第三十九話 墓所を守る者
”ガラガラガラガラ……”
コンビニがガラガラと音を立てて。揺れながら『魔王の谷』の底を走行している。
もっともコンビニの店内には、不思議な磁場や重力が働いているらしいので、振動は全く感じない。
谷の険しい岩壁を、横に這うように垂直に走ったとしても。コンビニの中にいる俺達は、傾く事なく普通に店内で立っていられるのだから、不思議な感覚はするけどな。
うん……よくよく考えてみると『コンビニが走る』って、実に変な言葉だと思う。
日本語として間違っているようにも見えるが、俺のコンビニに関してはこれで正しいんだ。
なにせ俺のコンビニは、床下に戦車のように回転するキャタピラーが付いた『自走式』のコンビニだからな。
ついでにガトリング砲も2門付いてるから、ちょっとした戦車ゲーム気分だって味わえるぞ。
「……彼方様、コンビニが移動をしているのは不思議な感じがしますけど、何だかとっても快適ですね」
「ああ、これで時速30キロって所かな? 本当はもっと速度も出せそうだけど、今はこれくらいが丁度良いと思う」
谷底を悠々と快適に走行している、俺のコンビニ戦車。
コンビニの屋上には『コンビニの青い騎士』こと、アイリーンが控えてくれている。
自走するコンビニの進路に立ち塞がる、谷底の巨大な魔物達は……。屋上に仁王立ちで立ってくれているアイリーンによって、一瞬で切り刻まれていく。
まさに俺のコンビニの『最終兵器』様だな。
しかも屋上で無言で剣を構えている姿が、本当にカッコ良いんだよ。ああ……俺――アイリーンのフィギュアがオモチャ屋で発売されたら、速攻で予約しちゃうだろうな。
コンビニ戦車の上で、仁王立ちでポーズを取っている姿がマジで最高だと思う。コンビニと騎士っていう、謎な組み合わせがちょっとシュールな所も通好みで、俺的にはかなり『ツボ』なんだよな。
まあ、そんな感じで俺達コンビニメンバーの旅は実に安全かつ快適だった。
途中で目立ったトラブルや、困難もなく。
とうとう俺達は、黒い大理石で出来たピラミッド型の遺跡――『魔王の墓所』へとやってきた。
「やっとここに到着をしたけれど……。やっぱり見た目は、かなり大きな建物だったんだな」
前回ここを見たのは、偵察ドローンの映像でだった。
だからこうして間近に見てみると、実際はエジプトのピラミッドくらいに大きいのが分かる。見た目は真っ黒だし、大理石のような光沢のある固い石で建造をされているらしいが……。その素材が何で出来ているのか正確には分からなかった。
「この中に、この魔王の谷の結界を解く何かがあるのでしょうか?」
「うーん。それはまだ分からないな。正直、ここが本当に大昔にいた最強の魔王の関連施設なのかも確証はないし。でも、この魔王の谷の謎に関わる『何か』はこの中に必ずある。それは間違いないと思うんだ」
俺とティーナは話し合って、ティーナと守護機兵の4体は、コンビニ戦車の中に残る事にした。
黒い墓所の中には、俺とアイリーンと偵察用のドローンで潜入をする。
事実上、コンビニの最大戦力であるアイリーンを一緒に連れて行くのだから、まあ……大丈夫だろう。
「……ティーナ。何かあったら、すぐに地下シェルターの中に隠れるんだぞ。もし外で何か大きな変化があったなら、ドローンで俺に知らせてくれ」
「ハイ、分かりました、彼方様。道中のご無事をお祈りしています!」
俺はコンビニ戦車に残るティーナに手を振って、黒いピラミッドの入り口へと向かう。
「よし、行くぞ! アイリーン、俺の警護をよろしくな!」
「お任せ下さい。店長の身には、何人たりとも絶対に触れさせたりはしません。必ずこの私が店長をお守りしてみせます!」
黄金の剣を鞘から抜刀したアイリーンが先頭を行く。
黒い墓所の入り口は、人が通過できるギリギリギリのサイズくらいに小さなものだった。
だけど、その外見はまだ真新しい。とても何百年、あるいは何千年を経過しているかもしれない古い遺跡とは思えないくらいだ。
「……という事は、誰かがここの手入れをしているんだろうな」
問題はその『誰か』が何者なのか……って事だ。
俺とアイリーンは暗闇に包まれた狭い通路を歩いていく。
狭い通路だが、天井には等間隔で白い蛍光灯のような照明が照らされていた。
ここの通路の床は、何だろう?
金網か何かで出来ているのだろうか。
「……ここはあまり異世界っぽい感じがしないな。さっきから歩いているこの通路は、まるで俺達の世界にある科学工場の中みたいな感じがする。こんな古い遺跡から、近代的な文明の匂いがするなんて……ちょっと信じられないな」
俺はふと、ティーナから聞かされたあの話を思い出した。
『魔王の正体は、異世界召喚された勇者の成れの果てである』
そう思うと、遠い昔……。
この世界を全て支配したとされる最強の魔王も、元は異世界から召喚をされた勇者だったのだろうか?
「……もし、そうならその魔王は一体何の能力を持った異世界の勇者だったんだろうな? これだけ近代的な施設を作れるような能力なんだ。もしかしたら俺達が住んでいた現代世界と同じような時代から召喚をされた、異世界の勇者だったのかもしれないな」
もし、俺達と同じ時代を生きていた勇者なのだとしたら……。
この世界に突然、召喚をされて。
そしてきっと異世界の勇者としての責任を果たし。その当時、この世界で暴れていた邪悪な『魔王』を倒し。
その後――。
その勇者は一体何を考え、何を希望にこの世界に残ったのだろう。
そしてどんな人生をここで歩んで。最後にはどうしてこの世界を全て支配してしまうような、恐ろしい魔王になんて成り果ててしまったんだろうな。
俺は近代的設備が整えられている、この黒い墓所の中を歩きながら……。遠い過去に存在した、古い先輩の人生を考えずにはいられない。
だってそれはもしかしたら、この先に俺がこの世界でこれから歩んでいく未来の人生かもしれないのだから。
まあ、コンビニの勇者が魔王になるなんて。まず無さそうだけどな。異世界で最強の商人とかになら成れそうだけど。
俺が胸を撫で下ろしながら、ゆっくりと歩いていると――。
「――店長!! 敵がこっちに来ます、気をつけて下さい!」
アイリーンが正面に立ち。自分の背に急いで俺を隠した。
俺が狭い通路の前方を確認すると、前からガシャガシャとこちらに向かって何かが歩いてくるのが見えた。
すかさずアイリーンが黄金の剣を抜刀して身構える。
薄暗い通路の中で、金色に輝く閃光が煌めいた。
アイリーンが通路を前進しながら、暗闇の中に黄金色の直線を真っ直ぐに描いていく。
その金色の眩い輝きの後には、機械で作られたロボットのような……この遺跡のガーディアンと思われる兵隊達の残骸が、次々と転がっていく。
暗闇の中は視界が悪いのでよくは見えないが、どうやら俺のコンビニで作り出す守護機兵、『コンビニガード』と似たようなロボット兵達が、この遺跡にもたくさん配置されていて。この辺りを守っていたらしいな。
まあ、全部……。一瞬にしてアイリーンの黄金の剣によって切り裂かれてしまったみたいだから、危険は全く無かったけれど。
それにしても、やっぱり機械で作られた兵隊がいるって事は――。ここは現代世界に近い、ハイテク装置で管理をされた場所って事になる。
これが本当に、遠い昔の大魔王の墓所なのか?
何だか墓所というよりは……もっと別な目的の為に建てられた場所だったのではないかと思えてしまうな。
ぐるぐると緩やかな螺旋状の通路を、俺達はひたすら前に進み続けた。
途中、何回かロボット兵に遭遇をしたが。アイリーンがあっという間に処理をしていく。
そうして、やがて見えてきたその先には――。
まるで広大なコンサートホールのように、視界が開けた広い空間の場所に俺達は辿り着く事が出来た。
「……おいおい、一体何なんだよ、ここは?」
本当にここでクラシックやオペラの演奏が行われていたとしても全く違和感がないぞ。
おおよそ、500人程の人数が収容出来そうなコンサートホールには、観客が座るための座席もちゃんと用意されていた。これじゃまるで、俺達の世界にあるイベントホールと何も変わりがないじゃないか。
ここは本当に、一体何の場所なのだろう?
何でこんな場所がこの異世界の、しかも魔王の谷の底に存在をするんだ?
大昔に暴れまくったという魔王は……。
本当に俺が過ごしていた元の世界と、同じ世界で暮らしていた住人だったとでも言うのだろうか?
たしかに異世界召喚をされる時代や年代などは全く不明だ。
俺達クラスメイト全員は、たまたまこの世界のこの時代に召喚をされたが……。もしかしたら別の時代、それこそこの世界の過去に召喚をされた勇者もいたかもしれない。
「こんなコンサートホールみたいな場所を、この異世界に作るなんて……。絶対に俺と同じ時代を生きていた奴が、この世界に召喚されたのだろうと思う。下手をすると、実は同じ日本で暮らしていた奴だったとかじゃないだろうな……」
別にこういうイベントホールは、アメリカでも、ヨーロッパとかでも普通にあるだろう。
だけど何か建物の作りが、俺のよく知っている日本のものに凄く似ているように感じるんだ。別に他の国のイベントホールと比較をしたとか、そういう訳じゃないんどけどさ。
俺とアイリーンがホールの真ん中にまで進んで行くと――。
突然、俺達2人に、天井から強烈な光のスポットライトが当てられた。
まるでこれから映画の上映が始まるかのように。
俺達を照らすスポットライト以外の、周囲の明かりがゆっくりと暗くなっていく。
黄金の剣を構えて、アイリーンが周囲の様子を警戒した。
――その時……。
まるで映画館の館内アナウンスのような声が、ホール全体に響き渡った。
『――ようこそ。偉大なる魔王様が没した神聖なるこの地に。汚れた罪人の末裔達よ、この聖なる地に無断で足を踏み入れたその罪は重いぞ。我らの魔王様は人間が土足でこの地に立ち入る事を決して好まない。お前達、罪人に許されるのは――ただ《死》あるのみだと心得よ』
ホールの中にアナウンスされる声は、女性の声のように聞こえる。
まるで変声器を通したような機械的な声になっているが、この声は一体どこから流れてきているんだ?
そして不思議とその声は、どこかで聞いた事がある声のような気もした。
俺は周囲を見回して見るが、声の主の姿を見つける事が出来なかった。
だが、ホールに流れるアナウンスの声は流れ続けている。
『――愚かなる罪人の末裔どもよ。その罪を償う為に、その命を以って、偉大なる魔王様の魂を慰める生け贄となるがいい』
アナウンスの声が急に途切れた。
――その瞬間。
暗闇の中から、銀色に光る『何か』が、こちらに向かって迫ってくる。
俺が、その光の方向に振り返るよりも早く。
「――店長! 危ないですっ!!」
アイリーンが俺に迫り来る敵の凶刃を、手にしている黄金の剣で弾き飛ばした。
”カキーーーーン!!”
銀色と黄金色の剣が交差し、暗闇のホールに眩いばかりの閃光が2本走る。
俺を背中に隠して守りながら。
アイリーンが目に捉えられないくらいに、高速のスピードで光る――敵の銀色の斬撃を、黄金の剣で全て撃退していく。
やがて銀色と黄金色の閃光が織りなす、花火のような美しい光の輝きが、幾重にも重なり合い。その閃光の輝きがゆっくりと収まっていくと――。
俺とアイリーンの立つ場所の前方……。
ちょうどコンサートホールの舞台上に当たる場所に。
1人の黒い鎧をまとった騎士が、そこに立っているのが見えた。
「アイツが、この黒い墓所を守る『主』と言う訳なのか……」
コンビニの青い騎士であるアイリーンと、舞台上に立つ漆黒の黒い騎士が互いに睨み合う。
黒い騎士は、先程ホール内に流れていたアナウンスの声と同じ声で、対峙する俺達にこう告げてきた。
「偉大な魔王様の眠るこの地を侵す罪人どもよ。死をもってその大罪を償うが良い……」
『『――死ねッ――!!!』』
黒い騎士が銀色の剣を抜刀して。
もの凄い速さで、こちらに向かって飛びかかってくる。




