第三百三十四話 最高のパートナー騎士
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とうとう旅の最終目的地である、『女神の泉』へと辿り着いたコンビニメンバー達。
丘の上から下を見下ろしてみると。泉の周辺には既に夜月皇帝ミュラハイトが引き連れている、屈強なライオン兵達の大軍勢が到着していた。
ライオン兵は、たった一匹で普通の人間の騎士100人を同時に相手に出来るほどの力を持った猛者達だ。
このような凶暴な軍団が世に解き放たれてしまえば、この世界はたちまち大混乱に陥ってしまうだろう。
バーディア帝国の皇室に代々伝わる転移石のゲートを使用して。夜月皇帝はどうやら、ライオン兵達の大軍と共に、ちょうど女神の泉にやって来たばかりの所らしかった。
それでも数千を超えるライオン兵が、もう泉には集結している。幸いなのは、近隣の村々から連れ去られてきた村人達が、ここにまだ来ていない事だろうか。
女神の泉を見下ろせる丘の上に、隠すように置いたコンビニ支店の屋上に立ち。
コンビニの勇者の秋ノ瀬彼方は、真下に広がる光景や見て、悔しそうに小さく舌打ちをした。
「くそっ……。どうやら早朝に女神の泉を、夜月皇帝よりも先に奪取する作戦はもう諦めるしかないようだな。だけどそれも全て、俺の想定内だ。まだ全然大丈夫だから、みんな気を引き締めて取り掛かろう!」
彼方は、くるりと後ろを振り向き。
彼と共にここについてきてくれた、心強いコンビニの仲間達全員の顔を見回しながら宣言する。
「よし! これからプラン2を実行するぞ! ティーナ、ククリア、アリスの事務方チームはこのコンビニ支店と一緒に丘の上で待機。俺が合図をするまで、女神の泉周辺の地形の測量と『例のモノ』の設置を頼む!」
「分かりました、彼方様!」
「お任せ下さい、コンビニの勇者殿」
「ハイ。私も微力ながら、ティーナさん、ククリアさんのお手伝いをさせて頂きますね。コンビニの勇者様!」
彼方からの指示を受けた、ティーナ、ククリア、アリスの3人がお互いの顔を見合わせて。その場で力強く頷いてみせた。
「……他のメンバーは全員、それぞれの作戦通りの配置についてくれ! グランデイル軍が迷いの森にやって来るよりも先に、ここで決着をつけるぞ!」
「分かったわ、彼方。私に任せてね!」
「ラジャ〜なのにゃ〜。でも後で、ご褒美のサバ缶よこせなのにゃ〜!」
「僕と美雪さんも了解をしたよ、彼方くん!」
早期に女神の泉を奪取する作戦が不可能となっても。コンビニの勇者の彼方は、全く落胆したような様子を見せなかった。
彼は今までに自身が経験してきた『仮想夢』の中の体験から。ありとあらゆる出来事が起きた場合に対しての脳内シュミレーションを、何度も何度も頭の中で繰り返してきたからだ。
既に敵の持つ戦力も、弱点も、何もかもを『先に』知っている彼方だからこそ。今回の作戦を立案して、実行に移す事が出来た。
それでも、最後の最後は『運任せ』になってしまう部分も確かにある。でも、その時に備えての準備も事前に全て行っておいた。
出来るだけ多くの、良い流れの風が。ここにいるメンバー達全員を後押しする『追い風』となって吹いてくれるように。
彼方は考えられる限りの全ての準備をして、ここに戻ってきたのだから。後は運を天に任せるしかない。
彼方にとっては、今回が通算3回目となる『女神の泉』奪取作戦だ。
丘の上に残したコンビニ支店の中には、パソコンの操作が得意なティーナ、ククリア、アリスの3人に残って貰う。
そして他のメンバー達は、ここから一気に丘の下に駆け下りて。コンビニチームの第一目標である、女神の泉を奪い取りに行く。
そして今度こそ宿敵である夜月皇帝、ミュラハイトの首を取ってみせるんだ。
「よーし! みんな、行くぞッ! 絶対に油断をせずに、仲間の事を信じて作戦通りに進むんだ!!」
『『おおおーーーーっ!!!』』
彼方達は、丘の下のライオン兵達の軍団に気付かれないように。静かに行動を開始して、それぞれの持ち場に向かって進み出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
側近のライオン兵達が担ぐ、玉座を乗せた神輿のような椅子に座って運ばれている夜月皇帝ミュラハイト。
そんな彼の頭上を……。
突然、丘の上から放たれた2条の青いレーザービームが通過していく。
””ズドドドドドドーーーーーーーン!!!””
森の中に鳴り響く凄まじい爆発音。
木の上に隠れていた鳥達が大きな爆音に驚き、一斉に空に飛び立った。
どうやら、ライオン兵達を女神の泉に移送する為に使用していた巨大ゲートが……。上空から突如として放たれた、2本の青いビームの直撃を受けたらしい。
「なんだ、今の青い光は!? 一体、どこから放たれたんだ……!?」
突然の大爆発に驚く、ミュラハイト。
気付けば、後方にあった転移用の巨大ゲートが完全に倒壊して崩れ落ちている。
まだ状況は詳しく分からない。だが、凄まじい破壊力を持ったビーム砲が、ライオン兵達を移送する為のゲートにめがけて放たれたらしい事は間違いなかった。
ゲートの爆発に混乱する、ライオン兵達の一瞬の隙をついて。
今度は、無数の黒い飛行物体が森の上空から出現し。女神の泉の周辺に、大量の白煙を撒き散らしながら、周辺の視界を完全に奪い去っていく。
「この白い煙は……? おい! 誰か状況を報告しろ、獣人兵共ッ!!」
「ミュラハイト様、ここは危険です! 我々は敵襲を受けているようです。敵の戦力が分からないうちは、無闇にここから動かない方が良いかと思われますッ!」
視界を失い、一寸先の景色さえ見渡せないでいるミュラハイトと、その直属の部下のライオン兵達。
……だが、足元で何か小さなモノが動いているような音が聞こえてくる。おそらく何者かが、それも複数で。この真っ白な煙の中を、気配を消しながら蠢動しているのは間違いないだろう。
問題はその数と、敵の目的が何なのかという事だ。
「グガアアァァーーッ!?」
ミュラハイトの座る王座を担いでいた、側近のライオン兵が何者かによって襲撃された。
バランスを崩し、地面に投げ落とされる夜月皇帝。
更に立て続けに。今度は王座の後方を担いでいたライオン兵達が、何者かによって斬り殺されていく。
「こいつは、剣撃か……?」
――なるほど。相当な手練れの剣士が、刺客としてこの煙の中に紛れ混んでいるらしい。
「おい、獣人兵共ッ! オレの周囲に集まれ! 敵の剣士を集団で囲って、煙の外に追い出すぞ!!」
自身の周囲の防御を固めつつ。
突然の敵の奇襲を受けたミュラハイトは、この状況を訝しみながら舌打ちをする。
「チッ……何なんだよ、コレはよ! どうしてオレの『女神の泉』に敵が潜入してきていやがるんだ? ここは、オレしか入る事が出来ない聖域のはずなのに!」
遠い昔、森の中を彷徨っていたミュラハイトは、偶然立ち寄った黄色いカエルの住む寝床で、黄金に光り輝く粉を浴びた。
そしてその時に、人間には絶対に辿り着けないとされていた、伝説の『女神の泉』を森の中心部で発見する事が出来たのだ。
それ以降、ミュラハイトは夢中でこの他に通い続け。
女神の泉が秘めている『奇跡の力』の効能の研究に夢中になった。帝国の皇位継承など、もうどうでもいい。この泉を研究する事で、自分はあの女神教の影で暗躍する魔女達と同じ、『不老の力』を手に入れる事が出来るのだ。
それからここはずっと、このオレだけの聖地であり。世界の秘密を探る為の研究場だったはず。
それなのに、どうしてここに『敵の刺客』が入り込んできていやがるんだ。
この白煙に紛れて、攻撃をしかけてくる敵は一体何者なのか?
グランデイル王国の小娘か?
それとも、女神教の不老の魔女共か?
どちらの勢力も、ミュラハイトにとっては……これから自身が量産した無敵のライオン兵達を用いて倒すべき、ライバル勢力である事は間違いない。
今までの自分は、この世界の暗部に潜む。そのような闇の勢力の存在を知る事さえ出来なかった。
だが、この女神の泉のそばで帝国の学者達と共に長年に渡り研究し。自身もほぼ不老に近い、歳をとらない究極の体を手に入れて以降――。
この世界の秘密と真実の歴史を、ミュラハイトは全て独学で学び取る事が出来た。
だからそんな奴らが、自由勝手に歴史を影から動かしている事に我慢がならなかった。これからこの世界の歴史は、このオレが主導して変えていってやる!
異世界の勇者も、女神教の不老の魔女も。グランデイル城の地下に巣食う白アリの女王も、その手下のクルセイスも。
全部、このオレ様が無敵のライオン兵達を従えて、数の力で圧倒してやるんだ。
この世界の歴史に新たに登場した『第3の勢力』として、オレは必ず歴史に名を残す存在になってみせる。
さあ、かかってこい! 女神教の魔女共ッ!
グランデイルの白アリ共!!
オレ様はここにいるぞ!! ふはははははっ!
取れるものなら、このオレの首を力づくで奪い取ってみせやがれ!!
女神の泉の周囲を覆う白い煙の中から、
鋭い光の太刀筋を描いた銀色の長剣が、真っ直ぐにミュラハイトの首を狙って迫ってくる。
「――脇が甘いようだな、皇祖父殿!」
「なっ!? お前は、まさかミズガルドなのか!?」
赤髪の騎士、ミズガルドの放つ横一文字の剣線が……。ミュラハイトの身を守ろうと割り込んできた、側近のライオン兵の首を一瞬で切り落とした。
赤い髪の騎士はそのまま、空中で一回転をして。
右手に長剣を携えながら華麗に大地に降り立つ。
目の前に出現した敵は、ミュラハイトにとって。考えられる限りの中で最も予想外な『刺客』だった事は間違いない。
そして同時に。拍子抜けしてしまう程に、貧弱過ぎる相手でもあった。
異世界から勇者を召喚し、そいつらを魔王として育ててから不老の源となる『魔王種子』を奪い続けている女神教の魔女達。
そしてグランデイル城の地下で、密かに女神教に対抗をする為に……。無限の白アリ戦士達を増殖させている、同じく不老の存在である『白アリの女王』。
そいつらがやっと歴史の表舞台に上がって、互いにどんぱち戦いを始めたから。このオレも急いで舞台の上に上がり、歴史の表舞台で活躍する演者の1人として、大活躍してやろうと思っていたのに。
やっとこのオレを仕留める為に現れた敵が――何と何の力も無く。ただお飾りとして、帝国の皇帝の地位を仮に与えていただけに過ぎない、孫娘のミズガルドとはな……。
「――おいおいおい、誰かと思えば、オレの孫娘のミズガルドじゃないかよ! 全く、マジでガッカリだぜ! 敵襲だって言うから、とうとう女神教の魔女共や、グランデイルの白アリの女王が、俺の存在に目をつけて動き出したのかと思ったら。なんて事はない、クソ雑魚程の価値しかないお前なのかよ!」
夜月皇帝ミュラハイトは、心底ガッカリしたという表情を浮かべ。久しぶりに再会した自分の孫娘に対して、侮蔑の言葉を浴びせかける。
「……で? これは全部お前の仕業なのか? 非力なお前がたった1人だけでここに来るはずがないよなぁ? 誰かの援助を借りてここにやって来たのか? お前は母親に似て、誰かにすがらないと生きていけない心の弱い女だからな。どうせ、どこかのくだらない男でもたらし込んだんだろうよ」
「母上への侮辱はこの私が許さぬぞ! バーディア帝国の正統なる皇帝として、帝国の影で暗躍し。帝国領内の貴族達を脅迫し続けてきたお前を、国家反逆容疑で、この私が討ち取りにきたのだ!」
銀色の長剣を自分の祖父であるミュラハイトに向けて、勇ましい言葉を放ち。両目で鋭く自分の祖父を睨みつけるミズガルド。
だが、孫娘の宣戦布告の言葉を聞いた夜月皇帝は、その場で腹を抱えて大きな声で笑い出した。
「ぎゃーーっはっはっは!! お前が帝国の正統なる皇帝だって? 俺がお飾りで置いといてやっただけだろ? お前の権力なんて、生まれた時から元々無かったんだよ! この国は全てオレ様のものだ! 帝国に生きる全ての人間達は、オレ様が好きなようにしていい権利があるんだよ!」
「……思い上がりもはなはなしいな。皇祖父殿よ。その慢心が、自身の身を滅ぼす事になる事を知るがよい」
「フン。お前を捕らえて、みっちりと拷問をして、お前の援助者を吐かせてやるから安心しろよ! オレはこう見えても女を喜ばせるテクニックだけは心得ているからな。それともここにいる屈強な獣人兵達全員の相手をする方が好みだったりするのかよ? へっへっへ」
下卑た笑い声を上げる祖父に、改めて軽蔑の眼差しを向けるミズガルド。
「とても自分の血を分けた孫娘に対しての発言とは思えぬな。低劣で下衆な下郎め! その下賎な口を剣で斬り裂いて、二度と軽口が出来ぬようにしてみせよう!」
ミズガルドは、銀色の剣を真っ直ぐに構えて。その剣先をピタリと、ミュラハイトの首に向けて固定させる。
「かかって来るが良い! これは帝国の真なる皇帝を決める、聖なる戦いだ。私はここから一歩たりとも、後ろには退かぬぞ!!」
「……ハイハイ。おい、お前達! 誰か適当にこの女の相手してやれよ! 軽くなぶっても構わないぞ。だが絶対に殺すな。せいぜい片足を潰すくらいにしておけ。後でオレが直接こいつに拷問を加えてやるからな」
夜月皇帝の命を受けた3匹のライオン兵達が、ミズガルドに襲いかかる。
肉体を強化された屈強なライオン兵達は、猛獣のように鋭い爪を振り上げて。赤い髪の女騎士に向けて、一斉に飛び掛かっていく。
「…………」
まだうっすらと、白煙が漂う森の中で。
銀色に光るの剣線が3本。大きな弧を描くようにして、ミズガルドの前方の空間に描かれる。
気付いた時には――。
……ポトリ、ポトリと。
ミズガルドに迫った3匹のライオン兵達の首が、森の地面にいつの間にかに転がり落ちていた。
「うおおおぉぉーっ、すげーーな!! マジかよ!? 能力を持たない普通の人間の分際で、獣人兵を剣だけで倒せるのかよ! おい、ミズガルド。お前すげーな! ハッハッハ! こいつは、ちょっとだけ面白くなってきたぜっ!」
パチパチパチと、配下のライオン兵達を倒したミズガルドに賞賛の拍手を送る夜月皇帝。
その様子には、まだ余裕が溢れている。
自身の配下を失った事に、何一つ動揺した素ぶりは見せなかった。
彼にとっては、この世界に存在する全ての生き物は、自分の人生を彩らせる為の道具でしかない。
そう。ミュラハイトが持つ唯一の価値基準は、『面白いか、面白くないか』なのだ。
だから、無数のライオン兵達を増産して。この世界で自分よりも先に暴れ回っていた不老の魔女達や、グランデイルの白アリの女王に戦いを挑むのだ。
理由は簡単明瞭。単純にその方が面白いから。
その途中で、自分の命を落とす事があっても別に構わない。
この世に生をもって生まれてきた以上、魂を燃やすほどに熱い生き方をして血潮をたぎらせたい。それがミュラハイトが、この世界に存在する理由の全てだ。
そして、彼の独特な価値基準によると。
生身の人間の身で、最強の獣人兵を同時に3匹も倒してみせたミズガルドの強さは……実に面白いと、興味を持ったらしい。
「よーし、今度は同時に獣人兵8匹でお前の相手をしてやるぜ、ミズガルド! か弱かったお前が、剣の才能を一生懸命に磨き。どこまでコイツらの責め苦に耐えられるのか。この目でしっかりと見届けてやるよ。せいぜい頑張って、オレを楽しませてくれよな!」
「フッフッフ……」
突然、その場で肩を揺らして静かに笑うミズガルド。
「ん? 何を笑っていやがる? 自分の未来を悲観して、自暴自棄にでもなったのかよ?」
予想外なミズガルドの様子を見て。ミュラハイトは訝しげに自分の孫娘を高圧的に睨みつける。
「――いいや。悲観などしてはない。あまりにも皇祖父殿が、事前に聞かされていた通りのリアクションをするんでな。やはり『あの人』には未来を予知する力があるのだと、改めて感心をしていた所よ」
「未来予知? あの人……? それは誰の事だ。お前を支援している支援者の事か?」
「今に分かる。その人は私の心を救い出し、この世界に生きる理由を教えてくれた大切な人なの。だから……きっと私と同じように。これから帝国に暮らす全ての人々の未来を、救ってくれるに違いないわ」
ミズガルドは目を閉じて、白銀の剣を地面に刺し。
それまでの勇ましい顔つきが嘘のように、優しい笑顔で微笑んでみせた。
「……チッ。気に食わねえな。急に女々しい言葉使いをしやがって。何だよそれ、恋する乙女の盲目思考って奴か? ハッ……もういい。完全にシラけた。おい、お前達、さっさとその女を殺しちまえよ!」
『グギャアアアァァァーーーーッ!!!』
ミズガルドに襲いかかる、無数のライオン兵達。
その数は、先ほどミュラハイトが宣言した8匹ではなく。合計で12匹のライオン兵が、同時に赤髪の騎士に向けて飛び掛かっていく。
いかに『先読みの騎士』のミズガルドといえども。これだけの数の獣人兵達の攻撃を、たった1本の剣だけで避ける事は不可能だ。
まさに……絶対絶命の危機に直面したと思われた、その時――。
「うおおおおおぉぉぉっっ!! 俺のミズガルドに、手を出すんじゃねえええええっ!!!」
夜月皇帝の後方の、白煙の中から。
黒い服を着た男が猛スピードで飛び出してきた。
男は空中で回し蹴りを放つと。何と、12匹もいるライオン兵達を、バッティングマシーンで打ち返されていく野球の球のように。
勢いよくホームランコースを描いて、遥か遠くの彼方にまで弾き飛ばしていく。
迫り来るライオン兵達を全て蹴り飛ばした男は、『ふぅ……』と、片手で汗を拭うように、一呼吸をおき。
極度の緊張で体を震わせていたミズガルドの肩を、ポンポンと優しく叩き。微笑みながらミズガルドの目を見つめて、その緊張を解いてあげた。
「お前は……!? そうか、お前が噂の『コンビニの勇者』という訳か。なるほどな。泣き虫のミズガルドがやけに強気な態度でいると思ったら、最強と話題になっているコンビニの勇者を囲い込んでいやがったのかよ」
夜月皇帝は、事前に彼方についての情報も調べていた。
だから、その風貌を見ただけで。コンビニの勇者がここに現れた事を悟る。
予想外だったのは、コンビニの勇者はもっと間抜け面をした馬鹿そうな男だと聞いていた。
それが予想よりもずっと。鋭い眼光を持つ、鷹のような目つきをした男だった事に驚いたくらいだろうか。
「そうだぜ、俺がコンビニの勇者の秋ノ瀬彼方だ! 今はバーディア帝国正統皇帝のミズガルドと同盟を結ぶ、コンビニ共和国代表者としてここにやって来ている!」
彼方は、剣を構えるミズガルドの前立ち。
彼女の前で両足を広げ。片方の手の指を立てて、夜月皇帝ミュラハイトに『かかって来いよ!』と、挑発するようなポーズをとった。
「俺がこの世界で最も頼りにしているパートナーであり、そして信頼と尊敬をしている、最高の友でもあるミズガルドを侮辱するようなクソ野郎は、絶対に生かしちゃおけないな! この俺が全力でぶっ潰してやるから、覚悟しやがれよ! 夜月皇帝ミュラハイト!」