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第三百九十三話 ターニャとコンビニの勇者


「も〜〜う! そういう事情があるなら、先にちゃんと説明してよね〜、彼方(かなた)くん〜!」


「そうだぞ、彼方(かなた)ッ! うちの杉田デスクで最も仕事が出来るエースのターニャを、俺の許可なく勝手に連れ去ろうとしやがって! いいか、もしターニャが仕事から離れたら。杉田デスクの全仕事量のうち、約7割が(とどこお)るって言われてるくらいなんだぞ? お前は、そこの所が全く分かっていなんじゃないのか!?」



 ……いや、それって。杉田デスクの仕事のほとんどが、ターニャに任せっきりになってるって事じゃないのか? 

 お前は一体、全体の何割の仕事をこなしてるんだよ……と、つい杉田に反論したくなったけど。



 今それを言うのは、辞めておく事にしよう。


 親友であり、クラスの盟友である杉田(すぎた)の事はこの俺が一番よく知っている。

 こいつの独特のペースに飲み込まれたら、こっちの負けなんだ。地球上のどんなに優れた賢人(けんじん)であろうと、誰も論破する事が出来ない最強の自由思考型男。それが目の前にいるスーパー自由人、杉田(すぎた)なんだからな。



「玉木……早速だけど、玉木の持つ『索敵追跡(サーチ)』の能力で、大地を集団で移動しているという、ウニウニ草の群れを発見して貰いたいんだけど……。出来そうかな?」


「うん。分かった〜、彼方くん。やってみるよ〜!」


 俺は装甲車の中で、玉木にサーチの能力を試して貰う事にした。


 対象はウニウニ草の群れ。触媒(しょくばい)となる所有物は、ターニャが首から下げているペンダントの中にある、小さなウニウニ草の押し花だ。


 玉木は、ターニャから受け取った小さなペンダントを両手の中に包み。

 そっと目を閉じて。何かの気配をさぐるかのように、静かに沈黙をする。


「…………」


「――どうだ? ウニウニ草の居場所を見つけられそうか?」


「うん。いけそうだよ、彼方(かなた)くん〜! 遠くに赤い反応が見えるわ。この白い花びらで、ウニウニ草の群れを追跡出来るわよ!」


「やったぞ、玉木! で、それはどこなんだ?」


「ええっとね〜、結構コンビニ共和国に近い位置にいるみたい。今は魔王領との境界線上にある、西の大きな川の近くを歩いてるみたいなの〜!」



 装甲車の中で、ターニャが広げた世界地図を見ながら、玉木がそう告げる。


「魔王領との境界線上の川か。それは、ここからヤバいくらいに近いな。このスピードの速い装甲車なら、多分1時間もあれば辿り着くんじゃないかな?」


 良かった……。これが、また帝国領の南の森の方だとか。実は北の禁断の地の中を、ウニウニ草は歩いていますとか言われたら、どうしようかと思ったけど……。


 何もかもが俺の主人公補正パワー? それとも、朝霧(あさぎり)の隠れメタパワー? のおかげで、ちょうど良い感じになってくれていて、マジで助かったぞ!



「――よし、みんなで急いでそこに向かう事にしよう! ティーナ、そのまま運転をお願いしてもいいかな?」


「お任せ下さい、彼方(かなた)様! アドニスが起こせるのなら、私は時速200キロで走り抜ける事も可能ですので!」


「えっ、ティーナさん……!? この装甲車で時速200キロを出すのは、流石にちょっとマズいと思いますけど……って、うおおおああぁぁぁぁ!?」



 装甲車のアクセルを全開で踏み込み。

 心の中のアクセルのリミッターを完全に取り外したティーナさんが、まるでレーシングドライバーのような華麗な運転テクニックで、異世界の大地を爆走し始める。



「キャああぁぁ〜〜!! てぃ、ティーナちゃん〜〜! (はや)過ぎるよ〜〜!!」


「おい、彼方(かなた)! ティーナちゃんに、もっと運転速度を抑えるように言えよ! 大体、ティーナちゃんはまだ17歳なんだろう? 未成年に車の運転をさせるなよな! ちったぁ、コンプライアンスの事も考えろよッ!!」


「ば、バーカ……! 異世界に日本の法律を持ち込んでも、しょうがないだろう! きっと俺達の物語がコミック化か、あるいはアニメ化されるような時には、自動的にティーナの年齢は『18歳以上』に補正されるだろうし。杉田(すぎた)喫煙(きつえん)をしてるシーンには、黒いモザイクが掛けられるから安心しろよ!」


「この、どアホ彼方(かなた)ああぁぁぁ!! 俺は喫煙(きつえん)なんてしねーーよ! 妻帯者(さいたいしゃ)で、もうすぐ『娘』が生まれるっていうのに……何で嫁の前で、健康に悪い喫煙なんか俺がしねーといけないんだよッ!」


「――えっ? 杉田の嫁さんのルリリアさんのお腹の中の子供って、もう女の子だって分かったの!?」


「へへっ……実はそうなんだよぉ〜、彼方(かなた)ぁ! 異世界の魔法の力で、お腹の中の子供の性別が事前に分かるらしいんだ。すげーよな、この世界の魔法文明も日本の科学に負けないくらいに進んでいるんだって知って、俺もビックリしたんだよ!」


「いやぁ〜、それはおめでとう、杉田! くぅー、マジかー! 女の子かよー! あのオセロゲーム王者の杉田が、異世界で女の子のパパになるなんてなー。頼むから生まれてくる子に『キラキラネーム』だけは付けるなよ!」


「バーカ、異世界で和風の名前を付けてどうすんだよ! むしろそっちの方が、こっちの世界じゃ『キラキラネーム』扱いだろうが! もちろん、レイルルとか、リサリサとか、ピカッ◯ュウとかの格好良い名前を付けるに決まってるだろう!」


「いやぁー、ピカッ◯ュウだけは辞めとけよー! あっはっは〜〜!(笑)」



 俺と杉田は、両腕をお互いの肩に乗せ合い。まるで中学時代に戻ったかのように無邪気に笑い合う。


 そんな俺達2人に、玉木がめっちゃ怒りに満ちた声で叱りつけてきた。


「もう〜〜! 杉田くんも、彼方くんも〜〜っ! 2人とも時速200キロで走行中の車内で、懐かしい親友トークに花を咲かせるのはやめてよね〜〜! それよりも早く、運転してるティーナちゃんにスピードを抑えて貰ってよ〜〜! ほら〜、ターニャちゃんが気を失っているじゃないの〜〜!」



 そ、そうだった……!!


 まずは、ティーナの爆走レーシングモードを、すぐに解除させないといけないんだった! 

 このままじゃ俺達は、異世界で車のスピード出し過ぎによる事故死という、訳の分からない死因にされて。おまけに、お墓にその死因を刻まれかねないぞ!


「ティーナ……! すまない、もうちょっとだけ装甲車のスピードを下げてくれないか! ターニャがあまりの重力Gに耐えかねて、既に失神してるんですけど……」


「――大丈夫です、彼方(かなた)様! もう、目的地に到着を致しましたから!」


「到着って、えええええェェェ!?」


 ””キキキーーーーーッ!!””


 急ブレーキのかかった車内で、俺と玉木と杉田の仲良し中学同級生トリオが揃って、シートベルトに上半身をグイッとめり込ませる。

 ……おぶッ!? ヤバい、うっかりお腹の中に溜まってたものが全て、マーライオンみたいに狭い車内に噴出されるとこだった。



 装甲車の急停止による衝撃で、痛む体をさすりながら。俺達はゆっくりと目を開けると。


 そこはもう、コンビニ共和国の中ではなく。

 魔王領との境界線沿いにある、西の大きな川の前に辿りついていた。



「おーい……! 玉木(たまき)杉田(すぎた)、お前達は無事かーー?」


彼方(かなた)くんが生きているのなら、きっと私達も無事だと思うわ〜。もし、そうじゃないなら、タイムスリップをして。別の時代に来ちゃった可能性もあるわね〜」


「いててて。あれ? この装甲車って……そんな『◯ック・トゥーザ・フューチャー』みたいなタイムマシン機能も付いてたっけ? とにかく俺は嫁が元気に娘を産む瞬間に必ず立ち会うと誓っているんだ。絶対にこんな所じゃ死ねないんだからな!」


 

 ――うん。いかにもバカっぽい会話が俺の耳に聞こえてきたから。どうやら玉木と杉田も無事らしいな。



 ティーナさんの高速ドライビングテクニックによって。俺達は、ほんの数十分で目的の場所にまで辿り着く事が出来たようだった。


 軽い失神状態になっていたターニャも、すぐに起きて。今は元の元気さを取り戻している。



 俺達はいったん装甲車から降りて。透き通るように綺麗な水の流れる川原(かわら)の前に、全員で向かう事にする。



「――玉木(たまき)様、どうでしょうか? ウニウニ草の反応は、この辺りから近いのでしょうか?」


「うん、ティーナちゃん。この川原からだいぶ近い所にいるみたい。もう少し上流に向かって歩いた所だから、ほんの数十分くらいで見つけられると思うよ!」


 ティーナが嬉しそうに、その場で飛び上がる。


 玉木の話によると。ウニウニ草の反応は、川の上流付近の茂みにあるようだ。根を足のように使い、集団で歩くというウニウニ草の習性を考えると。おそらくその辺りに、大量の群れが歩いている可能性があるな。


 さっそく、川の上流に辿り着いた俺達は……そこで手分けをして、ウニウニ草を探し出す事にした。



「じゃあ、ティーナと玉木と杉田の3人は、川の東側の探索を行ってくれ。俺とターニャは、西側を探してみる。見つけたら、そのままウニウニ草の葉っぱの収穫を始めて構わないからな。杉田は決して興奮し過ぎて体から炎を出して、ウニウニ草を燃やさないように!」


「了解しました、彼方様!」


「了解よ、彼方くん〜! 私に任せて〜!」


「おぅ、この杉田(すぎた)様にかかれば、楽勝だぜ! ターニャも気をつけてくれよな! お前がいないと杉田デスクの仕事が8割以上(とどこお)ってしまう事を、常に心に置いて慎重に行動するんだぞ!」



 さっきは、約7割って言ってたくせに。

 どれだけターニャに仕事を依存しまくってるんだよ、この生活担当大臣様は……。


 思わずため息を吐く俺とは対照的に。真面目で素直なターニャは、


「ハイ、分かりました! 杉田様!」


 と、超絶良い子過ぎる明るい返事を返して、杉田によしよしと頭を撫でられていた。



「よし、行くぞ! ターニャ! 日が暮れる前にウニウニ草の葉っぱを大量ゲットしてこようぜ!」


「ハイ、コンビニの勇者様! 急ぎましょう!」



 俺はしばらくターニャと一緒に、綺麗な水の流れる川原付近を歩いていると。

 頭の良いターニャは、さっそく俺の意図を察して。俺がその事についての話題を切り出す前に、核心をついた話を先に問いかけてきた。


「――コンビニの勇者様? ウニウニ草を手分けして探すメンバーの人選に、私をペアとして指名して下さったのは、例の『座標』についての話を私から直接聞きたかったからですよね?」


「さすがは、ターニャだな。賢いだけでなく、人の心を読むのも得意だなんて……本当に、末恐ろしいくらいだよ。俺かレイチェルさんが、いつかコンビニ共和国の首脳の地位を退(しりぞ)いた時にはさ。ターニャが共和国の未来を、上手に導いていってくれると助かるよ」


「コンビニの勇者様は、将来……共和国の政治からは、離れてしまうご予定なのですか?」


 ターニャが心配そうに、尋ねてきた。


「うーん。正直、今もほとんど杉田(すぎた)とか、他の勇者達に政治や街の自治の事は任せっきりだしな。国の創設者として、広場に銅像みたいなのを建てられるのも趣味じゃないし。いつかは引退して、仲間と気楽な旅に出たい気持ちが強いかな」



 ターニャが割と深い内容の話をしてくるので、俺も思わず考え込みながら話してしまう。


 まあ、今の俺には……この世界で『魔王』となって。永遠の寿命を手に入れたい願望もないしな。その意味では、コンビニの地下で戦った、敵陣営のパティには本当に感謝してるかもしれない。



 うん。永く生きたって、きっと疲れるだけさ。


 無限にチョコミントの供給を受けられる恩恵を受けていたパティは、永遠に働き続ける事を後悔していた。


 だから俺は……ちゃんと歳をとって。お(じい)ちゃんになって。仲の良い仲間達と一緒に歳を積み重ねて、この世界で死んでいきたいと思う。

 親友の杉田にも、娘さんが生まれるらしいし。キラキラネームの付いた杉田の娘さんに、ちゃんと俺は叔父さん扱いされて、『コンビニおじさん』とか呼ばれて、いじられたい気持ちもあるからな。



「分かりました。コンビニの勇者様がそのようにお考えのようでしたら、私は一生懸命に勉強をして。コンビニの勇者様の目指した、平和な世界を未来に実現出来るように、共和国で頑張らせて頂きますね!」


「ああ。期待してるよ、ターニャ。割とガチで俺はターニャに政治は任せようと思ってるから、頼んだぜ!」



 ターニャの頭をポンポンと撫でた後で、俺はふと思いついた事をターニャに追加で話す事にした。


「それと、今度……ターニャには会わせたい人がいるんだ。今は南の帝国領で皇帝をしている、ミズガルドって女性なんだけど。その人が俺の、この世界での政治的な後見人を務めてくれているんだよ。きっと将来、コンビニ共和国の未来を背負って立つターニャは、ミズガルドに会っておいて損は無いと思う。俺もターニャの事をよろしくって! ミズガルドに伝えておくからさ」


「バーディア帝国の皇帝陛下に、私をご紹介して下さるんですか……? 何だか、緊張してしまいます……!」


「大丈夫、大丈夫! お土産にミズガルドの好きなリンゴとプリンを大量に持っていくからさ。そんなに気負わなくて大丈夫だから。たまーに、失礼な態度をする奴には、いきなり剣で切りつけてきたりするけど。普段はめっちゃ優しくて、良い奴だから安心していいよ!」


 俺があっけらかんと笑っている姿を見て。ターニャは少しだけ不安が取れたようで、可愛く微笑んでくれた。


「よーし、それじゃ今度は話の本題だぞ。ターニャ! さっそくターニャが秘密を解き明かしたという『座標』の秘密について、俺に教えてくれ!」



 俺はターニャの綺麗な瞳の奥を見つめながら、真剣に話しかける。



 この世界と他の世界を繋ぐ『ゲート』の存在。そしてそれを使用して、他の異世界に移動をするには、正確な『座標』が必要になるらしい。


 つまり、俺達が元の世界である『日本』に帰る為には、絶対に座標の謎を解き明かす必要があるんだ。



「――分かりました。それではさっそく。私が突き止めた、この世界の『座標』についてのお話を、コンビニの勇者様にさせて頂きますね!」



 ターニャが腕まくりをして、川原の近く砂地に。拾った棒で図形や数式を書き込み始める。


 俺はその光景を、ゴクリ……と固唾(かたず)を飲み。緊張した面持(おもも)ちで、静かに見つめ続ける事にした。



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