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第二百九十六話 ミズガルドの戦い


 銀色の長剣を構えて、自らの祖父である夜月皇帝(ナイト・エンペラー)を鋭く睨みつけるミズガルド。


 そんなミズガルドの元に、今度は2匹の屈強なライオン兵達が同時に襲いかかっていく。



『グルガァァァーーーッ!!!』


『ギュガアァァーーーッ!!!』



 2匹のライオン兵達は左右から回り込むようにして、ミズガルドに向けて迫っていく。そしてほぼ同時に。鋭い爪を振り上げ、ミズガルドの体を同時に引き裂こうと飛び掛かった。



「……………」


 迫り来るライオン兵達が、自分に襲いかかってくる直前まで。静かに目をつぶっていたミズガルドは――。


 敵の攻撃が頭上から振り下ろされる、その寸前に両目を見開き。


 流れるような動作で体を回転させながら、銀色の長剣を高速スピードで横薙ぎに振り払った。



 ”“ドシューーーーーッ!!””



 赤い鮮血と共に、2匹のライオン兵達の首がバウンドするボールのように大地に転がっていく。



 俺の前には剣を構えて、静かに呼吸を整えているミズガルドだけがその場に立っていた。



「うおおおーーッ!? マジで、すげーじゃん! 何だよソレ、チートかよ? それともやっぱりオレの超優秀過ぎる血が混じってるおかげなのか? だとしたら、偉大な祖父であるこのオレの遺伝子に感謝しろよな!」



 能力を持たない普通の人間の身で、同時に2匹のライオン兵を見事に切り裂いてみせたミズガルドを見て。まるで子供のように、ミュラハイトは1人で大はしゃぎをして喜んでいた。



「……ハァ……ハァ……」


 それに対して、銀色の剣を構えるミズガルドは……。激しく呼吸を乱し、その額からは滝のような冷や汗が流れ出ている。



 その様子を見て、俺には分かった。


 ミズガルドはこの戦いに、自らの持つ全生命力を使い果たすつもりで挑んでいるんだ。


 己の持てる全ての精神力、集中力を用いて。1秒の無駄もない完璧な剣技で、敵の攻撃を迎え討っている。


 きっと後の事など、何も考慮していないに違いない。


 ただこの一瞬に、自分の人生の全てを賭けて。

 心の底から守り通したいと願う……最愛の人を守る為だけに。自分の全生命力を賭して、この場で剣を振るっている。

 


 その並外れた集中力と、精神力が……本来のミズガルドが持つ、数倍以上の卓越した剣技を実現させているのだろう。


 純粋な力の勝負では、ライオン兵達には勝てない。


 だから決して正面からはぶつかり合わずに。敵の攻撃を全てギリギリのタイミングでかわし。その勢いを受け流すようにして、ライオン兵達の体に自らの剣を流し込んでいる。


 それは、一歩踏み間違えれば。真っ逆様に地面に落下してしまう、高層ビルの上をロープで綱渡りをしながら戦っているようなものだ。


 一瞬の判断ミスも許されない、極限の集中力を研ぎ澄ませて。

 ミズガルドは、この戦いに全身全霊で挑んでいた。



「よーし、じゃあ次は3匹同時チャレンジだな! この調子でオレの配下の獣人兵達を全て殺せたなら、ワンチャンお前達にも勝利の機会があるんじゃねえのか? あー、怖い、怖い。もしかしたらオレは、可愛い孫娘に殺されちまうのかもしれねーな? ハッハッハッハ!」



 ――クソ! あの野郎!

 

 絶対に自分が負けない有利な状況にある事を確信して、ドヤ顔をしていやがる。

 せめて……俺の肩に浮かぶ守護衛星からレーザー砲を出す事だけでも出来たなら。俺もミズガルドの援護をする事が出来るのに!



 俺は意識的に、肩に浮かぶ銀色の守護衛星を動かそうと試みる。


 だが……やはりダメだった。俺の体を蝕む黒い染みは、今やコンビニの勇者の全ての能力を制限してしまっている。



 そんな俺の様子を察したミズガルドが、俺を安心させるように微笑みながら話しかけてきた。



「……大丈夫だよ、彼方! 私は絶対にあんな奴に負けないから。だから、心配しないでね!」


「ミズガルド……」


 銀色の剣を構えたミズガルドが、再び真剣な表情で夜月皇帝に向き直る。その顔には、恐怖や怯えという感情は全く無かった。



 ただ――1人の『騎士』として。


 己の果たすべき使命を(まっと)うする為に。全てを賭けて敵と戦う覚悟を決めた、高潔な騎士の顔をしていた。



「ほーれほれ、お前達。さっさとそいつにとどめを差しちまえよッ!」


 夜月皇帝の指示を受けて、今度は3匹のライオン兵が同時にミズガルドに飛び掛かる。


 これは流石に無理だ! どんなに素早い動きの出来る剣士でも、3方向から同時に襲い掛かる猛獣に対処出来るはずがない。



「……ハァ……ハァ……」


 限界まで意識を集中させて。呼吸を乱していたミズガルドは口を閉じて、その場で息を止める。


 そして先程と同じように。迫り来るライオン兵達の前で、体を回転させるようにして銀色の長剣を横薙(よこな)ぎに振るった。



 ””ドシューーーッ!!””



『グギャアアァァーーーッ!!』


 ミズガルドに飛び掛かったライオン兵のうち。合計2匹の首を、瞬時に切断してみせるミズガルド。


 だが、残った1匹はそのまま、地面に着地したミズガルドに向かって襲いかかり。ミズガルドの左腕に、鋭い爪による引っ掻き傷を深々と刻み込んだ。



「………ぐっッ……!!」


 左腕を引きちぎられるほどに深く。ライオン兵の爪によって腕を引き裂かれたミズガルドが、激しい痛みに耐えて、その場でグッと歯を食いしばる。


 そして更なる追加の一撃を加えようと、大口を開けて牙を剥き出しにしたライオン兵の首を――。


 真下からすくい上げるようにして、銀色の剣先で真一文字に切り裂いてみせた。



 それらの動作は全て、一瞬の出来事だった。


 ミズガルドの周囲の地面には合計、3つのライオン兵達の首が転がっている。



「……ハァ、ハァ、ハァ………!」


 激しく呼吸を乱したミズガルドが、左腕を押さえながら片膝を地面について座り込んだ。


 その腕の傷は致命傷といえるくらいに、深くミズガルドの皮膚を抉り出してしまっている。

 腕からは大量の出血が流れ落ち。抉られた傷口の奥には、白い骨まで見えてしまっていた。



「み、ミズガルド………ッ!!」


「私はまだ、大丈夫だよ……。心配しないでね、彼方」



 引きちぎれる寸前の状態の左腕を押さえて。

 ミズガルドは、必死に痛みに耐えて。その場で再び立ち上がってみせた。



「アーハッハッハッ!! おいおい、もう重症を負っちまったのかよ! まだ同時チャレンジは3匹目だぜ? これじゃあ意外とすぐに終わっちまいそうだよなー、ミズガルド? オレはマジでガッカリだぜ! ここは愛とか奇跡のパワーとかを使って、超絶チート無双する場面だろ? ホントに場の雰囲気を盛り下げるつまらない奴だよな、お前は。やっぱりグランデイルの小娘の方が、まだマシだったみたいだなぁ?」



「……………」


 ミズガルドは何も言い返さずに、その場でじっと呼吸を整え続けていた。


「……ミズガルド、お願いだから……もう、俺をここに置いて逃げてくれ。お前だけなら、まだここから逃げられるかもしれない……。だから頼むよ!」



 俺は必死にミズガルドに対して、頼み込むように懇願する。


 お願いだから、もう仲間が殺されていく姿を見たくないんだ。頼むから、俺をここに置いて逃げてくれよ、ミズガルド……。


「ふふ……。そんなに心配そうな目で見ないで、彼方。大丈夫だよ、私は約束したでしょう? あなたを必ず守り抜いてみせるって。私は、ここで彼方を守る為にこの命を全て使い果たしたいの。皇帝でもなんでもない……ただの1人の騎士として。ここで私に、どうか最愛の人を守り抜かせて欲しい」


「アーハッハッハッ!! よーし、もう茶番は終わりだぜーー! 今度は同時に4匹で一斉にミズガルドを襲うんだ! お望み通りにその体をバラバラに引き裂いて、獣人兵達の餌にしてやるよーー!」



『『グオオオオォォォォーーーン!!!』』



 ミュラハイトの号令を受けた、4匹のライオン兵達が一斉にミズガルドに向けて襲いかかる。



 地面に倒れている俺を、庇うようにして――。


 ミズガルドは剣を構えて、迫り来るライオン兵達の前に立った。


「……愚かな、皇祖父ミュラハイトよ! バーディア帝国皇帝の最期(さいご)の剣撃を、しかとその目に焼き付けるが良い! 行くぞーーーッ!!」



 ミズガルドは、腰に付けていた小さな油袋を手に取ると。


 それを迫り来るライオン兵達の前に投げつけ。右手に持つ銀色の剣で、風を切る剣風の摩擦によって、空中に飛び散った油に火を引火させた。


 突如として、燃え盛る激しい炎の熱風を浴びた4匹のライオン兵達は――体に炎がまとわりつき。


 獣の全身を焦がす業火の高熱に慌てふためいて、後方に逃走していく。



 ミズガルドは、そのわずかな隙を逃さなかった。


 火だるまとなった4匹のライオン兵達が、ミュラハイとのいる場所へと駆け戻る、そのタイミングで――。


 今度は再び、油が大量に入った大袋を空中に向けて放り投げ。


 全身のバネを使って空中に飛び上がり。上空から夜月皇帝達のいる場所に向けて。素早い剣撃で、油の満たされた大袋を叩き切ってみせる。



 空から豪雨のようにして飛び散ってきた、大量の油の水滴が――逃走する4匹のライオン兵達の体を通過して。

 無数に飛び散る火炎弾のように、ミュラハイト達のいる場所に降り注いできた。



「……なっ!? チッ!! この、クソ孫娘がッ!!」



 ミュラハイトが気付いた時には、既に遅かった。


 散弾のように空から飛び散ってきた火炎弾によって、ミュラハイト軍の前衛に並んでいた大量のライオン兵達に、次々に炎が引火して。夜月皇帝の軍勢は大混乱に陥ってしまう。



「――今よ! 彼方、ここから逃げましょう!!」


 ミズガルドが口笛を吹くと。茂みに隠れていたミズガルドの馬が勢いよく飛び出てきた。


 地面に倒れている俺の体を拾い上げたミズガルドは、自分の愛馬に颯爽(さっそう)と飛び乗ると。



 混乱するミュラハイトの軍勢を置いて、瞬く間に、遠くへと走り去っていった。



 味方の獣人兵達に炎が燃え広がっていく混乱の中で、ミュラハイトは鬼のような形相で、自分の前から逃亡していく孫の姿を見つめている。



「ぐっ、あのクソ孫娘めッ……!! 絶対に許さんぞ!! 追えッ! 絶対にアイツを捕らえて来い! 必ず生きたまま捕らえて、俺の目の前でなぶり殺しにしてやるッ!!」


「ミュラハイト様……大変です! グランデイルの白蟻魔法戦士(ホワイト・アンツ)隊がここまで迫ってきています!」


「……なんだと!? まさか、オレの獣人兵(ビースト)共がグランデイルの小娘相手に、負けているんじゃないだろうな!?」


「まだ戦況は分かりません。ですが、敵の数があまりにも多い為に、この辺りにも敵の伏兵が迫ってきているようです!」


「チィッ……! 分かった、いったんここから撤退する! だがミズガルドだけは、絶対に捕らえてこい! 分かったな!!」


「ハハーーーッ!!」



 既に夜月皇帝(ナイト・エンペラー)軍とグランデイル軍の両軍が、激しく入り乱れた戦場となっている迷いの森付近において。


 ライオン兵達を操るミュラハイトは、自軍の陣を立て直す為に。やむなく後方へいったん退く事にした。


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