第四十七話 赤魔龍公爵との戦い①
コンビニ戦車がガトリング砲で敵をなぎ倒しながら、玉木達の立て篭もる場所にまで到着する。
俺はコンビニの屋上から、久しぶりに再会したクラスメイト達の顔を見つめた。
うん。やっぱりみんなあまり変わってないな。
正直、ここにいるのは1軍のメンバーがほとんどだ。俺みたいな3軍メンバーと違って、ほとんどが王宮暮らしをしていたグランデイル王国所属の貴族様ばっかりだからな。
だから正直、異世界に来てからそんなに俺とは接点が無かった奴ばかりだった。
こうしてまともに顔を見てみんなと再会出来るのは――この世界に召喚された日以来、本当に久しぶりって感じだな。
「おいっ! てめぇーっ!! 彼方〜!! お前生きてやがったのかよーー!?」
――ん? 1人だけ異様に大きい声で、馴れ馴れしく俺に絡んでくる奴がいるな?
おおっ、そうか。この懐かしいこの声はっ!
「杉田かーーっ!! お前こそ、ちゃんと生きてやがったのかよー! もう魔物を倒しても、ゲロをぶち撒けないようには成れたのか〜? 相変わらず可愛いメイドさんとイチャついてるんじゃないだろうな!」
俺はコンビニから降りて、懐かしい親友と挨拶を交わす。
親友と言っても男友達だからな。もちろん、激しく抱き合うようなハグはしないぜ? 俺にそっちの気は今の所はないから安心してくれ。
『オ〜〜っす!!』と俺達は、学校にいた時と同じようにハイタッチを交わす。
はっはっはー! 何だか空には巨大な赤いドラゴンが飛んでいたり、周りには凄まじい数の魔物がひしめいてたりもするけど……。まあいいか。気にしない気にしない! 親友との久しぶりの再会だしな。
俺と杉田が笑いながら、その場で戯れていると。
「あなた……か、彼方くんなのよね? 本当に、生きていたの?」
まるで幽霊でも見るかのように、俺に話しかけてくる綺麗な女性がいた。
んん? ああっ……! この日本人離れした容姿は紗和乃か。こいつはめっちゃ気の強い性格の女だったからよく覚えてるぞ!
母親がブラジル人で、父親が日本人というハーフで。金髪だしスタイルも良いし、見た目も綺麗だからクラスでも玉木と並んで美人ツートップを飾っていた奴だな。
そういえば教室では玉木とよく一緒にいたし、美人同士で気の合う感じだったのかな?
「俺はちゃーんと生きているぜ! 異世界でコンビニを開きながら、何とか楽しく暮らしていたんだ!」
「そ、そうなのね。それが、こ……コンビニなのね」
紗和乃だけでなく、石の壁から出てきた他のクラスメイト達までもが、訝しげに俺のコンビニを見つめてくる。
まあ、俺のコンビニは見た目がだいぶ変わってしまったからな。周囲の壁には『合金製の鋼鉄シャッター』が付いてるし、『キャタピラー式の移動装置』まで装備している。
屋上にはガトリング砲2門に、ミサイルポッドと火炎放射器も付いている。見た目だけなら、多分……巨大な『戦車』のように見えるだろうな。周囲には索敵と攻撃の両方の役割を兼ね備えたドローンが、10機以上も飛んでいるし。
「彼方く〜〜ん! もう、来るのが遅いよ〜!」
石壁から飛び出して来た玉木がこっちにやって来る。
玉木も魔王の谷から生還した後の、俺のレベルアップしたコンビニを直接見るのは初めてのはずなんだけどな……。
『へえ〜、ほう〜、こんな風になったんだ〜!』っと、一通り観察を終えた後で。まるで我が家に戻る家猫のように、すんなりコンビニの中に入り込んでいく。
うん。コイツは何だかんだでずっと俺のコンビニに居座り続けそうな予感がするな。不思議だけど、居ないと落ち着かないというか……。
まあ、もうちょっとした家族のようなものかな? 俺のコンビニファミリーのメンバーとして、玉木は必要不可欠な存在である事は間違いない。
「玉木様、お久しぶりです!」
「きゃあ〜〜! ティーナちゃん〜〜! 元気だった〜〜?」
コンビニの中でティーナと玉木が再会を喜び合う声が聞こえてきた。
正直、俺もここにいるクラスメイト達全員と、異世界での積もる話をたくさんしたかったんだけどな。
親友の杉田もいるし。グランデイルを追い出されてから、あれこれと……ビックリするくらいの大冒険を俺も積み重ねてきた訳だしな。
あ……それと、倉持達の俺に対する非道っぷりについては、数時間くらい、みんなに大演説で訴えたかったくらいだ。
杉田も、紗和乃達も、俺には聞きたい事が山ほどあるような顔をしていた。
だけれど……。
「店長! あの赤いドラゴンがこちらに戻って来ます!」
屋上からアイリーンが俺に警告してくる。
そう。まだ全てが『終わった』訳ではないんだ。
周囲を取り囲む魔物達だって、こちらに向けて再び前進を開始してきている。ボサッとしていたら、あっという間にここも魔物達に取り囲まれてしまうだろう。
「みんな、悪いな! 俺はまずあの赤いドラゴンを何とかしてくる!」
俺は懐かしいクラスメイト達と、思い出話を語らうのを諦め……。再び、戦場へと戻る事にする。
「ティーナと玉木はコンビニを操作してくれ! 周囲を取り囲んでいる魔物の群れを、コンビニのガトリング砲で殲滅させるんだ!」
俺はアイリーンと一緒に、赤いドラゴンのいる方角に向けて駆けながら2人に指示を飛ばす。
「了解です、彼方様!」
「彼方く〜ん! 気をつけてね〜〜!」
俺は2人に軽く手を振って、そのまま全速力で走り出した。
あの赤いドラゴンの相手をするのは俺とアイリーンだ。他のクラスメイト達に危害を加えさせないようにする為にも、俺があのドラゴンの標的にならないといけないからな。
走りながら俺はスマートウォッチを操作して。コンビニの周囲を飛んでいるドローンを全てこっちに呼び寄せる。
それと同時に、コンビニの守護機兵『コンビニガード』を、8体。クラスメイト達の護衛としてその場に残す事にした。
コンビニ戦車から、ゾロゾロと長槍と剣を装備した機械の兵隊が飛び出して来て。さぞかしクラスのみんなはビックリしてるだろうけどな。
……でも、あそこには戦えないメンバーもたくさんいるらしいから、ある程度の戦力を割くのはしょうがない。
俺が現在、所有をしている10体のコンビニガードのうち――2体は俺の護衛用としてこちらに呼び寄せる事にした。
赤いドラゴンは追尾してきた地対空ミサイルを、遠く離れた場所で迎撃したらしい。
再びアッサム要塞の上空に向けて。高速移動を開始して迫ってきている。
「どうやら、向こうもやる気まんまんみたいじゃないか! ミサイルの攻撃に、全然怯んでいないみたいだしな!」
よーし、上等だ! こっちもやってやろうじゃないか。
俺とアイリーンが走る直線上の正面に――。赤いドラゴンもこちらに向けて一直線に飛んで来ている。
「アイリーン! あの赤いドラゴンの『翼』を斬り落とす事は出来るか? アイツが空にいる限りは、こちらの攻撃を本体に当てる事が出来ない。ミサイルだけじゃアイツを倒す事は不可能だからな!」
俺はアイリーンに走りながら尋ねる。
「さすがに私の跳躍力でも、あの高さにまで飛ぶのは難しいです。どこか高い所から飛びかかる事が出来れば……何とか出来そうですが」
アイリーンが周囲の様子を注意深く見つめる。
そして――、
「店長! あの高い丘の近くに、赤いドラゴンを引きつける事は出来ますか? あそこからなら、私はあのドラゴンに空から斬りかかる事が出来ると思います!」
俺はアイリーンが指差す高い丘の上を見つめる。
「えっ、マジかよ! あそこはクルセイスさん達、グランデイル軍や他の国の騎士団がいっぱいひしめいている丘じゃないかよ……!」
「絶対に他の人間達には被害を出さないよう致します。どうかお願いします!」
アイリーンが力強く宣言をするので。俺は苦笑いしながらも渋々それを了解する事にした。
「分かった! 一応、あそこには世界中の偉い人達が集まっているみたいだからな。相手方には失礼の無いようにしておいてくれよな!」
「了解を致しました、店長! コンビニの守護騎士として、失礼のない振る舞いを心掛けて参ります!」
そう宣言をして、アイリーンはクルセイスさん達のいる高い丘に目掛けて全速力で駆けていく。
俺はスマートウォッチを操作して、コンビニの屋上から再び追尾型の地対空ミサイルを、赤いドラゴンに向けて発射させた。
コンビニ戦車は今、ティーナと玉木がガトリング砲と火炎放射器をぶっ放しながら魔物達の群れの中を爆走中だ。
だが、その屋上に付いているミサイルポッドを、俺はスマートウォッチを使って離れた場所から遠隔操作をする事が出来る。
更には、小型ミサイルを装備した空中ドローンも。
赤いドラゴンがコンビニから発射された地対空ミサイルを避ける為に使うであろう、想定逃走コースにあらかじめ配置をしておく。
コンビニから再び白い糸を引くように、勢いよく発射される地対空ミサイル。
それを避けるために、赤いドラゴンが再び大空で急旋回を開始した。
そしてその旋回したコースの先には――小型の空中ドローン部隊を先に待機させている。
空中待機をしているドローンの群れは、旋回してきた赤いドラゴンに目掛けて、追加のミサイル攻撃を連続で発射していった。
後方から追尾してくる地対空ミサイルと、斜め正面から突然発射された多数のミサイル群を避ける為に――。
赤いドラゴンが騎士団がひしめいている、高い丘の上に急接近をしていく。
「よーし! 上手くいったぞ!! 赤いドラゴンを丘の上に追い込む事が出来たぞ!」
俺は思わずガッツポーズをあげる。
後は、アイリーンが上手くやってくれるのを待つだけだ。
一方その頃……。
アッサム要塞を見下ろせる、この辺りで1番高い丘の上に陣取っている各国の騎士団と、その首脳陣には激しい動揺が広がっていた。
「一体、あの謎の勇者は何者なんだ……!?」
アッサム要塞攻略作戦の名簿には、全く載っていない謎の異世界の勇者。
前線基地に追い詰められた他の勇者達を救い出し、上空の『赤魔龍公爵』を謎の攻撃で、どんどん追い詰めていく。
まさにたった1人で、獅子奮迅の活躍をしているあの謎の勇者は、一体何者なのか……?
各国の首脳陣や騎士団の幹部クラスは、情報の無い謎の勇者の出現に、そしておそらく最強とも思えるほどの強さを誇るその異世界の勇者の正体に――。
あの勇者は一体誰なのかと、激しく動揺をしていた。
「く、クルセイス殿! あ、あの動く謎の建物を操る勇者は……一体、何者なのですか!?」
カルツェン王国のグスタフ王が、声を震わせながらグランデイル王国女王のクルセイスにそう尋ねる。
「ええっと。そ、その……あの勇者様は、その……」
クルセイスは額から大量の汗を流しながら、しどろもどろに返答を誤魔化すしか出来ない。
実際、クルセイス自身がアッサム要塞に出現した謎の勇者の存在を、全然分かっていなかったのだから当然だ。
今回作戦に参加をした勇者は12名だけのはず。
あの飛び入りの勇者はいったい何者なのか? しかしあの動く建物はどこかで見たような記憶もあるが――。
「あれは噂の『コンビニの勇者』ですよね? ねえ、そうでしょう……クルセイス様?」
クルセイスの隣で、またしても他国の首脳達が聞こえないような小声で、ドリシア王国のククリアがそう言う。
「えっ!? ……こ、コンビニの勇者様!?」
クルセイスが、今にも口から泡を吹いて倒れそうな勢いであたふたと動揺した。
慌てるクルセイスのその反応と動揺を楽しんだ後。
ククリアは、ドリシア王国の側近の騎士を近くに呼び寄せると――小さく指示を飛ばした。
「……このお披露目会が終わった後で、あのコンビニの勇者の後をつけて、その行き先を必ず掴みなさい。そして居場所が分かり次第、必ずボクの所に連れてくるように」
ククリアの命令を聞いたドリシア王国の騎士は、周囲に悟られないように小さく返事をした後で、その場から静かに立ち去っていった。
そしてちょうど、その時――。
「大変です!! 『赤魔龍公爵』が! こちらに向かって飛んできます!!」
騎士団の1人が大きくそう叫んだ。
丘の上から、空を見渡すと――。
謎の勇者が地上から放つ攻撃を避けようと。赤いドラゴンが上空で旋回をしながら、こちらに向けて高速飛行をしてきていた。
「……な、な、何と言う事だッ! 守護騎士団! 魔法兵と弓兵を総動員して、あの赤いドラゴンをこちらに近づけないようにするのだ!!」
カルツェン王国のグスタフ王が、大きな声でそう叫ぶ!
だが、その命令はもう間に合わないだろう。
上空から丘に向けて降下を開始し。赤いドラゴンが空の上で旋回しながら、こちらに向けて近づいてくる。
迫り来る赤いドラゴンの危険を回避する為に。
丘の上の1番高い場所に陣取っていた各国の首脳陣が座る場所を――各国の騎士達が慌てて、撤退の準備に取り掛かる。
そんな大混乱に陥り、慌てふためく西方3ヵ国の王達や、グランデイル王国の女王達の目の前に――。
スゥ――っと。
青い髪を風になびかせ――。
黄金の剣を手にした、青い騎士が静かに丘の上に降り立った。
突然、目の前に現れた青い騎士の正体が分からずに。
各国の王達を護衛する近衛兵の1人が大声で尋ねる。
「――き、貴様は一体何者だ!? ここにおられる方々をどなただと心得る? 西方3ヵ国連合の王族と、グランデイル王国の女王様であらせられるぞ!」
近衛兵に呼びかけられ青い騎士は、こちらにゆっくりと振り返ると――。
とても礼儀正しく、優雅な振る舞いで。
その場に居並ぶ各国の王族達の前で、片膝を折りながら最敬礼の姿勢で頭を深く下げた。
「――大変失礼を致しました。私は『コンビニの勇者』様にお仕えをする守護騎士、アイリーン・ノアと申します。コンビニの勇者様の命により、王様方をお守りすべくこの場に参上させて頂きました」
青髪の美しい女性の騎士はとても優雅に、古き良き騎士道精神に則った形で自己紹介をする。
そこに居合わせた誰もが、思わずゴクリと息を呑んだ。
青い騎士の優雅な振る舞いに、この場の緊迫した状況を一瞬だけ忘れて全員が見入ってしまったのだ。
それだけ彼女の挨拶は、騎士としての礼節を尽くした美しいものであったからだ。
「では、私はこれにて失礼を致します。あの赤いドラゴンは我が主人、『コンビニの勇者』様が必ず打ち倒しますので、どうかご安心下さい」
青い騎士は身を翻して丘の上から飛び立つ。
それは、人間のものとは思えないほどの『大跳躍』であった。
丘の上から、自身の持つ脚力だけで。
上空の赤いドラゴンを目掛けて飛び立った青い騎士は――空中で黄金の剣をその両手で構えると。
”ズシャーーーーーーン!!”
眩いばかりの大きな閃光と共に、空中でドラゴンに斬りかかった。
そして、丘の上にいる者達が気付いた時には――。
『『グオオォーーーーーーン!!!』』
巨大な赤い翼を、真っ二つに斬り裂かれた赤いドラゴンが――。大きな咆哮を上げながら、大地に墜落していく。
片翼をもがれたドラゴンは、空中でそのバランスを崩して、クルクルと旋回をしながら大地に落ちていった。
そして行動不能に陥った赤いドラゴンに、追尾していた地対空ミサイルが着弾する。
”ドゴーーーーーーーン!!!”
巨大な炎と黒煙に包まれながら、赤いドラゴンは地面に墜落した。
丘の上に並び立つ、各国の首脳陣はその光景を呆然と見ているしか出来ない。
あの伝説の『赤魔龍公爵』が……。
大空から『墜とされた』のだ。
まさかこんな事が起きるなんて……。
もはや、その場にいる全ての者がただ言葉を失うしかない。
『赤魔龍公爵』が突然、現れた事にも驚かされたが……。
その後に現れた、謎の異世界の勇者の存在には、もっと驚愕させられた。
こ、こんな凄い能力を持った勇者が存在していたなんて……。
「く、クルセイス殿……!? あの青い騎士殿が言っていた、『コンビニの勇者』とは――グランデイル王国が育てた異世界の勇者様の1人と言う事で良いのですか?」
カルツェン王国のグスタフ王がそう尋ねる。
その問いに対して、グランデイル王国女王のクルセイスは――。
「――は、はい。あのコンビニの勇者様は、グランデイル王国が全力を上げて育成をした、異世界の勇者様の中でも最強のお方です。彼ならきっと、赤魔龍公爵さえも見事に打ち倒して下さる事しょう!」
グランデイル王国女王のクルセイスが、自信満々に各国の首脳陣にそう宣言をする。
「おおおおーーーっ!! 何と素晴らしい事なのか!! こんなにも強い勇者様を育成なさっていたなんて! これで世界はもう、救われたも同然ですなっ!」
カルツェン王国のグスタフ王だけでなく。周囲にいた各国の首脳陣や騎士団の幹部クラス達までもが、大きな拍手をしてクルセイスの偉大な功績を褒め称える。
その万雷の拍手喝采の中で、ドリシア王国のククリア女王だけは、自信満々にコンビニの勇者を育てたと宣言をしたクルセイスを白い目で見つめていたが――。
やがて、その『違和感』に気づいた。
ククリアは初めてクルセイスに対して……何が底知れぬ恐怖のようなものを感じ取ったのだ。
それは『世界の叡智』と呼ばれ、鋭い観察力と洞察力を持つククリアであっても――。
見抜けないほどに得体の知れない『何か』であったのは間違いない。
「……二重人格? ううん、違いますね。もしかしたら演技? だとしたら最初から全てが彼女の『演技』だったとでもいうのだろうか?」
ククリアは誰にも聞こえないように、そう小さく呟いた。
万雷の拍手の中で、周囲の人に聞こえぬようにクルセイスも小さく呟いていた。
「――なるほど。どうやら我々は間違った勇者を選んでしまったようですね。『◯◯の能力』を持った勇者があんな所にいたなんて。これは何としても『彼』に今の魔王を倒して貰わないといけませんね。そうでないと、何の為に異世界の勇者を召喚したのかが分からなくなってしまいますから……。ねえ、そうですよね、お母様?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……お、おーい、待ってくれよ〜! 委員長〜! 金森〜!」
対空防御用の結界を張りながら、先頭を駆けている『結界師』の勇者である名取美雪。
その結界に守られながら、名取の後を追いかける『不死者』の勇者の倉持と、『水妖術師』の金森。
そして、その後ろをさらに後方から追いかけている『氷術師』の勇者である霧島正樹。
彼らは、アッサム要塞攻略の前線基地から味方を見捨てて逃げ出し。戦場から離れた丘に向かって全速力で走っていた。
そこには異世界から召喚された勇者としての威厳など全く感じられない。ただ、命を落としたくない……という必死の形相があるのみだ。
「ハァー? 勝手に後ろからついて来た分際で僕達に待てだなんて……。それは流石に虫が良すぎませんかねー、霧島くん?」
息を切らしながら。短距離走の選手のように、両手をブルンブルンと振りながら全力で走る金森が、後ろを振り返らずに侮蔑の声を霧島にかける。
「だ〜か〜ら〜! ちょっと待ってくれって! さっきから後ろのアッサム要塞の様子が少しおかしいんだって!! 一度振り返って後ろを確認してみてくれよ!」
「………何ですって!?」
霧島の叫びを聞いた選抜組のリーダーである倉持は、先行する名取に待ったをかけて。その場に一度立ち止まる事にした。
見晴らしの良い丘の上から、4人は息を切らしながら後方のアッサム要塞の方に向き直る。
「あ、あれは………!? 委員長、アッサム要塞の敵が倒されて形勢が逆転しているみたいですよ!! これは一体、ど、どうなってるんですか……!?」
金森は自身の目に映っている光景が信じられず。ワナワナと震えながら、その場で驚きの声を漏らす。
だが、金森以上に全身を震わせていたのは――。
1軍の勇者の中でも最も周囲に期待をされ、選抜組のリーダーも務めていたクラス委員長の倉持悠都の方だった。
「――ば、バカな……!! アレはまさか、あの秋ノ瀬彼方だとでもいうのか……!? 無能なコンビニの能力しか持たない、クズで役立たずで。ゴミみたいな3軍の勇者の代表だった彼方くんがなぜ、あそこにいるんだッ!!」
顔を真っ赤にして震えるている倉持。
心配した結界師の勇者である名取が倉持の手をそっと握ろうとしたが……倉持は名取の手を力強く振り払った。
「……こ、こんな事は、絶対にあり得ない!! だって、アイツはコンビニしか出せない無能な勇者なんだぞッ!! それなのに、それなのに! 何でアイツがここにいて、敵を蹴散らすような活躍を戦場でしているんだあああぁぁーーーッ!!!」
倉持の叫びは、魔王軍の赤魔龍公爵と戦っている彼方のもとには届かなかった。
それどころか彼ら4人は、結局その場から一歩も動く事が出来ずに。
結局、戦場が落ち着く最後の最後まで。
味方の加勢につく事もなく。ただただ、ボーーっとその場で立ち尽くしている事しか出来なかった。




