好きなんだよ!」
俺が無言で頷いたのを見て、倉持は笑いながら奥の倉庫に立ち寄り。鮭おにぎりと昆布おにぎりそれぞれ3つずつ手に抱えて帰っていった。
『6つも食べるのかよ!』って、温かいツッコミを入れてやる気持ちも起きなかったな。
何だかもう……。精神的に、もの凄く疲れた。
コンビニのガラス戸の外で、倉持と金森がにこやかに笑顔で帰っていく光景が見えた。
俺はどこかに塩がないかな……と、本気で探したくらいだ。
お祓い用の塩を、大量に入り口前に撒いておきたい気分だったしな。
もし可能なら、俺は今後……あの妖怪2人組にはもう2度と関わりたくはない。なんだか胸がモヤモヤ~っとする、嫌な感じだけが残っちゃったな。
その後も俺はコンビニの中で、ただ一人。じっと座りこんでいる事しか出来なかった。
「………ふぅ」
まあ、もう気にしない事にしよう。
俺は早く、水浸しになったコンビニの掃除をしないといけないからな。
さらば、我がクラスのイケメン委員長よ。
君の事は、これから『面白妖怪サイコパスくん』と呼ばせてもらう事にするよ。この世界でせいぜい達者で生きてくれ。俺はもう、2度と会いたくないけどな……。