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第三百十四話 再会した婚約者


「ハァ……ハァ……。この辺りにも血痕(けっこん)が残ってるという事は、ミュラハイトは森の外側に逃げたのか……」



 逃走する夜月皇帝(ナイト・エンペラー)を追って、俺は迷いの森の奥へと進んで行く。


 もう、だいぶ女神の泉のある場所から離れてしまった気がする。みんなのいる場所から遠ざかる事に、脳内で不安の影がどんどん大きくなっていくのを感じた。



 それは、どうしても仮想夢(かそうむ)の中で見た……あの悪夢のような光景が、俺の頭の中にチラついてしまうからだ。


 救いなのは、スマートウォッチのライブ映像にティーナの無事な姿がちゃんと映し出されている事だった。

 だけどこのまま、コンビニからどんどん遠ざかっていくと。いつかは通信が途切れて、ティーナ達の様子が見れなくなってしまうかもしれない。


 だから、これ以上距離が離れてしまう前に。

 何としても俺は、ミュラハイトに早く追いつかないといけないんだ。


 仮想夢の時と違って、今回こちら側の陣営には防御力のある、『結界師(ディフェンサー)』の勇者の名取(なとり)がいない。

 泉に残ったククリア1人だけでは、無数のライオン兵達を相手に、苦戦してしまうのは間違いない。



 息を切らしながら森の茂みの中を激走し続ける俺は……。念の為に、先ほどレベルアップをした自分のステータスを走りながらチェックしてみる事にした。



「――『能力確認(ステータスチェック)』!」



名前:秋ノ瀬 彼方 (アキノセ カナタ) 

年齢:18歳


職業:異世界の勇者レベル32


スキル:『コンビニ』……レベル32


体力値:32

筋力値:32

敏捷値:32

魔力値:12

幸運値:32


習得魔法:なし

習得技能:異世界の勇者の成長促進技能レベル5

称号:????


――コンビニの商品レベルが32になりました。

――コンビニの耐久レベルが32になりました。


『商品』 


チョコミント

チョコミントアイス

チョコミントジュース

チョコミントパフェ

チョコミント蒸しケーキ


が、追加されました。


『雑貨』


チョコミントカラー服

チョコミントドレス

チョコミント柄クッション

チョコミント枕

チョコミント布団

チョコミント芳香剤

チョコミント入浴剤


『耐久設備』


コンビニガード《チョコミントカラーver》15体


が、追加されました。



 

「……クソッ! やっぱり仮想夢の時と全く同じ内容か。どうして新しくコンビニに加わる新商品は、チョコミント商品ばっかりなんだよ!」



 あらかじめ、予想はしていたけれど。


 レベルアップをして、勇者レベルが32になった俺のステータスは、仮想夢の中で見た内容と全く同じものになっていた。



 改めて朝霧(あさぎり)のもたらした、仮想夢の現実再現度の高さに思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


 確か夢の中で俺はもう一回レベルアップをして、コンビニのレベルは33にまで上がったのを憶えている。でもその時も、俺のステータス欄に加わった新商品は、チョコミント関連の商品ばかりだった。


 唐突に始まったチョコミント尽くしのオンパレードに、俺のコンビニは一体どうしてしまったのだろうと困惑してしまう。


 このチョコミント祭りは、いつまで続くのだろうか?


 流石にずっとこの状態が続くとは思えないけれど……。せっかくレベルアップをしても、チョコミント商品しか増えないと分かっていると、テンションも落ちてしまう。


 せめて謎の敵を倒せるような強力な武器とか。そう……いつか、ククリアが言っていたように。俺がまだ出会った事のない『第4番目のコンビニの守護者』が新たに仲間に加わるとかなら良かったのに。


 無限の勇者インフィニット・シリーズだけが持つ事の出来る、守護者という特別な存在。そしてその中でも『緑色』の称号を持つ守護者は、最強の戦闘能力を持つ可能性が高いという。


 動物園の勇者の冬馬このはに仕えていた4魔龍公爵達の中でも、一番戦闘能力が高かったのは『緑魔龍公爵(グリーン・ナイトメア)』だったというしな。


 ククリアは、もし緑色の守護者が新たに出現する時は、その『予兆』となる何かがコンビニに起きるかもしれないと教えてくれた。


 でも、俺のコンビニのレベルが上がっても、出現するアイテムはチョコミントばかりなんだぞ?


 これでどうやって、4番目の守護者が現れる事が期待出来るっていうんだよ……。



「……ん、待てよ? チョコミントって、よくよく考えれば『薄緑色』をしているとも言えるのか? それってもしかして、緑色に関連する商品が俺のコンビニに出現し始めている、予兆って事になるのだろうか?」



 俺が頭の中で何かが閃きそうになった、その時――。



『ぐぎゃあああああぁぁぁぁぁーーーーッ!!!』



 森の奥から突然、大きな叫び声が聞こえてきた。



「あの声は……まさか、ミュラハイトなのか!?」



 森の茂みをの中を、全速力で駆け抜ける。


 鬱蒼(うっそう)と生い茂る緑の草木や、長い木の枝を避けている暇なんて無い。俺の着ている黒いロングコートは、前進する俺の前にある障害物を、全て自動で切り刻んでくれる。


 早く、早く……前に進まないと!


 途中、2〜3匹のライオン兵達の死骸が大地に転がっていたのが目に入ってきた。

 おそらく黄金の椅子を担いでいた、ミュラハイトに付き従う俊足のライオン兵達で間違いないだろう。



 ……という事は、やはりミュラハイトの身に何かが起きたのは間違いなさそうだ。


 遺伝能力(アンダースキル)も無く、孫娘のミズガルドのように達人級の剣技も持ち合わせていないあの男には……敵と戦う手段は何もないはずだ。


 ミュラハイトに唯一出来るのは、無数のライオン兵隊達を自由に操るという事だけだからな。そして肝心なライオン兵隊は、ほとんど今は女神の泉に残してきてしまっている状態だ。



 俺の蹴りで右腕を吹き飛ばされて、重傷を負ったミュラハイトの身に……一体、何が起きたのだろう?



 まさか――!?

 あの正体不明の暗殺者が……ここに現れたのか?


 先ほど叫び声が聞こえてきた方向に進み続けると、やがて俺は森の中に大きく開けた場所に辿り着いた。


 そこには……人間は誰もいなかった。ただ不気味なほどに静まり返った沈黙が広がっているだけだ。



 ここについさっきまで、ミュラハイトがいたのは間違いないだろう。

 なぜなら広場の中央部には、真っ赤な人間の血痕が大量に残されていたからだ。



 沢山の血の跡が残る場所に接近して、俺は周囲の様子を注意深く探る事にする。


 どこだ……ミュラハイトの野郎は、一体どこに消えてしまったんだ?



 ”トゥルルルーー! トゥルルルーー!”



 突然、スマートウォッチに電話のコール音が鳴り響いた。呼び出し相手は……コンビニの事務所からだ。


 俺は急いでスマートウォッチのタッチパネルを押して、電話に出る。



『――もしもし、コンビニの勇者殿! そちらは大丈夫ですか?』


 スマートウォッチから聞こえてきたのは、ククリアの声だった。


「……ククリアか? ああ、俺は無事だけど……。一体どうしたんだ? ここに電話をかけてくるって事は、今はコンビニの事務所の中にいるのか?」


『やっほ〜、だにゃ〜〜! 大好きお兄さんの声がやっと聞けたのにゃ〜!』


『か、彼方様……!? 大丈夫ですか? お怪我はしていませんか?』


 ククリアの声の背後から、騒々しいフィートの叫び声と、俺を心配するティーナの声も聞こえてきた。


「えっ? みんなもコンビニの事務所の中にいるのか? 女神の泉の周辺にはライオン兵達がまだ沢山いるから、丘の茂みの中に隠れて貰っていたはずなのに。どうしてみんなも、コンビニの中に集まっているんだ?」



 俺は訳が分からず、思わず聞き返してしまう。


『それが、コンビニの勇者殿……。実はライオン兵達は統率を完全に失い、泉の周囲から逃げ去ってしまったのです。女神の泉の周囲には、今はボク達以外誰も残っていません。ですので丘の上に隠れていた皆さんを、いったんコンビニの中にお連れしたという訳なのです』


「何だって、そんな事が……? あの数千匹近くいたライオン兵達が、全て逃げ去ってしまったというのか?」



 驚きの声をあげる俺に、ククリアは冷静に質問をしてくる。


『ハイ。なのでボク達は、コンビニの勇者殿が夜月皇帝(ナイト・エンペラー)を仕留めてくれたのだと思っていたのですが……。そうではなかったという事なのですか?』


「ああ、ずっと追いかけてはいたけれど……。まだ、ミュラハイトの姿を俺は確認出来ていないんだ」



 あまりに衝撃的に事実に、ククリアも、みんなも言葉を失ってしまう。



 まだ……確証はないけれど。もしかしたら、ミュラハイトは既に死亡しているのかもしれない。


 さっき森の奥から聞こえてきた、絶叫のような若い男の声。そしてミュラハイトに付き従っていたライオン兵達の死骸。


 これらの複数の事実から推測すると、バーディア帝国を影から支配していた夜月皇帝ミュラハイトは……既に死亡したという可能性が高いだろう。


 でも、一体誰が……? 俺以外の誰が、ミュラハイトにとどめを刺したというんだ?


 そして肝心のミュラハイトの死体は、一体どこにあるのだろう? ここには赤い血痕の跡だけ残っているけれど。これが本当にミュラハイトの体から流れ出た血なのだとしたら、その死体は誰が持ち去ってしまったんだ?



 身震いするような寒さが、急に体の隅々にまで染み渡っていく。


 何だろう、この寒気と嫌な悪寒(おかん)は……。


 この感覚は、あの仮想夢の中で悪夢のような光景にでくわした時と似ている感じがする。


 正体不明の『何か』が動き出して。俺の手の届かない所で次々と人が殺されてしまう、あの恐ろしい悪夢の惨劇。



「ハァ……ハァ……」


『大丈夫ですか? コンビニの勇者殿……!』


 ククリアの俺を心配する声が、スマートウォッチから聞こえてきた。


「……ああ、大丈夫だ。まだ、夜月皇帝の死体を確認した訳じゃない。これが何かしらの罠の可能性もあり得るから、俺は慎重に行動をしようと思う」


『了解しました。では、ボク達はこれからどのように行動すれば良いでしょう?』


「そうだな。まずは女神の泉に水を注いで、奇跡の水の効果を復活させたい。だからコンビニでペットボトルの水を大量発注して、泉に中に水を注ぎ入れて欲しいんだ」


『こんなに広い泉の中に、ペットボトルの水を満たすのかにゃ〜!? それは労力と時間がかかるのにゃ〜!』



 ククリアの声の後ろから、面倒くさそうにため息をつくフィートの声が聞こえてくる。


「水なら何でもいいさ。コンビニの水洗トイレの水を()んできて、使ってくれても構わないぞ!」


『トイレの水なんてもっと嫌だにゃ〜! それならペットボトルの水を使う方がマシにゃ〜〜!』


 愚痴ばかり吐くもふもふ娘の声を遮るように、今度は後ろからティーナの声が聞こえてくる。


『分かりました、彼方様! 女神の泉に水を注いでお待ちしています。コンビニの無限の能力を使って、倉庫で大量発注を繰り返せば……きっと30分くらいで泉の中を水で満たす事が出来ると思います。コンビニガードさん達にも手伝って貰いますね!』


 コンビニの事に精通し、商人の娘として計算能力も高いティーナがそういってくれるのなら間違いないだろう。


「うん。ティーナ、ありがとう! ククリア、必ずみんなで固まって作業をするようにしてくれ。決して誰かが孤立をしたり、一人ぼっちになるような事がないように作業を進めて欲しい。……後、何があっても、地下シェルターの中にだけには入らないようにしてくれ!」


『お任せ下さい、コンビニの勇者殿。ボクが従える巨大土竜(ビッグ・モール)達にも水の運搬を手伝って貰いますから、きっとすぐに女神の泉に水を満たす事が出来るはずです。コンビニの地下シェルターは閉鎖して、誰も入らないように気をつけます』


「頼んだぞ、ククリア! 俺はもう少しこの辺りを探索して、ミュラハイトの行方を追ってみる事にするよ」



 コンビニにいるククリア達との通話を終えて、俺はもう一度周辺の様子をくまなく探ってみる事にした。


 ライオン兵達が女神の泉から全て逃走し、ミュラハイトの姿が分からなくなったのは想定外だったけれど。

 まだみんなの身に、何か重大な危機が訪れた訳ではない事に……とりあえず安堵する。



 後、約30分もすれば。再び女神の泉に水が満たされるんだ。


 そうしたら、眠りについている冬馬このはの体を泉の水に浸して。そしてティーナにも、女神の泉に入って貰おう。そうすればきっと全てが上手くいくはずだ。



 大丈夫……俺は今回、正解のルートを辿っていると今なら確信出来る。



 前回の仮想夢の時と、今回はまるで違う。


 コンビニの仲間は誰も死なない、死なせない。そして全てが上手くいくはずなんだ。



 しばらく、周辺の様子を注意深く観察していた俺は……。地面に広がっている血痕の跡が、森の奥の方に流れている事に気付いた。



 これは、どういう事なんだろう?


 ミュラハイトはここで何者かに襲われて、森の更に奥の方に連れ込まれたという事なのだろうか。



 俺は恐る恐る、忍び足で森の奥へと進んでいく。


 そして、数十メートルほど進んだ所で……。



 俺はとうとう、逃走したミュラハイトと再会を果たす事が出来た。

 

 いいや……。正確には、ミュラハイトの体の『一部分』とだけ再会を果たせたという方が正確か。


 森の奥で、俺は切断されたミュラハイトの『首』を見つける事が出来た。しかもその生首は、宙にぷらりと浮かんでいた。



 もちろん、生首が重力を無視して勝手に空中に浮かんでいる訳がない。


 切断されたミュラハイトの首を掴むようにして――。

 俺の目の前に立つ男が、片手でその生首を無造作に掴み上げていたからだ。



「……探しモノはこれかな? 彼方くん。まさかこんな所で彼方くんと再会が出来るなんて、つくづく僕達は腐れ縁で結ばれた仲のようですね」



 そんな……!?

 どうして『お前』がここにいるんだ……!



 俺は目の前に立つ男の姿を見て、驚愕する。


 俺はその男の事をよく知っていた。当然だ。そいつは俺の幼馴染で、俺達のクラスの委員長でもあり、『不死者(エターナル)』の能力を持つ、選抜勇者のリーダーの超絶ナルシスト野郎だからな。



 そう――あの倉持悠都(くらもちゆうと)が、なぜか迷いの森の中に立っていた。



 倉持の後ろには、『結界師(ディフェンサー)』の勇者である名取の姿も見える。


 更に森の奥の方には、白い鎧を着たおびただしい数の『白蟻魔法戦士隊(ホワイト・アンツ)』が整列をしている。


 グランデイル軍の最精鋭の軍隊がいつの間にかに、迷いの森の奥に勢揃いしていた。



 事態がすぐに飲み込めずに、困惑する俺の前に。



 俺にとっては、本当に久しぶりとなる……。二度と再会したくはなかった最悪の人物が、倉持達の後ろで白馬にまたがり。


 俺の事を冷たく見下すように、冷徹な視線で睨みつけてきていた。



「――これは、これは、まさかこのような所で、私の真なる婚約者様と再会が出来るだなんて……。本当に光栄ですわ、コンビニの勇者様。うふふふ」



 金髪の髪に、雪のように白い肌。

 グランデイルの王都から俺を追放したその人物の姿を、俺は決して見間違う訳がない。


 そう……。グランデイル王国女王のクルセイスが、倉持と名取の2人を引き連れて、なぜかこの迷いの森にやって来ていたのだ。


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