第三百五十六話 虚無の魔王の最期
どうして……ティーナがここに!?
ティーナは、アリスに首を斬られて死んだはず……。いや、もちろん頼むから生き返って欲しいと、俺は心の底から願っていたさ。
俺がちゃんと約束を守って、みんなの事を守り切ってみせたら、ティーナは戻ってきてくれると心の中で約束をしてくれた。
それが例え、俺の脳内の願望が見せた勝手な妄想だったとしても……。俺はそれを信じて、必死に自分を奮い立たせてここまで頑張ってきたんだ。
でも……その願望が、まさか今――。
この瞬間に本当に現実になるだなんて、俺は全く予想さえ出来ていなかった。
これは、夢や幻じゃないんだよな?
本当にティーナは生き返ったんだって、そう信じていいんだよな……?
しかも俺の前に姿を現したティーナは、信じられないくらいの身体能力で高く飛び上がると。
空からいきなり『コンビニ』を出現させて、虚無の魔王の頭上にそれを落としてみせた。
まさかそんな驚愕の展開が起きるなんて、完全に俺の理解を飛び越え過ぎてしまってる。
もう、俺には何がなんだか分からずに……完全にお手上げの状態だった。
……けれど今の俺には、その事を深く考えているような時間は無かった。
何もかもがあまりにも想定外で、頭の理解はまだ全く追いつきそうにないけれど。
それら全ての疑問を後回しにしたとしても、今の俺はティーナが作ってくれたこの奇跡の瞬間を、絶対に逃す訳にはいかないからだ。
虚無の魔王のカステリナは、頭上から落下してくる巨大コンビニの直撃を回避しようと。急遽、自分の頭上に暗黒のシールドを展開し、落下してくる巨大コンビニを暗黒空間に吸収させてガードしようとした。
という事は……その間は、カステリナの本体が全くの無防備状態になっているという事だ。白銀剣の攻撃を直接本体に届かせるには、今しかない!
「うおおおおおおぉぉぉぉーーーーッ!!!」
もう俺は、後先なんて何も考えなかった。
ただ……体が勝手に動いていた。
落下してくるコンビニをガードしようとするカステリナの本体に、全速力で背後から急接近する。
もちろんカステリナも、背後から猛スピードで迫ってくる俺の接近には気付いていた。
頭上に暗黒のシールドを張りながらも、すぐに体を反転させて。包丁を持つ無数の黒い手を、一斉に俺のいる方向に向けて伸ばしてくる。
「――いくぞ、レイモンドッ! お前の白銀剣の光を、必ずカステリナの本体に届けてみせるからなッ!」
”ズシャッーー、ズシャッーー!”
数十本を超える黒い手に握られた包丁と、白銀剣が放つ光の閃光が、空間上で激しく交差する。
体中に無数の切り傷を負っても、絶対に俺は前進を止める事はしない。例えこの体が引き裂かれようとも、今は無心で光の剣を握った右手を、正面に振り下ろし続けるしかないんだ!
あと少し……あと少しで届く……!
何度も繰り返してきた無限の悪夢と、大切な仲間を失い続けてきた最悪な未来の運命の連鎖を、必ずここで断ち切ってみせる!
そしてやっと掴む事が出来るかもしれない、誰も犠牲の出ていない最良の未来への切符を……俺はもう、絶対に逃したりはしないッ!!
最後に渾身の力を込めて振り降ろした光の剣が、カステリナの本体から伸びる無数の黒い手を押しのけ。
眩しいばかりの白い閃光を、カステリナの本体に一気に炸裂させた。
““ズシャーーーーン!!””
……とうとう、届いた……。
右手に伝わってくる感覚で、それが分かる。
白銀剣の放つ光が、カステリナの本体に深く刻みこまれ。放出する白い光が、虚無の魔王の奥底に眠る『魔王種子』を真っ二つに切断した。
これでやっとカステリナは……『終わり』を迎える事が出来るはずだ。
無限の悪夢の中を生き続けてきた虚無の魔王は、レイモンドの持つ白銀剣に導かれて、ようやく静かな眠りにつく事が出来るだろう。
「………………」
光の剣によって体を切り裂かれたカステリナは、そのまま車椅子ごと地上にゆっくりと落下していく。
虚無の魔王の体を覆っていた暗黒の霧が、内部から白い光を放出して。少しずつ消失していくのが分かった。
おそらく無限に光を放出する事の出来る、レイモンドの白銀剣の閃光が……カステリナの体内に侵入し。
暗黒空間の内部を、眩いばかりの閃光が照らして、内部から崩壊させているのかもしれない。
「………ハァ……ハァ……」
車椅子に腰掛けるカステリナが、苦しそうに咳込み始めた。
もう、虚無の魔王の命は長くはないだろう。
不老の寿命をもたらす魔王種子は、レイモンドの能力である白銀剣によって斬られた。
後は、静かに……カステリナの命の灯火が尽きるのを見守る事しか出来ない。
「彼方様………」
そばに駆け寄ってきてくれたティーナが、そっと俺の手を握ってくれた。
白銀剣の白い光が、虚無の魔王の全身を駆け巡り、暗黒の闇に包まれた虚無の空間を一気に崩壊させていく。
それは、仮想夢を繰り返し見続けてきた俺にとっても。そして『心の勇者』であるカステリナにとっても。
本当に、長い……長い悪夢の終焉となった。
俺は大切な仲間を全員、虚無の魔王に殺されて。何度も繰り返しカラム城のベッドの上で起き上がってきた。
そしておそらく自らの記憶を失い、無限の闇に囚われていたカステリナにとっても、それは同じだったはず。
これでやっと……レイモンドの光を彼女の心に届ける事が出来たんだ。
彼女の永遠の苦しみを、きっと解放してあげる事が出来たのだと信じたい。
その時――。
手を繋いでその場に立っていた俺とティーナの後方から、心配をして駆けつけてくれた仲間達の声が聞こえてきた。
「彼方くん〜! ティーナちゃ〜ん! 大丈夫〜〜?」
真っ先にここに駆けつけてきたのは、玉木だった。
その後を追うように、ククリアやミズガルド。
そして香苗にアイリーン、セーリス達もやってくる。
良かった……。
どうやら、セーリス達の怪我は無事に治ったみたいだな。きっと香苗の治療が上手くいったのだろう。
俺は思わずホッとして、安堵の息を漏らす。
そして俺は改めて今……。自分の手が、ティーナにずっと握られている事を思い出して。隣にいる天使のような笑顔の少女の顔を、マジマジと見つめてしまった。
「――ど、どうかされましたか、彼方様? そんなに至近距離で顔を見つめられてしまったら、私も恥ずかしいです……!」
うん、いつも通りのティーナの受け答えだった。
俺の前にいるのは、天使とヒロイン属性を両方持った俺の大好きなティーナで間違いない。
「ええっと、ティーナ? 君は本当に俺のよく知っているティーナで良いんだよな? 決して双子の妹だとか、心霊体で実体の無いティーナの魂が化けて出たとかじゃないんだよな?」
「ハイ、私は彼方様の大切なティーナのままですよ。ですからどうかご安心して下さいね、彼方様!」
満面の笑みでニコッと笑ってみせる、ティーナ。
ああ……やっぱりこの笑顔は間違いないよな。
俺が初めて会った時から、何も変わっていない。本当に天使のような笑顔を見せてくれる、俺の大好きなティーナの笑顔だ。
「で、でもどうして、ティーナがここにいるんだ? それにええっと、さっきティーナさん、『コンビニ』を空中に出していませんでした!?」
もう……最初に何から聞けば良いのか分からなかったけど。俺はどもりながらも、何とか声を絞り出すのがやっとだった。
ティーナが生きてくれていた。
それだけでも、死ぬほど俺は嬉しいのに。
さっき俺は、絶対に有り得ないような驚愕の光景を見てしまったから……脳内が更なる混乱の極みに達してしまっていたのは間違いない。
だってティーナ……さっき『コンビニ』を出していたよな? 俺の見間違いじゃなければ、ティーナはコンビニの勇者の必殺技である『無限もぐら叩き』を繰り出していた。
……という事は、ティーナの隠された遺伝の能力は、まさか『コンビニ』だったという事なのか?
いや、そんな事が本当にあり得るのだろうか?
それじゃあ、この世界には今、『コンビニ』の能力を持つ者が3人もいる事になってしまうじゃないか!
コンビニの勇者であるこの俺と、5000年前からこの世界で生き続け、今も禁断の地に奥に潜んでいる過去の俺。そして今回新たにティーナが『コンビニ』の能力を所持している、という事になったのだろうか……?
「彼方様、きっと今……彼方様は混乱をしているのだと思います。ですので、私がどうして生きているのか。そしてどうやって『コンビニ』を出現させたのかを、順を追って説明したいと思います」
ティーナが真剣な表情で、俺の手を握りながら見つめてきた。
俺はティーナの顔を見つめて、ゴクリと唾を飲む。
そう、まだ何も理解が出来ていない俺にはどうしても説明が必要だった。それをティーナが直接俺に教えてくれるというのなら、こんなに助かる事はない。
だが……ティーナが俺に説明をしようと口を開きかけた、その時――。
「……か、彼方くん!? た、大変だわ! 黒い霧がこっちに向かって押し寄せてきてるわ!」
突然、玉木が大きな叫び声を上げた。
気付くと、いつの間にかカステリナの本体から、黒い霧が地上を這う漆黒の絨毯のようにこちらに広がってきていた。
注意深く地面を見つめると、たまたま黒い霧に飲み込まれてしまった一匹のカエルが、全身に黒い染みが広がっていき。その場で一瞬にして、死に絶えてしまう光景が目に入った。
「これは……!? みんな気を付けてくれ! この黒い霧に触れると、体に黒い染みが広がって即死してしまう危険性があるぞ!」
「え、ええ〜〜!? もう、完全に霧に周囲を囲まれちゃってるよ〜! どうするの、彼方く〜〜ん!!」
玉木が悲痛な声をあげて助けを求めてくる。
確かに、カステリナの体から漏れ出てきた黒い霧はあまりにもその進行速度が速すぎる。
俺達コンビニメンバー全員の周りを、あっという間に囲み込み。このまま放置していたら、森全体にまで広がりかねない勢いがある。
これは、マジでまずいぞ……!
崩壊したカステリナの本体から、まさかこんな黒い霧が溢れ出してくるなんて思わなかった。
きっとこのまま放っておいても、虚無の魔王の体は……白い光に包み込まれて消失してしまうだろう。
けれどそれよりも前に、この漆黒の霧に俺達の体が飲み込まれてしまったら……それで『終わり』だ。
仮想夢の中で俺が味わったように、全身に黒い染みが広がって動けなくなり。そのままみんな死に絶えてしまうだろう。
「――コンビニの勇者殿、いかが致しますか?」
ククリアが問いかけてくる。
全員を飛行ドローンで拾い上げるにしても、もう間に合いそうにない。高い場所に避難しようにも、既に周囲は完全に漆黒の霧に飲み込まれてしまっている。
何か上手い手を考えないと、本当にここで俺達は詰んでしまうぞ。
「クッ………!」
歯軋りをしながら、必死に思考を巡らして霧の打開策を考えていた俺の脳内に。
森の奥から帰ってきた、もふもふ猫のフィートの声が響いてきた。
『大好きお兄さん〜、戻ってきたのにゃ〜! 森の中から『援軍』をいっぱい連れてきたのにゃ〜〜!』
「――フィート!?」
俺のすぐ目の前に、フィートが大ジャンプをして飛び込んできた。
咄嗟にここに来てはダメだ! と、フィートに叫ぼうとしたが、俺の目には驚愕の光景が映り込んできた。
茶色いもふもふ猫のフィートが降り立ったその場所には、黒い霧が近寄って来なかった。
それどころか、まるでフィートの周りを避けるようにして。黒い霧がゆっくりと後方に、後ずさっていくのが分かる。
そんなフィートの周囲には、森の奥から沢山の『仲間達』が一斉に駆けつけてきていた。
「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」
「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」
「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」
「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」
「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」 「ニャ〜〜!」
もの凄い数の猫の鳴き声が聞こえてくる。
フィートは森の中から、おおよそ100匹を超えるたくさんの野良猫達を引き連れて戻ってきた。
そして明らかに黒い霧は『猫』の存在を避けて、迫り来る猫の大群を恐れるかのように、俺達から遠ざかっていく。
『大好きお兄さん〜! 言われた通りに森の中にいる猫ちゃん達を沢山引き連れてきたのにゃ〜! 猫形態になった今のあたいは猫語も話せるから、仲間の猫ちゃん達を連れてくるなんて楽勝なのにゃ〜!』
もふもふ猫のフィートが、ドヤ顔をしながら俺の頭の上に飛び乗ってくる。
「よしよし、でかしたぞ……フィート。本当にありがとうな! 後で一生分のサバ缶を、お前にプレゼントしてあげるからな」
『やったのにゃ〜! 一生分のサバ缶ゲット☆なのにゃ〜! これで毎日働かずに、ゴロゴロして過ごせるのにゃ〜!」
ゴロゴロと喉を上機嫌に鳴らしているフィートの首元を、俺は何度もさすってやる。
カステリナとの本格的な戦いが始まる前、俺はフィートに森の中にいる野良猫達をここに連れてきて欲しいと頼んでおいた。
特に今回のような、最悪の事態を想定していた訳では無かったけど。猫の存在を恐怖して、本能的に避けようとする虚無の魔王を牽制する事が出来ると思ったからだ。
もし、万が一にも俺が戦いに負けて……。
残されたみんなに危険が及んでしまう事だけは、避けたかったからな。
即死効果のある黒い霧を全く恐れない自由奔放な猫達は、その発生源である虚無の魔王の姿を見つけると。
まるで、またたびに引き寄せられるかのように、もの凄い勢いでカステリナの元に駆け寄っていく。
すると、さっきまでの勢いが嘘のように。
地面を這うさざ波のように広がっていた黒い霧は、無数の猫達の突進によって縦横無尽に引き裂かれ。その存在を恐れて逃げるように、後方に退いていった。
そして、100匹を超える無数の猫達に追いかけられたカステリナは……。全身から白い光を放出させながら、森の奥へと逃げていく。
「――店長、虚無の魔王を追撃しますか?」
切断された右手が修復し。両手で真っ直ぐに黄金剣を構えたアイリーンが、俺の近くに駆け寄って問いかけてきた。
「いや……多分もう大丈夫だ。そっとしておこう」
「しかし、もし……またあの黒い霧をこちらに放出してくるような事があったら、大変な事に……!」
アイリーンの言いたい事はよく分かる。
でも、俺にはもう……カステリナを静かに休ませてあげたいという気持ちの方が強かった。
きっとレイモンドの白い光は、カステリナの失われた記憶を徐々に呼び戻してくれるだろう。そして彼女の後を追っかけていった猫達も、決して敵意があってカステリナの元に向かっていった訳ではないはずだ。
今の俺にはそれが分かるから……もうこのまま静かに、彼女を『終わらせて』あげたいと思った。
これで虚無の魔王との戦いは全て終わったんだ。
俺はもう、仮想夢から目覚める事はない。
みんなを失ってしまう絶望の未来を、何度も何度も試行錯誤を繰り返しながら、やっと今回は……回避する事が出来たのだから。
無数の猫達と共に、森の奥に消えていったカステリナが去った後……。
俺達は、全員が互いに無事であった事を喜び合い、心から安堵した。
これで、全てが終わった。
みんなが生きている。
そして、ティーナが生きてくれている。
これ以上の喜びと幸せは、今の俺には無かった。
だから少しだけ、休みたい……という気持ちが今は強かったのかもしれない。
ティーナに手を握られながら。
俺はその場で、静かに地面に倒れ込んでしまう。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
震える手で車椅子をゆっくりと移動させ。
何とか、森の奥にまでやってきた虚無の魔王のカステリナ。
彼女はそこで、1本の大きな木を見つけると。
その根本で少しだけ休息をとる事にした。
「……ハァ……ハァ……」
体中がずっと熱い。
白い光が体内を駆け巡るように広がっていく。
カステリナは、自身の心を数千年以上も満たし続けていた虚無の感情が、少しずつ溶かされていくのを感じていた。
もう、体内から放出されていた黒い霧は……完全に消え去っている。
無限に広がる暗黒空間と、人々から集め続けた虚無の感情は全て、白銀剣が発する白い光によって蒸発させられてしまったに違いない。
力尽きたカステリナは、静かに首を横に傾け。
大きな木の幹に自分の首を寄り掛けながら、今は1人でじっと大空を見上げていた。
やがて、ゆっくりと右手を動かすと。
自身の体に刻まれた白い光の輝く傷跡を、指先でそっとなぞっていく。
「……そこにいてくれたんだね、レイモンド。ずっと私の中に居てくれたのに、気付けなくて本当にごめんね……。私、あなたの事を全部思い出したよ……」
呼吸を乱し、大きな木の近くで体を休めていたカステリナの元に、森の中から無数の猫達が集まってきた。
傷付いたカステリナの周りに集まった猫達は、決して彼女の事を攻撃しようとはしない。
むしろ猫達はカステリナの体を心配して。体を何度も擦らせながら、カステリナの体に擦り寄ってきていた。
「うふふ……みんなも、ずっと私の事を見つけてくれてたんだね……。私、ずっとずっと、みんなの事に気付けなくて本当にごめんね……」
呼吸を乱したカステリナは、白く細い手をゆっくりと伸ばし。自身の周りに集まってくれた猫達の頭を、順番に優しく指先で撫でていった。
既に視界を全て失っているカステリナには、猫達の姿が見えている訳ではなかった。
でも、その温かくて柔らかな感触はよく憶えていた。それはカステリナの大好きな、もふもふとした猫達の優しい感触だったからだ。
「……ありがとう、レイモンド。私もやっと、あなたの所にいけるわ。また再会出来たら、今度こそ2人で誰もいない静かな世界に行って、そこで一緒に暮らそうね……」
猫達を撫でる、カステリナの手がピタリと止まった。
すると、彼女の目の前に……。
白い光の結晶が集まっていき、『白銀剣』の勇者のレイモンドの姿が形作られた。
光の結晶となったレイモンドが、ゆっくりとその手をカステリナのもとに差し伸べる。
その姿を見た虚無の魔王は、初めて心から嬉しそうに笑ってみせた。
彼女は恋人のレイモンドの手を取ると。
その体は少しずつ、大気と混ざり合い。
静かに砂時計の砂粒のように変化して、音も立てずに蒸発していった。
数千年の時を生き続けた『心の勇者』は、ようやく彼女の一番大切な恋人の記憶を思い出し。
大好きな彼女の想い人の後を追って。
2人で一緒に手を取り合いながら、この世界からどこか遠くにある……静かな場所へと旅立っていった。