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第三百六十二話 初めてのダンジョン攻略


「……なあ、フィート。俺達が今から向かう西の洞窟って、本当に『地底竜(ちていりゅう)』とやらがいるのかな?」



 コンビニ戦車に乗ってカラム城を出発してから、約2日が経過した。


 俺達コンビニメンバーは、まったりと快適なエアコン完備のコンビニの中でくつろぎつつ。

 順調に今回の旅の目的地である『地底竜が住まうという西の洞窟』へと向かっている。



「んにゃ〜? 大好きお兄さん何を言ってるのにゃ? 地底竜なんてホントにいる訳がないのにゃ〜。その洞窟は地底から竜の唸り声みたいな音が聞こえてくるから、そう呼ばれているだけなのにゃ〜。実際は地底の底を吹く風が、岩壁の隙間に流れ込んだ時に聞こえる音が、竜の鳴き声に似ているだけなのにゃ〜」


「なーんだ、そうなのか……って、フィート? お前、その洞窟の事を詳しく知っているのかよ?」



 ここぞとばかりにドヤ顔で、胸と猫耳をピーンと張るもふもふ娘に俺は問いかけてみる。


「まぁ、実際に行った事は無いけどにゃ〜。(うわさ)程度には聞いた事があるのにゃ〜。これでもあたいは、帝国領を(また)にかけて活躍してきた、元大盗賊団の首領(ドン)のフィート様なんだからにゃ〜!」


 なるほど、なるほど。

 帝国の地理に詳しいフィートも、噂程度にはその『地底竜が住まうという洞窟』の事を聞いていたらしい。

 

 何でもフィートの話によると、その洞窟は地底の奥深くにまで繋がっていて。まだ誰も、洞窟の最深部にまで潜った人はいないとの事だ。


 

 一部のトレジャーハンター達には、洞窟の地底には『古代のお宝』がワンサカと眠っているんじゃないか……という噂もあったらしい。


 ああ、そうか。それで元盗賊団の首領のフィートも、その洞窟の話には興味があったという訳なのか。まあ、今では野良のボス猫扱いだったフィートも、すっかりコンビニ猫になって、快適なエアコンの下でくつろいで丸くなってるけどな。



 何だかそういう話を聞くと、やっぱり……今回の旅って、ちょっとしたダンジョンクエストみたいだよな。


 俺、みんなには絶対に言えないけど。

 実はちょっとだけ、今回の洞窟探索が楽しみでワクワクしているんだ。


 だって、そうじゃないか。

 異世界に召喚されて、今までそういうダンジョン探索系のクエストは、俺はまだ一度も経験した事が無かったからな。



 やっぱり、洞窟の中の通路って狭いのかな〜?


 いつものノリなら、お腹が空いた時には『ハイ、出でよ、コンビニ〜〜!』で、すぐにコンビニを出せば、無限に食料も水も確保出来たけど。


 狭いダンジョン内とか、洞窟の通路内じゃ、現実的に考えて巨大なコンビニは出せないかもしれないよな。

 もしも無理やりコンビニを洞窟内に召喚したら、狭い通路が壊れて、生き埋めになっちゃう可能性だってあり得そうだ。



 ――って事は、限られた食料や物資をリュックに詰め込んで。


 水も水筒で持参して、地底探検をするような、まさに異世界物語に定番のダンジョンクエストが今から行えるって事なのかよ……。

 くぅ〜、何だよッ! この手に汗握る、燃えるような激熱展開はよッ!!



「あ、あの……彼方様? さっきからリュックに鮭おにぎりをたくさん詰め込んでいるようですが、一体何をされているのですか?」


「よくぞ聞いてくれた、ティーナ! 俺達は今からダンジョンクエストを行うんだ。そこでは、もしかしたら通路が狭くてコンビニを自由に外に出せない可能性がある。つまり、あらかじめ持参した食料だけで探検をしないといけないんだ!」



 右手を振るい上げて、ダンジョンクエスト攻略の極意を熱くティーナに語る俺。


 いやさ、ありがたい事にコンビニのおかげで、今まで一度も食料や住居の心配をする事は無かったけどさ。

 今回は初めて、コンビニが自由に出せない可能性がある環境下での探検になるかもしれないんだ。だから、あらかじめ何を持っていくべきなのか。それをちゃんと吟味して、装備を整える必要があるって訳なんだ。



 俺の熱いダンジョン攻略の極意を、ティーナは最後まで、うん、うんと頷きながら真剣に聞いてくれた。

 そして目を輝かせながら、俺と同じように急いで身支度(みじたく)を始める。


「――分かりました、彼方様! では、ダンジョン攻略の為に必要な物を、急いでコンビニの倉庫で用意する事にしましょう!」


「ありがとう、ティーナ。必要な物資は追加で発注しても良いからな。食料、水に、携帯用のテント。それに懐中電灯や、電池なんかも沢山持っていった方が良いかもしれないな」



 今まで移動式の巨大物量保管庫でもあった『コンビニ』のおかげで、何一つ物資を整えるという異世界系のダンジョンイベントをこなしてこなかった俺。


 だけど、今回ばかりはそうも言ってられないかもしれない。コンビニから何を持参して、何を探索に持っていくべきなのかをティーナと一緒に、しっかりと品定めするべきだろう。



「よーし、そうと決まれば、早速倉庫に向かう事にするぞ、ティーナ!」


「ハイ、彼方様! 私もお供致します!」



 俺とティーナは、意気揚々と手を繋ぎながらコンビニの倉庫へと向かう。



 そして、事務所で発注をした商品が溢れかえっているコンビニの倉庫に入ると――。


 そこで……とんでもない光景が、俺達の目には飛び込んできた。



「ダラダラダラ〜〜ん!」


「グデグデグデ〜〜ん!」


 長い茶色の髪の毛を、ポニーテールにしている玉木と。

 同じく長いチョコミント色の髪を、ポニーテールにしてまとめているパティの『ツイン・ポニーテールズ』の2人が、共に床に敷いた布団の上で寝そべって。コンビニの倉庫で、グダグダと過ごしていた。


 その様子はまるで、冬の寒い日に。暖かい床暖房の上で溶けている家猫達のようにも見えるな。


 2人は快適なエアコンをフル稼働させて、コンビニ倉庫の床に勝手に布団を敷き。体を大きく上下に伸ばしながら、気持ち良さそうに寝そべっている。



「……おい、そこで何をしてるんだ? 玉木、パティ!」


「う〜ん、あっ、彼方く〜〜ん! 良かったら彼方くんもここで一緒に休んでいこうよ〜! 昆布おにぎりも沢山置いてあるし、コーラもあるし、本当にコンビニの倉庫はこの世の楽園みたいに快適なんだよ〜!」


「――コンビニマスター様! おはパティ☆です! ここはチョコミント商品が沢山保管されていて、まさに天国のような場所ですね! パティめは、今後はこの中でずっと内職をして働きたいと思いますので、ぜひ名誉倉庫警備員の仕事をお与え下さい〜☆」



「はぁ〜〜……」


 懸念していた恐るべき事態が、見事に悪い意味での化学連鎖反応を起こしてしまったようだな。



 呆然とする俺の目の前で、コンビニの倉庫に住み着いた2人の『妖怪』達は呑気(のんき)な顔をして。布団の上で、足をバタバタしながらくつろいでいた。


 一人は昆布おにぎり食べながら、コーラを片手にグビグビと飲み。


 もう一人は、大量のチョコミント食品を寝ながら口の中に頬張り続けている。



 まあ、この2人には似たような『ぐうたら属性』を感じていたから。もし2人を会わせたら、こうなるんじゃないかと薄々心配はしていたんだけど。やっぱり、こうなってしまったか……。


 ちなみに、コンビニのトイレにずっと引き篭もり。トイレの花子さん状態になっていた自称『コンビニスイーツ☆の神』のパティは、いつの間にかトイレから外に脱走していた。


 コンビニの地下シェルターの中にも、トイレはあるけれど。流石にメインのトイレが、ずっとパティに占拠され続けているのは不便だからな。


 俺は思いっきりトイレのドアを叩いて。中にいるパティを外に引っ張り出そうと、無理やりドアをこじ開けたら……トイレの中には既に誰も居なかった。


 パティは体を緑色のスライムのような液体状に変化させて、トイレの配管から外に抜け出たらしい。マジで器用な奴だよな。そういえば、魔王軍の緑魔龍侯爵(グリーン・ナイトメア)も似たような能力を持っていた気がするけど。緑色の守護者ってのはみんな、こんなにも曲者(くせもの)揃いなのだろうか。



 トイレから脱走したパティは、いつの間にかにコンビニの倉庫に侵入を果たしていて。今度は倉庫の中に置いてあるチョコミント商品を食い漁ってた。


 それから、パティは倉庫に入り浸り。ひたすらチョコミントを食べ続けて、満腹になると布団で寝るを繰り返す、妖怪『食っちゃ()』へと華麗な進化を遂げている。



 そして現在では、合計で2匹の妖怪『ツイン・ポニーテールズ』が、このコンビニの倉庫に住み着いているという訳だった。



「あれ〜、大好きお兄さんどうしたのにゃ〜? まさか大好きお兄さんも、倉庫のサバ缶をこっそりとゲット☆しにきたのかにゃ? ダメなのにゃ〜! ここにあるサバ缶は全部あたいのモノなのにゃ〜!」



 ――訂正。


 コンビニ倉庫の中には、妖怪は3匹いたらしい。



 ツイン・ポニーテールズに混じって。サバ缶大好き、妖怪もふもふ猫もコンビニの倉庫に入り込んでいた。



「ハァ〜〜。お前達も西の洞窟に着く前に、ちゃんと準備をしといてくれよな! 狭い洞窟の中だとコンビニを自由に外に出せない可能性がある。だから今回はリュックの中に必要な物資を詰め込んで、洞窟探索の(そな)えを事前にしておく必要があるからな!」


「ええっ〜〜!? コンビニが自由に出せないって事は、探索中はこの倉庫の中にも入れないって事なの〜、彼方くん!?」



 玉木とパティとフィートの3人が、共にこの世の終わりのような絶望の表情を浮かべている。


「ああ、そうだ。そろそろ、西の洞窟に辿り着きそうだし。みんなもそれぞれ必要なモノを、ちゃんとリュックに詰めて荷造りをしておくんだぞ!」



 俺の言葉を聞いた、コンビニ倉庫に立て篭もる3匹の妖怪達は……全員が両目を見開きながら、お互いの顔を見合わると。

 慌ててそれぞれのリュックの中に、自分が最も必要と思う物資を詰め込み始めた。



 ちなみに俺は一応、物資の用意を終えたそれぞれのメンバー達のリュックの中身を、出発前にチェックしておく事にした。



 まずは、ティーナのリュックの中身からだな。



『BLTサンドイッチ ミルクティー 美味しい水 

 A4ノート ボールペン 食パン チョコレート 

 缶詰 カセットガスコンロ ガス缶 フライパン 

 オリーブオイル 絆創膏 女性用下着 生理用品』



 ちなみに――俺はというと。



『鮭おにぎり 美味しい水 テント 懐中電灯

 ナイフ 電動シェーバー 電動歯ブラシ 

 音楽プレイヤー タオル ライター スニーカー 

 ランタン 割り箸 お皿 塩 砂糖 醤油

 バター 各種カップ麺』



 次は――玉木。



『昆布おにぎり×20個 コーラ 

 チーズハンバーグ弁当 焼肉弁当 

 メロンパン ポテトフライ 焼きそばパン

 あんパン チーズケーキ』



 その次は――フィート。



『サバ缶×50個 お寿司 刺身

 牛乳 コーヒー牛乳

 異世界の雑誌 異世界の漫画

 枕 布団』



 そして最後に――パティ。



『チョコミントジュース チョコミント蒸しケーキ

 チョコミント味おにぎり チョコミントパスタ

 チョコミントアイス チョコミント色テント

 チョコミント布団 チョコミント枕』




 ――と、いう感じだった。



 もちろんティーナ以外は、余裕で却下だけどな。



「はい、ダメーーーっ!! 玉木、フィート、パティの3人は、一から準備やり直しーーっ!」


「ええ〜〜っ、何でよ〜、彼方くん〜!」


「理不尽なのにゃ〜! あたい達は、一番大切だと思う物をリュックの中に詰め込んだだけなのにゃ〜!」


 ジト目で、こっちを睨んでくるコンビニ倉庫に住まうの3匹の妖怪達。俺はやれやれと肩をすくめて、食い意地の張った妖怪達に注意をする。


「あのなぁ〜、何でリュックいっぱいに自分達の好物の昆布おにぎりだったり、サバ缶を詰め込んでるんだよ! パティに至っては、チョコミントアイスまで中に入れて、そんなの絶対に途中で溶けるに決まってるじゃないか!」



 『ぶーぶー』と、まだ文句を言ってくるコンビニに生息する妖怪達を無視して。


 俺はティーナ以外の全員に、ダンジョン探索の荷造りを最初からやり直させる事にした。



 その様子を最後まで見届けた後で、俺は地下シェルターにいるククリアにも声を掛ける事にする。

 ククリアは地下シェルターの中で、まだ目覚めない冬馬このはの看病をずっとしてくれていた。



「……コンビニの勇者殿。ボクはこのままコンビニに残って、地下シェルターの中でこのは様の様子を見守る事にします。ですので、今回の洞窟探索は参加する事が出来ません。本当に申し訳ありません……」



 ククリアが俺に対して申し訳なさそうに、頭を下げてそう告げてきた。


「いやいや、それは仕方ないさ。むしろ冬馬このはの事をよろしく頼むよ。俺達の未来にとって、冬馬このはの存在は本当に重要で大切だからな」



 女神の泉に(つか)かった事で、目覚めの兆候が起き始めている動物園の魔王、冬馬このはを近くで見守る為。

 今回は、ククリアだけはコンビニの中に残り。みんなの帰りを待つ留守番役をする事になった。


 何か洞窟の中に観光客用の売店でもあるのなら、ククリアにもお土産を買って帰りたいくらいなんだけど。まあ、それは多分無理だろうな……。


「……それと、コンビニの勇者殿? 何やらリュックの中に洞窟探索用の物資を詰め込んでいるみたいですが、おそらくそこまで念入りな準備をしなくても良いのではないかと、ボクは思いますよ」


「えっ、そ、そうなの? だって今回は、コンビニ史上、初めて挑むダンジョンクエストなんだし。ちゃんと念入りな準備はしていった方が良いのかな、って思ったんだけど……」


 ククリアは驚く俺の顔を見て。小さな口を手で押さえて、クスクスと可愛く笑ってみせた。


「コンビニの勇者殿、確かにこれからボク達が目指す洞窟は道が狭く、ダンジョンのように入り組んだ場所になっているかもしれません。そこでは、もしかしたらコンビニを自由に外に出せない可能性もあるでしょう」


「……うん、だからこうして事前準備をしておこうと思ったんだけど、何かおかしかったかな?」



 ククリアが笑っていたので、俺は思わずその事が気になってしまった。


「ハイ。まず、例え通路が狭い洞窟だとしても、洞窟のどこかに少しでも開けた場所があれば、そこにコンビニを出す事も出来ると思います。何より事前にコンビニで機械兵のコンビニガード達を大量発注して、荷物係として一緒に連れて行く事だって出来るではないですか」


「……そっか、その手があったか! 何も俺達だけで全ての荷物を持っていく必要はないって事なのか」



 ククリアの言葉に、思わず納得してしまう俺。


 ついつい初めてのダンジョンクエストに興奮をして。俺は異世界物語での、お決まりパターンで行動をしようとしてしまったけど。


 俺のコンビニは荷物持ちとして、コンビニガード達を無限に連れて行く事も出来るし。それに洞窟といっても、まあ……流石にどこかには、コンビニが出せるくらいのスペースはあるかもしれない。


 正直に言って、存在がチート過ぎるコンビニを持つ俺は、それを工夫して活用する思考が完全に抜け落ちてしまっていたような気がする。


「……ふふふ。でも、用心する事に越した事はありません。もしかしたら、ボク達が想定もしないような思わぬ敵が出現したり。洞窟の後ろからつけてくる……なんて事もあり得るかもしれませんからね!」



 珍しくククリアが、俺を揶揄(からか)うようにしてクスクスと笑ってくる。


 きっと本当はククリアも、一緒にダンジョン攻略に行きたかったんだろうなと思った。

 今回は残念だけど、自分一緒に行けない分。俺達には十分に安全を確保しつつ、洞窟探索の冒険を楽しんできて欲しいと願っているのだろう。



「――分かった、ククリア。本当にありがとう! もう一度、洞窟探検の装備をみんなと見直してみる事にするよ。ククリアは今回、コンビニでお留守番になってしまうけど、必ず大きな『お宝』をゲットして戻ってくるから、楽しみに待っててくれよな!」


「ハイ。ボクは首を長ーくして、コンビニの中でお待ちしていますね、コンビニの勇者殿。お帰りの時にはもう、このは様が目を覚ましているかもしれませんので、ぜひそちらも心待ちにして下さいね!」



 俺とククリアが楽しく会話をしている間にも。


 自動運転にしていたコンビニ戦車は――とうとう、目的の『地底竜が住まうという西の洞窟』に到着を果たしたらしい。



 俺にとっては、今回は異世界で初めてとなるダンジョン(洞窟)探索だ。


 準備もちゃんとして、しっかりと物資も整えつつ。

 コウペイがくれたこの赤い鍵を使って、お目当ての『宝物』を必ずゲットしてこようと思う。


 洞窟の中に眠っているお宝が、この世界を恐怖に陥れる北の禁断の地の勢力や、グランデイル王国。そして女神教の魔女達にも対抗出来るような、伝説のアイテムである事を心の底から願わせて貰う事にするぜ!




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ふぅ……。どうやら、帝都は無事に落ち着きを取り戻したみたいね」


 

 皇帝ミズガルドはグレイナゲット宮殿の最上階にある寝室の窓から、復興の始まった帝都の様子を1人で見回していた。



 帝都に帰還を果たしたミズガルドは、帝都の民衆から熱烈な歓迎を受け。今や帝都ロストテリアは、かつての勢いと栄華を完全に取り戻しつつある。

 

 帝都を占領していたグランデイル王国軍は、1人残らず帝都から消え去っていた。

 それがあのクルセイスによる指示なのかどうかは、まだ分からない。



 だが、もしそうだとしたら……。

 それは一体、どういう理由からなのだろう?



 迷いの森の中で虚無の魔王のカステリナにより、グランデイル王国が誇る主力の『白アリ魔法戦士(ホワイト・アンツ)』部隊が、全滅させられてしまったからだろうか?



 例えそうだとしても、迷いの森には女王のクルセイスと、薔薇の騎士のロジエッタも残っていたはずだ。


 あの2人が無事に、迷いの森から脱出をしていたとしても。帝国領に進行していたグランデイル軍全てに対して、すぐにグランデイル本国への帰還命令を出すのは困難な気がする。



 という事は、もしかしたら……。


 女王クルセイスよりも上位を(つかさど)る存在。すなわちグランデイル城の地下に住まうという、『白アリの女王』が直接指示を出してきた――なんて事があり得るのだろうか。


 もしそうなら、それはとうとう敵の親玉が表舞台に出てきたという事になる。


 まだ女神教や、北のコンビニの大魔王の勢力と。多くの不穏な敵の脅威が消えていない、この世界にとって。

 クルセイスを陰から操る、グランデイル王国の真の支配者が地下から動き出した……という予想は、帝国を()べる皇帝ミズガルドにとっては、不安な要素でしかない事は間違いなかった。



「――彼方(かなた)。ちゃんと無事でいてくれてると良いのだけど……」



「………ほう。皇帝陛下はどうやら、コンビニの勇者の行方(ゆくえ)を知っているという訳なのですね………」



「―――!?」


 ミズガルドは慌てて後方を振り返る。


 この寝室には、さっきまで自分以外の誰も存在していなかったはず。

 それなのに、黒いローブに全身をまとった女性が……いつの間にかに室内に侵入し。寝室の中央に置かれていた長椅子の上に、静かに腰掛けていたのだ。



「お前は、女神教の枢機卿(すうききょう)!? なぜ、お前がここにいるのだ………グッ!?」



 皇帝ミズガルドの体は、寝室の床に強制的に押さえつけられてしまう。


 彼女の左右には、長い銀色の槍をもった銀髪の女性と。黒い扇子を片手に持った、黒髪の女性が立ち。

 それぞれがミスガルドの体を、左右から完全に床に押さえつけていた。



 ミズガルドは、寝室に侵入したその者達が一体何者なのかを……瞬時に理解する事が出来た。


 この女性達が発する禍々(まがまが)しいオーラは、迷いの森で出会った薔薇の魔女のロジエッタと、同じ匂いを感じたからだ。



 そう、ここにいる2人の女は……女神教の幹部である『不老の魔女』達に違いなかった。



 そして、ミズガルドの目の前で長椅子に静かに腰掛けているのは……。その不老の魔女達を()べる存在。

 現在の女神教の最高指導者であり、ミズガルドも幼い頃からその存在をよく知っている……5000年前にこの世界に召喚された暗殺者(アサシン)の勇者、枢機卿(すうききょう)なのだ。



「………さあ、皇帝陛下。私達にぜひ、コンビニの勇者が今、どこにいるのかを教えて頂けないでしょうか?」


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外れスキルコンビニ
外れスキルコンビニ、コミック第1巻、2巻発売中です☆ ぜひお読み頂けると嬉しいです!
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[気になる点] またコンビニの勇者の女神である朝霧さんの出番の予感? コンビニの勇者は女神の泉であったこと忘れてもうのんびりしてる感じが…( ;∀;) 枢機卿はクルセイスの前に現れた時以来久しぶりに転…
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