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第二十八話 壁外区からの逃亡


 日は既に沈み。

 夜の闇が世界を支配する、暗闇の時間帯。



 そんな夜遅くにも関わらず――。


 銀色に光り輝く騎士の一団が今……壁外区の中に建つ俺のコンビニの周りを、ぐるりと取り囲んでいた。



 いいや、これはもう『軍隊』と呼んだ方が正確だろう。


 以前、グランデイルの街から俺を追放した時は……せいぜい100人ぐらいの騎士達に取り囲まれたくらいだったけど。



 今回のは、明らかにその規模が違う。


 今、コンビニの周囲を取り囲んでいる騎士達の総数は、軽く3000人は超えている。



 夜闇に包まれた、壁外区の静かな住宅地。その中を無数の松明を持った銀色の騎士達が、おびただしい数で押し寄せてきていた。



「おいおい……。これは一体、どうなっているんだよ?」



 グランデイルの街にいた時は、俺は城下町の隅っこにコンビニを建てていた。だから騎士達に周りを取り囲まれても、周囲で暮らす人々に影響は無かったと思うが……。


 ここは人口密集地である、壁外区の中なんだぞ。


 俺のコンビニの周辺だって、たくさんの住人が暮らしているっていうのに。こんなに武装した多くの騎士達が、その住宅地の中に無理矢理に押し入るなんて、どうかしているぞ!



「……ねえねえ、彼方くん! コレってどういうことなのよ〜!!」


「さあな、俺だって全然分からないぞ。こんな事……全く予想だってしなかったしな」


「そんな〜!? 何でよ〜〜!!」



 玉木が天を仰ぐように、事務所の天井を見つめる。


 ティーナもドローンのカメラが映し出す映像にショックを受け、先程からずっと口をつぐんでいるようだ。



 うーん……。確かに予想はしていなかったが、理由に全く心当たりが無い、という訳でもないな。



 ちょうど、今日――。


 日中にザリルから、グランデイル王国の動向を聞いたばかりだった。もし、あの話の通りなら。グランデイル王国は自前で育てた訳でもない、国外追放した野良勇者である俺の評判が、世間に広がってしまうのが気に食わなかったとか?


 いやいや、そんなんでわざわざ軍隊まで送って来たりするのか? 


 俺が自分で言うのも何だが……。今やコンビニの勇者は、この壁外区に定着をして。みんなに必要とされる重要な立場になっているはずだ。


 そんな俺をここから追放、あるいは討伐なんてしたら。ここの住人達の反発しか招かないはずだぞ。


 そんなリスクを冒してまで、俺のコンビニを襲撃する必要があるのか?



 そんな事を考えていた俺の脳に、ニヤ〜リ顔を浮かべた倉持と金森の顔が浮かんできた。



「まさか、あのサイコパスコンビ……。後先を何も考えずに、ただ俺が生きていたのが気に食わないから、とりあえず攻めてこいとか、全く考え無しに命令をしたんじゃないだろうな。だとしたらこいつは、完全にお手上げ状態だぞ。何も考えないバカの思考なんて、こっちは読めるはずも無い」



 ちゃんとした理性のある相手の考えなら、まだ予想や推測も出来る。

 

 だが、何にも考えてない真性のアホ野郎の思考なら、そんなもの分かるはずもない。しかもそのドアホ達には今や、国を動かせるだけの強力な権力もある訳だしな。



 俺や、玉木、ティーナの3人は、現在の状況が全く分からずに。コンビニの中から、ただドローンが映す空からの映像だけを見て、周辺の様子を必死で探る。



 すると、その空中からの監視映像に。グランデイルの騎士団の中から、一人だけコンビニの裏口に向けて近づいて来る人影が映っているのを見つけた。


 その銀色の騎士の様子は、明らかに少しおかしかった。


 こちらの様子を調べに来た……と言うよりは、むしろ後方のグランデイル軍の様子をしきりに気にしていて。近くの草むらに隠れたり、地面に伏せたりしながら、ゆっくりと隠れるようにしてコンビニに向かって来ている。



「ん? 何だコイツは……? 少し様子がおかしいみたいだけど……」


 やがてコンビニにまで辿り着いた、その銀色の騎士は。

 小さく裏口のドアをノックする。



 トントントン――。



「……旦那、オレです。ザリルです! ここを開けて下さい!」


「えっ、ザリルなのか!?」



 俺は急いで、コンビニの裏口を開ける。


 グランデイルの騎士達と同じ、銀色の鎧を全身に着ているので分からなかった。だがその特徴的な声は、ザリルのもので間違いない。


「ふぅ……。何とかここまで辿り着けましたぜ、旦那!」


「お前、その鎧はどうしたんだよ? よくここまで無事に来れたな?」


「な〜に。そこら辺をマヌケ(づら)で歩いていたグランデイル軍の騎士を、ちょっとばかり裏道に連れ込みましてね。その着ていた鎧だけ、軽く拝借をさせてもらいましたぜ!」


 いつも通り悪党面のザリルがニヤリと笑う。

 なので蛇足(だそく)だと思いつつも、俺はついつい聞いてしまった。


「一応聞いておくが、そいつを殺してはいないだろうな?」


「――旦那……。オレは旦那が思うほど、清廉潔白(せいれんけっぱく)で良心的な商人じゃありませんぜ。まあ、でも今回は気絶をさせるだけにしときましたんで安心して下さい。オレも旦那に嫌われてしまう事の方が、今後も旦那と仲良く商売をやらせて貰う上で、困るんでね!」


 ニコッと笑う、ザリル。


 うーん……殴りたいこの笑顔。

 たぶん、確実に嘘をついていそうなんだけどな。


 本当にコイツは、俺が好みそうな笑い方を心得ているんだよなぁ。あくまでも憎めないキャラを演じ続けるつもりらしい。



「――ザリル。外にいるグランデイルの連中の情報を教えてくれないか? アイツらは何を目的にここに来てるんだ? 壁外区のみんなは、今、大丈夫なのか?」


「了解ですぜ、旦那。今、このコンビニを取り囲んでいる連中は、グランデイル王国から正式に『魔王に(くみ)する異端の勇者、コンビニの勇者』を討伐する為に、王国からわざわざ遠征して来た騎士団らしいですぜ」


「魔王に(くみ)する勇者か……。たしかに俺を追放する時に、そんな事をクルセイスさんも言っていた気がするが……。でも、アレからずいぶんも時間も経ったぜ? それに、俺のコンビニはこの壁外区では多くの人達に支持をされているはずだ。その俺を討伐だなんて、グランデイルの奴ら本当に正気なのかよ?」



 もしここで、コンビニの勇者である俺を抹殺。

 あるいはカディナの街から追放!


 ……なんて事になったら、壁外区の住民が黙っていないだろう。暴動どころじゃ収まらない大騒ぎになるはずだ。


「それが今回は一筋縄じゃいかないんですよ、旦那! 実はグランデイル軍を内部から手引きをした連中が、カディナの街の中にいるらしいんです!」


「内部から手引き? それはどういう事なんだ?」


 お世辞じゃないが、俺はこの壁外区の住民には『壁外区の女神様』なんて呼ばれるくらいに、信頼をされているはずだ。


 むしろ、俺が居なくなったらみんなが困ってしまうはず。それなのに俺をグランデイルに売るような事をした奴がいるってのか?


「旦那は、壁外区の住民からは、たしかに圧倒的な支持をされていますぜ。……ただ、壁の内部。カディナの市民の一部には、旦那のコンビニを快く思わない連中も居たって事なんです」



「――そんな!?」


 ティーナが、驚きの声を上げる。

 

 驚いたのは、俺も同じだ。

 今日のお昼に、店にやってきたティーナの親父さんのように。カディナの壁の中の街には、俺のコンビニから利益を得ている連中や、業務提携をしたがっているような商人も多いのだと俺は思っていた。


 たしか壁の中の市民の間では、俺のコンビニのミルクティーが今……大流行をしているんだろう? 


 その供給源である、コンビニを討伐してどうするんだよ。ミルクティーが飲めなくなって困るのは、カディナ市民の方じゃないのか?


 うーん。こんな事なら、カディス討伐の後に用意されていたという。壁の中の商人が主催してくれた歓迎式典に出ておいた方が良かったのかな? 


 それで少しは、壁の中の権力者さん達のご機嫌もとる事が出来たのかもしれないし……。



「まあ、旦那のコンビニは壁外区の住民には大きな助けになっていますがねぇ。あまり壁外区の住民が豊かになってしまうと、壁の中の権力者達の優位性が保てなくなる――と、実は危惧をしている連中もいたって事ですぜ。連中からすると、安い労働力くらいにしか思っていなかった壁の外の住人達が、だんだんと蓄えを持って。発言力を増していくのが、脅威に思えていたのかもしれないですしね」


「でも、それはごく一部の連中なんだろう? むしろそんなんで壁外区の住民全員や、コンビニに友好的なカディナの市民の多くを敵に回しても大丈夫なのかよ? その連中は、コンビニを討伐した後、街の人達に何て説明をするつもりなんだ?」


「そこは、後で何とか言いくるめる気なんでしょうぜ。何でも、グランデイルの連中とグルになって、コンビニの商品は魔王の呪いが込められた悪魔の食べ物だ! それらをたくさん体に取り入れてしまうと、だんだん体が魔物に変化をしてしまう、だとか。根も葉もない噂を連中、必死に広めていたらしいですからね」



 おいおい、なんだよそれ!


 そんなの、一時期ヨーロッパ辺りで流行った『コーラを飲むと(がん)になる』くらいに信憑性のない流言だな。

 

 まあ、でも謎だらけの異世界の商品だし。


 低価格で売っているのも、怪しいと言われたらそれまでだけど……。それくらいじゃ、特に壁外区の住民達は納得しないと思うぜ。


「――そうだ! 壁外区のみんなは、どうしてるんだ? こんな居住地のど真ん中に、突然グランデイル軍が大量に入り込んで来たりして。みんなビックリしてるんじゃないのか?」


「それは、ビックリなんてもんじゃないですぜ……旦那! まだ状況が分かってない連中がほとんどですが、グランデイル軍が旦那のコンビニを討伐しに来たと知った一部の連中は『ふざけるなっ!』って、騎士達と小競り合いになってますぜ! 中には、武装してグランデイル軍と戦おうとしている住民も大勢いますからね。まさに大混乱って奴です!」


「なんだって!? それは絶対にダメだ! グランデイルの正規軍と戦ったりなんてしたら、たくさんの人死にが出る! そんな事は絶対にしないでくれ! ザリル! そう壁外区のみんなに伝えてくれないか!」



 こんな住宅密集地のど真ん中で、グランデイルの騎士達と戦ったら、大変な事になる。


 数人や、数十人の死者では絶対にすまないぞ。


 下手をすると、数百人規模の犠牲者が出る大量虐殺が起こりかねないぞ! もちろん犠牲者は壁外区の住人の方が遥かに多くなるはずだ。


「そうは言いますがねぇ……旦那。この件に関しては、オレは頭に血が上っている街の若い連中の方を支持したいくらいなんですぜ。旦那が殺されたら、壁外区の住民は明日から生きていく糧も希望も失っちまいますぜ。旦那や、コンビニを失うくらいなら、グランデイル軍とだって死ぬ覚悟でオレらは戦えますぜ!」


「だから、それは絶対にダメだ!! 街の人には1人たりとも犠牲を出してほしくない!」


 俺は強い口調でザリルを(いさ)める。


 こんな所で命を失っては絶対にダメだ! 命あってこその人生だ。生きてさえいれば必ずなんとかなる。また、みんなとだって必ず再会出来る!


「いいか、ザリル! 俺はみんなが生き残る道を選びたい。そこでだけど、お前がコンビニの裏口までたどり着いたみたいに、俺達もここからこっそりと逃げる事は出来そうなのか――?」


「旦那……。申し訳ないですが、それは無理そうですぜ。そもそも調達した、グランデイルの騎士の鎧は1着だけですし、一人でここまで来るのにも手一杯でしたからね。帰りだって、本当に無事に戻れるのかも怪しいもんです」


「そうか。……そうだ、玉木! お前は暗殺者の能力、『隠密(ステルス)』を使えばここから逃げられるだろう? お前だけでも逃げてくれ!」


「バカは言わないでよ〜。今回は私一人で逃げるなんて、ぜ〜ったいにしないんだから〜!! 私はコンビニに残るからね!!」


 玉木が強い口調で、俺の提案を拒否する。


 その顔色じゃ、説得は無理そうだな。それに玉木だってグランデイルから逃亡した身の上だ。ここから脱出したって、安全が約束されている訳でもないだろう。


「うーん。しょうがないか……。なら、ザリル。お前だけでもここから逃げて、俺のメッセージを壁外区のみんなに伝えて欲しい。俺は何としてでも生き延びて、ここから脱出してみせる! だから、みんなには心配しないで欲しいと伝えて欲しいんだ……!」


 約半年近くも滞在した、この壁外区。

 俺にとってはまさに、異世界で初めて作る事が出来た居場所だったんだけどな。


 ……だが、こうなってはもう手遅れだろう。

 グランデイルと戦争になってしまうのだけは避けたい。壁外区のみんなをそれに巻き込む訳にはいかない。


 その為には、俺がここから出て行かないといけないんだ。


「旦那……。生きて必ず戻って来ると約束をしてくれますかね?」


「ああ。約束する! 俺は必ずこの壁外区に戻って来る!」


「もし約束を破ったら――その時は、壁外区のみんなで必ず旦那を探し出して、旦那のいる所まで押しかけますからね! オレらは旦那さえ居てくれれば、生きていけるんです。絶対に旦那から離れませんから、それを忘れないで下さいね!」


「分かった、どこにでも来てくれ! 俺がみんなを必ず守ってみせるから! お前こそ絶対に死ぬなよ、ザリル? 俺のメッセージをみんなに伝えて貰う、大切な任務がお前にはあるんだからな! 途中で死んで、グランデイル軍と壁外区のみんなが戦争になってたりしたら、俺は絶対に許さないぞ! そん時は、お前との業務提携は永遠に解消させて貰うからな!」


「へへへっ! そいつは命を失うよりもオレにとっては怖い事ですぜ! 任せて下さい、必ず街のみんなに『壁外区の女神様』の言葉を伝えてみせますよ!」



 ザリルはそう言うと、軽く手だけ振って、コンビニの裏口から外に出て行く。


 外にはたくさんのグランデイルの騎士達が集まっている。

 いかに夜の闇に紛れての行動でも、これ以上コンビニの中に滞在していたら……。もう、ここから逃げれなくなるとザリルは判断したのだろう。


 コンビニの外に出たザリルは、草むらや、建物の陰に隠れたりしながら巧みに身を潜めて、夜の闇の中に消えていった。



「さあ、いよいよこれからどうするかなんだが――」


 うーん。正直どうしようもないぞ。


 ザリルのように、まるで忍者のような動きは俺には出来ないし。もう、コンビニの周囲は敵に完全に取り囲まれている。


 コンビニの中で篭城する以外の選択肢が、俺らにはない状況だ。


 ドローンの映像を見ている限り、今回はクルセイスさんもいないようだし、誰か他の異世界の勇者が、陣頭指揮をとっているという訳でもなさそうだ。


 ――となると、全く以って交渉役になるような人物が敵には見当たらない。だだ、騎士達だけをここに送ってきた……という感じらしい。

 今回は、討伐を目的にしてるって事は、コンビニの勇者を殺すっていう強い目的があるのだろうし。

 


「ねえねえっ! 彼方くん、見て見て〜〜!!」


「――ん? どうしたんだ?」



 どうやら、敵に動きがあったらしい。


 コンビニを取り囲む騎士達の先頭集団から、銀色の鎧を着ていない一団。黒いローブを全身にまとい、杖を持った複数の集団が現れる。


 黒いローブの一団はコンビニに向けて、手にした杖を向けると――、


 

 ″ズドドドドーーーーーンン!!!″



 数十を超える、魔法の火球を一斉に放った。




「きゃああああああっーーー!!」



 玉木とティーナが同時に悲鳴を上げる。


 もちろんコンビニには、その火球の群れを避ける(すべ)はない。



 グランデイルの魔法部隊の攻撃をまともに受け。

 コンビニが大炎上する……と、俺も一瞬思ったのだが。



 火球がコンビニに直撃した轟音が聞こえた後。


 俺はドローンの映像を確認すると、コンビニは全くの無傷で、敵が放った火の玉は全て――命中する前にかき消されていた。



「えっ、これはどういう事なんだ……。あっ、そうか!」


 俺は思い出した。


 そうだった。

 コンビニのレベルが4に上がった時――。


 俺のコンビニの防火シャッターには、魔法障壁の機能が付与されたんだった。今まで、敵から魔法攻撃を受けた事がなかったから、その効果は分からなかったけど。



「……魔法障壁って、こんなにも有能だったのかよ。あんなに凄い数の火の球を全部掻き消したった事だよな?」



 これには当の俺達より、グランデイル軍の方が相当動揺をしたらしい。


 おそらくアイツらは、事前にコンビニの情報を上から与えられていて。魔法で燃やしてしまえばそれで終わりだ……くらいの情報しか与えられてなかったのだろう。


 魔法部隊の一斉攻撃を無効化するような耐性がコンビニにあった事は、完全に奴らには想定外だったらしい。



「彼方様……! ご無事ですか?」


「ああ、こっちは大丈夫だ。こればっかりはコンビニ様々だけどな!」



 そうだ。俺のコンビニをあの頃と一緒にするなよ?


 俺だって数々の死線をくぐり抜けて来て、レベルが上がっているんだからな。


 グランデイルの騎士達は、一時的に動揺していたが……。


 やがて、すぐに落ち着きを取り戻し。

 敵の指令官らしき男が、陣頭に立つと――、



「全員、抜剣(ばっけん)――ッ!! 整列ーー!! 前に構えーーーッ!!!」



 大きな剣を頭上に振り上げて。コンビニに向けて、それを勢いよく振り下ろす。



「突撃ーーーーーッ!!!」



『『うおおおおおおおおおおおおーーーっ!!!』』



 グランデイル軍による一斉突撃が開始された。



「――うおおっ、流石にコレはまずいぞッ!!」



 くそっ……!

 結局、何も事態を打開するアイデアも浮かばないまま、一番最悪な状況になっちまった!


 こうなったらもう完全に、逃亡の手段はない。今、コンビニから出たら、即座に斬り殺されてしまうだろう。


 コンビニの周囲を、あっという間に取り囲んだ銀色の騎士達は、剣でコンビニの外壁を破壊しにかかる。



 ”カキーーン!!” ”カキーーン!!”


 コンビニの周囲に全面展開している、強化ステンレスパイプシャッターと、無数の鋼の剣が、一斉にぶつかる甲高い金属音が鳴り響く!


 グランデイルの騎士達の一斉攻撃にもかかわらず、直径12センチ、厚さ30ミリを超える頑丈な金属パイプは、よく持ち堪えてくれている。


 おかげで、すぐにでもコンビニの外壁が破られ、店内に侵入されるという事はなさそうだ。


「彼方く〜〜ん、これから私達どうなるの〜〜……」


 玉木が不安そうに俺の左腕にすがりつく。

 ティーナも俺の右手を、ずっと握って不安に耐えている。


 だが、スマン……。

 今回は全く打つ手がないのが、現状だ。


 あんなに無数の騎士達に、群がられているコンビニ。


 その映像が上空のドローンから映し出され……。

 おまけに連続して鳴り響く金属音にも、精神が侵されていく。

 まるで歯医者で聞こえる、嫌な機械音をずーっと聞かされ続けているような気分になるからな。


 しかもこの金属の音は、コンビニの中にいる俺達3人を殺そうとして発せられている音だ。こんな音を永遠と聞かされ続けて、まともな精神でなんていられるはずもない。


 以前、ティーナと初めて会った時に、盗賊達にコンビニを襲われた状態に似ているな。


「あの頃より今は、ずっとコンビニのレベルも上がっているけれど………」


 結局、防御に徹するしかないのは同じなのかよ……。


 でも、これからどうする?

 金属製の強化ステンレスパイプシャッターは、どこまで敵の攻撃を耐えられるだろうか――?


 このまま朝まで、仮に持ち堪えたとして……。

 敵は諦めていったん引いてくれるだろうか?


 防御しか出来ない、コンビニには何も反撃は出来ない。


 もし中に侵入されてしまったら、もうお手上げだ。これまでのように、消火器で怯ませるだなんて……小手先の技じゃ、あの『軍隊』に効果があるはずもない。


 何より敵の数があまりにも多すぎる!


 どうする? 今回は俺が命乞いをして、敵に投降したとして、ティーナや玉木は許して貰えるだろうか……。


 最悪、玉木だけはおそらく大丈夫だろう。


『暗殺者』の能力『隠密(ステルス)』を使えば、玉木の姿は見えなくなる。敵から逃げ出す事も可能なはずだ。


 ――だが、ティーナは?


 俺と一緒に、ティーナが殺されるなんて事態は、絶対にダメだ!! 俺がそんな事は絶対にさせない!


 そんな事をされるくらいなら――。

 もし、俺に空中をジャンプする能力が授けられたら、永遠に空から『無限もぐら叩きインフィニットハンマー』を繰り出して。アイツら全員を、コンビニの重量で圧死させ続けてやる!



「――もっとも、俺にそんな高さにまで飛ぶ能力なんて無いんだけどな……」


 クソ……!

 もっと現実的に考えるんだ。



 現実から逃げて、空想に逃げこんでもしょうがない。


 今までだって、俺は自分の力でどうにかしてきただろう?


 突然、伝説の剣から脳内に声が聞こえてきたり。

 勇者を導く、謎の妖精が現れて救われるなんて事態には、ならなかったはずだ。


 だから、一瞬でもいい!


 敵が強化ステンレスパイプシャッターへの攻撃を諦めて、この場から少しでも退いてくれたら――。


 その隙に、急いでコンビニをしまって、壁外区の住宅地の中に隠れて身を潜める。



 だが、そうなると結局――。俺達を捜索する為に、壁外区を探し回る騎士達と、ここの住民達との間で、戦いが起きてしまうんじゃないだろうか?


 やはり、俺……コンビニの勇者は。


 ここからどこか遠くの地に逃亡をしないと、この事態は解決しないのかもしれない。ここに暮らすみんなに迷惑をかける訳にはいかないからな。



「この壁外区を離れるなんて、クソッ! 何でこんな嫌がらせばかりしてきやがるんだよ……!」


 ぼやいていてもしょうがない。


 むしろ、逃亡出来るのなら、まだマシだ。

 現状はもっと厳しい。今は3000人もの騎士達に攻め込まれ、コンビニから脱出する事も困難な状況なんだ。

 強化ステンレスパイプシャッターも、どこまで耐えられるのか分からないし。まだ絶体絶命な状況である事には、変わりない。


 くそくそ、本当に打開策が全く思い浮かばないぞ!


 もし、店内に侵入をされたら、入り口付近のドアに大量の消火器を並べて――。

 騎士達がここに来た途端に、爆発でもさせるか? でもその後は……? 敵はいくらでも人数がいるんだ。怯まずに次々に店内に侵入して来てしまうだろう。


 事務所に篭ったって、すぐにドアは破壊されてしまうに決まってる。もう、裏口から脱出も出来はしない……。



「これは、万事休す……なのか? 俺はティーナや玉木を、ここから救う事が出来ないのかよ?」






 そんな最悪なタイミングで……。



 それは、突然俺の脳内に鳴り響いた。




『――ピンポーン! コンビニの勇者のレベルが上がりました』




「はああああっ!? このタイミングでかよっ!!!」



 いや、今回は本当に助かるッ!


 出来るなら、カディス討伐の後ですぐにレベルアップして欲しかったけどな!


 グランデイル軍に攻め込まれ、何か俺には見えない経験値ポイントみたいなものが、今、この瞬間にやっとレベルアップするまでに達したのなら、とにかく渡りに船だ! マジで助かった!!



 俺は急いで、コンビニの新しい能力を確認する。




「――能力確認(ステータスチェック)!!」




名前:秋ノ瀬 彼方 (あきのせ かなた)

年齢:17歳


職業:異世界の勇者レベル5


スキル:『コンビニ』……レベル5


体力値:8

筋力値:8

敏捷値:6

魔力値:0

幸運値:8


習得魔法:なし

習得技能:なし


称号:『伝説の地竜殺し』


――コンビニの商品レベルが5になりました。

――コンビニの耐久レベルが5になりました。


『商品』


牛丼弁当 焼肉弁当 

グラタン ドリア

ハンバーガー チーズバーガー 

フィッシュバーガー

牛乳パック 卵パック

カロリースティック


が、追加されました。


『雑貨』


異世界の雑誌

異世界の漫画

異世界の書籍

異世界の写真集(成人男性向け)

女性用下着 ブラジャー パンツ

マスク

ホッチキス

シャープペンシル

消しゴム


が、追加されました。


『耐久設備』


煙幕散布機能付きドローン 4機

対侵入者用 5連装自動ガトリングショック砲 2門

地下シェルター

コンビニの可変式回転機能

店内用オーブンレンジ レジ横設置限定


が、追加されました。

 


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外れスキルコンビニ
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― 新着の感想 ―
何か武装が出来て、最早コンビニですら無くなってきたw
未成年略取誘拐犯国家の連中にいちいち右往左往するのが少々煮え切らない。 アホな王族も含め、まとめてあの世に送ってしまえばいいのに。
[一言] その内ロボ変形しそうな予感。 そうなったらつまんないな。
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