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第三百八十六話 幕間 共和国周辺の戦い


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「――店長、起きて下さい! 店長!」


「……ん……。この声は、アイリーン……なのか?」



 目の前に広がる視界がやけに暗い。


 まだ痙攣(けいれん)している、重い(まぶた)をゆっくりと開くと。俺の顔の上には、青い髪色が綺麗なアイリーンの顔が見えた。



「良かった……。突然、気を失われてしまったので心配を致しました」


「……アイリーン? 俺はどれくらいの間、ここで気を失っていたんだ?」


「おおよそ、5分くらいだと思います。その間、敵からの襲撃は特にありませんでした」



 ……そうか。さっき天井にびっしりと張り付いていた、無数の水無月達による攻撃に対処する為に。

 俺は最大出力のレーザー砲を真上に向けて放った。きっとその強い衝撃と反動で、俺はそのまま気を失ってしまったのかもしれないな。


 薄明かりの中で目を覚ました俺は、すぐに自分の体に起きている『ある異変』に気付いた。



「うわっ、何なんだよコレ!? 体中にめっちゃ、緑色のネバネバした液体が付着しているじゃないか……!」


「これでも、まだマシになった方なんですよ。店長が気を失われている間に、私が店長の体に付いたチョコミントの液体を、タオルで拭き取っておいたのですから」



 アイリーンが顔を赤くしながらドヤ顔をして、形の良い胸を張ってみせた。


 その手には、ドロドロに溶けたチョコミントの液体が大量に染み付いた白いタオルが握られていた。


 アイリーンからの説明を聞いた俺は……。ようやく現在の状況と、俺の身に『何が』起きたのかを詳細に思い出す事が出来た。



 ――そうだ。俺は気を失っている間に、コンビニの大魔王に仕えている敵側の『パティの記憶』と繋がっていたんだ。


 レーザー砲で吹き飛ばした、無数の水無月達の体が瞬時に溶かされて。大量のチョコミントの液体が、俺の体に天井から降り注いできた。それを全て、俺はまともに全身から浴びてしまったらしい。


 チョコミントの騎士であるパティの体を構成する、緑色の液体を体に取り込んだ俺は……。彼女の記憶の一部にほんの少しだけ触れる事が出来た。


 だから今の俺は、5000年前のレイチェルさんとパティが話した秘密の会話の内容を知る事が出来たし。そして今現在、コンビニの地下階層に侵入してきている敵のパティの居場所も、完全に特定する事が出来ていた。



「――よし、アイリーン。行こう! 敵側のパティの本体に直接会いに行くぞ!」


「えっ、えっ、店長? 敵のパティに会いに行くって。敵の本体の居場所が分かったのですか!?」


「……ああ。さっき大量にチョコミントの液体を口の中に飲み込んじまったみたいだからな。そのおかげで俺は、敵の体の一部と繋がる事が出来たんだ。敵の本体は今、地下5階の駐車場エリアにいる。そこに急いで向かおう!」


「わ、分かりました! 店長、私もついて行きます!」



 俺はアイリーンを引き連れて、再びエレベーターの中に乗り込む。目指す場所は、地下5階層の駐車場エリアだ。


 おそらく敵側のパティは、最初にコンビニの地下階層に閉じ込めた地下5階から。特に他の階層へは移動をしていなかったのだろう。


 リザードマンや、偽物の異世界の勇者達の姿をした自身の分身体だけは、あちこちにばら撒いたみたいだけど。本体はずっと、最初の場所から動いていなかったらしい。



 それとも……もしかしたら、この『俺』をそこでずっと待っていたのだろうか?


 どちらにしても、俺は敵のパティの本体に会いに行かないといけない。


 黒い服を着て、体の一部を機械化されていた、過去のコンビニの守護者であるアイリーン、セーリス達とは違い。自らの意思で、レイチェルさんに協力をして。過去のコンビニの勇者を騙して、魔王を作り上げる計画に賛同をしたパティ。


 北の禁断の地で、5000年もの長い時を過ごしてきたパティは、何を思ってこれまで生き続けてきたのか。


 それを俺は直接、彼女の口から聞いてみたかった。



「行くぞ、アイリーン! 外のみんなが心配だからな。ここは急いで決着をつけて、街のみんなの所に戻るぞ!」


「――了解です、店長!」



 エレベーターに乗り込んだ俺達2人は、そのまま一気に地下5階に向けて降下していった。


 

 アイリーンと俺は、それぞれ光の剣と黄金の剣を手に構えて。コンビニの大魔王に仕える、敵側のチョコミントの騎士との最終決戦に備える事にした。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 一方、その頃……。



 コンビニ本店の外では、コンビニ共和国に押し寄せてきた敵の軍勢と。街を防衛する、防衛大臣の雪咲詩織(ゆきさきしおり)による、激しい攻防が繰り広げられていた。


 巨大ヘリから落下してくる、無数の機械兵達。


 彼らは共和国正面ゲート付近の森に降り立つと。そのまま一直線に共和国の中に侵入しようと、正面ゲートに向けて、突進を開始してくる。


 それを『剣術使い(ソードマスター)』の勇者である雪咲は、たった一人だけで防衛し続けていた。



「もう〜! 斬っても斬っても、森の中からワラワラと敵の機械兵達が湧いてくるし。本当にキリがないわ! 何で街の防衛をしているのが、うち一人だけなのよ〜!」



 ボロボロの学生服を身にまとい。長剣を縦横無尽に振り回しながら、雪咲は思わず愚痴(ぐち)をこぼしてしまう。


 共和国に襲来した巨大ヘリの集団から、無数の機械兵達が街の周辺の森の中に、現在進行形で降下し続けている。


 唯一、幸いな事は……。敵の小型ドローンから発射されたミサイル攻撃は、コンビニマンションの対空防衛ガトリング砲を操る、砂漠の民の少女ターニャの活躍によって、完全防衛が出来ているという事だろうか。


 巨大なコンビニマンションから放たれた、対空防衛ガトリング射撃は、敵の全てのミサイル攻撃を完全に粉砕し。鉄壁の守りを維持している。

 おかげで、いまだにコンビニ共和国は敵のミサイルの着弾を一発も許していなかった。



 現役高校生ゲーム配信者として、天才ゲーマーの名を欲しいままにしてきた雪咲であっても。

 天才少女ターニャが操るガトリング砲のシューティング技術には、思わず脱帽してしまう。


 何を任せても、完璧な天才ぶりを常に発揮し続けてきた幼いターニャは、きっと日本に移り住んだとしても。そこでゲームの世界の天下も取れるに違いない。



「ヤッバ……! このままじゃ、うちの得意分野でもあるFPSゲームでもきっとターニャに負けちゃいそうよね。ゲーマーの活躍期間って実は凄く短いんだから。歳をとると動体視力も落ちてくるし、すぐに若くて才能のある子が後ろから追い上げてくるし。全く……本当に歳は取りたくないものよね!」



 共和国の防壁の外で、必死に剣を振り回し続ける雪咲。


 対空防衛は成功しても、地上から襲撃してくる敵の防衛についてはまだ完全に成功している訳ではない。


 敵の巨大ヘリの大群は、共和国の対空攻撃が届かない遠距離から機械兵の降下作戦を続けている。


 おかげで、森の中からゾロゾロと湧いて共和国の正面ゲートに迫って来る敵と、雪咲は永遠と戦い続けなければならなかった。



 そんな孤軍奮闘している雪咲の後方から。突然、大きな声が聞こえてくる。



「雪咲様ーーっ! 街の全住民の避難が完了しましたぞーーっ! 我らも参戦させて頂きますーー!」



 正面ゲートの内側から……おおよそ、10人ほどの街の自警団のメンバー達がそれぞれに武器を持ち。たった一人だけで敵と戦っている雪咲を援護する為に、外に勢いよく飛び出してきた。


「あ、あなた達……!? バカッ!! あなた達は街の中でみんなと一緒に避難していなさいって、私は言ったでしょう!!」



 雪咲がゲートの方に振り向き、慌てて大声を放ち。彼らに注意を促したが……既に遅かった。



 正面ゲートに群がる敵の機械兵達から、無数のボウガンの矢が放たれる。


 感情の無い機械兵達が放った無慈悲な矢は、ゲートから飛び出してきた自警団のメンバー達の前に迫り来る。


 援軍に来てくれた彼らが、決して無能という訳ではない。だが……『剣術使い(ソードマスター)』のスキルを持つ雪咲だからこそ、無数に放たれる敵のボウガンの矢を剣だけで弾き返し。敵陣の中にたった一人だけで、戦い続ける事が出来ているのだ。


 まだ、戦闘経験も未熟なコンビニ共和国のにわか自警団員のメンバー達では、ボウガンの矢を盾で防ぐ事さえ困難だろう。



「――クッ……!!」


 慌てて大地を蹴り。高速移動で、味方を守りに行こうと全力疾走する雪咲。


 だが……とても間に合わない。


 ゲートから飛び出てきた街の自警団のメンバー達は、迫り来るボウガンの矢によって。まさにその命を奪われる、寸前の状況に追い込まれてしまう。



 その時――。


 ”――ガキン!” ”ガキン” ”ガキン”


 自警団のメンバー達に迫っていた無数のボウガンの矢が……空中で透明な『何か』によって遮られ。その全てが地面に払い落とされた。



「ひ、ヒイィッ……!!」


 命を落とす寸前だった自警団のメンバー達は、その場で大量の冷や汗を流しながら、腰を落とし。ワナワナと足を震わせながら、地面に座り込んでしまう。



「ハイ、ハ〜〜イ! ここはすっごく危ないから、みんなは街の中にすぐに避難して下さいね〜! 後は私達『異世界の勇者』が街の外を守りますから、全て私達に任せちゃって下さいね〜!」



 甘ったるい猫撫で声が、どこかから聞こえてきたと思ったら……。


 地面に腰を落として座り込んでいた、自警団メンバー達の正面に。さっきまで何も無かったはずの場所に、突然、茶色いポニーテールをした黒い服の女性がスゥ……っと、その姿を現した。

 

 彼女は両手にダガーナイフを装備している。

 どうやら、このポニーテールの女性が敵の放ったボウガンの矢を、全て防いでくれたようだった。



「……ハイハイ、紗希(さき)ちゃんの言う通りよ。ここは戦闘経験豊富な私達が対処するから、みんなは街の中に急いで避難をしなさい。いいわね?」



 今度はゲート真上の方から、凛々しい女性の声が聞こえてくる。


 その声が聞こえるのと同時に、眩しい光を放つ光弾が正面ゲートから敵に向かって放たれ――。


 正面ゲートに迫っていた敵の機械兵達の集団を、放たれた無数の光弾が瞬時に吹き飛ばす。



 その光景を唖然として見上げていた、雪咲の前に。


 ゲートの上から、褐色の肌と美しい金色の髪を持つ凛々しい顔つきをした女性が地面に降り立った。

 そして彼女は、地上にいた黒い服を着た茶色いポニーテールの女性とハイタッチをすると。二人一緒に、同時に雪咲の前で決めポーズを取ってみせた。



「じゃじゃじゃ〜ん☆ 2年3組の超絶仲良しコンビ。紗希(さき)ちゃん&紗和(さわ)ちゃんの『SS(ダブル・エス)シスターズ』の降臨よ〜! 詩織(しおり)ちゃん、遅れて本当にごめんなさい〜。今、助けにきたよ〜!」


「…………」


 目の前で月刊誌の表紙を飾る、グラビアアイドルの決めポーズのような姿勢を取る、暗殺者(アサシン)の勇者の玉木紗希(たまきさき)と。射撃手(アーチャー)の勇者の紗和乃(さわの)・ルーディ・レイリアの2人組。


 そんな2人の姿を、呆然と白い目線で見つめていた雪咲は『ハァ〜っ』と、今年一番の大きな溜息を吐き出した。



「全く、あなた達……本当に今までどこにいたのよ?」


「ごめんごめん、詩織ちゃん〜。コンサートホールの中にコンビニホテルの人達を避難させてたら、そこで久しぶりに紗和(さわ)ちゃんと再会しちゃったの〜!」


「うん。私も大親友であり、共に昆布おにぎりをこよなく愛する昆布同盟のパートナーである紗希(さき)ちゃんと再会する事が出来て、本当に嬉しかったよ! 街のみんなの避難も無事に完了したし、さっそく反撃開始といきましょう!」



 紗和乃は光の弓を真っ直ぐに構え。遠い空に浮かぶ、敵の巨大ヘリの一団に目掛けて魔法の矢を放つ。



「これでも喰らいなさい、『光乱連続射撃(ライトアローシャワー)』ーーッ!!」



 紗和乃の放った光の弓は、空高くにまで上昇し。

 巨大ヘリの一団の前で、花火のように炸裂すると。無数の光弾を周囲に撒き散らした。


 弾け飛ぶ光弾の直撃を受けた巨大ヘリは、次々と大地に墜落していき。そのまま地面に衝突をして大破する。


 遠距離からの攻撃を得意とする紗和乃(さわの)の登場人物によって。共和国周辺の戦局は、一気に好転する事となった。



紗和(さわ)ちゃん、凄〜い!! 私も負けてられないね〜! 行っくよ〜!」


 体を透明化させた暗殺者(アサシン)の玉木は、森の中を疾走して。次々と敵の機械兵達をダガーナイフで切り裂いていく。


 その速さは、剣術使い(ソード・マスター)の勇者である雪咲を驚かす程に俊敏だった。



「えっ? 玉木さんって、あんなに速く動けたの!? もう……何でみんなうちを置いて、どんどん勝手にレベルアップしていっちゃうのよ〜!!」


 玉木に負けじと、雪咲も長剣を構えてその後を全速力で追いかけて行く。


 2人の最強の力を持つ、異世界の勇者達の活躍によって。コンビニ共和国へ侵攻しようとする敵の機械兵軍団は、森の中で次々と討ち減らされていった。


 ゲートの上から、光の弓を放ち続ける紗和乃も。狙いを定めて敵の巨大ヘリの部隊を、正確にそして連続で撃墜させていく。


 こうして北の空から襲来した、禁断の地の軍隊は……共和国を守る異世界の勇者達による活躍と。コンビニマンションからガトリング砲を放つ、ターニャの華麗な射撃技術によって。


 どうやら、誰一人として住民に犠牲を出す事なく。戦いを無事に終結させる事が出来そうな状況となった。



 そんな最終局面に差し掛かった、本当に終盤のタイミングで――。



「うおおおォォォーー!! 『火炎術師(フレイムマジシャン)』の勇者、ここに見参ッッ! コンビニ共和国の最終兵器の杉田様が来たからには、みんなもう大丈夫だからなーー!!」



 コンビニ共和国の生活担当大臣(笑)の杉田が、ようやく正面ゲートに到着をした。


 杉田は、さくらの経営するレストランの前で、避難する街の住民達の波に巻き込まれてしまい、ずっと身動きが取れなくなっていたのだが……。

 ようやくみんなの避難誘導が終わり、慌ててここに駆けつけてきたのである。


「あっ、エロエロ魔人……じゃなくて杉田くん! 街を守る防衛戦は、もう終わりそうだから平気よ。杉田くんは、そこでじっとしていて大丈夫だからね」


「ハァーーーッ!? 共和国で最強の火力を誇るこの俺が満を持して、登場したっていうのに。俺が活躍する出番は一体どこにいったんだよーーッ!?」


「杉田くんが最強の火力を持つ……? ああ、放出する炎の量ではという意味ね。でも、もう本当にやる事は何も残ってないし……」


 おおかたの敵側の巨大ヘリを、全て光の弓で撃ち落としてしまった紗和乃(さわの)は、杉田の顔を見つめながら、指を顎につけて『うーん』と考え込む。


 そして、何かを閃いたのか。指をパチンと鳴らして、興奮している杉田に仕事の依頼をする事にした。


「……そうね。じゃあ、そこで体から大量の炎を出して。遠くからでも目立つように、正面ゲートの上で燃え続けていてくれるかしら、杉田くん?」


「おうッ! 炎を出してここで燃え盛っていれば良いんだな? お安いご用だぜ、俺に任せろ! うおおおォォォ、燃えろぉぉ! 俺の炎よ、激しく燃え盛れええぇぇ!」



 火炎を自在に操れる杉田は、自身の周りに大きな炎を燃え盛らせる。

 その激しい炎の光は、森の遠くからでも十分に見渡せる程のものであった。


「――うん。きっとこれで、森の奥に向かった紗希(さき)ちゃんと、雪咲(ゆきさき)も。遠くからここが正面ゲートの位置なんだと気付く事が出来そうね!」



 紗和乃はやる気に満ち溢れている杉田を、とりあえず周囲を明るく照らす『松明(たいまつ)』の役割として使う事にした。


 本人も満足してるようだし。まあ、大丈夫だろう。



「後は……コンビニ本店の地下にいる、彼方(かなた)くん達が上手くいってるのかどうかよね。レイチェルさんもいる事だから、きっと大丈夫だとは思うのだけど……」



 ゲートの周辺の治安を安定させた紗和乃(さわの)は、共和国の中にあるコンビニ本店の方角を見つめ。



 心配そうな顔をして、一人でそう呟くのであった……。


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