第四話 選抜組のエース
コンビニに、突然やって来たのは――。
俺達のクラスの委員長でもあり、選抜組のエースでもある倉持悠都。
そのすぐ後ろには、同じく魔王討伐の選抜組に選ばれている『水妖術師』の能力者、金森準の姿もあった。
倉持は『不死者』と『女神の祝福』の2つのチート能力を所持する『超』が付くほどのチート野郎。そして俺達、異世界から来た勇者達の中でも、王宮が最も期待をかけている大エース様だ。
まさに、本人だけでなく周囲からも期待され。
自他共に認められている、本物の勇者様と言っていいだろうな。
今や女王であるクルセイスさんからの信頼も厚く、王宮内での発言力もかなり高いらしい。
時刻はもう、既に夕方頃。
日は地平線の彼方に沈みかけ、朱色の空が少しずつ夜の闇色に侵食され始める時間帯。
お昼からコンビニの中でたむろしていた3軍のクラスメイト達も、今は既にそれぞれの寝床に帰っていて。
現在、店内にまだ残っているのは、わずか数人だけとなっている。
突然、コンビニの入店音を鳴り響かせ。つかつかと店内に入ってきた倉持達。
まだ店に残っていた水無月が、倉持達の姿を見て絶句する。
手にしていた鮭おにぎりを床に落とすと、水無月はその場で慌てて姿勢を正し始めた。
「やあやあ、水無月さん! ここに居らっしゃったんですね! 今日も、王宮の訓練に参加されていないようでしたので……どこか具合でも悪いのかと、僕はとても心配をしましたよ」
入店した倉持が、店内に残っていた水無月を見つけて声をかける。
その顔はいつもの爽やかイケメン顔。しばらく会っていなかったが、俺には以前の倉持の様子と何も変わりないように見えた。
「くっ、倉持さん……! ええっと、すいません。今日はちょっと体調が優れなかったので、こちらの彼方くんのコンビニにお世話になっていました。ここはクーラーも利いていて、体を休めるのには最適な場所だと思いましたので……」
――ん?
なんだろう……?
何で水無月の奴、委員長相手にそんなにガチガチの敬語ばかり使ってるんだ? しかも何かに怯えているかのように、声も震えているし。語尾が尻すぼみになっているぞ。
俺は水無月がクラスメイトであり。同じ選抜組のメンバーでもある倉持や金森に対して、異常な緊張感を持って接している事に違和感を感じた。
だって、たかが同じクラスメイトとの日常会話なのに、言い回しがあまりにも不自然過ぎる。
水無月は今、額に冷や汗をびっしりと浮かべていて、必死に苦笑いを浮かべている。まるでテストで0点を取って、それを正座しながら親に報告している子供みたいな様子だ。
そんな水無月を、菩薩顔で微笑みながら見つめている倉持。
そしてその後ろでは、陰キャ特有の薄気味悪いニヤニヤ笑いを浮かべて立っている、アニメ研でオタクの金森という謎の構図。
うーん。何なんだろうな?
この何とも言えない、不思議な光景はさ。
まるでこれじゃあ、生徒会の役員が授業をサボっている不良生徒を探しにきて。厳しく注意をしているみたいじゃないか。
しかもその不良役の方は何か弱みでも握られているのか、生徒会長には絶対に逆らえない……といった卑屈な様子が感じ取れる。
まあ、そんな違和感ありありな状況だったしな。
俺が感じた違和感を、コンビニの中に残っていた他の連中も同じように感じ取ったらしい。
みんな怪訝そうな表情を浮かべて、それぞれがポカーンと倉持達と水無月の様子を見つめていた。
……正直な所、委員長の倉持に対して気を使うのは、まだ俺も分からなくはない。
いつの時代でもクラスで一番のイケメンって人種には、それなりの権力が与えられているものだからな。
だが、アニメ研でオタクの金森が、サッカー部の副主将である水無月を倉持と一緒に見下すなんてのは、以前の学校生活でなら、絶対に有り得なかった構図だ。
そんな陰キャ金森が、倉持の後ろで突然『くっくっくっ……』と、声を漏らして笑い始める。コンビニにまだ残っている連中を、をまるで哀れな貧者を見つめるかのような目線で、ゆっくりと見渡しながらだ。
「……ふ~ん。なるほどねぇ〜。王宮を追放された役立たずの3軍メンバーさん達は、このコンビニを憩いの場にしてお互いの無能さを慰め合っていたんだ〜。まあ、ゴミ達が群がるゴミ溜めとしてはまさに相応しい場所だものねぇ〜。でもコンビニなのに、全然商品が置いてなくて、ププ……! 草生えるんですけどぉ〜!」
はあ〜? 金森。
――今、お前何て言った?
入店した金森が、いきなりコンビニと街に残る俺達3軍メンバー全員を嘲笑する発言をした事に、俺は一瞬ブチキレそうになる。
もちろん、それはコンビニに残る他の奴らも一緒だ。
全員が金森に対して一斉に憤る。
「なんだと! てめーっ、コラ! 一体何様のつもりだ金森!」
「そうだ、ふざけるなよ! この根暗オタク野郎が!」
「てめーなんざぁ、クラスの味噌っカス野郎だろうが! ちょっと選抜に選ばれたくらいで、調子に乗ってんじゃねーぞ、ゴラァ!!」
まだコンビニに残っていたクラスの面子が、一斉に怒鳴り声をあげた。
「みんな、止めるんだ……。この2人に逆ってはいけない」
水無月が手を上げて、静かにそれを制そうとする。
だがもう手遅れだ。
既に限界までヒートアップしたコンビニ組の怒気は、もう収まりそうにない。
元々、金森はクラスでも引っ込み思案で大人しい性格の奴だった。
趣味はスマホゲームとアイドル声優の追っかけという典型的なもやし体形のオタク眼鏡っ子。
普段クラスで話し合いを設けるような場でも、一切発言をすることはなく、隅っこで大人しくしているか、自分の世界に入り込んでいるだけ……という、いつだって空気みたいに存在感の薄い奴だ。
そんなクラス内カースト最底辺のオタク金森がだ。
異世界で少しばかり戦闘に有用なチート能力を手に入れたからといって……。急に上から目線の生意気キャラになったのが、みんなには到底許せないのだろう。
その首根っこを締め上げてやろうと、凄みながら全員が金森の方にゆっくりと近づいていく。
指をポキポキと鳴らし、首も左右にコキコキと揺らす……昔懐かしのヤンキースタイルでだ。
おいおい、お前らっ……少しは手加減しておけよな!
俺のコンビニの中で流血沙汰とかごめんだぞ。後でモップ清掃するのは、どうせ俺なんだし。
「へぇ〜? クソ雑魚ナメクジさん達の分際で、選抜メンバーである僕に対して向かってくるつもりなんだぁ? すごいすご〜い!! やっぱりゴミクズって、異世界に来ても自分の存在がゴミ以下であることに、気付けないものなんだねぇ〜? ププッ……。おっもしろ〜いなぁ〜!」
……おいッ!
マジで悪ふざけはそこまでにしとけって、金森!
その発言は本気でヤバ過ぎるって。ある意味、お前の命に関わるぞ。だってそれは元の世界でもお前がみんなを心の中でゴミ扱いしてたって、受け取れるような発言じゃないかよ!
さすがに、そいつは俺でもちょっと引くからさ。
俺みたいな心の広い人間は、軽く電気アンマ300秒くらいの刑でお前を許してやれるけどさ。
他の奴等は、きっとその程度じゃあ許してくれないぜ? 下手すると、指の一本か二本くらいは本当にへし折られちまうぞ。
まあ、今回は金森が少し調子に乗り過ぎたのがいけないんだし……。みんなにボコボコにされてもしょうがないっちゃ、しょうがないんだけどさ。ああ、俺はもう知らないぞ!
――と、完全に傍観者目線で、金森達の様子を脇からじーっと見つめていると……。
””ズドドドドドンンンッ!!!!””
突然、室内に響き渡る重厚な衝撃音。
金森に詰め寄ったクラスメイト数人が――。
いきなりその場から3メートルも後方に、一斉に全員身体ごと弾き飛ばされていた。
「――ぐへっ!」
「――グハァッ!?」
「――ウゴッ……!?」
金森から弾き飛ばされた全員が、コンビニの壁や床にそれぞれの体を強く打ちつける。そして、その場で痛みで悶えるように唸り声をあげていた。
「――ええっ!?」
余りに一瞬のことで、俺には状況が全然理解出来なかった。何だ? 今、一体何が起こったんだ?
金森の周囲から――。一瞬だけ何かが突然、光ったようにも見えたけれど……。
えっ、これって……もしかしてアレなのか?
異世界モノにはお約束の、魔法の衝撃波みたいなモノなのか?
金森が何らかの能力を使って、みんなをその場から一斉に押し飛ばしたって、事なのだろうか?
金森の奴は、その場から一歩も動いていない。
相変わらず陰キャ特有のニヤケ顔を浮かべたままだ。
こいつ。同じクラスメイトの仲間に向かってスキルを使うなんて……。
しかも対魔物用に王宮で戦闘訓練までしてる、本物の戦闘スキルだ。みんなに大怪我でもさせたらどうするつもりなんだよ……。
この時の俺は、正直、委員長や金森が俺の知っていた頃の様子から、既にだいぶかけ離れていた事にまるで気付けていなかった。
でも確かに予兆はあったんだ。水無月はこいつら2人の姿を見ただけで、異常に怯えていたし。こっちの世界に来てから、もう1ヶ月以上は経ったけど――。
玉木や水無月などの例外を除いて、他の選抜組の奴らの大部分とは、全く交流する機会もなかったしな。
……なるほどな。
異世界でエリート気取りになって、痛い方向に性格が逝っちゃったパターンか。はあ。それって、けっこう面倒くさいよな。確かにクラス召喚モノの異世界小説では、ありがちなお決まり展開ではあるんだけどさ。
俺はそんな事を頭の中で考えながら、まずは倒れているクラスメイト達を助けようと、急いで側に駆け寄る。大丈夫、みんな意識はしっかりあるようだ。
あちこちで身体を押さえながら痛がってはいるが、全員軽い打撲程度で済んでいるらしい。
”ゴゴゴゴゴゴゴ”…………。
――んん? 今度は一体なんだよ?
いきなり身体が揺れ始める。
また、金森が何かを始めたのか!?
金森の立つ場所を起点として、今度は突然コンビニの床に大きな亀裂が入り始める。
ミシミシミシミシッ――――!!
コンビニの白い床に激しい振動が走った。
店内に設置された展示棚がガタガタと一斉に震え、陳列されていたおにぎりやペッドボトルが次々と崩れ落ち始める。
「……お、おい!! 何だよコレ?」
「……ちょ!? うわあああああああぁぁっ!?」
「うおおおおお――っ! 一体何だよ、これは? 体がな、流されるううぅぅ!?」
金森の立つ場所の周囲の床から――。
突然、コンビニの中を埋め尽くす程の大量の水が、勢いよく噴出される。
それは噴水なんて生易しいレベルじゃない。
圧倒的な水量を伴った、まるで――洪水だ。
災害系のパニック映画で、街の地下水道管に大きな亀裂が入って、大量の水が地上に一気に噴出されるシーンがあるけれど。
こいつは、それくらいにヤバい迫力の水量があるぞ!
もの凄い轟音を伴った、まるで洪水のような濁流――。
それらが、一斉ににこちらに向けて押し寄せてくる。
コンビニの中にある全て物を飲み込み、荒々しい濁流はそれらを瞬く間に外に押し流していった。
金森に近づこうとして、後方に弾き飛ばされた数人と……。
床に座って震えていた水無月も。店内に置かれていた大きな展示台や、レジ、買い物カゴなども。
みんなみんな……。
全てが遥か遠くにまで、激しい水流に押し流されていく。
「――おいっ!! 一体、何なんだよこの状況は! うぷっ……!!」
俺はかろうじて、レジ横の柱に手を伸ばして掴む。
水流に押し流されそうになる自分の体を、そこで必死に柱にしがみ付きながら支えた。
その間もコンビニの床から溢れ出す水の勢いは、まるで収まる気配が無い。
店内にはもう、柱にしがみついている俺の体くらいしか残っていない。
「おい、金森! いい加減にしろっ!! このままだと、全部外に流されちまうだろうが!!」
「えぇ〜? 何々〜?? ゴミ溜めから一気にゴミを洗い流す為に、放水をし続けるのは当然のことじゃないかな〜? 君だって庭の掃除をする時に、散らかっている落ち葉を水道のホースで一気に押し流したりするでしょう? ホウキなんかで掃くよりも、そっちの方がずっと効率的だからね〜! プププッ……!」
もうニヤケ笑いだけでは抑えられずに、その場で膝をつきながら『あっはっは!』と両手で腹を抱えて笑い始める金森。
クラスメイト達が、哀れなアリみたいに水に流されていく光景が、よっぽど面白くて仕方がないのだろう。
笑い過ぎで、目から涙まで溢れさせていやがる。
(くっそ……。もうダメだなアイツは……!)
完全に、目がイってやがる。
まるで『アハっ! 僕の能力凄いでしょ〜?』みたいな自己陶酔モードに完全に入りきっている。
モン○ンで周りの迷惑も考えずに、敵前で太刀をブルンブルン振り回すクソ野郎と同じ状態だ。
……むしろ俺が今、一番気になっているのは、アホみたいに水を流し続ける水道ホース野郎と化した金森の方ではなかった。
その隣で平然とした顔で立っている、委員長の倉持の方だ。
この状況で暴走する金森を止めもせずに放置しているって事は……金森の行動を肯定しているも同義だぞ?
倉持の野郎。ちょっとみない間に、だいぶ性格まで変わってしまったんじゃないのか。
俺が平然としている倉持を睨みつけていると、すまし顔の野郎とちょうど目が合った。事もあろうに倉持は、こちらに向けてニヤリと笑みを返すと、楽しげに手まで振ってきやがった。
しばらく俺は激流に耐えながら体を支え続けていたが、倉持がやっと金森に対して水流を止めるようにと注意をした。
「――金森くん。それくらいにしておこうか? 彼方くんには、まだ大切なお話をしないといけないし。このままだと君の水流で、肝心の彼方くんまで外に押し流されてしまうよ? 押し流された後で、外に彼方くんを探しに行くのは、きっと面倒くさいことになると僕は思うのだけれど……君はそれでもいいのかい?」
後ろから倉持に声をかけられた金森が、アヘ顔をいったん止めて、やっと正気に返った。
「んんんー? ああ、確かにそうですねぇ〜。ゴミ溜めの中からお目当てのゴミだけを探し出すのは、本当に骨が折れますものねぇ〜。は〜い! 分かりましたよ、委員長!」
倉持の注意を受けた金森が、馬鹿みたいに流し続けていた水をやっと止めた。
おかげで柱に必死にしがみついていた俺も、ようやく自分の足で地に立つことが出来る。
気付けば、コンビニの中のありとあらゆるものが全て外に押し流されていた。
店の中にはもう何も残ってはいない。
これじゃあ、もうただのプレハブ小屋だな。よく工事現場にある、ほったて小屋のような有り様になっている。
コンビニに残っていたクラスの連中も、水無月も。全員、どこか遠くにまで、押し流されてしまったようだ。
店内に今残っているのは、俺と、この薄気味の悪い2人組だけしかいない。
「うぐっ……、ゲホッ! ゲホッ!」
柱にしがみ付いて激流に耐えていた時に、俺はかなりの量の水を飲み込んでしまったらしい。
喉元から込み上げるように逆流してきた水が、俺の口から溢れ出てくる。
床にしゃがみ込みながら、咽返すように体内に溜まった水を、俺は吐き出し続けた。
「ゲホッ! ゲホッ! くっそ……。胃の奥にまで水が入っていやがる……。ゲボッ、ゲホッ……!」
そんな俺の様子を、上から見下ろすように2人のクラスメイト達がゆっくりと近づいてくる。
金森の奴はニタリと口角を吊り上げて。
細めた目で、明らかにゴミを見下すような目線をしている。
「へぇ~、ミスターコンビニ君は胃袋に人工ポンプの能力でも付いていたのかなぁ〜? 実に面白いよねぇ。今度機会があったら、もっとじっくり僕の水を飲ませてあげたいよ。どこまで君が僕の水を飲み続けていられるか、実験してみるのも楽しそうだしね〜!」
ちょうど床に這いつくばる俺の目の前に、水浸しになったボロボロの鮭おにぎりが1つだけ落ちていた。
それを、”グシャリ”と――。
俺の目の前で、金森が思いっきり靴で踏みつける。
わざと俺に中身を見せつけるように。
足先をグリグリと回して、鮭おにぎりの具を周囲に散らせるようにしながら踏みつけていやがる。
流石に俺も、『この野郎……!』とは思ったけれどさ。
今はこいつ等には逆らわない方が良いだろう。ここは必死に我慢、我慢だ。
『水妖術師』の能力を持つ金森。
戦闘向けのチート能力を授けられ、王宮で勇者育成の訓練を受けている金森と、俺の能力『コンビニ』では、きっと相手にもならないだろうからな。
俺は苦々しく、口の周りに残る水を服の袖口で拭き取りながら、委員長の倉持を見上げた。
おそらくチート能力を手に入れて、ヒャッハー状態になっているオタクの金森よりも、倉持の方がまだ交渉向きだと判断したからだ。
「――で、俺に大切な話ってのは一体何なんだ倉持? っていうか、お前達と話すのもずいぶん久しぶりだよな。約1ヶ月ぶりぐらいか? 久しぶりに再会したクラスメイトにいきなり水責めでご挨拶とか。お前もけっこう見かけによらず、どSな趣味も持ってたんだな」
正確には異世界召喚をされた、次の日以来か。
俺がこいつ等とまともに会話をするのは。
3軍メンバーの筆頭である役立たずの俺と。選抜組のエースである倉持とは、これまで接点が全く無かった。
倉持は選抜組のエースとしていつも王宮にいる。
選抜組の中の他のメンツみたいに、ホームシックになって、たまーに俺のコンビニに遊びにくる……なんて事も、こいつ等は全然なかった。
だから、こうして再会するのは本当に約1ヶ月ぶりのことになる。顔つきは全然変わっていないが、なんていうか、嫌な感じのエリートオーラは増した気がするな。
「そうだね。彼方くんとは、この世界に来てすぐに別れてしまったから……。これまで、あまりゆっくりと話す機会も無かったよね。僕も王宮の中でずっと忙しかったから、街で暮らすみんなの所に、中々会いに行く事は出来なかったんだよ」
「まあ、それはそうだろうよ。お前さんは王宮に残っているエリート連中のエースだ。俺は笑いものにされて、街に放り出された戦力外メンバー達の代表みたいなもんだぞ? 勝ち組と負け組のそれぞれのエースな訳だし、住んでいる場所や立場だって今は全然違うからな」
たった1ヶ月の異世界生活で、ずいぶん身分に差が出来たものだぜ。
俺が嫉妬と皮肉交じりの苦笑を浮かべていると、倉持は爽やかな笑顔を浮かべたまま……。
いきなりとんでもない爆弾発言を、さらりと俺に告げてきやがった。
「――実は、今日はね。彼方くんにお願いをしに来たんだよ。単刀直入に言うけれど、君には明日の朝までにこの街から出て行って欲しいんだ……」