第三十六話 コンビニの能力の限界?
『――ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました!』
「はあああぁぁーーっ!?」
俺は驚愕して、思わず目を見開いた。
「いやいやいや……。今、レベルアップをしたんだよな、俺? でも今回は、コンビニのレベルアップ音が連続で4回も鳴り響いたように聞こえたけど」
今までコンビニのレベルアップ音は、1回だけしか鳴らないのが普通だった。連続で鳴ったのは今回が初めての事だ。
もし、俺の聞き間違いだったり。何か脳内のアナウンス機能がバグったとかじゃなければ――。
「今回はレベルが、一気に4つも上がったって事なのかよ……」
俺は急いで、自分の能力をチェックする事にする。
「能力確認――!!」
名前:秋ノ瀬 彼方 (アキノセ カナタ)
年齢:17歳
職業:異世界の勇者レベル9
スキル:『コンビニ』……レベル9
体力値:10
筋力値:9
敏捷値:8
魔力値:0
幸運値:10
習得魔法:なし
習得技能:なし
称号:『伝説の地竜殺し』
――コンビニの商品レベルが9になりました
――コンビニの耐久レベルが9になりました
『商品』
鮭弁当 チーズハンバーグ弁当 幕の内弁当
豚カツ弁当 チャーハン 麻婆丼 豚丼
醤油ラーメン 塩ラーメン 味噌ラーメン 豚骨ラーメン
ナポリタン カルボナーラ ペペロンチーノ ボロネーゼ
ミートソーススパゲティ きのこの和風スパゲティ
ほうれん草とクリームのスパゲティ
焼きそば 焼きうどん 焼きビーフン
サラダ サラダ用ドレッシング各種
フランスパン クリームパン あんパン 焼そばパン
チーズケーキ チョコレートケーキ ショートケーキ
ジャスミン茶 コーヒー カフェオレ コーヒー牛乳
サイダー フルーツジュース 野菜ジュース
スナック菓子(チーズ味) チョコレート菓子
サラダチキン 玉ねぎ トマト キャベツ レタス
ニンジン ジャガイモ サラダ油 オリーブオイル
缶詰 (サバ・コーン・やきとり・いわし)
カップ麺(醤油・味噌・塩・豚骨)
が、追加されました。
『雑貨』
割り箸 スプーン フォーク ストロー コップ お皿
フライパン 鍋 カセットガスコンロ カセットガス缶
懐中電灯 電池 テント ナイフ カッター 紐
コンドーム 綿棒 ティッシュ 歯ブラシ 歯磨き粉
トランプ カミソリ ハサミ 絆創膏 包帯 A4用紙
ガムテープ ライター タオル
黒スーツ上下 ネクタイ ベルト サングラス
レオタード ワンピース コート マフラー
スニーカー リュックサック カバン 生理用品
が、追加されました。
『耐久設備』
シャワールーム
が、追加されました。
「――えっ、コレってどういう事なんだ……?」
俺は自身の能力を確認して、愕然とする。
だってそうだろう……?
確かにコンビニで扱える商品は、めちゃくちゃ増えたさ。もう、元の世界の一般的なコンビニで扱っている商品量と、大差はないんじゃないかと思えるくらいに爆増している。
もちろん細かい部分では差もある。だけど、これだけ沢山の種類の商品を扱えているのなら、普通にコンビニとしては十分やっていける商品量のはずだ。
いやいや……。
でも、今はそういう事じゃないんだよ。
俺がコンビニのレベルアップで期待する事といえば。それはもちろん『耐久設備』が追加される事の方なんだよ!
「今回のレベルアップで追加された耐久設備は、『シャワールーム』だけ!? そんなんで、どうやってこの谷底を脱出しろって言うんだよ!」
しかも、今回はレベルが一気に4つも上がったんだぞ。
それなのに、追加されたのはたったの一つのみ。しかも、シャワールームってどういう事なんだよ………。
「前回みたいに、ガトリングショック砲みたいな強力な武器は、何で今回は追加されてないんだよ。コンビニの耐久力だって、強化ステンレスパイプシャッターだけじゃ、もうとっくに限界なんだぞ。あんな巨大な魔物達の攻撃を凌ぐ事なんて到底出来ない。それなのに……」
「彼方様、どうか元気を出して下さい……」
きっと今の俺の顔は、よっぽど酷い状態だったんだろうな。ティーナが一生懸命、励ましながら俺の背中を抱きしめてくれた。
でも、ごめんな。ティーナ。
俺、ティーナをここから地上に戻してあげる事が、出来ないかもしれない。
絶望に打ちひしがれていた俺の背中を、ティーナがずっと優しく撫で続けてくれていた。
「………………」
しばらく無言になり、沈黙に包まれてしまう俺達。
すると、突然……ティーナが両手をポンと叩いて。
いつも通り天使のような笑みで俺に話しかけてきた。
「――さあ、彼方様。お腹も空いてきましたし、何を食べましょうか! 私、ミルクティーやBLTサンドをたっくさんここに持ってきましたよ」
「……食べるって、外にはあんな化け物みたいな魔物がウヨウヨいるのにか?」
ティーナは満面の笑みでコクリと頷く。
「ハイ、そうです! ここにいれば、外の敵に襲われる心配はないのですから、クヨクヨしていてもしょうがありません。魔王の谷の底にいて、無事に生きていられるだけでも奇跡だと思って、これから元気を出してここで生活をしていきましょう!」
「えっ、ここで生活って……。こんな危険な場所で暮らすつもりなのか、ティーナは? この谷から脱出したいとは思わないのか……」
こんな化け物だらけで、白い霧に覆われている地の底で。
しかも、狭い地下のシェルターの中でずっと潜みながらひっそりと生きてくなんて――。
そんな生活が、幸せな訳ないじゃないか。
「……私は、彼方様と一緒にいられるなら、十分過ぎるくらいに幸せです。深い谷の底でも、きっと2人でなら楽しく生きていけると思います」
そう言って、ティーナは俺の分のBLTサンドの袋も元気よく開けてくれた。
そして中身のサンドイッチを、顔を赤らめて。照れながら俺の口にアーンと、両手で優しく差し出してくれる。
俺はティーナがくれたサンドイッチを、ハムハムと口の中に頬張り。空腹が満たされるのと同時に、不思議な安堵感に包まれる感覚を感じていた。
相変わらず、BLTサンドが好きなのは変わらないんだなと、つい苦笑してしまったけど。
何だろうな、この温かな感じは。本当に今まで焦っていた不安や心配が、一気に吹き飛んでしまった気がするよ。
俺とティーナが初めて出会った日――。
あの盗賊達の襲撃から、命からがら助かった時に。
俺がティーナに初めて手渡したのが、このBLTサンドとミルクティーだった。あれ以来、ずっとティーナはこの組み合わせが大好きだった。
まあ、今後この狭い地下シェルターで暮らしていくのなら、もう少し日持ちのする食品を持ってきて欲しかったという気持ちもあったけど……。
どうやらティーナは、自分の好物ばかりを倉庫から運んできたらしい。
普段はしっかりしているのに、そういう所が少しだけドジで……。俺はティーナのそんな一面も好きだった。
そっか……。
でも、たしかにそうだよな!
別に俺達はまだ、死んだ訳じゃないんだ。
この恐ろしい谷底から脱出する事だって、まだ諦めるには早すぎる。
だって、そうだろう?
なんて言ったって、俺は『コンビニの勇者』なのだから。
今回、急にレベルが4つもアップしたのだって。ここの魔物が強力過ぎて、経験値が尋常じゃないくらいにゲット出来たって事なのかもしれない。
だとしたらここで何とか生き残り続ける事で、更にコンビニをレベルアップさせる事だって可能なはずだ。
「今回は、耐久設備はシャワールームしか増えなかっけど……。この先、もの凄い装備が増える可能性だって十分にある。だから、まだ諦めるのは早過ぎるよな!」
俺は、ティーナと一緒にBLTサンドに貪るように食いついた。
そうさ。生きてこその希望だ。
俺達はまだ、この谷底で生きている。だから希望はまだ絶対にあるはずなんだ。
「良かった……。彼方様が元気になられて、私も嬉しいです!」
ティーナが微笑みながら、俺の手を握ってくれる。
「……ああ、全部ティーナのおかげさ。だいたい俺が落ち込んでる時は、いつもティーナに助けて貰ってばかりだけどな」
「そんな事はありませんよ。私は彼方様に、いつも守って頂いています。それにこの魔王の谷の底の生活も、きっと楽しいと思います。なにせ今まで誰も入った事のない神秘的な谷底に、彼方様と2人きりで過ごせるのですから! 最近は玉木様がコンビニにずっといましたので、彼方様と2人きりになれる機会が少なくなっていましたしね………クククッ」
――ええっと、ティーナ、パイセン……?
なんか今、とってもいい雰囲気だったのに。
最後に思いっきり、小悪魔的な笑い方をしてませんでした……?
まあ、いつもの俺の気のせいかな!
うん。そういう事にしておこう。
その日から、俺とティーナの2人は――。
この魔王の谷の底で、地下シェルターに隠れながらの生活を過ごす事になった。
もちろん、ずっと地下シェルターに篭りきりって訳ではない。当たり前だけど、冒険をしてリスクを冒さなければ、成長は出来ないからな。
まず、2つ程……俺達にとっては嬉しい事があった。
1つは新しく新設された『シャワールーム』だ。
このシャワールームは、なんと地下シェルターの中に作られていた。だから危険を犯して、地表のコンビニ部分に登らなくても、この地下シェルターの中でシャワーを浴びる事が可能だ。
これは地下暮らしをしている俺達にとっては、本当にありがたい。
そしてもう1つは、地下シェルターの『保存』性能が分かった事だ。
俺のコンビニはボロボロになれば、いったんしまって。すぐに出し直す事で、中身もピッカピカの新品に戻す事が出来る。
……でも、それは言い換えれば、中に『物を蓄えておく事』が出来ないって事だ。
例えば、外で美味しそうなパンケーキを買ってきたとする。コンビニの中でそれを途中まで食べていたんだが、用事があって、食べかけの状態で机に置いて外に出かけるとするじゃないか。
そうすると、外でコンビニを消してまた出し直すと……。
さっきまで事務所に置いといた、食べかけのパンケーキも、いつの間にかに無くなってしまっているのだ。
コンビニが『新しく』なってしまったのだから、まあ、それは当然だよな。
いつも新品になってくれるおかげで、コンビニはどんなにボロボロに傷ついても元通りに直ってくれるのだから。それが便利といえば、便利なんだけどさ。
ところが、この地下シェルターの中に入れておいた物は、コンビニを出し直しても……『そのまま』残り続ける事が分かった。
ある意味、ちょっとした『保管庫』みたいだよな。
おかげで俺とティーナが、コンビニの倉庫から持ち込んだ食料や飲料水、衣類なんかもそのまま残っているので大いに助かる。
これで俺達は、安心して谷底を探索出来る拠点を確保したといっても良いだろう。
もちろんだが、ただ安全な地下に篭って惰眠を貪っていた訳じゃないぞ。
この谷底から外に脱出する為には、コンビニのレベルアップがどうしても必要だ。今回は、耐久施設がシャワールームしか増えなかったが、いつかはもっと有用な設備が追加されるかもしれない。
ここの魔物に襲撃をされただけで、一気にレベルが4つも上がったんだ。魔物と戦う事で、コンビニが更なる進化をする可能性もある。
基本、安全な地下と違って――。谷底にあるコンビニの建物は、魔物に見つかるとすぐに壊されてしまう危険地帯だ。
岩壁の隙間に建てているので、上から踏み潰されるという危険はないが。巨大な魔物に突進されて破壊されてしまう事は、たびたびあった。
俺はコンビニに格納されている、5機のドローンをフル活用する。そして、コンビニの周囲にそれらを50メートルの等間隔に配置をして、周囲を監視する索敵網を構築させる事にした。
これでどの方角から巨大な魔物が接近してきても、大体の危険を察知出来るようにはなった。
――でも、ただ守るだけでは進歩がないからな。
無謀とは分かりつつも、谷底の巨大な魔物に対して攻撃も試みてみる。
コンビニに接近してくるカディスの亜種型に対して、俺は『5連装自動ガトリングショック砲』2門で総攻撃を行う。
谷底に赤い閃光弾の直線が2本走り、突進してくる黒い魔物の硬い表皮に全弾が直撃する。
””ズドドドドドドドドドドド――!!!””
だが、それでも――。
巨大な魔物を仕留めるまでには至らなかった。
「くそっ……! 外側の皮膚が硬すぎる! あいつら……絶対にカディスよりも硬い表皮を持っているだろッ!」
効果が全く無い訳ではないんだ。
ガトリングショック砲の集中攻撃を受けた魔物は、痛みで呻き声もあげているしな。
でも、決定打に欠けるんだ。
どうしても、あと一押しが足りない。
敵を倒す前に、コンビニは魔物の突進攻撃を受けて。一撃で完全に粉砕されてしまう。
何度も何度も破壊され、そのたびに俺はコンビニを外に出し直したが――。
……結局、あれ以降。
俺のコンビニのレベルが上がる事は一度もなかった。
そして、俺達が魔王の谷の底に落ちてから。
更におおよそ、1ヶ月の月日が経過してしまった……。
☆ ☆ ☆ ☆
実はあれから、俺のコンビニはレベルが1つだけ上がっている。
今の俺のコンビニのレベルは『10』だ。
追加された商品は、
『とろろ蕎麦 カレーライス』
雑貨は、
『薪 着火剤 スニーカー』
耐久設備、
『なし』
……もう、限界なのだろうか。
これがコンビニのレベルの最高到達点なのか?
約1ヶ月ここの魔物と戦い。何度も襲撃されてコンビニを破壊され……。その結果、レベルが1つだけ上がって、追加の耐久設備は全く『なし』だ。
ティーナの前だ。
俺は落ち込んだ表情を、彼女に見せる訳にはいかない。
でも、将来に対して絶望のような気持ちを抱かずにはいられなかったこの1ヶ月。なんとかここまで希望を持って頑張り続けてきたさ。
だけど、これでは流石に……。
「――彼方様、見て下さい! 谷底の奥で、ドローンが何かを見つけました!」
ティーナが俺を呼ぶ声がした。
俺は急いで、横たわっていたベットから飛び起きる。
そして慌てて、ティーナが操作をしているパソコン画面を一緒に確認した。
「本当だ……。一体何なんだ、この建物は……?」
ドローンのカメラが捉えた映像には、真っ黒な大理石で作られた、三角形のピラミッドのような建物が映っている。
建物の大きさはかなりの物だ。しかも黒いピラミッドの下部には、ちょうど人間が入れるような入口らしき場所も作られているな……。
「――もしかして、ここが大昔の魔王の『墓所』なのでしょうか?」
「それは十分にあり得るな。そして、もしそうなら……この魔王の谷の上空に張られている結界も、ここが原因になっている可能性は高いと思う」
以前、俺達はドローンを谷の上空に飛ばし。深さを測った事があった。
その時は、上空4000メートル程。――ちょうど外の光が見え始めた辺りで、謎の結界に接触してドローンは墜落させられてしまった。
その後、もちろん上空への調査は続行していて。今までに何十機ものドローンを飛ばしてみたが――結果は全て同じだった。
谷の出口は強力な結界が張られていて、この谷を下から上に登る事は出来ないようになっている。
「でしたら、この黒い建物の中に入る事が出来れば、谷の結界を解いて。私達は外に出れるという事なのでしょうか?」
「……かもしれないけれど、それは少し難しいだろうな」
俺は腕を組みながら、うーん……と唸ってしまう。
谷を脱出する為の希望が見えてきたのは、良い事だと思う。ただ……それを達成する為のハードルがあまりにも高過ぎる。
まずドローンが見つけてきた、この黒い墓所までの道のりが遠すぎる。
距離で言うと、コンビニがあるこの場所から約2キロ近く離れた所に位置している。
ただでさえ外に出る事も困難で。地下のシェルターにずっと隠れているような俺達が……どうやって、そこまで安全に辿り着く事が出来るだろうか?
更に、仮にこの黒い建物の中で。何かの装置をいじって谷の結界を解いたとしよう。
それでも、空を飛べるドローンはともかく。
俺とティーナには、この深い谷の上に向かう手段が無い。
……まさか、谷の岩壁をよじ登って上がっていく訳にもいかないしな。だって深さが4000メートル以上もある深い谷底なんだぞ。
「まあ……後は、この黒い墓所らしき建物の中にきっといる『何か』だよな……」
こんなにも大きな墓所なんだ。
それこそ中に『何も』居ないって事はまずないだろう。
これが探索系のゲームとかだったら、こういう所には大抵ラスボス級の何かが潜んでいるよな。
俺はさっきからドローンの映像を確認しているが。谷の底にウヨウヨいる巨大な魔物達は、どうやらこの黒い墓所を避けるようにして行動している。
知性なんてあるのかどうか怪しい魔物達が、この建物周辺だけは、意図的に回避しているのだ。
つまりは、それだけ魔物達にとっても。ここは敬うべき神聖な場所であると、認識されている可能性が高い。
きっと彼らを作り出した、大昔の魔王の『何か』が、まだこの黒い建物には残っているんだろうな……。
そんな中に俺達が入って、果たして無事でいられるのだろうか?
俺は思わず、苦笑気味に笑ってしまう。
「――彼方様? どうかされましたか?」
「あ、いや……。相変わらずハードルが高すぎるなって思って。まあ、それでも目的地がはっきりしたんだ。少しずつ前進をして、これからも頑張っていくしかないよな!」
「はい。そうですね! まずはここでしっかりと生き残って、出来る事を少しずつ増やしていく事から始めましょう!」
俺とティーナは笑顔で手を繋ぐ。
コンビニの中で絶望するのは、俺達には似合わない。
盗賊達の集団や、グランデイル軍。たくさんの危機を今まで乗り越えてきたのだから、きっと今回だってなんとかなるはずさ。
俺達2人がいれば、必ず未来に希望はある。
「そういえば彼方様……。私、彼方様に、伝えていない事があるんですけど……」
「ん? どうしたんだティーナ?」
ティーナが急に下を向いて俯く。
「実は……。ちょうどこの谷に落とされてしまった時――。彼方様や玉木様が、別の異世界の勇者様と対峙をされていた時の事なんですけど、私……」
その時だった。
――”ザザザザ”――。
黒い墓所を映していた映像が、突然乱れる。
「――ん? どうしたんだ、一体……?」
そこには、黒い墓所の周辺の地面から……。突然、真っ黒なヘビのような姿をした巨大な生物が這い出てきて。地上から上空のドローンを、観察しているような体勢をとっていた。
「あれは、まさか――?」
墓所の周辺から出現した黒いヘビは――。上空で待機していたドローンを飲み込むように攻撃し、ドローンの映像はそこでブツっと、途切れてしまった。
おそらくアレは、墓所を守る守護者みたいな存在なのだろう。聖なる遺跡に近づくモノは、何でも攻撃をするという訳だ。
……嫌な予感がする。
そして、俺が感じた嫌な予感はすぐに的中してしまう。
「――彼方様! 巨大な敵がこちらに向けて急接近してきています!」
コンビニの周囲に50メートル間隔で配置していたドローンの監視網が次々に破壊されていく。
壊される着前のドローンの映像に映ったのは――あの黒いヘビだ!
墓所からこちらに向けて、全速力で急接近をしてきている。
「どうしてここが……!? コンビニの位置がアイツに特定されてしまったというのか? そんな馬鹿な!?」
ドローンを操っているのは、たしかにこのコンビニだ。
だが、その電波を辿ってここまでくるなんて事が出来るのだろうか?
元の世界でだって、そんな高度な技術はなかなか無いはずだ。だって飛ばしている電波の元を瞬時に特定するなんて……そんな事、この異世界の技術では出来る訳がない!
もし、それが出来てしまうのだとしたら。
「あの黒いヘビは、かなり高度な知性を持つ可能性があるぞ……」
「彼方様! ――き、来ました!!」
高速移動をしながら、途中に監視用に配置していたドローンを全て破壊し。
巨大な黒ヘビはあっという間にここまでやってきた。
大地を這うようにやってきたその黒ヘビの全長は、25メートルくらいはありそうだ。
そして、黒ヘビは俺達がいるコンビニを見つけると。
凄まじい勢いで頭から突進し、建物を瞬時に破壊する。
俺とティーナは、地下シェルターの中で息を潜めて、その様子を見守った。
そう、いくら地上のコンビニを破壊されても、この地下シェルターの中は大丈夫だ……。
あの黒いヘビがここを去った後で、外に出て。
またコンビニは出し直せばいい。それでまたドローンも復活が出来る。
ところが、黒ヘビはなかなかコンビニの周辺から去ってはくれなかった。
コンビニの残骸を見つめ続けて、まるで何かを凝視しているように、こちらを監視し続けている。
コンビニの建物にかろうじて残った店内カメラの映像で。
その様子を見ていた俺達は、不思議な焦りを感じた。
「おかしい……。何でアイツは去っていかないんだ? どうして、いつまでもここに残り続けているんだ?」
「彼方様……」
俺とティーナが抱き合うようにして、地下シェルターの中でパソコンの画面に映る映像を注視し続ける。
すると……。
黒いヘビは、突然頭から大地に入り込むように、地中の中にその全身を潜らせて消えてしまった。
コンビニの残骸の前には白い霧と、静けさの余韻だけが残される。
「やっと、ここから去ってくれたのか……?」
俺が安心をしかけた――、
その時だった。
”ズドーーーーーーーーーン!!!!”
強力な揺れと、振動がこの『地下シェルター』に走る。
「きゃああああーーーーーっ!!」
「うおおおおおぉぉぉーーー!?」
俺とティーナが、激しい揺れと振動で床に転げ落ちた。
周囲を見回すと、地下シェルターの壁に大きな凹みが出来ている。
そ、そんな馬鹿な事が――――!?
ここは地上とは別の空間になっているはずだ!
それなのに、どうして――!?
”ズドーーーーーーーーーン!!!”
再度、大きな衝撃と揺れが地下シェルターに走る。
――クソっ! これは、もう間違いないッ!!
「あの黒いヘビは――空間を飛び越えて、別次元に存在しているこの地下シェルターに、直接攻撃が出来るんだ……!」