表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/441

第四十話 魔王の谷からの脱出


『『――死ねッ!!――』』



 ホールの舞台上から、漆黒の騎士がこちらに向かって斬りかかってくる。



 敵の標的は――『俺』か?



 アイリーンを狙わずに、真っ直ぐに俺だけを目掛けて。銀色の閃光が襲いかかってくる。



 ”ガキーーーーン”!!



 俺の体が漆黒の騎士が持つ、銀色の剣に切り裂かれてしまうよりも早く。素早くアイリーンが、黄金の剣で敵の剣撃の軌道を、僅かに逸らしてくれた。



(やばっ……! 今のは、けっこう危なかったぞ……)



 俺の体は、敵の剣で切り裂かれる寸前だった。


 多分、前髪の先端部分、2〜3センチくらいは漆黒の騎士に斬られてしまったと思う。それくらいに今のは、ギリギリのタイミングだった。



「――店長、ご無事ですか?」


「ああ、アイリーン。大丈夫だ、助かったよ」



 再びアイリーンが俺の前に立ち、俺をその背に隠すようにして漆黒の騎士と対峙する。


 敵の騎士は、その全身に真っ黒な鎧を着ている。

 顔の部分にも、黒い仮面のようなものを装着しているので、その表情は分からない。


 だから相手が人間なのか、それとも魔物なのか……。あるいは機械なのかも――。俺達には全く判断が出来なかった。


「……まあ、あんなに素早い動きをする奴が、普通の人間って事はまず無いだろうな。この墓所をずっと守っているのなら――おそらく機械で出来たロボット騎士って可能性の方が高そうだ」


「店長……。私が、敵に接近をして勝負を挑んでみます。敵はどうやら、店長を標的にしているようなので、店長はその場から動かないでいて頂けると助かります」


「分かった、俺はここでじっとしているよ。後は頼むぞ、アイリーン!」


「はい、私にお任せ下さい! 店長!」



 返事をするやいなや、もの凄い早さでアイリーンが漆黒の騎士に向けて駆け出して行く。



 ”ガキーーーーン!” ”カキーーーーン!”



 再び、銀色と黄金色の2本の閃光が、薄暗いホールの中で何度もクロスする。



 光り輝く直線や、放物線のような曲線が。

 舞台上で何本も交わり合い、美しい火花を周囲に散らしては消えていく。


 俺が見た限りでは……アイリーンと、この墓所を守る黒い騎士の実力はほぼ互角と言っていいと思う。


 もちろん、俺みたいに何も能力が無く。

 魔法も何も出来ない普通の一般人からしたら、まるで超能力者達による、別次元の戦闘である事は間違いない。

 だってあまりにも動きが早すぎて、こっちは目で追うのがやっとなくらいだしな。



「くそっ……! それにしても、また俺は何も役に立つ事が出来ないのかよ!」



 たしかにコンビニのレベルは上がったさ。


 コンビニの外壁には合金製の分厚い装甲が付いたし、キャタピラーや、ガトリング砲だって今は装備している。

 おまけにコンビニを守ってくれる最強の青い騎士や、機械の兵隊だって加わった。


 だけど……結局は俺自身が何も出来ない、って事には何も変わりがなかった。


 今だって、こうしてアイリーンの戦いを見守っている事しか俺には出来ない。



 何か……何か、俺にも出来る事はないのかよ?


 俺は周囲の様子を観察し、何か役に立てるような物がないかを観察する。

 何でも良いんだ。アイリーンとあの黒騎士の実力が互角だというのなら、あと一押し。アイリーンの援護射撃をしてあげられるような、何かがあれば……。



「――そうか! コレがあったじゃないか!!」


 俺は自分の左手に付けているスマートウォッチに気づいた。これさえあれば、ドローンを遠隔操作する事が出来る。


 俺はタッチパネルを操作して、墓所の中に侵入させていた2機のドローンをこの場に呼び寄せた。


 少しでもいい――。

 ほんの少しだけ、敵の注意を引き付けて。相手の油断を誘えるなら、それでいいんだ。


 だけど、アイリーンと黒い騎士が戦っている最中には割り込めない。かえって俺が、アイリーンの邪魔をしてしまう可能性もあるからな。


 暗いホールの上で、眩いばかりの閃光を光らせて、激しく激突し合う2人の騎士――。


 一方は黄金の剣を携えた、コンビニの青い女騎士。


 もう一方は黒い仮面をつけ、銀色の剣を振るう墓所の守護者でもある漆黒の黒い騎士だ。


 互いの実力は、ほぼ互角。

 黄金の閃光と、銀色の閃光が鮮やかに舞台の中央でぶつかり合い、光のイルミネーションを映し出している。



 その時――。


 一瞬だけ、交差する剣戟(けんげき)が収まった。


 お互いがいったん間合いを取るために距離をとり。剣を構えて、共に呼吸を整えるかのような動作をとる。


 おそらく互いに決め手が無く、少しだけ様子を見るために、間隔をあけたのだろう。



 ――よしっ、今がチャンスだ!



「行っけーーーッ!! 俺のドローン達ーー!!!」


 俺はスマートウォッチを操作して、2機のドローンを黒い騎士に向かわせた。


 この2機には、煙幕(えんまく)散布機能も付いている。

 敵の注意を引くか、最悪、煙幕を散布して黒い騎士の視界を、撹乱(かくらん)する事だって出来るだろう。



 ”ヴィーーーーーン″


 2機のドローンが、黒い騎士に向かって一直線に飛んで行く。


 突然、横から迫り来るドローンに、黒い騎士が視線を向ける。

 ドローンが飛んでくる方向に振り向くと、そちらに向けて剣を構えた。


(よし、成功だ! 奴はドローンに注意を向けたぞ!)



 アイリーン、今がチャンスだ。

 このままアイツがドローンに………って、ええっ!?


 俺は一瞬、訳が分かずに驚愕する。


 黒い騎士に向かっていったドローン2機が……突然その場で止まって、動かなくなってしまった。

 もちろん、俺の操作も全く受け付けない。



(一体、何でだ……? どうして急にドローンは止まってしまったんだ?)


 驚いたのは、それだけじゃない。


 黒い騎士の前で、固まっていたドローン2機は。

 その場で急旋回を開始して――、


 真っ直ぐに『俺』が立っている方向目掛けて、直進して来た。

 


「えっ………!?」


 俺は、絶句する……。


 まさかドローンのコントロールを、一瞬でアイツに奪われてしまったというのか?

 そ、そんな事があり得るのかよ? 


 敵は飛んできた飛行物体が『ドローン』であると正確に知っていて……。その操作を奪う、何か妨害電波のようなものを発したというのか? 

 そんな高度な技術を備えているなんて、あの黒騎士は一体、何者なんだ?


 くそっ……! 今は考えている場合じゃなかった。

 直進してくるドローンを何とかしないと。


 俺に向けて迫ってきたドローンは、大量の白い煙幕を散布し始める。


 ホールに立ち込める白い煙。周囲の視界を奪われた俺は、完全にその場で孤立してしまった。



 そして――。

 

 音が、遠くからこちらに迫ってくるのが分かる。


 黒い騎士が銀色の剣を振り上げながら。俺に向けて、全速力で突進してきているんだ。


 この煙幕の中では――アイリーンも俺のいる正確な位置は分からないだろう。

 つまりはもう、敵の攻撃を防げないという事だ。


 クソッ……! アイリーンの援護射撃をするつもりが、完全に裏目に出ちまった。こいつは全部、俺のミスだ。



 銀色の閃光が、煙の中から真っ直ぐに俺に向けて迫ってくる。



「店長ーーーーッ!!」


 アイリーンがすぐ側まで、助けに来ているのが分かる。

 でも、間に合わないんだ。敵の斬撃の方が……僅かに早い!



 俺が『死』を覚悟して。


 静かに目を閉じて、体を震わせながら身構えた……その時だった――。



 ”ガキーーーン”!!



 目に見えない何かが――。

 敵の銀色の斬撃を、ギリギリの所で防いでくれた。



『――そ、ソレは………!?』


 黒い騎士が、驚く声が聞こえた。


 白い煙幕の中で視界は最悪だが……。俺は自分の着ている『コンビニ店長専用服』が、僅かに緑色に輝いているのが見えた。


 もしかして、この服が俺を守ってくれたのか?


 黒い騎士の物理攻撃を、何かのシールドを張って防いでくれたのだろうか。


 もちろんそれが、どんな条件で発動したのかも、今の俺には全く分からない。

 でも、このコンビニ店長専用服が何かしらの効力を発揮して、俺のピンチを守ってくれたのは間違いなさそうだ。



『き、貴様はーーーッ!! 一体、何者だーー!?』



 黒い騎士の叫び声が聞こえてきた。


 もちろん煙幕の中でその顔は見えないが、俺は出来るだけ相手が悔しがりそうなドヤ顔をして、言い返してやった。



「俺は、異世界から召喚された『コンビニの勇者』だッ!! お前を倒して俺達は必ず、この魔王の谷から脱出をしてみせる!!」



『ーーッ!? そんな……『コンビニ』だと!?』



 表情は見えないが、黒い騎士が驚いたのは分かった。


 その一瞬の油断をついて――。



「店長ーーーーーッ!!!」



 アイリーンが叫び声を上げて、こちらに接近してくる。


 そして、その直後――。



 ″バシューーーン!!!”



 俺の目の前で――、

 何かが剣で切り落とされた音が聞こえた。


 もちろん、俺が敵に斬られた訳じゃないぞ。

 たぶん、アイリーンが黄金剣で黒騎士を斬ったのだと思う。

 

 俺は状況が分からずに、その場でじっとしていると。



 やがて、白い煙幕が少しずつ晴れていった。


 煙幕の消えたホールの中では、再びアイリーンと黒い騎士が、互いに閃光を煌めかせながら剣戟(けんげき)の衝突を続けていた。


 俺の足元には、2機のドローンが切り裂かれて落ちていた。


 これは――おそらく、アイリーンが破壊をしたのだろう。

 コントロールを失って、敵に操られてしまったドローンは、完全に真っ二つに切り裂かれて破壊されていた。



 そして――。



 ″カキーーーン!!”


 アイリーンと黒い騎士との戦いには、先程と違い……大きな変化が生じていた。


 明らかにアイリーンが黒騎士を圧倒し、押しているのだ。

 剣を重ね合わせるたびに、黄金の剣が黒騎士の体に新たな傷を刻み込んでいく。


 その理由が分かった。



「黒騎士の方は、片手を失っているのか……」



 黒い騎士は、銀色の剣を左手だけで持っている。


 おそらく、先程の煙幕の中で。俺のコンビニ店長専用服に攻撃をガードされた時に、アイリーンが黒騎士の右手を斬り落としたのだろう。


 そして形勢は一気に、こちら側に有利になった。


 ホールの舞台上で、黄金の閃光が眩しく煌めく。

 その金色の輝きの後に、黒い騎士がさらに片脚を切り落とされ、舞台上に倒れ込むのが見えた。


 これで、勝負はもう決まりだな。


 黒騎士は、アイリーンに勝つ事は絶対に出来ないだろう。脚を斬られた時に――手にしていた銀色の剣も落とし、もう攻撃の手段を全て失っている。


 アイリーンが黄金の剣の先を、倒れている黒騎士の顔先に突きつけた。降伏の意思表示なのか、黒騎士はその場で全く動かなくなる。


 俺はゆっくりとアイリーンのいる場所に向かって、歩き始めた。


 もし可能なら、あの黒い騎士には聞きたい事が沢山ある。この谷底にいる他の巨大な魔物達と違って、あの騎士には知性があるからな。


 この広大なコンサートホールのような場所は一体何なのか? 大昔にいたとされる魔王とは何者だったのか? 本当に異世界から召喚された勇者が、魔王になってしまったのか? 


 もしそうだとしたら、その理由(わけ)は? 一体どんな能力を持つ異世界の勇者だったのか?



 俺が足を早めて、アイリーンの場所に向かおうとしたその時――。


 動かなくなっていた黒騎士が、突然……体を起こした。


 そして、残っている左手を振り上げて。

 俺に向けて、何かを投げようとする。


 黒騎士の左手に握られているのは、ナイフか? 

 そんな隠しナイフのようなものを、まだ持っていたのかよ。



 だが――……。



『グフッ…………!!』


 

 黒い騎士がナイフを俺に向けて投げるより早く。


 アイリーンが黄金の剣を、騎士の背中に突き立てて――とどめを刺す方が早かった。


 黒い騎士は、投げようとしていた左手のナイフを舞台上に落とし、その場に頭から倒れ込む。


 もう、動き出す様子は全く無かった。

 広大なコンサートホールの舞台上で、黒い騎士は静かに絶命したようだ。



「店長、ご無事ですか?」


「ああ……。アイリーン、ありがとう。俺のミスでピンチを招いてしまって、本当にすまなかった」


「いえ。私の方こそ、僅かに反応が遅れてしまいました。店長が自力で敵の攻撃を防いで下さったおかげで、助かりました。そのおかげで、私は敵の片手を斬り落とし。戦いを有利に進める事が出来ましたから」


 まあ……自力って、訳じゃないんだけどな。


 まだ効果は正確には分からないが。

 俺の着ている『コンビニ店長専用服』が、敵の攻撃を弾いてくれたのは間違いないだろう。


 この服が、物理攻撃を完全に遮断してくれるのか。それとも回数限定で、1回だけは守ってくれるのか――まだ分からない事は、いっぱいあるんだけどな。



 俺は倒れている黒い騎士を見つめる。



 ……結局、この騎士は何者だったのだろうか?


 ホールで話していた内容から、ここが大昔の魔王が眠る地であるという事と。その場所をこの黒い騎士が守っていたという事。


「……後は、人間の事を、『汚れた罪人達の末裔』とか言っていたな。意味は分からないが、よっぽどこの世界の人間に恨みがあったという事なのだろうか?」



 俺が、黒騎士の死体を触ろうとした、その時――、



 ”ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………”



 突然、大きな轟音と激しい振動が、ホール全体に広がり始める。



「――店長!! ここは危険です! 早く逃げましょう!」


「ああ、分かった! ここから脱出しよう!」


 アイリーンだけでなく。

 この状況のヤバさは、さすがに俺でも分かった。


 この墓所が崩れて、今にも崩壊しようとしているんだ。

 ホールの天井の屋根が崩れてどんどん降ってくる。


(くそッ……! 守護者を倒したら、建物が崩壊するお決まりのパターンかよ)


 俺とアイリーンは、来た道をそのまま逆に向かって引き返す。

 螺旋状の通路をぐるぐると走りながら、一路。ティーナの待つコンビニ戦車へと急いだ。



「これで、全て終わりなのか? 結局、謎は……まだ何も解けていないというのに」


「店長、すいません。失礼致します――!」


 俺の体を、アイリーンが後ろから抱き抱えるようにして、持ち上げる。そして出口に向けて、高速移動を開始した。


 このままだと、墓所の崩壊に巻き込まれると判断したのだろう。俺の体を抱えたまま、もの凄い速さで青い騎士は、通路を逆方向に駆け抜けて行く。



 ”ドゴーーーーーン!!!”



 大昔の魔王が眠る地――。


 魔王の谷の底に建つ、謎の黒い墓所は完全に崩壊した。



 俺とアイリーンは間一髪。

 崩壊する墓所からの脱出に、成功する事が出来た。



「彼方様ーー!! ご無事ですかーー!?」



 外でコンビニから身を乗り出して心配していたティーナが、こちらに全速力で駆けてくる。

 ティーナを強く抱きしめ。合流を果たした俺達は……急いで、コンビニを移動させた。


 崩壊する墓所から距離をとり、ここから急いで避難する為だ。



 移動するコンビニから、崩れゆく墓所を見つめながら……。

 俺はずっと不思議な感覚に襲われていた。



 そう、まるで自分が昔から見知っていた、古い馴染みの建物が壊されてしまった……。

 そんな寂しさのようなものを、心のどこかで感じていたのかもしれない。



「……彼方様? どうかされましたか?」


「ううん。大丈夫さ、ティーナ。ちょっと色々と考え事をしてただけだから……」 



 俺はティーナの手をぎゅっと握りしめて、笑顔を見せる。



 そうだ。後でまた、ドローンを谷の上空に飛ばしてみよう。


 この谷の結界が解けたのか、それを確かめるんだ。

 そして、もし本当にこの谷から結界が無くなっているのだとしたら――。



「……いよいよこの魔王の谷ともお別れだな。あれから約1ヶ月近く経ったけど、まずは玉木を探しに行かないと。あいつ、ちゃんと元気でいると良いんだけど」



 とうとう俺達は、魔王の谷から出て行く。


 本当に多くの事を経験して。たくさん成長が出来た、濃密な1ヶ月だった。


 色々とまだ良く分からない、謎に満ちた場所ではあったけれど……。

 俺とティーナはこの場所から離れて、地上へと向かう。


 2人だけで過ごした期間は、俺達の信頼をより深めてくれた。だからこれからもきっと、俺はティーナと2人でなら。どんな困難も乗り越えていけるはずなんだ。



 だからもう、グランデイル王国や、魔王軍。

 それに倉持や金森達に怯える心配もないだろう。


 そらくらいに今の俺のコンビニは、めちゃめちゃレベルアップをしているからな。



 そうさ。たまにはこちらから、アイツ等に反撃をしてやっても良い頃合いかもしれない。

 


「よーし、無能な勇者と言われた『コンビニの勇者』があれから一体、どれだけの成長を遂げたのか。クラスのみんなにも見せつけに行ってやるか! 見てろよ、倉持! お前に俺は必ず『ざまぁ!』と、大声で叫んでやるからなッ!」



 俺は移動するコンビニの中から、拳を握りしめて。


 強い決意を固めながら、谷の上空を見つめ続けた。





 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 倒壊していく墓所の最上階。



 その薄暗いホールの舞台上で――。



 漆黒の騎士がゆっくりと、床を這うようにして歩いていく。


 舞台上の片隅に……。1つだけ置いてあった小さな椅子を引き寄せると、そこに静かに腰掛ける。

 そして、黒い騎士はそこで呼吸を整えながら、ゆっくりと休息をとった。



 もう、自分が助からない事は知っている。


 だから最後は魔王が好きだったこの場所を――しっかりと見渡せる場所で死にたかった。



「ハァ……ハァ………」



 とうとう『終わる』……のか?


 この場所を薄汚い人間達から守ると約束をして、一体どれだけの時間が過ぎたのだろう?



 数千年は、ここに居続けていたような気がする。



「……魔王様……。やっと私も、あなた様のいる場所に向かえそうです………」



 呼吸が苦しい。


 視界が段々と暗くなっていく。



 黒い騎士がその顔に付けていた仮面が床に落ち。その中から、赤い髪の少女の顔が(さら)け出された。



 白い肌の少女は静かに泣いていた。


 目からは幾筋もの細い涙の線が、床にこぼれ落ちていく。



「フフッ……」


 そして不意に笑う。


 自分の命の最期の時を知りながら、おかしそうに笑い声を漏らす。



「それにしても……。まさか最期に出会ったのが『コンビニの勇者』だとは、本当に笑えるな……」



 だんだんと、体の力が抜けていく。

 もう、視界も完全に見えなくなっていた。



「まさか、魔王様と『全く同じ能力』を持った勇者が、この世界に現れるだなんて……。そんな奇跡に巡りあうだけの長い時間が、あれから経ったという事なのか……」



 薄れゆく意識の中で、赤い髪の少女が最後に思うこと。



 それは懐かしく、遠い日々の楽しい思い出。



「……魔王様。また、みんなでコンビニのお弁当をレンジで温めて食べましょうね……。私は、鮭弁当が……好きだったなぁ……。きっと魔王様はまた、鮭おにぎりばかりむしゃむしゃと頬張っているのでしょうね。栄養に良くないから、もうコーラは控えて下さいね……と、いつも私が言っているのに……」



 墓所の天井が完全に崩れ落ちる。



 魔王の谷の底で……。

 墓所を守り続けた黒い騎士は、そこで静かに最期を迎えた。



 コンビニを守る『守護騎士』として、彼女は最後まで魔王との約束を守って死んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキルコンビニ
外れスキルコンビニ、コミック第1巻、2巻発売中です☆ ぜひお読み頂けると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
魔王と同じコンビニ勇者なら最後のナイフを投げようとしなくても良かったのではないかな。投げなければ違った展開が…
【一言】 コンビニ店長タイムループする!?
[気になる点] 悪者はのさばらせておくのに忠義の士はサクッと殺すとでどういった読者の反応があるのか気になりました。 [一言] 可哀想だなぁと感じました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ