第四十二話 アッサム要塞攻略戦 参加勇者一覧名簿
「……か、彼方くん!? どうして彼方くんが、ここにいるのよ〜!?」
玉木が、まるで死人でも見たかのような驚きの表情を浮かべている。
「……ん? そんなの、アイドル気取りのお前の鼻をへし折りにきたに決まっているだろう。何だよ、あの昼間のもの凄〜く恥ずかしいパレードは? クラスメイト達がまるで、オリンピックで大活躍した選手団の凱旋みたいな扱いになっていて、俺はめっちゃむず痒かったぞ」
「彼方くん、あのパレードを見ていたの〜? やだやだ、私めっちゃ恥ずかしいよ〜〜!!」
玉木が顔を真っ赤にしながら、身悶え始める。
両手で顔を隠して。ベッドの上で体をクネクネと揺らし始めた。
「……そんなに恥ずかしいなら、大人しくしていれば良かったのに。お前、結構ノリノリで踊りながら、街の人達に投げキッスまでしてたじゃないか……」
全く、玉木は……目を離すと。
いつもすぐに調子に乗ったりするからな。
俺がジト目で、寝起きの玉木の姿をじっと見つめ続けていると――。
シクシクシク……。
――あれ? 玉木が両手で顔を隠したまま。なかなか顔を上げようとしないぞ?
おまけにさっきからシクシクシク……って、泣き声まで布団ごしに聞こえてくるし。
うーん。俺、少し言い過ぎちゃったかな?
もしかして、予想以上に玉木を傷付けてしまったりしたのかもしれない。
「……た、玉木? 大丈夫か?」
俺は心配になって、すぐに玉木に声をかける。
すると玉木は突然、顔を上げて。体を震わせながら嗚咽のような声を漏らした。
「……ううっ……。か、彼方くんが生きていてくれたなんて〜! うわーーん、私、本当に嬉しいよ〜〜!!」
顔を上げて。目元を真っ赤に腫らした玉木が、ベッドから飛び起きた。そして両手を広げて、もの凄い勢いでこちらに駆け寄ってくる。
「彼方くん〜〜!! 私……本当に、彼方くんの事を―――って、むぎゅぅ!?」
両手を広げて、俺に抱きつこうとしていた玉木が……。寸前のところで、アイリーンの伸ばした金色の剣の鞘によって強制ガードされた。
「――店長に危害を加えようとする者は、何人たりともこの私が許しません」
頭にアイリーンの剣の鞘を当てられて。
動きを止められた玉木が、目の前のエサを前に、お預け状態にされた子猫のような呻き声を漏らす。
「ううっ、か、彼方くん〜! 一体、何なのよ〜! この女の子は〜!?」
「ああ……。そういえば、玉木はまだ初対面だったな。ここにいるのは、コンビニの守護騎士のアイリーンだ。魔王の谷の底でレベルアップをした時に、俺の仲間になってくれたんだよ」
「正確には『コンビニ店長』を守る責務を任された騎士です。ですので、店長の安全を脅かす者は全て私が排除させて頂いております」
「……わ、私が彼方くんの安全を脅かす訳がないでしょう〜!! もう〜〜! いいムードだったのに〜! 彼方くんからも、この青髪コスプレの女の子に言ってあげてよ〜!」
玉木が地団駄を踏みながら激昂する。
まあ、アイリーンからしたら。知らない女が急に俺に飛びつこうとしてきたから止めた……って、だけなんだろうけどな。
だからその辺りは大目に見てやって欲しい。
「アイリーン、この少し挙動のおかしな女の子は、俺の知り合いなんだ。だから、たぶん……危険はないと思うから大丈夫だよ!」
「『たぶん』って、何なのよ〜〜!? 安全かつ可愛い、純真無垢な妖精のような女の子に決まっているじゃないの!」
いやいや。それを自分で言われてもなぁ。
ドヤ顔で胸を張る玉木が、何かを思い出したように急に手を叩く。
「分かった! 彼方くん、アレでしょう? 私がこの1ヶ月間、倉持くんや金森くん達に、想像を絶する超ハードな拷問をされて、身も心も完全に支配されてしまったとか……そんな卑猥な妄想をして心配していたんでしょう!?」
「いーや。俺は、全然そんな心配なんてしてないぞ? でも、実際の所はどうなんだ? 今回の異世界の勇者のお披露目会にも積極的に参加をしてるなんて、お前らしくない気がしたけど。何か理由があったりするのか?」
玉木は元々、魔王との戦いに積極的ではなかった。
だから俺のコンビニに、毎日通って来ていたくらいだしな。それが1軍メンバーがほぼ全員参加をしてるとはいえ。今回の遠征に、玉木が参加をしているのには違和感があった。
玉木は、今までの興奮気味な声のトーンを急に落として……。
顔を曇らせながらゆっくりと話す。
「……私だって、今回のお披露目会に参加なんてしたくなかったわよ〜。でもしょうがないのよ。彼方くん達と離れて倉持くん達に捕まってから、ずっと……。私はもう2度とグランデイル王国から逃げ出さないようにと、脅迫されていたんだもの……」
「脅迫だって!? アイツら、一体お前に何を言ってきたんだよ!」
「うん……。もし、私がまた勇者育成訓練をサボって逃げ出そうとしたら。街に残る3軍のみんなを、彼方くんと同じように追放して。全員路頭に迷わせてやるぞって、そう倉持くんに達に脅されているのよ……」
「そんな……同じクラスメイトを人質に使うなんて! あの最低なサイコパスども、本当に真性のクズ野郎だな!」
街に残る3軍のみんなは、当時の俺と同じで、戦闘系のスキルが全く無い。それこそ森の中なんかに放り出されてしまったら、みんな魔物に食い殺されてしまうぞ。
しかもクラスの副委員長として。責任感の強い玉木にそんな脅迫をしかけてくるなんて……。本当にクズとしか言いようがないな。
倉持の野郎、自分だって元クラス委員長だったくせに、同じクラスメイトをゴミのように扱いやがって。
「本当は私も、すぐに彼方くんやティーナちゃんを探しに行きたかったわよ〜。でも、『索敵追跡』の能力を使っても、ずっと彼方くんの居場所はあの魔王の谷の底から動かなかったから。私、彼方くんが谷の底でもう生きていないのかも……って、ずっと不安だったの……」
「そうか。まあ、それは仕方ないな。ただでさえ、あの谷に落ちたら最後……。2度と生きては帰って来れないと言われている恐ろしい場所だったからな。俺だって、あの谷底から脱出をするのに、1ヶ月以上もかかってしまった訳だし……」
目元の涙を拭いながら、玉木がうんうんと嬉しそうに頷く。
「うん。でも生きていてくれて本当に良かったよ〜! 彼方くん、よくあの魔王の谷の底で生き残る事が出来たね〜!」
「俺だって本当に不思議なくらいだよ。あそこには、化け物みたいに巨大な魔物達がウヨウヨといたからな。でも、そこでコンビニはさらにレベルアップをして、もの凄く強くなったという訳さ! そのレベルアップで新しく仲間になってくれたのがここにいる、アイリーンなんだけどさ。凄いんだぜ? それこそ世界を支配出来ちゃいそうなくらいに、アイリーンは桁外れに強いんだからな!」
「世界を支配するだなんて、彼方くん、まるで魔王みたいだよ〜! でも、本当に凄いよね〜。コンビニはどんどんレベルアップをして、確実にパワーアップしていってるんだね!」
俺達はアッハッハ……と、白い歯を見せ合いながら笑いあう。なんだか、こうやって玉木と夫婦漫才してるみたいに楽しく話すのは本当に久しぶりだな。
玉木の言うように、コンビニの勇者が魔王になるなんて事は、絶対にないんだけど。
そういえば、俺は実際に魔王軍とはまだ一度も戦った事が無いな。最強騎士のアイリーンを引き連れた今の俺のコンビニは、魔王軍を相手に一体どこまで通用するんだろう?
正直、かなり強い敵が現れても。今の俺なら十分に戦える気はする。
「――玉木、今回のアッサム要塞攻略作戦に参加する、他の異世界の勇者の能力やレベルなんかは分かるのか?」
俺は気になっていた事を玉木に尋ねてみた。
この世界に来てからもう半年以上――。
他の異世界の勇者達がどれくらい成長しているのか、やっぱり気になるからな。
「うん。分かるよ〜。私もこの1ヶ月、イヤイヤだけどまた勇者育成プログラムに参加をして、他のクラスのみんながどれくらい成長しているのかを身近で知る事が出来たから〜」
「そうか! それを一覧にして書く事とか出来るか? 他の異世界の勇者の能力やレベルなんかを、詳しく俺は知りたいんだが……」
「いいよ〜! 私、これでも記憶力はいい方だから任せてよ〜!」
寝起きの玉木が、部屋の机の上に紙を広げる。
俺は描きやすいようにと、コンビニから持参したボールペンを玉木に貸してやった。
玉木が、今回のグランデイル王国主催の一大イベント。
魔王軍の支配する『アッサム要塞』の攻略作戦に参加をする、異世界の勇者達の能力の一覧表を作成してくれた。
それによると――。
作戦に参加する異世界の勇者は12人。
その内訳は、
『1軍メンバー』
倉持悠都――レベル4
『不死者』『女神の祝福』の能力者。
最大5回まで、生き返る事が可能。
上級魔法を最初から使いこなす事が出来る。
初級の魔法攻撃や、飛び道具による攻撃を回避出来る。
玉木紗希――レベル2
『暗殺者』の能力者。
『索敵追跡』……特定の相手の所持品があれば、その位置を特定して追跡する事が可能。
『隠密』……気配を消して、自分の姿を周囲から見えなくさせる。
杉田勇樹――レベル3
『火炎術師』の能力者。
手のひらから、火炎を自由に放出可能。
炎の壁や複数の火の玉を繰り出し、攻撃や防御もこなせる万能術師。
金森準――レベル4
『水妖術師』の能力者。
大量の水流を自由自在に使いこなす。
『暗黒水流』……攻撃に特化した、強力な激流を相手に向けて放てる。
名取美雪――レベル4
『結界師』の能力者。
『広域結界』……対象である、複数のグループを広範囲から探し出す事が出来る。
『範囲結界』……結界を作り、相手を閉じ込めて能力を封じる事が出来る。
水無月洋平――レベル4
『槍使い』の能力者。
槍を高速で操り、複数の敵の集団が相手でも1人だけで殲滅出来るほどの強さを誇る。自身に向けて飛んでくる矢でさえも、槍を使って防ぐ事が出来る。
霧島正樹――レベル4
『氷術師』の能力者。
氷の矢を敵に向けて複数本、同時に飛ばす事が出来る。
最大で100本を超える氷の矢を自在に操れる。
香苗美花――レベル6
『回復術師』
自身や、仲間の傷を癒す事が出来る。
レベルに応じて、呪いや封印魔法の効力も無効化出来る。
紗和乃・ルーディー・レイリア――レベル4
『狙撃手』の能力者。
魔法の矢を用いて、敵を射る事が出来る。
追尾性能のある矢を大量に発射して、敵の集団に確実に当てていく事が出来る。1人で大人数の敵を同時に相手にする事が可能。遠距離からの攻撃が得意。
『2軍メンバー』
川崎亮――レベル2
『無線通信』の能力者。
離れた場所にいる複数の仲間に、同時にメッセージを送る事が出来る。
思念通話を離れた味方との間で結ぶ事も可能。
最大1キロメートル離れた味方にも、通信が出来る。
佐伯小松――レベル3
『地図探索』の能力者。
初めて訪れた土地の地形・空間を瞬時に把握出来る。
紙面や、空間にその場所の正確な地図を作成出来る。
四条京子――レベル3
『防御壁』の能力者。
自身の前に、巨大な防御壁を建造出来る。
最大で高さ3メートル。横幅15メートルを超える巨大な石の壁を作り出せる。
俺は、玉木が書いてくれた異世界の勇者の一覧を見ながらふむふむと頷く。
「なるほど。みんな俺のコンビニに比べると、そこまでレベルは高くないんだな」
「彼方くんのコンビニのレベルが高過ぎるのよ〜〜! でも1人だけレベルがかなり高い子もいるのよ〜!」
「へえ〜、それは一体誰なんだ?」
「『剣術使い』の雪咲詩織ちゃんよ! 詩織ちゃんは確か、レベルが8になっているって聞いたわ〜」
ほうほう。レベル8か。
それは確かに他のメンバーに比べると、飛び抜けて高いレベルだな。
ん? でも待てよ……。
「その肝心の雪咲は、今回のアッサム要塞攻略作戦には参加をしていないのか?」
俺の質問に、玉木はコクリと頷く。
「うん。詩織ちゃんは1人で行動するのが好きだから、あまり参加したくないみたいなの。それに今回の作戦には詩織ちゃんは参加をさせないって、倉持くん自身が言っていたから」
そうか、倉持の野郎……。
自分よりも強そうな勇者が参加をして、目立ってしまうのが嫌だとか……。まさか、そんな子供みたいな理由で雪咲を作戦に参加させないとか言ってるんじゃないだろうな。
アイツなら、マジでそれもあり得そうだから怖いけど。
「彼方くんは、これからどうするつもりなの〜?」
玉木が心配そうに尋ねてきたので、俺はもちろん即答をしてやった。
今回の作戦は、世界中の偉い連中だって見ているんだろう?
ならもちろん、あのグランデイル女王のクルセイスさんだって、見ているに違いないよな?
そうか、そうか。よーーし!
「そんなの決まってるじゃないか、玉木! もちろん俺もそのアッサム要塞攻略作戦とやらに参加をして、そこで思いっきり大暴れしてやるのさ!」




