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第二十九話 コンビニの武装化 壁外区から新天地へ


『――ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました』



 いつも通りの能天気なアナウンスが、俺の脳内に鳴り響きわたる。



「全く……タイミングは遅すぎだけど。でも今は、本当に助かった! マジで絶体絶命のピンチだったからな!」



 さっそく、コンビニに追加された新能力と新商品を俺は順番に確認してみる事にする。



「うおおっ! 焼肉弁当がメニューに加わるとかマジなのかよ!? それに温めが出来るオーブンレンジも増えてるじゃん! これでホカホカ弁当をいつでも食べる事が出来るぞ! うおっ、ハンバーガーまであるぞっ!? 俺はチーズバーガーがめちゃくちゃ好きで、学校帰りには高頻度でマッ◯に寄って……じゃなくて――ッ!」



 いやいや、今確認するのは『そっち』の方じゃないだろう!


 俺が今、大至急確認しないといけないのは、もっと違う物だ。コンビニの絶体絶命の危機を回避出来るような、強力な新設備を確認するんだよ!



 俺は新しくコンビニに追加された『耐久設備』を一通り確認して……思わず絶句してしまう。



「なんなんだよ、これ……。この『5連装自動ガトリングショック砲』って、絶対にヤバい武器だろう」


 俺のコンビニに、明確に『武器』だと分かる設備が実装されたのはこれが初めてだ。だけど、これは流石にヤバすぎる気がする。


 せいぜいナイフとか、スタンガンぐらいとかさ。

 それくらいの地味な装備が、少しずつ増えていったら良いな、くらいに俺は思ってたんだぜ?



 それをいきなり『ガトリング砲』は、いくら何でもやり過ぎだ。


 ……って言うか、コンビニにガトリング砲装備って。そんなの『普通のコンビニ』じゃ、絶対にあり得ない。


 まあ、ドローンが発注出来たり。魔法障壁付きの防火シャッターが付いてたりするのだって、十分におかしいんだけどな。

 でも今回のは、そういうのを全部すっ飛ばして。おいおいそれは流石にやり過ぎだろう、っていうレベルのチートにまで、一気に到達した感があるぞ。



 でも、今はこれしか事態を打開する方法が無いのなら。



 ――それを、試してみるしかないだろう!



 俺は事務所のパソコンを操作して。デスクトップに新しく追加されていた、ガトリング砲のアイコンをクリックしようとした。


「……彼方くん、どうしたの?」


「ん? ああ。実は俺のコンビニはたった今、レベルアップしたんだ。だからコンビニに追加された、新しい装備を試してみようと思ってな」


「ええっ、そうなの〜!?」


「……って、お前だってあのカディス退治に参加をしたんだから、レベルアップをしててもおかしくないんじゃないのか? どうなんだよ、玉木?」


「私、全然レベルアップなんてしてないよ〜! だってまだ暗殺者(アサシン)のレベル2のままだもの」


「レベル2!? 低ううぅぅ!! それはお前、レベルが低すぎじゃないのか?」


「何でよ〜! 彼方くんは、今レベルいくつなのよ〜?」


「俺は今、レベル5だぞ!」


「た、高ぁぁっっ!! なんなのよ、それ〜!! 何でコンビニだけそんなに異常にレベルが高いのよ!?」



 いや、驚いているのは俺の方なんだけどな……。


 玉木のレベルはまだ2だったのかよ。まあ、こいつは基本サボり癖のある奴だから、比較はしづらいが――。他のクラスのみんなは一体、今、どれくらいのレベルなんだろうな?


 俺だけレベルアップが早いのか。それとも他の選抜組はもっと凄いのか、これじゃあ判断が出来ないな。



 ただ、あのカディスを倒しても玉木のレベルが上がらなかったという事は――。


 カディス討伐の経験値は、ほぼ俺だけに付与されたと考えるべきなのか? 俺が直接倒したからなのか? それとも命を賭けるような危機に直面した分だけ、レベルはアップするのだろうか?



 ダメだダメだ、いけない!

 今は、そんな考察をしている余裕は無いんだった。


 俺はレベルアップについては後回しにして、コンビニの危機を乗り切る事に集中する。



「よし! ガトリング砲を……起動するぞ!!」


 俺は新しいガトリング砲のアイコンをダブルクリックして、同時にドローンの監視映像も確認する。



 ″ウイーーーーーーン″


 コンビニの入り口付近の屋上の一部が自動で開き。

 恐ろしくゴツい外観をした5連装ガトリングショック砲、2門が姿を現した。


「RPGの世界かと思ったら、いきなりガンシューティングゲーム展開かよ……」


 コンビニの屋上部分のハッチから出現した5連装ガトリング砲は、形もその大きさも半端ない。まさに異世界に突如として現れた、超近代武装兵器だ。



「こんなの剣と魔法の世界には、一番出しちゃいけない奴なんじゃないのか? 本当にいいのかよ?」


「何よコレ〜!? 銃なの? 何でコンビニの屋上に機関銃みたいなのが出てくるのよ〜!?」



 厳密に言えば、ガトリングガンと機関銃じゃ少しだけ違うんだけどな。まあ、今はどっちでもいいか。



 ただ、俺は今――。


 この絶体絶命の状況を唯一打開出来るであろう、コンビニの新武器を試すのに、思わず躊躇(ちゅうちょ)してしまう。


 だって、そうじゃないか。これはまさに大量殺戮兵器だぞ? 今、敵に殺されそうになっているのは、確かにこっち側なんだけどさ。

 それでもコイツが俺の想像通りの兵器なら。ここにいるグランデイル王国の騎士達を、一気に全滅させてしまうくらいの殺傷力がガトリング砲にはあるはずだ。



 今まで誰も人を殺した事のなかった俺が、今日から3000人の騎士を無差別殺害した、凶悪殺人鬼にされてしまうのかよ?


 それは流石に勘弁してくれよ……。


 思わず天を仰ぎたくなる。でも今の俺が唯一希望を抱いているのは、このガトリング砲に付けられた名前だった。


『5連装自動ガトリングショック砲』


「『ショック砲』って事は、敵を気絶させるショックガンみたいなニュアンスで捉えていいのか? もし、7.6mm口径とかの実弾が出てきたりしたら、マジで洒落にならない事になるんだが……」



 まあ、その時はこの辺り一面が、真っ赤な血の海に染まるだろうな。


 勇者育成プログラムでオークを殺して吐いたという、杉田より。俺はもっと大量のゲロをこの部屋にぶちまける自信があるぜ。



 カキーン!! カキーン!! 


 ″ガキーーーーン″!!!



「――きゃああああっ!!」


 ティーナが叫び声を上げた。


 ……今の大きな音は? 強化ステンレスパイプシャッターが折れた音か? あの分厚い金属パイプも、これだけの数の人間に攻撃をされ続けたら、折れるのかよ?



 クッソ……!


 もう迷っている時間はないな。


 あの騎士達は、倉持達から指示をされてここに来ただけだ。だから罪がある訳でもないし。俺も別に恨みがある訳でもない。きっとそれぞれに家族だっているだろう。



 ――でも、それでもだ!!


「今、この場で俺の大切なティーナに危害を加えようとするような奴等は、絶対にこの俺が許さないからなッ!」



 俺は、覚悟を決めてマウスをクリックする事にする。


 パソコンの画面上では、照準マークが入り口正面に立つ、グランデイルの騎士達に合わせられている。


 俺の指がマウスのボタンを強く押し込むのと同時に、



 ″ズドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!″




 5連装自動ガトリングショック砲2門が、激しい爆音を鳴らして火を吹き出した。


 それは、まさに夜の闇を切り裂く。

 赤い閃光のような光弾だった。



 コンビニの正面入り口付近に、立ち並んでいた銀色の騎士達が――。

 一斉に後方に向かって弾き飛ばされる。


 その数は、おおよそ20名くらいだろうか。


 ガトリング砲で吹き飛ばされた騎士達は、そのまま地面に倒れ込んでピクリともしなかった。

 全員が固い土の地面の上で、仰向けに倒れている。



 たったワンクリックをしただけで……。恐ろしい数の閃光弾が、ガトリング砲から連続で射出された。もし、俺が連射をし続けたなら、きっと数十秒で100人近い敵をなぎ倒せる破壊力だったろう。



「おいおいおい。頼むから、死んではいないよな……?」


 俺は空中で待機させていたドローンを操作して、ガトリング砲の犠牲になった騎士達のすぐ上にまで近づける。


 本当はドローンを地上付近に近づけるのは危険なんだけどな。敵にドローンが攻撃されてしまう可能性がある。


 だが、今回はそうも言ってられない。


 ドローンを倒れている騎士達のすぐ真上で静止させ、その様子を注意深く探る。


 倒れている騎士達の周囲には、血は流れていないようだ。

 銀色の鎧にも穴は開いていない。実際の弾丸がガトリング砲から発射され、鎧を貫通したという事はなさそうだ。


 倒れている複数の騎士達は、身動き一つしていない。だが、全身を細かく痙攣させながらピクピクと震えているのが分かった。



「良かった! どうやら死んではいないようだな……!」


 だが、その様子から想像を絶するような痛みが全身に走り、ほぼ一瞬で気絶したのだろうという事が分かる。


 コンビニのガトリングショック砲は、実弾こそ飛ばさないが――。敵に絶大な衝撃(ダメージ)を与え、瞬時に気絶させる程の凄まじい破壊力を持っているのは間違いないようだ。


「彼方様……」


 ティーナが、俺の右手を強く握る。


 きっと今の俺の顔は、俺が思っているよりも遥かに顔面蒼白な感じになっていたんだろうな。その様子を察して、ティーナが強く俺の手を握りしめてくれていた。


「ふぅ……」


 ティーナのおかげで、少しだけ落ち着く事が出来た。


 自分がいきなり20人近くを瞬殺した、殺人鬼になったのかとマジでヒヤヒヤしたからな。画面を見ながら、玉木も青ざめた顔をしてたしな。



 コンビニを取り囲んでいた銀色の騎士達は、その場でピタッと立ち止まっている。

 

 さっきまで強化ステンレスパイプシャッターを、力ずくてこじ開けようと。必死に剣で切り掛かってきた騎士達。それが今では身動き一つせずに、小動物のように怯えた表情を浮かべてその場で静止していた。



 コンビニの周囲は、さっきまでの喧騒が嘘のように、シーンと静まり返っている。


 だが、その静寂に包まれた緊張感の空間を――。


 全く現在の状況が分かっていない、無能な敵の指揮官の怒号が破壊してしまう。



「何をボーッと突っ立っているんだ! さっさと突入して異端の勇者を殺さんかーーーっ! 全軍、突撃ーーーっ!!」


 その場に立ち止まっていた騎士達が、再び後方からのパワハラ指揮官の怒号に触発され、侵攻を再開する!



『『うおおおおおおおおおおぉぉーーーッ!!』』



 どうやらコンビニの正面で、5連装自動ガトリングショック砲の威力を直接目の当たりにした騎士達の動揺は強く。怖さと震えで、動けなくなっているようだ。


 だが、グランデイルの騎士達は今――。

 コンビニを180度ぐるりと取り囲んでいる。


 正面入り口方面で起きた出来事を、コンビニを取り囲む全ての騎士達が把握出来ていた訳ではない。



 前方で何か大きな音がした――。その程度にしか認識をしていない騎士達も大勢いる。特にコンビニの後方を取り巻いていた騎士達は、無鉄砲にも全力でコンビニへの攻撃を再開し始めた。



「彼方くん、どうするの?」


「どうするもこうするも、ここはもう……やるしかないだろう! 敵がコンビニから退くまで、攻撃をし続けるしかないさ!」


 俺だってもう、ガトリング砲は使いたくはない。


 いくら即死してはいないといっても、あの威力だぞ。

 あんなのは、本当にただのガンシューティングゲームでしかない。敵が画面上に映し出される、ただのプログラミングされた疑似仮想敵なら俺だって躊躇はしないさ。


 だが、俺がマウスのクリックでなぎ倒しているのは、本物の人間達だ。それを数百人単位で、一瞬に吹き飛ばしてしまえるんだぞ。



 震えの止まらない俺の手に、ティーナが自分の手をそっと重ねてくれているから心を保てている。


 きっと俺がマウスをクリックする時は、手を重ねているティーナも『私も一緒に押しているんですよ』――と共犯になってくれる事で、俺の精神的負担を軽減させようとしてくれているんだろうな。



 俺の臆病な心の中は、いつだって全てティーナに筒抜けだ。だからここは、勇気を振り絞るしかないよなッ!



「くっそ……! もう、知らないからなッ! お前等、いい加減にしやがれよ! マジで全員ガトリング砲でぶっ飛ばしちまうからなーーッ!!」



 俺はパソコンの画面上の新アイコンをクリックする。

 すると、コンビニの建物全体に振動と衝撃が走った。



 ″ヴイーーーーーーン!!!″



 コンビニ全体に、ほんの少しだけ空に浮いたような浮遊感が生じて、俺も、ティーナも、玉木もその場で驚く。


 俺がパソコンの画面で操作をしたのは、今回新しく加わった――『コンビニの可変式回転機能』だ。


 コンビニの建物全体が、まるで遊園地のメリーゴーランドのようにゆっくりと回転し始める。


 その突然の動きに驚くように――。


 コンビニ外壁の強化ステンレスパイプシャッターに張り付いていた銀色の騎士達が、コンビニの回転に振り落とされるかのように押し倒されていく。



「いっくぞーーッ!! コレでも食らいやがれーーッ!」



 ″ズドドドドドドドドドドドドドドドッッッ――!!!″



 再びコンビニ正面入り口の屋上に設置をされた、『対侵入者用5連装自動ガトリングショック砲』が、文字通りに大量の火を吐き出す!



 闇夜を切り裂くように連射された赤い閃光弾は、ゆっくりと回転するコンビニの動きに合わせて。押し寄せる銀色の騎士達を次々と吹き飛ばしていく。


 それは近代兵器による、旧世界の人類への一方的な殺戮ゲームだった。


 俺は昔、ある古い日本の映画を見た事があったんだけど――。これはその中のワンシーンに似ているなと思った。


 たしか現代の最新式の兵器を持った陸上自衛隊の部隊が、突然……戦国時代にタイムスリップをしてしまう映画だっけ。

 そこでは戦車だったり装甲車だったり、機関銃を持った自衛隊員が、大昔の武士達を戦場でなぎ倒していくシーンがあったんだけどさ。


 今、まさに目の前に広がっている光景が、そんな感じだなって思えた。



 攻撃する側と、攻撃される側の立場はさっきと完全に逆転した。


 5連装自動ガトリングショック砲は、数秒間の連射で敵を数十人以上はなぎ倒していく。


 これは戦闘なんてものじゃない。ただの殺戮ゲームだ。押し寄せるアリの群れに、こっちはケル◯ャーの高圧洗浄機で、強力な水圧を浴びせかけているようなものだぞ。


 非力なアリに、圧縮されて発射された水圧を押し返せる力なんてある訳もない。



「彼方く〜〜ん……。も、もう、大丈夫なんじゃないのかな……?」


「お、おう。そうだな……」



 俺はいったん、ガトリング砲の攻撃を止める事にする。

 一体、どれくらいの間、コンビニの5連装自動ガトリングショック砲は火を吹き続けていたんだろう?



 一瞬のような。それとも数分間のような。



 もう、時間の感覚が俺にも分からない。


 ドローンの映像を見ると、コンビニの周囲を取り囲んでいた銀色の騎士達の集団は――。


 おおよそ、その3分の1くらいの数がガトリング砲の犠牲になって地面に倒れていた。



「つまりは、ほぼ数分で――。約1000人以上を戦闘不能にさせた訳か」


 コイツはヤバすぎるな……。マジでこの世界の、チート能力を作成した責任者出てこいよ。


 いくら何でもコレはやり過ぎだぞ。しかもこんな凄い武器を、オーブンレンジだったり、アダルトな写真集と一緒に混ぜて、コンビニのレベルアップ特典にしやがって!


 いつか絶対に、そんな神様みたいな存在が出てきたら、俺はそいつを張り倒してやるからな!



「な、何なんだこの建物は……!? こ、こんな化け物、倒せる訳がないじゃないか!!」



 残されたグランデイル軍の騎士達に動揺が走る。


 それはそうだろう。

 一瞬にして全体の3番の1以上の兵士を失ったんだ。まともに戦って勝てる訳が無い。


 騎士達はその場から動かず。攻める訳でも、退く訳でもなく。ただじっと立ち尽くしている事しか出来ないようだった。


「……な、何をしているーーっ!? す、すぐにあのコンビニを破壊せぬか! この遠征にはグランデイル王国の宰相閣下、ドレイク卿の直接の指示があるのだぞ! おめおめ逃げ帰る事など、絶対に出来ないのだからな!!」



 敵の無能な指揮官だけが、まだやかましいな。


 宰相だか、何だか知らんが……。そんなのは自国の中でやってくれよ。無謀な突撃をして味方が全滅する方が遥かに無駄だろうに。


「でも、そろそろ頃合いだな。敵が戦意を失っているならチャンスだ。俺達もこの機会にここから脱出しよう!」


 俺達は、敵が立ち止まっているこの隙に――壁外区からの脱出をする事にする。


 本当は俺だって、ここに残りたいさ。

 だけどまだ、あの銀色の騎士団は全滅した訳じゃない。


 仮に全滅させるか、ここから撤退させたとしても……。コンビニの勇者がこの壁外区にいる以上。第二、第三の遠征軍がここに派遣されて来る可能性もある。


 下手をしたら俺を討伐する為に、倉持だったり金森とかが直接やって来るパターンもあり得るかもしれない。


 俺はそんなのは、ゴメンだ。


 何よりこの壁外区を戦場にしたくない。ここは俺が長い間、お世話になった大好きな場所だ。区長さんや、ザリル、みんなにもお世話になった。だから、壁外区のみんなに俺のせいで迷惑をかけたくないんだ。



「そうだ、ティーナは大丈夫なのか? このカディナの街から離れてしまって。親父さんとか、アドニスさんとか、置いていってしまう事になるんじゃ……」


 ティーナがそっと俺の胸に小さな頭を寄せる。


「彼方様、大丈夫です! 私は私が行くべき道を自分で決めます。だからお父様や、アドニスもきっと分かってくれるでしょう。私が自分の人生を、ちゃんと自分で選んで生きていく事に誇りを持ってくれると思います!」



 そうか。それをティーナに聞く事は、蛇足だったかもしれないな。


 仮にあの親父さんに反対をされたとしても。その時は俺がティーナを、ここから誘拐してでも連れていくしな。


 なにせコンビニの勇者は魔王に(くみ)する、極悪で異端の勇者なんだろう? 街の美少女を一人くらい誘拐したって、今更じゃないか。


「当然、玉木も一緒に来るよな? お前はコンビニの水洗トイレがお目当(めあ)てだものな?」


「ハアああぁ〜!? 何で私はトイレしか目がない『トイレ女子』にされているのよ〜? それに、私だけ意思確認は無しって酷くない〜〜? さっきみたいに『誘拐してでも連れてくぞ!』ってくだりを、私にも言ってくれたって良いじゃないのよ〜!」


「ええっ!? 何でお前、俺の心の声が聞こえているんだよ? もしかして読心術とかのスキルがあるのか!?」


「バカ〜っ! 彼方くんの場合は、だいたい顔に書いてあるからバレバレなのよ〜〜!」


 いや、顔に『誘拐してでも連れて行く』って書いてあるって、どういう状況なんだよ! 

 具体的過ぎてそれは怖いわ。そんなの表情だけで読み取られたら、マジで恐ろしいって!



 まあ、とにかく2人がオーケーなら、すぐにでも行動をしよう!


 俺はパソコンを操作して、新たに追加された4機のドローンをコンビニから発進させた。


 5連装自動ガトリングショック砲と同じように。コンビニの屋上でハッチが自動で開き。格納されていた新型ドローン4機が、壁外区上空の夜の闇に、吸い込まれるように飛び上がる。



 何だか、俺のコンビニ……。


 ロボットを格納する宇宙戦艦とか、空母みたいになってきたな。ますます、本来のコンビニから遠ざかっていく感じがしないでもないけれど。まあ、気にしたら負けと思う事にする。


 上空を旋回している4機のドローンは、グランデイルの騎士達がいる地上に急降下を開始し――。



 ″プシュウウウウーーーーーッ!″



 大量の白い煙幕を辺りに噴射させる。

 その効果は、俺の想像を遥かに越えていた。


 まるで砂漠の黄砂か、砂嵐のように辺り全体を覆った白い煙は、周囲の視界を完全に遮断していく。これで、元々の夜の闇の深さと相まって、一寸先の視界さえも見えない状況が作られた。



「――よし、いくぞ!!」


 俺はコンビニを能力でいったん消して。ティーナ、玉木と共に、煙の中を前進して駆け出す。


 もちろん、途中でグランデイルの騎士に捕まったら終わりだ。だが、だからこそコンビニの後方の場所にいる騎士達の方向には、念入りにガトリング砲を射出しておいた。


 さっきドローンの映像を上空から見た時も、コンビニ後方に陣取っていた銀色の騎士達は、ほぼ壊滅状態だったのを確認済みだ。



 途中で道さえ間違わなければ、安全にここから逃げ出せるだろう。



 真っ直ぐに白煙の中を突き進む、俺達。


 ――すると、



「旦那ーーーっ!! こっちですぜーー!!」


 前方から、ザリルの声が聞こえてきた。



「ザリルか!? 無事だったのか! 良かった……」


「へへっ! オレは旦那の想像以上にタフなんでね! 任せて下さいよ! ここに馬を3頭用意しておきました。どうかここからの脱出に使ってください!」


 ザリルの後方には、黒い3頭の馬が並び立っている。


「ホントにお前は手際が良すぎるな。第一、この煙の中を、どうやって俺達の居場所が分かったんだ?」


「ふふん……。オレには沢山の部下がいますからね。そしてその全員が、旦那の事を24時間監視をしています。だからこの壁外区の中で、オレに分からない事はないと思って下さいよ」



 自信満々にドヤ顔を決めるザリル。


 しかし、もうこの顔もしばらく見れないんだな……。


「ありがとう! ここでしばらくはお別れだな、ザリル。お前には本当に世話になったよ。俺がこの壁外区に溶け込めたのもお前のお陰だからな。本当にありがとう!」


「なーに、いいって事です。オレだって旦那のお陰で、ビックリするくらいに儲けさせて貰いましたよ。それにこれからも旦那のお世話になるつもりなんでね! オレはお別れは言いませんぜ!」


「分かった! じゃあ達者でな、ザリル! またどこかで再会しようぜ!」


「了解ですぜ! ティーナさんと、玉木さんもお元気で! ドジで金銭感覚のない勇者様の事を、よろしくお願いしますよ!」


「は〜い! ザリルさんもお元気でね〜〜!」


「ザリル様。本当にお世話になりました。カディナの街を、壁外区の皆様をよろしくお願いします!」



 俺達3人は手を振ってザリルにお別れを告げる。


 そしてザリルが用意してくれた馬で、壁外区の外に向かって、駆け出した。



(……今までありがとう、壁外区のみんな! 本当にお世話になりました! いつか必ず恩返しに戻ります!)



 俺は少しだけ涙ぐみながら、馬で駆ける。


 ――そうさ。

 これからコンビニの勇者は、新天地に向かって駆け出していくんだ。



「ねえねえ、彼方く〜ん!」


「ん? 何だよ、玉木……?」


「感動のお別れシーンの所、申し訳ないんだけどさ〜。私、一つ疑問があるから聞いてもいい?」


「おう、何でも聞いてこい。俺に分かる事なら何でも答えてやるよ!」



 パカッ、パカッ、パカッ――。


 俺達3人の乗る馬は勢いよく、朝日が昇り始めそうな夜の闇の中を駆けていく。


「私達ってさ〜。いつの間にこんなに華麗な乗馬術を身につけたんだっけ〜? 私、馬に乗るのって……人生で初めてな気がするんだけど〜」


「ハハハ……それは奇遇だな! 俺も馬に乗るのは人生で初めてだぞ!」



「……………」


 無言になる俺達2人。



「お二人とも、初めてなのにとても乗馬が上手なんですね!」


 ティーナが俺達を褒めてくれた。


 まあ、ティーナはそういう教育も受けているんだろうから別にいいけどさ。

 俺達のは、明らかにチートだろ。


「何かさ。この世界の言葉が初めから話せたり、文字も書けたり、こうして乗馬も出来たりと。改めて俺達異世界人って、存在そのものがチートなんだなって。今、しみじみと思ったよ……」


「うん。私は特に彼方くんのコンビニはチート過ぎる気がするけどなぁ〜。まあ、いっか〜! おかげで私はコーラも飲めて、美味しい昆布おにぎりをいつでも食べれるんだし!」



 まあ、そうだな。


 もしどこかで、勉強が出来るのなら――。



 俺達、異世界から召喚された勇者の事。そのチート能力の事。その秘密を本気で学びたいって、今の俺は思い始めていた。


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助けてくれた神様はったおすとか頭どうかしてるの?
[一言] 相手が殺しに来てるのに自分がそいつらを殺すのは嫌。 これはお人よしを通り越して傲慢ですね。 肉は食べたいけど屠殺作業は他人に任せてやりたくない、と言ってるのと変わらない。 それと真でな…
[気になる点] 地竜は嬉々として殺しにかかったのに殺意を持った生物に躊躇する意味が分からん 一般的な日本人だったら殺傷に関して言えば人間も動物も大差無いと思うんだが… 実は日本で動物殺しまわってたとか…
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