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第三十七話 黒ヘビとの戦い


 ”ズドーーーーーーーーン!!!”



 コンビニの地下シェルターの外壁に、大きな亀裂が入った。


 地上とは隔離をされた、別の空間に存在しているはずのこの『地下シェルター』に。

 あの巨大な黒ヘビはなんと、その『空間』を丸ごと飛び越えて。ここに直接攻撃を仕掛けてきやがったんだ!



「きゃあああああぁぁっーーー!!」



 ティーナが大きな叫び声を上げる。


 亀裂の入った地下シェルターの壁が、ミシミシと唸り声のような悲鳴をあげ始める。



 こいつはマジでまずいぞ……。


 このままだと、おそらく……。あと数回もあの黒ヘビに攻撃をされたりでもしたら、この部屋は完全にペッチャンコにされてしまうだろう。



「――クソッ! もう、地下シェルターの外壁も持ちそうにないし。一体、どうすればいいんだよ!?」



 いや、ここはもう迷っているような場合じゃない。


 この地下シェルターが潰されてしまってからでは、完全に手遅れになってしまうんだ。俺達にはここ以外にもう、逃げ場なんてないのだから。

 だから、まずは何か行動を起こさないと!



「……ティーナ! 俺が(おとり)になっていったんここから外に出てみる! だからティーナはここで待機をしていてくれないか?」


「分かりました……彼方様! でもどうか、お気をつけて下さいね!」


「ああ、何とか敵の注意を外に引きつけてみるよ!」



 地下シェルターのハッチを開けて、倒壊しているコンビニの外に俺は躍り出た。



 黒ヘビの標的を地下シェルターから、こっちに向ける為に。

 俺は全力で、敵の注意を引きつける行動を取る。



「うおおおおおぉぉぉーーーっ!!! ここだああぁ!! 俺はここにいるぞおおおぉぉーーーー!!!」



 猛り狂うように、その場で大声を叫びながら――。


 俺は、コンビニから少し離れた場所に向けて走り出した。



 そして、その離れた場所にまで辿り着くと。

 そこで俺は何度も何度も足踏みと、大きなジャンプを地面の上で繰り返して猛アピールを始める。


 黒ヘビがこちらにちゃんと気付くように。狂ったような大きな絶叫を、俺は大声で何度も叫び続けた。



「うおおおおおおおおおおっーーー!!!」



 ――すると……。



 俺の立っている大地に――。

 やがて、大きな振動が走り始める。


 どうやら、黒ヘビは地下シェルターへの空間をまたいだ攻撃をやめて、こちら側に戻ってきたみたいだな。

 俺が立っているこの場所の周囲の振動が、どんどん激しくなっていくのが分かる。



(……ん? だとすると、今度はこっちに居る俺の方が危ないんじゃないか?)


 壁のある地下シェルターと違って。こんなだだっ広い平野に突っ立っていたら、一発で俺はあの黒ヘビに丸飲みにされてしまうぞ。



「くそっ! 今度は急いで地下シェルターに避難をしないといけないのかよッ!!」


 俺は本能的に危険を察知して、再び全速力でコンビニに向かって走り出す。


 大地の揺れが、更に激しさを増していく。

 俺の周囲には、体感では震度4を超えそうなくらいの大きな地震が既に発生している。


 そして、俺のすぐ後方に――。


 先程、俺が丁度足踏みをしていた付近の地面から……。

 凄まじい勢いで黒ヘビが、地中から顔を突き上げるようにしてその巨大な姿を大地に現した。



 ”ドゴーーーーーーーン!!!”



「うおおおおっ!? 今のは結構危なかったな……!」


 もし、あのままずっとさっきの場所に立ち続けていたなら……。俺は間違いなくアイツに丸飲みされて、即死をしていただろう。



 俺はコンビニに向かって、全速力で走り続けた。


 本当は一度コンビニを消してから、新しく目の前に出し直した方が早いのは分かっている。

 そうすればドローンも全機復活するし、地下シェルターへのダメージも修復出来るはずだ。


 だけど、今は地下シェルターにティーナを残してきてしまっているから、それは出来ないんだ。


 俺は、コンビニの店内に人間が残っている状態の時は……コンビニを俺の能力で消さないようにしていた。


 それは、俺がコンビニを『消して』しまう事で。


 店内に残っている人間まで、『消えて』しまうんじゃないか……という恐怖があったらからだ。

 その想像が怖くて、俺は今までそれをまだ一度も試した事がない。


 ちなみにコンビニの中に魔物を入れて、その状態でコンビニを消してみた事ならあるぞ。

 その時は、店内に残った魔物はコンビニが建っていた跡地にポツンと取り残されていて、コンビニと一緒に消えてしまう――という事はなかったな。


 だから、まあ人間がコンビニの中にいる状態でそれを試したとしても。同じ様な結果になるんじゃないかと、俺は思ってはいるんだが……。


 流石にそれを、人体実験で試してみるという訳にもいかないだろう。俺は人間が残っている状態では、コンビニは消さないようにしようと心に決めているんだ。


 でも、もし金森や倉持あたりがお店に入っている状態でなら、余裕で試してやりたい気持ちもあるけどな!

 それでアイツらがこの世から消えてどこかに行ってしまったとしても――ざまぁ! くらいにしか俺は思わないし。



 だけど、今回のようにコンビニの店内にではなくて。


 『地下シェルター』の中に人が残っている状態では、一体どうなってしまうのだろうか?


 コンビニを消した途端、地上に残されるのか?

 それとも地中に埋まったような状態になってしまうのか?


 そもそも別の空間に存在しているらしい地下シェルターの事だからな。そのままシェルターの中にずっと閉じ込められたままになってしまう――という可能性も十分にあるだろう。



 コンビニの地下シェルターには、保存機能がある。


 だから、もしかしたら今、地下シェルターに残っているティーナも……。

 例え、俺がコンビニを消したとしても、シェルターの中で無事でいられるのかもしれない。



 だけど、その確証が無い以上危険な事は絶対に出来ない。


 俺はそのままコンビニを消さずに、地下シェルターの入り口のある、コンビニの事務所部屋に全速力で駆け込んだ。


 地下シェルターの入り口に手をかけると、再びティーナの待つ地下に、素早く体を潜り込ませる。


 なにせ、あの黒ヘビは動きがめちゃくちゃ素早いからな。


 あの黒いピラミッドみたいな建物から、このコンビニの位置を特定して、あっという間にここまで襲ってきたくらいだ。


 きっと、もし……あのまま地上に残り続けていたら。

 俺はアイツに襲われて、一瞬で食い殺されてしまっていただろう。


 俺が地下シェルターのハッチを、閉め終える瞬間に――。


 地上の倒壊したコンビニ部分は、再び黒ヘビの攻撃を受けて大きな破壊音を響かせていた。



「――彼方様!! 大丈夫ですか……?」


「ああ、ちょっとだけ危なかったけどな……! でも、何とかまだ生きてるよ。けど、このままだとここも長くは持たないだろうな」


 外に出ても、結局は黒ヘビから逃れる手段がない。

 少しだけ時間は稼げるが、アイツは地上にまた戻ってきてしまうからだ。


 コンビニの外にいても、白い霧の中をまさか走って逃げる訳にもいかないだろう。

 ここには、車みたいな便利なモノはもちろん無いからな。


 だとすると、このまま俺達が生き延びる為には――。


「この地下シェルターと、地上への移動を交互に繰り返して。永遠に時間を稼ぎ続ける事くらいしか、俺達には出来ないのかよ……」


 だけど、それもどこかで少しでもミスをしてしまったら終わりだ。

 これだけでは、有効な解決手段にはならないんだ。

 


 しかも、あの黒いヘビは頭がかなり良さそうだしな。


 同じ動作を繰り返していたら、いつかはパターンを学習されて先にてやられてしまう……という事も十分にあり得る。



「くそっ! これじゃあ、完全に打つ手がないじゃないか!」


 俺は腕を組みながら、唸り声をあげる。

 今回ばかりは、本当に考えが全く浮かばない。


 でも、もう時間もないんだ……!


 またすぐに、黒ヘビはこの地下シェルターへの攻撃を開始するだろう。そうしたら、また地上に出て敵の攻撃をギリギリで回避をして――この地下シェルターに戻るの行動を繰り返すしかなくなってしまう。



「彼方様。もしよろしければ、私に少しだけ考えがあります」


「ティーナ? どうしたんだ?」


 憔悴しきっていた俺に、ティーナがそう告げてきた。


 ティーナには、この絶対絶命のピンチを凌げる何かアイデアが浮かんだというのだろうか……?


 俺はティーナから、その内容を聞いて驚く。


「……ティーナ!? そ、それは……! で、でも、まだ一度も試した事はないし、危険かもしれないんだぞ!」


「このままでも2人でここに残っていても十分に危険です。しかも、何もしないでいたら、どんどんこの部屋の外壁は壊されてしまいます。……私なら大丈夫ですから! 彼方様が少しでも、生き残る可能性がある方法を私は選択したいです」


 ティーナが笑顔で俺の手を握ってくる。

 そしてそのまま、しっかりと俺の体を抱きしめてくれた。


 きっと「私なら大丈夫ですから!」って事を。

 言葉だけではなく、全身で伝えて俺を安心させようとしてくれてるんだろうな。


 以前に盗賊達にコンビニを囲まれた時に、俺がティーナを安心させる為にした事を――今度はティーナに俺がしてくれている。


 俺はティーナには絶対に危険な事はさせたくない。


 でも、確かにこのピンチを乗り越える方法は、それしかないのかもしれない。


 ――そうだな!

 今、あの黒ヘビと戦っているのは俺だけじゃないんだ。


 俺とティーナの2人で、アイツと戦っているんだ。


 俺だけが危険を晒していればそれで何とかなる――っていう状態ではもうない。

 今回ばかりは2人で協力をしなければ、絶対にあんな巨大な化け物には打ち勝てないだろう。



 俺は覚悟を決めて、ティーナの力を借りる事にした。


「……分かった。俺はティーナの力を借りる! だから、必ず成功をさせて2人で生き残ろう!」


「ハイ、彼方様! 生き残って必ずこの谷を2人で脱出しましょうね!」


 俺はティーナをきつく抱きしめた。


 そして、ティーナが俺に伝えてくれたアイデアに……。

 更にアレンジを加えた内容を、俺がティーナに教えて、これからの行動と作戦を確認し合った。



 ちょうど、その時だった――。



 ”ズドーーーーーーーーン”



 再びこの地下シェルターに、凄まじい衝撃と震動が走る!


 どうやら黒ヘビがまた空間を超えて、シェルターに攻撃を加えてきたらしい。


 さすがにもう、この地下シェルターの外壁は持たないな。すぐにでも、行動を起こさないといけないだろう。



「――よし、行ってくる! ティーナ、後は頼んだぞ!!」


「ハイ、お任せください。ご指示通りにちゃんと頑張ってみます!」


 俺はティーナにガッツポーズを見せると、すぐに地下シェルターのハッチを開けて、再び地上に飛び出した。



「よーーーし!! 行くぞおおおぉぉーーーっ!!」


 俺は再び大きな雄叫びを上げながら、全速力で外に駆け出す。

 コンビニから少し離れた場所で、大地を蹴りながら黒ヘビに猛アピールを開始した。


 あの黒ヘビが地下シェルターを攻撃する時は、きっと空間を飛び越えてから攻撃をしているのだろう。

 地下シェルターに攻撃を加える時や、こっちに戻ってくる時には、少しだけ時間がかかるようだ。


 だから、俺もこうして外に出て飛び出ても、すぐに攻撃をされてしまうという事はない。



 だが、すぐに――。


 大地に大きな轟音が鳴り響き。

 激しい揺れが周辺の地面を大きく震わせ始めた。


「――よし、こっちに戻ってきたか! ちゃんと、俺を追いかけて来るんだぞ!」



 俺は再びコンビニを目掛けて走り出す。


 先程と同じように、俺がついさっきまで立っていた場所の大地が大きく割れて――。


 巨大な黒ヘビの顔が地中から、這い出るように飛び出してきた。


 大地から顔を出した黒ヘビは、コンビニの方向に逃げている俺を見つけると――すぐさま追撃を開始する。



「よし、予定通りだ! おーーい、こっちに来いよッ! この黒ヘビ野郎ーーーッ!!」



 俺は全速力で、倒壊しているコンビニの方向に向けて走り続ける。



 そして、走りながら俺は大声で叫ぶ!



「消えろーーーっ! コンビニーーー!!!」



 俺は能力で、既に全壊に近い状態になっているコンビニを……いったん消した。



 そして……コンビニが消えたのを確認してから、大急ぎで再び叫び声を上げる。



「出でよーーーっ!! コンビニーーー!!!」



 すると、今度は俺のすぐ目の前にコンビニが出現した。


 もう、安全な岩壁の隙間に、わざわざコンビニを埋め込む必要はない。そんなのはこの黒いヘビ野郎を倒してからで十分だ。


 俺は目の前に出現したコンビニに、急いで駆け込む。


 店内に入るとすぐに、事務所のドアが開き。ティーナがこちらに向けて手招きをしてくれていた。



「彼方様ーー!! こっちです! 急いで下さい!!」


「ありがとう、ティーナ!」


 俺はティーナのいる事務所に駆けこみ、一緒に地下シェルターの中に逃げ込む。



 そして、地下シェルターのハッチを閉める前に――。


 あらかじめティーナがハッチの周辺に置いといてくれた、大量の着火剤にライターで火をつけてから、中に飛び込んだ。



 そして、ちょうど俺が地下シェルターのハッチを閉じた――。


 その瞬間に。




 ”ドゴーーーーーーーーーン!!!!”



 凄まじい爆発音がコンビニの店内で鳴り響いたのが……。

 かすかにハッチの上から聞こえてきた気がした。


 俺はティーナが先に、コンビニの屋根から飛ばしておいてくれた、ドローンの映像を急いで確認をする。



 ドローンのカメラに映し出された地上のコンビニの様子は……。




 まるで、巨大な大爆発事故が起きた後のように――。


 真っ暗な燃えカスがコンビニの店内に残り、地中まで深く抉り取られたかのような……大きなクレーターの跡が禍々(まがまが)しく大地に残されていた。


 コンビニの近くにいた黒ヘビは……。

 その顔面部分が3分の2以上も欠け落ちていて、頭部からは大量の黒い出血を噴き出している。


 苦しそうにその場でのたうち回り、何度も全身をくねらせている映像がパソコンのモニターには映りこむ。



「よし……! どうやら、成功したみたいだな!!」


 俺とティーナはドローンの映像を見ながら、思わずガッツポーズをして、ハイタッチを交わし合う。



 今回の作戦は、名付けて『ガス缶大量爆発作戦』だ。


 俺は、ティーナがまだ地下シェルターに残っている状況で、いったん地上のコンビニを消した。


 コンビニの地下シェルターには保存機能があるし、食品も残り続けているから、中にいる人間も大丈夫だとは思っていたが……どうやら、上手くいったらしい。


 ティーナは今回、危険性もある『地下シェルターに残り続ける』という役を、自分から進んで買って出てくれた。


 ティーナがシェルターの中に残ってくれているのなら、俺も色々な作戦を立てる事が出来る。そして、あの黒ヘビを倒すアイデアだって思い浮かぶ事が出来た。


 まずは、俺はいったん地上のコンビニを消したが……。


 すかさず、すぐにコンビニを『出し直す』事で、コンビニを『新品の状態』に戻した。


 地下シェルターのパソコン画面前で待機をしていたティーナは――。

 コンビニが新しくなった瞬間に……復活したドローンを操作するアイコンのクリックと、商品の大量発注の操作をマウスで行った。


 ティーナが地下シェルターの中で発注した商品とは――。


 倉庫室にカセットコンロ用のガス缶を2000本。

 そして、着火剤を更に500個だ。


 それら全てを同時に大量発注して、コンビニの倉庫部屋に出現させておく。


 ドローンもガス缶の発注も、事前にパソコンの画面にショートカットアイコンを作って、俺が外で走っている間にティーナに準備をしておいて貰った。


 だから、俺がコンビニを出し直した瞬間に、ティーナはすぐにマウスをクリックする事が出来た。

 特に今回は、まさに時間との勝負だったからな。


 俺がコンビニをいったんしまって、外に出し直す。

 その時に、コンビニの倉庫部屋には、ガス缶を大量に詰め込んでおき、いわゆる『爆薬庫』の状態にしておく必要があった。


 そして俺は、2000本のガス缶と500個の着火剤がパンパンに詰まったコンビニの中に、急いで駆け込むと……。


 まあ、これは一応、念の為のおまけみたいなものなんだけどな。万が一、ガス缶が不発に終わったら怖いし。

 元々シェルターの中に蓄えてあった着火剤を、少しだけティーナに出口の所に置いといて貰い。それにも火をつけてから、シェルターの中に、急いで俺は潜り込んだという訳だ。


 後は、黒ヘビが勢いよくコンビニに突進した事で、大量のガス缶が一気に炸裂をした。

 そして、その摩擦で引火を起こしたコンビニは、まさに巨大なダイナマイト状態となって、大爆発を引き起こしたという訳だ。



 コンビニが巨大な爆薬庫になっている事を知らずに、自らその中に頭から突っ込み。ダイレクトに大爆発の衝撃を食らってしまった黒ヘビは、かなりの大ダメージを負ったらしい。


 黒い血を辺りにまき散らしながら、全身を激しく揺さぶる。そして狂ったように地面の上を、のたうち回り続けている。


 それは、もはや助からないレベルの重症のようだ。


 まさに瀕死の状態で、最後の足掻きとも思える動きを必死に繰り返している。



 多分だけど、あの黒ヘビは知性が高かった分。

 あの、てっぺんの頭の部分に、体の中枢の機能が全部集まっていたんだろうな。


 その大事な頭部が、3分の2以上も爆発で吹っ飛ばされてしまったんだ。

 独自の再生機能を持っているとかでもでもなければ絶対に、もう助からないだろう――。



「――だが、それを待ってやるほど、『コンビニの勇者』は優しくないんでね! 残念だったな、黒ヘビ野郎!!」



 俺とティーナは、急いで地下シェルターの中から外に飛び出した。

 コンビニの外に出た俺は、近くの岩壁に急いでよじ登る。


 そして、のたうち回る黒ヘビの体の中心部より、少しだけ高い位置にある岩の上に立つと――俺はそこから、黒ヘビを見下した。


 まあ、カディスの時と違って、事前に矢倉なんかを建てておく事は出来なかったからな。


 岩の壁をよじ登るだけで、5分近くもかかってしまってたし……今回は高さも全然十分ではないけれど、まあ、しょうがない。

 今は、これで十分としよう。



 俺は岩のよじ登った岩の壁から、真下の黒ヘビの胴体目掛けて一気に飛び降りた。


 もちろん、苦しむ黒ヘビを助けてやる為じゃないぞ?



 当然、コイツにトドメを刺してやる為だからなッ!!



「これでも食らいやがれーーーっ!! コンビニの勇者の唯一の必殺技っ!! 『無限もぐら叩きインフィニットハンマー』だーーー!!!」



 俺は、再びコンビニを消して。



 黒ヘビの胴体の真上に――。


 重さ約50トン強の巨大建造物、『コンビニ』を落としてやった!




 ”ヴヴーーーーーーーッ!!!”



 最後まで、叫び声などは一切あげなかった黒ヘビが……。


 断末魔に少しだけ、何か超音波のようなものを発したような気がした。


 黒ヘビは、その頭部を除く胴体の部分は意外と脆かったらしい。


 真上から降ってきたコンビニの重圧に耐えられず。

 その長い胴体は、コンビニがのしかかっている部分から少しずつ裂けて、完全に押し潰されてしまった。


 そして、先程まで苦しそうにクネクネと体を動かしていたその動きもピタっと止まり……。



 やがて、黒ヘビはその場でピクリとも動かなくなった。


 辺りには、静けさだけが残される。



「…………やったのか?」


 俺は、黒ヘビの体に少しだけ近付いてみる。


 おそるおそるその様子を探ったが……。

 どうやら、もう動き出す気配は全くなさそうだった。



 これは完全にもう――絶命していると判断しても良さそうだ。



「ふぅ……。これでやっと終わったのかよ!」


 いや、今回はマジで疲れたな。

 溜息がさっきから、何度も溢れ出てしまうくらいだからな。


「彼方様! やりましたね! 本当にお疲れ様でした!」


 ティーナが嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。

 うん! 今回は、本当に俺はティーナに助けられたな。


 あの時、ティーナが俺に……。


「……私が地下シェルターの中に残ります。それで何か敵の意表をつくような罠をコンビニの中に設置出来ないでしょうか?」って、ナイスな作戦のアイデアをくれたおかげだ。


 地下シェルターに人間が残った状態で、コンビニを消したらどうなるのかも――まだ全然分からなかったから、俺は本当にヒヤヒヤしたぜ。


 今回は、本当に嫁の力を借りて何とか倒せた……って感じだな。俺の嫁は本当にしっかり者で、頼れる相棒で助かったぜ!



 そんな嫁のティーナに全身を勢いよく抱きしめられて、俺は少しだけ後ろによろけてしまう。


 まあ、本当はこのままハリウッド映画みたいにさ!


 敵を倒した主人公とヒロインとで、これからゆっくりと抱擁シーンを楽しみたい所だったんだけどな。

 正直、今なら俺はティーナと初キスを勢いでしちゃっても――まあ、良いかな? って思えていたくらいなんだぜ?



 でも、まあ俺の場合……。

 大抵そういう良い感じのシーンの時には、何かしらの邪魔が入るような仕様になっているんだよな。



『――ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました!』


 脳内に鳴り響く、恒例のアナウンス音。



 このタイミングで、レベルアップ?


 いや、まあ今回は当然か。だってこの魔王の谷に落ちてから、俺は初めて巨大な魔物を仕留めたんだしな。


 しかもあの黒いヘビは、大昔の魔王の墓所を守護している――かなり重要そうな敵だったんだからな。



 俺はさっそく、自分の能力を確認してみる事にした。



 ティーナを抱きしめながら俺は脳内で小さく呟く。


「――能力確認(ステータスチェック)!」




 すると――。




名前:秋ノ瀬 彼方 (アキノセ カナタ)

年齢:17歳


職業:異世界の勇者レベル11


スキル:『コンビニ』……レベル11


体力値:10

筋力値:9

敏捷値:10

魔力値:0

幸運値:10

 

習得魔法:なし

習得技能:なし

称号:『魔王の谷の底で暮らす者』


――コンビニの商品レベルが11になりました

――コンビニの耐久レベルが11になりました


『商品』


お寿司 刺身


が、追加されました。



『雑貨』


トランシーバー


が、追加されました



『耐久設備』


コンビニの守護機兵『コンビニガード』 4体

コンビニの守護騎士『ガーディアンナイト』 1体

コンビニのキャタピラー式移動装置 追加

コンビニの超強化合金シャッター 追加

コンビニの店長専用服

コンビニの店長専用スマートウォッチ


が、追加されました




「えええっ!? 何だよコレは?」


「……どうされました? 彼方様?」


 俺が、あまりにも大きな驚きの声をあげたので、ティーナが心配そうにこちらを見つめる。


 いやいや、だってさ……。

 今回のレベルアップは、待望の『耐久設備』がいっぱい追加をされているんだけどさ。


 正直、一つ一つ全部がよく意味の分からない物ばかりだった。



 俺がその場で思わず言葉を失って、放心状態になっていると……。




 ”ズシーーーーーーン!!!”



 大きな振動と轟音が、俺達の後方から鳴り響いた。



 振り返ると、そこには――、


 あの黒いカディスの亜種タイプの魔物が、こちらに向けて既に全力突進を開始していた。

 真っ直ぐに、俺とティーナのいる方向だけをめがけて向かって来ている。


「ヤバいっ!! これは、マズイぞ……! ティーナ、急いでコンビニの中に逃げるんだ!!」


「は……ハイ、彼方様!!」


 しまった……。

 完全に油断しきっていた。


 あの黒いヘビを倒したからといって……ここは、それよりも遥かに巨大な魔物達がわんさかとひしめく、魔物達の巣窟だったんだ。


 あんなに大きな爆発音だって鳴らしてしまったし、魔物達がこちらに気付かない訳がないじゃないか!



「クソッ! これじゃあもう、間に合わないッ!!」


 俺達がコンビニに駆け込むよりスピードよりも――。

 後方からの魔物の突進に追いつかれる方が僅かに早い!



 このままだと、俺達はやられてしまう。



「せめて、ティーナだけでも……!」


 俺がティーナを後ろから抱きかかえようとした、その時――。



 ”バシューーーーーン!!!”



 後方で、強烈な白い閃光が走り。

 大きな轟音が鳴り響いた気がした。



 俺とティーナが、ゆっくりと背後を振り返ると……。



 そこには思わず目を見開くくらいの、驚愕の光景が広がっていた。



 あの全長40メートル級の、超巨大サイズの魔物。

 全身が真っ黒な色をしている、カディスの亜種タイプの魔物が………。



 なんと、真ん中から綺麗に真っ二つに切断されていたのだ。


 まるで、アジの開きのように、巨大な魔物の死体は……綺麗な切断面を晒している。



「こ、これは一体、どうなっているんだ!?」




 俺もティーナも、完全に言葉を失う。


 こんなにも巨大な魔物が、綺麗に半分に全身を切断されている光景を、想像なんて出来るはずもない。



 一体、今……。

 ここで、何が起きたというんだ?



 俺はしばらく、切断されたカディス亜種タイプの魔物の死骸を見つめていると――。

 その死体のすぐ前に。


 1人の女性が立っている事に、気付いた。



 全身に青い騎士の鎧を着込んでいる、青髪の綺麗な女性だ。

 騎士とは思えないくらいに、その体の線は細かった。



 青髪の女性の手には、黄金色に光る金色の長剣が握られている。


 谷底に吹く強い風に吹かれて、魔物の死骸の前に立つ女性の長い髪が――ゆらゆらとなびいているように見えた。



 青い女騎士は、こちらに振り返ると。

 俺とティーナの前に、ゆっくりとした足取りで近付いてくる。



 そして――。



 いきなり俺の目の前にひざまずくと。

 最敬礼の姿勢をとりながら、こう告げてきた。



「コンビニの店長をお守りする、『守護騎士(ガーディアンナイト)』のアイリーン・ノア。ただいま参上致しました。これからは店長をお守りする為に、この命尽きるまで、貴方様に絶対の忠誠を誓わせて頂きます!」


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外れスキルコンビニ
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― 新着の感想 ―
守護騎士、人なのか… ロボットぽい感じなのが良かったな
ショーツ売ってるコンビニは見たこと有るが、サイズ合わせが必要なブラを売ってるコンビニは流石に聞いた事すらないな。挙句ガーディアンナイツなるものまで売ってるらしい。かなり破天荒な作品に成りつつはあるw
【一言】 『第十二話 新たな成長』に書き込んだ疑問が半分解消されました。でもまー人間の死体もその場に残ったんだろうなぁ。 『魔王の谷』での戦闘は格上相手だから経験値もガッポリですね。正に命懸けの連続だ…
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