第三百八十一話 増殖するリザードマン
「おおーーっ、彼方! やっと帰ってきたのかよ!」
共和国の生活担当大臣を務める杉田勇樹が、彼の親友であるコンビニの勇者の秋ノ瀬彼方の姿を見つけて、大声で呼びかけた。
2人の再会は、彼方達が帝国領に向かって以来、本当に久しぶりの事になる。
杉田は彼方達が、帝国領に向かっている間。
共和国内に住む人々の治安と平和を立派に守ってみせる、という約束を彼方としていた。
親友との約束をちゃんと果たしきった杉田は、また一段とたくましく成長した彼方の放つオーラに驚きつつ。
お互いにとって、かけがけのない友人でもある水無月が生還した事を、彼方と心から喜び合いたいと思っていた。
杉田と水無月の姿を見つけた秋ノ瀬彼方は、満面の笑みを顔に浮かべつつ。
両手を大きく振り上げながら、少年のようにこちらに駆け寄ってくる。
「水無月〜〜っ!! お前、マジで生きていたのかよ! くぅ〜〜、本当にみんな心配をしたんだぞ! 一体、今までどこで何をしていたんだよ!」
コンビニの勇者の彼方は、杉田に代わって。まだ足を引きずっている水無月の肩を持つ事にする。
そして水無月の体をしっかりと支えながら、真っ直ぐに共和国の大通りを前に向かって進み始めた。
「……いや。すまない、彼方。実は俺もあまり自分の身に起きた出来事をよく憶えていないんだ。気付いたら、この街の近くの森の中に倒れていて。ここに戻ってくる事が出来たんだよ……」
「そうなのか。いやでも、マジで俺は嬉しいよ! お前はてっきり死んでしまったのかと思ったから。クラスのみんなも本当に心配してたんだぞ。なぁ、杉田!」
「ああ……彼方と香苗が、水無月が死んだのを目撃したっていうから、俺達はお前が死んだと本気で思っていたからな。でもまさかこうして、無事に戻ってきてくれるなんて嬉しいよ。ガチで幽霊を見たのかと、最初は焦ったくらいなんだぜ? まあ、足がついてるから幽霊じゃないんだろうけどさ、ハハハ!」
彼方と杉田と水無月の3人は、お互いに肩を組んで仲良く笑い合う。
思えば、この3人は異世界にきたばかりの時に。
彼方が暮らす街外れに建てられたコンビニに集まり、共に仲良く鮭おにぎりを食べながら、語り合った仲だった。
1軍の選抜勇者に入っていたにも関わらず。魔物退治に積極的に成れなかった水無月は、よく愚痴を言う為に、彼方のいるコンビニに遊びにきていた。
あれからもう、1年以上の時間が経ってしまったけれど。そしてコンビニも、その姿をだいぶ変化させてしまってはいるけれど……。
今でも、3人の友情が崩れる事は決してなかった。
それほどに彼方と杉田と水無月は、お互いによく気心の知れた仲であったのは間違いない。
「――なあ、彼方。聞いてくれよ! 凄いんだぜ? コンビニマンションの部屋の洗濯機が、いつの間にか最新のドラム式に変わってるし。屋上にはプールだって出来たんだぜ? マジで凄いレベルアップを遂げてるんだけど、お前……帝国でどれだけ成長をしてきたんだよ?」
杉田が興奮気味に、彼方に話しかけてくる。
生きていた水無月と、つもる話はあったのだが。共和国内に残されていた杉田は、親友の彼方にも話したい事がいっぱい溜まっているようだった。
そんな猪突猛進タイプの親友の口を制すように、彼方は呆れた顔つきで杉田に話しかける。
「――ハイハイ。分かった、分かった。その話は、後でたっぷり聞かせて貰う事にするよ。まずは、水無月をコンビニの地下にある病院に連れていくのが先決だろう? それに杉田、お前にはまだやるべき仕事があるはずだぞ」
「ん? やるべき仕事って、何だよ? 俺は何も聞いてないけど?」
「えっ、知らないのかよ!? 今、街で大変な事が起きてるんだぞ! さくらの経営するレストランで、日替わりのカレーが人気過ぎて、在庫切れの暴動が起きてるんだよ。さっき数百人単位の人々が、カレーを求めて『生活担当大臣を出せーーっ!』って、街で暴れ回っていたのを見たし……」
「――なっ!? それ、マジなのかよ、彼方!?」
杉田は彼方から信じられないニュースを聞かされて、その場で飛び上がる。
生活担当大臣として、毎日住人達のクレームを全て背負わされている杉田にとっては、もはやそれは条件反射に近い反応だった。
「――くっそ……! ったく、しょうがねーなー! 俺はさくらの店に行ってくるから、水無月の事は頼んだぞ、彼方! ちゃんとコンビニの病院に連れていってやってくれよな!」
「おう、後は任せとけって! じゃあな、杉田。また、 後で会おうぜ!」
杉田は脱兎のごとく、駆け足で共和国の街の中を走り抜けていく。
その様子を見た街の人々は、生活担当大臣の杉田が街を駆け回るのはいつもの光景なので。もはや、何も興味を示さなくなっているようだった。
大通りをダッシュで走り去っていく、杉田の後ろ姿を見送り。改めて彼方は、水無月と一緒にコンビニ本店を目指す事にした。
「ふぅ。まったく、騒がしい奴だよな、杉田は……」
やっと水無月と2人きりになった彼方は、マジマジとクラスメイトである水無月の横顔を見つめる。
その顔は間違いなく、彼方がよく知っているクラスメイトの水無月の顔で間違いなかった。
「……なあ、水無月。本当によく生きててくれたな。俺はお前にまた会えて嬉しいよ。コンビニ本店に辿りついたら、まずはゆっくり体を休めてくれよな」
「ああ……俺も、彼方と再会出来て嬉しいよ」
彼方からの声がけに、水無月は笑顔でゆっくりと首を縦に振って頷いてみせた。
2人はゆっくりと共和国の大通りを歩いて行く。
コンビニ共和国には沢山の新規住人が増えていて。以前とは比べ物にならない程に、街の人口は増加している。
その為、新規の住人達は……コンビニ共和国の建国者でもある、コンビニの勇者の彼方の存在に気付かない人が多かった。
彼方と水無月が肩を組み合って、街の大通り歩いていても。今のところ……誰1人として、こちらに声をかけてくる者はいなかった。
彼方は新規の街の住人達に顔を憶えられていなくても、一向に構わないと思っている。
街の中心部に、立派な『コンビニの勇者像』などを作るような趣味は全く無いし。
街のみんなが、コンビニの勇者の存在など全然知らないくらいで、ちょうど良いとさえ思っていた。
帝国領の田舎街でも、そうだったように。
いちいちコンビニを外に出して、街の人達に焼肉弁当を振る舞わないと認知して貰えない程度の存在。
それくらいが『コンビニの勇者』の知名度としては、ちょうど良いんじゃないかな……と、思っている。
まあ、仮に立派な勇者像を街に作ってくれたとしても。こっそり顔の部分だけを、倉持に変えておいてくれたら。後世の人々がコンビニの勇者はイケメンだったと勘違いしてくれそうだな……と、密かに彼は企んでいた。
そんなたわいもない事を考えながら、ゆっくりと街を歩いている彼方に支えられて。
ずっと穏やかな表情を浮かべた水無月は、黙って彼方の進む方向について行く。
しばらくして――。
街の大通りから少し離れた所に辿り着くと。
彼方と水無月の前方に、大きなコンクリート製の近代建造物が見えてきた。
「よーし、水無月! やっとコンビニ本店に辿り着いたぞ!」
コンビニの本店が置かれている場所は、街の中心地からだいぶ離れた、人通りの全く無い寂れた場所だった。
そこへ向かえば、沢山の人々で溢れている街の中心から離れてしまう事になる。
――途端に、水無月の足が止まった。
「……悪いな彼方、俺はあのコンビニの中には入れない」
「えっ? 急にどうしたんだよ、水無月?」
水無月は、彼方の肩に預けていて自分の腕を外し。
その場でスッ……と、彼自身の意思で立ち止まった。
「彼方、この街はなかなか良い所だな。人間達がみんな穏やかな表情で暮らしていて、まさに平和そのものじゃないか。俺は長い間、人間が誰も住まない寂れた場所にいたから、この雰囲気は本当に懐かしく感じるよ」
「――水無月……?」
「……フフ。放っておいても庭に生い茂る雑草のように、勝手に数を増やしていく人間達。そんな人間達が幸せそうに過ごしている姿は、目に入るだけでもマジでイラつくよな。俺達が北の凍えるような寒い場所で、何千年もじっと引き篭もっていないといけなかったというのにさ」
「水無月……? お前、さっきから一体何を言っているんだ?」
水無月は、先ほどまで見せていた穏やかな表情を一変させ。以前の水無月が全く見せた事がない、ドス黒い邪悪な笑顔を浮かべる。
「――彼方、悪いな。実は俺は今から、人間達の住む楽園と化したこの美しい街を破壊しないといけないんだよ。悪く思うなよ? 俺は上司の命令には逆らう事が出来ない社畜だからな。全く、ホントに酷いクソ上司のいるブラック会社に仕えてしまったものだよ。……おっと、思わず本音が出てしまったが、今のお前にそれを愚痴っても、しょうがないんだけどな」
水無月が渇いた笑顔のまま、『フハハハ……』と大きく口を開けて笑い声をあげた。
そして、呆然とする彼方の顔を睨みつけながら。
その場で高らかに――水無月は叫び声をあげる。
『――出でよ! 『巨大クラシックプリン』よ!! この哀れな人間達が蔓延る虚飾の街を、美しきコンビニスイーツ☆によって全て破壊し尽くし………な、なにッ!?』
右手を大きく空に向けて振り上げた水無月の姿が……。
突然、大地の上から『――スポッ』と軽快な音を立てて、消え失せた。
それはまるで道路の上に開いたマンホールの穴に、うっかり吸い込まれてしまったかのようだった。
本性を現した水無月の足元には……大きな黒い穴がポツンと開いている。
その大きな穴は、コンビニ本店の地下5階にある『地下駐車場』から。中に格納されている装甲車や戦車を外に出す為の、直通の出入口となっていた。
そこから水無月の姿に化けた侵入者を、本店の地下階層の中に一気に『吸い込んだ』のだ。
コンビニ本店の地下駐車場からの直通出口が、ちょうど水無月の立っていた地面の下に隠されていたのは――もちろん偶然ではない。
そう、コンビニの勇者である秋ノ瀬彼方が……慎重に偽物の水無月の様子を監視しつつ。言葉巧みに、彼をそのポイントにまで誘導してきたのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――よし、レイチェルさん。成功しました! 敵のチョコミントの騎士を、コンビニ本店の地下階層に落とす事が出来ました!」
俺は急いでスマートウォッチを使って、コンビニの地下階層にいるレイチェルさんと連絡を取る。
『――ありがとうございます、総支配人様! 私の持つ『重力操作』の能力を利用する事で、敵の緑色の守護者をコンビニ本店の駐車場エリアに吸い込む事に成功しました。そして本店の地下にいた住民の避難も、全て完了していますので安心して下さい』
レイチェルさんから、作戦の成功を知らせる嬉しい声が聞こえてくる。
共和国内に侵入した偽物の水無月こと『パティ』を、絶対に街の中で暴れさせる訳にはいかなかった。
……かといって、街の住民達を全員避難させるような、時間の余裕もこちらには無い。
俺とレイチェルさんは、慎重に作戦の立案を重ねた結果――。
敵のチョコミントの騎士を、コンビニの地下階層に誘い込み。そのまま、いったん地下に閉じ込める事にした。
もちろんコンビニの地下にいた人々は、事前に避難をさせている事が大前提だ。
病院エリアにいたアドニスさんや、ティーナのお父さんのサハラさんも。温泉施設やコンビニホテルに滞在していた人々も、大至急コンビニ本店から外に避難させている。
唯一、外への避難が間に合わなかったのは……ククリアとマコマコと、そしてエルフ族がいる最下層の『農園エリア』だった。
あそこには、かなりの数のエルフ族が暮らしているからな。仕方なく最下層のエリアだけは、外から完全閉鎖をする事で……コンビニの地下全体を利用した、敵のチョコミントの騎士を閉じ込める『巨大な牢獄作戦』を完成させる事にした訳だ。
つまり今――コンビニ本店の地下にいるのは、コンビニの大魔王に仕える『緑色の守護者』だけという事になる。
『……総支配人様、敵のチョコミントの騎士を地下から逃がさないように。早めに地上への出口も封鎖しようと思います。お早めにコンビニ本店へお戻り下さい!』
「了解しました、レイチェルさん! パティを連れて、すぐに本店に戻りますね。パティ、もう元の姿に戻っても大丈夫だぞ。俺達も急いでコンビニ本店に帰ろう!」
俺が街の隅に置かれている、大きなコンビニの建物に向かって大声で呼びかけると――。
””ポヨーーーーーン!!””
風船が割れるような、軽快な音がして。
偽物の水無月を騙す為に。街から離れた場所に『コンビニ本店』の姿へと化けていた、共和国陣営に所属するパティが元の姿へと戻った。
「はひぃ〜〜。本当に疲れたのですぅ〜。こんなにも大きな建物に姿を変えているのは、チョコミントパワーの浪費でしかないのですぅ〜。初めてお会いしましたけど、リーダーのレイチェル様は、守護者使いが荒そうな方なので。パティめはもう、新しい労働環境に不安を感じてるのですぅ〜。ブラック労働は断固として反対ですぅ〜!」
俺は不満そうに声を荒げてるパティを連れて、急いでコンビニ本店へと戻る。
本店の地下から避難した人々は、今は街の中のコンサートホールに移動したらしい。
あの魔王の谷の底にもあった、黒い三角形の建物だな。あそこならきっとみんなも大丈夫だろう。
短期間でコンビニ本店の地下にいた人々を外に誘導する役は、ティーナと玉木が勤めてくれた。
コンビニの病院エリアにいた、アドニスさんや、ティーナのお父さんもコンサートホールへと移動をしたらしい。だから今頃ティーナは、無事にサハラさんとアドニスさんと再会が出来ているのだろう。
……出来る事なら俺も、その場に同席したかった。
家族が大勢殺害されたという、悲しいニュースを聞いたティーナのそばに、ついていてあげたかった。
でも、今は――ここで、決着を付けないといけない。
無人と化した広大なコンビニの地下階層に閉じ込めた敵のチョコミントの騎士を、必ず仕留めるんだ!
コンビニ本店の正面口には、俺達の帰りを待ってくれていたフィートが立っていた。
「遅いのにゃ〜! 大好きお兄さん! 早く早く、コンビニの中に入るのにゃ〜! もうすぐコンビニは完全閉店になるのにゃ〜!」
パティと一緒にコンビニの中に駆け込んだ俺達を、店内でアイリーンが待ってくれていた。
「――店長、お待ちしておりました」
「アイリーン、良かった! アイリーンも一緒にコンビニの地下に来てくれるのなら心強いよ」
「ハイ、店長。私にぜひ、お任せ下さい。店長の身は必ずこの私がお守りしてみせます!」
「にゃ〜ん、あたいも本当は大好きお兄さん達と一緒に行きたかったけど……。きっと足手まといになるから、今回はやめとくのにゃ〜。ここで帰りを待っているから、必ず戻ってくるのにゃ〜!」
「おう。ありがとうな、フィート! 絶対に帰ってくるから、安心して待っていてくれよな!」
コンビニの守護者である、アイリーンとパティを連れた俺は、急いでエレベーター中に乗り込み。
まずは迷路のように入り組んだ、コンビニの地下階層の地下1階に降りる事にする。
これで最下層の『農園エリア』を除けば、コンビニの中にいるのは、敵も味方も含めて……全て『コンビニの守護者』だけという事になるな。
つまりここにいるメンバーだけで、敵陣営に所属する、最強のチョコミントの騎士と勝負する事になりそうだ。
エレベーターで地下1階層に降りると。
早速アイリーンが、エレベーター付近にある固定電話からレイチェルさんと連絡を取ってくれた。
「――レイチェル様、店長が地下1階層に到着しました。次のご指示をお願いします」
『分かりました。それでは、ただ今を持って。コンビニの地下階層の外への出入り口を完全封鎖します』
”――ズシン……!”
コンビニ地下全体に、大きな地響きのような事が鳴り響いた。
レイチェルさんによって、コンビニの外へと繋がる全てのエレベーターが完全封鎖されたらしい。
これで敵は、コンビニの地下から外へは出られなくなったという訳か。
俺の側には、アイリーンとパティの2人がいてくれる。つまり、人数でいえば実質3対1になる。
例え敵がレベル99を超える、最強のコンビニの大魔王に仕えているチョコミントの騎士だとしても。こちらが方が、数の上で優勢である事は間違いないだろう。
ちなみに、レイチェルさんは万が一の時に備えて。コンビニの地下9階層に近い、地下8階層の『病院エリア』で待機して貰う事になった。
コンビニ本店の中にいた人達は、全員外に避難して貰ったけれど。
唯一まだ地下に残っている最下層のエルフ族と、ククリアやマコマコ達を守る最終防衛ラインの役割を、レイチェルさんがこなしてくれるらしい。
「よーし、さっそく地下探索に向かうぞ! 敵のチョコミントの騎士を見つけ出して。必ずここで撃破するんだ!」
「コンビニマスター☆様ぁ〜。お1人で勝手に盛り上がっている所、大変申し訳ないんですけどぉ……。パティめは、この地下1階層に待機しているようにと、レイチェル様に言われていますぅ〜」
「えっ、そうなのか? パティも俺達と一緒に来てくれるんじゃないのか?」
「レイチェル様が敵の9階層への侵入を守るように。このパティめも、万が一に備えてコンビニの外への出口に一番近い、地下1階で待機するようにと命じられているのですぅ〜。全く、人使いの荒い上司ですぅ。パティめは早くチョコミント貯金を貯めて、早期退職出来るように、チョコミント投資の運用も始めていこうと思うのですぅ〜」
「そ、そうなのか……。それは頑張ってくれよな!」
ぶちぶちと文句を垂らすパティは、地下1階層の床に座り込み。早速、倉庫に置いてあるチョコミント食品を物色し始めていた。
「コンビニマスター☆様、気をつけて下さいね! パティめは、チョコミントエネルギーが切れれば動けなくなります。なので敵のチョコミントエネルギーを消耗させて、エネルギー切れを起こさせれば勝てると思います。幸いコンビニの地下にあるチョコミントには限りがありますから、時間をかけて敵に物資の消耗を強いるのが一番効果があるのですぅ〜」
「分かった。アドバイス、ありがとうな、パティ! 俺とアイリーンの2人で、敵を探しに行ってくるよ」
こちら陣営の最強の騎士でもある、パティが戦列に参加してくれないのは残念だけど。
確かに、万が一にも敵が地上に脱出しないように。地上への出入口に近い、地下1階に守護者を配置して置くのは重要だろう。
……となると、俺とアイリーンの2人だけでコンビニの地下階層を探索して。
地下のどこかに隠れている、敵のチョコミントの騎士を倒さないといけない訳か。
「店長……早速、行きましょう!」
「分かった。アイリーン、頼りにしてるぜ!」
その時、スマートウォッチから着信音が鳴り響く。
通話ボタンを押すと、それはレイチェルさんからの着信だった。
『……総支配人様、敵がコンビニの地下に無数の分裂体を放ったようです。どうか用心して下さいね」
「――分裂体を地下に放ったという事は、また緑魔龍公爵の時のように、緑色のゾンビとかですか?」
『いいえ。今回は、リザードマンのようです。それも、もの凄い数を大増殖させています。そのせいで私も、敵の本体の居場所を特定出来なくなりました。現在、敵の本体が地下のどこにいるのかは不明な状態です』
……なるほどな。今回はゾンビじゃなくて、大量のリザードマンが相手になるという訳か。
確かに緑色繋がりではあるけれど……敵はあの最強のチョコミントの騎士だ。例え増殖体であるリザードマンといえども、かなりの強さがあるのは間違いないだろうな。
「店長、急ぎましょう! もし何かしらの方法で敵に出口を突破されて。大量のリザードマンが地上の街に飛び出してしまったら大変な事になります!」
「そうだな、分かった。急ごう、アイリーン! まずはすぐ下のコンビニホテルのエリアに向かう事にするぞ!」
俺は右手から『白銀剣』を出現させ。そしてアイリーンも右手に黄金剣を構えて。共に戦闘体制を整えて、エレベーターに乗り込んでいく。
コンビニの地下での戦いは、これが二度目になる。
前回と違って、レイチェルさんに頼りきりになる訳にはいかないからな。今回は、必ずこの俺の手で勝負を決めないといけないだろう。
さっそく地下2階の、コンビニホテルのエリアに辿り着くと。そこには既に、武装した無数のリザードマン達がエレベーターから降りた俺とアイリーンを待ち受けていた。
「行くぞ、アイリーン! 敵の本体を見つけるまでは絶対に俺から離れるんじゃないぞ! リザードマン達を蹴散らして、一気に勝負をつけてやるからな!」
「――了解しました、店長!」