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第三百十三話 奇跡の水の消失


 森に潜伏させていたコンビニガード軍団と、上空を旋回するドローン部隊による奇襲攻撃によって。


 思いがけない伏兵からの襲撃を受けたライオン兵達は現在、大混乱に陥っていた。



 ――当然だ。ライオン兵達の実質的な指導者であるミュラハイト自身が、突然の奇襲にまだ困惑しているくらいだからな。

 その配下のライオン兵達が指揮系統を失い、慌てふためくのは仕方ない事だろう。


 空にいるドローン部隊は、ミュラハイト達が森から逃走をしないように、敵の進行方向に合わせてピンポイントでミサイル攻撃を上空から発射させている。

 そして森の茂みに伏せているコンビニガード達も、ボウガンで四方八方から、無数の矢による射撃をライオン兵達に向けて連射する。



「チィッ! いつの間にかに、敵に完全に包囲されていたって訳なのかよ……!」



 舌打ちをしながら、必死に俺から距離を取ろうと逃げ回り続けるミュラハイト。



「ああ、そうさ! お前にもう、逃げ道なんて無い! 観念して、とっとと俺に蹴り飛ばされちまえよッ!!」



 黄金の椅子に座りながら、森の中を逃げ回り続ける夜月皇帝目掛けて。

 俺は上空から強烈な力を込めた、必殺のかかと落としを空中から勢いよく振り下ろした。


 そしてとうとう、ミュラハイトの座る黄金の椅子を(かつ)ぐライオン兵の中の一匹に……。

 俺の振り下ろしたかかと落としが、見事に直撃する。


 一撃で頭を粉砕されたライオン兵は地面に倒れ込み。4匹の瞬足のライオン兵達に黄金の椅子を担がせていたミュラハイトは、バランスを崩してその場でよろめく。



 よし、今がチャンスだぞ!

 ここで一気に畳み掛けて、勝負を決めてやる。



「うおおおおおおぉぉぉーーーーッ!!!」



 逃げ足の鈍くなったミュラハイトを仕留めようと、俺は高速移動をしながら追い回し続けた。



「クソッ……本当にしつこい奴めッ! おい、獣人兵共ッ! このストーカー野郎を、さっさと制圧しろッ!」



 ミュラハイトも、今回ばかりは必死にならざる得ない。

 おそらく、いつもの余裕をぶっこいている状態がデフォルトになっていたミュラハイトは、自分の命が他者に脅かされるという経験が、今までに全く無かったのだろう。


 もう薄ら笑いを浮かべて、体裁(ていさい)を取り繕っているような余裕など無い。


 滝のように冷や汗を流しながら、配下のライオン兵達に必死に指示を与え続け。後ろから猛追撃してくる俺から何とか逃げようと、死に物狂いで逃走を続けている。


 おそらく、この女神の泉を巡る攻防において。戦力的にはまだ、夜月皇帝が従えているライオン兵達の方が遥かにコンビニ陣営よりも上だろう。


 前回の仮想夢の時ほどではないが、女神の泉にいるライオン兵の数はまだ……3000匹近くは残っている。



 だが今回は、時刻が早朝である事も功を奏した。


 朝日に照らされて、視界がクリアな状態になっているおかげで、以前よりも敵の位置が正確に把握しやすくなっている。そしてコンビニから出撃したドローンや、コンビニガード達も、ククリアの従えている巨大土竜(ビッグ・モール)軍団との連携が完全に取れていた。


 ここに来るまでの道中で、ククリアとは念入りに打ち合わせを重ねたからな。空に浮かぶドローン達も、敵に攻撃を加えては戦場から離脱するヒット・アンド・アウェイ攻撃を繰り返す事で、ライオン兵達の反撃を受けないように工夫している。


 だから俺は、夜月皇帝を仕留める事だけに集中出来ている状態だ。


 能力(スキル)を何も持たない、黄金アクセサリーを大量に身につけただけのチャラ系男のミュラハイトには、俺の殺人級の威力を持つ蹴り技を防ぐ事は出来ない。


 基本的にライオン兵達の力を借りなければ何も出来ないミュラハイトは、ただ逃げ回る事しか出来ない無能男だ。


 普通の人間が、砂漠の魔王モンスーンとも互角に渡り合える俺の蹴り技を、生身の体でまともに受けたなら……。その体は一撃で、粉々に粉砕されてしまう。だから奴には俺から逃げるという選択肢しか選べないんだ。



 ミュラハイトを追いかけながらも、俺は腕に付けたスマートウォッチの画面を忘れずにチェックする。


 小さな液晶画面の中には、丘の茂みに隠れている、ティーナ、フィート、アリスの3人と、水晶の中で眠りについている冬馬このはの姿がちゃんと映っていた。



 良かった……。どうやらみんな、ちゃんと無事でいてくれているみたいだ。


 この乱戦の中でも、ティーナ達の様子は常に確認しておかなければならない。目の前の夜月皇帝との戦いは、もちろん重要だけど。それ以上に、正体不明の暗殺者がいつ襲ってくるのかの方が今の俺には気になる。



 前回の仮想夢の時は、ちょうど女神の泉で敵と戦っている時に『そいつ』は突然現れた。


 だけど今回は、前回とは少しだけ状況が異なっているのかもしれない。


 もしかしたら、正体不明の暗殺者がまだやって来ていない……というのは、時刻が早朝だからという事も関連しているのだろうか?


 謎の暗殺者がここにやって来て、いつ行動に移すのかの条件はまだ不明だ。でももし、あの時と同じ時間帯。今日の深夜に暗殺者はやって来るのだとしたら、早朝のこの時間帯は安全が確保出来ているという可能性もあり得る。



 ……いや、決して油断してはいけない。


 もし、失敗をした時に。『次』を期待するような事は考えてはいけないんだ。今回が常に人生の最後と考えないと。世界がもう一度やり直せるかも……なんて発想は、絶対に当てにしてはいけない。


 全てを失ってしまってからでは手遅れになる。取り返しのつかない事態にならないように、ありとあらゆる可能性を考慮して、俺は慎重に挑まないといけないんだ。


 前回、仮想夢なんてものを体験してしまったせいで。

 俺の頭の中にいつの間に『ゲーム脳』が出来てしまった事に、思わず恐怖をおぼえてしまう。


 敵の出現タイミングや、行動条件を今回は見極ようだとか……。そんなのは、何度でも人生をやり直せる『ゲームプレイヤー』の考える思考だ。

 

 普通の人間の人生にとって、『次の世界』という概念は存在しない。


 だから可能な限り、俺はティーナの安全を常にチェックしながら行動しよう。少しでも怪しい動きがあったなら、すぐにティーナの所に戻ってみんなを守るんだ。


 そして出来るだけ早く夜月皇帝を倒して、女神の泉を確保する。それで今回の旅の目的は果たす事が出来る。



 動物園の魔王である、冬馬このはを泉の中に入れて目覚めさせる事が出来れば……。俺達の戦力は大幅にアップする事は間違いない。

 なにせ最強と謳われた『動物園の魔王』が、コンビニ陣営の仲間に加わるんだからな。


 それも女神教の魔女達でも倒せなかった、無限に動物達を召喚する事の出来る魔王だ。

 コンビニの勇者の俺と、魔王である冬馬このはが手を組めれば……。きっと禁断の地にいるあの灰色ドレスのレイチェルさんだって倒せると俺は信じている。

 


 そして、ティーナの中に眠っている遺伝能力を目覚めさせる事が出来れば、それがどんな能力なのかは分からないけれど。きっと俺達の未来に役立つ、重要な何かが手に入るはずなんだ。


 だから、後……もう少しなんだ!


 もう少しで、前回手に入れる事が出来なかった、全員が生き残るという最高の未来を掴み取る事が出来るんだ。



「――コンビニの勇者殿、女神の泉周辺エリアの確保に成功しました!」


 女神の泉の方から、ククリアの叫び声が聞こえてきた。


 ミュラハイトを追いかけながら、泉の方角を確認すると。ククリアの操る30体近くの巨大土竜(ビッグ・モール)の集団が、隙間を空ける事なくびっしりと整列し、泉の周囲を完全に取り囲んでいる。


 そして、ライオン兵達の侵入を完璧に阻みながら、全員がその場に仁王立ちをして立ち尽くしていた。



 これはもはや、巨大な『防御壁』が女神の泉の周囲に建造されたと言ってもいいだろう。


 ライオン兵達は、その中に侵入する事さえ出来ていない。ククリアはどうやら完全に、女神の泉の制圧に成功したようだ。



「……ほう、やはりお前達は『女神の泉』が狙いのようだな? フン、このオレがオレ様以外の奴に、あの泉を使わせてやるとでも思ったのかよ?」


「何? 一体何をするつもりだ、ミュラハイト!?」



 黄金の椅子に乗ったまま、ミュラハイトが右手を高く掲げてみせた。その手の先には、金色に光る石のような物が握られている。


(いにしえ)の魔王により作られしゲートよ! 盟約に従い、バーディア帝国皇帝の血筋を引く者の呼びかけに応じよ! 『異空間魔導転移アザー・ディメンション』――!!」



 夜月皇帝の呼びかけに応じて、女神の泉の底から白い光の線が空に向けて浮かび上がってくる。


 まるでレーザーポインターのように、細長い真っ直ぐな線が空に向かって伸び。そして、異変はすぐに女神の泉の中で起きた。



「まさか!? そんな……泉の水が!?」


 泉のそばに立っていたククリアが驚きの声をあげる。


 俺もすぐに女神の泉を遠目で確認してみる。そして、すぐに気付いた。泉の中に満ちていた虹色の光を放つ奇跡の水が……みるみるうちに消失していっているのだ。


 まるでお風呂の底にある栓が抜けて、中の水が全て排水されてしまったかのように。

 水が吸い込まれる大きな音を立てて、女神の泉の中の水は、あっという間に全てどこかに消え去ってしまった。



「クソッ! ミュラハイトの野郎、やりやがったな!!」


 俺はミュラハイトがした行為の意味を悟り、唇を噛み締めて悔しがる。


 ミュラハイトは数千匹のライオン兵達を引き連れて、この場所に転移をしてきた時のように。


 異なる場所を繋ぐ事の出来る転移石を、女神の泉の底にも仕掛けていたんだ。きっとそれは、本当に石ころのような小さな装置だったのかもしれない。


 だけど、その転移石を解放して。他の場所と泉の底を繋げる事で……。女神の泉に溜まっていた奇跡の水は全て、どこか別の場所に流れ出てしまったんだ。


 自分以外の誰かが、女神の泉を勝手に使わないように。そんな嫌がらせのような仕掛けを、泉の底に仕込んでいやがったのかよ。クソッ……!!



「ハッハッハーーッ! あの泉はオレだけのものだ! オレ以外の誰にも使わせたりなんてしない! そしてあの泉がオレの手にある限り、オレはグランデイルの小娘や、女神教の魔女達とも対等に渡り合えるんだ! てめーらなんかに、絶対に泉の水は使わせてやるものかよ!」


「……そうか。なら、お前を今すぐここでぶっ倒して、力づくで奪い取るしかないようだな!」



 俺は全速力でミュラハイトのそばにまで駆け寄る。


 そして持てる脚力の全てを込めて、全力で大地を蹴り。ミュラハイトのいる場所にまで一気に跳躍をした。

 

「なっ……!?」


 ミュラハイト自身も、女神の泉の水を消失させた事で一瞬、油断してしまったのだろう。


 高速スピードで飛び掛かってきた俺から逃げようと、配下のライオン兵達が慌てて大地を蹴り、後方に跳躍をしようとする。



 だが……このチャンスを、俺は絶対に逃がさない!


 俺には守るべき仲間達がいて、必ず手に入れると約束をした『未来』があるんだ。

 

 泉の水が無くなったくらいで、俺が落胆なんかすると思うなよ! 水なんて、また注ぎなおせばいい。コンビニで無限に飲料水のペットボトルを発注して、女神の泉の底に何千本も放り込んでやるさ。


 そしてそれを実現する為にも、今、ここで。何としてもミュラハイトだけは始末しておかないといけないんだ!



 俺の全力の飛び蹴りが、ギリギリ夜月皇帝の体にまで届いた。


 高速スピードで勢いよく蹴り上げた俺の足が、ミュラハイトの右腕を一瞬にして粉砕する。


 コンビニの勇者に蹴り飛ばされたミュラハイトの右腕は、骨も残さないくらいに粉々となり。跡形もなくこの世界から永遠に消失した。



「ぐぎゃああああああぁぁーーーッ!! いってええええぇぇぇぇーーーッ!!」


 失った右腕の付け根から大量出血しているミュラハイトは、黄金の椅子を担ぐライオン兵達に命じて。

 女神の泉から離れて、全力疾走で森の奥へと逃走を開始していく。


 ここで奴を見失う訳には絶対にいかない。すぐに追いかけないと……!


 俺は一度、泉のそばにいるククリアの元へと駆け寄る。


 そしてポケットからコンビニ支店1号店のカプセルを取り出して、泉のすぐそばにコンビニを出現させた。



「出でよーーッ! コンビニ支店1号店よッ!」


 巨大なコンビニが、女神の泉のすぐ真横に姿を現す。


「ククリア、俺はミュラハイトの野郎を全力で追いかける! コンビニをここに残しておくから、女神の泉を守り通してくれ。ミュラハイトを倒せば、ライオン兵達は散り散りになって逃走していくはずだ。それまで何とかここを死守して欲しい!」


「お任せ下さい、コンビニの勇者殿! たしかに敵の残存兵力はまだ多いですが、すでに指揮系統が失われバラバラな状態になりつつあります。コンビニのドローン部隊とも連携を取り、ボクが必ずここを守り通してみせますので、必ずや夜月皇帝を倒してきて下さい!」


「おう、任せてくれ! ティーナ達の事も頼むぜ、ククリア!」



 俺は片手を上に振り上げて、女神の泉を後にする。


 今は急いで逃走した夜月皇帝の後を追いかけないといけない。ここでミュラハイトを絶対に見失う訳にはいかないんだ。


 俺が最も信頼しているククリアに、女神の泉の防衛を任せる。

 ククリアは、俺の仮想夢での経験を全て知っているから、きっとティーナやフィート、アリスの事もしっかり守ってくれるはずだ。


 コンビニがあれば、屋上のガトリング砲や地対空ミサイルだって使える。まだまだ敵の数の方が多いが、俺がミュラハイトを仕留めるまで、何とかこの場を守り抜いてくれるだろう。



 逃走したミュラハイトを追って、俺は全速力で森の中を駆け抜けた。


 ミュラハイトは森の地面に、たくさんの出血の跡を残している。だからその後を追えば、必ず奴に追いつく事が出来るはずだ。



 走りながらスマートウォッチを確認すると。息を潜めて茂みに隠れているティーナや、フィート達のライブ映像がちゃんと流れていた。



「大丈夫……。今回は、絶対に誰も死なせたりはしない。まだ、必ず取り返せるはずなんだ……!」



 俺はみんなの無事を確認しつつ、迷いの森の奥へ奥へと進んでいく。

 女神の泉から離れ、静かさに包まれた森の中を……たった1人で夜月皇帝の後を追って突き進んでいった。


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