第三百七十話 魔導研究所へ
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おーい、玉木〜! そっちは何か見つけたか〜?」
「彼方くん、こっちにも何も無いよ〜! 相変わらず壁にはビッシリと、気味の悪い文字が刻まれているけど。どこかに通じる入り口みたいな場所は全然見つからないよ〜!」
んー、そうか。それは困ったな……。
もう、結構な時間をかけて。この地底湖の周辺を探索し続けているけど、俺達は一向に出口となるような場所を見つけられずにいた。
毒キノコによる一時的な記憶喪失状態から回復した玉木と俺は、すぐに地底湖周辺の探索を再開した。
だが……今の所、何か大きな建物だとか。どこか別の場所に通じるような、秘密の入り口らしきものを全く発見出来ずにいる。
早くここから元の場所に戻れる道を見つけないと、ティーナ達の事が心配だ。なにせ無限に光を照らす事の出来る俺がいなくなってしまったのだし。ティーナとフィートの2人は、懐中電灯や、ランタンのわずかな明かりしか持っていない。
おまけにこのまま時間がどんどん経てば、手持ちの食料や水もいつか尽きてしまうだろう。
この地底湖にある開けた空間で、コンビニを出す事の出来た俺と玉木は、それぞれが持つリュックサックに大量の物資を補充する事が出来ている。
けれどティーナとフィートは、限られた物資しか持っていない状態だ。だからすぐにでも合流をしないと、大変な事になってしまうに違いない。
そんな事をずっと頭の中で考えながら。
焦りの顔色を浮かべて、頭を深く悩ませていた俺の耳に。玉木の嬉しそうな猫撫で声が聞こえてきた。
「彼方く〜〜ん! あったよ〜。私、また『例のモノ』を見つけちゃったよ〜!」
「えっ……例のモノって? そっちで一体何を見つけたんだ、玉木!?」
玉木の言う『例のモノ』とやらが、何の事かは分からなかったけど。
俺は急いで玉木の声が聞こえてきた場所に向けて、全速力で駆け寄る事にした。
「ハァ……ハァ……、玉木? 一体、何を見つけたんだ?」
息を切らした俺が、慌てて尋ねると。
玉木は洞窟の壁の一部分を指差しながら、ドヤ顔をして俺に自分の発見した手柄を見せつけてきた。
「これよ〜、これ〜! 見て見て、また壁の奥に謎の『ボタン』があったのよ〜!」
「ぼ、ボタンだって……!?」
ほ、本当だ……! 壁の隙間の空間にまたボタンがあるぞ! それも、俺達2人が洞窟の上層からここに落ちてきた原因となった、赤い壁の場所にあったボタンと全く同じ形をしているじゃないか。
「た、玉木ッ! もちろん、分かっているだろうな?」
「わ、分かってるわよ〜! 流石に今度は『ポチッとな〜』は控えておく事にするわよ〜。また、うっかりボタンを押して、更に地の底にまで落とされちゃったら大変だもの!」
ボタンを発見した玉木も、俺も。
お互いを警戒するように、顔を見合わせながら様子を窺う事にする。
なにせプチアニメオタクである俺達は、洞窟内にボタンがあったらついつい手が伸びて。『ポチッとな〜』と魔法の言葉を呟きながら、ボタンを指で押してしまいかねない衝動を持っている。
前回はそれで大失敗をして、この地底湖の周辺にまで落とされてしまった。
だから今回こそは、このボタンが一体何なのかを、慎重に吟味する必要があるだろう。
「…………」
「…………」
俺と玉木は互いに息を呑み。
無言のまま、その場で静止し続ける。そしてその状態が……おおよそ数分間続いた。
「……ねえ、彼方くん〜?」
「――何だ、玉木?」
玉木が俺の横顔をチラリと覗きながら、小声で話しかけてきた。
「このボタン……このまま、ずっと押さないの〜?」
「うーん、そうだな。正直、めっちゃ怪しいのは確かなんだけど、押さないとこのまま何も変化が起きないのも事実なんだよなぁ……」
もし、前回と同じような罠なのだとしたら。
俺達はまた、落とし穴に落とされてしまう可能性があるかもしれない。
でも、このまま何もしないでいても。結局はこの地底湖の周辺から脱出出来ないし、どこか別の場所に移動する事も出来ない。
……だとしたら、多少の危険の可能性があったとしても。ここは思いきってボタンを押してしまうべきのような気がしてきた。
「玉木……やっぱり、このボタン押しちゃおうか?」
「うん。私もそうした方が良い気がしてたの! 彼方くん、今度は一緒にボタンを押そうよ〜!」
俺と玉木は落とし穴対策として、互いの手をしっかりと握り合う事にする。
そして、呼吸を合わせて。もう片方の手の指を慎重にボタンの上に乗せた。
「ふぅ………」
一度、深呼吸をして。俺と玉木は例の魔法の言葉を同時に呟きながら、壁の隙間にあるボタンを押す。
「いくぞ、玉木! 一緒にボタンを押すぞ! せ〜〜の〜〜!」
『『――ポチッとな〜〜!!』』
””――ゴゴゴゴゴゴゴゴ――””
地底湖の周辺の壁が大きく振動し。
俺達の目の前にある大きな岩壁が、まるで自動ドアが左右に開くように勝手に動き出した。
岩の壁の中には、明るい照明で照らされた白い部屋が広がっていた。そこには沢山の古い本や家具が置かれていて。奥には簡易的にベッドもあり。人が住む事が出来る居住空間のような場所が広がっていた。
「何よ〜!? この空間は〜? すっごく明るいし、全然洞窟っぽくない場所になっているのね〜!」
玉木が大声を上げて、開いた岩壁の先にある白い部屋の中に入っていく。
「――お、おい、玉木! また勝手に1人で進むんじゃない! まだそこが安全な場所なのかどうか、分からないんだからな!」
「うん、気を付ける〜! あっ、奥の部屋にティーナちゃんと、フィートちゃんもいたよ〜!」
「うんうん、十分に気を付けてくれよな……って、ええええぇぇ!? ティーナとフィートがいるだって!?」
玉木のあまりにも予想外過ぎる言葉に、俺は目ん玉が飛び出してしまう程の大声を上げて驚いてしまう。
「――彼方様、玉木様! 良かった……ご無事だったのですね!」
「おっ、大好きお兄さんじゃ〜ん! 良かったのにゃ〜! このまま合流出来なかったら、あたいは深刻なサバ缶不足に陥ってしまう所だったのにゃ〜!」
明るい照明の付いた白い部屋には、硬い床の上で体育座りをしながら座っていたティーナと、もふもふ娘のフィートが互いに身を寄せ合っていた。
「ティーナ? フィート? 無事だったのか!? でも、どうしてここに2人がいるんだ……?」
「どうして……って言われても困るのにゃ〜! 大好きお兄さんが、その場でじっとしてろって言うから、出来るだけ移動をしないようにして、あたい達はお兄さんの帰りをここで待っていたのにゃ〜!」
「ここで待っていた? えっ、でも……」
どうも、もふもふ娘の説明と俺の認識が上手く噛み合わない。
だって俺と玉木は、ティーナとフィートの残る赤い壁の場所から落とし穴に落ちて、遥か地底の底にまで落とされたんだぞ?
そこで玉木の毒キノコ事件とか、色々あったりもしたけれど。
地底湖周辺の探索を続けて、ようやく謎のボタンを見つけ。それを押して開いた岩壁の向こう側にある白い部屋に、ティーナ達が待っていて。
しかも俺の言いつけ通りに、じっとその場から動かずに待っていた……って、何かおかしくないか?
俺は認識の齟齬を埋める為に。俺と玉木が落とし穴に落ちた後の状況を、ティーナに聞いてみる事にした。
ティーナの説明によると――。
まず、俺と玉木が例の赤い壁の場所から落とし穴に落ちて。その後しばらくは、ティーナとフィートはその場にとどまっていたらしい。
けれど、懐中電灯の電池や食料も減ってきた為。夜目の利くフィートが、周辺の探索を再開したようだ。
――すると、赤い壁の場所の隣の空間に。
さっきまでは無かったはずの、謎の岩の扉が開いていて。この照明の効いた白い部屋を見つける事が出来たという事だった。
「えっ、ちょっと待ってくれ。……って事は、ティーナ達はあの赤い壁の空間から、すぐ隣の場所に開いていた岩の扉に入って、ここに辿り着いたのか?」
「ハイ、彼方様。この白い部屋に入ってすぐに扉は閉まってしまいましたので、もう外には出られなくなってしまいましたが……。きっと彼方様が来てくれると信じて、私達はここでじっと動かずに待機していたのです」
「……でも、俺と玉木はかなり深い地底に落とされて。そこを探索して見つけた岩壁の扉を開けて、ここにやって来たんだぞ? それなのに、遥か上の階層にいたはずのティーナともふもふ娘と同じ場所で再会するなんて」
……おかしい。多分、何か魔法の力によって空間が捻れているのだと思う。
俺と玉木は慌てて、俺達がこの部屋に入って来た岩の扉に戻ってみたが――。
そこはもう既に閉じられていて、元の地底湖のある場所には戻る事が出来なくなっていた。
きっとあのボタンは、異なる空間にある場所をこの白い部屋に繋ぐ。ショートカットの役割を持っていたのかもしれないな……。
「彼方様と、玉木様は大丈夫だったのですか? 何かお怪我をしていたりはしませんか?」
ティーナが心配そうに俺達の事を見つめてきた。
「……ああ、俺なら大丈夫だよ、ティーナ。玉木が毒キノコを食べて、少しだけ記憶喪失になったりもしたけど、今はすっかり元通りに戻っているからさ」
「ど、毒キノコをですか……?」
俺の言葉を聞いて、不安そうに玉木の体を見回すティーナ。
だが……特に玉木が普通の様子をしているので、どうやら安心してくれたらしい。
「もう〜、私は毒キノコなんて食べた記憶は無いっていってるのに〜。それよりも、聞いてよ! ティーナちゃん〜! 毒キノコなんかより、もっと深刻な事件が起きたのよ! とうとう自分の中の欲望の制御が出来なくなった彼方くんが、何と寝ている私の服を無理やり脱がして、下着を………む、むにゅううぅぅぅ〜〜!?」
俺は慌てて、玉木の口を後ろから両手で塞ぎ。
後方から完全なブロック態勢を取る。
「ぐむぅ〜〜! ぐむぅ〜〜! ぢょっどぉ〜、がなだぐん〜、なにずるのぉ〜!?」
「……か、彼方様? 玉木様の口を塞いで、ど、どうされたのですか?」
「いやっ、何でもないんだよ、ティーナ! 玉木は途中で毒キノコを食べてから時々、様子がおかしくなる事があるんだよっ!」
「でも、先ほど……毒キノコを食べられた玉木様はもう『すっかり元通りになられている』とおっしゃっていたような……」
「そうなのにゃ〜! それに今、そこの尻尾ねーちゃんが『下着』がなんたら〜とか、言ってた気がするのにゃ〜!」
ググッ……。流石は記憶力に定評のあるティーナさんだ。これはまずいぞ!
正直、まるっきり無罪であるにも関わらず。
このままでは俺は、謎の既成事実を作られて冤罪をかけられてしまいかねない。
ここは当事者の玉木の口を、全力で封じこむしかないようだな。
「……ゴニョゴニョ、おい、玉木! その件については何かお互いに誤解があるみたいだから、後でじっくりと話し合いをしようじゃないか……!」
「ぐむぅ〜、ぐむぅ〜、がなだぐんが、私を下着姿にじたのは事実でじょう〜〜?」
「……いやだから、それは毒キノコを食べたお前が勝手に脱いでたんだって! いや、それを今議論している余地は無いから、頼むよ、玉木! コンビニ共和国に戻ったら、地下の回転寿司フロアを『一日中貸し切りに出来る権利』をお前に与えるからさっ!」
「ええっ〜〜!? それ、本当なのぉ〜!? 彼方く〜ん?」
口を塞いでいた俺の手を両手で勢いよく外し。
目をキラキラと輝かせた玉木が、俺の目を真っ直ぐに至近距離から見つめてきた。
しまった……。暗殺者の能力持つ玉木の身体能力は、人一倍強くなっているんだった。
例えコンビニの勇者の俺が本気を出しても、玉木の口を完全に封じる事など出来っこない。
俺の弱みを握った玉木は、ニヤリと笑うと。
俺の耳元に自分の顔を近づけて。ヒソヒソと小声で俺に話しかけてくる。
「……ヒソヒソヒソ。じゃあ、回転寿司フロアで、一日中お寿司食べ放題を約束してね、彼方くん!」
「………ヒソヒソヒソ。ああ……もちろん、約束するさ! 玉木の好きなだけ、回転寿司でお寿司を食べてくれて構わないぞ」
俺が玉木の好物である、回転寿司店の一日貸し切り権を約束すると。玉木は少しだけ顔を赤くして、更なる追加条件を俺に提示してきた。
「……でも、回転寿司でたった1人でお寿司を食べるのは寂しいよ〜。その日は彼方くんも私と一緒に、回転寿司店で一日中、お寿司食べ放題に付き合ってよね〜!」
「お、おう……。回転寿司で玉木と2人きりで食べ放題をするんだな。まあ、別にいいよ……。昔は杉田とも一緒に、よく3人で回転寿司に行った事もあったしな」
「やったぁ〜〜! 彼方くんと回転寿司デートだ〜〜!!」
両手を大きく上にあげて。その場でクルクルと回りながら、何度も飛び上がるようにして喜ぶ玉木。
そして呆然とした様子でこちらを見守っている、ティーナとフィートに改めて玉木は向き直ると。
「ハイ、ティーナちゃん〜! ハイ、フィートちゃん〜! 美味しいコンビニの食べ物をいっぱい持ってきたよ〜!」
玉木は背中に背負ってきた大きなリュックサックから。ティーナの大好物であるBLTサンドとミルクティー。
そして、もふもふ娘の好物であるサバ缶を大量に取り出して2人に手渡していく。
「ええっ〜!? 玉木様、ありがとうございます! これは一体、どうされたのですか?」
「にゃにゃ〜〜ん!! 尻尾ねーちゃん、ありがとうなのにゃ〜! サバ缶不足で禁断症状が出る所だったから本当に助かったのにゃ〜〜!」
ふふーんと、胸を張り。
両手を腰に当ててドヤ顔をする、コンビニフードの神と化した玉木。
さっきまで俺の変態事件(冤罪だけど……)を、大声で暴露しようとしていた態度が打って変わり。急に幼稚園児を優しく見守る保育士のお姉さんみたいな声を出すとは……流石は玉木。変わり身が早過ぎるぞ。
何はともあれ『コンビニの勇者変態化事件』をかろうじて免れた俺は……。無事に再会を果たしたティーナ達と、この白い部屋で少しだけ休む事にした。
「この部屋には、沢山の本が置かれているのですね」
「ああ……それに、古いベッドや花瓶のようなものも置かれているな。間違いなくここで大昔に、誰かが住んでいたんだろうな」
俺は本棚の中に積み重なっていた、ボロボロに破れかけている本を手に取ってみた。
すると、古い書物は小さな音を立てて。まるで砂のように崩れ落ちてしまう。
一体どれくらい大昔から、この本がここに置かれていたのかは分からないけど。きっと数千年以上前から、ずっとここに放置されていたのかもしれない。
「彼方様、ここで暮らしていたいた方は、きっと女性なのだと思います」
「女性だって……? どうしてそう思うんだ、ティーナ?」
ティーナは、古い書籍が山積みになっている白い部屋をゆっくりと見回し。感慨深そうに両目を輝かせていた。
「この部屋に置かれている花瓶の配置や、書物の整頓のされ方。そして空間の間取りが、女性らしい雰囲気を感じるんです。きっと、とても清潔感のあるお方がここで暮らされていたんだと思います」
「そ、そうなのか……」
もう部屋の中にある物は全てボロボロに風化しているから、俺にはいまいちピンと来なかったけど。
どうやら読書好きなティーナには、何かこの部屋の主人だった人物の感覚と通じ合えるものがあったらしい。そうか、ここには大昔に女性が住んでいたのか。
だとしたら、地底湖の岩壁に刻まれていたあの謎の文字も全部……その女性が刻んだという事になるのかな?
しばらく、コンビニ食品でお腹を満たしつつ。
白い部屋の中を、じっくりと観察していた俺達の足元から――。
突然、凄まじい『轟音』が鳴り響いてきた。
””ブオオオオォォォォォォーーーン!!!””
「うおおぉっ……!?」
「キャアァーー!?」
「ぶみゃあ〜〜!?」
何だ、何だ、また例の『地底竜の鳴き声』って奴か? それにしては、今までで一番大きな轟音だった気がするぞ!?
しかもこの白い部屋の真下から、今の轟音は鳴り響いてきた気がする。
「大好きお兄さん、ここに何か扉があるのにゃ〜!」
もふもふ娘のフィートが、白い部屋の床にまるで隠し扉のような場所があるのを発見してくれた。
部屋の床にはボロボロのカーペットが敷かれていたから、すぐには気付けなかったけど。確かに、台所にある床下収納のような隠し扉がそこにはあった。
「彼方様、この扉には……鍵穴がついています。きっと対応する鍵を差し込む事で、何か魔法的な封印を解く仕組みになっているのではないでしょうか?」
「鍵穴だって……? ええっと、鍵といえば、もしかしたら……」
俺はロングコートのポケットに入れていた『赤い鍵』をすぐに取り出してみる。
それは迷いの森で、不老カエルのコウペイから貰った……赤く錆びれた古い鍵だ。まさかこの鍵が、この隠し通路に入る為のものだったりするのだろうか?
てっきり、ダンジョン最深部に大きな宝箱でも用意されているのかと思ったけど。どうやら俺が想定していた鍵の使い方とは違っていたのかもしれない。
でも、他に考えられる可能性は無い。
俺はすぐにコウペイに貰った赤い鍵を、床にある隠し扉の鍵穴に差し込んでみた。
”――ガチャリ――”
小さな音が鳴った。
でも、俺は赤い鍵を鍵穴の中で回していない。
つまり、きっとティーナの予想が正しかったのだと思う。この赤い鍵は何かの魔法的な効力があって。この床下に隠されていた扉を開ける為の、魔法アイテムになっていたんだ。
「彼方くん、扉開けてみるけど……大丈夫かな?」
「ああ。頼むよ、玉木! どのみち、この白い部屋にずっと留まっている訳にもいかないからな。コウペイがくれた赤い鍵の指し示す場所に、みんなで向かおう!」
床にある古い扉ゆっくりと開けると。
床下には、部屋の地下に繋がる秘密の隠し階段のようなものが奥に向けて伸びていた。
俺達は全員で、静かにそしてゆっくりと。
暗闇の中に続く階段を、真っ直ぐに降りていく。
「何だか空気が重いのにゃ〜! もしかして、この先にデッカい地底竜とかが待ち受けていたら、あたいは嫌なのにゃ〜!」
「フィートちゃん、怖い事言わないでよ〜〜! あんなに大きな叫び声を上げる竜がこの先に潜んでいたら、本当に大変な事になっちゃうよ〜!」
フィートと玉木が、共にガクガクと体を震わせながら歩いている。
でも、俺はなぜか……。この先に『地底竜』は存在しない気がした。
この洞窟の中で何度も聞いてきた、あの不思議な轟音は……どうしても俺には、巨大な生物が発している音には聞こえなかったからだ。
むしろこの轟音は――何か巨大な機械が発している警報音のように思えるんだ。
地下に向かう秘密の階段を、真っ直ぐに降り続ける事……おおよそ数分間。
俺達の前には、まるで何かの『工場』のような広大なスペースを持つ真っ白な空間が広がっていた。
「ここは一体……何なんだ――?」
白い無機質な壁に囲まれた広大な空間。
そこには、高さ10メートルにも及ぶ。数十体の巨大な『女神像』が……横一列に向かい合いながら整列をするように並べられていた。