第四百四十一話 カディナへ向かうコンビニメンバー達
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グランデイル王都の北側にそびえる大きな丘。
その丘の上で、俺達は――『巨大移動要塞コンビニ』対策の臨時作戦会議を開く事になった。
会議のメンバーは、コンビニの守護者のアイリーンとパティ。『暗殺者』の玉木。『狙撃手』の紗和乃。もふもふコンビニ猫のフィート。
そして今回の戦いで、最も頼りになると思われた女神教の魔女達からの参加者は――残念ながら『ゼロ』だった。
「会議の参加者はここにいる、たったの6人だけか。このメンツだけで、あの巨大コンビニを撃退するなんて。突進してくるブルドーザーを、道路の上で6匹のアリが横一列に並んで、必死に食い止めようとするくらいに無謀なチャレンジになりそうだな……」
「ちょっと、彼方く〜ん! 私達の扱いは、小さなアリさんと同格なの〜? せめてリスさんとか、ウサギさんとか、可愛い動物で例えてよね〜!」
玉木が俺に抗議の声をあげてきたけど、正直可愛いウサギが6匹だったとしても。向かってくるブルドーザーを止められないのは、変わらないと思うけどな。
一応、少しでもこちらの戦力を増強する為に。コンビニ支店1号店から、大量のコンビニガード部隊と、飛行ドローン。そして戦闘用のロボットクリーナーも、フル出撃をさせて。グランデイル王都の北側にある丘に沿って重厚な防衛ラインを作りあげておいた。
何もしないよりはマシだ……と、頭の中で何度も言い聞かせてはみても。たったこれだけの戦力で、何が出来るのかという絶望感に襲われてしまいそうになる。
「ぶみゃ〜〜! 何で女神教の魔女達は、あたい達に何も協力をしてくれないのにゃ〜! 白アリの女王の魔王種子は奪っていくわ、グランデイル城の地下にあるゲートも占領するわ。ちゃっかり美味しい魚の身の部分だけを食べて、トゲトゲした骨は地面に吐き捨てるような最低な奴らなのにゃ〜〜!」
女神教の非協力っぷりに憤り、『ブシャ〜〜!』と尻尾をピーンと立てて怒っているフィート。
そんなフィートの頭を優しく撫でて、俺はコンビニ猫娘の怒りを少しでもなだめる事にした。
「まぁ、フィート。落ち着けって! お前が怒るのも分かるけど、まだ女神教が援軍を送ってこないと決まった訳じゃない。巨大コンビニがここに来るまでには、少しだけ時間がある。それまで待つ事にしようぜ」
「でも、彼方くん? 本当に女神教が増援部隊をここに送ってくれるという保証はあるの? 目的を達した魔女達は、私達だけに巨大コンビニの相手をさせて。自分達は何も手を汚さない……という可能性だって、あり得るんじゃないの?」
このメンツの中では、最も冷静な軍師役でもある紗和乃が手厳しい指摘をしてきた。
まあ、紗和乃の言う事はもっともだった。
この世界の歴史を陰から支配して操ってきた闇の組織、女神教。今は『巨大コンビニ』の襲来という、恐ろしい敵が目前に迫ってきているから、俺達と連帯をしているものの。
ある意味では、異世界の勇者をこの世界に召喚させた『元凶』とも呼べる、一番の敵対組織といっていいような奴らだからな。
そんな女神教を束ねる幹部達、永遠に歳を取らない不老の魔女達の約束を本当に信頼出来るのか……と聞かれたら。まともな人間ならその答えは、絶対に『NO』だと答えるに違いない。
でも、女神教だって……グランデイル王都に巨大コンビニが直接攻め込んで来たら困るはずなんだ。
グランデイル王城の地下には『ゲート』がある。異世界に渡る為に必要なゲートは、城の地下深くにあるから。地上の街がいくら巨大コンビニに壊されても、魔女達にとってはどうでも良いのかもしれないけど……。
だけど禁断の地から押し寄せた軍勢が、グランデイル王城の地下に攻め込まないという保証は無いと思う。
それに女神教のリーダーである枢機卿にとっては、巨大コンビニを操るレイチェルは5000年の永きに渡る宿敵とも呼べる因縁の相手だ。
だからこのまま何もしない……という事は絶対に無いはずだ。むしろコンビニの勇者の俺と手を組んで戦った方が、女神教の魔女達にとっても有利になるはず。
それなのに、何もアクションを起こしてこないという事は……。何か急に動けなくなるような『緊急事態』が、女神教陣営の内部で起きたのだろうか?
分からない。今はあまりにも情報量が少な過ぎた。
でも今の俺には、手助けをしてくれると約束してくれた枢機卿の言葉を信じるしかなかった。
女神教の枢機卿が俺を助けてくれる。それが今回の作戦の大前提になっているのだから、今更その方針を変えるような事は出来ない。
「俺は女神教の枢機卿を信じて、ここで待とうと思う。彼女は残虐な性格をした冷徹な存在かもしれないけれど。大丈夫……きっと援軍に来てくれるさ。それに紗和乃? お前も茶髪ポニーテールの髪型をしていて、昆布おにぎりをむしゃむしゃと美味しそうに目の前で食べてくれる女性に、心から悪い奴なんていないと思うだろう?」
俺の言わんとしている事の意味が理解出来たらしく。
紗和乃は横目で親友の玉木の顔を『じーーっ』と見つめながら、静かにその場で押し黙った。
「なになに〜? 昆布おにぎりがどうしたの〜? 昆布おにぎりは地上で最も美味しい最強の食べ物よね〜!」
俺の言葉の意味をよく理解出来ていない玉木だけが、不思議そうな顔をして。俺と紗和乃の顔を交互に見比べながら微笑んでいる。
「……とりあえず、武装したコンビニガードの軍勢を2000体も丘の下に整列させておいたしな。小型ミサイルを搭載したドローンも、周囲に電撃を放てるロボットクリーナーも500台配置した。敵の侵攻を食い止める為に事前に出来る事は全てしておいたから、後は吉報を待つだけだと思う」
そんな僅かな兵力で何が出来るの……? と、紗和乃はまだ不満そうな顔をしていたけど。
その事について、俺に深くツッコミは入れてこなかった。それが今の俺達に出来る、最大限の備えである事を、紗和乃も十分に理解していたからだ。
そんな、吉報を待っている状態であった俺達に。
アイリーンが、突然……深刻な表情をして俺に声を掛けてきた。どうやらその様子を見る限り、知らせの内容は、良いニュースとはとても言えないものである事はすぐに分かった。
「――大変です、店長! 索敵ドローンからの偵察映像が入ってきました。北からこちらに侵攻してきていた『巨大コンビニ』が……突然、進路を変えて。現在は西の方角に向かっているようです!」
「そんなバカな!? なぜだ? どうして、グランデイル王都に向かって来ないんだよ!?」
――そんな事は、絶対にあり得ない。俺が繰り返し見てきた仮想夢の中で、巨大コンビニは確実にグランデイル王都に攻め込んで来ていたんだ。
夢の中で見た未来情報が、どうして『変更』されてしまったんだ? まさか……仮想夢の内容が、現実世界と異なっていたとでもいうのか?
……いや、叙事詩の朝霧が俺に見せてくれる夢の内容は、現実世界の情報を100%反映させた仮想世界になっている。だからその内容に不正確な間違いや、狂いが生じるような事は絶対に起こり得ないはずだ。
だとしたら、巨大コンビニが進路を変えたというアイリーンの知らせの方が間違っているのか? いや、これは、まさか……?
「クソ……! やられたッ! 敵のレイチェルに裏をかかれたんだ!!」
「彼方くん? 一体、どうしたのよ!? 裏をかかれたってどういう事なの?」
取り乱した俺の様子を見て、紗和乃が心配そうに声を掛けてくる。
俺は何回も見た仮想夢の中で、北からやって来た巨大コンビニが必ずグランデイル王都を襲撃している光景を見て。
勝手に心の中で、それは『確定事項』なのだと決めつけてしまっていたんだ。
だけど、それは大きな間違いだった。
敵のレイチェルは、今までずっと欲してきたコンビニの勇者である俺の『肉体』という、一番当初の目的でさえも今回は捨てて。
全ての未来を適当なランダムな運命の結果に任せ、未来を決して固定化させない。決められた『確定事項』にはさせない……という、未来予知を不可能にする行動に切り替えたんだった。
だから今回の巨大コンビニによる突然の進路変更も、レイチェルの『気まぐれ』によって、まんまと俺達は翻弄されたといった方が良いかもしれない。
未来の世界を予知出来る、朝霧の仮想夢の効果を無力化させようとしているレイチェルの事だ。
西の方角に向かったというその謎の行動も、ほんのわずかな要素に影響をされた『気まぐれ』な思いつきで。きっと何も考えずに突発的に、俺達が待ち受けているであろうグランデイル王都ではなく、目標の場所を急遽変更したに違いない。
「アイリーン、巨大コンビニの向かった西の方向には何があるんだ?」
「それが、店長……。このままですと、巨大コンビニは、あと2時間以内に城塞都市カディナにまで辿り着いてしまいます!」
「何だって!? 巨大コンビニが向かっているのは、カディナの街だっていうのかよ?」
……なんて事だ! あそこには壁外区の住人を合わせれば、グランデイル王都を超える、もの凄い人数の人々が集まっている人口密集地帯なんだぞ。
そんな所に、あの残虐な性格をしたレイチェルが攻めてきたりでもしたら、大変な事になる。きっとカディナの住人は瞬く間に『皆殺し』にされてしまうだろう。
「か、か、彼方くん〜、どうするの!? カディナの街には今、杉田くんや、さくらちゃん達もいるんでしょう? 早くみんなに知らせないと大変な事になっちゃうよ〜!」
そうだ。現在のカディナには、杉田、カフェ好き3人娘達、そして琴美さくらや、秋山早苗だっている。
杉田達は、まさか巨大コンビニが突然カディナに攻め寄せてくるなんて思ってもいないだろうから、壁外区にいる大勢の住人達も含めて大惨事が起きてしまうのは確実だ。
「――アイリーン。俺達はどうすれば先回りをして、巨大コンビニがカディナに到着する前に、その進行方向の途中に回り込める?」
ドローンの映像を見ながら、真剣に情報の分析を行っているアイリーンに俺は尋ねてみた。
「店長、コンビニ支店1号店のキャタピラーの速度ではとても追いつけません。ここにいる全員をいったんコンビニの地下シェルターに収容して。小型カプセル化をさせた状態で、飛行ドローンに乗った店長が最高速度で空から向かうべきでしょう!」
「そうか。確かに間に合わせるには、その手しか無さそうだな。アイリーンの提案するその案を採用したとして、巨大要塞の前に回り込むには、どれくらいの時間がかかる?」
「店長のドローンを操作する飛行技術があれば、おそらく約1時間半ほどで、先回りが出来ます! カディナに巨大移動要塞のコンビニが到着する、約30分前には敵の正面に降り立つ事が出来るはずです」
「分かった! じゃあすぐに行動に移すしかないな!」
そう……やるしかないんだ! もう、俺達に残された時間はあまりにも少な過ぎるからな。
「彼方くん〜、でも、ここに配置した2000体を超えるコンビニガードさん達の防御陣はどうするの〜!?」
玉木があたふたと慌てながら、尋ねてきた。
「それは、ここに残していくしかないさ……。ここまで準備したものが、完全に無駄になっちまったけどな」
整列させたコンビニガード達による防御陣を、瞬時にテレポートさせるようなスキルは今の俺には無い。だとするとやはり、俺達6人だけで敵に挑むしかないだろう。
「そんにゃ〜〜!? そんな戦力じゃますますもって自殺しに行くようなものなのにゃ〜! 大好きお兄さん、本当に大丈夫なのかにゃ〜?」
「全然、大丈夫じゃない。でも、行くしかない! うちには時間制限付きで最強パワーを発揮出来るパティもいるし、守護騎士のアイリーンもいる。みんなで力を合わせれば、きっと何とかなるさ!」
「でたのにゃ〜! そんな少年漫画のキラキラ精神論だけで、勝てる訳がないのにゃ〜〜! むごむごっ!?」
もふもふ娘の口に、至高のサバ缶を与えて。とりあえず無理やり納得させておく。
申し訳ないけど、今は本当に時間が無さ過ぎるんだ。ここで議論しているよりも先に、一刻も早くカディナへ向かうしかない。
「アイリーンだけは、俺とは別の飛行ドローンに乗って、直接カディナの街を目指してくれ。30分じゃ街にいる大勢の住人の避難は無理かもだけど、せめて杉田達とは事前に連絡を取っておきたい!」
「了解しました、店長! 私が先行して、先にカディナの街に戻る事にします!」
他のみんなには、急いでコンビニ支店1号店の中にある地下シェルターに入って貰った。
そして小さなカプセル状態にしたコンビニ支店を手に持って、俺は飛行ドローンの上にすぐに飛び乗り。最大スピードで西の方角を目指す事にする。
頼む、どうにか間に合ってくれ……。
巨大移動要塞のコンビニが、カディナの街へと辿り着く前に。俺達は必ず敵のボスであるレイチェルを倒さないといけない。
そして、全ての決着をここでつけてみせる。この世界の未来と、コンビニに関わる全ての人達の命を守り抜く為に――今度こそ絶対に勝利してみせる。




