表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

306/439

第三百六話 地下シェルターのトラウマ


 ククリアの操る、巨大土竜(ビッグ・モール)達に掘って貰った地下の巨大トンネルを静かに進み。


 コンビニ支店1号店は、キャタピラーをゆっくりと動かしながら。誰にも気付かれる事なく、3万人のグランデイル軍に包囲されたカラム城の外に、無事に脱出する事に成功した。



「ふぅ〜、どうやら倉持達には見つからずに、城の外に出る事が出来たみたいだな……」


「彼方様、私達はこれから帝国領の南にあるという女神の泉を目指すのですか?」


 すっかりコンビニ戦車のベテラン操縦士に成長したティーナが、事務所のパソコンを操作しながら俺に尋ねてきた。


「ああ、そうだ。俺達は今から女神の泉を目指す。そこでティーナの隠された遺伝能力を覚醒させて、現在は眠り姫となっている『動物園の魔王』である冬馬このはに目覚めて貰う予定だ」



 コンビニ支店1号店の地下シェルターには、青いクリスタルの中で眠っている冬馬このはの体を隠している。


 この事は、ティーナとククリアは知っているが、まだアリスにはその事実を伝えていなかった。



 アリスは現在、コンビニの店内でサバ缶を使った焼き魚の料理を、カセットコンロを使用して作ってくれている。この辺りは、前回の仮想夢と同じ展開だな。


 違う事といえば、前回はコンビニの中に倉持、名取、そしてフィートがいてくれた。

 だから、店内の賑やかさという意味では……少しだけ寂しさを感じてしまう。特にフィートはうちのコンビニメンバーの中では、玉木に次ぐムードメーカー的な存在でもあったからな。


 フィートのいないコンビニの店内は、どうしても寂しさを感じてしまうけど……今回は仕方がない。なにせ、失敗は絶対に許されない旅だからな。


 フィートはカラム城に、ミズガルドと共に残って貰ったし。倉持と名取はまだ仲間に加わっていない状態だから、カラム城を包囲するグランデイル軍の中にいる。


 今回の旅は、俺とティーナとククリア、そしてアリスと地下シェルターの奥に隠している冬馬このはを含めた5人だけの旅になる。だから決して油断をしないように、十分に気をつけて女神の泉へ向かうつもりだ。



 俺はコンビニの運転をティーナに任せて、事務所の隅に座っているククリアの近くに向かった。


 ククリアはコンビニの簡易ベッドの上にちょこんと腰掛けて、何かの書物を夢中になって読み漁っていた。


 そんなククリアの肩を、ツンツンと指先で突いてみる。


 俺に肩をつつかれたククリアは、何事かと後ろを振り返り。俺の顔が自分の顔のすぐ近くにまで接近していた事に驚き、慌ててベッドの上で飛び上がった。


「コンビニの勇者殿……!? ダメですよ、こんな所で! ティーナさんがすぐ近くにいるというのに!」


「えっ……何がダメなんだよ? ククリアが本を夢中で読んでいるから、何を読んでるんだろうな〜って、後ろから覗き込んでみただけだぞ?」



 顔を真っ赤にして、ククリアが唇を震わせて。何かを俺に言いたげに体を硬直させている。



 アレ……? どうしたんだろう?


 もしかして、読んでいたのはククリアの日記帳だったりでもしたのかな? もしそうなら、申し訳ない事をしたと思うけど……。でも、コンビニにわざわざ自分の日記帳を持ってきている訳がないか。


「ボクは今、コンビニで発注をした異世界の雑誌を読ませて頂いておりました」


「異世界の雑誌? どんなのを読んでいたんだ?」


「……これなのです」


 ククリアがおずおずと俺に差し出してきた雑誌には、『厳選、可愛い動物大全集』というタイトルが書かれていた。


「へぇ〜、うちのコンビニでこんな雑誌も発注出来たんだ。どれどれ、俺にも見せてくれよ!」


 簡易ベッドに腰掛けているククリアのすぐ横に俺が座り込むと。なぜかククリアは、いそいそと俺から離れて、距離をとった場所に座り直す。


 ……ん? 不思議に思った俺は、またククリアのすぐ真横に座り直すと。

 ククリアはすぐに俺から距離をとって、また別の場所に座り直した。


 ああ、またこのゲームなのか。まあ、女神の泉までたっぷり時間もある事だし、ククリアの好きな遊びに少しだけ付き合ってやるか。


 俺とククリアは、簡易ベッドの上で無言でお互いの座る場所を移動し続けるという、謎の遊びを繰り返し。

 とうとうベッドの上で、もう逃げられないだろうという一番隅にまでククリアを追い詰めた所で、ククリアがゲームの負けを認めて俺に降伏宣言をした。



「……コンビニの勇者殿、もう許して下さい。これ以上、ボクに対してそんなに熱烈なアプローチをされては、ティーナさんに見つかってしまいますから……」



 呼吸を小さく乱して、顔を真っ赤にしているククリア。


 ククリアは横目でチラチラと、なぜかしきりにパソコンを操作しているティーナの事を気にしているようだった。


「やっと負けを認めたのか。ククリアは本当に、この謎のゲームが好きだよなー。じゃあ、さっそく俺にもその雑誌を見せてくれないか?」


 敗北宣言をして大人しくなったククリアの真横に改めて座り直し。俺は『厳選、可愛い動物大全集』とかかれた雑誌を、ククリアと一緒に2人で見る事にした。



「――うおぉぉ!? めっちゃ可愛い動物達がいっぱいのってるじゃないか! 特にこのペンギンなんて、超可愛いな!」


「ですよね、ですよね! このジェンツーペンギンのつぶらな瞳と、白い頭の部分がボクは本当にお気に入りなのですよ! ペンギンさん達は、特に可愛くてみんな大好きなのです!」


 興奮気味にククリアが、俺にペンギン愛を語ってくる。


 あれ? こんなに食い気味に、自分の趣味趣向の話をしてくるククリアは珍しいな。よっぽどペンギンが大好きなんだろう。


 さすがは動物園の勇者である、冬馬このはの守護者の意志と記憶を受け継ぐ者といった所か。ククリアは本当に動物が大好きなんだという気持ちが凄く伝わってきた。


 しばらく、ククリアのペンギン愛語りを受け止めていた俺に、コンビニの運転を自動操縦に切り替えたティーナが話しかけてきた。



「……ふふ、ククリア様と彼方様はとっても仲が良いのですね! 私、少しだけアリスさんのお手伝いをして参りますね!」


「こ、これは違うのです! ペンギンの生態をぜひ知りたいというコンビニの勇者殿に、ボクが詳しく解説をしていただけなのです……!」


 ティーナに声をかけられて。ククリアが顔を真っ赤にしながら、慌てて本を抱きかかえる。


 そんなククリアの様子を見て。クスクスと笑いながらティーナは事務所の外に出ていった。


 そういえば、俺が他の女性と2人きりで話をしていても、ティーナが焼きもちをやく素ぶりを全く見せないのは珍しいな。


 以前に俺がレイチェルさんと2人で話していた時も、そうだったけど。ティーナ的に俺が仲良く話していても『大丈夫な女性基準』というのが存在するのかもしれない。

 レイチェルさん、ククリアはOKだけど、ミズガルドはダメという事なのかな?


 まあ、たぶん……見た目的にも、ククリアは中学生くらいの女の子の外見をしているし。仲の良い妹と話している、お兄ちゃん的な扱いで見られているのかもしれないけどな。



 しばらく顔を赤くしていたククリアは、ようやく落ち着きを取り戻し。コホン……可愛く咳払いをした後で、真面目な口調で俺に話しかけてきた。



「……コンビニの勇者殿。それで、女神の泉までの道中はおおよそ3日くらいかかるというのは、本当なのですか?」


「そうだな、俺の記憶だと確かそれくらいはかかった。だけど今回は、俺が女神の泉に向かうまでの道を覚えているからな。だから前回よりずっと早く到着出来ると思う」


 前回、『結界師(ディフェンサー)』の勇者である名取に、地図上で指し示して貰った場所に到着するまでに。

 コンビニ戦車は、途中で遠回りになる崖を迂回したり。コンビニの重みで沈み込んでしまう沼地を避けたりと、だいぶ時間のロスをしてしまった。


 でも今回は、それらの回避すべき危険な道の情報を、仮想夢の記憶を持つ俺が全て先に知っている。だから最短の道を選択して、女神の泉へ向かう事が出来るだろう。



 俺がそう説明すると、ククリアは何か疑問が残るような顔色をして、小さな声で問いかけてきた。


「もし、女神の泉へ向かう時間を最短化するのでしたら。コンビニ支店1号店の地下シェルターに、ボク達全員が入り。その状態でコンビニをカプセルに戻して、コンビニの勇者殿のポケットにしまった状態で、飛行ドローンで空を飛んでいくというのはダメなのでしょうか?」


「えっ……そうか! その手があったのか!」


 ククリアに言われて、俺は初めてその事に気付く。

 まさに盲点というか、そのアイデアは全く俺の頭には浮かばなかった。でも、確かにその手は有効だと思う。


 コンビニ支店はカプセルに戻すと、店内にいる人間はそのまま地面に放り出されてしまう。でも、地下シェルターだけは別だ。

 あそこの空間は別次元の収容場所に繋がっているので、そのまま中に入ってる物をキープしながら、カプセルにしまい込む事が出来る。


 だから俺は動物園の魔王である冬馬このはを、地下シェルターの中に隠して、ここまで持ち歩いてきた訳だしな。


「全員を地下シェルターに入れた状態で、コンビニ支店をカプセルに戻し。そして俺だけが飛行ドローンで空を飛んで、みんなを運んで行けば……最短1日くらいで女神の泉に到着する事も出来るかもしれないな」


 頑丈で機動力のあるシールドドローンを合体させて作る飛行ドローンは、アパッチヘリほどの速度は無いけれど。地上の上をコンビニ戦車で移動するより、遥かに速いはずだ。



 なるほど、なるほど。その手があったかと、思考を巡らせていた俺は……。


 ククリアの提案してくれたアイデアが、俺にとってどうしても実行不可能である事に気付いてしまう。



「――いや、やっぱりそれはダメだ。地下シェルターにみんなを入れるのは危険過ぎる!」


「コンビニの勇者殿、それはどうしてですか?」



 俺が突然、大声を出して否定をしたので。ビックリしたククリアがおそるおそる理由を聞いてきた。



 俺はその理由をククリアに、丁寧に説明をする。


「確かにみんなを地下シェルターに入れて、飛行ドローンで運んでいけば時間は短縮出来る。でも、俺はみんなを俺の目の届かない密室に閉じ込める事だけはもう、絶対にしたくないんだ……!」


 前回、俺が夜月皇帝(ナイト・エンペラー)と女神の泉で対峙した時には、負傷した倉持やフィートの怪我を治す為に。そして、無数に襲ってくるライオン兵達の襲撃から逃れる為に。


 コンビニの周囲には、敵と戦闘の出来る俺とククリアの2人だけを残して、他のメンバーにはコンビニの地下シェルターに隠れて貰った。


 そして俺の目の届かない場所にみんなが移動した途端に、あの悲劇は起きてしまったんだ。



 今の所……まだ、敵の正体は全く不明だ。


 今回は念の為に、行動に疑念のあるフィートにはカラム城に残って貰ったけれど。また姿の見えない敵が、地下シェルターにみんなが隠れた途端に行動を起こす事だってあり得る。



 敵の正体は、俺達の中にいるとは限らないからな。


 玉木のように、透明化の出来る能力を持った暗殺者や、気配を悟らせずに、こちらに近づく事の出来る特殊能力を持った外部の敵が、既にコンビニの内部に潜入している可能性だってある。


 だから、どちらにしても今回はみんなには、俺の目の届く範囲にいて欲しいと思っている。


 コンビニ支店をカプセルに戻して。地下シェルターに入って貰ったみんなを、女神の泉まで運び。後でその様子を確認しようとしたら……前回と全く同じ悲劇が起きていたなんて事になったら、目も当てられないからな。



「なるほど。確かに正体不明の敵は、コンビニの勇者殿がいない隙をついて、犯行に及ぶ可能性は高いでしょうね」


「ああ、せめてコンビニをカプセルに戻した時にも、中の地下シェルターにいるメンバーとスマートウォッチで連絡が取れるなら、まだマシなんだけどな……。それが出来ない事はもう確認済みなんだ」


 コンビニ支店をカプセルに戻してしまうと、地下シェルターに残っているメンバーとは連絡が取れなくてなってしまう。


 カプセルにせずに、地上にコンビニがある時なら連絡は取れる。……という事は、やっぱりカプセル状になっている時は、特殊な異空間に保存されているような状況になってしまうのだろう。


 だから、みんなをコンビニ支店の地下シェルターに入れて、その状態で俺が飛行ドローンで空を飛んでいくという事は……。外から監視の出来ない完全密室の中に、みんなをわざわざ閉じ込めてしまうようなものだ。


 また壁一面が真っ赤に染まった、あの恐ろしい状況になってしまうのだけは絶対に避けたい。


 俺の目の届かない地下シェルターの中に、みんなを入れるのはもう嫌なんだ……。



「分かりました。では、今回も地上を進んで女神の泉を目指しましょう。それでも前回より大幅に時間を短縮して辿り着けるのは間違いありません。前回、答えを見つける事の出来なかった難問。深夜に女神の泉が枯れていた理由を、今回は必ず突き止めてみせましょう!」



 俺とククリアは、今後の方針を改めて再確認し合う。


 正体不明の敵が、一体いつから俺達の後をついてきていたのか。それともやはり、俺達の内部に犯行に及んだ人物がいたのか?


 答えはまだ分からないけれど、少なくともみんなには俺の目の届く範囲内に常に居てもらう事にする。そして絶対に、一人にはしない。

 どんな時でも、俺がすぐに助けにいける状態を維持し続ける事が今回の旅では重要になるはずだ。



 その時、事務所の扉の向こうから突然……大きな悲鳴がこちらに聞こえてきた。



「きゃあああああぁぁーーーーっ!!!」



「なんだ、この叫び声は……!?」


 この悲鳴はティーナか、いや、アリスの声も混ざっていた気がする。

 

 俺とククリアは急いで事務所の扉を開けて、コンビニの店内の様子を見に行く。


「どうした、ティーナ! 何があったんだ!?」


 コンビニの店内には、ティーナとアリスがいた。2人とも無事だ。何かに驚いたように、床に尻餅(しりもち)をついて両手で口を覆っている。



「か、彼方様……! アリスさんが今、サバ缶を使って西方風の焼き魚料理を作ってくれていたのですが……」


「うんうん、焼き魚料理か。確か前回もアリスは、カセットコンロで作ってくれていたよな」


「前回も……?」


「あ、いや……何でもない! それよりも、アリスの作ってくれた焼き魚料理がどうしたんだ?」


 ティーナに変わって、当事者のアリスが俺に説明をしてくれた。


「ハイ、コンビニの勇者様! 先ほど私はサバ缶で作った焼き魚料理を皆様の分、合計4人分を作り終えたのですが……。なぜか一人分の焼き魚が、お皿の上から突然消失してしまったのです!」


「焼き魚が勝手に消えてしまっただって? そんな事が……」


 まさか……!? このコンビニ支店1号店に、既に何者かが潜入をしているとでもいうのか?


 敵の正体は、誰なんだ? やはり女神教の魔女か!? それとも禁断の地から送られてきた灰色ドレスのレイチェルさんの手下なのか?


 俺とククリアは、コンビニの店内を警戒しながら周囲を見渡す。店内には、俺達4人以外には誰もいないはずだ。



「……………」


 店内には、不気味な沈黙が広がっている。


 するとコンビニの倉庫から、ガザガサと何かを漁るような音が聞こえてきた。



 俺達は急いで、倉庫へと向かうと。



 何と、そこに隠れていたのは――。



「にゃあ〜、お腹が空いたのにゃ〜! もっとサバ缶が欲しいのにゃ〜〜!」



 アリスの作ってくれた焼き魚を口に加えて。


 尻尾を振りながらサバ缶を求めて、倉庫を物色していたもふもふ猫娘のフィートが……そこにいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキルコンビニ
外れスキルコンビニ、コミック第1巻、2巻発売中です☆ ぜひお読み頂けると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ