第四百六十九話 コンビニ共和国からのお届け物
俺のいる場所を探しあて、真っ先に駆けつけて来てくれた玉木を伴い、俺はみんなの元に一度戻る事にした。
そしてグランデイル王都の周囲に待機していた、味方の陣営が集まる場所に辿り着くと――すぐに俺はその場で起きている『異変』に気付く。
「……ん? グランデイル軍だけじゃなく、見慣れない騎士達が陣営に大量に合流しているみたいだけど……。これは、どこかの国の騎士団が援軍に来てくれたのか?」
陣営に新たに加わっていたのは、緑色の鎧を着た騎士達だった。確か……この色の鎧を着ているのは、西方3ヶ国連合の中でも、農業国として名高いカルタロス王国の騎士団だったと思う。
この世界の国の騎士団は、鎧の色で所属する国が見分けられる事が多いからな。
グランデイル王国の騎士の鎧は、銀色。
ドリシア王国は鎧は、鳥の羽の付いた青色。
カルツェン王国の鎧は、黒色。
バーディア帝国の鎧は、赤色。
そして確かカルタロス王国は、緑色だったはず。
例外として、女神教の中でも最強の魔女であるカヌレが率いている騎士達はピンク色の重装鎧兵団だったけど、間違いないはずだ。俺ももう、この異世界に来てからそこそこの時間が経っているからな。
この世界の知識について、ある程度の理解は出来ているつもりだ。
「そうだよ〜、彼方くん。彼方くんがグランデイル王城に入っている間に、西方3ヶ国連合軍の中からカルタロス王国軍が応援に駆けつけてくれたの。もちろん、カルタロス王国女王のサステリアさんも来てくれているんだよ〜。サステリアさんは今は新グランデイル女王になったティーナちゃんと面会中で、なんでも彼方くんに会いたいって言ってるみたいなの〜」
「カルタロス王国のサステリア女王が、直接グランデイルの地にやって来ているのか? そいつは、凄いな……。俺はまだ会った事は無いけれど、たしか優しくて温和な性格の女性だって評判の人みたいだよな」
周囲にいる騎士達の様子からも、だいぶグランデイル王都周辺の状勢が緊迫しているのが伝わってくる。
おそらく、ここに集まった人々の間にも。この地に巨大コンビニ要塞が再び接近して来ているという情報が伝わっているのだろう。
グランデイル王国のクルセイスが逃亡した以上、この地でこれから起きる戦いが……おそらく『最後の決戦』になる事は、誰の目から見ても明らかだろうからな。
「分かった。俺もすぐにティーナとサステリア女王のいる場所に向かう事にするよ。玉木、そこまで俺を案内してくれないか?」
「うん。分かったけど……。その前に彼方くん、だいぶ顔色が悪そうだけど、本当に大丈夫なの〜?」
玉木が俺の顔を下から覗き込むようにして、見つめてきていた。
そうか……やっぱり、玉木には隠せないよな。
なんたって玉木は俺の顔色を見ただけで、俺が心の中で何を考えているのかを読み取ってしまえる、俺の心限定の読心術のエキスパートみたいな奴だからな。
「大丈夫……と、言いたい所だけど。確かに調子はちょっと良くないかもな。けど、大丈夫。体調が悪い訳じゃないから、すぐに元気に戻れるさ!」
「あまり無理をしないでね、彼方くん。グランデイル王城の中で女神様に会って、何かあったのかは分からないけど……。一人で抱え込んじゃ、ダメなんだからね〜! ほら、前に私に言ってくれたでしょう? クラスのみんなが全員ちゃんと無事でいて欲しいって。もう、会えなくなっちゃった子もいっぱいいるけれど。ここまで生き残ったみんながこれ以上、誰一人も失われないように最後まで一緒に頑張ろうね、彼方くん!」
「……そうだな。ここまで、過酷な異世界をみんなで生き残ってこれたんだものな。そういえば玉木は……朝霧の事についてはどう思う?」
「えっ、冷夏ちゃん? 彼方くんが前に、冷夏ちゃんに直接会う事が出来たって言ってたから、私はすっごく嬉しくて安心してるよ〜! 冷夏ちゃん、私達の前には一度も姿を現してくれないけど、彼方くんにはよく話しかけに来てくれているんだよね? だから今度、みんなの前にも顔を出して欲しいって、冷夏ちゃんに彼方くんから伝えて欲しいな。私も冷夏ちゃんの元気な顔が見たいもの〜!」
何も知らない玉木は、屈託の無い眩しい笑顔でニコッと笑って見せてくれた。
いや……勘の鋭い玉木の事だ。きっと俺が何かを言おうとした事に気付いて。俺を元気付けようと無理をして笑ってくれているのかもしれない。
このタイミングで、どうして俺が突然……朝霧の話をしたのかを玉木だって絶対に気になるはずだ。
それが分かっていて、玉木はあえて詳細を聞かないでいてくれているんだろうな。玉木はいつも、そんな気遣いが自然に出来る心の優しい奴だからな。
「……ああ、分かった! 今度、朝霧に会ったら俺から言っておくよ。みんながお前の事を心配してるから、俺の前だけじゃなくて、たまにはちゃんとクラスのみんなの前にも顔を出せよな……ってさ」
「うんうん。ぜひ、お願いね〜彼方くん! 冷夏ちゃんが揃ったら、元3軍の勇者が勢揃い出来るから、みんなで同窓会をしようね〜! コンビニの中でコーラを飲んで、昆布おにぎりパーティーを開催するの〜!」
「ハハ……。それなら俺は鮭おにぎりか、ツナマヨがいいな。昆布おにぎりは玉木と紗和乃の2人で、全部食べ尽くしてくれていいからな!」
俺は玉木と仲良く笑いあいながら、カルタロス王国軍の騎士達がひしめいている白い陣幕の中に向かっていった。
中に入ると、そこには椅子に座ってサステリア女王と会談をしているティーナの姿があった。
「……彼方様! 良かった、ご無事だったのですね!」
俺の姿を見たティーナが、すぐにそばに駆け寄ってくる。そして俺の無事を確認出来た事に安心したのか、ギュッと両手で俺の手を握りしめてくれた。
「ああ。この通り大丈夫さ、ティーナ。ここにカルタロス王国のサステリア女王が来ていると聞いて、会いに来てみたんだけど……」
「――コンビニの勇者様。お初にお目にかかります。私はカルタロス王国のサステリアと申します。いつもコンビニ共和国のレイチェル様には、大変お世話になっております。どうか今後とも、カルタロス王国とコンビニ共和国の友好関係の維持と、両国の繁栄を目指して共に歩ませて頂ければと願っています」
ティーナの対面に座っていた、大きな丸メガネをかけた女性が席から立ち上がり。俺に向けて深々とお辞儀をしてきた。
この女性が、カルタロス王国の若き女王――サステリア女王様なのか。
率直に言って、第一印象はめっちゃ人の良さそうな女王様だな……と思った。後、めちゃくちゃ外見が若い。きっとまだ20代前半なのだろうけど。俺達のクラスに混ざっていたとしても、全然違和感が無いくらいに若く見えるし、とても純朴で誠実そうな印象がする。
「……えっと、こちらこそお初にお目にかかります。カルタロス王国のサステリア女王様については、レイチェルさんからよく話を聞いていました。とても真面目で、心が穏やかで信頼の出来る方だと聞いています。だから俺も直接お会い出来て嬉しいです!」
俺は一応、コンビニ共和国の代表であるという立場もあるし。一国を代表する女王様と、どんな感じで接するべきか分からなかったから。とりあえずその場で深く頭を下げて、お辞儀をしてみる事にした。
すると――顔にそばかすのある、大きな丸メガネをかけたサステリアさんは途端に顔を真っ赤にして。
いきなり興奮した口調で、勢いよく餌を求める飼い猫のように俺の前に詰め寄ってきた。
「れ、レイチェル様が……普段からこの私の事を話題にして下さっていたのですか? あぁ……やっぱりレイチェル様は、四六時中ずっとこの私の事ばかり考えてくれているのですね。サステリアはレイチェル様の大いなる愛に包まれて生きる事が出来て、本当、本当に幸せ者でごさいます〜〜っ……!」
あ、ええーっと……? サステリアさん?
何かすっごく興奮して、鼻息を荒くしてるみたいだけど……。俺、清純そうだなって思ったさっきの印象を撤回してもいいかな?
何か今は、推しのアイドルにめちゃくちゃ夢中な、熱烈ドルオタのような印象に変わっちゃったんだけど。
俺が多少、ドン引きしているのに気付いたのか。
サステリアさんは『ゴホン』とわざとらしい咳払いをすると。急に真面目な顔に戻って、俺に綺麗な布に包まれている箱のようなものを手渡してきた。
「……実はこれをコンビニの勇者様にお渡しするようにと、コンビニ共和国のレイチェル様にお願いをされていたのです。私をここに送り出して下さったレイチェル様は、北の禁断の地の軍勢との戦いに備える事と、この包みを勇者様に手渡す事を私に託されたのです」
「共和国のレイチェルさんが俺に……? 何だろう?」
サステリアさんから包みを受け取った俺は、すぐに中身を確認しようと思った。
レイチェルさんからの手土産だから、まさかここで『高級菓子パン』なんて事は無いだろう。何か重大な政治的、あるいは軍事的なメッセージが込められている可能性もあるし、包みの中の手触りからしても、中には何かの機械……が入っている気がする。だとしたら、みんなが見ているこの場では開けない方が良いのかもしれないな。
「彼方様、私達は大丈夫ですよ。サステリア様とも協議を進めて参りますので、どうぞ……レイチェルさんからの手土産の中身を確認してきて下さいね」
俺の様子を察したティーナが、すぐに声をかけてきてくれた。
くぅ〜っ……流石ティーナさんだ。俺の事を何でも理解してくれて、配慮してくれる優しさと知性に本当にいつも感謝しかない。
「彼方く〜ん、それ何なの〜? レイチェルさんからのお土産なら、高級お寿司とか、高級カステラとかかな〜? 私も一緒に食べたいよ〜!」
「ハイハイ、玉木はティーナと一緒にここに残って作戦会議に参加していてくれよな。俺はこの手土産を持ってちょっと一人になるから、追ってこないように!」
「ああ〜〜っ!? 彼方くん、高級寿司を一人だけで独り占めして食べようとしてるでしょう〜?」
「違うって! ティーナ、そこにいる玉木を止めておいてくれよな。寿司が絡むと玉木は途端に魔王化するスキルを持ってるから、全力で押さえ込むんだぞ!」
「えっ……あ、はい!? 彼方様!」
「離して〜! ティーナちゃん〜! 彼方くんの高級寿司独占計画を阻止しないといけないんだから〜! ここで阻止しないと、海の中からゴ◯ラがやって来て東京はぐちゃぐちゃに踏みつぶされちゃうのよ〜!」
ちょっと何を言っているのか、分からないけど。
玉木とティーナが姉妹のように、仲良く戯れ合っている陣幕から飛び出た俺は、すぐに近くにある森の中に一人で移動した。
そこにコンビニ支店を外に出して、誰もいない静かな事務所の中でレイチェルさんから届けられた包みを開けてみる事にする。
多分、中には何かの機械が入っているのかと予想してたけど、包みを開けてみると。中身は俺の想像を遥かに上回るとんでもないものが入っていた。
「えっ、この硬さは……まさか!? もしかして、ノートパソコンなのかよ?」
まだコンビニで扱える雑貨商品の中に、ノートパソコンは無かったはずだけど。見た目の雰囲気は、まさに14インチ型のノートパソコンそっくりに見えた。
「もしかして、またレイチェルさんが夜鍋をして作ってみたシリーズなのかな? だとしたら、結構すごい事な気がするけど……」
俺はすぐに包みから出したノートパソコンを、さっそく机の上に置いて。ディスプレイ画面を開いて、電源ボタンを押して起動させてみた。
すると――。
液晶画面が明るくなると同時に、『ザザザーッ』と画面に白黒の横線が入り。ディスプレイ画面にはリアルタイムのオンラインビデオ映像が映し出される。
そして、そこに映っていたものとは……。
机に座ってコンビニ商品のお茶を飲みながら、チーズケーキをフォークに刺して。幸せそうに満面の笑みで頬張っている、完全に『オフモード』のレイチェルさんの映像がそこには映し出されていた。
「……!? グハッ……! 総支配人様!? 突然、ノートパソコンを開けたらダメですよ! 私にもプライベートタイムがあるのですからね!」
口に入れたチーズケーキを『ぶへっ!』と吐き出したレイチェルさんが、慌てて机の上をタオルで拭きながら身なりを整え始める。
えっと……俺は何を見せられているんだろう? と、一瞬思ったけど。
……でも、そういう事か。どうやらこのノートパソコンは、遠いコンビニ共和国にいるコンビニ本店のレイチェルさんと、遠隔でビデオ映像付きの会議が出来る品物になっているみたいだな。
「あーあー、ゴホン、ゴホン。総支配人様、お久しぶりです! こうして直通お話が出来て、本当に嬉しいです。黒ヘビに丸飲みにさせたサステリア様は、無事にグランデイル王国に辿りつけたみたいですね!」
「黒ヘビに丸飲み……? ああ、サステリアさんは黒ヘビの次元移動を使って、ここにやって来てたんですね。でもレイチェルさん、このノートパソコンはどういう仕組みになっているんですか? まだコンビニの商品には、こんなズー◯会議が出来るようなノートパソコンは扱っていなかったと思うんですけど?」
「……えっへん。この私が連日徹夜で夜鍋をして、一台だけ自作で作り上げてみました。しかも、この世界の魔法技術を応用して、遠隔でグランデイル王国に滞在されている総支配人様とのビデオ通話が出来るように、魔改造しておいたのです」
これでもかと、形の整った綺麗な胸を張るレイチェルさん。流石はレイチェルさんだ。略して『さすチェル』さんと、これからは呼ぶ事にしよう。
レイチェルさんが本気を出せば、この世界にまだ存在しないものでも、何でも作りあげてしまう事が出来る気がするな。
「レイチェルさん。久しぶりに会話をする事が出来て、まずは何から話すべきなのか迷う所ですけど……。実は今は、時間があまり無い状態でもあるんです。巨大コンビニ要塞が再侵攻をかけてきて、またこのグランデイルの王都に攻め寄せて来ているんです」
「そうですか……。では、いよいよ最終決戦が始まるという訳なのですね。私も少し話しづらい内容でしたので、総支配人様にどのようにお伝えすべきか悩んでいる件があったのですが……。もはや時間が残されていないのでしたら、すぐにお伝えさせて頂く事に致します」
パソコンの画面越しに、レイチェルさんはガサゴソと机の引き出しから何からを取り出そうとしているのが分かった。
……少し話しづらい内容と言っていたけれど、それは何なのだろう?
俺は注意深く、ノートパソコンの画面に映るレイチェルさんの様子を伺っていると。
レイチェルさんは、机の引き出しの中から一枚の写真を取り出した。その写真はカラー画像で、おそらくコンビニ共和国にいる『撮影者』の藤堂が撮ってくれたものらしい。
かなり画像の解像度は鮮明で、現代日本のカラー写真と同じくらいに見やすいものになっていた。
レイチェルさんがパソコンの画面にゆっくりと近づけてくれた、そのカラー写真の中に映っていたものとは……。
「――えっ……!? それは……?」
写真の中に映り込んでいるのは、地面に横たわっている『一人の女性』の姿だった。
俺はもちろん、その女性に心当たりがある。いや……心当たりがあるなんてレベルじゃないな。ついさっきまで、俺はこのカラー写真に映っている人物と一緒に、女神の試練を受けていたのだから……。
「――総支配人様、この女性はグランデイル王国の南西にある小さな村で発見されました。遠い昔に、総支配人様が探索するようにとザリル様に命じられて。その配下の方がずっと探していた方がようやく見つかったのです。彼女はそう……総支配人様のクラスメイトである『朝霧冷夏』様だと思われます。遺体は状態保存用の魔法の粉がかけられていて、ほとんど腐敗していませんが……おそらく、死後1年半ほどの時間が経過しているものと思われます」




