第三百八十三話 7人のクラスメイト達
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コンビニ共和国の周辺の空に、遠くから巨大な輸送ヘリの集団が飛んでくる。
そのヘリの形は、アパッチヘリとも少し異なっていた。
北の空から飛来したヘリは、もっと大きくて、大量の貨物を運ぶ為に造形された巨大輸送用のヘリだ。
それらが合計で、約50機もコンビニ共和国の周辺の空に飛んできている。
そして上空から機械兵であるコンビニガードの大軍を、落下傘部隊のように次々と地上に向けて降下させ始めた。同時に巨大ヘリからは、無数の小型ドローンの部隊も大量出撃を開始している。
それらの光景を見た、コンビニ共和国の守備隊のメンバー達は、全員腰を抜かして驚愕してしまう。
元々、彼らは実戦経験がまるでない……市民の有志による自警団のような組織だ。
たまに共和国に襲来する魔物などは、全て防衛大臣の雪咲詩織が1人で対処していた。
だから街の新規住民である彼らにとって、これほどの数の明確に悪意を持った『敵』の襲来は……。
共和国の建国初期の頃に、10万人を超える世界連合軍の騎士達が攻め寄せて来た時以来、初めての事になる。
「ぼ、ぼ、ぼ……防衛大臣様っ!! 北の空から、黒い箱のようなものが沢山飛んできています。空から沢山の騎士のような敵も森に降下してきています! 我々は一体、どうすれば良いでしょうか……?」
コンビニ本店に到着していた『剣術使い』の雪咲は、本店の固定電話で地下にいる彼方と連絡を取りながら、彼女の部下達からの報告を受けていた。
「――どうするも、こうするもないわ。あなた達にはまだ実戦は無理よ。街にまだ残っている住人を速やかにコンビニマンションの中か、コンサートホールに中に避難誘導する役をして頂戴!」
「りょ、了解しました! みんな、急ぐぞッ!!」
防衛大臣の雪咲の指示を受けて、慌てて街に駆け出していく街の守備隊のメンバー達。
『――雪咲! 街の人々に被害は出ているのか!?』
コンビニ本店の地下階層にいる、秋ノ瀬彼方からの声が受話器から聞こえてきた。
「――ううん。まだ、それは大丈夫よ。建物の耐久性が高い、コンビニマンションと、コンサートホールへ避難するようにみんなを今、誘導しているから安心して!」
『……そうか、すまない。外の防衛は杉田や紗和乃と協力をして、何とか守り通して欲しい! コンビニマンションの対空ガトリング砲を使えば、敵のドローンからのミサイル攻撃は防げるはずだ!』
「分かったわ、了解よ! こっちはこっちで頑張るから。彼方くん達も早く敵のボスを仕留めて、地下ダンジョンクエストをクリアしてよね! うちも自分の経験値が増えるように、街の防衛は全力でさせて貰うから!」
『雪咲、お前だけがマジで頼りだからな! 俺はすぐに戻るから、街の事は頼んだぞ!』
「はいはい。そういうのは自分の好きな恋人の子に言ってあげなさいよね! うちは任せれた仕事を粛々とこなすだけだから。でも、安心して! キャッスルディフェンス系のゲームは、うちの大得意なジャンルの一つだから。きっと楽勝よ!」
その通話を最後に、雪咲は地下にいる彼方との連絡をいったん切った。
そして急いで、コンビニマンションの最上階にある『マンション管理室』の固定電話へと電話を掛け直す。
“トゥルルルル〜” ”トゥルルルル〜”
しばらく待っても、コンビニマンションの管理室の固定電話には、誰も出なかった。
「……もう、何でマンション管理室に誰もいないのよ! エロエロ魔人の杉田はどこに行ったのかしら!」
雪咲は肝心な時に、マンション管理の担当者である杉田が電話に出ない事に思わず悪態をついてしまう。
実はこの時、生活担当大臣の杉田は、彼方から言われた通りに。『料理人』の琴美さくらが経営するレストランに赴いていた。
そこでカレー不足による暴動など起きていないという事実を初めて知った所で、共和国の上空に、突如として出現した巨大ヘリの襲来を知る。
杉田はレストランの前で、街の中を慌てて避難する住民達の群れに巻き込まれてしまい。そのまま身動きが取れずに、街の中で揉みくちゃとなってしまっていたのだ。
肝心な時には役に立たず。
でも、平和で穏やかに時には地味に奴に立つ。
それが頼れる共和国の生活担当大臣(笑)である、杉田の最大の特徴とも言えたかもしれなかった。
しかも今回、雪咲にとっては非常に困った事に……。
頼りになる相談相手の1人でもある、通商大臣のザリルと、最近めきめきと戦闘能力をあげてきた『裁縫師』の桂木真二の2人が、共和国内で不在という事もあった。
彼らは帝国領にいた時に、彼方が要請をした共和国への依頼に応える為に。
コンビニ共和国の外交特使として、帝国の皇帝ミズガルドと通商交渉の会談をする為に、この時バーディア帝国領へと2人で向かっていたのである。
だとすると共和国防衛の守備隊の中で、現在まともに外敵と戦えるのは『剣術使い』の雪咲のみという事になってしまう。
もう1人、遠方攻撃が得意な『射撃手』の勇者である紗和乃は一体、どこに行ってしまったのだろうか……? その行方が現在の雪咲には分からなかった。
”トゥルルルル〜! ――ガチャッ!”
――その時。
ずっと呼び出し音が鳴り続いていた、コンビニマンション管理室への電話に、やっと誰かが出てくれた。
「……もしもし、杉田なの!?」
『――こちら、杉田デスクの新米補佐官、ターニャです。その声は防衛担当大臣の雪咲様ですか?』
「えっ……あなた、ターニャなの?」
雪咲はコンビニマンション管理室の受話器に、砂漠の民の少女。ターニャが出た事に驚いた。
『街の上空に、黒い飛行物が飛来しているのを確認しましたので、すぐにマンションの管理室に駆けつけました。既に3棟のマンションのベランダに備え付けられている対空ガトリング砲の、全砲門の攻撃準備は整えておきました』
「ええ!? そ、そうなの……? もしかしてターニャは、管理室のパソコンでガトリング砲の迎撃操作も出来るのかしら?」
『ハイ、杉田様から教わっているので大丈夫です! 先ほど地下にいらっしゃるレイチェル様からの直接の指示も頂きましたので、共和国の対空防衛はぜひ、このターニャにお任せ下さい!』
「わ、分かったわ! マンションの管理室はあなたにお願いするわね、ターニャ!」
『――了解しました、雪咲様!』
杉田デスクの中でも、最も優秀な人材だと陰で噂されているターニャがマンションの管理室にいるのなら一安心だろう。
雪咲は、ホッと小さな吐息を漏らし。
不安で高鳴っていた胸を片手撫で下ろす。
……だが、安心してばかりはいられない。
雪咲はコンビニ本店の外に飛び出すと。急いで街の様子を見て回る事にした。
現在、人口が爆発的に増えているコンビニ共和国には、合計で10万人を超える沢山の人々が暮らしている。
それらの人々を全て、耐久性能の高いコンビニマンションや、コンサートホールへと避難させるのにはだいぶ時間がかかってしまうだろう。
本当は……最も安全な場所は、コンビニ本店の地下階層である事は雪咲も知っていた。
だけど、今は地下にみんなを導く訳にはいかない。
北の禁断の地から来たという、偽物の水無月がコンビニ本店の地下には閉じこめられている。
その脅威が取り除かれない限り、今のコンビニ本店の地下は、外よりも遥かに危険な場所となっているのだ。
もしかしたら……それを計算して。
敵は同時に巨大ヘリを使って、急襲部隊を送り込んできたのだろうか?
雪咲はそれをつい疑ってしまいたくなるくらいに、敵の攻撃のタイミングが良すぎる事を訝しんでしまう。
「おーい、雪咲ー! なんや外が騒がしい事になってるみたいやけど、コレは一体どないな事になってるんや〜?」
店から出た雪咲の前には、建設担当大臣の四条京子。
そしてクラスメイトの藤堂はじめ、北川修司の3人が集まってきていた。
「――何って、見て分からないの? 敵襲よ! 北の禁断の地から、新手の敵がコンビニ共和国に攻撃を加えにやって来たのよ!」
「ええっ、それ本当なのかよ!? か、彼方はどうしたんだよ! もう街には戻って来ているんだろう?」
「彼方くんは、コンビニの地下で大きな害虫の駆除をしてるから、今は動けないわ。同じくレイチェルさんも、アイリーンさんも、現在は地下で害虫駆除中だから、今回は私達だけで街を守りきってみせるわよ!」
「いやいや。レイチェルさんや、アイリーンさんも含めた、守護者総動員での地下の害虫駆除って……。一体、どんな大きな害虫がコンビニの地下に入りんだんだよ?」
「知りたいの? 大きくて黒くて、うねうねした害虫退治がしたいのなら、あなた達も本店の地下にバルサンとハエ叩きを持参して行っても構わないわよ!」
凄みのある雪咲の声に動揺した男性陣は、一斉に尻込みを始める。
「お、俺はやめとく事にするよ……! なぁ、藤堂?」
「そ、そうだね、僕も今回は遠慮しとこうかな! それにレイチェルさんがいるならきっと安心だと思うし」
雪咲はまだ状況の分かっていなかったクラスメイト達に、共和国が直面している緊急事態の説明をする事にした。
そして急いで、行方不明になっている杉田や紗和乃達の事をみんなに問いかる。
「えっと……杉田なら、確かさくらの経営してるレストランの前で、避難する街の人達の波に巻き込まれていたのを見かけたぞ。あと、カルツェン王国から戻って来ている秋山も、今どこにいるか分からないな……。アイツは元々、すぐにどこかに引き篭もる癖があるからなぁ」
「そう、分かったわ。じゃあみんなは、街に行って住民の避難の誘導を手伝ってきて頂戴。私は正門ゲートの外に出て、敵の前衛部隊を切り裂いてくるから!」
――その時。
コンビニ共和国の空に、眩いばかりの赤い閃光弾の弾幕が発射され。
まだ真昼の青空の中に、凄まじい弾幕射撃の応酬と、激しい爆発音が連続で鳴り響いてきた。
”ズドドドドドドドドドドドドドーーーッ!!”
”ズドドドドドドドドドドドドドーーーッ!!”
”ズドドドドドドドドドドドドドーーーッ!!”
”ズドドドドドドドドドドドドドーーーッ!!”
”ズドーーーン!!”
”ズドーーーン!!”
山のように巨大なコンビニマンションに備え付けられた、合計3000門を超える5連装式のガトリング砲が、空に向けて一斉に赤い光の弾幕を放つ。
放たれた弾幕射撃は、共和国に向けて飛来する敵のドローンから放たれた小型ミサイルを空中で爆砕させ。
凄まじい爆発と轟音の応酬が、空から連続で鳴り響いてきた。
「あちゃ〜っ、もう始まっちゃったみたいね! みんなは急いで街の人達を避難させてね! うちは共和国の外に出て、森に降下した敵の機械兵を全滅させてくるから!」
「分かった……! 任せてくれよ!」
「ハァ〜、何でこんな事になったんや〜! みんな誰一人として、死んだら絶対にダメやからな!」
北川や藤堂、四条の3人は大急ぎで街に向かって走っていく。
その姿を見届けた後。長剣を構えた雪咲は、彼女のトレードマークであるボロボロの学生服を風で揺らしながら、一気に正門ゲートへと戻っていった。
今の所、共和国の周囲を囲んでいる敵のドローンによるミサイル攻撃は全て、コンビニマンションの対空防衛によって防がれている。
だが……長期戦ともなれば。弾幕射撃をすり抜けて、街の中に敵の小型ミサイルが着弾してしまう事もあり得るかもしれない。
ここは何としても、短期決戦で敵を撃退したいと……防衛担当大臣の雪咲は街の通路を走りながら考えていた。
「――それにしても、もう! 肝心な時に、紗和乃は一体どこに行ったのよ!? こういう時こそ『射撃手』の勇者が必要だっていうのに! うちの剣は、空を飛んでるヘリにまでは届かないんだからねーーっ!!」
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「クソ……! 敵は街の外からも攻撃をしてきやがったのかよ!」
雪咲との通話を終えた俺は、思わず拳を握りしめて悔しがる。
共和国の住民を本店の地下に避難させたいけど……今はダメなんだよ。本店の地下には今、『緑色の悪魔』が潜んでいるからな。
本店の地下に避難させるなんて事は、危険なエイリアンが潜んでいる居住区に、無防備な住人達を放り込んでしまうようなものだ。
ここは申し訳ないが、街の守りは外の雪咲達を頼りにするしかないだろう。
それに外には冷静沈着な参謀役の紗和乃だっているし。コンサートホールに先に向かっている、玉木だっている。
後は……杉田もいるけど、アイツはまあいっか。
何かの役に立つかもしれないけど、今回は特には当てにはしないでおこう。
「――店長、先ほど玉木様の姿に化けていた敵は、コンビニホテルのVIPルームエリアへと向かったようです! 私達も急いで後を追いましょう!」
「分かった、こっちはこっちでちゃんと課題をクリアしないといけないからな! アイリーン、全速力で偽物の玉木を追いかけるぞ!」
俺とアイリーンは、それぞれ黄金の剣と光の剣を構えて。全速力で逃走した、偽物の玉木の後を追っていく。
アイツが敵のチョコミントの騎士の本体かどうかは、まだ分からないけれど。他に手掛かりがない以上、今は敵を追いかけるしかなかった。
「――店長、止まって下さい!」
「アイリーン? どうしたんだ……?」
俺はアイリーンに制されて、ホテルのVIPエリアに向かう為のエスカレーターを超えた先の場所で、いったん停止する事にする。
そこには……俺がよく見た事がある、懐かしいメンツが勢揃いを果たしていた。
スイートルームの並ぶ、豪華なホテルのVIPエリアには、先ほど逃走した偽物の玉木だけでなく。
元2年3組のクラスメイトである、俺がよく見知った外見をしている『7人の人物』が、俺とアイリーンの2人を待ち受けていた。
その7人の内訳とは……。
『コンビニの勇者』の、秋ノ瀬彼方。
『暗殺者』の勇者の、玉木紗希。
『地図探索』の勇者の、佐伯小松。
『ハサミ』の勇者の、新井涼香。
『槍使い』の勇者の、水無月洋平。
『海釣り師』の勇者の、松木田海斗。
『防御壁』の勇者の、四条京子――の7人だった。
「なるほどな……。玉木だけじゃなく。ここに揃っているのは、5000年前にこの世界に召喚された、俺達とは事なる道を辿った過去の旧2年3組のメンバー達という訳なのか……」
俺と全く同じ外見をした、偽物コンビニの勇者を中心とした7人のクラスメイト達が、一斉にそれぞれが持つ武器を構える。
そしてじわりじわりとこちらに向けて、近づいて来ていた。
「アイリーン、油断をするなよ! 外見が俺や玉木であっても、容赦なくブチ倒して構わないからな! この中に敵のチョコミントの騎士の本体が混ざってる可能性がある。最初から手加減なしで一気に、勝負を決めるぞ!!」
「了解しました、店長!!」
俺とアイリーンは、目の前に立ちはだかる7人の偽物のクラスメイト達に向かって。2人同時に正面から剣を構えて飛び込んでいった。