第四十四話 異世界の勇者のお披露目 その②
「さあ、金森くん。始めようか! 僕達がこれから作り上げる伝説の1ページをね――!」
アッサム要塞を見下ろす高い丘の上で。
異世界の勇者達一行のリーダーである、倉持悠都が高らかに右手を突き上げた。
「よーし! みんな、僕達の訓練の成果をこの世界に住む人々に見せつける時だ!! さあ、行こうーー!!」
『不死者』の勇者である倉持が、振り上げた右手を大きく前方に振り下ろす。
それがアッサム要塞攻略作戦の、開戦の合図となった。
「よっしゃああぁーーーっ!! 行くぞーーーっ!!!」
「うおおおおおおぉぉぉぉーーーっ!!!」
倉持の合図を受け、異世界の勇者達が次々と丘を駆け下りていく。
目指すは、多数の魔王軍が立て篭もる難攻不落の要塞――『アッサム要塞』。
先陣をきって丘を駆け下りていくのは、『氷術師』の勇者である霧島正樹。そして『水妖術師』の勇者である、金森準だった。
雄叫びをあげながら全速力で、先陣を切るこの2人は――。今回の作戦において、最もやる気と気合いに満ち溢れたメンバーでもある。
他の勇者達は勢いよく先陣を切る2人から少し遅れて、丘の上からゆっくりと集団で下りて行く。
その様子はまだ、どこか緊張をしているようで。それぞれがおっかなびっくりに震えながら、何とか先行する2人に遅れまいと、慌てて後に付いて行く感じだ。
勇者達の中には、初めての本格的な実戦に緊張しているメンバーもいれば……。
先行する2人ほどには、今回の作戦に対してのやる気もなく。最初は様子を見ていようと、慎重に行動をする勇者も沢山いるようだ。
けれど、一度戦いが始まってしまったからには全員が作戦通りに動かなければならない。そうしなければ、この場にいる全員の命取りになってしまう。
こちら側はたったの12人なのに対して。
アッサム要塞に立て籠る魔王軍の数は、数万匹を超えている。
このアッサム要塞には、ゴブリンやオークを中心とした低級の魔物達がわんさかと中にひしめいていた。
いくら強力な能力があるとは言え、1人だけでは絶対に太刀打ち出来ない敵の数だ。もし油断をすれば、確実にその命さえも落としかねない。これはもう訓練ではない。本物の『戦争』なのだから。
12人の勇者達は、それぞれがあらかじめ作戦で決められたポジションに移動を開始した。
まず先制の攻撃を加えるのは、多数の敵への範囲攻撃が得意な3人の勇者達だ。
「これでもくらいやがれーーっ!! 『氷矢砲撃』ーーっ!!」
『氷術師』の勇者である霧島が、100を超える無数の『氷の槍』を空中に作り上げる。そしてそれを要塞の外壁周辺を守っていた魔物の群れに向けて、上空から一斉射撃した。
――”ヒュンヒュン!! ドシュドシュドシュ!!”
魔物達の上空から、無数の氷の槍が降り注ぐ。
霧島の攻撃によって、オークやゴブリンを中心とした要塞の守備隊が、一度に100体以上も瞬時に殲滅させられた。
外敵の攻撃に気付いた要塞の守備隊が一斉に、砦から躍り出て来る。
アッサム要塞は、石造りの小さな砦が無数に立ち並んだ、巨大な食品工場のような構造になっている。
出入り口の近くにいた外壁の守備隊が……。突如出現した氷の槍に貫かれ一度に全滅させられた事を知った魔物達は――勢いよく各砦から一斉に飛び出して来た。
……だが、そこに轟音と共にもの凄い勢いで迫り来る『激しい水流』と――『無数の火炎弾』が、同時に襲いかかる。
「あっはっは〜! 汚いゴミはまとめて水道ホースで一気に流さないとね〜! みんなまとめて僕の『暗黒水流』で流されちゃいなよ〜っ! 下衆な汚物さん達ぃ〜〜!」
『水妖術師』の金森が、ニヤニヤとな笑いながら、先行する霧島の後に続く。
それに少し遅れて、
「……『火炎豪雨』ーーッ!!」
『火炎術師』の杉田勇樹が震えながら、大量に作成した火玉を空中から降らせて援護射撃を加えていく。
この3人の勇者達は、一度に複数の敵や、多数の魔物達に一斉に範囲攻撃をする能力を得意とした勇者達である。
彼らが先行して、要塞の入り口付近を守る敵の守備部隊を殲滅し、道を切り開いていく。
……だが、アッサム要塞に立て篭もる魔物の数は、数万を超える。その内訳は、オークやゴブリンなどの低級な魔物ばかりではあるが、その数による脅威は侮れない。
先行する3人の勇者達の範囲攻撃からかろうじて逃れた、複数の魔物達が、要塞の出入り口を再度守ろうとここに殺到して来た。
そこに――、
「水無月さん、美雪さん、敵が来ます! 金森くん達の援護をお願いします!」
「了解しました! 倉持さん!」
「…………………」
『槍使い』の勇者である水無月洋平。
そして、『不死者』の勇者である倉持悠都。
さらにはリーダーである倉持を護衛する『結界師』の勇者である、名取美雪の3人が――要塞への突入を開始する。
高速の槍を振り回し、魔物を次々と切り裂いていく水無月洋平。
無数の上級魔法を使い、逃げ回る魔物達を圧倒する倉持悠都。
その2人を結界を張って援護しながら付いて行く名取美雪。
『暗殺者』の勇者である、玉木紗希だけはどこにいるのか誰にも分からなかった。
おそらく『隠密』の能力を使って姿を消しているのだろうが――敵からも味方からもその存在が分からないので、誰も彼女の現在の位置を把握する事は出来なかった。
でも、もしかしたらその辺で勝手に転んで足を痛めてしまい……。全員に内緒でこっそりと建物の隅で隠れているのかもしれない。
アッサム要塞へ突入した、合計7人の勇者の後方では……。
「――『偉大なる防壁』!!」
2軍メンバーである『防御壁』の勇者である四条京子が、その能力を使って要塞侵入路に、橋頭堡とも呼べる前線基地を建造した。
出入り口のある要塞の外壁付近に、横幅が15メートルを超える巨大な石の壁が4つ。ちょうど正方形を形作るように建造されている。
その後方支援用の基地の中で、全体の戦況を異世界の勇者全員に知らせて共有する役割を担う『無線通信』の勇者――川崎亮が、思念通話を開始する。
そして、要塞内の地図を作成し、全体の攻略作戦を立案する『地図探索』の勇者である、佐伯小松。
更には、傷ついたメンバーを回復する役であり……今回のアッサム要塞攻略作戦に参加をした勇者の中では――最もレベルが高い、『回復術師』の勇者である、香苗美花が、その後方支援基地の中で待機をする。
そして、彼ら後方支援組のその更に後方で。
1番最初に異世界の勇者達が陣取っていた高い丘の上に――『狙撃手』の勇者である、紗和乃・ルーディー・レイリアが1人で待機をしている。
紗和乃は異世界の勇者達の中でも、1人だけ特徴的な外見をしていた。
彼女はブラジル人と日本人のハーフであり、その浅黒い肌と腰まで伸びた長い金髪の髪。そして美しい青色の瞳が特徴的な女性であった。
「川崎くん、みんなに知らせて! 西の方角から敵の集団がこちらに向かって来てる。数はおよそ2000よ!」
紗和乃の役割は後方支援をしつつ。高い丘の上から、要塞内の敵の動きを全体に知らせる『索敵』の役割もこなしていた。
『狙撃手』の能力で、遠い敵の位置を正確に見通せる彼女は、敵の様子を探り。それを『無線通信』の勇者である川崎翔へと伝える。
紗和乃と川崎は事前に、互いの思念通話のラインを結んでいた。
そして、丘の上の紗和乃が索敵した情報を、川崎が要塞内に侵入している先行部隊に――『思念メッセージ』として伝える役割をこなしている。
それによって現在、要塞のどこが手薄なのか。また、どの方角から敵が殺到して来ているのかを、作戦に参加している全ての異世界の勇者達が共有出来るのである。
「――これでも、食らいなさい!! 『遠方射撃』!!」
丘の上から、紗和乃が放つ数十を超える光の矢が、西から後方支援基地に迫って来ていた魔物の群れに一斉に降り注ぐ。
遠方からの後方支援攻撃を得意とする紗和乃が、敵の位置を確認しながら、攻撃の手薄になっている場所への援護射撃も加えていく。
異世界の勇者達12人が、アッサム要塞の内部に侵入し。
数万を超える魔物の群れと交戦を開始してから、僅か20分ほどで――。
強大な能力を持つ異世界の勇者達は、互いに連携しながら要塞の攻略を進めていき、戦いは圧倒的な優勢を保ちながら、順調に推移していった。
数で勝るはずの魔王軍の魔物の群れは、異世界の勇者達の攻撃によって次々と倒され無惨に蹴散らされていく。
「……おおおおーーっ!! 凄い、さすがは異世界の勇者様方だッ!!!」
異世界の勇者達によるアッサム要塞への攻撃を、遠くの丘の上から騎士団と共に見守っていた、西方3ヶ国連合の首脳陣が感嘆の声を漏らす。
「クルセイス殿! まったく見事な活躍ぶりですな。さすがは異世界の勇者様方……としか言いようがないですぞ! 我ら西方3ヶ国が30年以上も奪還に失敗し続けてきたあのアッサム要塞を。こうもあっさりと攻略していくとは……。しかも、たったの12人だけで! まさに異世界の勇者様は、伝説通りの実力を持った英雄揃いでございますな!」
西方3ヶ国連合の1つ。
『カルツェン王国』の王であるグスタフが、隣に座っているグランデイル王国女王クルセイスに、驚愕の表情で話しかけた。
「ええ……時間はかかりましたが、異世界の勇者方は立派に成長を遂げられました。ですが、異世界の勇者方の育成に半年以上もの歳月をかけてしまい、前線への参加が遅れてしまった事を、グランデイル王国の代表として、深くお詫びを致します」
グランデイル王国女王のクルセイスが席を立ち、周囲に座る、西方3ヶ国の王達を見回し深く頭を下げる。
「――何をおっしゃいますか、クルセイス殿! あの成果をご覧下さい! まさに異世界の勇者様は、その一人一人が数万の騎士達よりも遥かに勝る、最強の戦士達ではないですか! そこまで立派に育成をされたグランデイル王国の功績は、称賛さらるべきものですぞ! このグスタフ……カルツェン王国を代表して、この場でクルセイス殿に感謝の意を伝えさせて頂きますぞ!」
カルツェン王国の王グスタフが、クルセイスに対して固い握手を求める。
カルツェン王国の王は、女神崇拝をしているこの異世界では珍しく男性が王位に就いている。
彼は計算高い王であり、異世界の勇者が実力通りの成果を上げた事を知り……。今後の世界が勇者を育成したグランデイル王国を中心に回っていく事を先読みして、クルセイスに媚を売ろうと企んでいた。
だから、出来るだけクルセイスからの印象を良くしておこうと、さっきから熱心に美麗なお世辞の言葉を並び立てているのだ。
クルセイスもグスタフの内心をちゃんと察していたが、すり寄ってくる者を拒む理由もない。
笑顔でそれに応じ、両者の周辺に座っている他の各国の首脳陣からも盛大な拍手がその場で沸き起こった。
「おおおおっ! さすがは伝統あるグランデイル王国の女王クルセイス様だ。異世界の勇者様の召喚に成功し、その育成も立派に成し遂げられて……なんと偉大なお方なのだろうか!」
王族だけでなく、各国の騎士を束ねる騎士団長クラスの幹部達までもが、グランデイルのクルセイス女王の功績を褒め讃え盛大な拍手をする。
まさにこの瞬間――ここにいる全ての人々が、世界の歴史が変わる瞬間に立ち会ったのである。
100年に及ぶ魔王軍との戦争は、今日から激変するであろう。
人類の最終兵器。伝説の異世界の勇者様が戦いに参戦したのだから。もう魔物達の好き勝手にはさせない。
あそこで活躍している12人の異世界の勇者様方が、この世界を救って下さるのだ。
そんな、祝福モード全開のこの場に……。
1人だけ、クルセイスに対して水を差す発言をする者がいた。
「――ときに、クルセイス様。グランデイル王国は最近、商業都市であるカディナ自治領との国交を断絶されたと聞き及びましたが……それは事実なのでしょうか?」
盛大に鳴り続けていた拍手の音がピタリと止む。
クルセイスは静かに席に座り、横槍を挟むような発言して来た人物の方に向き直った。
祝福モードに水を差す発言をしたのは、西方3ヶ国連合の1つ。
『ドリシア王国』の女王、ククリア・ドリシアである。
彼女はこの場にいる全ての王族の中で、最年少の王であった。
その年齢は――何とわずか15歳。
あまりに幼いその年齢にも関わらず、その知略と聡明さは世界で最も賢く、『世界の叡智』とも称されている程でもある。
「……ククリア様。グランデイル王国が最近、カディナ自治領との国交を途絶えさせてしまった事は確かに事実です。ですが、それは相互の間に生じた誤解によるものであり、現在大臣レベルでの外交交渉を継続している所です。ですので、それほど時間をかけずに国交の再開は果たせるものと私は確信をしております」
クルセイスが、言葉を慎重に選びながら発言をする。
それに対して、ドリシア王国の幼い女王ククリアは『ふむふむ』と笑みを浮かべながら首を捻った。
「それはとても良い事ですね、クルセイス様。カディナ自治領は経済的にも大きな影響力のある街です。3000人ものグランデイル王国の騎士団が、街の周辺で騒ぎを起こした事件を、ただの『誤解』と相手方も認識をしてくれていたのなら。きっとその件は大した事ではなかったのでしょう。いえ、大変失礼な事を聞いてしまい本当に申し訳ありませんでした」
ククリアはクルセイスの目を見つめながら、小さく頭を下げる。
クルセイスは、ククリアがどこまで事情を知っているのかと内心ではビクビクしていた。……もしかしたら、この小さな女の子は全てを知っているのではないだろうか?
「いいえ……。今回の事は我がグランデイル王国が生じさせてしまった問題です。これから世界が一致団結して、魔王軍と戦っていくという最中に和を乱すような問題を起こしてしまった事を深くお詫び致します。早々にこの誤解が解けるよう、私も尽力して参りますのでどうか安心下さい」
クルセイスもククリアに頭を下げて。その場の小さな緊張は収まった。
おそらくドリシア王国のククリア以外は、カディナ自治領とグランデイル王国との間に起きている確執を知らない者がほとんどだったようだ。
皆がポカンと、2人のやり取りを見つめていたが。とにかくは無事にその場が収まったのなら問題はないだろうと、改めて気を取り直す。
そして、再び前方で行われている異世界の勇者達の活躍に各国の首脳は注目をした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……何だか世界各国の王様達も、色々と気苦労とかがありそうなんだな……」
そんな、世界中の首脳陣の様子を……。
クルセイスや各国の首脳陣が座る席の足元の近くに。こっそりと忍ばせていた小型のドローンで監視をしながら。
コンビニ戦車の中で、コンビニの勇者こと……秋ノ瀬彼方が王族達の様子を観察していた。
彼方達のいるコンビニは、現在アッサム要塞を望む丘の真下――ちょうど魔物達からも、後方の西方3ヶ国連合の騎士団達からも死角になる、深い窪みのある場所に隠すように潜ませている。
「彼方様……、大変です!! アッサム要塞の上空に巨大な魔物の影が接近して来ています!」
コンビニの中で、監視映像を見ていたティーナが叫ぶ。
ティーナが見つめるパソコンのモニターには、アッサム要塞の上空に待機をさせていた、ドローンの映像が映し出されている。
そこには――………。
全長30メートルを超える、巨大な『ドラゴン』が、翼を羽ばたかせながら、アッサム要塞に向けて急接近して来ていた。




