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第三百四十三話 幕間 レイチェルさんからのお届けもの


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「レイチェルさん、アドニスさんの治療が無事に終わりました! 傷は完治して今は疲労の為、アドニスさんは治療室のベッドでお休みになれられています」



 ここはコンビニ本店の、地下第8層。


 大病院の集中治療室から出てきた、『回復術師(ヒールマスター)』の香苗(かなえ)と、『薬剤師(ドラッカー)』の北川(きたがわ)が、待合室に集合していた、レイチェルと他のメンバー達に結果報告をする。



「お2人とも、お疲れ様です! 本当にありがとうございました」


 待合室にいるメンバーを代表して、ピンク色の髪を頭の後ろに束ねた美しい女性。

 コンビニホテルの支配人、レイチェル・ノアが深く頭を下げて、アルノイッシュ家の老執事である、アドニスの治療をしてくれた2人の勇者にお礼を告げる。



 大陸中央部にある、アルトラス連合領。


 その領土の中心部にある、アッサム要塞周辺の土地で発見された2人の負傷者達。


 彼らはグランデイル軍によって占領された城塞都市カディナから逃亡してきた、ティーナのお父さんでもあるサハラ・アルノイッシュと、サハラに仕える老執事のアドニスであった。


 2人を発見したザリルは、桂木、紗和乃が乗るコンビニの装甲車に大急ぎで負傷者を乗せて。


 猛スピードでコンビニ共和国へと帰還して、すぐに地下の大病院に彼らを運び込んだのである。



「いや〜、あと少し発見が遅れてたら、マジで危なかったみたいっすよ。ホントに無事で良かったっすよ!」



 今回の救助を、さも自分の手柄のようにレイチェルに話す桂木の事はガン無視をして。


 『狙撃手(アーチャー)』の勇者の紗和乃(さわの)は、治療を行った香苗に対して冷静に問いかけた。


美花(みか)ちゃん、それで……ティーナさんのお父さんの、サハラさんの容態(ようだい)の方はどうなの?」


紗和(さわ)ちゃん、それが……サハラさんには目立った外傷は全く無いの。でも、心に大きな傷を負ってしまっているみたいで……。自分の事や、過去の記憶も、今は全てを忘れてしまっている状態みたいなの」


「そんな……それじゃあ、娘のティーナさんの事も、サハラさんは全く憶えていないという訳なのね」



 あまりに衝撃的な出来事に、深いショックを受ける紗和乃。


 動揺している紗和乃を、慰めるように。

 長身のザリルが紗和乃の肩に、そっと手を置いて話しかけた。


「まあ、精神的な負荷による、一時的な記憶喪失って奴でしょうね。あれだけ大勢いたアルノイッシュ家の家族が全員、グランデイル軍によって殺害されてしまったんだ。それを目の前に見せられた事を思うと、親父さんが精神的に崩壊をしてしまうのは、無理もない話だとオレは思いますぜ」


 コンビニ共和国の通商担当大臣を務めるザリルが、紗和乃を近くのソファーにゆっくりと座らせてあげた。



 そう……。今回救助されたティーナの父親である、サハラ・アルノイッシュには大勢の息子や娘達が存在していた。


 グランデイル軍によって占領されたカディナの地で、その全員の生死を確かめられた訳ではないが……。

 街に侵入してきたグランデイル軍は、特にカディナの政治経済を操る、大商人達の家族を優先的に抹殺して回ったらしい。


 だからアルノイッシュ家の家族達の生存は……今の所、絶望的といわざるを()なかった。



 病院の待合室にいる、レイチェル、紗和乃、桂木、ザリル。そして、集中治療室から出てきた、香苗と北川の6人全員が、悲しい面持(おもも)ちをして床に俯いてしまう。



「……だけど、ティーナさんが無事でいる事を知ったなら、サハラさんも記憶を取り戻すかもしれないわ。だから、まだ希望はあると思う」



 紗和乃がここにいる全員を勇気付けるように、力を込めてそう宣言をした。


 確かに、サハラの娘であるティーナはまだこの世界にちゃんと生存している。


 今はコンビニの勇者である、秋ノ瀬彼方(あきのせかなた)と共に。南のバーディア帝国にティーナは赴いているが、自分の娘の健在な姿を見れば……サハラの失われた記憶も取り戻せるかもしれない。



 それでも、待合室にいる全員は暗雲たる気持ちを、完全には払拭(ふっしょく)する事が出来ずにいた。


 探していた家族が、お父さんと執事のアドニスさんを残して、全員敵に殺されてしまったかもしれない事実をティーナに告げるのは、とても辛い事に思えたからだ。



「まあ、それでもティーナ嬢が一番大切に慕っている執事のアドニスさんが生きていたんだ。それだけでも、救いはあるかもしれないですぜ」



 ザリルは紗和乃の近くに置いてあるソファーに腰掛けると。好物のコーラのペットボトルを飲みながら、一息つく事にする。


 そんなザリルの顔を見上げて。

 ソファーに座っていた紗和乃が、そっと問いかける。



「……そういえば、アドニスさんが意識を失う前に。グランデイル王家の秘密に関わる、とても重要な事実を告げてきたというのは本当なの、ザリル?」


「ああ、そうですぜ。なにせアドニスさんは実は凄腕の剣士でもあったし。そして何よりも驚いたのは……アドニスさん自身が、グランデイル王家の血を引く人物でもあったって事ですぜ」


「――ええっ!? アドニスさんがグランデイル王家の血を引くって、それ……本当なの!?」



 ザリルの衝撃の発言に、驚きの声を上げる一同。


 ザリルは、まだアドニスさんが気を失う前に。自分に話してくれた事を、レイチェルさんを含め、ここにいる全員に丁寧に説明をする事にした。



 アドニスさんの話によると、なんでもグランデイル王家は、王家の血を引く『純血の継承』にとても厳しい家柄らしい。


 その為、分家(ぶんけ)などの王家の親戚筋は、何らかの理由をつけられて。ことごとく王家から追放をされたり、処分をされてしまう事が多いようだ。


 グランデイル王家は大昔から、異世界から召喚した勇者との婚姻関係を結び。王家の子孫に、遺伝能力者を誕生させる事を目的とする古い伝統があるらしい。



「つまり、遺伝能力(アンダースキル)を発現させなかった王族は……、役立たずの用済み扱いにされてしまうって事なの?」



 紗和乃が、ザリルに問いかけた。



「……表向きは、公職を『引退した』事にさせられるらしいですがね。実際はグランデイル城の地下に幽閉されて、人知れず処分されていた王族も過去には大勢いたみたいですぜ」



 ザリルの重過ぎる話を聞いた全員が、その場で思わず唾をゴクリ飲みこみ、黙り込んでしまう。


 現在の女王のクルセイスは、幼少の時から強い遺伝能力を発現していたらしく。無能力者だった自分の実の母親と父親を、側近の大臣を利用して殺害させたという不吉な噂もあるようだ。


 そして、そんな恐ろしい伝統が渦巻くグランデイル王宮の中で。

 アドニスさんは、王家の血を引く1人の女の子の赤ちゃんを王宮からさらって、外に連れ出したらしい。



「おそらく、その女の子の赤ちゃんにも強い遺伝能力(アンダースキル)の素質があり。幼少期から性格の激しかったクルセイスにその事が見つかり、自分のライバル扱いをされて密かに処分されてしまうのを、アドニスさんは未然に防いだんでしょうぜ」


「……えっ? 遺伝能力を持つ、グランデイル王家の血を引く女の子の赤ちゃんを、アドニスさんが外に連れ出したって。それって、まさか……?」



 全員が両目を見開いて、驚愕の声を上げる。


 おそらくここに集まる全員が、同じ一つの『仮説』を、頭の中に思い浮かべたからだろう。


「まあ、アドニスさんはその点についてを語る前に、意識を失ってしまいましたがね。オレはティーナ嬢が、そのグランデイル王家の血を引く女の子なんじゃないかと思ってるんですよ。つまり、クルセイスとは血の繋がりのある、異母姉妹って事になるのかもしれませんぜ」


「そ、そんな……!? じゃあ、アドニスさんが幼少の頃からティーナさんのお世話をしているのは、そういう理由があったからという訳なの?」


「んー。もしそうなら、ティーナさんにはグランデイル王家が代々引き継いできた、強い遺伝能力が眠っている可能性があるかもしれないっすね。もしかしたら、あのクルセイスよりも強力な能力を持っているのかもしれないっす!」



 うーん……。


 全員が腕を抱えて、待合室で考え込んでしまう。


 もし本当に、ティーナがグランデイル王家の血を引くのなら。ティーナが潜在的な遺伝能力を持っていた事にも(すじ)が通る。


 むしろ親戚も含めた家系の中に、誰1人として遺伝能力を発現させていない、アルノイッシュ家の中で。ティーナだけが遺伝能力を秘めていた事に対する、最も的確な理由が今回、判明をしたのではないだろうか?


 グランデイル王家を飛び出したアドリスさんは、一体どのような形で、カディナの大商人であるアルノイッシュ家の中で働く事になったのだろう。


 そして、ティーナの母親は出生時に亡くなっているという話を本人から聞いてはいたが……。


 グランデイル王家の血を引くアドニスさん達を匿う為に、カディナの街の中で内部から手引きをした存在がいたのだろうか? 



 考えるほどに、謎はますます深まるばかりだ。



 そんな病院の待合室の中の、重苦しい空気を解放するかのように。

 

 コンビニ共和国の暫定大統領でもある、レイチェルさんが改めてみんなに対して声をかけた。


「皆様、今はここで事の真相を考えていても、答えは出ません。また、アドニス様が目を覚まされた時に、改めてその件につきましてはお尋ねする事にしましょう」


「そうですね……。今の話は全て私達の憶測でしかないのだもの。みんなも決して他言はしないように気をつけてね! 特にグランデイル王国にその情報が漏れてしまったら、ティーナさんの身にも危険が及んでしまう可能性があるのだから」


「わ、分かったっす……! 俺、絶対に今の話は秘密にするっす。他のみんなにも話さないようにするっす!」


 桂木や紗和乃、そして香苗や北川達は改めて、グランデイル王家の血を引く可能性があるティーナの件については、真相が分かるまでは互いの胸の中に秘めておく事を誓い合った。


 その様子を見て安心したのか、レイチェルはホッと胸を撫で下ろし。


 サハラとアドニスの救出に尽力してくれたザリルに、改めて礼を述べる事する。


「ザリルさん、ありがとうございます。引き続き、カディナ方面の偵察をよろしくお願いします!」


「任せてくださいよ、あそこはオレの故郷みたいなものなんでね! うちの部下達も、相当数カディナの中に潜入をさせてますから、内部の情報は全部筒抜けになっていると思って構わないですぜ!」



 相変わらず謎の人脈を多く持つザリル。その凄さに、コンビニメンバー達は驚きの顔色を浮かべる。


 一体、ザリルにはどれほど沢山の部下達が仕えていて。そしてそれらの人々を、あちこちの街にスパイとして送り込んでいるのだろうか。


 ある意味、コンビニ共和国に対して潜入を試みる女神教や、グランデイル王国からの密偵を全て未然に防いでくれているのは……。


 ここにいる悪人(づら)がよく似合う、ザリルの功績なのかもしれなかった。



 病院の待合室にいる全員が、ようやく落ち着きを取り戻した時。


 レイチェルは、そっと『回復術師(ヒールマスター)』の香苗美花(かなえみか)に小さな声で耳打ちをする。


「……香苗様、実は私と一緒にコンビニの地上階にまでご一緒して欲しいのですが、よろしいでしょうか?」


「えっ、私ですか? ハイ、レイチェルさんの頼みでしたら、喜んで……!」


「ありがとうございます、香苗様。では皆様、私は香苗様と共に行くところがありますので。北川様、引き続きサハラ様とアドニス様の治療をどうか、よろしくお願い致します!」



 レイチェルは、病院の待合室に揃うメンバー達の中から、香苗美花だけを連れ出して。

 2人でエレベーターに乗り込み、コンビニの地上階へと向かう事にした。



 ”ウイーーーーン”



 地下8階の病院エリアから、グングンとスピードをつけて地上1階に登っていく高速エレベーター。


 初期の頃に比べると、コンビニ本店のエレベーターはだいぶ大きくなったし、その数も随分と増えている。


 だから、昔のようにエレベーター待ちで大行列を起こすという事も無くなってはいたのだが……。


 回復術師の香苗は、広いエレベーターの中で美しいレイチェルと2人きりでいる事に、とても緊張をしているようだった。


 このまま無言でエレベーターの中にいるのも、少し気が引けるので。

 香苗は思いついた事を、レイチェルに聞いてみる事にする。



「……レイチェルさん。そういえば、共和国の外で暴れていた『黒ヘビの暴走』の件は、大丈夫だったんですか?」


「ええ。ちょっとだけ手こずりましたけど、今は私が黒ヘビを制御して押さえつけています。ですので、どうかご安心して下さい」



 ピンク色の髪が美しいレイチェルさんは、香苗の方に向き直り。エレベーターの中で、ニコリと微笑んでみせた。


 そのあまりにも美しい微笑みに、香苗は思わずドキッと胸を高鳴らせてしまう。



 ――実は、ザリル達がコンビニ共和国に戻ってくる直前に。コンビニ共和国には、ちょっとした『珍事件』が起きていた。


 突如、巨大な『黒ヘビ』が街の外に出現し。

 市街地の外をぐるぐると回転して。地面をのたうち回るように暴れ続けていたのだ。


 暴走する黒ヘビは、決して共和国の住民に危害を加えないように、無人の大地を這い回っていた為。幸い、街の人に怪我人などは一切出なかったのだが……。


 巨大な黒ヘビを遠隔操作で操れるのは、コンビニの勇者の秋ノ瀬彼方(あきのせかなた)だけである。



 その事を知っているレイチェルは、バーディア帝国に向かった彼方(かなた)の身に……何かしらの危機が訪れている事を察し。

 すぐに高速アパッチヘリ複数機を、カルツェン王国に滞在するアイリーンとセーリスの元に向かわせた。


 そして、コンビニの守護者達を、帝国領南部にいる彼方(かなた)の元へとヘリで向かわせたのであった。



「バーディア帝国領に赴かれた、総支配人様の身に何かしらの危険が生じているのは間違いありません。黒ヘビを操れるのは総支配人様だけです。だからきっと、アレは私に宛てた総支配人様からの『SOS』のメッセージなのでしょう」



 レイチェルは、エレベーターの中で香苗にそう説明をした。



 遠い帝国領で、コンビニの勇者の彼方の身に危険が生じている。


 その事態を聞いて、香苗は遠い帝国領にいる彼方達一行の無事を、コンビニ共和国の中で祈る事しか出来ないでいた。



 やがてエレベーターは、コンビニの地上階へと到着する。


 そこでは、『火炎術師(フレイムマジシャン)』の杉田が2人を待っていた。


「レイチェルさーん、やっと黒ヘビが大人しくなってくれたんで、街の人達の不安もだいぶ解消されたみたいです!」


「そうですか、それは本当に良かったです」


 コンビニ共和国の生活担当大臣を務めている杉田の元には、コンビニマンションを始めとする共和国の住民達からのクレームが多く集まってくる。


 だから今回の謎の巨大生物、『黒ヘビ』の暴走事件についても。

 不安に駆られた多くの住民達からの声が、杉田の元に一斉に届けられていたのだ。


「でも、その問題の『黒ヘビ』なんですけど。今はなぜかコンビニ本店の前に来て、大人しく体を横たえているみたいなんですけど……。レイチェルさん、その辺りの事情を何か知ってたりしますか?」


「私が黒ヘビをコンビニ本店前に呼びました。だから、その件は気にしなくても大丈夫ですよ」


「えっ、レイチェルさんが……?」



 レイチェルの言葉に思わず驚く、杉田。


 あれだけ巨大な大きさを誇る黒ヘビが、共和国の中心部にあるコンビニ本店のすぐ隣にまでやって来て、体を横たえているのだ。

 よっぽど爬虫類好きな者でもなかったら、その姿を見て。不安に思うのは当然の事であった。



「杉田様……。実は地下1階に大切な忘れ物をしてしまったのですけれど。大変申し訳ありませんが、ソレをとって来てくれますでしょうか?」


「――えっ、別に良いですけど。大切な物ってどんな物なんですか?」


「見た目は小さな赤い宝箱の形をしていますので、見ればすぐに分かると思います。ぜひ、お願い致します」



 杉田は『お安い御用ですよ』と言い残し。

 すぐにエレベーターに飛び乗り。地下1階に向けて降下していった。



 その為、コンビニの店内には、再び香苗とレイチェルの2人だけが取り残された状態となる。



 そして、レイチェルはなぜか……。

 コンビニ本店の全ての窓に、防火シャッターを下ろして。店の内部を外から見えないようにし始めた。



 急に店内が暗くなり。不安になった香苗は、おそるおそるレイチェルに声をかけてみる。



「れ、レイチェルさん……? あのぅ、これは一体何をしているのでしょうか?」


「ところで、香苗様? 『丸呑(まるの)み』という言葉をご存知ですか?」


「へっ? ま、丸呑(まるの)みですか……?」



 レイチェルの口から発せられた、謎のキーワードを聞いて。

 香苗は両目を何度も瞬きさせて、思わず口をポカーンと開けてしまう。


「……総支配人様のいる世界では、異世界で美少女が大きなカエルだったり、ヘビの口に飲み込まれてしまう姿に興奮を覚えるという書物が、多数あったりするそうなんです。なかなか変わった趣向だとは思いませんか? 香苗様はそういう『丸呑(まるの)み』という趣向について、ご興味があったりされますか?」


「し、し、知らないです……そんなのっ! そんな事のどこに興奮が出来るのか、私には全く理解が出来ません! それに私、爬虫類とか(だい)の苦手ですし!」



 焦りと不安を覚える香苗に、レイチェルはクスクスと笑いながら。まさにヘビのようにジリジリと怯える香苗に詰め寄っていく。


「うふふ。実は私もです。でも、貴重な人生で……1度くらいは、大きなヘビに『丸呑(まるの)み』されてみるのも、ロマンがあって素敵だとは思いませんか♪」


「えええっ!? れ、レイチェルさん……さっきから一体、何を言ってるんですか? 私は絶対にそんなの嫌ですよ! だってヘビの口の中に飲まれたら、消化されて体が溶かされちゃうじゃないですか!」


「それは、大丈夫です。口の中の消化液で溶かされないように、レイチェル特製の『巨大カプセルボール』を、昨日徹夜で夜なべをして作成しておきましたから。このカプセルボールの中に入れば、あら不思議♪ 蛇の体内に飲み込まれても、数日くらいなら溶かされずに生存が出来るのです!」


「数日経ったら、消化されちゃうんじゃないですか! 私は嫌です!! 絶対に丸呑みなんてイヤです!」



 額から冷や汗を流す香苗は、コンビニの店内の隅へと追い詰められてしまう。


 その様子はまさに、ヘビに睨まれ。追い詰められて身動きの取れなくなったカエルのような状態だった。


「そんな事を言わずに……。ちゃんとカプセルの中には甘いチョコレートや、温かい毛布。時間つぶしの出来る、快適な読書セットも入れておきましたから! 黒ヘビは時空間移動も出来ますし、きっとすぐに目的の場所に辿り着く事が出来ますから、どうか安心して下さいね、香苗様☆」


「いや、いや、いやああぁぁぁ〜〜! レイチェルさんが私を無理矢理、大きな蛇に飲み込ませようとしている〜! た、助けて、彼方くん〜〜!!」





 しばらくして――。




 ”チーーーン”。


 

 エレベーターが地下1階から地上に戻り。

 小さな宝箱を脇に抱えた、杉田が戻ってきた。



「――あれ? レイチェルさん、香苗は?」


「ええ。ちょっと用事を済ませに、外に出かけられたようですよ」


「そうなんですね。アレ!? コンビニの外にいた黒ヘビがいつの間にか消えている!!」


「ええっ? それは、実に不思議ですね! きっと『美味しいもの』を食べて満足したから、気分転換にどこか遠くの帝国領南部の森林地帯にでも、大急ぎで向かったのかもしれないですね☆」



 なぜか嬉しそうに、クスクスと笑いながら。

 まるで他人事のように話す、レイチェルの様子に困惑をしつつも。


 杉田はお願いされていた赤い宝箱を、レイチェルに手渡した。


「え、えーと……。まあ、これで街の人達の不安も解消されたでしょうから、黒ヘビ問題が解決したなら俺としては助かりますけど」



 杉田から宝箱を受け取ったレイチェルは、コンビニの店内から遠くの空を1人で見つめ続ける。


 そして、杉田には聞こえないように。


 小さな声でそっと遠くの空に向けて囁くのだった。



「どうか、総支配人様に私の『お届け物』が届きますように。大切な仲間の皆様がお怪我をされていないように、心からお祈りをしておりますね……」


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