第三十四話 異世界の勇者 対 異世界の勇者
「――彼方様、到着しました! ここが『魔王の谷』と呼ばれている場所です」
「うおおっ、凄いな! 谷の底が全然、見えないじゃないか……」
俺達がカディナの街を離れてから、約1週間。
今は西方諸国へと向かう道中にある最大の要所、『魔王の谷』にまでやって来た。
目の前には、見渡す限り広大な荒野が広がり。その中心部には巨大な大地の裂け目が、まるで貝殻が大口を開けているかのように横に広がっている。
そして、その大地の裂け目の底には――。
白い綿飴のような濃い霧がびっしりと広がっていた。上から見下ろすと、谷の底の様子は白い霧に完全に塞がれてしまっていて、よく見えないな。
「結構、深そうだな……。ここに落ちると、絶対に生きて戻っては来れないという訳なのか」
「ハイ。実際にこの谷の底に入って、戻って来た人は誰もいないと昔から言われています。この魔王の谷の底に住まう魔物は、他の魔物とは比べものにならない程に強大で恐ろしい魔物達なんだそうです」
それは怖いな。そんな恐ろしい魔物がうようよいる世界なんて、俺には想像も出来ないぞ。
「ティーナ、魔物にもそれを生み出した魔王によって、レベルに違いがあるって事なのか?」
「私も詳しくは分かりません。でもこの谷の底には、かつてこの世界全てを支配したと言われる、最強の魔王に仕えていた魔物達が、今もまだ多く生き残っているのだと言われているんです」
「この世界の全てを支配って……。よっぽどその大昔の魔王は凄い奴だったんだな。でも、そんな化け物をよく当時の人々は倒せたな?」
「どのようにしてその魔王が死んだのかは、古い書物の中にも全く記されていないのです。ですが、そういう恐ろしい魔王が過去にこの世界にいた、という事は確かなようです」
俺とティーナは、いったん馬から降りて。谷の方に近づいてみる。
裂け目のライン、ギリギリから谷底を見下ろして見ると……。
たしかに底の方から、何か恐ろしい雰囲気がビシビシと伝わってくるな。
俺には強力な魔物を探知するような能力なんて、もちろんないけどさ。何かこう……生物の本能的な部分が、この下には行ってはいけない! って訴えてくるのを感じるんだ。
だからおそらく今も、『恐ろしい何か』がこの谷底に潜んでいるのは間違いないのだろう。
「――あれ? そういえば玉木は?」
俺はふと辺りを見回す。
さっきまで近くにいたばずの玉木の姿が見つからない。
「玉木様でしたら、先程、谷の周囲を見てくる……と、お一人だけで見学に行かれたようでしたけど」
「まーた、アイツは一人で勝手な行動をして……」
玉木は異世界の珍しい場所に来ると、すぐに一人で周辺の散策に行ってしまう癖があった。
きっとスマホとかカメラなんて持ってないくせに。
元の世界でのイン◯タ映えを気にする癖があって、珍しいモノを見つけたらすぐに観察をしに行くのが身に染み付いているんだろうな。
「ティーナ! 俺は玉木をちょっと探しにいってくるよ! ここで待っていてくれるか?」
「はい、分かりました! 私はここで彼方様と玉木様のお帰りをお待ちしていますね」
「うん、ありがとう! すぐに戻るよ!」
ふう、全くやれやれだ……。
ここが危ない所だってのは、玉木にだって分かるだろうに……。
うっかり落ちそうになって「助けて〜〜!」みたいな展開になっても、俺はさすがに助けにいかないからな。
うん。出来る事なら本当にこの谷の底には降りたくはない。
それくらいにこの『魔王の谷』の底が、ヤバいのが俺にも分かる。この下にはきっとあの『カディス』を超えるくらいにヤバい魔物達が、わんさかと待ち構えているに違いないんだ。
俺は、玉木を探して……。
魔王の谷の裂け目沿いに、しばらく道なりに歩いていると。
とうとう、お目当ての玉木の姿を少し離れた場所で見つける事が出来た。
だが、俺の予想に反して。
そこにいたのは、玉木一人だけではなかった。
俺がこの世で最も見たくないと願っている……2人のクズ野郎コンビの片割れが、そこにはニヤケ顔で俺を待っていやがったんだ。
「やっほーー! コンビニくん、久しぶりぃだねぇ〜! やっぱり生きていたなんて、君も相当運が良いんだね〜〜! また生きて再会出来るなんて僕はホントに感激だよ〜! 不思議と涙は全然出ないけどね!」
俺の視界にうっかり入り込んでしまったのは……。
顔面蒼白な顔で、その場に立ち尽くしている玉木と。
1軍の選抜勇者である『水妖術師』の能力者、金森準だった。
そしてその側にはもう一人、見慣れない女性が立っていた。この世界では珍しい、眼鏡をかけた黒髪の女性だ。
(……ん? アイツはたしか、見覚えがあるぞ)
たしか、俺達と同じクラスメイトの……。
「じゃじゃーん! 何と今日は僕一人だけじゃないんだよ〜! 何と女の子同伴でここに来ているのさ〜。ここにいるのは『結界師』の能力者、名取美雪さんで〜〜す! もう半年ぶりになるけれど、コンビニくんはちゃんと彼女の事を、憶えてくれているかなぁ〜?」
「………………」
眼鏡の女性が、無言でこっちを見つめてくる。
ああ、なるほど。
金森が、ご丁寧に紹介をしてくれたので、俺はそいつの事を思い出す事が出来た、
「……同じクラスの名取か、思い出したぞ」
名取美雪。
たしか茶道部に入っていて、地味で無口な眼鏡っ娘だった奴だ。
だが、この眼鏡っ娘の事を思い出す時は、もう一つだけ、別に大きな特徴があった事を俺は思い出す。
それは、彼女は委員長である倉持の熱烈なファンで。いっつも倉持のいる所に、無言でついて回る不思議な女の子だった……という事だ。
他の女子生徒みたいに、ストレートに倉持に告白をして撃沈する訳でもなく。かといって、倉持と笑顔で話している訳でもない。
ただストーカーみたいに、ずっと倉持の後ろに引っ付いて回り。まるでアイドルの追っかけみたいな行動を、学校の中でずっとしていた変な奴だった。
その名取が選抜メンバーで、しかも……『結界師』の能力者だって?
「これはマジで一番厄介な奴が、向こう側についちまったな……。ゲームの開始段階から既に『私は倉持くん陣営ですよ』って、無条件で敵側に色分けされているような奴じゃないかよ」
そんな無口系眼鏡娘のそばに、俺達、コンビニ陣営の元気娘である玉木が立っていた。
だが、何か様子がおかしい。
それこそ、無口な名取とは対照的に。
元気が取り柄で、おしゃべり大好きな玉木が言葉を何も発しないで、こちらに向けて何かを話そうとずっと口をモゴモゴとさせているのだ。
玉木は俺に向けて、何かを話したいようだが……。
その声はこちらには何も聞こえてこない。
よーく見ると、名取の周囲には青色の薄い光に包まれたピラミッド型の大きな立方体が形成されている。どうやらその中にいる玉木は、その青い光によって閉じ込められているようだった。
なるほど、そういう事かよ。
玉木は敵の能力、この場合は『結界師』の名取の能力だろうな……。
その名取の能力にアホみたいに捕まって、玉木は今、身動きも出来ず話す事も出来なくなっている状態――という訳なのか。相変わらず、ドジな奴だな。
「美雪さんは、凄く器用なんだよ〜! 『広域結界』で、対象である異世界人の場所を探し出す事も出来るし、こういう『範囲結界』で、相手を閉じ込めて能力を封印させたり、力を抑え込む事も出来るんだ〜!」
ほーう。それはたしかに便利だな。
ご親切に、『結界師』の能力を詳しく解説してくれてありがとうよ。
玉木が持つ、特定の対象をずっと追いかける事の出来る――『索敵追跡』の能力に対して。
名取は広域の範囲内にいる、特定のグループを探し出す事の出来る能力……って訳か。
「………………」
俺は名取を睨みつけるが、全然反応を示さない。
同じクラスメイトの玉木を能力で縛り付けているのに、何も罪悪感を感じていなさそうだな。……って事は、やはり完全に倉持陣営の手先って事か。
まあ、普段から何を考えているのか、よく分からない奴だったからな。
この場合、相手が女の子だから話し合いが出来る。きっと説得も出来るはずだ――みたいな淡い期待はしないでおいたほうが良さそうだ。むしろコイツは、倉持の為なら何でもするってオーラが全開で漂っているような奴だからな。
「さあさあ、副委員長はもう手に入れちゃったけど、コンビニくんはどうしょうかな〜〜! だって、グランデイル王国で強姦だったり、強盗だったり、とんでもない悪事をたくさん働いた大悪党なんでしょう? じゃあ、1軍の勇者様であるこの僕の正義の裁きを受けてもしょうがないよね〜〜?」
「……お前は、それを本当に信じているのか?」
俺の問いかけに対して、金森は悪びれた様子もなく、
「えっ? もちろん信じてるよ! だって尊敬する委員長がそう言ったんだもの〜! 僕達クラスの委員長が言った事は、同じクラスメイトとしてやっぱり信じるべきだよね〜? エヘヘッ〜! だからコンビニくんを、僕は好きにして良いんだよね!」
……よし!
コイツは、しばいて良し!
今ならガトリングショック砲を2時間くらいぶっ続けで、金森に向けて撃ち続けたい気分だぞ。
だが、それも今はちょっとばかし難しいな……。
こっちは玉木を人質に取られている。それに向こうも異世界の勇者だ。しかも2人がかりだし。
玉木と俺がタッグを組んで戦えるのなら、勝ち目もあるだろう……。だが、今回は先に玉木を捕らえられていて、明らかにこちらの方が不利だ。
唯一の勝算は、アイツらは俺のコンビニがパワーアップしてるのを知らないって所だが……。
そもそも異世界の勇者同士が戦う場合、どうすれば勝利になるんだ?
最悪、相手を完全に倒す。という事も念頭に置いておく必要があるだろうな。金森や倉持を普通の人間と同等に考える甘えは捨てておくべきだ。こいつらは、本気で人を殺してしまえる化け物コンビだからな。
「ねえねえ……。たしかコンビニくんの後ろにある怖そうな雰囲気の谷は、とっても危ない場所なんだよね? この場所の事は、勇者育成プログラムの講義で僕も習ったよ! 一度落ちたら……二度と登っては来れない地獄のような場所なんだってね〜?」
「ああ……。だとしたら、どうだって言うんだ?」
「うん。ギリギリ、コンビニくんを谷底に落とさないように『押し寄せる水を全力で避け続けるゲーム!』をしようよっ! きっと楽しいよぉ〜! ……ねえ? 美雪さんだってそう思うでしょう?」
「………………」
その無口系眼鏡っ娘に同意を得ようとしても、俺は無駄だと思うぞ。
そいつには、普通の感情があるのかも怪しいしな。
でも、なるほど。
金森得意の放水攻撃で、俺を谷底に落とそうって訳か。
もちろん、金森の性格だからな。
すぐに谷の底に落としてはつまらないので……。
俺が「助けてー! 金森くーん、もうやめてーーっ! どうかお許しをーーっ!」って、情けなく命乞いをして泣き叫ぶのを期待してるんだろうな。
それでギリギリまで遊んで最後には、「アハハっーー! それーーっ! それーーっ!」って笑いながら、谷底に落とすつもりなんだろう。このサイコパス野郎め。もう見え見えなんだよ、お前達の思考はさ。
金森がニヤァ……と、ねちっこい笑い顔をしながら、ジリジリとこちらに近づいてくる。
俺と金森はしばらく互いに睨み合い、間合いを詰めていたが――。
先手を打ってきたのは、まず金森の方だった。
金森はこちらに向けて、大きく手をかざすと……。
「まずは、少しずつ僕の水を味わわせてあげるよ! これでも食らえッ! ――『暗黒水流』!!」
ほんの一瞬だけ……金森の手先が、金色に光ったように俺には見えた。
「―――いでよ、コンビニーーッ!!」
俺はすかさず、正面にコンビニを出現させる。
金森がこちらに向けて、物凄い轟音を伴った大量の水の濁流を放出させてきた。
……だが、激しい水流は俺の正面に出現したコンビニの建物に弾かれて……。左右二手に切り裂かれるようにして、背後の谷底へと流されていく。
『水妖術師』の能力で放出された激しい水流は、数十秒間は続いたが――。
その全てがコンビニによって弾かれ、ただ谷底へと押し流されていくだけだった。
やがて、金森が放水をいったん止める。
俺も目の前のコンビニをいったん収納して、前方にいる金森を再度睨みつけた。
「へえ……。そうやって盾みたいにコンビニを使うんだ。何だか、僕は戦い慣れてますみたいなそのドヤ顔が、すっごく気に入らないね」
「実際、戦いには慣れているからな。それも、全部お前と倉持のおかげさ。俺はこの異世界で命を失いかねない危険を、これまでに何度も乗り越えてきたからな!」
実際にそうだ。
ここにはいないが、倉持と目の前にいるアホのおかげで。
俺はここまで成長をして来たと言ってもいい。そして、その度に俺のコンビニもレベルアップを重ねてきたんだからな。
「その顔………気に入らないって、言ってるだろおおおおおおっ――――!!」
今度は金森がマジでキレたらしい。
これはいつものニヤケ顔じゃないな。
本気で、俺を『殺し』に来ている顔だ!
金森が大きく手を振り上げて。その手を俺に向けて再度、思いっきり振り下ろす――!!
俺は再び、正面にコンビニの盾を出そうと身構える。
名取の結界に閉じ込められて、言葉を発せれない玉木が「ゔ〜〜! ゔ〜〜!!」と、うめき声をあげている。
そして―――。
「……………??」
俺も。
そして、玉木も名取も。
3人が――。
ただ口を揃えて、唖然とする事しか出来ない。
いや、だってそうだろう――。
突然、金森がその場で急に動きを止めて。その後、身動き一つもせずに、完全に固まってしまったのだから……。
「えっ……? これは一体、どういう事なんだ!?」
金森の奴……一体何がしたいんだよ??
こんな事、全く予想も出来る訳がない。
だっていきなり目の前の金森が動きを止めて――。
しかも、そのままその場で固まって、全く動かなくなってしまったんだぞ。
おーい、金森さーん!
生きてますかーー?
いや……お前、さっき明らかに何か大技を俺に向けて出そうとしていたよな?
一体どうしたんだろう? 何か、繰り出そうとした大技を間違って失敗でもしたのだろうか?
しばらく俺や、玉木、そして名取も含む3人が、呆然とし続ける。
その謎の沈黙は、おおよそ10秒間くらいは続いただろうか……?
――すると、突然……。
「プハァ……!?!? はぁっ……はぁっ………!!」
金森が、まるで今まで水の中で溺れてでもいたかのように。
深い深呼吸を繰り返しながら、その場で咽びながら息を吹き返す。
きっとさっきまで止まっていた間、ずっと呼吸をしていなかったんだろうな。
マジで今にも死んでしまいそうなくらい、顔面蒼白な様子で、金森は苦しそうに悶えている。
そして、ゆっくりと呼吸を整えると……まるで親の仇のような形相でこちらを睨みつけてきた。
「――今、一体、僕に何をしたんだコンビニーーッ! さっき……ぼ、僕の意識が……。完全に、消えてしまっていたじゃないか――っ!!!」
はあ? いやそんな事を言われても……。
すまん。マジで俺にはお前が何を言っているのか全然分からん。
だって、本当に俺は何もしていないんだぞ……。
意味不明なのはむしろこっちの方だ。
さっきから完全にお前だけの一人相撲で、こっちは全く意味不明なんだが……。
ほら、横にいるお仲間の名取の顔を見てみろよ?
そいつだって訳が分からずに、さっきから目をずっとパチクリさせているじゃないか。
そんな俺と金森の間に、突然、割って入る叫び声がした。
「彼方様ーーっ!! ご無事ですかーーっ!?」
声の方向を見ると、そこには岩陰に隠れたティーナがいた。
きっと大きな音がしたので、心配でここまで来てしまったのだろう。
しかし、その声の方向を見つめた金森が再び陰湿な笑みを浮かべる。
「……へえ〜。何だか、あの小娘……。コンビニくんの事を、ずいぶんと慕ってそうな雰囲気だね〜!」
さっきまで怒りで顔を真っ赤にさせていた金森が、またいつものニヤケ顔を取り戻す。
そして、俺は本能的にティーナの危険を察知した。
「ティーナ!! ダメだ、ここから急いで逃げるんだ!! ここにいるとマズイ事に――――!」
……クソッ! 遅かった!!
俺が叫ぶよりも早く、先に金森が叫び声をあげていた!
「はっはーー、死ねーーーっ!! 『暗黒水流』ーー!!」
今度の金森の攻撃は本物だ!
以前にグランデイルの街で、俺のコンビニの中で流した水流なんかよりも――遥かに勢いがある。
大地を削るような、凄まじい激流が――。
岩裏にいる、ティーナに目掛けて大量放出される!
「か……彼方様………!」
「ティーナーーーーーー!!!」
俺は、必死でティーナに向けて手を伸ばす……。
……だが、わずかに届かない!
当たり前だ。
コンビニの勇者には、ティーナが立つ場所にまで、一瞬で駆け寄れるような身体能力はないのだから!
「きゃあああああーーーーっ!!」
ティーナの身体が、勢いよく流れる激流の中に飲みこまれていく――……。
そして、その身体は谷底へと落ちていく……。
……その時、俺に一切の迷いはなかった。
(――どうすれば、みんなが助かる?)
そんな考えは、微塵も浮かんでこなかったな。
俺はただ、無我夢中でティーナに手を伸ばして――、
気付いた時には……。
俺の体もティーナと一緒に、谷底へと落ちていっていた。
それからの事は、あまりよく思い出せない……。
人間、必死になると。マジで何も考えられない、頭が空っぽになるってのは……本当だったんだな。
覚えているのは、空中で落ちていくティーナの身体を俺はしっかりと抱きしめて――。
そうだ。たしか……『コンビニ』を、俺達が落ちる真下の方向に向けて出現させたんだ。
そのまま、空中でコンビニの中に引っ張られるようにして落ちた俺とティーナは……。コンビニの中で、なぜか自由に動く事が出来た。
きっとコンビニの店内は、外の空間とは切り離された何か別の力が働いていたのかもしれない。
重力を無視して、店内を自由に動き回る事の出来た俺は、気を失っているティーナの身体を担いで。新しくコンビニに出来た耐久設備――『地下シェルター』の中へと急いで避難した。
そこまでの動作をするのに……。
一体、何秒を費やしたのだろうか?
5秒くらいか?
それとも10秒か――?
……分からない。
でも、全てが一瞬の事だったと思う。
俺がそれらを、考える余裕もなく――。
コンビニと共に俺とティーナは、『魔王の谷』の谷底へと落ちていき……。
”ズドーーーーーーーーン!!!!!″
大きな衝撃音が俺の耳に鳴り響いた。
俺の意識はそこで、完全に途絶えた。
後はもう、何も覚えていない。
ただ、真っ暗な宇宙空間の中を漂うかのように……俺はそこで静かに眠りについたのを覚えている。