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第四十三話 異世界の勇者のお披露目 その①


「よーし、俺もそのアッサム要塞攻略作戦とやらに参加して、大暴れをしてやるぜッ!」



 俺は玉木の前で右手を上げ、高らかに宣言をする!



「えええっ〜〜!? 彼方くん、今回のお披露目会に参加する気なの〜!? 倉持くんとか、金森くん達がいるのに本当に大丈夫なの〜!?」


「はっはっは〜! 俺に全部任せておけーー! ……って言うのは、全部冗談だけど。悪いな、玉木! 俺は今回は参加せずにパスさせて貰うよ。お前達の活躍を遠くから見学させて貰うから、まあ、頑張ってくれよな!」



 驚愕の表情を浮かべていた玉木が、ガクッと膝を折って、前のめりに倒れかける。



「は、ハア〜〜っ!? な、何なのよ、ソレ〜!!」


 唖然とした顔をしている玉木に、俺は説明をする。


「……だってそうだろう? 倉持や金森達には今、俺は魔王の谷に落ちて、死んだって事になっているんだぞ。それなら、その方が好都合じゃないか。そのまま俺が死んだとアイツらに思い込んで貰った方が、自由に動きやすいしな」


 今までもそうだったが、あの妖怪コンビに目をつけられると、本当に面倒くさい事しか起きない。


 カディナの壁外区にいた時だって、別に俺が何かをしたって訳でもないのに、いきなり討伐軍なんかを送ってきやがったしな。


 まあ、おかげでコンビニのレベルを大きく上げる事は出来たけど。


「俺がこれから、この世界でのんびりとコンビニ生活を送るにしても。魔王軍との戦いに参加をするにしてもだ。アイツらには絶対に、俺の存在は気付かれない方がいいと思う。だから今は、悪目立ちをしない方が得策だと思っているんだ」



 俺の話を聞いた玉木が、納得するように呟く。


「うーん。それは、確かにそうかもね。だって倉持くん、異常なくらい彼方くんに執着しているみたいだものね〜。彼方くん……何か、倉持くんとの間に深い因縁でもあるの? 私、すっごく不思議なんだけど?」


「ハア……? 別に俺とアイツとは何にも無いぞ。俺は倉持とは、ほとんど接点なんてなかったし。――あ、小学生の時に何度か同じクラスだった事はあったけど。まあ、別に特に仲が良かった訳でもなかったしな。アイツは他の街の中学受験に合格をして、どこか遠くの有名私立中学校に1人で行ってしまったし……。それ以来、お互いにあまり連絡は取ってなかったしな」


「……ええっ!? 彼方くんと倉持くんって、小学生の時の同級生だったの〜? じゃ、じゃあ地元が近かったりしたの?」


「近いも何も、お互いの実家がすぐ近くにある、結構なご近所さんだぜ? それこそ幼稚園とか幼い時は、一緒によく遊んだりした事もあった気はするけど……。まぁ、あんまり憶えていないな」



 俺は遠い昔を思い出すようにして、頭を斜めに傾ける。


 ……うん。考えても、やっぱりアイツの事なんてあまりよく思い出せない。きっと記憶にロックをかけているのかもしれない。


 それに妖怪倉持との、子供時代の事を思い出すなんて生理的にもマジで嫌だし。出来ればアイツとの想い出は、俺の記憶の片隅から強力な洗浄剤とモップをかけて、徹底的に追い出したいくらいなんだぞ。


「彼方くんって……昔の事をすぐ忘れたりしてそうだよね〜? ちなみに、中学生の時に他県から転校してきたばかりの私と一緒のクラスになって。まだ、新しい生活に馴染めなかった私とよく、放課後に一緒に遊んでくれたのは覚えてたりするの?」


「ん……? ああっ、それはよく憶えているよ。地味な眼鏡っ子で大人しそうな女の子が転校してきたから、俺と杉田でゲーム部にお前を誘って、授業そっちのけで毎日ゲーム三昧な生活を送ったりしたよな。あの頃は本当に楽しかったよなー。俺がいつもオセロや将棋で勝ちまくって、お前と杉田は毎回罰ゲームの常連だったよな」


 俺がうんうんと、中学時代の懐かしい思い出に浸って頷いていると。

 玉木は顔を赤くしてジト目でこっちを睨んでくる。



 ――んん? 今度は、一体何だよ?


 また俺は、何か玉木を傷つけるような事を言ってしまったのだろうか?


「ハア……。彼方くんは本当に色々と鈍感だものね〜! きっとクリスマスに私と一緒に過ごした時の事とか、全部忘れてそうだし。そんな感じで倉持くんともきっと、過去に何か因縁があったのに。普通に忘れてるとか全然ありそうだものね〜……」


「ん、クリスマス……? ――何かあったっけ?」


「いいの、いいの! それは何でも無いから〜!! それよりも彼方くんは今回のアッサム要塞の攻略作戦に参加しないとして。その後はどうするつもりなの〜?」


「うーん、そうだな。俺も魔王軍がどんな感じなのか知りたかったから、倉持達の戦いを見学させて貰った後で……」



 俺はこの先、どういう風にこの異世界で過ごすのか。

 その生活プランについて思いを馳せるみる。


「そうだな……。俺は一度、グランデイル王国に立ち寄ろうと思うんだ。玉木を一緒に連れて行くにしても、3軍のみんなを人質にされていたら、お前も動きが取りづらいだろう? だから、3軍のみんなに事情を説明して。全員を俺のコンビニに乗せて。どこかグランデイル王国から遠く離れた、安全な国にみんなで移住したいと思っているんだ」


「ええっ〜!? 彼方くん、私も一緒に連れて行ってくれるの〜?」


「いや、そんなのは当たり前だろう。お前は俺のコンビニの従業員ナンバー2号じゃないか! お前を一緒に連れて行く為に、3軍のみんなも強引に拉致して、一緒に連れて行く事に決めたんだからな。お前は心配性だし、無駄に責任感が強いから。3軍のみんなを街に残したままだと、その事をずっと気にして、心配しちゃうだろう?」



 俺の話を聞き終えた玉木が、身震いをして。

 ずっと体を震わせながら俺の顔をジーッと見つめてくる。



「ううっ……彼方くん…… 。そんなにまでして、私のことを〜! ううっ。私は嬉しいよ〜〜! あのクリスマスの思い出の時と同じくらいに今、私はホントに嬉しいよ〜〜!」



 玉木が突然体を起こすと、またガバッと両手を広げて俺を抱きしめようと飛び掛かる――!



「彼方く〜〜〜ん!! ……む、むぎゅ〜ッ!?」



 そしてまた、俺に抱きつく寸前の所で。

 アイリーンの黄金の剣が、それを完全ガードする。



「……店長に危害を加える事は、私が絶対に許しません!」


「もう〜〜!! だ〜か〜ら〜! 何も危害は加えないって言ってるでしょう? この分からず青髪(あおがみ)女!!」


「私はコンビニの店長をお守りする守護騎士(ガーディアンナイト)です。『分からず青髪女』などと言う、変な名前ではございません!」


「何よ〜〜!! キ〜〜〜ッ!!」


 俺の目の前で、玉木とアイリーンが謎の戦いを始めてしまった。止めようと思ったけど、まあ……しばらくは放っておくか。


 俺も考え事があるし。しばらく2人でスキンシップをしてもらって、ちゃんと仲良くなって貰おう。



 俺はこれから倉持達のアッサム要塞攻略作戦を見学して、そこで魔王軍の実力と、他の異世界の勇者の実力も見させて貰うつもりだ。


 俺のコンビニがどの程度、魔王軍にも通用をするのかを見極めたいしな。


 そして、その後で玉木を連れて倉持達よりも早くグランデイル王国に戻る。

 おそらく作戦が終われば、活躍した異世界の勇者達の祝賀会が行われて、倉持もすぐにはグランデイル王国には戻れないだろう。


 本当は、1軍の選抜勇者に所属している連中にも声をかけて――倉持の支配から離れたい奴がいたら、一緒に行動をしたいくらいなんだけどな。


 でも、選抜勇者はみんなグランデイル王国の貴族だ。


 1軍のみんなは、それぞれに自分の領地も持っていたりするみたいだし、どの程度グランデイル王国とべったりな関係なのかもまだ分からないしな。

 1軍のメンバーの中には、倉持とはもう関係なく、自分の治めている領地に既に居場所を確保している奴も多いだろう。


 だから急に現れた俺が声をかけても、話を聞いてもらえない可能性がある。

 出来れば親友である杉田や、街で交流のあった水無月とだけでも連絡をとりたい所なんだが……。今回はタイミング的にもちょっと難しいかもしれないな。


 アッサム要塞攻略作戦の後は、他の3軍メンバーを連れ出す為に、俺はすぐにグランデイル王国に戻らないといけない。


 だからしょうがない。

 今回はドローンで2人に手紙を届けて、いつか合流をしようと、声をかけておくだけに留めておくか。


 選抜勇者である2人なら、倉持に何かをされるという事もないだろうし。



「――店長! 店長に危害を及ぼす可能性の高い、変な動きをする女を完全に封じておきました。この後、私はいかが致しましょうか?」


 アイリーンに声をかけられ、視線を再び2人に戻すと。



「フシュ〜〜! フシュ〜〜!」


 そこには、両手両足を背中で一括りに縛られて。

 完全に身動きが取れない、みの虫状態にされてしまった玉木の姿があった。


「……一体2人で何をどうしたら、そんな状態になっちゃうんだよ。アイリーン、ちゃんと玉木を縛っているその縄を解いてやってくれよな……」


 俺がそう注意をすると。


「ハイ、店長がそうおっしゃるのでしたら……」


 アイリーンが不満そうな顔で、しぶしぶ玉木の拘束を解く。よっぽど玉木を猛獣のような危険人物とでも思ったのだろうか? 

 そんな何重にもぐるぐるにして縛らなくてもいいのに。


 俺はアイリーンを連れて、いったん玉木の泊まるこの宿舎から、ティーナが待つ宿に戻る事にした。


 ここであまり騒ぎすぎても、マズイしな。


 この宿舎には倉持や金森はいないが、他の異世界の勇者達も何人か泊まっている。だから、下手に騒ぎ過ぎてそいつらに気付かれしまうのは良くない。



 それにしても、今日は何だか不思議な感じのする夜だな。


 ――今、この街には選抜組をはじめとして、たくさんの異世界の勇者が集まっている。


 それこそ俺を殺そうとした委員長の倉持や、金森だってここにいるのだし……俺をグランデイル王国から追放した、クルセイスさんもこの街のどこかにいるのだろう。


「少し前までは、みんな同じクラスメイトで普通に仲良くしていたのにな……。一体どうして、こんな不思議な状況に巻き込まれてしまったんだろうな?」


 そしてこの異世界で、俺達の未来はこれから一体どうなってしまうのだろう?


 大昔に世界を支配したと言われる魔王のように。

 俺達の中からも、いずれはこの世界に残って……魔王として君臨してしまうような奴も出てきてしまうのだろうか?


 まあ、そうだとしたら最有力候補は倉持で間違いないけどな。


 ――そうか! そういえば……。


 この街にクルセイスさんがいるのなら。俺達、異世界人が魔王を倒した後で本当に元の世界に戻れるのかどうなのかを直接聞いてみたかったな……。

 今の所、その事をちゃんと知っているのはクルセイスさんだけのようだし。


「まあ……アッサム要塞攻略作戦の後で、もし話しかけられる機会があったのなら、その事を尋ねてみようかな」



 俺は何とかしてクルセイスさんに会ってみようと、密かに心の中で決心する事にした。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 



 そして、瞬く間に時間は流れ。



 グランデイル王国主催。

 異世界召喚された勇者達による、


 魔王軍の要所――『アッサム要塞』の攻略作戦の当日となった。



 今回の作戦に参加する異世界の勇者は合計12名。


 アッサム要塞を見下ろす高い丘の上で、異世界の勇者達が全員集結してそこに立ち並んでいる。



 その丘の後方では、西方3ヶ国である――、


『カルツェン』『カルタロス』『ドリシア』の、3つの国々の王族と、『グランデイル王国』女王のクルセイスが、それぞれ自国の騎士団を率いて見守っていた。


 攻撃をかける異世界の勇者は、たったの12人だけなのに対して。

 その後方で見守る西方3ヶ国連合の騎士団と、グランデイル王国の騎士団の合計は3万人を超える大兵力となっている。


 各国の首脳がこの場に一堂に会しているのだから、それは当然の事だった。


 それだけ今回の『異世界の勇者のお披露目会』をかねたアッサム要塞攻略作戦が……。


 今後の世界の命運をかけた大きなイベントである事をうかがわせる。



 異世界の勇者が、(いにしえ)の伝承通りに、大きな活躍をしてくれたなら――魔王軍との長きに渡る戦いにも、ついに終止符が打たれる可能性がある。


 魔物との戦いに明け暮れていた西方3ヶ国連合の国々も、やっと長きに渡る魔王軍との戦争を終える事が出来るのだ。



 対する魔王軍が占領している『アッサム要塞』は、元々西方3ヶ国連合の1つである『カルツェン王国』が30年前に建造をしたものである。


 それが魔王軍に占領をされてしまって以来、アッサム要塞は西方3ヶ国を攻める魔王軍の根拠地として、長く敵に利用され続けてきていた。



 今回はその『アッサム要塞』を――。


 この世界に召喚されて以来、約半年以上もグランデイル王国で訓練を続けてきたという、伝説の異世界の勇者様一行が……。


 大兵力である騎士団の力を借りずに、自分達のもつ特殊な能力(スキル)のみを用いて、単独で攻略するというのである。


 西方3ヶ国連合がこの30年もの間。

 数万人規模の騎士団を、何度も攻略に向かわせて失敗をし続けてきた難攻不落の要塞である。


 もし、このアッサム要塞攻略作戦が成功をしたのなら。


 それは異世界の勇者達は、数万人を超える騎士団の大兵力よりも、遥かに勝る戦闘力を持っていると言えるだろう。


 そして、その強大な力を持つ勇者達ならば――。


 きっと、西の土地に君臨していると言われる『魔王』をも打ち倒してくれるはずである。

 


「委員長〜! とうとう、この日が来ちゃいましたね〜! えっへっへっ……。今日は、僕達――異世界の勇者一行の大活躍が、この世界の全ての人々に語り継がれる伝説の日になる訳なんですよね〜!」


 アッサム要塞を見下ろす高い丘の上で。


水妖術師(エビル・ウォーター)』の能力を持つ、異世界の勇者……金森準(かなもりじゅん)が興奮気味に1人でヘラヘラと笑う。


「――そうですね。今日は、歴史に残る日になるのは間違いないでしょう。『不死者(エターナル)』の能力を持つこの僕が、この世界で偉大な足跡を残し……。やがて元の世界も含めて、全ての世界を変革する大英雄としての一歩を――今日、歩み始めるのですから」


 金森の呼びかけに応えるようにして。


 選抜組のエース。今回のアッサム要塞攻略作戦のリーダーである倉持悠都(くらもちゆうと)が、不敵な笑みを漏らした。



「さあ、金森くん。始めましょうか! 僕達がこれから作り上げる未来の伝説の1ページをね――!」


 

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― 新着の感想 ―
偏差値って前話でコメントしたけど違ったわ。低いのはIQだコレw何で今の段階で女王に会いたがるのか?完全にパッパラパー案件だよwいや、こう言った主人公も楽しいから良いんだけどさw
[気になる点] 何されても復讐しない主人公も、ある意味サイコパスな気がする。一部で倉持よりも理解しづらいところあるかも
[気になる点] つくづく思うけど死んでも5回まで復活ってショボいよな、死ぬたびに残機減ってく上に復活しても目の前に自分を殺した相手が存在するから下手すると一気に残機ゼロになるし 魔王の谷に落ちてたら1…
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