第三百六十一話 枢機卿の追跡
戻ってきたカラム城には、帝国全土から皇帝ミスガルドに忠誠を誓う為に駆けつけた10万人を超える騎士達が、正門前に大集結を果たしていた。
もちろん、城主であるカラムさんも無事に帰還を果たしている。
夜月皇帝の死は、まだ公式に帝国全土に知れ渡った訳では無かったのだが……。
カラムさんがライオン兵による暗殺者の脅威は消え去ったという情報を広めてくれたおかげで、帝国にいる貴族達は一斉に、皇帝ミズガルドに味方をする事を決めたらしい。
そして、グランデイル王国との戦いに対しても日和見を決め込んでいた帝国貴族達が今回、一斉にミズガルドの元に集ったのには訳があった。
それは現在――帝国領へ侵攻中だったグランデイル南進軍が各地で総撤退を開始し。帝都ロストテリアも既に敵の手から解放され、帝都の人々は皇帝陛下の帰還を待ち望んでいるという情報が伝わってきたからだ。
俺達が、迷いの森からカラム城に戻るまでの間に。
帝国領にいたグランデイル軍は全て本国に撤退し、領土内の戦乱は完全に収まっていた。それにより、戦争で混乱に陥っていた帝国の人々は、再び皇帝ミズガルドの旗印の元に再集結を果たそうとしていたようだ。
「――皇帝陛下、我らは陛下のお帰りを首を長くしてお待ちしておりました!」
城に集結した10万人を超える帝国騎士達を代表して。城主のカラムさんが片膝を地面について、ミズガルドに対して深々と頭を下げて敬礼する。
部下の騎士達からの報告を聞き、現在の帝国の状況を理解したミズガルドは、整列した10万人を超える赤い鎧の騎士達に向けて大声で呼びかけた。
「――皆の者、ご苦労であった! 我はバーディア帝国正統皇帝のミズガルドである。帝国を陰から操っていた我が祖父、夜月皇帝ミュラハイトは既に死亡した。今後は我がこの帝国を再び統治し、必ずや栄光あるバーディア帝国を再建してみせよう! これから皆の力を我に貸して貰うぞ、良いなッ!!」
『『ハハーーーーーーーッ!!!』』
コンビニから外に降りたったミズガルドが大きく手を振ると。整列する凄まじい数の騎士達から、地面が振動する程の熱狂的な大歓声が巻き起こった。
『『皇帝陛下、万歳ーーーッ!!』』
『『ミズガルド陛下、万歳ーーーッ!!』』
ふぅ……。どうやらこれでバーディア帝国での動乱は、一段落の区切りを迎えたという事になりそうだな。
元々、地上最強の武力を所持していると噂されていたバーディア帝国だ。
それが侵攻してきたグランデイル南進軍に押されて、帝都の占領まで許してしまったのは……夜月皇帝の暗躍の件もあり。皇帝ミズガルドの元に、帝国貴族達が一枚岩となって集結を果たせずにいたからだ。
だが、帝都ロストテリアからグランデイル軍が総撤退を開始した事を知り。ようやく今まで日和見を決め込んでいた帝国領内の全ての貴族達が、ミスガルドの元に集まってきたという事らしい。
まあ、全てが終わった後に……都合よく『勝ち馬』に乗りにきたような感じもして。俺なんかは何だか、ここにいる帝国の貴族連中は、虫がいいような気もしてしまうけどな。
それでも……実力のあるミズガルドなら、そういった頼りなくてズル賢い帝国貴族達の手綱もちゃんと操り。これから立派に、帝国の政治運営をしていけるのだろうと思う。
皇帝に忠誠を誓う為に、次々とミズガルドの元に集まってきていた大勢の帝国貴族達の中に。
杖をついた白髪の老人が一人だけいて、その人物はミズガルドの元にゆっくりと近寄ってきた。
「皇帝陛下、ご無事で何よりでございます……」
「おお、そなたはピクルスではないか!? 帝都で生き別れて以来だな、生きておったのか!」
ミズガルドは、白髪頭の年配の重臣がこの場にいた事に驚き。急いで、その人物の手を取った。
「はっはっはっ! 老体ですが、まだ何とか生きながらえております。幸いグランデイル軍に投獄された帝都の牢屋での生活は、そんなに長くはなかったですからな」
笑顔を見せる年配の重臣の体を、愛おしそうに抱きしめ。ミズガルドはコンビニの近くにいる俺の方を見つめて、こちらに来て欲しいと手招きで合図を送ってきた。
「――彼方、この人よ! 彼は帝国皇室に仕える最古参の重臣で、帝国の古い歴史や、古文書、紋章関連などにもすっごく詳しいの!」
笑顔で俺の手を取り。自分の配下のピクルスさんを紹介してくれたミズガルドは、本当子供のように嬉しそうな表情をしていた。
きっと自分の大切な重臣が生きていた事の喜びと、俺が今一番関心を持つ、コウペイに貰った古い鍵の、謎解きの役に立てるかもしれない事が心底嬉しいのだろう。
帝国の中でも最古参の重臣であるピクルスさんに、俺は不老カエルのコウペイから貰った『赤く錆びた鍵』を見せる事にした。
すると――白髪のピクルスさんは、両目を細めて年代物の古鍵を見つめると。
「うーむ、これは帝国領の西にある『地底竜が住むと噂されている洞窟』の入り口に刻まれた紋章と同じ形をしておりますな……。おそらくその洞窟に、何かしらの関係がある鍵なのでしょう」
「えっ、この鍵に刻まれた紋章の事が分かるんですか!?」
俺が思わず驚きの声をあげると。
自分の大切な重臣が、コンビニの勇者の役に立てた事が嬉しいミズガルドは、人目も気にせずに『良かったね、彼方!』と俺の体を全身で抱きしめてくれた。
皇帝陛下のそんな一面を見た側近の帝国貴族達が、その場でザワザワと動揺し始める。
そして皇帝に抱きしめられている俺の事を、明らかに奇異な目で見つめてきていた。
……ええっと、ミズガルドさん?
流石にそんなに全力で俺を抱きしめたりしたら、帝国貴族達に示しがつかなくなるんじゃないかな?
あと、俺の後方に待機している、ティーナさんが怖い目でこちらを見ているような気もするから。そろそろ俺の体を解放して頂けると……って、アレ?
ティーナだけじゃないぞ!
玉木もフィートも、そしてなぜかククリアまでこちらを、“ジーーッ“と無言で睨んでいるような気がする。
「……そ、その地底竜が住むという噂の西の洞窟は、ここからどれくらいの距離にあるんですかね、ピクルスさん?」
俺は慌てて、話を進める事にした。
帝国の重臣であるピクルスさんの話によると、その洞窟はこのカラム城から、西におおよそ馬で2〜3日程かかる距離の場所にあるそうだ。
ミスガルドも小さな頃に一度だけ、その洞窟にピクルスさんと一緒に訪れた事があったらしい。だから、おぼろげに鍵に刻まれていた紋章に心当たりがあった訳か。
改めて帝国領全体の地図も見せて貰うと、その洞窟までの道のりは、確かにここからそんなに距離も離れていないようだった。
あのコウペイが、わざわざ俺にくれたものだ。
この古い鍵はきっと、女神アスティアの伝説に関連する何かなのは間違いない。
どちらにしても、俺達が帝国領に来る時に使用したアパッチヘリを隠した場所に向かう途中に、その洞窟はあるみたいだし。帰りがけに、そこに寄ってみるのも良いだろう。
もしかしたら、この鍵が……。この世界の法則を捻じ曲げるくらいの『究極のお宝』が眠っている宝箱の鍵なんて事も、あり得るかもしれないしな。
「よーし、帰りがけにその西の洞窟とやらに寄ってみるか!」
俺は洞窟に向かう為の詳細な地図を、ピクルスさんに書いて貰う事にした。
正確な場所さえ分かれば、コンビニに乗って俺達コンビニメンバーだけで、そこに向かう事も出来るはずだ。
カラム城で帝国の貴族達と合流を果たしたミズガルドは、いったん帝都ロストテリアに戻る事になった。
グランデイル軍が撤退したとはいえ、帝都はまだまだ混乱しているだろうからな。長い間、皇帝不在だった帝都の住民達も、きっと不安に思っているはずだ。
だから、ミズガルドが帝都に戻るという選択を取るのは仕方のない事だと思う。
「それじゃあ……しばらくの間はお別れだね、彼方」
臣下のカラムさんや、ピクルスさん達を引き連れて。
颯爽と白馬にまたがったミズガルドが、俺に別れの握手を求めてきた。
「ああ、本当に助かったよ、ミズガルド。俺の事を何度も助けてくれて、ありがとうな!」
「帝国はコンビニ勇者の彼方と、永久同盟を結ばせて貰う事にするわ。私は彼方が生きている限り、あなたの剣となり、その身を守りぬく事を誓わせて貰うから」
「俺も帝国がピンチの時には、必ずミズガルドを助けに行く事を約束するよ!」
「ふふ。ありがとう! この世界が平和になったら、その時はいつでも私を頼ってね。彼方の治める国にとって、政治的に邪魔な国や嫌いな王族がいたら、私に教えてくれれば、すぐにその国を制圧しといてあげるから」
ニッコリと微笑みながら、爆弾発言を連発する赤髪の美しい皇帝陛下。
その近くにカラムさんや、ピクルスさん以外の帝国貴族達がいなくて本当に良かったと思う。
「う、嬉しいけど……それは、ほどほどにしておく事にするよ。今後はコンビニ共和国と帝国との通商も盛んになると思うし、世界中の国とも仲良くやっていけたら良いなって思うしな」
「うん、分かったわ。ちゃんと、帝国にも遊びに来てね。約束だよ、彼方!」
俺は笑顔で、ミズガルドの再度固い握手を交わす。
「ああ、絶対に行くよ。それも割とすぐに遊びに行くと思う。それまで元気でな、ミズガルド!」
ちょうど俺が、皇帝ミズガルドと別れの挨拶をした直後に……。突然、後方から思いがけない人物が俺に声を掛けてきた。
振り返ると、その声の主は――何と香苗美花だった。
「待って、彼方くん! 私、実はお願いがあるの!」
「えっ、どうしたんだよ……香苗?」
慌てて声をかけてきた、『回復術師』の香苗の話をよく聞いてみると。
予想外な事に、香苗はミズガルドと一緒に帝都ロストテリアに向かいたいという。
その理由は、グランデイル軍との戦争で荒廃した帝都には、多くの負傷者や怪我人がいるだろうから、その治療を行いたい。
それは『回復術師としての、私の役目だから!』との事だった。
「いや……でも、本当に大丈夫なのか? 見知らぬ街にたった1人で行って、そこで人々の治療をするなんて」
「私は、私の能力を必要としている人達が多くいる所に行きたいだけだから、大丈夫よ! それに帝国にはまだコンビニの救援物資は何も行き届いていないのでしょう? 私が行けば、きっと多くの人に役に立てるはずだから、コンビニ共和国の評判を上げる事にも貢献出来ると思うの」
心配そうに香苗の事を見つめる、俺の目線とは対照的に。香苗はやる気に満ちた顔色で、使命感に燃えている雰囲気を全身から醸し出していた。
うーん、香苗の両親は2人とも医療関係者だったらしいけど。きっとその娘の香苗自身も、根っからの『医療従事者』としての高い志があるみたいだな。
1軍の勇者達が他国からの勧誘を受けた時も、香苗はグランデイルの街に残った病人や怪我人を放っておけないと、1人でグランデイルの王都に残ったり。
その後も、お世話になった病院の人達に挨拶回りをしたいからと、杉田と一緒にヘリに乗って街に戻ったりしたくらいだものな。
何というか、怖いもの知らずというか……。自分の能力をフル活用して、大勢の人に役立ちたいという気持ちが、どうやら人一倍強いらしい。
きっと、元の世界にいたとしても。香苗は医学の勉強を一生懸命学んで、国境の無い医師団とかに参加して。
世界中の困っている人々を助ける為に、多くの国を飛び回るような生き方をしていたのかもしれないな。
――とはいえ、香苗の医療従事者としての高い志は立派だと思うけど。
誰に対しても優しく接し過ぎるから、金森みたいな変態水道ホース野郎にもストーカーされてしまうような、世間知らずの危うさもあるのは確かだ。
きっと説得したとしても、聞く耳を持たないのだろうけど。このまま香苗を、1人で帝都に向かわせる訳にはいかない。
「分かった……。帝国の人々に異世界の勇者が先頭に立って貢献してくれるのは、今後の外交関係を考えた上でも確かにありがたいからな。でも、うちの大切な回復術師様を一人で行かせる訳にはいかないから、護衛役をつけさせて貰うぞ」
俺はコンビニメンバーを見回し、その中で最も信頼出来る人物に白羽の矢を立てる事にした。
「――よし、セーリス頼んだぞ! うちの大切な回復術師を必ず守り切ってくれよな!」
「あいよー! アタシに任せてくれよ、マイダーリン! このお姉ちゃんを守る任務は2回目だし、必ずアタシが守り切ってみせるぜー!」
コンビニメンバーの中で、俺は花嫁騎士のセーリスに香苗の護衛役として、帝都に一緒に行って貰う事にした。
安定感のあるセーリスなら、きっと香苗を守り通してくれるだろう。それにもしも帝都で何かあった時には、セーリスはミズガルドの助けにもなってくれるはずだ。
もちろん香苗にはずっと、帝都にいて貰う訳じゃない。通商担当大臣でもあるザリルに頼んで、コンビニ共和国からの物資が、帝国の街にもちゃんと行き届く事の出来る交通網が整ったら、香苗にはちゃんと共和国に戻ってきて貰おうと思う。
それまではセーリスと一緒に、バーディア帝国に預けておく事にする。
「ねえ、彼方。私は本当に助かるけど……本当にそれでいいの? 回復能力のある異世界の勇者の存在は、彼方にとっても大切なんじゃないの?」
俺からの提案を聞いたミズガルドは、心配そうに問いかけてきた。
「まあ、香苗自身がそれを望んでいるんだし、こっちは大丈夫さ。一応、大怪我を瞬時に癒せる、謎の『苺大福の盾』を持った大型新人も、新たにコンビニメンバーに加わっている事だしな」
最もその期待の新人は、現在はずっとコンビニのトイレに引き篭っている。なので、『コンビニスイーツの神』というよりは、『トイレの花子さん』みたいな状態になっているのが、問題ではあるんだけどな。
俺の言葉を聞いたミズガルドは、改めて帝国騎士団の大軍を引き連れて帝都へ戻る事にした。
その騎士団の一員として、コンビニメンバーからは『回復術師』の香苗と、『花嫁騎士』のセーリスが皇帝のお供をする事となった。
その後、俺達はコンビニ支店1号店を稼働させ。
そのままピクルスさんに教えて貰った、地底竜の住まうという、帝国領の西にある洞窟へと向かう事にした。
そして現在のメンバーの中では俺と同様に、唯一飛空ドローンを乗りこなす事の出来るアイリーンだけは、先に共和国へと戻って貰う事になった。
アイリーンにはレイチェルさんへの報告と、帝国と新たに結んだ同盟関係に基づき。
コンビニ共和国の物資を帝国に急いで回せるように、ザリルへの支援要請も託す事にする。
「――了解しました、店長。私はレイチェル様の元にいったん戻ります。旅の道中は気を付けてくださいね!」
「ああ、分かった。アイリーンもレイチェルさんとザリルへの報告をよろしく頼むよ!」
アイリーンはドローンに乗って空に飛び立つ前に、コンビニの新守護者であるパティの事をくれぐれもよろしくお願いします、と俺にお願いをしていった。
何だかんだ言っても、守護者の仲間であるパティの事を気にかけてくれているみたいだな。
「――よーし! 俺達も早速、西の洞窟に向かうぞ!」
今回の新たな旅のメンバーは、ティーナ、玉木、フィート。そして、コンビニスイーツの神のパティ。
更には、コンビニの地下シェルターでいまだに目を覚ましていない冬馬このはのそばで、付きっきりで看病をしているククリアの、合計6人が同行する事になった。
特に危険な敵と戦う目的があって移動をする訳でもないし。今回の旅はきっと、安全なものになるだろうと、この時の俺は勝手に……そう1人で思い込んでしまっていた。
後にそうならなかった事を、嫌というほど思い知らされる事になるんだけどな……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
彼方達がカラム城に帰還を果たした、ちょうどその頃――。
帝国領の南部にある迷いの森付近では、白い霧に包みこまれた場所の手前で、黒い高速飛竜に乗った女神教の魔女達がひっそりと森の探索を行っていた。
「……エクレアよ、ここに忘却の魔王の気配が残っているのは間違いないのだな?」
銀色の美しい髪を伸ばした、女神教の序列第5位の魔女。長身のオペラが、仲間である女神教序列7位の黒髪の魔女に対して問いかけた。
「イェイ、イェイ、イェイー! オペラお姉様っ! 絶対に間違いありません! この森の付近には、確かに魔王種子の残り香を感じます。きっと忘却の魔王はこの地にやって来たに違いありませんっ!」
女神教が誇る武闘派の魔女の2人は、部下達をパルサールの塔に残し。高速飛竜に乗って、単独でこの地にやって来ていた。
そして、帝国領の南部にある迷いの森にやって来ていたのは――エクレアとオペラの2人だけではなかった。
「………そうですか。では、忘却の魔王がこの森にやって来ていたのは間違いないという訳なのですね」
全身を黒いローブで覆う、女神教の最高指導者。
その体は陽炎のように空気と溶け合っている枢機卿が、部下の魔女達2人に対して、静かにそう尋ねた。
「ハイ、枢機卿様! 魔王の体から発せられた魔力がこの地には大量に残っています。きっと何か大きな戦闘がここであったに違いありません。それもすぐ最近の出来事のようです!」
エクレアからの報告を聞いた枢機卿は、その場で静かに目を閉じて考え込む。
枢機卿は少数精鋭のメンバーである2人の魔女と、わずかな部下達だけを引き連れて。
急いで忘却の魔王のシエルスタの体を吸収したという、カステリナの後を追って遠い帝国領にまでやって来ていた。
「この森を覆う白い霧の中に入れば、虚無の魔王の残り香がもっとよく分かるかもしれません。枢機卿様ーーっ! 私、この中に入ってきても良いですかーっ?」
部下であるエクレアの問いかけに対して、枢機卿は珍しく大きな声を上げて彼女を叱りつける。
「………いいえ、決してこの森の中に入ってはなりません! ここには、強力な『結界』を感じます。おそらく一度中に入れば、二度と外には出てこれない仕組みになっているのでしょう」
「ひゃーーっ!? で、では……これからどうするんですか、枢機卿様?」
枢機卿はしばらくその場で、無言で思考を巡らし。
やがて森の入り口付近と思われる場所を見つめながら、静かに言葉を発した。
「もし、この辺りで大きな戦闘が起きたというのなら………。おそらく、その相手はコンビニの勇者だったのかもしれませんね。そして今も、コンビニの勇者が生き残っているのだとしたら。その勝敗の結果はおそらく、虚無の魔王の敗北に終わったのでしょう」
「そんな……! あの、忘却の魔王達の中で最も厄介とされていた虚無の魔王を、コンビニの勇者が倒したというのですか!?」
驚きの声をあげるオペラに対して、枢機卿は冷静な声色で返答をする。
「それほどまでに『コンビニ』の能力は恐ろしいという事なのです………。過去に存在したコンビニの大魔王と同等ではないにしても、新たにこの世界に召喚されたコンビニの勇者は、短期間で格段にレベルアップを果たしたのかもしれません」
「ええーーっ!? では、私達はこれからどうするんですかー?」
「そうですね………。まずは、コンビニの勇者の後を追う事にしましょう。彼がもしかしたら、虚無の魔王を倒し。その心臓である『魔王種子』を手に入れている可能性もあります。シエルスタの物と合わせれば、合計で2個の魔王種子を所持している可能性がある以上、私達は彼の後を追わざる得ないでしょうからね」
迷いの森で探索を行っていた、女神教の魔女達は急いで飛竜に飛び乗り。
再び空に向けて、全速力で飛び立っていく。
その行き先は……おそらく、帝国領最大の都市がある、帝都ロストテリアを目指しているようであった。