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第二百八十六話 女神の泉の攻防①


「お、お前は……夜月皇帝(ナイト・エンペラー)!?」



「――よう! お前が噂のコンビニの勇者なんだろ? オレのテリトリーである、この森の中に勝手に侵入して。どうやって女神の泉の場所を突き止めたのかは知らないが……。まあ、お前達をここから生かして帰す訳にはいかないよなぁ? だってオレは、お前も、そしてグランデイルの小娘も両方殺して。いずれこの世界のトップに成り上がる、最強の男なんだからな!」



 数えきれないほどのライオン兵を引き連れてきた、夜月皇帝に睨まれて。

 女神の泉の中にいる俺達全員は、蛇に睨まれたカエルのように一斉に静まり返ってしまう。

 


 これは一体どういう事なんだ? 何で夜月皇帝がここにいる? 気配なんてまるで感じなかったぞ……。



 本当にコイツらは、いきなりここに現れやがった。


 こんなに凄まじい数のライオン兵達が、泉のそばに接近して来ていたなら。その足音だけでもすぐに気付けたはず。

 それなのに、まるでワープでもしてきたかのように。コイツは突然、俺達の前に現れた。しかも、もう逃げ場もないくらいに周囲を完全に包囲していやがる。



 敵の数は、推定1万匹以上――。


 いや、もっと沢山いるかもしれないな……。


 俺達が元々隠れていた森の丘の上の方まで、ギッシリと凶暴なライオン顔の騎士達が周囲を囲い込み。何重層にも折り重なりながら女神の泉を取り囲んでいる。



 流石にさっきまで発狂しかけていた倉持も、これには一瞬で黙り込む。


 そして青白い顔をして、ワナワナと全身を震わせながら腰を抜かして地面に座り込んだ。


 当然だな。俺だってさっきから震えが全く止まらないくらいだ。これだけの敵に囲まれた状態で、ここから逃げ出せる方法なんてあるのか……って感じだからな。



 おまけにこっちにはフィートや、ティーナ、それにアリスだっている。


 強大な強さを持つ敵兵に囲まれたど真ん中にいるっていうのに……。こちらは非戦闘員を一緒に連れている状況だ。


 ティーナ達を守りながら、ここで奴らと戦うというのはかなり厳しいだろう。



 もしかして……『ここ』なのか?


 朝霧が俺に予言してきた、『大切な仲間を失ってしまう』という予言された未来が起こる場所というのは……今、まさにこの瞬間なのだろうか?



 俺はここまで、一番最悪な状況になるのを防ぐ為に。


 常に自分が取りえる最善の選択肢を選んできたつもりだ。無理をせず、危険な選択肢を避けて。仲間と共に、慎重に慎重にここまで歩んできたつもりだった。


 それでもやはり、『ここ』に行き着いてしまったのだろうか。

 この最悪過ぎる絶望しか無い、数万匹を超えるライオン兵に取り囲まれてしまうという、一番ヤバい状況に追い込まれてしまうなんて……。



 俺は絶望的なこの状況下で。朝霧の未来予知が当たってしまうのではないかという不安に襲われて……全身が震え上がってしまう。


 周囲を完全に取り囲まれている俺達は、まさに1万匹のライオンに囲まれているウサギの家族状態だ。


 逃げ場なんてまるで無い。とてもじゃないが、数分後に生きているのかどうかさえ疑わしい状態だ。



 例えどんなに抵抗しても。どんなに足掻いたとしても。これじゃあ、非力なウサギのファミリーは獰猛なライオン達に食い殺されてしまうだけなんじゃないのか?



 そんなのはダメだ……!

 ティーナなだけは、絶対に俺は失いたくない!



 そんな俺の心の弱音と油断が、事態を致命的な状況へと、更に追いやってしまう。



「この野郎ぉぉーーーッ!! 絶対にぶっ殺してやるからなーーッ!!」



 恐怖で静まりかえっていた俺達の中で。


 たった一人だけ、復讐心で全身を熱くたぎらせ。全身の毛を逆立てて臨戦態勢を整えていたフィートが……突然、勢いよく前に飛び出した。



「待つんだ!! フィートーーーッ!!」


 とっさに叫んでも、もう……手遅れだった。


 獣人化をして、動きが素早くなっている猫娘のフィートは……。高速スピードで夜月皇帝に向かって襲いかかっていく。


 フィートは夜月皇帝への恨みで、完全に理性を失っている事。

 そして、もし……再び夜月皇帝の姿を見てしまったのなら。激昂してまだ興奮状態が冷めていないフィートは、また突発的な行動に出てしまう可能性がある事。


 それをククリアや倉持と、ここに来る前に、みんなで確認しあったばかりじゃないか。


 なぜ、フィートが無鉄砲な行動を起こす前に、それを事前に予想して止められなかったのか。



 これは、全部……俺の判断ミスだ。

 

 それこそ夜月皇帝が現れた瞬間に。フィートをすぐに強制的に寝かせるなりして、大人しくさせておくべきだった。



 俺も、ククリアも、倉持も。今のあまりにも絶望的過ぎる状況に完全にビビって、冷静な判断が出来ないでいた。



 両手の鋭い爪を伸ばして。まるで豹のように大跳躍をして夜月皇帝に飛び掛かっていくフィート。


 だが、その奇襲は……夜月皇帝にその鋭い爪が届く前に。

 ミュラハイトの周辺を守る、側近のライオン兵達によって完全に防がれてしまう。



「ブニャアァァーーーーッッ!!」


 激昂しているフィートの体を、力づくでライオン兵達が地面に押さえ付けた。


 そして身動きの取れなくなったフィートを、上からミュラハイトが見下ろす。


「へえ〜。コイツは、獣人化の失敗作じゃんか。ライオンの体に変化せずに、体の弱い猫に変化をしてしまった奴がまだ生き残っていたなんてな。女神の泉の強化作用が上手く効かずに、猫に姿を変えた失敗作はすぐに殺していたのに。何でその失敗作が、まだこんな所で生き残ってやがるんだ……?」


「フシューーッッ!! フシューーッッ!!」



 全身をライオン兵達に押さえ込まれていても、興奮の冷めないフィートは、尻尾を立てて上から見下ろしてくる夜月皇帝の顔を睨み続けている。



「――お前がッ!! お前がッ!! あたいの両親を殺したんだ!! お前がーーーッ!!」


「はぁ? 何だよこの五月蝿(うるさ)いクズ猫は。さっきからまともに喋れてないんじゃないのか? 失敗作の上に理性さえも完全に失っているなんて、マジでゴミだな。おい、お前達。ゴミはさっさと処分しろ。グランデイルとの戦いに使えない兵隊なんて、オレには不要だからな」



 ミュラハイトが、自身の部下達にフィートを殺害するように命じる。


「ま……待てッ!! やめるんだーーッ!!」


 俺は急いで、フィートの元に駆け寄ろうとした。


 日中に、森の丘から飛び出したフィートを、全力で回収した時のように。100メートルを3秒で駆け抜ける高速スピードで、ライオン兵達に取り押さえられているもふもふ娘の体をすぐに回収して、取り戻す……つもりだった。



 だが、その寸前で――。



「ぎにゃあああぁぁァァァァァァ!?!?」


 フィートの体を押さえていた、ライオン兵の中の1匹がナイフを振り下ろし。もふもふ娘の右腕を根本から切り落とした。



 右腕を切断されたフィートが、あまりの痛みで悶絶し。大絶叫をあげながら、その場で身悶える。



「お前らッ!! よくも、フィートを……!!」



 俺の怒りは一瞬にして、最高値に達した。


 実家で猫を飼っていた者として。愛猫が痛みに苦しむ叫び声を聞かされて、黙っていられる訳がないだろうがッ!!


 お前達は、全員……必ずこの俺がぶち殺してやるからなッ!!



 ““ギュイーーーーーーン!““



 俺の肩に浮かんでいる守護衛星の1つが、青色のビームを真正面に向けて放つ。


 倒れているフィートには当てない。たが、その周囲にいる奴の事は知らん。黒い鎧を着たチャラチャラ野郎の事なんて気にも留めない。全員、瞬時にレーザー砲で溶かして。ここから永遠に消し去ってやる!


 力を制御した青いレーザーによって。フィートの周辺にいたライオン兵のうち、数十匹が一瞬で蒸発した。

 光熱で体を溶かされたライオン兵達は、その体を霧散させて完全に消滅していく。


 俺は姿勢を低くして、まだフィートの体を押さえつけていた残りのライオン兵達に、次々と回し蹴りを喰らわしていく。


 怒りのスイッチが全開で入っていた俺の蹴りに、『手加減』なんて文字は書いて無かった。


 俺の放つ回し蹴りを防ごうとしたライオン兵の顔を、連続で数匹分。一気に胴体から切断させて、ゴルフボールのように遠くへと弾き飛ばす。

 


「――フィート、大丈夫か!?」


 瞬時にして、倒れていたフィートの体を回収してきた俺は……。すぐに怪我をしたもふもふ娘の体の様子を確認する事にした。


「変態お兄さん……! ハァ……ハァ……痛いよぉ! あたいの腕がぁ、腕がぁ……!! 痛くて意識が飛んじゃいそうだよぉぉ……!」


「大丈夫だ、安心しろ! すぐにアリスに傷を治して貰うからな! だからここで大人しくしているんだぞ!」



 俺はすぐにアリスを近くに呼び寄せる。


「アリス、すぐに来てくれ! フィートの怪我を見て欲しい!」

 

「は、ハイ……! すぐに参ります、コンビニの勇者様!」


 大怪我をしているフィートの体を、すぐにアリスに預けることにする。



 すると……。そのタイミングで。

 泉の上の場所から、聞きたくもない男の声が……俺の耳に入り込んできやがった。



「おいおい、いきなり飛び道具で相手を吹き飛ばすのが異世界の勇者のやる事なのかよ……。もっと、平和的に交渉してくるとかよー。フツーはそういう事をしてくるもんなんじゃねーの? まあ、いっか。そっちがそうなら、こちらも本気でお前達を始末してやるからな!」



 夜月皇帝ミュラハイトは、周りにいるライオン兵達に体を抱えられながら俺に話しかけてきた。


 どうやら先ほどの放った俺の青いレーザー砲を、間一髪のタイミングで、味方のライオン兵達によって救い出されて避けたらしい。


 あの様子からすると、ミュラハイト自身は何も能力を持っていない可能性が高そうだな。


 つまりはアイツは無能力者だ。何も能力は持たないが、ここにいる数万のライオン兵達を操る権限だけは持っている。


 つまり、マジで最悪なクズ野郎なのは間違いないって訳だ。



「よーし、お前ら。手加減なんてするなよ! コンビニの勇者を始末して、オレの名前を歴史に刻んでやる! 全員で一斉に襲いかかって、アイツらを1人残さず皆殺しにしてやるんだ!」



『『グオオオーーーーーッッ!!!』』



 もの凄い数のライオン兵達が、同時に咆哮を上げた。



 そして360度全ての方角から、一斉に大ジャンプを開始して。

 女神の泉の中にいる俺達を目掛けて、獰猛なライオン軍団が牙を剥き出しにして、空から大量に豪雨のように降り注いでくる。


 俺達は、その絶望的な光景を見て。まさに、この世の終わりのような気持ちに陥ってしまう。


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