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第三百十九話 お前が、暗殺者なのか?


 土の中に埋もれたコンビニ周辺の大地を、俺は全力で掘り返す。


 生身の人間なら到底不可能な、敷地面積200平方メートルはあるコンビニを土から掘り起こす作業も。異世界の勇者レベルが32となった今の俺なら、余裕でこなす事が出来る。



 早く、早く……! 

 コンビニの中の様子を確認しないと!



 ティーナは――無事だろうか?


 もし、また仮想夢(かそうむ)の時のように、ティーナの首が切断されているような事があったなら。

 その時は、俺は犯人を絶対に血祭りにあげてやる!



 この世界が、例えまた仮想夢であったとしても。

 そうでなかったとしても……。


 俺の大切なティーナの首を2回も切断するようなクソ野郎は、絶対に生かしてはおけない! この世界に2度と存在出来なくなるくらいに、その体をズタズタに引き裂いて、生きたまま腸を引っこ抜いて、体の臓器を全て灼熱の炎に放り込んで焼き殺してやる!



「ハァ……ハァ……」


 怒りと復讐の黒い炎で、精神を熱く燃やし続けている間だけは……。不思議と、絶望感や虚無感から気持ちを遠ざける事が出来る気がした。



 でも、分かってる。それではダメなんだ。


 俺はティーナの身を全力で守る為に、今……必死に土を掘り返しているんだ。


 決して『既に殺されたティーナ』の復讐をする為に、行動をしている訳じゃない。もしそれを前提にしてしまったら、俺自身がティーナの死を心の中で認めて、ティーナの存在をこの世界から『抹殺』してしまっているようなものじゃないか。



 ティーナは絶対に生きている。その事を誰よりも俺自身が強く信じるんだ!


 俺は今度こそ、大切な人の命を守り切ってみせる。

 

 殺されてしまった、他のみんなの命はもう取り返せないけれど……。せめてティーナだけは、この手で全力で守り通したいんだ!



 茶色い土に埋もれていたコンビニ支店の、その入り口部分がようやく見えてきた。


 正面入り口の自動ドアは故障していた。なので、両手で強引にこじ開ける事にする。

 人の体が1人分入れるだけの、ギリギリの隙間を作り出し。俺は飛び込むようにして、地中に埋もれたコンビニの中に入り込んだ。



「ティーナ! 聞こえるかーー! 俺だッ! 彼方だーーッ!!」



 店内からの反応は……何も無い。


 土の中に埋もれているコンビニの店内は、恐ろし程に薄暗く冷え切っていて。物音1つ聞こえてこない、完全な静寂に包み込まれていた。



「店内のエアコンと、照明が消されているのか? 明かりも何もついていないみたいだけど……」



 いや……。照明だけじゃない。


 店内の至る所が、めちゃくちゃに破壊されているんだ。薄目で暗闇の中を凝視してみると。コンビニの店内は元の原形が分からないくらいに、何者かによってズタズタに壊されている事が分かった。


 一体、誰が……コンビニの中をこんなに酷い惨状に変えてしまったんだ?


 俺は店内の奥に急いで進み、白い木製のドアで閉ざされた事務所へと向かう。



 ドアを開けると、事務所の中には明かりのついていない、真っ暗な空間が広がっていた。


 室内の照明スイッチを入れてみたが……やはり電気はつかない。きっとコンビニの電気系統全般が、全て破壊されているのだろう。

 事務所の中の簡易ベットや、用具入れも乱雑にひっくり返されていた。



「ティーナ……ここにいるのか?」


 静かな声でそっと呼びかけてみたが、反応は無い。


 天井の照明は消えているけれど、なぜか事務所の中のパソコンだけは正常に起動しているようだった。


 真っ暗な事務所の中で、パソコンのモニターだけが、青白い光を周囲に放ち。暗い部屋の中をおぼろげに照らし出している。


 起動しているハードディスクの、わずかな駆動音だけが……かすかに俺の耳にも聞こえてきている。


 明かりの消された室内で、パソコンのモニターの青い光だけが唯一の明かりとなって……。無人の室内を照らし出す、異様な密室空間。

 再び、俺の心臓の鼓動音が――『”ドクドクドク”』 と、テンポをあげて太鼓のように高鳴り始めたのを感じた。



「クソッ、何なんだよ、この和風ホラーみたいな、陰鬱な雰囲気の空間は……」


 もし俺がホラー映画が、大の苦手な事を知っていて。わざとこんな悪趣味な演出をしているのだとしたら……。敵は本当に、俺の事を全て知り尽くしている奴なのかもしれないぞ。


 室内の唯一の明かりが、起動しているパソコンのモニターしかないのなら仕方がない。


 俺は否応(いやおう)なしに、夜の街灯の明かりに吸い寄せられる小さな羽虫のように。モニターの置かれている机の前に、ゆっくりと近寄っていった。



 パソコンのモニターには、直前まで俺に何かのメッセージを送ろうとしていたのか……。文章が書き込める、白いメモパッドのウィンドウ画面が開かれていた。


 機械操作の苦手なフィートや、まだ眠りから醒めていない冬馬このはには、事務所のパソコンの操作は出来ないだろう。


 だとすると、このメモ画面を開いていたのはティーナなのか……?



 しばらく暗闇の中で、パソコンのモニターの様子を凝視していた俺は……。


 突然、画面上のカーソルが勝手に動き出したのに気付き――。

 思わず、心臓が喉の奥から外に飛び出してしまいそうになるくらいの大きな声を上げた。



 “――カタカタカタカタカタ――!”



「えっ、えっ? 何だ!? どうして急に、モニターのカーソルが動き出したんだ?」



 俺はマウスも、キーボードも何も触れていないぞ!?


 それなのに、何で勝手に画面のカーソルが動き始めるんだ……!


 モニターに映し出された白いメモ画面には、先ほどまでピタリと固定されていたはずのカーソルが……急に横にスライド移動を開始して――。



 メモ画面の中に、大量の異世界文字を入力し始めた。



 そこに映し出された、文字の内容は――、




『――………殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。お前の全てを奪う。何もかも失え、そして絶望しろ。コンビニの勇者――!」



「うあああぁぁぁッ!? 何なんだよ、コレは!?」



 モニターの前の椅子から、転げ落ちるようにして俺は後ろに倒れ込んだ。



 ……やめろ、やめろ、やめろよ!! 


 何でこんな文字が急に出てくるんだ!? ティーナは……一体、どこにいってしまったんだよ!


 その時、俺の脳裏に一筋の閃光が走り。

 事務所の床にある、地下シェルターの事をとっさに思い出した。



「――そうか。地下シェルターの中にもパソコンは置いてある。もしかしたらこの文字は、誰かがシェルターの中のパソコンから、遠隔操作で入力しているのかもしれないぞ……!」


 床の上から飛び起きて、俺はすぐに暗闇の室内の中から地下シェルターへの入り口を探す事にする。


 そうだった。まだ調べていない所は残っていた。

 コンビニの地下シェルターには、冬馬このはの体も眠っているはずだ。


 もしかしたら、ティーナはそこに隠れているかもしれないじゃないか。


 呼吸を激しく乱しながら、俺は急いで薄暗い事務所の床を……手探りで、くまなく漁っていく。


 仮想夢の中では、みんなのバラバラ死体が散らばっていて。室内が全て真っ赤に染め上げられ、俺の心に深いトラウマを植え付けた地下シェルター。


 だけど今回は、まだ中の様子を確認していなかった。



「あったぞ……! ここだ、ここから地下シェルターの中に入れる!」


 シェルターへの入り口に手をかけた俺は……。一瞬だけ、その場で全身が硬直して固まってしまった。


 早くこの入り口を開けて、中の様子を確認しないといけない。でも、もし入り口を開けて。中にみんなの死体が転がっていたとしたら……全てが終わってしまう。


 これがもし、2回目の仮想夢の世界でなかったのなら。俺は本当にティーナを失ってしまう事になる。



 ティーナが『死亡した現実』が、確定されてしまう。



「ハァ……ハァ……」

 


 手が震えて、指先に力が入らない。


 クッソ……! どうしちまったんだよ、俺……。

 シェルターの中をちゃんと確認して、ティーナの安否を確かめないといけないのに……。


 もし、さっきのモニターに表示された文字が、本当に地下シェルターの中に置かれたパソコンから入力されたものだとしたら。


 この下には少なくとも倉持や名取。そしてアリスとククリアを殺害した、殺人鬼が潜んでいる可能性がある。


「野郎……許さない、絶対に許さないぞ! 必ずこの俺の手で、今度こそ絶対にブチ殺してやるからなッ!」



 勇気を出して、右手に全神経を集中させる。


 そして、地下シェルターの入り口を一気に開いて。飛び降りるようにして、俺はシェルターの中に侵入した。



「………………」


 地下シェルターの中は、天井の照明がわずかに1つだけ(とも)されていた。


 だけどそれは、白い蛍光灯ではなく。オレンジ色の暖色で室内をわずかに照らす、小さな常夜灯(じょうやとう)の豆電球の明かりだけが光っていた。


 薄明かりの中で、俺は仮想夢の中で見た記憶と――。

 “全く同じ光景”を、再び()の当たりにしてしまう。



「そんな……。また、俺はダメだったのかよ。みんなを、ティーナを、失ってしまったというのかよ……」



 俺は小声で、絶望に満ちた苦悶の声を漏らす。


 地下シェルターの中は、一面『真っ赤な血の海』に染まっていた。


 見渡す限り、床にも、壁面にも……人間の赤黒い血が大量にぶち撒けられていて。それは俺に絶望を与えた、仮想夢の中で見た光景と全く同じものだった。



 床にはバラバラに切断された、人間の死体が所々に転がっている。切り落とされた足や、胴体。そして生首も転がっていた。



「これは、冬馬このは……の首なのか?」


 俺が地下シェルターの床で真っ先に見つけたのは、眠り姫となっていた魔王『冬馬このは』の首だった。


 本来は最強の力を持つと噂された、動物園の魔王も。深い眠りについている無防備な状態で、敵に襲われたらひとたまりもない。


 だからこそ魔王軍の4魔龍公爵であるラプトル達は、必死に冬馬このはの体を浮遊動物園の奥に隠し。女神教の魔女達に見つからないように隠していたんだからな。


 他にも、バラバラにされた冬馬このはの体が、辺り一面に転がっているようだった。


「……ん? 待てよ、おかしいぞ?」


 前回と同じで、冬馬このはの心臓がまた奪われているのかを確かめようとして。俺は、一面真っ赤に染まった地下シェルターの床の上を見つめていると……。


 床の上に転がっている死体の破片が、あまりにも少ない事に気付いた。


「これは……もしかして、ここで死んでいるのは『冬馬このは』だけなんじゃないのか? ティーナやフィートは、一体どこにいってしまったんだろう?」



「その声は……もしかして、彼方様なのですか!?」



 えっ、ティーナ……?


 俺の耳に、ティーナのか細い声が聞こえてきた。



「ああ……良かった! 彼方様、ご無事だったのですね!」


 薄暗い地下シェルターの奥から、俺のよく知っているティーナの声がハッキリと聞こえてくる。


「ティーナ! 無事だったんだな! 本当に……本当に、良かった……!」



 嬉しさのあまり、思わず両目から大粒の涙がこぼれ落ちてしまう。


 俺の大好きなティーナが生きていてくれたんだ……。まだ俺は、この世界で生き続ける為の希望を失わずに済んだんだ。


「んん〜? その変態そうな声は、間違いなく大好きお兄さんだにゃ〜! 良かったにゃ〜! こんな非常事態だから、お兄さんとはぐれたらどうしようかと心配してたのにゃ〜!」



 シェルターの奥から聞こえてきた声は、ティーナだけじゃなかった。


 薄暗い室内の奥を目を凝らして見つめると。床に伏せて机の下に隠れていたティーナとフィートの2人が、その場から静かに起き上がり。

 俺のいる場所に向けて、近寄ってきていた。



 俺はティーナを見つけて、ホッと安心したのもつかの間に……。とっさに戦闘態勢を取る。



 そして、大声でティーナに逃げるよう指示を出した。



「――ティーナ、そいつから今すぐに離れるんだ!」


「えっ……彼方様?」


 俺は急いでティーナの手を取り。後ろから近寄ってきていたフィートから、ティーナの体を遠ざける。



「ど、どうしたんだにゃ……!? 大好きお兄さん!」


「こっちに来るんじゃない、フィート! いや……ククリアやアリス、そして倉持と名取の2人も殺害した『暗殺者』めッ! 俺の大切なティーナを、絶対にお前にだけは殺害させないからなッ!」


「あたいが暗殺者〜!? な、何を……とんちんかんな事を言ってるんだにゃ〜、大好きお兄さん!? あたい達はコンビニの外で敵の襲撃を受けて、避難する為に、急いでコンビニの地下シェルターに隠れてただけなのにゃ〜!」


「か、彼方様……本当です! フィートさんは私を守る為に、コンビニの地下シェルターに私を連れて(かくま)ってくれていたんです!」



 突然の俺の行動に動揺するフィートと、ティーナ。


「ティーナ……今は事態がまだ飲み込めないかもしれないが、コイツは俺達の事を殺そうとしている敵なのは間違いないんだ! 既にアリスもククリアも、そして倉持達もコイツに殺害されている。だから俺は、絶対にティーナだけは守らないといけないんだ!」


「そんな、ククリア様が……!?」


 驚愕の表情を浮かべて、驚くティーナ。



 そう――もうこの場に至っては、容疑者の候補はフィート以外にあり得ない。


 ククリアがみんなに渡してくれた記憶の指輪(メモリーリング)の事を知っていて。その指輪をわざわざ奪いながら、敵はアリスやククリアを殺害したんだからな。


 そんな事は、俺達の内部にいて。指輪の能力を知っている人間以外には絶対に出来ない!



「ご、誤解だにゃ〜、大好きお兄さん! あたいは見えない敵の襲撃が、事前に分かる能力を持ってるんだにゃ〜! だから、いち早く敵の襲撃に気付いて。ティーナたんを救う為に、ここに一緒に隠れたのにゃ〜! それに、この部屋の中にはまだ……」



 ――カチリ。


 その時、突然……地下シェルターの天井の常夜灯の明かりが落とされた。


 室内は真っ暗になり。深い暗闇に包み込まれてしまう。



「ティーナ!? 無事なのか……!?」


「か、彼方様……きゃああああぁぁぁぁーー!?」


 

 静けさと暗黒の闇が支配する地下シェルターの中で。


 大きなティーナの叫び声だけが、俺の耳の中に響き渡ってきた。


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外れスキルコンビニ
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― 新着の感想 ―
[一言] 何度も同じ場面の繰り返し 主人公はただ喚いてるだけ 不愉快な上に退屈 これも仮想現実だろうからもう一度あるんだろうが正直ウンザリする この茶番何度繰り返すの?
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