第四百七十一話 巨大コンビニ要塞を操る守護者の正体
「コンビニの大魔王の心の中に潜んでいた人物が外に抜け出て、本物レイチェルの体を乗っ取った……!? それは一体、どういう意味なんですか?」
レイチェルさんからあまりにも衝撃的な発言を聞かされ、俺は思わずその場で混乱してしまう。
ただでさえ、俺がこうしてノートパソコンでオンライン会議をしている相手も『レイチェルさん』だというのに。
巨大コンビニ要塞を操る敵陣営のレイチェルは、実は2人いて。今のレイチェルは、当時いた本物のレイチェルの体を乗っ取った存在になるだって? それではもう、本当に何がなんだか分からなくなってしまいそうだ。
「混乱させてしまい申し訳ございません、総支配人様。では、私の考えている推測を順序立てて、整理しながらご説明させて頂きますね」
混乱している俺の様子を見て、レイチェルさんは画面越しに頭を下げて謝ってきた。
そしてゆっくりと丁寧に、敵陣営の親玉である『レイチェル』の正体についてを説明してくれた。
レイチェルさんの解説によると――5000年前にこの世界に召喚されたコンビニの勇者の秋ノ瀬彼方の心の中にも、能力者の真の願望を叶える隠れた人格の存在が潜んでいたらしい。
つまり今の俺が潜在的に持っているという『未来予知』の能力が、人間として具現化された存在なのが『朝霧冷夏』であるように。
この世界の過去に召喚された秋ノ瀬彼方の心の中にも、真の能力を具現化させた存在である、別人格の『レイチェル』が存在していたとの事だ。
「で、でも……レイチェルさん! その当時にも、コンビニの勇者の秋ノ瀬彼方には、コンビニの守護者である本物のレイチェルさんが存在していたんですよね? それなのにどうして彼は、自分の心の中にもう一人の『レイチェル』という人格を宿してしまったんですか?」
俺からの問いかけに、レイチェルさんは神妙そうな表情を浮かべて口を開く。
「総支配人様……おそらく当時のコンビニの勇者である彼方様は、自分の能力であるコンビニが『完全である』事を心の底から願っていたのでしょう。つまり過去に召喚された、もう一人のコンビニの勇者の真なる願望は、『完全なるコンビニ』だったのだと推測されます。それを象徴する存在として、頭の中に本物とは別の人格を持った『レイチェル』が生まれてしまったのです」
「そんな……。では、コンビニの勇者の中に存在した、『完全なるコンビニ』の能力を具現化した存在である別のレイチェルが、当時存在していた本物のレイチェルの体を乗っ取ったという事なんですか?」
「そうなりますね。今、総支配人様の心の中に存在している『朝霧冷夏』という存在が、幽霊のように外の世界に飛び出て。本物の朝霧様の体を乗っ取ったとイメージして頂けると分かりやすいと思います」
……なるほど。この場合は幸いな事にとは言い難いけど。俺のクラスメイトであった本物の朝霧は、既にこの世界で死亡していた訳だから。そのような事は起こり得なかったけれど。
当時、5000年前に存在したコンビニの勇者の心の中に潜んでいた『別人格のレイチェル』という存在が彼の心から外の世界に飛び出て……本物のレイチェルの体を奪い取ったという訳なのか。
「総支配人様のお話によると、過去に召喚されたコンビニの勇者の彼方様は、恋人である玉木様が公開処刑された光景を見せられて。その事に絶望して、その場にいた多くの人間達を虐殺し。最後には自らの命さえも捨てようとしていたと聞きます」
「ええ……確かその時に、そばにいた当時のレイチェルが、コンビニの勇者の頭に触れて。恋人である玉木の記憶を全て消し去り、コンビニの大魔王を誕生させたのは間違いないはずです」
「そうですか……。では、おそらく『その時』なのでしょうね。当時の彼方様の頭の中に潜んでいた、別の存在である『レイチェル』が、本物のレイチェルの体の中に入り込み、その体を奪い乗っ取ってしまったのは……」
ノートパソコンの画面に映っているレイチェルさんは、あくまでもこれは推測ですが……と、前置きをした上で。
俺に過去にこの世界で起きた出来事についての説明を、詳しく話してくれた。
「総支配人様、この世界の過去に召喚されたもう一人の彼方様は、おそらく心の中でこんな事を願っていたのでは……と、私は思います。自分の能力によって生み出された『コンビニ』がこの世界で最も最強であり、完全な存在であって欲しいと」
「コンビニが完全で最強だなんて、何だか中二病丸出しな発想な気がしますけど……。そんな事を過去のコンビニの勇者は、真剣に心の中で自分の願望として望んでいたというんですか?」
「ハイ。それは何も不自然な事ではありません。総支配人様と違って、当時のコンビニの勇者の秋ノ瀬彼方様は、世界中から期待されるエリート勇者という扱いを受けていたのです。自分の能力であるコンビニが最も万能で、世界中の多くの人に役立ってくれたら……と彼は心から望んでいた事でしょう」
――そうか。まず前提として今の俺と、この世界の過去に召喚されたコンビニの勇者の彼方は、周りからの扱いや、寄せられていた期待が全然違ったんだものな。
俺は召喚されて、いきなり『無能』扱いを受けて。3軍の勇者として王都に追いやられて、しかも一番最初にグランデイル王都から追放されてしまうような、散々な扱いを受けてしまった訳だけど……。
今から5000年前にこの世界に召喚されたコンビニの勇者は、魔王を退治してくれる異世界の勇者のリーダー格として扱われていたんだものな。
ある意味、俺達の中で1番の選抜エリートだった倉持と同じような扱いを受けていた事になる訳か。
そんなエリート勇者である当時の秋ノ瀬彼方は、自分に寄せられる人々の期待通りに順調に魔王退治の旅を進めていき。
次第にその心の中に、もう一人の別人格の『完全なるレイチェル』という存在を作り出す事になった。
きっと彼はコンビニが『完全である』事を真の願いとして祈った為に。元々いた本物のレイチェルとは別人である、コンビニの勇者の心の中だけに存在する『完全なるコンビニ』を具現化した存在としての、冷淡で残酷な性格をしたレイチェルが生み出されてしまったのだろう。
……もしかするとその別人格のレイチェルは、密かに守護者であるチョコミントの騎士のパティに干渉をして。いつかコンビニの勇者の秋ノ瀬彼方を、『魔王化』させる事を画策して裏で手を回していたのかもしれない。
だって、その別人のレイチェルは『完全なるコンビニ』という願いを具現化した存在なんだからな。
彼女にとっては、コンビニの勇者である秋ノ瀬彼方が魔王となり。永遠に死なない不老の寿命を手に入れた方が、都合が良いはずだ。
「そんな恐ろしい事が過去に起きていたなんて……。でも、レイチェルさん。どうしてそんな事が分かったんですか? 何か敵の正体を突き止める事の出来る『ヒント』でもあったんですか?」
真剣な眼差しで見つめる俺の顔を見て、レイチェルさんは灰色の制服を整えて。オホンと咳払いをしてから、俺に告げてきた。
「ええ。もちろんヒントはありましたよ。むしろ総支配人様は今まで何もその事に気付かなかったのですか?」
「えっ……? その、特には何も分からなかったですけど。俺は何かを見落としていたんでしょうか?」
なぜか画面越しのレイチェルさんの表情が、プンプンと怒っているように見えて。俺はまるでデートに遅刻してしまった事を詫びる彼氏のように、申し訳ない気持ちになってしまう。
そんな俺の様子を見て、『ハァ……』とレイチェルさんはため息をつくと。少しだけ俺の事を咎めるようにして、答えを話してくれた。
「全く本当にしょうがないですね、総支配人様は……。それは真っ先に気付いて欲しい所だったんですよ? いいですか、よく聞いて下さいね。コンビニの勇者の守護者であるレイチェルという存在が、あんなにも残酷な性格をしていて。無数の人々を平気で殺せるような、ヤバヤバな女性である訳が無いじゃないですか! 私という存在を近くで見ておきながら、総支配人様はその事に何も疑問を感じなかったのですか?」
「あー、それは確かに……。でも、レイチェルさんは結構、俺の中二病的な心を受け継いでしまっている所があるというか……。ほら、前にコンビニ共和国を立ち上げる時に『国のネーミングは、コンビニ帝国にしましょう!』って勧めてきたり。コンビニマンションが敵を一瞬で倒した時も『圧倒的じゃないですか、我が軍の戦力は! アッハッハ〜!』って笑ってたりもしたから。そういう一面もあるのかな……って思ってたというか」
控えめに詫びたつもりだったけど、レイチェルさんは俺の回答を聞いて。顔を真っ赤にして、怒ってしまったようだった。
「こらぁ〜! 総支配人様ぁ〜! 私も怒りますよ? もう、プンプン、プンプンですからね! いくら私でも、総支配人様の意向を無視して。無差別にこの世界の人々を殺害するような、残虐行動を取る訳が無いじゃないですか! 私達コンビニの守護者は、主人であるコンビニの勇者様の幸せを常に願って存在しているのですからね! それに私はあんな露出多めなド派手衣装なんて、絶対に着たりはしませんからね!」
「す、すいません……レイチェルさん! 確かにそうですね……。巨大コンビニ要塞を操る敵のレイチェルは、余りにも性格が違い過ぎると俺も思っていました。与えられた環境が違ったとはいえ、どうして同じレイチェルさんなのに、こんなにも性格が異なってしまったのだろうと俺も疑問には思っていたんですよ!」
「そうですよね、総支配人様! 全く、本当はその事をすぐに気付いて欲しかったんですからね! プンプン、プンプン!」
俺のレイチェルさんが、頬を膨らませて可愛い子供のように拗ねていた。
何だか凄く可愛いから、もうちょっとその顔を見ていたい気もしたけど。ここはマジで真剣に考えないといけない事だと思う。
確かに……敵のコンビニの大魔王に仕えるレイチェルは、本来のレイチェルではなく。
俺の心の中に存在しているという、朝霧冷夏のように。元々はコンビニの勇者の心の中にいた真なる能力『完全なるコンビニ』を具現化した存在なのだとしたら……納得のいく事が多い気がする。
過去のコンビニの勇者である秋ノ瀬彼方は、自分の能力であるコンビニが……より完全で最強である事を願望として願ったんだ。
そしてその願望によって、本物とは異なる性格をした『完全なるレイチェル』という人格が、彼の心の奥底に密かに形成されてしまった。
まぁ……元々レイチェルさんは、コンビニという存在を体現化した特殊な守護者でもあるからな。
当時のコンビニの勇者が、完全なコンビニを心の中で願ったのならば。それを象徴する人格として別人格の『レイチェル』が出現するのも当然な気がする。
「最強で完全なるコンビニという願いを体現化したレイチェルは、過去のコンビニの勇者の心の中に潜み。チャンスがあれば外の世界に出て、自分が実体化する事の出来る機会を伺っていたという訳なんですね……」
「ええ、おそらくはそうでしょう。きっとその別人のレイチェルは、当時のパティに働きかけて玉木様の偽物を彼女に演じさせ。コンビニの勇者を魔王にするチャンスが来るのを、ずっと待っていたのだと思います」
それが事実なのだとしたら……コンビニの大魔王があれだけ最強の力を持つ『巨大コンビニ要塞』を持っているのも納得がいく。
なにせアレはコンビニの勇者の真なる能力、『完全なるコンビニ』を具現化した、最強のコンビニの象徴そのものなんだからな。
「レイチェルさんは、その事実が分かるきっかけが何か他にあったりもしたんですか? その様子だと随分前から、敵の正体を突き止めていたように見えますけど……」
「そうですね。しいて言うなら敵のコンビニの大きさが余りにも『巨大過ぎる事』を、私はずっと不審に思っていました。考えてもみて下さい、総支配人様。総支配人様の今のレベルは37ですよね? ですがこのままのペースでレベルアップを遂げていったとしても、あそこまで巨大で禍々しいサイズのコンビニには成長しないと思います。なのできっと別の『何か』の要素が加わって、あの巨大コンビニ要塞は完成してしまったのだと考えたんです」
「確かに……俺のコンビニは地下に施設が拡大する事はあっても。コンビニ本体自体の大きさは、そんなに巨大になっている訳じゃ無いですものね。例え異世界の勇者レベルが99を超えて、魔王になったとしても。あそこまでコンビニが巨大になったり。長い脚が生えて蜘蛛みたいに動く移動要塞に成長するのは、少し違う気もしますね……」
レイチェルさんの言うように。もしもコンビニ要塞を操る敵のレイチェルが、元々はコンビニの大魔王の心の中に潜んでいた『完全なるコンビニ』の能力を具現化した存在なのだとしたら。
俺がこれから倒すべきは、やはり……あの灰色ドレスを着た敵のレイチェルという事になるのだろう。
コンビニの大魔王の精神は、敵のレイチェルが隠し持っていると聞いたけれど。それを取り返す事が出来れば、巨大コンビニ要塞の進撃を止める事も出来るのだろうか?
――いや、今はそれを信じて俺は最後の戦いに挑むしかない!
少なくとも今、このグランデイルの王都には沢山の仲間達が集ってくれているんだ。
例え敵の勢力に比べれば、まだ圧倒的にこちらの戦力が劣っているのだとしても。敵の総大将のレイチェルを打ち倒せば、一発逆転のチャンスはきっとあると信じてる。
この世界を救いたいと願っているのは、決して俺一人だけじゃない。このグランデイル王都に集まっている仲間達みんなの力を借りて、俺は最終決戦に挑み。そして必ず勝利しないといけない。
過去の亡霊と化した、コンビニの大魔王の精神が宿る巨大コンビニ要塞を破壊して。必ずこの世界に真の平和を取り戻してみせるんだ!
「レイチェルさん。色々と俺に教えてくれて、本当にありがとうございます! 俺……もう一人の過去のコンビニの勇者の暴走を止める為に、これから最後の戦いに向かおうと思います!」
ノートパソコンの画面に映る、コンビニ共和国にいるレイチェルさんに。俺は深々と感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「……ハイ、私も総支配人様がきっと勝利される事を信じて強く祈っていますね。大丈夫です! 私が言うのも何ですけど、正義の味方の主人公は必ず勝つものだと物語の相場は決まっているんですからね!」
レイチェルさんがニコッと微笑んで、俺にとびきりの笑顔を見せてくれた。
その笑顔に勇気付けられるように、俺はノートパソコンを閉じて。コンビニ共和国にいるレイチェルさんとの通信を切断しようとすると……。
レイチェルさんは、最後に俺に一言だけ伝えたい事があると。
慌てて戦いに向かおうとする俺の耳に、小さな声で最後のメッセージを届けてくれた。
「――総支配人様、もしも可能なら。総支配人様の心の中に存在する『朝霧冷夏』様と、またお話しをしてみて下さい。敵のコンビニの大魔王の真なる能力が『完全なるコンビニ』なのだとしたら。『完全未来予知』の能力を持つ朝霧様の力をお借りしなければ、総支配人様は決して敵の巨大コンビニ要塞には打ち勝つ事は出来ないでしょうから……!」




