第三百六十九話 コンビニ警備員 対 女神教の魔女達
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「むにゅぅ〜〜。チョコミントセンサーに、不審な接近者の反応が有るのです。この神聖不可侵である聖地に、外部から近寄ってくる不審者がいるとは……。やはりコンビニの入り口付近に、『訪問販売お断り』の貼り紙を出しておくべきでしたのです〜」
ジメジメとした地下洞窟から、主人であるコンビニの勇者を置き去りにして。
たった1人だけで最前線から逃走して。安全で快適なコンビニの中に戻ってきた、コンビニの最終兵器(笑)のパティ。
彼女はマイホームであるコンビニに帰還を果たすと、すぐにコンビニの地下シェルターに降りて、そこで熱いシャワーを浴び。
そしてそのまま、シェルター内の床に布団を敷いてダイブし。ダラダラ〜っと、いつものようにチョコミント食品を食べながら、まったりとしたコンビニ引き篭もりライフを満喫していた。
そんなコンビニート守護者の後頭部に付いている、チョコミントカラーのポニーテールが突然……。まるで妖怪に反応を示したかのように、ピーンと上に起き上がったのである。
「……パティ殿? その後頭部の髪の毛はどうされたのですか? なにやら不思議な動きをしているように見えますが……?」
地下シェルターの中で、まだ眠りについている冬馬このはの看病をしていたククリアが、心配そうにパティに尋ねる。
傍目に見て、パティの頭に付いたポニーテールの髪は、確かに不審な動きをしていた。
ピーンと起き上がったチョコミント色の髪は、まるでレーダーのアンテナのように。ウィンウィンと音を立てて、自動回転をしている。
「ククリアさん、このコンビニにどうやら不審者が近づいてきています。ここはこのパティめが、不埒な訪問販売者と、宗教勧誘者を撃退してきますので、どうかご安心して中で待ってて欲しいのです〜☆」
「――不審者ですか? それは一体誰なのでしょう? まさか……ボク達の隠れているこの場所が、何者かによって特定されてしまったのでしょうか?」
洞窟の探索に向かった、コンビニの勇者達一行の帰還を待つククリアは……。
いったん、自身が使役する巨大土竜達を操り。洞窟から少し離れた場所の地面に大穴を開けて、その下にコンビニ支店1号店を隠しておいたのだ。
だから遠目には絶対に、このコンビニの場所は誰にも分からないはずだった。
それなのに、突如として森の中に不審者が現れ。そしてこの地下の大穴に隠してあるコンビニに、接近してきているという。
「実は、少し前からイヤ〜〜な予感はしてたのです〜。古い電波の周波数ですが……このコンビニの位置を特定しようと、謎の『索敵電波』を飛ばしてきた不審者がいたのです。パティが急いでコンビニ全体のセキュリティー体制と、ネットワークのドメインを書き換えましたので、この場所の位置までは特定出来なかったようですが……。この付近にコンビニが存在している事は、不審者達にバレてしまったようなのですぅ〜」
「……ど、ドメイン、ネットワーク? パティ殿は、実はコンビニ内の複雑な機械の装置や、仕組みに深く精通していたのですね」
ククリアが驚きの目で、パティの事をマジマジと見つめる。
当然だろう。正直、直接パティが敵と戦っている姿をまだ見た事がなかったククリアは、登場してからずっとコンビニの中でダラダラと自堕落な生活をして。ひたすら好物のチョコミントばかり食べ漁っているパティの一面しか、知らなかったのだから。
「それは当然なのです〜☆ なにせパティめは、このコンビニに住み着く専属のコンビニ警備員ですから〜! あまり積極的に働かない代わりに、自宅にやって来る不審者達(主に訪問販売、宗教勧誘など)を撃退するのが、このパティめに任された役割なのですぅ〜〜!」
「そ、そうなのですね……。それは、とても頼もしいかぎりですね!」
ただコンビニの中でグータラしている事を、さも誇らしげな仕事のように堂々と胸を張って語るパティ。
彼女は地下シェルターの床に敷いた布団の中から、ようやく体を起こして立ち上がると。
床に無造作に置いてある『三色団子の槍』を片手に持ち。意気揚々とコンビニの外へと向かっていった。
「――パティ殿、ボクに何か協力出来る事がありますか?」
後ろから呼びかけてきたククリアの声に、パティは少しだけ腕を組んで考えると……。
「う〜ん、大丈夫です〜☆ 一番強そうな敵は、どうやらコンビニマスター様達の方に向かったようなので、パティの敵は雑魚2匹だけなのです! だから楽勝でこのコンビニを守ってみせるのですぅ〜!」
一番強い敵が、自分の主人であるコンビニの勇者の元に向かった可能性があるというのに……。
その事を特に何も心配していない様子のパティに、ククリアは思わず呆れてしまう。
これが他のコンビニの守護者なら、コンビニの勇者の強さを信頼しているから……というニュアンスの言葉にも読み取れたかもしれない。
だが、おそらくこの性根の腐ったグータラな緑色の守護者は――心底、面倒くさい方の相手をしなくて済んだ事を喜んで発言しているように感じられたからだ。
「さぁ、さぁ、出陣ですよ〜! このパティめの快適なコンビニライフ☆を邪魔しようとする不埒な輩達を、徹底的に成敗してきてやるのですぅ〜☆」
三色団子の槍を手に右手に持ち。真っ白な苺大福の盾を左手に装備した、自称『コンビニスイーツの神☆』のパティは、コンビニの屋上から外に飛び出していく。
ククリアは、コンビニの外に向かっていったチョコミントカラーの騎士の後ろ姿を……唖然とした表情で見守っている事しか出来なかった。
「本当に大丈夫なのでしょうか? 早くコンビニの勇者殿がここに戻ってきてくれると良いのですが……」
ククリアは、地下シェルターの簡易ベッドで横になっている冬馬このはの顔を不安そうに見つめる。
もし、コンビニに近づいてきているという不審者が女神教の魔女だとしたら。動物園の魔王である、冬馬このはがここで生きている事を絶対に悟られてはいけないだろう。
冬馬このはの看病をしているククリアは、迂闊にこの場から離れる事は出来ない。
だから、不安はあるけれど。ここはコンビニの最強の守護者と噂されている、チョコミントカラーの騎士の力を頼る事しか出来ないでいた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「イェイ、イエイ、イェイーーっ! 枢機卿様が、洞窟の地下にお一人で降りて行かれたので、やっと少しだけ私もリラックスをする事が出来ますーーっ!」
地底竜が住まうと噂されている洞窟の、周辺の森の中をくまなく探索している2人の魔女達。
森の中をゆっくりと歩きながら。女神教の序列7位の魔女であるエクレアは、安心したようにホッとした吐息を漏らした。
「エクレアよ。そのような不敬な発言はするでない。もし、枢機卿様の耳にその言葉が届いてしまったら、お前はタダでは済まされぬぞ。下手をしたら魔女の証明である『魔王種子』を剥奪され、拷問を受けた挙句、北の地に追放されてしまうという事さえあり得るのだぞ」
「ひっ、ひいぃぃぃっ!! そんな恐ろしい事を言わないで下さい、オペラお姉様っ!!」
エクレアにとっては先輩の魔女である、長身銀髪の魔女のオペラに注意をされ。思わずエクレアは、恐怖で身をブルブルと震わせてしまった。
だが女神教の序列5位の魔女であるオペラは、いたって冷静な表情のままで、後輩のエクレアに注意をする。
「……ふむ。我ら武闘派の魔女は、女神アスティア様と共にパルサールの塔の地下で魔法研究を行う学者の魔女達とは、扱いが違うという事を心得よ。我らにとって『魔女』である価値を示せるのは、唯一、己が立てた武勲のみだ。それが不十分である時は、容赦なく他の魔女候補生に魔女の地位を奪われてしまう事もあり得るのだからな」
「そ、そんなーーっ!? で、でも……私達がもし急に居なくなってしまったら、女神教の戦力が低下してしまいます! きっと枢機卿様も、それはお困りになるのではないですか……?」
「さて、それはどうかな? 分からぬぞ。枢機卿様は最近は従者として、魔女候補生のカニ姉妹2人をよく引き連れているからな。枢機卿様にとっては、我ら2人の代わりなどいくらでもいるのではないだろうか?」
「か、カニ姉妹ですってーーっ!? もしかして、タラバとズワイの姉妹の事を言っているのですか? ダメです、あんな『かにぃ〜、かにぃ〜』と口うるさいだけの姉妹に魔女の地位を明け渡すなんて! 私は絶対に認めませんっ!! 高潔なる魔女の品位が汚れてしまいますっ!!」
「そう思うのならば、枢機卿様の信頼に応えるべく精進し続ける事だな。今も枢機卿様は、この森の何処かにあるという『コンビニ』を我らに探せとご命令をされた。もし、枢機卿様が戻られた時に、我らがコンビニを発見出来ていなかった時は……どのようなご不興を買ってしまうか分からぬぞ」
「ひいぃぃぃっ!! 探しますっ! このエクレアが、必ずコンビニを探し出して見せますっ!!」
先輩魔女とオペラに叱咤され。黒髪ショートの魔女であるエクレアは、必死に周辺の森の中を探索し続ける。
彼女達2人は、すでに浮遊動物園で『動物園の魔王』である冬馬このはの魔王種子を奪い損ねたという、不名誉な失敗をしでかしている。
だからここで、これ以上……。女神教のリーダーである枢機卿の機嫌を損ねる訳には絶対にいかなかった。
「……それにしても、本当にここに『コンビニ』はあるのでしょうか、オペラお姉様っ! さっきからずっと森の中を探索していても、ぜーんぜん、それらしい建物が見当たらないですーっ!」
「枢機卿がそう仰られていたのだ。間違いなくあるに違いない……。だが、こうも見つからないとすると。もしや、どこかにコンビニは隠してあるのかも知れぬな」
長身のオペラは、洞窟周辺の様子をぐるりと見回してみた。
洞窟の近辺には、高い木々に囲まれた森が生い茂っている。その中を注意深く観察してみても、大きな建物が置いてあるような形跡はどこにも見当たらなかった。
「……という事は、目には見えぬ場所。例えば、地下にコンビニは隠してある、という可能性もあるやもしれぬな」
「ええーーっ!? コンビニが地下に埋まっているというんですか? そんなの、一体どうやって見つければいいんですかーっ!?」
「ふむ……。まあ、視界だけを頼りに探すのは困難であろうな。となると――後は我らの『聴力』を頼りに探し当てる他あるまい」
女神教の所属する不老の魔女である、オペラとエクレアは共に遺伝能力者で持つ能力者である。
そして彼女達は、人並み外れた優れた身体能力を生まれつき持っていた。
2人の魔女達は、森の中でピタリと動きを止めると。
その場で静かに目を閉じて。両耳に手を当てながら、周辺から聞こえてくる音を聞き出す事に、全神経を集中させて感覚を研ぎ澄ましていく。
「……………」
「……………」
耳の奥に聞こえてくる、風のそよぐ音。
そしてその風になびくように、木々についた木の葉が揺らいでいる音も聞こえてくる。
もし、コンビニが本当に森の地下に隠されているのだとしたら……。
それは、森の中で鳴り響く確かな『異音』として。大自然の中ではあり得ない、近代的な建物が稼働する機械や家電製品の振動音を響かせているはずだ。
2人の魔女達は、真剣に耳の奥に聞こえてくるわずかな振動音を聞き分けようと集中する。
そして……彼女達の耳には、明らかな『異音』が突如として、森の周辺から聞こえてきたのである。
「――!? お、オペラお姉様っ! この変な音は何でしょう……!?」
「むむ。何なのだ、この異様な音は……!?」
魔女達は、耳に聞こえてきた異音に驚愕する。
その不思議な音は、森の地下からではなく。どちらかと言うと、上の方。そう――上空から、何かが落ちてくるような音として聞こえてきた。
「――ハッ!? 上だ、エクレア!! 何かがここに落ちてくるぞ!」
「ええっ!? 一体、何なんですかアレはーーっ!?」
オペラとエクレアの2人が、同時に上空を見上げると。
そこには焦げ臭い匂いと、甘い匂いを同時に放つドロドロとした黒い液体のかかった巨大な『何か』が落ちてきていた。
「――さぁ、さぁ、甘〜いプリンの海で、幸せな気持ちになりながら溺れてしまいなさい〜! 必殺、『焦がしキャラメルプリン』〜〜☆」
””ドシャャャーーーーーン!!!””
上空から落ちてきた巨大キャラメルプリンを――とっさに横っ跳びにジャンプをして、かわす事に成功した魔女のオペラとエクレア。
彼女達が先ほどまで立っていた場所は、灼熱の溶岩が流れて大地が焦げてしまったかのように。高熱のプリンの直撃によって大地が溶かされ、地面にはクレーターのような巨大な大穴が開いていた。
「ヒィィイッ!! 何なのよっ、コレはーーっ!?」
「エクレアよ、油断するでない! 次の攻撃がすぐに来るぞ!!」
高熱ドロドロプリンの直撃を、何とか避けた2人の魔女のもとに。今度は数十本を超える、竹串に3つの丸いカラフルな団子のついた、槍のようなものが大量に飛んで迫ってきていた。
「さぁ〜! コンビニスイーツの神☆である、このパティめが放つ三色団子ミサイルを喰らって、お腹も体も甘〜く満たされながらパンパンに爆ぜちゃなさい〜!」
魔女達のいる場所の上空には、薄緑色の鎧をまとったボニーテールの女が浮かんでいた。
どうやらこの奇襲攻撃は全て、あの謎の女が仕掛けてきたものらしい。
「こ、こっの〜〜っ!! 私達を一体誰だと思っているのよ〜〜っ!!」
エクレアは瞬時に、自身の周りに黒い鋼鉄製の扇子を数十枚召喚する。
そしてそれらの扇子を高速回転させて、自分の周りに防御結界を展開した。
「イェイ、イエイ、イェイ〜〜っ!! 何者か知らないけど、この女神教序列7位の魔女の私に挑むなんて、数百年早いわ〜っ! さあ、こっちからも反撃をしてやるわよっ!」
敵の首を瞬時に切り落とす事の出来る、鋼鉄製の黒い扇子に身を守られ。
魔女のエクレアは、自身の身に迫ってくる三色団子の槍を防ごうとしたその時……。
「――えっ……!?」
”スドドドーーーーーーン!!”
鋼鉄製の黒い扇子に着弾した、無数の三色団子の槍は――竹串に刺さっているカラフルな団子部分が順番に大爆発を引き起こし。
鋼鉄の扇子と、それを操る黒髪の魔女のエクレア本体を遥か遠くの空にまで吹き飛ばしてしまう。
「キャアァァーーっ!! オペラお姉様ーーっ!!」
「は〜〜い! 不審な訪問販売員1人目を撃退してみせますよ〜! 必殺、三色団子ホームランなのです〜☆」
カキーーーーン!!
小気味良い、金属音を立てて。
爆風で空に飛ばされた魔女のエクレアを、空中で待ち構えていたパティが、思いっきり三色団子の槍をフルスイングして。
場外越えのナイス☆ホームランを打ち上げてみせた。
キラリと虹色の光を放ち。遥か遠くの空にまで打ち飛ばされたエクレアは、そのまま大空を彩る無数の星の1つとなり。
元の森に戻ってくる事は、決して無かったという。
「さぁ〜、さぁ〜、まだ、もう1人不審者は残っていましたよね〜! パティはコンビニスイーツ教に既に入信しているので、怪しげな宗教勧誘は全てお断りさせて頂きま〜〜す☆」
魔女のエクレアを、空に輝く星に変えたチョコミントの騎士は、再び高速移動を開始する。
そして今度は、もう1人の魔女である長身銀髪のオペラの元に突進をかけていった。
「クッ……! 面妖な姿をした、バケモノめッ!」
オペラは銀色の長槍で、突進してくるチョコミント色の騎士目掛けて高速の槍攻撃を繰り出す。
だが、それらの槍の攻撃は全て正面に対峙するパティが持つ、『苺大福の盾』によって防がれてしまう。
逆に自称『コンビニスイーツの神☆』であるパティは、槍使いである魔女のオペラを上回る速度で、三色団子の槍をこちらに向けて高速で繰り出してきた。
これにはたまらず、オペラは大地を思いっきり蹴り飛ばし。いったんチョコミント色の騎士から距離をとって、態勢を整える事にする。
「ふふ〜〜ん、逃しはしませんよ〜! コンビニに近づく不審者は全て始末してやるのです! さあ、お腹いっぱいに喰らいなさい! 必殺、追撃の『クラシックプリン【超固め】』〜☆」
パティがそう叫ぶと、今度はカチッカチに固まった『超巨大プリン』が空から連続で落ちてきた。
コンクリートほどの硬さと強度を持った超巨大プリンが、連続で何個も何個も銀髪の魔女オペラの頭上に降り注いでくる。
”ズドーーーーーーン!!”
”ズドーーーーーーン!!”
”ズドーーーーーーン!!”
これには、流石のオペラも手の打ちようがない。
例え全力で落下してくる巨大プリンを槍で迎撃しようとしても……。逆にオペラの持つ長槍の方が巨大プリンの重量に耐えられず、折れて破壊されてしまうだろう。
空から降り注ぐ、巨大プリンを回避しつつ。
高速移動で森の中を逃走していたオペラの正面に――いつの間にかに、チョコミントカラーの騎士が待ち受けていた。
「なっ……!? まさか、この私よりも素早く移動をして、先回りをしていたというのか? 貴様は一体、何者なのだ……!?」
「ハ〜〜イ☆ ではでは、本日2度目のホームランをかっ飛ばしますよ〜〜! さあ、あなたも大空に煌めく、お星様の一つにな〜〜れ!☆」
”カキーーーーーーン!!”
パティが右手に持つ三色団子の槍を、銀髪の魔女の体に向けてフルスイングする。
すると――目にも止まらぬ速さで。
エクレアに続いて、女神教序列5位の魔女であるオペラまでもが、遥か遠くの空に弾き飛ばされていく。
自称コンビニスイーツの神☆の手によって、一瞬にしてオペラも、大空に煌めく星の一つにされてしまったのであった。
「ふぅ〜〜! 労働は本当に疲れますぅ〜〜。せっかく前回の戦いの後から、少しずつ貯めていたチョコミントパワーをまた全て使い切ってしまったのです〜。さあ、早くコンビニに戻ってグダグダまったりタイムを過ごす事にしましょう〜☆」
食後の後に軽いジョギングをして。
爽やかな汗をかいた直後のような顔をして、パティはククリアの待つコンビニの隠されている大地のそばに向かって歩いて行く。
そんなパティの歩く、森の地面には……。
突如として、謎の大きな振動が起き始めていた。
”――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――”
これは、もしかして『地震』なのだろうか?
いや、それにしては揺れ方があまりにも限定され過ぎている。まるでパティの立つ大地の下の方で、何か大きな地割れが起きているかのように。激しい振動音が、地中の奥深くから聞こえてきていた。
「むむぅ〜〜? この揺れは、もしかして……」
パティは思わず、自身の周辺の光景を見渡してみる。
そこには先ほど、自分が空から大量に落とした『超巨大プリン』が山のように積み重なり地面にめり込んでいた。
も、もしや……この巨大プリンの直撃を受けて。
大地の中にある地層がその重みに耐えられず、内部で大きな地崩れを引き起こしたのではないだろうか?
元々、この辺りには地中奥深くにまで繋がっている迷路のような『洞窟』が存在していた。だから決して地層が頑丈という訳では無い。
それなのに、誰かが後先を何も考えずに。
バカみたいメガトン級の重量がある、超巨大プリンを合計で10個も連続で落としたものだから……。地底にあった巨大迷路のような洞窟が、一気に地盤崩壊してしまったのではないだろうか?
そしてその地底深くに繋がった洞窟の中には――現在、パティの主人である『コンビニの勇者一行』が探索をしている最中だった。
「はわわわ………! パ、パティは何も知らないのですぅ〜〜! コンビニに接近してきた不審者を撃退しただけなので、後の事はな〜〜んにも、知らないのですぅ〜〜! そ、それにきっとコンビニマスター☆様は万能なので、これくらい地面が揺れていても、きっと、平気だと思うのですぅ〜〜(汗)」
地崩れを起こした責任を、完全に放棄したパティは……。慌てふためいて、安全なコンビニの中へと一目散に逃げ帰っていく。
だが、コンビニスイーツの神であるパティが、ククリアの待つコンビニの中へと帰還を果たした後も。
大地の下にある洞窟の内部から聞こえてくる大きな地響きの音は、決して止まる事なく。洞窟内部を崩壊させるように、激しく揺れ続けていたのであった。