第三百四十八話 チョコミントの騎士①
空から落ちてきた、巨大なチョコミントの塊。
その中から大きな『三色団子の槍』を持つ、チョコミントカラーの騎士が姿を現した。
しかもその緑色の騎士は、三色団子の槍でいきなり虚無の魔王アリスの体を、ハエ叩きのように地面に強く叩きつけ。
あの最強の力を持つアリスを、地中深くに思いっきり強くめり込ませてしまう。
あまりにも予想外な展開に、俺はしばらく口を開け、その場で呆然とする事しか出来なかった。
ええっと、コンビニスイーツの神?
しかも、名前が『パティ・ノア』だって!?
「じゃ、じゃあ……まさか? あの緑色の騎士が、コンビニの第4番目の守護者だっていうのかよ……?」
以前、仮想夢の中で。俺はククリアとその件について、一度だけ真剣に話し合った事があった。
ククリアが言うには、無限の勇者が所有する守護者達の中で、最も強い力を持っているのは『緑色の守護者』である可能性が強いらしい。
俺が今までに、沢山の無限の勇者の守護者達に出会って、そして彼らと戦ってきた。
動物園の魔王に仕えた緑魔龍侯爵こと、ミレイユ。
砂漠の魔王モンスーンに仕えた緑の神官、ソシエラ。
彼女達は、同じ無限の勇者に仕える守護者達の中でも、他の守護者を凌駕する卓越した個性を持ち。
敵と戦うという戦闘能力の面において。優れた実力を持つ、最強の守護者達ばかりだったのは間違いない。
そんな最強の『緑色』を冠する守護者が……。
コンビニの最後の守護神が、まさかこの土壇場で俺の前に登場してくれたっていうのかよ。
ん? ……っていうか、もしかして。
今までの謎のチョコミント祭りは、まさか全部このチョコミントカラーの守護者を呼び出す為の『前準備』だったんじゃないだろうな?
確かに『チョコミント』は緑色に少し近いけれど。どちらかというと薄緑色というか、青色にも近いし。すぐにはそれが、緑色の守護者に関連があるという発想が、俺の頭には全く無かった。
いや、そんなのマジで分からないって……!
新登場の緑色の守護者が持つ、三色団子の槍で叩きつけられ。地面に押し潰されてしまったアリスは、すぐに地中から飛び出すと。
地上に立つチョコミントの騎士から、いったん距離を取り、慌てて上空へと避難した。
「くそ……! やっぱりあの程度の攻撃じゃ、アリスはやられていなかったらしいな……!」
空に移動をしたアリスは、上空で体勢を整えると。
再び地面に横たわっているセーリスと、新たに出現した緑色の騎士を忌々しそうな目つきで睨みつける。
そして今度は、空中に大量の包丁を出現させて。
それをゲリラ豪雨のように、一気に地上にいる俺達に向けて放ってきた。
「――セーリスッ!!」
俺は急いで、倒れているセーリスの元へと駆け寄る。
背中を包丁で滅多刺しにされたセーリスは、身動きがとれないほどの重傷を負っている。
もしアリスが空から放つ、大量の包丁の攻撃を受けたなら、今度こそ間違いなく即死してしまうだろう。
慌ててセーリスの前に駆け寄った俺の前に、新しく現れた緑色の守護者が、今度は『苺大福』の形をした大きな盾を構えて防御体制を取ってくれた。
「コンビニマスター様! ここはこのコンビニスイーツ職人のパティめにぜひ、お任せ下さい☆」
パティと名乗る緑色の騎士は、右手に三者団子の槍。そして左手には大きな苺大福の形をした、巨大な盾を持っている。
そしてその苺大福の盾を、目の前で傘のように大きく広げると。
倒れているセーリスと、近くにいる俺を覆うように、空から降り注ぐ無数の包丁から身を守ってくれた。
「す、すげーな! この苺大福みたいなシールド。マジで見た目が苺大福そのものにしか見えないのに、アリスが空から降らせている無数の包丁の攻撃を、全部防いでくれているのかよ……!」
「えっ? これ、本物の苺大福なんですよ、コンビニマスター様☆ ほら、こうして大福の中をほじくれば、甘〜いこしあんが、中から沢山出てきますから!」
パティは左腕に付けた巨大な苺大福の中から、黒いこしあんを右手で掴んで取り出してみせた。
そしてそれをおもむろに、俺の口の中に無理矢理放り込んでくる。
「うごっ……!? な、何をするんだよ! ってか、マジで甘いぞ! これ、本物のこしあんじゃないかよ!」
「ねぇ〜? だから言ったでしょう? これは本物の苺大福なんですよ〜! さぁ、コンビニマスター様。その甘くてとろけるように美味しいあんこを、倒れている白い花嫁さんの傷口に塗りたくってあげて下さい!」
「え……? この黒いあんこを、セーリスに傷口に塗れっていうのかよ?」
「ハイ〜! 大丈夫ですよ☆ パティめが作った苺大福のあんこは、傷を修復する回復効果がありますから。パティは戦闘も回復もこなせる、万能パティシエなので、コンビニマスター様の役に立ちまくりのナイスな守護者なんです〜!」
いや、この黒いこしあんを出血している傷口に塗るって……それ、衛生的にも大丈夫なのかよ?
傷口に塩を塗るとは別の意味合いで、甘いあんこを出血箇所に塗るのも、どうかと俺は思うけど……。
でも、今はやるしかないな!
ここに、回復術師の香苗はいないんだ。このまま大量出血しているセーリスを放置しておいたら、マジでヤバい事になってしまう。
俺は覚悟を決めて。パティにいわれた通りに、巨大な苺大福から取り出した甘いこしあんを、地面に倒れているセーリスの背中の傷口に塗ってみた。
すると――。
何度も包丁で刺され、重傷を負っていたセーリスの背中が白い光を放ち。たちまちその傷口が全て塞がり。出血を完全に止める事が出来た。
「うおおっ!? これは……凄いな! 本当に傷口が全て塞がっていったぞ!」
「えへへ〜、でしょう〜? コンビニマスター様☆ これからは旅のお供に、ぜひこのパティめをお連れ下さいね! コンビニスイーツを熟知したこのパティめがいれば、どんなに大怪我をしても、たちまち傷口を塞いであげる事が可能なのです〜!」
つまりは戦闘も、回復もこなせる万能タイプの守護者って事なのか。そいつはマジで助かるな。
基本的に俺達コンビニ陣営の中にいる、回復治療系の勇者達は戦闘が苦手な事が多い。だから強敵と戦うような緊迫した状況の時には、戦場に連れてこれないケースが多かったからな。
「では、コンビニマスター様☆ これを渡しておきますので、あちらにおられる青い騎士様の傷も手当をしてあげて下さいね! パティはその間に、あの黒い敵をちゃちゃっと倒してきて差し上げますから。後の事はぜ〜〜んぶ、このパティめにお任せを〜〜☆」
チョコミントの騎士は、俺に普通サイズの苺大福が沢山入ったビニール袋を手渡してきた。
なんだかまるで、桃太郎から『きび団子』を渡されたキジになった気分がするな……。
「よ〜〜し、それじゃあ行きますよ〜☆ 気持ちの悪い包丁をたくさん降らせてきている、そこの貴女! もう子供の悪ふざけは、終わりの時間なんですからね〜!」
パティは三色団子の槍を右手に持ち直すと。
それを投げ槍の競技選手のように構えて。上空に浮かぶアリスに狙いをつけて、勢いよく投擲を開始した。
「いっきますよ〜! 必殺、『三色団子ミサイル』!」
想像よりも遥かに速いスピードで放たれた三色団子の槍が、空に浮かぶアリスに目掛けて突き進む。
「…………」
再び姿を消失させたアリスは、そのまま空中を移動して。地上から飛んでくる槍の軌道を避けてみせた。
頭にもふもふ猫のフィートを被っている俺には、姿を消したアリスが移動する軌跡が見えているが。
パティの投げた槍はアリスの体を捉える事なく、そのまま真っ直ぐに進んでいき。
空の向こうに飛んでいくと思われた、その時――。
「えっ……?」
「………!?」
おそらく俺も、そしてアリスも同時に驚きの声をあげたと思う。
空中を移動したアリスの体を、三色団子の槍は正確に追尾し。そのまま誘導ミサイルのようにアリスの体を追撃して、背後から見事に着弾したからだ。
””ドゴーーーーーーーン!!!””
””ドゴーーーーーーーン!!!””
””ドゴーーーーーーーン!!!””
竹串のような槍の先に刺さっていた、ピンク、白、緑の3色のお団子が、順番に炸裂して空中で大爆発を引き起こす。
フィートの視界を通して、アリスの気配を察知している俺には、アリスの体の全てが正確に見えている訳ではないが……。
おそらく意表を突かれたアリスは、今の3連続の爆発で大きなダメージを負ったであろう事が分かった。
「やった〜☆ 全弾命中ですぅ〜〜! でも、まだまだ逃しはしませんよ〜! このパティめの連続『三色団子ミサイル』攻撃を、全て美味しく喰らっちゃって下さいね〜☆」
パティの背後に、三色団子の槍が同時に6本出現した。そして誘導ミサイルと化したそれらの槍は、姿が見えないはずのアリスの体を正確に自動追尾して、空に向けて放たれていく。
たまらず、アリスは上空で高速移動を開始して。
自身の体を自動追尾してくる、6本の三色団子の槍から逃げる為に、この場から遠くに離れていった。
チョコミントカラーの騎士は、逃走するアリスを追撃する為に、自身も大空に跳躍をして。
高速移動を開始しながら、アリスの後を全力で追いかけていく。
どうやら、あのチョコミント騎士のパティには、別空間に姿を消して移動するアリスの動きが、全て正確に見えているらしいな。
しかも、爆発するミサイルとしての機能を兼ね備えたあの三色団子の槍は、無限に増産も出来るようだ。
着弾した時の威力は、マジで半端なかったし。あの見た目がスイーツな槍は、恐ろしいくらいの攻撃力を持っているのは間違いなかった。
『な、何なのにゃ〜〜! あのヘンテコな騎士は〜? めちゃくちゃ強いのにゃ〜〜!』
俺も同じ光景を見ていたフィートが、思わず驚きの声を脳内に語りかけてくる。
「ああ……確かに、半端なく強いのは間違いないな。ここはしばらく、あのチョコミント色の騎士にアリスの事は任せておこう。その間に俺達は急いで、アイリーンの治療に向かうぞ!」
俺は遠ざかっていく、パティとアリスの姿を見送った後で。周囲の安全を確認してから、傷口の塞がったセーリスを背中におぶり。
急いで先ほど右腕を切り落とされて、負傷しているアイリーンの元へと向かった。
「アイリーン、どうだ……傷は痛むか? 今、すぐに治療をしてやるからな!」
パティに手渡された、ビニール袋に入っている苺大福を俺は取り出し。その中に詰まっている、こしあんをアイリーンの傷口部分に沢山塗りこんであげた。
「店長……。ううっ、すいません……!」
少しだけ、こしあんの甘さが染みたのかもしれない。だけどアイリーンの傷口はすぐに塞がってくれた。
でも、切り落とされた右手が元に戻ったり、傷口に接合出来た訳ではなかった。どうやらパティの苺大福は、痛みを抑える効果と傷口を瞬時に塞ぐ効果はあるみたいだが……。
切断された部位を、繋ぎ合わせる回復能力までは無いようだった。
「これは一度、コンビニ共和国に戻って回復術師の香苗に診てもらわないとダメだな……。それまでしばらく、我慢出来そうか? アイリーン」
アイリーンは切断された自身の右手を白い布で包み、自分の背中にきつく巻きつけた。
「私の怪我は大丈夫です、店長! おかげさまで痛みは完全に引きましたので、なんとか行動も出来そうです」
良かった……。アイリーンが片腕だけの状態になっているのは、見ていてちょっと辛いけど。痛みが治ってくれただけでも、本当に幸運だったと思う。
「そういえばアイリーンは、あのチョコミントカラーの守護者の事を詳しく知ってたりするのか?」
「いいえ、申し訳ありません……店長。私達も、仲間の守護者の事を全て知っている訳ではないのです。ただ、この世界に出現した瞬間、その者が同じ『コンビニの守護者』であり、仲間である事は分かるのです。レイチェル様が初めて現れた時も、私はレイチェル様が私達コンビニの守護者のリーダーなのだと、瞬時に把握する事が出来ましたから」
「そうなのか。そう考えると、守護者同士の認識って、結構不思議な仕組みになっているんだな」
でも、あのチョコミントの騎士は、魔王のアリスを圧倒するほどの強さを持っているのは確かだ。おかげで俺も、少しだけ安心する事が出来そうだった。
その時、俺の手元に……何かが当たる手応えを感じた。よく確認してみると、それはコンビニ支店1号店のカプセルだった。
コンビニ支店のカプセルは、どんなに離れた距離にあっても。いずれは俺の手に戻ってくる仕組みになっている。
だから少し時間はかかったけど、今回も無事に俺のいる場所に戻ってきてくれたらしい。
俺はそのカプセルを、アイリーンに手渡した。
そしてまだ気を失っているセーリスもアイリーンに託して、玉木達の所に向かって欲しいと頼む事にする。
「アイリーン、何かあったらこのコンビニ支店1号店を出現させて、女神の泉にいる玉木達を守ってあげて欲しい。頼んだぞ! 俺はここに残ってあのパティと一緒に、必ずアリスを倒してみせるから」
「――了解しました! 店長も、くれぐれもお気をつけて下さいね!」
「ああ、大丈夫さ。あの新米の守護者は、べらぼうに強いからな。アイツと組んで、ちゃんと虚無の魔王を倒してからみんなの所に無事に戻ってみせる」
アイリーンは仲間のセーリスを背中に背負い。
俺から手渡されたコンビニ支店のカプセルを持って、急いで女神の泉へ向かっていく。
向こうでも、蘇った無数のグランデイル軍のアンデット兵達と、玉木やみんなが戦っているはずだ。
だから俺もここで、ちゃんと俺自身のやるべき事を成し遂げてみせる!
しばらくして、ちょうど女神の泉に向かって行った、アイリーンの姿が見えなくなった途端に。
追尾してくる三色団子のミサイルを回避する為に。
森の奥に逃走していったアリスが、こちらにまた戻ってきたようだった。
””ズドドドーーーーーーーーン!!!””
再び、凄まじい爆発の轟音が森の中に響き渡る。
連続する無数の爆発音が収まると。俺の目の前に、爆発で体をバラバラに吹き飛ばされて、四散したアリスの体の破片が転がってきていた。
「コンビニマスター様〜! やりましたよ〜! 無事に任務を完了しました〜! このパティめが、敵の体を再起不能な状態になるまで、木っ端微塵に吹き飛ばしてやりましたよ〜〜☆」
チョコミントの騎士が嬉しそうに、ミントのような爽やかな笑顔を浮かべて俺の前に帰ってくる。
でも、俺はそんな喜ばしい状況を確認しても。
すぐに冷静さを保ち、新参のコンビニの守護者に注意を促す事にする。
「パティ、まだ油断しちゃダメだ! そいつは回復騎士の能力を持っている。どんなに肉体をバラバラにされても、無限に復元再生が出来てしまうんだ!」
「ええっ〜!? そんなぁ〜〜!」
そう。アリスはバラバラになった自身の体を、無限に回復出来る能力を持っている。
それはつまり、どんなに酷い傷を負ったとしても。無限に肉体を自動再生出来るという事なんだ。
バラバラに飛び散っていたアリスの体が、カタカタと音を立てて動き出した。
そして、あっという間に。破片同士がくっつき合い、元の黒髪のアリスの体へと復元を完了してしまう。
「うへぇ〜、そんなのチート過ぎますよ〜! 無限に体が回復しちゃうなんて、ヤバくないですかぁ〜?」
それをチート級の強さを持つ、お前が言うなよ案件な気はするけれど……。
確かに、せっかくパティが無敵の強さで退けてくれても。無限に体を復元出来てしまうアリスを倒すのは難しいかもしれないな。
「コンビニマスター様、何かあの敵には弱点があるのでしょうか?」
パティが珍しく真剣な表情をして、俺に問いかけてきた。
「そうだな……。アリスの体には暗黒渓谷の魔王、シエルスタの心臓である魔王種子が入っている。だからその心臓を破壊する事が出来れば、敵の息の根を止める事も出来るかもしれない」
「なるほど、なるほどです〜。敵の心臓を、木っ端☆微塵に破壊しちゃえば良いんですね〜! 分かりました、コンビニマスター様! このパティめに、全てお任せ下さい〜!」
パティは三色団子の槍を空に向けて掲げると。
大きな声で、今度は別のコンビニの『人気スイーツ』を召喚し始めた。
「さぁ、さぁ、甘〜いプリンの海で、幸せな気持ちになりながら溺れちゃいなさい〜! 必殺、『焦がしキャラメルプリン』〜〜☆」
パティの呼びかけに応じて。空からトロトロの柔らかい『巨大プリン』が落ちてきた。
アリスは瞬時に体を横に移動させて、落下してくる巨大プリンを回避してみせる。
すると――。柔らかい巨大プリンが落下した地面は灼熱の溶岩の直撃を受けたかのように、高熱のプリンによって溶かされ、大地に大穴が開いてしまった。
どうやらあの巨大プリンは、敵を瞬時に溶かすくらいの、恐ろしい高温な液体で出来ているらしいな。
あんな灼熱のトロトロプリンを全身に浴びたなら、心臓も含めて、一瞬で体全体が蒸発して溶かされてしまうだろう。
アリスはこの再び高速移動を開始して、空中を移動しながらパティの攻撃を避けようとする。
「待ちなさ〜〜い! 今度は必殺、追撃の『クラシックプリン【超固め】』〜〜!!」
パティが叫ぶと、今度はカチッカチに固まった、超巨大な硬いプリンが空から落ちてきた。
それも1つや2つじゃない。連続で何個も何個も、コンビニの大きさくらいはある、巨大なプリンを召喚して。移動するアリスに直撃させようと試みる。
”ズドーーーーーーン!!”
”ズドーーーーーーン!!”
”ズドーーーーーーン!!”
おそらくあの巨大なプリンは、大きさといい、その硬さと重みは俺の繰り出す『無限もぐら叩き』と同レベルの破壊力がありそうだ。
それを無限に召喚しているパティの凄さは、マジでヤバいな……。
あのチョコミントの騎士は、その繰り出す技の一つ一つの攻撃力が本当に半端ない。
断言出来る。パティはマジで、コンビニで最強の攻撃力を持つ守護者である事は間違いない。
その機動性、攻撃力、防御力、そして回復性能を合わせても。アイリーンや、セーリスとは比較にならないほどのチート性能を持っている。
俺はそんなにも頼もしい仲間のパティを、側から見つめつつ。コンビニが秘めている戦力の凄まじさに、改めて恐怖を感じてしまった。
いつか……俺達は、北の禁断の地に潜む。
コンビニの大魔王の軍団と、戦わないといけない日がやってくるはずだ。
その時に、あのパティと同等以上の力を持った『緑色のコンビニの守護者』とも、戦わないといけないのだろうか……?
そして、本当に味方に1人も犠牲を出さずに。
俺はコンビニの大魔王と、その側に仕えているピンク髪のレイチェルさんを倒せるのだろうか?
俺は無限に巨大プリンを空から落としまくっている、パティのそばに近寄り。そっと話しかけてみた。
「……どうだ、パティ。アリスを倒せそうか?」
ゲームのように、プリン落とし遊びに夢中になっていたパティは、俺の声に気付き。
慌てて顔に笑顔を作り、返事をしてきた。
「あ、コンビニマスター様! 乙パティ☆です! うーん、そうですね……。このままならパティ一人でも十分に敵を倒せるのですが。実はちょっとだけ、厄介な問題がございまして……」
「ん? 問題って何かあるのか?」
「それが実は……その、もう私、そろそろ〜……」
その時――。
突如として、上空から大きな音が聞こえてきた。
それはパティの落としていた巨大プリンが、アリスの体に直撃した音では無かった。
無限に落ちてくる巨大プリンを避けながら。
アリスはグングンと上空に駆け上っていき。遥かに高い空の上で静止すると、再び周囲に黒い光を放ち始めたのだ。
「あ、アレは……? まさか、また『黒い太陽』の形態に変化するつもりなのか……?」
空に浮かぶアリスの体が、巨大な『黒い太陽』の形に変化していく。おそらくまた、邪悪な黒い光を地上に放ち。大地に立つ全ての生き物に対して、即死攻撃を放ってくるつもりなのだろう。
「マズイぞ、パティ……! あの黒い太陽を見るんじゃない! アレを直接目で見たら、一瞬で魂を抜かれて死んでしまうぞ!!」
「へっ……? 魂を抜かれる!? ええ〜っ!!」
クソ、マズいな。女神の泉にいる玉木達は大丈夫だろうか? もし、あの黒い太陽がまた出現した事に気付くのが遅れたりしたら……。
女神の泉に残っているみんなが、一瞬で全滅させられてしまう可能性だってあるぞ。
俺は全身から大量の汗を流し。
上空で再び暗黒の輝きを放ち始めた、禍々しい黒い太陽の姿を、地上から見つめる事しか出来ないでいた。