表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

268/439

第二百六十八話 倉持の秘密


「グランデイル王家の中で、遺伝能力(アンダースキル)を受け継ぐ者だけが入れる秘密の部屋の噂か……。それは、ククリアが俺に教えてくれた話と。そしてセーリスが実際に、グランデイル王城の地下で発見したという部屋の情報とも一致するな」



 うちの花嫁騎士のセーリスは、グランデイル王城の地下で。実際にその秘密の部屋らしき場所を見つけ出している。



 確か、その場所には――、


『グランデイル王家の血筋を引く者。かつ、遺伝能力(アンダースキル)有する王族のみが、この扉の中に入る権利を有する』



 ……という、古い文字が記されていたらしい。



 グランデイル王家には、古くから遺伝能力を女王候補者に継承させる為に。異世界から召喚された勇者と、王家の者が婚姻を結び。その子孫に遺伝能力が発現する確率を高めようとする伝統があったようだ。


 選抜組のエースである倉持は、まさに現グランデイル女王であるクルセイスに目をつけられていたと言っていいだろう。



 そうまでして、遺伝能力者を王族に出現させようとしていたのは、きっと……。

 先祖から代々受け継がれてきた『何か』を、遺伝能力を持つ強い女王に、継承させたかったからなんだろうな。



「……クルセイスは配下である宰相のドレイク・ゴーンを裏で操り。自分の両親を間接的に殺害をさせている。彼女にとっては、幼い時から遺伝能力を持たない無能な両親は、ただ邪魔な存在でしかなかったんだろうね。きっと小さい時から、その秘密の部屋に出入りをして。そこに潜む『何か』と彼女は独自に交流をとっていたのかもしれない」


「秘密の部屋に潜む『何か』か……。俺達はそこに、大昔のグランデイル王国に君臨していた、不老の力を手に入れた『過去の女王』が生き続けているんじゃないか、という仮説を立てているんだが……。そういう噂話を、王宮の中で聞いたりしなかったか?」


「グランデイル王家の過去の女王だって? いや、そこまでは……流石に僕も分からないよ。でも、グランデイル王家に連なる者の中には、王家を離れた途端に。ありもしない罪をでっち上げられて、地下牢に無理矢理投獄されたり。処刑をされてしまうような者も数多くいたらしい。だから王族を離れる者の中には、身分を隠し。外の世界でひっそりとグランデイル王家に見つからないように、隠れて生き延びている者もいたらしいよ」


「……そうか。じゃあ、外の世界で隠れ住んでいるという、元グランデイル王家の一族に連なる人物を見つけ出す事が出来れば……。俺達はグランデイル王家の謎を知る手掛かりを得られるのかもしれないな。問題はそんなに都合よく、元グランデイル王家に所属していた重要人物を探し出せるかどうかって所だけどな」



 今回、倉持から聞けた情報を整理すると。


 やはりグランデイル王国には、俺達の知らない謎がまだ沢山秘められているらしい。



 これはあくまで、俺の推測でしかないんだが……。


 ミランダ領遠征のどこかのタイミングで、混沌の魔女であるロジエッタがグランデイル女王のクルセイスに接触をした。


 そして過去のコンビニの大魔王の事や、枢機卿の秘密についてをクルセイスに伝えたのだろう。


 そして、それを知ったクルセイスは……女神教に反旗を翻す決断をする。その辺りで、地下の秘密の部屋にいると思われる、グランデイル王家の過去の女王とも連絡を取ったのかもしれない。


 おそらくはそいつが、女王のクルセイスを操っている実質的な『親玉』だろうからな。



「……なるほど。彼方くんの話が全て真実だとすると、あのクルセイスは、地下の秘密の部屋に隠れている大昔の女王の指示によって、世界侵略に乗り出したという訳なんだね。――だとすると本当に僕は最初からずっと『道化(どうけ)のピエロ』もいい所だったようだね。何も知らずに、ただいいようにクルセイスに利用され続けてきたのだから」



 倉持が深く考え込むようにして、目をつぶる。

 隣にいる名取が心配そうに、そっと倉持の肩に手を乗せていた。

 

 倉持と名取にとっても。俺から得られた情報量があまりにも膨大すぎて、まだ心の整理が追いつかないのかもしれない。


 だが、自分達が物語の主人公ではなく。影で暗躍する敵側の陣営に所属をして、正規ルートから外れた道のりを今までずっと歩いてきた事だけは、理解出来たのだろう。2人とも、その表情には落胆の色合いが濃く見えていた。



 ――よし! ここはいったん休憩にして、少し落ち着く事にするか。


 俺は事務所の中に置いてあった、お茶のペットボトルを開けて。倉持と名取の分もコップに注いで用意した。


 沸かしたお茶じゃないから、体が芯から温まる訳ではないけれど。少しだけお茶を飲んで、重くなった心を整理する事にしよう。



 倉持も名取も、ズズズーッと無言で俺がペットボトルから注いだお茶を飲み干していく。


 心なしか2人とも、ほっこりとした表情を浮かべているように感じられた。……そうか。俺はずっとコンビニの中にいるから、コンビニ食品を異世界でもずっと食べ続ける事が出来ているけど。


 倉持と名取にとっては、日本の緑茶を口に含んだのは本当に久しぶりの事になるんだろうな。


 名取なんかは、たしか学校では茶道部に所属していたくらいだしな。やっぱり異世界に長く過ごしている間も、ずっと日本のお茶の味が恋しかったに違いない。



 俺から受け取ったお茶を、名取と一緒に無言で飲んでいる倉持に。俺は改めて聞きたかった事を尋ねてみた。



「――そういえば、倉持。お前が元の世界に戻る為の方法を知っていたのに、俺達には隠していたという情報があるんだけど……。それは、本当なのか?」


「ブウウゥゥハァァーーッ!!」


「――きゃっ!?」


 倉持が口に牛乳を無理矢理大量に含んで、笑わないように耐えていたお笑い芸人のように。


 勢いよく飲みかけていた緑茶を、目の前にいる名取の顔に向けて思いっきり吹きかけた。



 倉持の口からマーライオンのように放出された緑茶を浴びて、名取の顔はずぶ濡れになってしまっている。

 トレードマークの眼鏡にも、お茶が大量についてしまっていた。



 あーあ……もう、何をやってるんだか。


 俺が慌てて、事務所の机に置いてあるタオルを取って。濡れている名取の顔を拭こうとすると――。



「――悠都(ゆうと)くん? 私の顔……濡れているみたいだけど?」



 あの無口系眼鏡女子の名取が、初めて言葉を喋った。


 えっ、名取って喋れるの? いや、もちろん話せるのは当然なんだけど……。俺は名取が喋ってる所を初めて見たかもしれない。


「は、ハイ……! すいません、美雪さん……」


 倉持が神速の速さで、胸ポッケから白い綺麗なハンカチを取り出し。目にも止まらぬ高速スピードで、名取の顔についた緑茶を丁寧に拭き取っていく。



「えっ!?」


 俺はその光景を見て。思わず、唖然としてその場で固まってしまった。



「――悠都くん? まだ私の右の耳たぶに、水滴が少しだけ残っているみたいだけど?」


「分かりました、美雪さん! すぐに拭き取らせて頂きます!」


 再び神速の動きで。白いハンカチで名取の耳についたお茶を、慌てて拭き取る倉持。


「えっと……」


 俺が今、目の前で起きた不思議な出来事にツッコミを入れようとすると。


「――で、元の世界に戻る方法を、実は僕が知っていたという話だったね、彼方くん? その通りだよ、それは真実さ。正確には方法というより、条件の方だけどね。僕は元の世界に戻る為に必要な条件を、最初から知っていたのさ」



 倉持は何事もなかったかのように。いつも通り、長い前髪をファサ〜……っと、かき上げてドヤ顔で白い歯を見せてくる。


 いや、お前……。今のを完全に無かった事にしようとしてるだろう? 


 倉持に顔についたお茶を丁寧に拭きとって貰った名取も、そのまま無言でスケッチブックにイラストを描くのを再開しているし。



 えっと、お前達って本当にどういう関係なの?


 もしかして、名取の方が主導権を持ってたりするの? だとしたら、倉持……。お前、本当に実は隠れマゾ体質の男なんじゃないだろうな? 

 女王様に拷問されて、性格までキャラ変しちゃったんじゃないのか?



 ……まあ、今はその事には触れないでおくか。


 別に倉持と名取の間柄を知っても、俺に何も得はないしな。

 倉持と名取の普段の関係性はマジで謎だけど、あまり深入りはしないでおこうと思う。



「よし。じゃあ早速、元の世界に帰る条件を知っているというなら、俺に教えて貰おうじゃないか、倉持」


「それは簡単さ。まあ、選ばれた能力を持つ僕だけにしか出来ない事なんだけどね。グランデイル王城の地下にあるというゲートを使って『自らの命を引き換え』にして、異世界へとワープするのさ」


「……命を引き換えにして? つまり、異世界に渡るには『死ぬ』必要があるという事なのか?」


「そうだよ。まさに死んでも生き返る事の出来る、『不死者(エターナル)』の能力を持つ、この僕にしか出来ない条件が必要だった訳なのさ」



 ドヤ顔で、高らかに宣言をする倉持。


 ああ、その感じ……何だか懐かしいな。最初に俺のコンビニに来た時のお前は、まさにそんな選ばれし者オーラみたいなのを放っていた気がするぞ。


「――ん? どうしたんだい、彼方くん? もっと驚いてくれても良いんだよ。それか、この僕を神のように(あが)めてくれても構わない。……っていうか、もっと僕の事を崇めてよ!」


「いや、何でお前をここでリスペクトしてやらなきゃいけないんだよ。まあ、たぶんそうなんだろうなって、俺もある程度予想は出来ていたんだよ」



 俺がその事を知っていた事に、ガッカリと肩を落として椅子に座り込む倉持。


 スケッチブックに右手で絵を描きながら。左手を無言で倉持の肩にポンポンと当てて、傷心気味の倉持をドンマイと無言で慰める名取。


 まあ、その辺りの事は……紗和乃(さわの)が実は既に予想してくれていたからな。



 俺としても、改めて倉持の言葉でそれを聞けて。やっぱりなって感じだった。



 倉持の話によると、かなり最初の頃に倉持は、クルセイスの寝室に置いてあった、この世界の過去を考察する古い書物を見つけて勝手に読んでいたらしい。


 クルセイスの寝室に入れるのは、愛人だった倉持だけだったからな。俺達の知らない情報を掴むチャンスが十分にあった訳だ。


 そしてその書物には、たぶんティーナが昔言っていた、女神教によって読む事を禁じられた『禁書』と同じような内容が書いてあったのだろう。


 異世界に渡るゲートを使用するには、自分の命を失う必要がある。でも、複数回生き返る事が出来る倉持は、まさにゲートを渡る事の出来る唯一の能力を持った勇者だ。



 初期の倉持は、その事を知り。ついつい天狗となり、自分の事を神に選ばれた救世主と勘違いしてしまったのも、今になって思うと納得だった。


 広大な宇宙の中で、地球が『人間』という生命が生きるのに、余りにも適した環境にあらかじめ設定されていたように。

 人間原理に基づいて考えれば、倉持も自分に与えられた能力が、余りにもこの世界にとって恵まれ過ぎた能力だと自惚(うぬぼ)れてしまうのも理解は出来る。なにせ元の世界に帰れるのは、自分だけなんだからな。



 そしてそれは、女神教が喉から手が出るほど欲しがっていた能力でもあった。


 つまりは女神教の神様であるアスティアも、そしてあの枢機卿も。


 魔王種子を集めて、最後に手に入れようとしているのは……『不死』の能力という事だ。それを手に入れる目的は、やはり異世界に渡れるゲートを使用したいのだと思う。



 ゲートを使って、女神アスティアが一体どこの世界を目指しているのかはまだ謎だけどな。



「……まあ、僕にはそれが最初から出来る能力があった。だからクルセイスは僕を重要人物として、手元に置いておきたかったのだろうね。でも、残念ながら僕は彼方くんのように『無限の勇者インフィニット・シリーズ』では無かった。無限に生き返る事が出来る能力。クルセイスも、女神教も、それを求めてこの世界で暗躍していたのは間違いないだろうからね」


「無限の命か……。不老の寿命を与える魔王種子を集めて、女神アスティアが最後に手に入れたいもの。それが異世界へ渡るゲートを使用する為に必要な、最後の『鍵』という事になるんだろうな……」


「でも、ゲートを使うには他にも『座標』という物が必要だという事を知ったのは、僕もつい最近の事なんだ。結局、不死の命があっても。それだけではダメだったのだから、僕は最後まで中途半端な能力者だったという事になるだろうね」


 倉持が再び肩を落として、ガックリとその場でうなだれてしまう。


「まあ、そんなに気落ちするなよ、倉持。お前の話を聞けたおかげで、俺もだいぶ助かったからな」



 そう、助かったのは本当に事実だった。

 倉持に再会したら、ずっと聞こうと思っていた情報をやっと俺は全部聞き出す事が出来たからな。



 後は、俺達がこれから目指すべき場所――。


 女神の泉に辿り着いて。この世界で最も謎に満ちている、女神アスティアについての情報を知る事が出来れば……。



 やっと俺はこの世界の過去に起きた、全ての謎を知る事が出来る気がするんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキルコンビニ
外れスキルコンビニ、コミック第1巻、2巻発売中です☆ ぜひお読み頂けると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
あっちからこっちに来るのに死なずに済んで、こっちからあっちに行くのに死ぬってのはゲートが不完全なのか、二つの世界でポテンシャルエネルギーの差が大きいのか。いやどっちも移動前の世界基準じゃ死んでるんだっ…
[一言] アドニスさん、この時の為にいたんだ..... ちょうど良い人がいたねぇ....,
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ