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第三百二十五話 黒い太陽


 見えない敵の攻撃が、俺に向けて襲い掛かる。


 それを寸前の所で、赤髪の女皇帝ミズガルドが銀色の剣で防いでくれた。



「――彼方、後ろに下がって! 敵の攻撃は後2〜3回は連続でくるわよッ!」


「わ、分かった……!」



 ミズガルドに言われるがままに、俺は3歩ほどその場から後方に後ずさる。


 周囲の空気を揺るがす、激しい振動が伝わってくる。ミズガルドは3回連続で銀色の剣を、正面に向けて振り下ろした。

 空間上に激しい火花が散り、金属と金属がぶつかり合う衝突音が、前方から連続で鳴り響く。



 どうやら敵の放った攻撃は、俺の正面に立ち塞がり。俺の身を守る為に銀色の剣を振るうミズガルドによって、全て弾き返されたらしい。


「……だ、大好きお兄さん! 今度は、お兄さんのすぐ後ろに敵が回り込もうとしているのにゃ〜!」


「敵がすぐ後ろに来ているんだな、了解だ!」



 コンビニの勇者の得意武器の1つでもある足技で、俺は豪快に回し蹴りを後方に向けて放つ。


 敵の正確な位置は掴めていなかったが、後方から近距離にまで迫ってきていた敵の体の一部分に、俺の放った回し蹴りが命中したらしい。


 何かスライムのような、ゼリー状のものを蹴り飛ばした感覚が、足先に伝わってきた。


「やった……のか?」


 敵にダメージを与えられたのかどうかは分からない。


 でも、確かな手応えはあった。つまり姿の見えない敵にも、こちらの攻撃をちゃんと当てる事は可能なんだ。


 離れた場所を高速で移動する、『次元間移動』をしている時と違い。姿を消してこちらに襲い掛かってくる時は、敵は完全に別世界に消えている訳ではないらしい。


 詳しい仕組みはまだ分からないが、とうやら物理的に接触する事も可能なようだ。



 そうか……。敵が完全に別世界にいるのなら、フィートが敵の気配を察知する事も出来ないはずだ。


 透明なフィルターのような物で、本体を隠してカモフラージュをしているが……。移動してくる敵の正確な位置さえ掴めれば、俺でも攻撃を加える事が出来る。ちゃんと正面からクリティカルヒットを決める事が出来れば、倒す事だって可能なはずだ。



「大好きお兄さん、しばらくあたいがまた敵の注意を惹きつけておくのにゃ〜! その間にお兄さんは対策を考えておくのにゃ〜!」


 猫耳を尖らせたフィートが、廊下で大ジャンプをする。

 そして空中でクルクルとしなやかに体を回転させながら、前方で見事な着地を決めた。


 その場所にすかさず、敵の攻撃が入り。そのままフィートは見えない敵を誘導するかのようにして、廊下の奥に向かって全力で走っていく。


 どうやらフィートは、わざと(おとり)役になり。俺が再会したミズガルドと話せるだけの時間を、確保しようとしてくれているらしい。


 さすがはコンビニ猫のフィートだな。マジで感謝するぜ! 俺はすぐに、銀色の剣を構えているミズガルドに話しかける事にした。



「ミズガルド、生きていてくれて本当に良かった……。でもどうやって、あの姿の見えない敵の攻撃を剣で防げたんだ? ミズガルドもフィートと同じように、敵の気配を事前に察知出来る能力があったりするのか?」


 俺からの質問を受けたミズガルドは、怪訝そうな顔を浮かべて首を横に振る。


「気配を事前に察知する? ううん、私のはそういうのじゃないの。私に剣技を教えてくれた師匠が、教えてくれたの。常に敵の攻撃パターン見極めて、行動予測をして戦いなさいって。だから私はある程度、敵の攻撃パターンを目で見る事が出来れば、敵の動きを『先読み』して予想する事が出来るのよ」


「行動パターンの先読みだって!? そいつは凄いな!」



 能力(スキル)を持たない、普通の人間であっても。肉体や精神を極限まで鍛え上げる事で、こんなにも凄い特殊能力を獲得する事が出来るのか……。


 もはやそれは、俺達異世界の勇者が持つ能力(スキル)と同等の特殊能力なんじゃないかと思えた。



 そういえば仮想夢の世界で、ミズガルドは俺の命を守る為に、最後に無数のライオン兵達と戦ってその命を落としている。


 あの時のミズガルドは、腕に重傷を負っていたはずだ。


 黒い染みに全身を侵されて、身動きの全く取れなくなった俺を倉庫の中に隠し。単身でライオン兵達の群れに戦いを挑んでいったミズガルドは、どうやってあれだけの数のライオン兵達を倒したのだろう……と不思議に思っていたけれど。


 もしかしたら凡人には持つ事の出来ない、剣士としての非凡な才能がミズガルドにはあったから、成し得た奇跡だったのかもしれないな。



 ミズガルドは改めて、俺の顔を至近距離からマジマジと見つめてくる。

 そして……ふと、周囲の様子を見て。


 その場で不思議そうな顔色を浮かべた。


「……彼方、女神の泉はどうなったの? それに、ティーナさんや、みんなは……?」


 ミズガルドの質問に、心臓を拳で掴まれたかのように、俺の胸はキツく締め付けられる。

 

 震える唇から声を絞り出すようにして。

 俺は何とかミズガルドに、現在の状況を伝える事にした……。


「ごめん……。女神の泉はもう存在しないんだ。そしてみんなも――もう居ない。俺とフィートだけしか、今は残っていないんだ……」



 ミズガルドは俺の苦渋の表情から、女神の泉で起きた出来事の全てを察したようだった。



「そう……なんだ。辛かったね、大変だったね、彼方……」


 ミズガルドは無言で俺の頭を自分の胸に押し当てる。

 そしてそのまま、しばらくの間……俺の顔を全身で抱きしめ続けてくれた。


 その体は、少しだけ震えているようだった。


 ティーナや、ククリア、そしてアリスや冬馬このはが亡くなり。俺達にとっての希望だった女神の泉が無くなってしまった事で、俺が深く絶望している事を、心の底から心配してくれているようだった。


「……でも、彼方が生きていてくれて本当に良かった。これからは私が必ず彼方を守ってみせるから。だから、私に何でも指示をしてね!」


 涙を目に浮かべながら、俺の事を優しく見つめるミズガルドの顔に、聖母のような神々しさを感じてしまう。


 また、俺のせいで。


 俺が失敗をしたせいで。


 みんなが犠牲になってしまったというのに……。



 ミズガルドは全く俺を責めようとしなかった。それどころか、本当に辛かったねと……俺の行動の結果の全てを受け止めてくれる。


 まだ俺の事を、こんなにも大切にして想ってくれている人がこの世界には残っている。


 心配そうに俺の事を見つめるミズガルドを見て。ここで『終わる』訳には絶対にいかないんだと、改めて俺は思わされた。



 心をいったん落ち着ける事の出来た俺は、ミズガルドにカラム城に残っていた人々の事を改めて聞いてみた。


 ここには約1万人近い騎士達と、その家族が残っていたはずだ。まさかもう……全ての人々が、見えない敵によって皆殺しにされてしまったのだろうか?



「……安心して、彼方。城のみんなはいったん地下に避難して貰ったの。そして、彼方達がこの城から抜け出す時に使った地下通路から、順番に城の裏手にある山に向かって逃走させているわ」


 ミズガルドの話によると、俺達がコンビニ支店1号店に乗って城から抜け出した後――。


 しばらくして、カラム城を包囲していたグランデイル軍は急に撤退を開始したらしい。


 グランデイル軍の急な行動に、何か隠された思惑があるのかも……と、心配をしたミズガルドだが。俺の言いつけをちゃんと守り。俺達が無事に戻ってくるまで、カラム城に残り続ける事を選択した。



 そして、それから数日が経過した今――。


 突然、城の中に残る騎士達が……謎の黒い影に襲われて命を落としていく事件が発生する。


 カラム城に何者かが侵入して、城にいる人々を無差別に殺害して回っている。城の中で緊急事態が起きている事を察したミズガルドは、すぐさま部下達に指示を飛ばした。


 カラム城には見えない敵と戦う事の出来る、最精鋭の騎士だけを残し。


 残りの全ての人々は、正体不明の敵に見つからないように地下に避難させた。そこから城主であるカラムさんの指示に従い、みんなは順番に城の裏側にある山に向かって避難させているという。



 俺は城の通気口から、ミズガルドが指差す外の景色を見つめてみた。


 そこには、恐怖で悲鳴を出さないように。静かに城の地下通路から外に向かって脱出をする、数千人超える人々の行列が見えていた。



 さすがは、ミズガルドだ。状況判断が的確(てきかく)過ぎる。


 城に侵入した敵の脅威を瞬時に悟り。多くの犠牲者が出ないように一部の守備兵だけを残して、既にみんなを城の外に脱出させていたのか。


 ミズガルドの懸念通り。城に残った守備兵達は、既に敵の手にかかり全滅をしている。


 もはやカラム城の中に残っているのは、ミズガルドだけという状態になっていた。

 敵の攻撃パターンから、攻撃の先読みをする事の出来る剣士、ミズガルド以外は誰もこの城の中で生き残れなかった。



「これからどうするの、彼方?」


 ミズガルドに問われた俺は、即答で返事をする。


「ここでアイツを何としても倒す! もちろん俺の力だけでは勝てない。でも、敵の気配を事前に察知出来るフィートと、先読みの力を持つミズガルドが力を貸してくれるなら、何とかなるかもしれない。俺は殺されたティーナや、みんなの為にも……絶対にアイツだけは許しておけないんだ!」


「分かったわ! でも、私とあの獣人の女の子には、敵を倒せるだけの決定打のある攻撃方法が無いわ。だから敵を倒すとどめは、彼方(かなた)が刺して頂戴ね!」


「分かった、それは俺に任せてくれ!」



 この中で最も強い攻撃力を持つのは、コンビニの勇者であるこの俺だ。それもさっきみたいに回し蹴りを当てるだけじゃ、敵を粉砕する事は出来ない。



 ――だとしたら、残された方法は1つ。


 俺の肩に浮かぶ2機の守護衛星から放つ強力なレーザー砲を、奴の本体に直撃させるんだ。


 敵が正面方向から迫ってきて、その姿を現す瞬間に……。俺の持つ全てのエネルギーを解き放って、青いレーザー砲を一点集中させて奴にぶつけてみせる!



「お兄さん、もうこっちは限界なのにゃ〜!」


 その時――敵の攻撃を惹きつけてくれていた、もふもふ娘のフィートが廊下の奥からこちらに戻ってきた。


「助かったよ、フィート! こちらに向かってくる敵の方角を教えてくれないか!」


「んにゃ〜、右上の方向から、え〜っと右回転をして……。今度は左斜め45度の方角から、時計回りに移動をしていているのにゃ〜……」


 フィートの言葉を聞いて、瞬時にミズガルドが銀色の剣を構えて敵に飛びかかる。


 俺には敵の位置の特定は出来なかったが、ミズガルドはフィートの説明を聞いて。おおよその敵の位置を予想して、剣で切りつけたらしい。


 全力で振り下ろされた銀色の剣が、虚空を斬る。


 ……惜しかった。ミズガルドの振り下ろした剣は、わずかに敵を捉える事が出来なかった。銀色の剣が虚空を切ったその先で、わずかに空気が振動したのを感じた。


 きっとあと少し、剣を振り下ろす位置が左方向にズレていれば。敵に直撃を食らわす事が出来たかもしれない。


 クソッ……! どうしても言語による説明では、フィートの感じている空間認識を相手に伝える事が難しい。フィートの言葉でおおよその位置が把握出来たとしても、俺達には正確に敵の位置を捉える事は出来ない。



 このままでは、俺のレーザー砲を敵に直撃させるのは……きっと不可能だろう。



「よーし、こうなったら奥の手を使うのにゃ〜!」


 フィートがいきなりそう叫ぶと、突然、その体が変化し始めた。


 もふもふの毛が更に濃くなり。逆に体は、みるみると小さく(ちぢ)んでいき。さっきまでの姿の、おおよそ10分の1くらいのサイズへと変わり果ててしまう。


「フィート……その姿は、一体?」


 フィートの体は、まさに本物の『猫』の姿へと変化をしていた。その見た目は、茶色い毛並みをした可愛らしい子猫の姿そのものだ。



『――あたいの声が聞こえているかにゃ〜、大好きお兄さん? あたいは獣人化だけじゃなく、こうやって小型の猫の姿に変化する事も出来るのにゃ〜!』



 えっ……? フィートの声が直接、俺より脳に響いてくるぞ。もしかして、これは『念話』みたいなものなのか?


『そうなのにゃ! でも、猫化したら身体能力は普通の猫になっちゃうから攻撃も出来ないし。こうして近くの人に念話でしか会話が出来なくなっちゃうのにゃ〜!』



 頭の中に直接響いてくるフィートの声とは別に。

 フィートが感じている感覚や視覚が、ダイレクトに俺の脳にも伝わってきた。


 これは、ククリアが以前に持っていた『共有』の感覚に近いのかもしれないな。


『これで、あたいの感じている敵の気配の感覚を直接、お兄さんに伝える事が出来るのにゃ! でも、念話は距離が離れたら出来なくなるし、近くないと正確な情報を伝える事が出来ないのにゃ〜!』


「いや、十分助かるよ……! それにしても、何で今までこんな凄い能力がある事を黙ってたんだよ、フィート?」


『それは……獣人の姿で、お兄さんにモフられた方があたいが気持ちいいからにゃ〜。それにあまり長い時間、猫化をしていると。人間の感覚を失って、元に戻れなくなるのにゃ〜! だからあたいは、極力この能力は使わないようにしていたんだにゃ〜』



 ……そうなのか。獣人化の能力はある意味、人間と獣の中間の存在になれる能力だ。でもこうやって獣の方に100%能力を全振りして、完全な獣の姿に変化させる事も出来るのか。


 そして猫化しているフィートとの距離が近ければ近いほど、脳内の感覚を正確に相手に伝えられるらしい。逆に遠くに離れてしまうと、意識を伝達する感覚は弱まってしまうという訳か。


 フィートが脳内で感じている感覚が、ダイレクトに俺の脳にも伝達されてくる。

 

 おかげで俺は、カラム城の廊下を空間移動している、見えない敵の位置が見えるようになっていた。


「凄いぞ、フィート! 今までフィートには、こういう風に敵の気配が感じられていたのか。よし! 今度、敵がこっちにやって来たら必ずレーザー砲を直撃させてやる。ミズガルド、いったん俺の後ろに下がっていてくれ!」


「――了解よ、彼方!」


 敵の移動場所を予測して、後方から追撃していたミズガルドが俺の後ろに戻ってくる。


 敵は廊下の中心部でゆっくりと旋回して。俺達が1箇所に集まっている場所に向けて、真っ直ぐに近づいてきた。



 敵が正面に来た瞬間に、レーザー砲を直撃させる。


 フィートの言葉通りなら、敵は攻撃を仕掛けてくる瞬間に少しだけ本体を見せるらしい。確実に仕留めるなら、そのタイミングを見計らって攻撃をするのがベストだろう。



 感じるぞ……!

 敵は、真っ直ぐこちらに向かってきている。


 そして俺の正面、約1メートルほど離れた位置で。


 黒い何かが、空間上でズボンのチャックを開けるかのように、小さな裂け目をこじ開けて。その中から黒い手をこちらに伸ばしてきた。



 俺の目にも、確かに『それ』が見えた。


 真っ黒な手が小さな穴から飛び出してきている。

 その手の先には、黒い包丁のような物が握られていた。


「今だッ! いっくぞーーッ! これでもくらいやがれッ!! 『青双龍波動砲セルリアン・ツインレーザー』――ッ!!」



 俺の両肩に浮かぶ銀色の球体から、青いレーザー砲が放たれる。


 青い聖なる波動砲は、あの屈強なライオン兵達の群れでさえも一瞬で焼き尽くす、最強の重火力砲撃だ。

 それは現在のコンビニの勇者が持つ、最強の火力攻撃と言っても過言じゃない。


 この重火力で、そしてこの至近距離から放たれたレーザー砲でなら……。

 きっと確実に、敵を仕留める事が出来るはずだ。


 

 ””ズドドドーーーーーーーーン!!!!””



 カラム城の廊下の外壁に、巨大な穴が開く。

 高熱を持つレーザー砲の威力によって、石造りの壁が一瞬にして溶かされた。


 俺は目を凝らして、レーザー砲が放たれた方向の様子を観察し続ける。


 空間から黒い手を伸ばし、本体をわずかに露出しかけていた敵は――。あと少しというタイミングで、俺の放った青いレーザー砲を横移動をしてかわしたのが見えた。


「クソっ……! どうしてなんだよ! 確かに捉えたと思ったのに……!」


『大好きお兄さん、本当に申し訳ないのにゃ……』



 フィートが謝るようにして、俺に脳内に念話で話しかけてきた。


「フィート、それはどういう事なんだ?」


『あたいの脳で見えている光景は、お兄さんの脳に念話で伝わるまでに、どうしても伝達時間のロスが出てしまうのにゃ〜。だからお兄さんが見えている光景は、あたいが見た光景から、少しだけ遅れて時間のラグが発生してしまうのにゃ〜』


「でも、フィートは俺のすぐそばにいるじゃないか。それでも伝達時間にラグが発生してしまうというのか……?」



 猫の姿になったフィートは、俺の後方約2メートルくらいの地面に座っている。

 たったこれだけの距離でも、脳内伝達にわずかな時間のズレが生じるというのか。


「――彼方、剣士にとってはほんの0、1秒の程の時間のズレだとしても、致命的な結果に繋がってしまう事がよくあるわ。こちらが剣を振るうように、相手も移動をしている最中ならば、それは尚更(なおさら)よ!」


「そんな……。それじゃ、フィートの念話で敵の位置が掴めていたとしても。俺にはレーザー砲を正確に敵に直撃させる事は出来ないというのかよ……」


「ううん。可能性がない訳ではないわ。でもそれは……」



 ミズガルドが何かを提案しようとして、思い直したように口を閉じる。


「ミズガルド! 何か他に、敵にレーザー砲を当てられる方法があるのなら俺に教えてくれ!」


『お、お兄さん……大変なのにゃ! 今度は敵が、外で避難している人達の方向に向かって飛んでいっているのにゃ〜!』



「えっ……なんだって!?」



 レーザー砲をかわした敵は、壁に開いた大穴から城の外に飛び出していった。


 そして、地下通路から城の裏山に向けて。

 行列を作り、静かに音を立てないように逃げている人々の真上に向かって飛んでいき。



 姿の見えない敵は、そこでピタリと動きを止める。


 そしてまるで、上空に黒い太陽が出現したかのように。暗黒の光を人々のいる真下の大地に向けて照らし出した。



「おい……まさかッ!?」



 あまりに一瞬の出来事で、思わず言葉を失ってしまう。


 敵が逃げ惑う人々の上空で、一体『何を』しようとしているのかを直感して……。両足がカタカタと恐怖で震えだした。



 カラム城から脱出していた数千人の人々は、空の上から降り注いでくる黒い光を見つめ。



 そして全員、その場で一瞬にして生き絶えてしまった。


 一斉にパタリパタリと人々が倒れていく。行列を作って城から逃げていた数千人近い人々が……音も立てずに地面の上にドミノ倒しのように無言で倒れていく。



 悲鳴を発する時間さえ無かった。

 ただ、空の上に浮かぶ黒い太陽を見上げただけで。


 数千人を超える人々の命は、一瞬にして死神の持つ鎌によって刈り取られてしまった。



 全員が恐怖の顔を浮かべながら、仰向けになって地面の上に倒れ。無数の死体が累々と積み重なっている景色は……まさに地獄のような光景と化していた。



「ハァ……ハァ……ハァ………」



 俺の額からは、大量の冷や汗が流れ落ちていく。

 


 そして再び黒い染みがゆっくりと全身に広がり。両足が床にピタリと固定されてしまったかのように。全く、動かなくなってしまったのを感じていた。


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