第四十話 魔王の谷からの脱出
『『――死ねッ!!――』』
ホールの舞台上から、漆黒の騎士がこちらに向かって斬りかかってくる。
敵の標的は――『俺』か?
アイリーンを狙わずに、真っ直ぐに俺だけを目掛けて。銀色の閃光が襲いかかってくる。
”ガキーーーーン”!!
俺の体が漆黒の騎士が持つ、銀色の剣に切り裂かれてしまうよりも早く。素早くアイリーンが、黄金の剣で敵の剣撃の軌道を、僅かに逸らしてくれた。
(やばっ……! 今のは、けっこう危なかったぞ……)
俺の体は、敵の剣で切り裂かれる寸前だった。
多分、前髪の先端部分、2〜3センチくらいは漆黒の騎士に斬られてしまったと思う。それくらいに今のは、ギリギリのタイミングだった。
「――店長、ご無事ですか?」
「ああ、アイリーン。大丈夫だ、助かったよ」
再びアイリーンが俺の前に立ち、俺をその背に隠すようにして漆黒の騎士と対峙する。
敵の騎士は、その全身に真っ黒な鎧を着ている。
顔の部分にも、黒い仮面のようなものを装着しているので、その表情は分からない。
だから相手が人間なのか、それとも魔物なのか……。あるいは機械なのかも――。俺達には全く判断が出来なかった。
「……まあ、あんなに素早い動きをする奴が、普通の人間って事はまず無いだろうな。この墓所をずっと守っているのなら――おそらく機械で出来たロボット騎士って可能性の方が高そうだ」
「店長……。私が、敵に接近をして勝負を挑んでみます。敵はどうやら、店長を標的にしているようなので、店長はその場から動かないでいて頂けると助かります」
「分かった、俺はここでじっとしているよ。後は頼むぞ、アイリーン!」
「はい、私にお任せ下さい! 店長!」
返事をするやいなや、もの凄い早さでアイリーンが漆黒の騎士に向けて駆け出して行く。
”ガキーーーーン!” ”カキーーーーン!”
再び、銀色と黄金色の2本の閃光が、薄暗いホールの中で何度もクロスする。
光り輝く直線や、放物線のような曲線が。
舞台上で何本も交わり合い、美しい火花を周囲に散らしては消えていく。
俺が見た限りでは……アイリーンと、この墓所を守る黒い騎士の実力はほぼ互角と言っていいと思う。
もちろん、俺みたいに何も能力が無く。
魔法も何も出来ない普通の一般人からしたら、まるで超能力者達による、別次元の戦闘である事は間違いない。
だってあまりにも動きが早すぎて、こっちは目で追うのがやっとなくらいだしな。
「くそっ……! それにしても、また俺は何も役に立つ事が出来ないのかよ!」
たしかにコンビニのレベルは上がったさ。
コンビニの外壁には合金製の分厚い装甲が付いたし、キャタピラーや、ガトリング砲だって今は装備している。
おまけにコンビニを守ってくれる最強の青い騎士や、機械の兵隊だって加わった。
だけど……結局は俺自身が何も出来ない、って事には何も変わりがなかった。
今だって、こうしてアイリーンの戦いを見守っている事しか俺には出来ない。
何か……何か、俺にも出来る事はないのかよ?
俺は周囲の様子を観察し、何か役に立てるような物がないかを観察する。
何でも良いんだ。アイリーンとあの黒騎士の実力が互角だというのなら、あと一押し。アイリーンの援護射撃をしてあげられるような、何かがあれば……。
「――そうか! コレがあったじゃないか!!」
俺は自分の左手に付けているスマートウォッチに気づいた。これさえあれば、ドローンを遠隔操作する事が出来る。
俺はタッチパネルを操作して、墓所の中に侵入させていた2機のドローンをこの場に呼び寄せた。
少しでもいい――。
ほんの少しだけ、敵の注意を引き付けて。相手の油断を誘えるなら、それでいいんだ。
だけど、アイリーンと黒い騎士が戦っている最中には割り込めない。かえって俺が、アイリーンの邪魔をしてしまう可能性もあるからな。
暗いホールの上で、眩いばかりの閃光を光らせて、激しく激突し合う2人の騎士――。
一方は黄金の剣を携えた、コンビニの青い女騎士。
もう一方は黒い仮面をつけ、銀色の剣を振るう墓所の守護者でもある漆黒の黒い騎士だ。
互いの実力は、ほぼ互角。
黄金の閃光と、銀色の閃光が鮮やかに舞台の中央でぶつかり合い、光のイルミネーションを映し出している。
その時――。
一瞬だけ、交差する剣戟が収まった。
お互いがいったん間合いを取るために距離をとり。剣を構えて、共に呼吸を整えるかのような動作をとる。
おそらく互いに決め手が無く、少しだけ様子を見るために、間隔をあけたのだろう。
――よしっ、今がチャンスだ!
「行っけーーーッ!! 俺のドローン達ーー!!!」
俺はスマートウォッチを操作して、2機のドローンを黒い騎士に向かわせた。
この2機には、煙幕散布機能も付いている。
敵の注意を引くか、最悪、煙幕を散布して黒い騎士の視界を、撹乱する事だって出来るだろう。
”ヴィーーーーーン″
2機のドローンが、黒い騎士に向かって一直線に飛んで行く。
突然、横から迫り来るドローンに、黒い騎士が視線を向ける。
ドローンが飛んでくる方向に振り向くと、そちらに向けて剣を構えた。
(よし、成功だ! 奴はドローンに注意を向けたぞ!)
アイリーン、今がチャンスだ。
このままアイツがドローンに………って、ええっ!?
俺は一瞬、訳が分かずに驚愕する。
黒い騎士に向かっていったドローン2機が……突然その場で止まって、動かなくなってしまった。
もちろん、俺の操作も全く受け付けない。
(一体、何でだ……? どうして急にドローンは止まってしまったんだ?)
驚いたのは、それだけじゃない。
黒い騎士の前で、固まっていたドローン2機は。
その場で急旋回を開始して――、
真っ直ぐに『俺』が立っている方向目掛けて、直進して来た。
「えっ………!?」
俺は、絶句する……。
まさかドローンのコントロールを、一瞬でアイツに奪われてしまったというのか?
そ、そんな事があり得るのかよ?
敵は飛んできた飛行物体が『ドローン』であると正確に知っていて……。その操作を奪う、何か妨害電波のようなものを発したというのか?
そんな高度な技術を備えているなんて、あの黒騎士は一体、何者なんだ?
くそっ……! 今は考えている場合じゃなかった。
直進してくるドローンを何とかしないと。
俺に向けて迫ってきたドローンは、大量の白い煙幕を散布し始める。
ホールに立ち込める白い煙。周囲の視界を奪われた俺は、完全にその場で孤立してしまった。
そして――。
音が、遠くからこちらに迫ってくるのが分かる。
黒い騎士が銀色の剣を振り上げながら。俺に向けて、全速力で突進してきているんだ。
この煙幕の中では――アイリーンも俺のいる正確な位置は分からないだろう。
つまりはもう、敵の攻撃を防げないという事だ。
クソッ……! アイリーンの援護射撃をするつもりが、完全に裏目に出ちまった。こいつは全部、俺のミスだ。
銀色の閃光が、煙の中から真っ直ぐに俺に向けて迫ってくる。
「店長ーーーーッ!!」
アイリーンがすぐ側まで、助けに来ているのが分かる。
でも、間に合わないんだ。敵の斬撃の方が……僅かに早い!
俺が『死』を覚悟して。
静かに目を閉じて、体を震わせながら身構えた……その時だった――。
”ガキーーーン”!!
目に見えない何かが――。
敵の銀色の斬撃を、ギリギリの所で防いでくれた。
『――そ、ソレは………!?』
黒い騎士が、驚く声が聞こえた。
白い煙幕の中で視界は最悪だが……。俺は自分の着ている『コンビニ店長専用服』が、僅かに緑色に輝いているのが見えた。
もしかして、この服が俺を守ってくれたのか?
黒い騎士の物理攻撃を、何かのシールドを張って防いでくれたのだろうか。
もちろんそれが、どんな条件で発動したのかも、今の俺には全く分からない。
でも、このコンビニ店長専用服が何かしらの効力を発揮して、俺のピンチを守ってくれたのは間違いなさそうだ。
『き、貴様はーーーッ!! 一体、何者だーー!?』
黒い騎士の叫び声が聞こえてきた。
もちろん煙幕の中でその顔は見えないが、俺は出来るだけ相手が悔しがりそうなドヤ顔をして、言い返してやった。
「俺は、異世界から召喚された『コンビニの勇者』だッ!! お前を倒して俺達は必ず、この魔王の谷から脱出をしてみせる!!」
『ーーッ!? そんな……『コンビニ』だと!?』
表情は見えないが、黒い騎士が驚いたのは分かった。
その一瞬の油断をついて――。
「店長ーーーーーッ!!!」
アイリーンが叫び声を上げて、こちらに接近してくる。
そして、その直後――。
″バシューーーン!!!”
俺の目の前で――、
何かが剣で切り落とされた音が聞こえた。
もちろん、俺が敵に斬られた訳じゃないぞ。
たぶん、アイリーンが黄金剣で黒騎士を斬ったのだと思う。
俺は状況が分からずに、その場でじっとしていると。
やがて、白い煙幕が少しずつ晴れていった。
煙幕の消えたホールの中では、再びアイリーンと黒い騎士が、互いに閃光を煌めかせながら剣戟の衝突を続けていた。
俺の足元には、2機のドローンが切り裂かれて落ちていた。
これは――おそらく、アイリーンが破壊をしたのだろう。
コントロールを失って、敵に操られてしまったドローンは、完全に真っ二つに切り裂かれて破壊されていた。
そして――。
″カキーーーン!!”
アイリーンと黒い騎士との戦いには、先程と違い……大きな変化が生じていた。
明らかにアイリーンが黒騎士を圧倒し、押しているのだ。
剣を重ね合わせるたびに、黄金の剣が黒騎士の体に新たな傷を刻み込んでいく。
その理由が分かった。
「黒騎士の方は、片手を失っているのか……」
黒い騎士は、銀色の剣を左手だけで持っている。
おそらく、先程の煙幕の中で。俺のコンビニ店長専用服に攻撃をガードされた時に、アイリーンが黒騎士の右手を斬り落としたのだろう。
そして形勢は一気に、こちら側に有利になった。
ホールの舞台上で、黄金の閃光が眩しく煌めく。
その金色の輝きの後に、黒い騎士がさらに片脚を切り落とされ、舞台上に倒れ込むのが見えた。
これで、勝負はもう決まりだな。
黒騎士は、アイリーンに勝つ事は絶対に出来ないだろう。脚を斬られた時に――手にしていた銀色の剣も落とし、もう攻撃の手段を全て失っている。
アイリーンが黄金の剣の先を、倒れている黒騎士の顔先に突きつけた。降伏の意思表示なのか、黒騎士はその場で全く動かなくなる。
俺はゆっくりとアイリーンのいる場所に向かって、歩き始めた。
もし可能なら、あの黒い騎士には聞きたい事が沢山ある。この谷底にいる他の巨大な魔物達と違って、あの騎士には知性があるからな。
この広大なコンサートホールのような場所は一体何なのか? 大昔にいたとされる魔王とは何者だったのか? 本当に異世界から召喚された勇者が、魔王になってしまったのか?
もしそうだとしたら、その理由は? 一体どんな能力を持つ異世界の勇者だったのか?
俺が足を早めて、アイリーンの場所に向かおうとしたその時――。
動かなくなっていた黒騎士が、突然……体を起こした。
そして、残っている左手を振り上げて。
俺に向けて、何かを投げようとする。
黒騎士の左手に握られているのは、ナイフか?
そんな隠しナイフのようなものを、まだ持っていたのかよ。
だが――……。
『グフッ…………!!』
黒い騎士がナイフを俺に向けて投げるより早く。
アイリーンが黄金の剣を、騎士の背中に突き立てて――とどめを刺す方が早かった。
黒い騎士は、投げようとしていた左手のナイフを舞台上に落とし、その場に頭から倒れ込む。
もう、動き出す様子は全く無かった。
広大なコンサートホールの舞台上で、黒い騎士は静かに絶命したようだ。
「店長、ご無事ですか?」
「ああ……。アイリーン、ありがとう。俺のミスでピンチを招いてしまって、本当にすまなかった」
「いえ。私の方こそ、僅かに反応が遅れてしまいました。店長が自力で敵の攻撃を防いで下さったおかげで、助かりました。そのおかげで、私は敵の片手を斬り落とし。戦いを有利に進める事が出来ましたから」
まあ……自力って、訳じゃないんだけどな。
まだ効果は正確には分からないが。
俺の着ている『コンビニ店長専用服』が、敵の攻撃を弾いてくれたのは間違いないだろう。
この服が、物理攻撃を完全に遮断してくれるのか。それとも回数限定で、1回だけは守ってくれるのか――まだ分からない事は、いっぱいあるんだけどな。
俺は倒れている黒い騎士を見つめる。
……結局、この騎士は何者だったのだろうか?
ホールで話していた内容から、ここが大昔の魔王が眠る地であるという事と。その場所をこの黒い騎士が守っていたという事。
「……後は、人間の事を、『汚れた罪人達の末裔』とか言っていたな。意味は分からないが、よっぽどこの世界の人間に恨みがあったという事なのだろうか?」
俺が、黒騎士の死体を触ろうとした、その時――、
”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………”
突然、大きな轟音と激しい振動が、ホール全体に広がり始める。
「――店長!! ここは危険です! 早く逃げましょう!」
「ああ、分かった! ここから脱出しよう!」
アイリーンだけでなく。
この状況のヤバさは、さすがに俺でも分かった。
この墓所が崩れて、今にも崩壊しようとしているんだ。
ホールの天井の屋根が崩れてどんどん降ってくる。
(くそッ……! 守護者を倒したら、建物が崩壊するお決まりのパターンかよ)
俺とアイリーンは、来た道をそのまま逆に向かって引き返す。
螺旋状の通路をぐるぐると走りながら、一路。ティーナの待つコンビニ戦車へと急いだ。
「これで、全て終わりなのか? 結局、謎は……まだ何も解けていないというのに」
「店長、すいません。失礼致します――!」
俺の体を、アイリーンが後ろから抱き抱えるようにして、持ち上げる。そして出口に向けて、高速移動を開始した。
このままだと、墓所の崩壊に巻き込まれると判断したのだろう。俺の体を抱えたまま、もの凄い速さで青い騎士は、通路を逆方向に駆け抜けて行く。
”ドゴーーーーーン!!!”
大昔の魔王が眠る地――。
魔王の谷の底に建つ、謎の黒い墓所は完全に崩壊した。
俺とアイリーンは間一髪。
崩壊する墓所からの脱出に、成功する事が出来た。
「彼方様ーー!! ご無事ですかーー!?」
外でコンビニから身を乗り出して心配していたティーナが、こちらに全速力で駆けてくる。
ティーナを強く抱きしめ。合流を果たした俺達は……急いで、コンビニを移動させた。
崩壊する墓所から距離をとり、ここから急いで避難する為だ。
移動するコンビニから、崩れゆく墓所を見つめながら……。
俺はずっと不思議な感覚に襲われていた。
そう、まるで自分が昔から見知っていた、古い馴染みの建物が壊されてしまった……。
そんな寂しさのようなものを、心のどこかで感じていたのかもしれない。
「……彼方様? どうかされましたか?」
「ううん。大丈夫さ、ティーナ。ちょっと色々と考え事をしてただけだから……」
俺はティーナの手をぎゅっと握りしめて、笑顔を見せる。
そうだ。後でまた、ドローンを谷の上空に飛ばしてみよう。
この谷の結界が解けたのか、それを確かめるんだ。
そして、もし本当にこの谷から結界が無くなっているのだとしたら――。
「……いよいよこの魔王の谷ともお別れだな。あれから約1ヶ月近く経ったけど、まずは玉木を探しに行かないと。あいつ、ちゃんと元気でいると良いんだけど」
とうとう俺達は、魔王の谷から出て行く。
本当に多くの事を経験して。たくさん成長が出来た、濃密な1ヶ月だった。
色々とまだ良く分からない、謎に満ちた場所ではあったけれど……。
俺とティーナはこの場所から離れて、地上へと向かう。
2人だけで過ごした期間は、俺達の信頼をより深めてくれた。だからこれからもきっと、俺はティーナと2人でなら。どんな困難も乗り越えていけるはずなんだ。
だからもう、グランデイル王国や、魔王軍。
それに倉持や金森達に怯える心配もないだろう。
そらくらいに今の俺のコンビニは、めちゃめちゃレベルアップをしているからな。
そうさ。たまにはこちらから、アイツ等に反撃をしてやっても良い頃合いかもしれない。
「よーし、無能な勇者と言われた『コンビニの勇者』があれから一体、どれだけの成長を遂げたのか。クラスのみんなにも見せつけに行ってやるか! 見てろよ、倉持! お前に俺は必ず『ざまぁ!』と、大声で叫んでやるからなッ!」
俺は移動するコンビニの中から、拳を握りしめて。
強い決意を固めながら、谷の上空を見つめ続けた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
倒壊していく墓所の最上階。
その薄暗いホールの舞台上で――。
漆黒の騎士がゆっくりと、床を這うようにして歩いていく。
舞台上の片隅に……。1つだけ置いてあった小さな椅子を引き寄せると、そこに静かに腰掛ける。
そして、黒い騎士はそこで呼吸を整えながら、ゆっくりと休息をとった。
もう、自分が助からない事は知っている。
だから最後は魔王が好きだったこの場所を――しっかりと見渡せる場所で死にたかった。
「ハァ……ハァ………」
とうとう『終わる』……のか?
この場所を薄汚い人間達から守ると約束をして、一体どれだけの時間が過ぎたのだろう?
数千年は、ここに居続けていたような気がする。
「……魔王様……。やっと私も、あなた様のいる場所に向かえそうです………」
呼吸が苦しい。
視界が段々と暗くなっていく。
黒い騎士がその顔に付けていた仮面が床に落ち。その中から、赤い髪の少女の顔が晒け出された。
白い肌の少女は静かに泣いていた。
目からは幾筋もの細い涙の線が、床にこぼれ落ちていく。
「フフッ……」
そして不意に笑う。
自分の命の最期の時を知りながら、おかしそうに笑い声を漏らす。
「それにしても……。まさか最期に出会ったのが『コンビニの勇者』だとは、本当に笑えるな……」
だんだんと、体の力が抜けていく。
もう、視界も完全に見えなくなっていた。
「まさか、魔王様と『全く同じ能力』を持った勇者が、この世界に現れるだなんて……。そんな奇跡に巡りあうだけの長い時間が、あれから経ったという事なのか……」
薄れゆく意識の中で、赤い髪の少女が最後に思うこと。
それは懐かしく、遠い日々の楽しい思い出。
「……魔王様。また、みんなでコンビニのお弁当をレンジで温めて食べましょうね……。私は、鮭弁当が……好きだったなぁ……。きっと魔王様はまた、鮭おにぎりばかりむしゃむしゃと頬張っているのでしょうね。栄養に良くないから、もうコーラは控えて下さいね……と、いつも私が言っているのに……」
墓所の天井が完全に崩れ落ちる。
魔王の谷の底で……。
墓所を守り続けた黒い騎士は、そこで静かに最期を迎えた。
コンビニを守る『守護騎士』として、彼女は最後まで魔王との約束を守って死んでいった。