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第三百七十六話 冬馬このはの記憶


 険しい岩壁に沿って、飛行ドローンで谷底に降りていく事――おおよそ数分。



 日の光がギリギリ届きそうな深い谷の底で、俺は元気な姿でいるマコマコをようやく発見する事が出来た。



「……良かった。マジで心配をしたんだぞ、マコマコ!」


 正直……この谷は、あの『魔王の谷』ほどの深さは無かったけど。地形がかなり複雑に入り組んでいて、迷宮みたいな構造になっていたからな。

 だから真っ先に降りた場所で、すぐにマコマコを発見する事が出来て、心底ホッとした。


 まさかこんな所で、『動物園の魔王様』に行方不明にでもなられたら……マジで洒落(しゃれ)にならない。

 異世界には行方不明者の捜索願いを出せるような警察署も無いし、盗賊団に連れ去られたりでもしてたら、最悪の事態になり得る可能性もあったからな。



 空からドローンに乗って降りてきた俺の姿を見たマコマコが、嬉しそうにこちらに向けて手を振ってきた。



「あっ、カナタだ! おーい、カナター! 見て見てー! トリオンの家族が、ここにいるんだよー!」



 マコマコの立っている場所の周辺をよく見ると。


 黒い馬の魔物であるトリオンが、他にも同じような外見をした仲間達と一緒にいるのが見えた。その数は合計で6匹はいるな。

 どうやらここにいるのは、みんなトリオンの家族達のようだ。しかも奥の方にはトリオンの子供なのか、小さな馬の魔物も隠れていた。



 ――この異世界には、いわゆる『魔物』と呼ばれる種族が多数存在している。


 それは、この世界の過去に召喚された『無限の勇者達インフィニット・シリーズ』の能力によって生み出され。この世界に取り残されてしまった、無限の生物達の末裔だ。


 あの種族全てが全員、美男美女の外見をした銀河系モデル軍団のエルフ族でさえ、過去にこの世界に存在した魔王が作り出した生物らしいからな。


 動物園の魔王である、冬馬このはが寝ている間に彼女の体から生み出され。

 既に黒魔龍公爵(ブラック・サーペント)らがこの世界から消え去り。統率を失っていた生き残りのわずかな動物園の魔王軍の魔物達も……こうして、この世界で自分達の子孫を残して、ひっそりと生き残り続けていくのだろう。


 それは大昔に、コンビニの大魔王によって生み出され。魔王の谷の底で生き残り続けていた『黒ヘビ』や、カディナ地方に住み着いた、あの地竜の『カディス』のように。


 きっとこの世界には、他にも多くの不思議な姿をした生物達が今も残されているのだと思う。



 自分の家族達と再会を果たしたトリオンは、大きな鳴き声を発して喜んでいるようだった。


 どうやらここにマコマコを連れてきたのは、自分の家族をマコマコに見せたかったからのようだ。

 自分を心から慕ってくれるトリオンの家族達に囲まれて、マコマコも心から嬉しそうだった。



「わー。みんな本当に可愛いね! この子なんて、すっごく体が小さいけれど、僕にとってもよく懐いてくれてるみたいなんだよ、カナタ!」


「ああ、みんなマコマコの事が大好きなんだと思うぞ。きっとマコマコは、動物に本能的に好かれる体質をしてるんじゃないのかな?」


「――そうなのかな? 僕も動物が大好きだから、それは本当に嬉しいよ!」



 マコマコが大喜びではしゃぐと。トリオンの家族達もその喜びに呼応するかのように、全員が体をくねらせながらブルンブルンと首を振って嬉しがる。



 ……まあな、きっとマコマコの存在はトリオン達にとっては『神様』のようなものだろうし。何よりも眠りから目覚めてくれたマコマコの(そば)にいられるのが、彼らにとっては本当に嬉しいのだと思う。



 俺は飛行ドローンの整備をして。すぐに再び空に飛び立つ準備を始める事にする。


 その時に、ふと……この谷底の様子を見回しながら疑問に思った。



 どうして、こんな深い谷の底にトリオンの家族達は身を寄せ合って暮らしていたのだろう?



 そうか。きっと外敵から自分達の身を守る為なんだろうな。この場合の外敵というのは、主に『人間達』の事を指すのだけれど。

 魔王軍の魔物達は、特に人間達から強く憎まれている。なにせ100年近い戦争を、ずっと続けてきた敵同士なんだからな。


 それにきっと自然界にいる土着の魔物達とも、相性はあまり良くないのかもしれない。


 だからこんなにも人気(ひとけ)の無い谷底で、みんなで隠れるようにしてひっそりと暮らしていたのだろう。


 でもここじゃ、食料も少ないだろうから。きっとトリオンが家族を代表して谷の外に飛び出し、途中で立ち寄った小さな街で人間達に囲まれてしまったんだろうな。



「……ねえねえ、カナタ。さっきの万能苺大福、まだ残ってるかな?」


「ああ、それならここにあるよ」


 俺はコートのポケットの中にしまっていた袋から、所持している残り2つの苺大福をマコマコに手渡した。


 苺大福を受け取ったマコマコは、それを丁寧に()って。トリオンの家族達に、苺大福を均等に分け与えていく。



『ヒヒィィィィーーーン!!』



 トリオン達はみんな美味そうに、うちのチョコミント色をしたニート騎士が作り出した苺大福を食べてくれた。

 あの苺大福は、傷を修復させる効能もあるけど、普通に食べてもめちゃくちゃ美味しいからな。


 きっとお腹を空かせていたトリオンの家族達にとっては、本当に美味しいご馳走だったのだと思う。


「……ねえ、カナタ? この子達がこんな谷底じゃなくて、安全に暮らしていけるような場所は、どこかにないのかな……?」


 少しだけ痩せ細って見える、トリオンの家族達を心配そうに見つめているマコマコ。

 そんなマコマコの背中をポンと軽く押して。俺は胸を張って心配するな、と声をかける事にする。


「大丈夫だよ、マコマコ。トリオン達が安全に暮らしていける場所ならちゃんとあるからさ。そこはちょうど、俺達が今から向かっている場所でもあるんだ」


「えっ、それ本当なの? そこにトリオンの家族も一緒に連れて行っていいの?」


「ああ、もちろんさ。既にトリオンの仲間にあたる動物達も、そこでは平和に暮らしているんだよ。その場所には豊かな自然が溢れてるし、外敵も全くいないし。きっとみんな安心して暮らしていけると思うぞ!」



 俺からの言葉を聞いたマコマコが、目を輝かせて俺の両手を熱く握りしめてくる。


「わー!! ありがとう、カナタ! カナタは本当に動物に優しんだね! 僕、カナタの事が大好きだよ!」



 感謝の気持ちを込めて、何度も何度も俺に頭を深く下げるマコマコ。


 そんなに感謝しなくても大丈夫なのに。

 俺には元々、その場所に心当たりがあったからな。


 コンビニ本店の地下の最下層には、無限とも思える広大な敷地を有してる場所がある。

 それは地下9階にある『農園エリア』だ。そこなら、きっとトリオンの家族達も平和に暮らしていけると思う。


 まあ、またエルフ族のリーダーのエストリアに頭を下げに行かないといけないだろうけどな。

 でも、エストリアにはカップヌーボーを大量に持参すれば、きっと大丈夫だと思う。今度は特製のチョコミント味のカップヌーボーも、持っていってあげようかな?


 ……いや、それはやめておこう!


 エルフ族が禁断の味がするカップヌーボーに手を出して、絶滅でもしたら大変な事になるからな……。



 俺はしばらく、トリオンの家族達を可愛がるマコマコの姿を見つめていると。



 急にトリオンが、大きな鳴き声を発して。何かに警戒するように全身を震わせ始めた。



『ヒヒヒィィィィーーーン!!!』



「――どうしたの、トリオン!? 何かあったの?」



 マコマコがトリオンの体を心配そうに撫でる。

 全身を震えさせているのは、トリオンだけじゃなかった。トリオンの家族達も一斉に、ブルブルと体を震えさせて警戒態勢を取っている。



 これは、一体何か起きたのだろう?


 動物は本能的に、身に迫る『危機』を察する事が出来るという。という事はもしかして、ここに何か『敵』が迫ってきているという事なのか?



 俺もマコマコも、一緒になって谷底の周囲の様子を見回し。辺りの様子を伺っていた、その時だった――。



 ”ズドーーーーーーーン!!!”



 突如として、谷底の岩壁に大きな亀裂が走り。


 岩の中から『黒い蜘蛛(くも)』の姿をした巨大な魔物が姿を現した。


 蜘蛛の魔物は、全長が20メートルくらいはある。大きさだけなら、地竜のカディスと同じくらいはあるかもしれないな。


 こんな奴が……この谷底に潜んでいやがったのかよ。


 それとも空から降りてきた俺達を見つけて、どこかから後を追ってきたのか?


 きっとカディナ地方に、大昔から生息していたカディスのように。この地域に古代から住み着いている土着の魔物なんだろうと思う。


 でも、この蜘蛛(くも)の魔物が……大昔のコンビニから生み出された魔物じゃない事だけは俺は確信を持って言えるぞ。

 なぜなら俺は、こういう『黒い虫系』の魔物が絶対に『NG』だからだ。黒ヘビも、地竜のカディスも許す。何なら怪獣フィギュアとして俺の部屋に飾ってもいい。


 たけど昆虫系や、脚がいっぱい生えてる虫系は絶対に嫌だし認めないからな! しかも色が黒いなんて、この宇宙のルールが許したとしても、コンビニの勇者だけは絶対に認めたりしないぞ!



 おそらく大昔に、この巨大蜘蛛を生み出すような『魔王』がこの辺りに住み着いていたんだと思う。


 そいつが生み出した巨大な魔物の一部が、こんな所でひっそりと生き延び続けていたんだ。全く何て迷惑な奴なんだよ。もしかしたら、大昔には『蜘蛛(くも)の勇者』でも存在したのかもしれないな。

 無限に蜘蛛(くも)を生み出すとかの能力だったとしたら、絶対に俺はそいつとは友達になりたくないな。



「きゃあああぁぁーーーーーっ!!」


 巨大な蜘蛛の魔物を見たマコマコが悲鳴を上げた。


 トリオンとその家族達は、ここから逃げ出すような事はせずに。家族全員が一丸(いちがん)となって、マコマコの体を守るかのように、巨大蜘蛛の正面に立ちはだかる。



 巨大な蜘蛛の魔物は、毛むくじゃらな無数の黒い脚をたくみに動かし。

 こちらに立っている俺達、主にトリオン達を自分の『(えさ)』として認識したらしく。カサカサと音を立てながら、もの凄い速さで迫ってきた。


 これはマズイぞ……。俺に向かってくるなら、ともかく。マコマコを狙わせる訳には絶対にいかないッ!



「……悪いな。そのままじっとしてくれたなら何もしないでやったけど。こちらに危害を加えてくるつもりなら、反撃させて貰うからな――!」



 俺はすぐに両肩に浮かぶ、銀色の守護衛星にエネルギーを最大出力で充填(じゅうてん)させる。



 そして、巨大な蜘蛛の魔物めがけて。一気の必殺のレーザービーム砲をぶっ放してやった。



「――コンビニの勇者の必殺技を食らいやがれッ!! いくぞ、『青双龍波動砲セルリアン・ツインレーザー』ーーーッ!!」



 ”ズドドーーーーーーーーン!!!”



 巨大な蜘蛛の魔物の中心部を、レーザービーム砲が貫通し。大きな穴がこじ開けられる。


 もちろん、谷の岩壁にレーザー砲を当てないように。照射角度には最新の注意を払った。


 高熱のビーム砲に体のど真ん中を溶かされ。巨大な蜘蛛の魔物は、瞬時に死に絶えたようだった。


 ふう〜。これで何とか、危機を回避する事が出来たと、俺はつい安心をして胸を撫で下ろしていると……。



 今度はなんと、大きな穴の空いた巨大蜘蛛の死体の中から。カサカサ……と、人間の(こぶし)くらいの大きさがある、小さな蜘蛛達が大量に()い出てきた。


 小さな黒い蜘蛛達は、四方八方に飛び散り。

 トリオンとその家族達を狙って、高速移動を開始する。



 ――しまったッ!?


 まさか、こんなにたくさんの蜘蛛達が、巨大蜘蛛の死体から溢れ出してくるなんて……!


 コンビニの勇者は、高火力なビーム砲を放つ事が出来るし。卓越した蹴り技や、ロングコートを振り回しての肉弾戦だって得意だ。


 でも……こんなにも、大量の小さな蜘蛛の魔物を同時に相手に出来るような戦い方や能力は持っていない。


 このままだとマコマコも、そしてトリオンの家族達も。あの無数の蜘蛛達に飛びかかられて、襲われてしまうぞ!



「チッ……!! 出でよ――『白銀剣(ホワイト・ソード)』よ!!」


 すかさず無限の光のエネルギーを持つ、白銀剣(ホワイト・ソード)を出現させて、蜘蛛達に向かって振り回す。


 黒い蜘蛛達は、光の剣によって次々に切り裂かれていくが……数があまりにも多すぎる。これでは、とても間に合いそうにない……!



「カナターーーっ!!」 


 マコマコとトリオン達に向けて、数百匹を超える黒い蜘蛛の魔物が、一斉に飛びかかった。



 あと、ほんの数秒で……。黒い蜘蛛達にマコマコが襲われてしまうという、その最後の瞬間に――。



 谷底の地中から、無数の穴が突如として開き。

 その小さな穴の中から、可愛い外見をしたモグラ達が一斉に大地の上に飛び出してきた。



「ようやく見つけましたよ……このは様! ボクが必ず、このは様の身は守り通してみせます!!」



 悲鳴を上げるマコマコの前に姿を現したのは……紫色の髪を持つ、小さな外見の少女。ククリアだった。


「君は……!? 確か僕を誘拐して監禁していた、秘密結社の女の子だよね!?」


「えっ……!? こ、このは様……?」


 冬馬このはから予想外の言葉をかけられて、目を丸くして驚くククリア。


 けれど、冬馬このはを守る為に。彼女は自身の持つ能力を最大限に発揮させて、主人である動物園の勇者を全力で守る事に集中をする。


「地中に眠る、『小型土竜(リトル・モール)』達よ。その潜在意識をボクの意識に共有させよ! 『深層本能共有ディープ・フレンディア』――ッ!



 地中から次々と出現する、可愛い外見をした小型のモグラ達は、トリオン達に迫り来る黒い蜘蛛を鋭利な爪で引き裂き、なぎ倒していった。


 数の力に対しては、こちらも数の力で圧倒する。

 それが無限に動物を召喚する事の出来る、動物園の魔王に仕える守護者の戦い方だ。


 黒い蜘蛛達を上回る数の小型土竜(リトル・モール)達が、地中から次々に出現し。あっという間に迫り来る蜘蛛の脅威から、マコマコとトリオン達の身をククリアは救い出してくれた。



「良かった……本当に助かったよ、ククリア!」


「いいえ。コンビニの勇者殿がビーム砲を放ってくれておかげで、ようやくこのは様の位置を特定する事が出来ました。この辺りにいる事までは、探索出来ていたのですが……最終的な位置を特定する事が、ボクにはまだ出来ていませんでしたから」



 ククリアは、その場でニコッと微笑むと。


 改めて自分の後方に立っている、冬馬このはに向けて片膝をつき。深々と頭を下げて忠誠の意思を示す。



「――このは様、目覚めたばかりのこのは様を警戒させてしまい、本当に申し訳ございませんでした。ボクはこのは様の身を守る為に忠誠を誓った『ククリア』と申す者です。どうかこのボクを、このは様の側に置いては頂けないでしょうか……?」



 ククリアが目に涙を浮かべながら、体を震わせて。必死にマコマコに対して頭を下げ続ける。


 きっと、いきなり『紫魔龍公爵(メリッサ)』の名前を出すのは、もうやめたのだろう。ククリアも少しずつ、冬馬このはに自分の事を思い出して貰う事にしたに違いない。



 そんなククリアの様子を見たマコマコは……体を震わせているククリアの小さな頭を片手で優しく撫でると。


「……僕は自分が何者なのか、まだよく思い出せないんだ。でも、ククリアちゃんが僕の事を一生懸命守ってくたのは分かったよ。ありがとう。本当に嬉しかったし、目を覚ました時に逃げちゃって本当にゴメンね。もし良かったら、僕が何者なのかを少しずつ思い出す手伝いを、一緒にして貰えないかな?」


「ハイ、ぜひ喜んで!! ボクはその時まで、ずっとこのは様のお側に仕えさせて頂きます……!」



 両目に溜まっていた涙を抑えきれず。溢れ出すように、大粒の涙を地面に溢してしまったククリアの顔を、マコマコがそっと優しく抱きしめてあげた。



 良かった……。


 ククリアとマコマコ仲良くなってくれたなら、これでもう、一安心だろう。


 俺も思わず肩の荷がおりた気がして、安堵の息を漏らしてしまう。



 色々とあったけど、マコマコの記憶の事は急がせずに。ゆっくりと回復を待とうと思う。それまでは、コンビニ共和国の地下にある農園エリアにマコマコを(かくま)う事にする。


 あそこなら、きっとレイチェルさんが守ってくれるし。外部から女神教や、グランデイル軍に侵入される恐れもないだろうからな。



 しばらくして、俺達は全員で一緒にコンビニ共和国に帰る事にした。


 ククリアには、ここまでのマコマコの様子を説明し。改めて2人でゆっくりとマコマコが記憶を思い出すのを見守る事にしようと確認し合った。



「――では、コンビニの勇者殿。まずはコンビニ支店に残るティーナさん達と合流を果たしましょう」


「ああ。その後で、帝国領に来る時に使用したアパッチヘリを回収して。そのままコンビニ共和国へいったん帰る事にしよう。クラスのみんなとも久しぶりに会いたいしな」



 俺とククリアとマコマコの3人は、空を飛べるトリオン達の背中に乗せてもらい。


 大空を飛びながら、ゆっくりとコンビニ支店の中にいるみんなの元へと向かう事にした。

 幸いトリオンの家族は合計で6匹いるから、玉木やフィート、ティーナを乗せて飛んでいく事も出来るだろう。



 みんなと合流をしたら、マコマコの紹介もしないといけないな。


 玉木やティーナは人当たりが良いし、フィートに至ってはもふもふ猫娘だから。絶対にマコマコは気に入ってくれると思う。


 改めて、俺は帝国領の空を見つめ。

 とうとうコンビニ共和国へ帰るんだ……という事に対して、思わず感慨深くなってしまった。



 この帝国領での旅は……本当に長かった。

 

 そして、たくさんの出会いと別れがあって。多くの物を得たり、失う事もあった思い出深い旅だったと思う。



 トリオン達の背中に乗って、全員で大空を飛んで西に向かう途中――。



 俺は遠くの空を一人で静かに見つめていた、マコマコにそっと後ろから声をかけてみた。



「……マコマコ、どうしたんだ? 物思いにふけっているような顔をしてるけど?」


「……カナタ? ううん、何でもないんだよ」



 日が沈み始めて、夕陽の赤い光がマコマコの頬を優しく照らし出している。その表情はどこか、いつもよりも大人びて俺には見えていた。



「これから俺達が向かう共和国の農園エリアは、自然が綺麗で本当に良い所だよ。だからきっと、マコマコは気に入ってくれると思う」


「ふふ。カナタがそう言うなら、きっととても良い所なんだろうね。……僕も少しだけ、心の休養を取りたいと思ってたから、丁度良いのかもしれないね」


「ん? 心の休養……?」


「うん。メリッサも僕について来てくれるみたいだし、少しだけ休んだら、僕は必ずカナタの力になる事を約束するよ。だから、安心してね……。色々と僕に優しく接してくれて、本当にありがとう。カナタ」


「う、うん。それはどう致しまして……! まあ、これからもよろしくな、マコマコ!」



 俺が冷や汗を流しながら微笑むと。

 そんな俺の顔を見たマコマコは、優しく大人の笑顔で微笑み返してくれた。



 俺はそんなマコマコの顔を見て。

 何かがおかしい……と、思えてしまう。



 ――そうだ。さっきまで、ククリアの事を『ククリアちゃん』と呼んでいたはずなのに。


 今、マコマコはククリアの事を『メリッサ』って呼んだような気がする。

 もしかして、冬馬このはの記憶は――もう……。



 不安そうな顔をして、前を見つめる俺の近くに。

 トリオンの家族の背中に乗ったククリアが、そっと近づいてきてくれた。


 ククリアは無言でゆっくりと首を横に振り。

 俺に落ち着くように……と、訴えかけてきた。



 そうだな……。

 今はまだ、分からないけれど。


 ある日突如として、マコマコは全ての記憶を取り戻すような事があるのかもしれない。



 その日まで、彼女の様子を側からそっと見つめ続ける事しか、今の俺達には……出来ないのだろうなと思えた。



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