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第三百五十五話 光の剣


「暗黒空間をようやく脱出できたのは良かったけど。どうやら、いきなりラストバトル全開な激熱展開になっているらしいな……」



 光の剣を用いて、虚無の空間から外に飛び出てきた俺は、急いで周囲の状況を確認してみる事にする。


 俺のいなかった間に、誰か犠牲者が出ていたりしないだろうか? みんなは怪我をしていないだろうか?


 キョロキョロと周りを見回していると。

 俺の目には、ここには絶対にいるはずのない巨大な『黒ヘビ』と、みんなの集合している場所に回復術師(ヒールマスター)香苗美花(かなえみか)の姿が見えて驚いた。



「えっ……香苗(かなえ)がどうしてここに!? ――そうか。黒ヘビがここに来ているという事は、レイチェルさんが共和国から香苗をここに送り届けてくれたのか」



 流石、レイチェルさんだぜ。


 コンビニの守護者達だけでなく、回復能力を持つ香苗まで、ここに送ってきてくれるなんて……。


 きっと俺達の身にどんなピンチが訪れていても、柔軟に対応が出来るようにと。コンビニ共和国が持つ最大戦力の支援を惜しみなく投下してくれるなんて、本当に最高すぎるぜ!



「か、彼方くん、大丈夫なの……?」


 頭にもふもふ猫のフィートを(かぶ)った玉木が、心配そうに俺に声をかけてきた。


「ああ、俺は大丈夫だぜ、玉木! ちょっとばかしカオスな空間の中を、数年近くは彷徨(さまよ)っていた気がするけれど。戻ってくるのが遅くなって、本当にすまなかった。でも後の事は全部、俺に任せてくれ!」


「ええっ!? 数年って、何よソレ〜!? 本当に大丈夫なの? 見た目は何も変わっていないように見えるけど、もしかして彼方くん……もう20代後半くらいのアラサー年齢になっちゃってたりするの〜?」


「いやいや、それはあくまで俺の『体感』の話だから心配しないでくれ。俺自身は何も変わっちゃいないよ。さあ、ここはもう危ないから、玉木も後ろに下がっていてくれ!」


 心配そうな表情を浮かべている玉木を説得して、俺は玉木に香苗やみんなの事を守ってくれと頼む事にする。



 現在の状況が、まだ正確に全て分かっている訳ではないけれど……。


 大怪我をしていたセーリスだけでなく。アイリーンの姿も近くに見えないという事は、きっとアイリーンも負傷している可能性が強そうだ。


「――黒ヘビ! すまないが、みんなを虚無の魔王から守る為に、周囲を取り囲む防御壁を築き上げてくれ!」


 コンビニの勇者である俺の指示を受けた黒ヘビが、大きな体を輪っかのようにゆっくりと丸めていき。

 女神の泉の周辺に残るみんなを、包み込むような体勢をとる。


 黒ヘビの体は大きいから、虚無の魔王の体がみんなの視界に映り込むのを防いでくれるだろう。


 後は俺がこの場所を死守して、香苗が負傷しているみんなの傷を治療してくれるのを待つしかない。


「分かったわ〜! 彼方くん、絶対に死んだり、負けたり、怪我をしたり、挫けたり、心の底から絶望したり、小さな事で癇癪(かんしゃく)を起こしたり、私以外の子に浮気なんかしたりしたら、ダメなんだからね〜!」


「お、おう……? よく分からないけど、俺に全部任せておけって!」


 何か余分な約束も、いっぱい混ざっていたような気もするけど……まあ、いっか。

 とにかく俺は全部、約束は守ってみせる! つまりは絶対に『勝ってこいよ』っていう、玉木からの激励(げきれい)の言葉なんだと受け止めておこう。



「それと、ティーナちゃんの事なんだけど。実はティーナちゃんが……! ――きゃああああああっ!?」


 最後に玉木が何かを言いかけたようだけど、大きな石に思いっきり足を引っ掛けて、盛大にすっ転んだみたいだった。


 あーあ。頭から地面に倒れ込んでピクピクしてるみたいだけど、アレ、本当に大丈夫なのかな? 最後の方は何を言っているのか、よく聞こえなかったけど……。

 まあ、今は目の前の危機を乗り越える事だけに集中をしよう!



 俺はすぐさま『光の剣』を右手に構えて、虚無の魔王カステリナに対して戦闘態勢を整える。


『大好きお兄さん、うぅ〜! あたいはきっと帰ってきてくれると、信じていたのにゃ〜!』


 玉木の頭から離れたもふもふ猫のフィートが、目に涙を浮かべながら俺の足元にまでやってきてくれた。


「フィート! お前もここにいたら危ないから、早くみんなと一緒に後方に隠れていてくれ! ……あっ、いや、お前には別に頼みたい事がある!」


『ん〜、あたいに頼み〜? なんなのにゃ〜?』


 念話で話しかけてくるフィートに、俺は小声である『お願い事』を頼む事にした。


 まあ、そこまでする必要は無いかもしれないけれど……一応、念の為だ。


 俺がもし、万が一でも、カステリナに負けるような事があった時は……。みんなには、ここから安全に逃げられるようにしておきたいからな。



『――なるほどなのにゃ〜、了解したのにゃ! あたいにまっかせろ〜なのにゃ〜!』


「おう! 頼んだぞ、フィート!」


 俺の指示を受けたフィートは、4本足を器用に使って急いで森の奥に向かって走り去っていく。


 万が一の時に備えて、森の中から沢山の『援軍』を連れてきてくれよな。頼んだぞ、フィート!



 フィートの後ろ姿を見送った俺の元に――。


 前方から凄まじい速度で、虚無の魔王のカステリナが突進を仕掛けてきた。


 まるで、さっきまで見失っていた好物の獲物を見つけたかのように。はぐれたアザラシの子を狙うシャチのような勢いでこちらに迫ってくる。



「――レイモンド。お前の力を今、この俺に貸してくれ――『白銀剣(ホワイトソード)』ッ!!」



 右手の拳の中から、溢れんばかりの白い閃光が放出されていく。


 光のエネルギーを無限に放出し続ける事の出来る、勇者レイモンドの持つ能力――『白銀剣(ホワイトソード)』。


 無限に光のエネルギーを放つ事が出来るという事は、決して消耗する事も、消滅する事も無い、永遠の無限武器を使用可能になったという事だ。


 そして今、白銀剣(ホワイトソード)はその主人(あるじ)をレイモンドから俺に変えて。今も美しい光の輝きを保ち続けている。


 本来なら他人に譲渡する事など出来ないはずの、無限の勇者の能力(スキル)が、他の無限の能力を持つ異世界の勇者に引き継ぐ事が出来たのも……。

 この永遠に消滅する事の無い『白銀剣(ホワイトソード)』ならではの特性といえたかもしれない。



「よーし、いくぞおおぉぉーーーッ!! うおおおおぉぉぉぉッ!!」



 接近してくるカステリナの本体に(ひる)む事なく。

 俺は白い光の剣を構えて、全速力で真っ向から敵に向けて駆け出していく。


 虚無の魔王の体を包み込む暗黒の(きり)の中から、無数の黒い手が伸びてきた。

 そしてそれらの黒い手に握られた包丁が、四方八方からこちらに向けて襲いかかってくる。

 


 ”――ドシュ!! ドシュ!! ドシュ!!”


 眩しい光を放つ光の剣が、カステリナの体から生えた無数の黒い手を次々に斬り落としていく。



 その威力は凄まじい程に、絶大だった。


 暗黒の霧から伸びてくる無数の黒い手は、白い光の剣の閃光部分に触れるだけで、一瞬にして霧散(むさん)して消滅してしまう。


 例え何十本もの黒い手が、黒い包丁を握りながら同時に迫ってきても――。

 白銀剣(ホワイトソード)は俺の右手から、しなやかな(むち)のように動き出し。確実に迫り来る敵の攻撃を自動迎撃していく。


「こいつは、マジで凄いな……!」


 正直、俺は今まで剣術の修行なんて、一度も行った事が無かった。


 グランデイル王国にいた時も、3軍勇者の俺は勇者育成プログラムに参加させて貰う事は出来なかったし。まともな『勇者』としての教育を全く受けてこなかった。


 だからレベルが急に上がって、能力値が上昇した俺は剣を使わずに、格闘家スタイルで『足技』ばかりを戦闘で使用してきた。


 その理由は単純だ。武器を使うと、有り余る肉体の力の加減が出来ずに、誤って普通の人間相手の時でも、相手を殺害してしまう危険性があったからだ。


 まだ自分の体を直接使用する足技の方が、その調整が簡単だったからこそ、俺は蹴り技を中心とした格闘術をこれまで用いてきた。



 ……でも、俺の右手から放出される『光の剣』は、そんな俺の悩みを全て解決してくれる。



 光の剣は自由自在に形を変えて。俺の剣を操る技術に関係なく、その出力を自動調整してくれた。


 だから俺はただ右手を正面に向かって、闇雲に振るっているだけでいい。AI(エー・アイ)を用いた、車の自動運転技術と同じようなものだ。


 白銀剣(ホワイトソード)は、剣術の素人である俺を巧みにリードして、迫り来る敵の攻撃を自動迎撃してくれる万能ソードの役割をこなしてくれている。



 だが、どんなに白銀剣(ホワイトソード)が優れた性能を持っていたとしても……。



「………クッ……!」


 虚無の魔王の操る黒い手は、何度でも暗黒の霧の中から無限に生えてくる。


 迫り来るカステリナの攻撃全てを防げたとしても、逆に俺の『視界』の方が先に限界を迎えようとしていた。


 ””パリーーーン!!””


 俺の全身を緑色の光が包み込み。

 音を立てて、何かが割れて破壊されたような感覚が全身に伝わってくる。



「チッ……! どうやら、コンビニ店長専用服の3回目の無敵防御機能が発動してしまったみたいだな……」



 もうこれで、俺には後が無くなった訳だ。


 きっとカステリナの本体を、至近距離から見つめ過ぎてしまったせいだろう。

 結局はもう……残機無しの決死の覚悟で、俺は虚無の魔王との短期決戦を挑むしかない。



 正直な所、俺の心の中に迷いがあったのは事実だ。


 この勇者レイモンドから受け継いだ、白銀剣(ホワイトソード)を使用する事で。自らの過去の記憶を失い、虚無の感情の集合体と化してしまった『心の勇者』のカステリナが、恋人のレイモンドとの記憶を思い出してくれるのではないかと……少しだけ俺は期待をしていた。



 でも、やはりダメだった。


 どんなに白い閃光の剣を振るい続けても……。

 虚無の魔王は無数の黒い手を操り、動揺する素振りさえ全く見せなかった。


 レイモンドの白い光を、カステリナの心に届ける為には――。もう、直接光の剣のエネルギーをカステリナの本体に斬りつけて刻み込むしかない。



 俺は両肩に浮かぶ守護衛星2機の照準を、カステリナの本体に向ける。


 敵の姿の見えている今なら。そして、これだけの至近距離からなら、最大出力のレーザー砲を絶対に外す事は無いはずだ。



「よーし、行くぞおおぉぉぉ! 光の剣の無限エネルギーを込めた、渾身のレーザービーム砲を直接喰らわせてやるッ! ――『白銀光波動砲スターライティング・レーザー』――ッ!!」



 ””ドシューーーーーーッ!!!””



 ツインレーザー砲の照射口に、白銀剣(ホワイトソード)の無限の光を(じか)に押し当てる。


 それによって光のエネルギーを最大限に増大させた俺の新必殺技、『白銀光波動砲スターライティング・レーザー』を解き放った。


 これならきっと、虚無の魔王の本体に直接ダメージを与える事も可能なはずだ。



 だが……俺の期待は裏切られ。


 凄まじい光のエネルギーを伴った最大出力のレーザー砲は、またしてもカステリナの体の正面に張られた、暗黒の霧のシールドの中に全て吸い込まれてしまった。



「そんな……!? 光のエネルギーを混ぜ込んだ最大威力のレーザー砲でさえも、暗黒空間に全て吸収されてしまうというのかよッ!!」



 いや――。どうやら、完全なノーダメージという訳でも無いらしい。


 カステリナの全身を包み込んでいる黒い霧の、後ろの部分が大きく削り取られていた。


 あの全ての攻撃を吸収してしまう黒い霧のシールドは、どうやら一方向だけにしか展開出来ないようだ。


 無敵シールドを張る事の出来る花嫁騎士(ウエディング・ナイト)のセーリスのように。360度、全ての角度からの攻撃を防げる、球体状のシールドという訳では無いという事か。


「……つまり、何か大きな威力のある攻撃を片方の方向からぶち当てて。その隙にカステリナの体の反対方向に回り込んで攻撃を仕掛ける事が出来れば、光の剣のダメージを本体に直接与える事も出来るって訳か……」



 問題は今の一撃で、レーザー砲のエネルギーを全て使い切ってしまった事だ。


 またエネルギーを最大値までチャージするには、しばらくの時間を俺は待たないといけない。


 例え接近戦を挑んでも、無数の黒い手による攻撃で消耗させられる。だけど、コンビニ店長服の無敵シールドの耐久も全て破壊されている。


 このままここでじっとしているだけでも、俺の命の耐久値は削り取られてしまうんだ。



 だから俺にはもう、時間をゆっくりとかけるような戦い方は出来ない。


 もう……やるしかないんだ!

 例えレーザー砲がすぐに撃てなくても。ギリギリまでカステリナに接近をして、何度でも白銀剣(ホワイトソード)で斬りつけ続けるしかない。



 俺が覚悟を決めて。右手から放出される光の剣のエネルギーを最大出力にして構え直すと。



 突然――カステリナは、前方にいるこの俺を無視して。高速移動を開始して、一気に黒ヘビが囲っている他のコンビニメンバー達のいる場所に向かい始めた。



 ――しまったッ!?


 まさかこの俺を無視して。玉木達を優先的に始末しに向かうつもりなのかよ……!



「クッ……! レーザー砲のチャージはまだ間に合わない。ここからカステリナの進行を止めるような攻撃方法は、今の俺には無い……!」



 全身の筋力値を最大にして、みんなのいる場所に向けて全速力で走るが……とても間に合わない。


 このままじゃ、みんながやられてしまう!



 ――その時、一瞬だけ。


 俺の体が『金縛(かなしば)り』にあったかのような、不思議な浮遊感覚を味わう。



 えっ……今の感覚は、一体何なんだ?


 みんなをカステリナに殺害されてしまうかもしれない、その不安と焦りで。

 俺の心が一瞬だけ、時間が止まったスローモーションの世界に入り込んだような不思議な感覚を味わった気がした。



 けれど、その感覚はすぐに失われて。


 あっという間に俺の心は、再び現実世界に呼び戻されてしまう。


 既に虚無の魔王は、女神の泉にいるみんなの元へと猛スピードで進んでいき。このままでは、絶対に間に合わないと俺がそう確信をして、絶望をしかけたその時――。



 猛スピードで突進するカステリナの正面に、『誰か』が立ち塞がっているのが見えた。



 えっ? アレは、一体誰なんだ……?



 もしかしてアイリーンか?

 それともセーリスなのか……? 香苗の治療が間に合ったのだろうか……。



 俺はよく目を凝らして、正面を凝視する。


 すると、そこに立っていたのは……。


 俺が全く想像する事が出来なかった、『絶対にあり得ないはずの人物』が――カステリナの正面に立ち塞がっているのが見えた。



 そんな……!?


 そんな事があり得るはずがない――!



 俺は……夢か幻を見ているのだろうか?



 あまりの驚きと衝撃で俺の心臓が一気に高鳴り、激しく脈打つのを感じた。



 みんなを敵の脅威から守ろうと。

 迫り来るカステリナの脅威に、正面から立ち塞がってくれている金髪の少女は――。


 俺がこの世界で最もよく知っている、天使のような笑顔を持つ一番大切な女の子だった。



「――彼方(かなた)様、ここは私にお任せ下さいッ!」



 金髪の少女は大地を蹴り。


 大空に向けて大きく跳躍をして、空高くに飛び上がると――。



 真下を通過しようとする虚無の魔王、カステリナに向けて大声で叫んだ。



「出でよ、コンビニーーッ! 『無限もぐら叩きインフニィット・ハンマー』ーーッ!!」



 金髪の少女、ティーナが空から大きく振り下ろした拳の先には――突如として巨大な『コンビニ』が出現し。


 真下にいる虚無の魔王カステリナの頭上目掛けて、大空から落下してきた巨大コンビニが直撃をする。


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― 新着の感想 ―
[一言] 女神となった亡国の王女アスティア 枢機卿となった先代の玉木 これと似たような、同じものか? あの2者の持ってる能力凄すぎだから なら、ティーナもか 5人目の守護者ってとこかねこれ。 明ら…
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